アスカが風呂から上がってきた。
その姿にシンジは仰天した。
頭は髪の毛を纏め赤いタオルで巻き。
体も赤いバスタオルを巻いているだけだった。
肩や太股の白い肌は上気して桜色になっている。
そのタオルを取ると、生まれたままの姿になると思うとシンジは狂おしい感情に駆られてしまう。
アスカの姿に目を奪われシンジはまた立ちつくしてしまった。
それを一瞥してアスカは、
「何よ。」
「ア、アスカ、ちょっと大胆。」
「なに言ってんのよ。ほら、あんたもお風呂入ってきなさい。」
シンジはそのままアスカを押し倒したい衝動に駆られた。
無言で、一歩二歩とアスカに近づいてゆく。
アスカはそれを察し、
「ちゃんとお風呂は入らないとやらしてあげないわよ!」
アスカはシンジを睨みつけた。
「う、うん。お風呂入ってくる。」
シンジは気押されて、浴室に向かった。
シンジの体はすでに戦闘準備OK状態になりつつあった。
アスカの前を通り過ぎるときは思わず腰が引けて前屈みになってしまう。
「ちゃんときれいに洗ってくるのよ。特におちんちん、皮も剥いて中もきれいにしなさいよ。いいわね!」
アスカの口からおちんちんなんて言葉が出るなんて、そんなことを女の子から言われるのも恥ずかしい、シンジは完全にアスカの勢いに飲み込まれ、逃げるように浴室に入っていった。
アスカはホッと息をついた。
「ああ、びっくりした。シンジの目つき、尋常じゃあなかったわ。ちょっと刺激強かったかしら。」
ちょっとシンジを扇動するつもりでこの格好で出てきたのだが、効き目がありすぎたようだ。
「ほんと、シンジって雄ね。」
体格は同じようにみえるが、男と女、力ではかなわない。
細く華奢に見えるシンジも、その体はけっこう筋肉質だ。
押さえ込まれたら逆らえないだろう。
こんな格好でシンジの前に出た恥ずかしさと、シンジが自分に襲いかかろうとしてきた驚きで、心臓の鼓動はバクバクと高鳴っていた。
すこし、いたずらが過ぎたのを反省して、シンジの部屋に入った。
手早く服を着て、髪をブラシで撫でた。
「まだちゃんと乾いてないけど、まあいいか。」
ベッドをみると、シーツは新しいものに換えて、ベッドメイクされていた。
「ホント、こういうのはマメね。」
この上でシンジと何回しただろうか。
思い出すと恥ずかしくなってくる。
はたと思い立ち、アスカはシンジの部屋を出た。
アスカが碇家でよく知っているところは、リビングか、キッチンか、シンジの部屋である。
アスカはいつもは行かない部屋、入れない部屋に向かった。
アスカが普段行かない部屋がふたつある。
シンジの父、ゲンドウの書斎と、碇夫婦の寝室である。
ひとつ目の部屋に入った。
手探りで灯りのスイッチを入れた。
ゲンドウの書斎である。
さすが学者の部屋らしく、木目調の立派な本棚が並び、その中に難しそうな本が整然と並ばれている。机の上にも書類が無造作に積み重なり、その傍らに写真立てが3つ並んでいるのを見つけた。
一枚はシンジの母ユイの写真。もう一枚は男女が赤ん坊を抱きかかえている写真。女性の方はユイである。となれば赤ん坊はシンジで、男性はゲンドウであろう。
「へえ、若いときは髭はやしてなかったんだ。」
いまは、顎髭を生やし、常に色つきの眼鏡をかけているのでだいぶ印象が違う。
そしてもう一枚が、ゲンドウ、ユイが立ち、その間にシンジとアスカが並んでいる写真である。
この写真はアスカも覚えがあった。中学校の入学式の時の写真である。
この写真だけ、他の二枚に比べひとまわり大きく、よく見える位置に置いてあった。
普段無愛想なゲンドウだが、アスカはすこしゲンドウが愛おしくなった。
…あたしを家族のように見てるれているのかしら。
ゲンドウは自分が思っているより暖かみのある人かも知れないと思った。
アスカはもうひとつの部屋に入った。
碇夫婦の寝室である。
今夜、アスカはこの部屋で寝ることを許されている。
化粧台とベッド、窓側に椅子と小さいテーブルが置かれていた。
ベッドはダブルでとても大きい。ゲンドウの身長は190センチ以上あるから、その体格に合わせてこの大きさになったのかもしれない。シーツは淡い緑色で、落ち着いた感じのコーディネイトになっている。
…おじさまとおばさまもここでやっちゃうのかしら。
アスカはあらぬ事を心に思い自己嫌悪した。
…バカ、バカ、あたしのバカ。何考えているのよ。
しかし、一度思いに取り付かれると頭からなかなか離れない。
そのイメージがやがて、ゲンドウとユイからシンジと自分自身へと変わっていく。
…ここでシンジとしたら、どんな気持ちになるんだろう。
…なに考えているのあたしったら、
…そんなことここでやったらおばさまにすぐばれちゃうじゃない。
