エヴァ
■ お泊まり ■
act.09
―― そして朝 ――
作・えむえすびーむ

「起きろー!」
シンジは誰かが叫ぶ声を聞いた。
その声には聞き覚えがある。
いつも聞いている声。
その声でいつも一日が始まる。
そして今日も、、、。
シンジは微睡みの中から覚醒していく。
ゆっくりと瞼が開き、瞳に眩しい光が差してくる。次第に眼が慣れ視界が開かれていく。
いつもの朝と違う光景、でもすぐにそこがリビングであることを理解した。
 …そうだ、アスカと、、、。
そしてその視界にはすらりとした二本の足が立っていた。
シンジは瞳を上に向けその足の主を見る。
腰に手をあてアスカが仁王立ちでこちらを見下ろすように睨んでいる。
もちろん服を着て。
そこにはいつものアスカがいた。
頭にはいつもの赤いブローチをつけ、長袖の白い薄手のタートルネックシャツ、緑のショートパンツに白にストライブの入ったハイソックス姿だった。
シンジはすこし残念な、それでいて安心した気持ちになった。
 …ぼくがいちばん好きなアスカだ。
いつもの快活なアスカ。
「ああ、アスカおはよう。」
まだ寝ぼけ気味のシンジにアスカが嫌み気に言う。
「いつまで寝てる気ぃ?」
「ああ、う、うん、いま起きるよ。」
シンジはのろのろと俯せの姿勢から手を突いて身体を起こし、体にかかった毛布を払おうとしたその時。
「ちょっと待ったぁ!」
アスカはシンジの顔に、布きれを投げつけた。
それはシンジのトランクスだった。
「あんた裸なのよ、朝からへんなもの見せないで!」
アスカは顔を真っ赤にして怒鳴り、くるりと向こうを向く。
「はやく履きなさい!」
「へんなものって、、、。」
シンジは自分の身体を見て生まれたままの姿でいることに気づいた。
 …そうか、あのまま寝ちゃったんだっけ。
そして体を起こしたとき、アスカが称する『へんなもの』であろうものを見てシンジは驚いた。
昨夜アスカとの行為で痛くなるまで酷使してしまったそれは、いつもの朝の生理現象とはいえ隆々と元気に勃起しているのだ。
俯せになっていたのでわからなかった。
 …アスカとあんなにしたのに、、、、。
いまのそれは痛みや疲労はまったく感じられず、いつも以上にいきり立っているようにシンジには思えた。
 …ぼくのって、すごい。
若く旺盛な肉体の為せることだが、シンジもさすがに恥ずかしくなり、そそくさとトランクスを履き、布団の上にアスカに背を向けるように正座した。
こんなに勃起した状態をアスカに見られたら、またなにを言われるかわからない。
「あの、履きました。」
アスカがくるっとこちらを向いて、シンジを睨みつける。頬はまだすこし赤い。
「どきなさいよ、シーツ洗うんだから。」
「あ、ごめんごめん。」
シンジは勃起しているのを悟られないよう、四つん這いになり布団からどいた。
アスカは布団の上の毛布を払いのけ、布団からシーツを剥ぎ取る。
そしてシーツを掲げるように広げ、マジマジとそれを見つめていた。
シンジも座った姿勢のまま、アスカが広げたシーツを見上げた。
淡い緑色のシーツにはところどころシミのような汚れがついていた。
 …これってやっぱり、昨日の夜についたのかな。
そう思うと、シンジは昨夜のことを思いおこした。
アスカと裸で抱き合った一夜。
ふたりで求めあい、絡み合った。
するとシンジは自分の顔が熱くなっていくのを感じる。そればかりか血流の半分が股間にも集中していくのがわかった。
 …まずい。なんか納まりがつかなくなっちゃう。
ペニスが益々いきり立っていく。
 …ああ、どうしよう。
アスカに見られないように背を向けているが、思わずモジモジと身じろぎをしてしまう若い男の悲しい性。
アスカがチラリとシンジの方を見た。
互いの視線が合う。するとアスカの顔も見る見る赤くなっていく。
そしてアスカは怒鳴るように声をあげた。
「な、なに考えてんのよう!」
「な、なにって、、、。」
シンジは思わず視線をそらせてしまう。
「シンジのスケベ!」
「そ、そんな、、、。」
図星をつかれ返す言葉がない。
アスカはその場にぺたりと座り込んだ。
そしてシンジを睨みつけ、
「シンジ。」
「え?」
「昨日の夜、どんだけしたのよ。」
アスカの思いもかけない問いかけにシンジは戸惑った。
「へ?あ、あのアスカ、、、憶えてないの?」
アスカは返事をしなかった。それは肯定を意味していた。
 …そ、そんな、、、。
シンジはおそるおそる聞く。
「あの、、、ど、どのへんまで憶えているの?」
やはり、アスカから返事はない。
「あ、あの、、、母さんから電話あったのは?」
アスカはゆっくり頷いた。
「あ、じゃあ、一緒にココア飲んだのは?」
アスカはまた頷いた。
「そのあとのことは?」
アスカはシンジを睨みつけたまま返事をしない。シンジにはその顔がますます赤くなっているように思えた。
 …ええ!そんなところから憶えてないの?
シンジは困惑した。そのあとから自分がした行為といえば、ちょっと説明をするのがすこしためらわれてしまうようなことをしてしまったと思う。アスカはそれを憶えていないという。
シンジは返事に窮した。
 …どうしよう、、、。
シンジはまさに蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなり、次に発する言葉を思い浮かべることがでなかった。
シンジにはまわりの空気も時間も凍り付いているように思えた。
身体中から脂汗が滲み出てくるのを感じた。もうシンジからはどうすることもできない。ただジッとアスカの刺すような視線に耐えていた。
するとアスカは溜息をついて、シンジから視線を逸らす。
そのアスカの仕草から、いまはこれ以上追及されずにすむことをシンジは悟り、安堵する。
「ま、いいわ、、、。シンジ、お風呂入ってきなさい。朝ご飯用意しておくから。」
アスカのその言葉に気が緩んでいたシンジはよけいな一言を発してしまう。
「え、アスカが?」
「それどういう意味よ?」
シンジは失敗したと思ったが後の祭りである。しかし、シンジの記憶するところアスカが調理をするところなど、学校の家庭科の実習以外見た憶えがない。ふたりで食事をすることはよくあるが、それはいつもシンジがつくらされていた。
シンジはこの場は早く退散した方が得策と考えた。
「あ、いえ、なんでもありません、、、。お風呂入ってきます。」
アスカの機嫌をこれ以上損ねないよう、すこしでも取り繕うことはできないかとシンジは考えたがいい考えが思いつかない。
思いつくことといえばアスカの手にしたシーツを洗濯機のところに持っていくくらいである。
「あ、それじゃあ。」
アスカの方に手を延ばす。
「なによ?」
「シーツ、洗濯機に持っていくから。」
「あ、そ、そうね、じゃあ、はい。」
アスカはシーツを丸めてシンジに手渡した。
それをを受け取って立ち上がり、バスルームに向かおうとアスカの前をよこぎる。
と、何気にアスカを見た。
するとアスカはまた顔を赤くして一点を凝視していた。
アスカの視点はシンジの身体の一部に向けられていた。
それはトランクスの前の大きく膨らんだ部分であった。
 …しまった!
つい勃起しているのを忘れて立ち上がってしまった。
アスカが座っているので、それはちょうどアスカの目の高さを同じくらいの位置でこれ見よがしに張り出していた。
「もう!エッチバカ変態!信じらんない!スケベシンジー!!」
「ゴ、ゴメン!」
シーツで股間の膨らみを隠しながら駆けるようにバスルームに逃げていった。