アスカは寝室をでた。
あそこにいるとあらぬ考えに取り憑かれてしまいそうだ。
…あたしも、スケベでエッチね。
シンジの部屋に戻る。
…今夜もここでやるのはいやね。狭いし、、、。
きれいに整われたシンジのベッド。
しかし、ふたりで寝るには狭すぎる。
「そうだ。」
シンジの部屋の押入を開けてみた。
換え用の布団と毛布があった。
「よし。」
アスカは布団と毛布を抱えてリビングに持っていった。
次ぎにベッドの上の布団と毛布も持ち出す。
その次ぎにユイとゲンドウの寝室にいき、ベッドからシーツをはぎ取る。
「これだけ借りましょ。」
最後にまたシンジの部屋にいき、自分のバックの中から酒瓶を取り出す。
「これで、準備万端ね。」
アスカは瓶を持って部屋を出た。
シンジが風呂から出てきた。
薄紫のTシャツに黒の短パンという出で立ちであった。
リビング来てまず目に入ったのはリビングの中央に敷かれた大きい布団であった。
横に二枚並べて敷き、大きい一枚のシーツにくるんでいるのだろう、きれいに整われている。
その上に毛布が一枚、そして枕がふたつ並んでいた。
布団の横にタオルが何枚か畳まれ置かれている。
…今夜、ここでするのかな、、、。
いつも自分の部屋でこっそりやっていたのに、今夜は広いリビングでである。
…広いところでやるのって、なんだか恥ずかしい、、、。
そんなことを思いながらダイニングに目を移すと、アスカがいた、
シンジはまたまたアスカに目を奪われ立ちつくすこととなる。
いつも髪にとめている赤いブローチは付けておらず、髪を下ろしている。そのため耳も隠れ、だいぶ違う印象だ。服は大きいボタンが縦に並んだクリーム色の袖なしフロントボタンワンピースを着ていた。先ほどとは違う清楚な感じがする。
アスカはまた同じせりふを吐いた。
「何よ。」
「なんか、今日、アスカすごいよ。見るたんびに驚いちゃう。」
「あっそ。」
シンジはアスカの右手に持たれているグラスが気になった。
「何飲んでいるの?まさかお酒?」
テーブルの上に置かれている濃い草色の瓶があった。酒の銘柄などわかるはずがなく、ただその瓶のラベルから日本酒かなと思った。その隣にはポットも置かれている。
シンジはアスカの隣の椅子に座った。
「日本酒?」
「焼酎のお湯割り。」
「いつも飲んでいるの?」
「そんなわけないでしょ。今日がはじめてよ。シンジも飲んでみる?」
アスカはシンジのために用意していたグラスに、お湯を7割ほど注いだ。そして焼酎を注いでマドラーで軽くかき混ぜ、グラスをシンジの前に置いた。
薬のようなのにおいが広がり、グラスの中の透明な液体が揺らいでいるのが見える。
「はい、でもあんたはそんなに飲んじゃあダメよ。できなくなっちゃうから。」
「できなくなっちゃうって、、、。」
さっきのおちんちんといい、今日のアスカは言うことがダイレクトだ。
シンジはグラスを両手に持ち、口を付けた。
形容しがたい苦い味がする。大人はこんなのがおいしいのかと不思議に思う。
ほとんど飲まず、グラスをテーブルに置いた。
「アスカ、これおいしい?」
「・・・おいしくない。」
「じゃ、なんで飲んでるの?」
アスカは、返事を考えているようだった。
少し間をおき、
「シンジ、あたしたち、するようになって何回くらいしたかしら。」
シンジは予想していなかった質問にすこし驚いたがすぐ答えられた。
「・・・4回。」
「ちゃんと数えているんだ。」
「まだそんなにやってないから、、、。」
「そうね、まだそんなにやってないよね。ねえ、シンジ、あたしとやってどう?」
アスカの真意が読み取れず、答えに迷った。心の底でなにか不安がよぎる。
「えっ、ど、どうって、、、。アスカとできてよかったと思う。」
「どうして?」
不安はどんどん膨らんでいく、アスカが何を考えているかわからなかった。
「アスカ、ぼくとしたことを後悔しているの?」
「そうじゃないの、あたし、シンジのこと嫌いじゃない。」
その言葉はアスカの最高の愛情表現のひとつであることをシンジは理解していたが、不安は拭い切れない。シンジは自分の気持ちも示した。
「ぼくはアスカのこと好きだ。」
「・・・ありがと。」
「ほんとうにどうしたの、なにかあったの。」
アスカはシンジを見つめている。
そしてアスカは意を決して話しはじめた。
「よく聞いて、あたしあんたとして後悔もしていないし、できてよかったと思うわ。
あたしだってこういうことに興味はあったわ。最初の相手もシンジでよかったと思う。
ただ、まだ気持ちいいとかの快感を得られないというか、、、。
あたし、痛いのは最初だけで段々良くなってくるって思っていたから、あんたの誘いも受け入れたわ。
でもまだ痛くて、あっ、これはあんたとはいやだとか、こういうのはもうやりたくないとか、そういうことを言っているんじゃないの。
あたしももっとやっていきたいの。でもまだ気持ちよくなることができないの。
たしかにやったすぐあとは、もうやらなくてもいいかなって思うこともあるわ。
でもしばらくするとあんたと抱き合いたいって思うの。
あたしたちそういう年頃なんだから、もうこういうのを覚えちゃったんだから、しかたがないじゃない。
だから、もっと気持ちよくなりたいの。
もっとシンジと楽しく抱き合いたいの。
もっとシンジと幸せになりたいの。」
アスカは話し終えるとシンジから視線をはずした。その顔は赤らみ、その表情には羞恥心が表れていた。
「アスカ、、、。」
「こんなこと考えているイヤラシイ女、嫌いになった?」
シンジにも、まだアスカが抱き合うことの気持ちよさを感じられていないことはわかっていた。でも、いざはじめると自分の気持ちよさだけを求めてしまう。
こんな自分がアスカを追いつめていたのかもしれない。
「そんなことないよ。ぼくはアスカと抱き合っているときはとても気持ちがいいんだ。
だから、自分の気持ちの良さだけ求めていたんだ。いままでアスカのこと考えていなかったと思う。
ごめん。」
「シンジだけのせいじゃないわ。
たぶん、あたし、怖がっているのかもしれない。
だから気持ちもそこまでいかないのかもしれない。
それを克服したいの。
だから、今夜はすこし協力して。
お願い。」
「うん。」
そう、今夜はアスカのことをもっと大事にしよう。
シンジの返事にアスカも安心したようだ。
「ありがと。そしたら、そのあとは、シンジの好きにしていいわ。」
シンジの鼓膜に『好きにしていいわ』の言葉が反響する。
いま、アスカを大事にすると心に誓ったばかりなのに、またアスカを貪りたいという情欲が沸いてきてしまった。シンジはその気持ちを押し沈めるようとするが、その期待に思わず声がうわずってしまう。
「う、うん。」
「あたしとして、気持ちいい?」
「うん、とても。」
「そう。じゃあ、あたしも気持ちよくさせて。」
「うん。」
「ありがと。」
シンジは昂ぶりすぎている自分の心を静めようと話題を変えた。
「なんで、お酒飲んでたの?」
「本に書いてあったのよ。酔うと気持ちが昂ぶってと良くなるって。
もちろん、ほんとうに酔っぱらっちゃあダメ。すこしだけ飲むの。
いろいろ勉強をしたのよ。
あたし、痛いのはあんまり濡れていないからだと思うの。」
「濡れるって、、、。」
女の子が男の子にそんなこというなんて。シンジが赤面する。
しかし、アスカはいたって真面目に話す。
「濡れないのは気持ちの問題が大きい要因だってかいてあったわ。
それであたし考えたの。あたしたち、いままではいつもおじさまやおばさまが居ないときと見計らって、してたでしょ。している最中に帰ってくるんじゃないかと気が気でなかったわ。だから濡れなかったと思うの。
で、そのままで続けちゃうからますます痛くなって、することが怖くなっていたのよ。」
「はは、アスカ、勉強熱心だね。」
熱心に解説するアスカに気押されてシンジはただ、相づちをうつしかなかった。
「それで、おじさまもおばさまも、パパもママも出張でウチを開けるとわかった時、良い機会だと思ったわ。」
アスカは一呼吸おいて、シンジを見つめた。
こんどは落ち着いた、やさしい口調に変わった。
「今夜はそういう心配をしなくてもいいし、時間もたっぷりあるわ。
お風呂入って体を温めれば体の緊張もとれるし、濡れやすくなるんですって。
それとちょっとだけお酒飲んで気持ちをすこし昂揚させて。
あとは、、、。」
アスカはシンジの頬にキスをする。
「あたし、シンジと一緒に気持ちよくなりたいの。
シンジに抱かれたいの。
シンジと幸せな気持ちになりたいの。
だから、お願い。して、、、。」
「アスカ、、、。」
…アスカにいつも振り回される。
…アスカはいつも怒ったり、笑ったり、くるくる変わる。
…アスカはいつも一生懸命だ。
…アスカについていくのはたいへんだ。
…でもアスカに迷いはない。
…アスカはいつも自分に自信を持っている。
…アスカにぼくにないものを感じる。
…アスカはつよい。
…そんなアスカの輝きに惹かれる。
…そんなアスカがぼくは好きだ。
…そして、アスカはいつもぼくを見ていてくれる。
…だから、ぼくはアスカを抱きしめたくなる。
…アスカとふたりだけで夜を過ごせることが、ぼくは嬉しい。
…この喜びをアスカと分かち合いたい。この想いをアスカに伝えたい。
…だから今夜はアスカを大事にしたい。
シンジはそう思った。
…ちょっと自信、ないけど、、、。
(つづく)