バタバタとシンジがバスルームに消えていく。
「もう!」
アスカは溜息をついた。
さっきシンジと視線があったとき、シンジの考えていることがわかった。
昨夜のことを思い出していたのだろう。
そして自分もそのことを思っていた。
パンツだけを履いた裸のシンジ、そして昨夜の行為の痕跡を示すシーツの汚れ。
それを見ていると、どうしても昨夜のことが頭の中に浮かび上がってくる。
それをシンジにも見透かされていたように感じた。
その恥ずかしさからおもわず怒鳴ってしまった。
そしてまた自分が妙な気持ちになっていくのをアスカは感じた。
こんな気持ちの昂ぶりをいままで感じたことはなかった。
シンジと抱き合ったのはなにも昨夜が初めてではない。
しかし、やはり昨夜はいままでとは違っていた。
男と抱き合う悦びを知った夜だから。
その相手がいま目の前にいたシンジなのだから。
「はぁ、今日一日、きっとダメね。」
きっと一日中、昨夜のことが頭からはなれないだろう。
 …しょうがないか。
「はあ、、、。」
アスカは溜息をつく。
 …それに、シンジに聞きたいこともあるし。
昨夜、自分の記憶が繋がらないところをアスカはシンジに聞きだそうと考えていた。
自分の意識がとんでいるときどうなっていたのか。
 …シンジのことだからそんなヘンなことしてないと思うけど、、、。
 …でも、さっき答えにくそうにしてたけど、、、。
「はあ。」
 …考えてもしょうがないわね、思いだせないんだもん。
アスカはまた一息、溜息をつくと立ち上がり、朝食の支度をすべくキッチンに向かった。


脱衣場に駆け込んむように逃げ込んだシンジは、まだ胸の鼓動が高鳴っていた。
 …ああ、もう。
シンジは自分の股間を見た。
張り出しでいるトランクス。
いまばかりは自分の若い肉体を呪った。
 …またアスカを怒らせちゃった、、、。
シンジは溜息をつきながらも、棚から染み取り用の洗剤を取り出しシーツの染みに塗りつけ揉んだ。
「これでいいかな。すこしおいてから洗濯すればシミも落ちると思うけど、、、。」
シーツを洗濯カゴに入れ、トランクスを脱いでバスルームに入った。
熱いシャワーを浴びる。
ボディーシャンプーをスポンジにつけ、身体を洗いはじめる。
身体を洗いながらシンジは昨夜のことを思い出していた。
いままでとは違った、知らないアスカがそこにいた。
アスカのしなやかな裸身。
かわいいおっぱい。
気持ちのいいアスカの中。
とろけそうなアスカの声。
思い出すとまたペニスがムクムクと起きあがってくる。
シンジは頭の中でアスカの感触を反芻した。
 …アスカ、すごかったなぁ。
 …アスカがあんなになっちゃうなんて、、、。
 …また、できるかなぁ。
 …もうこんなチャンスないんじゃないかなぁ。
ペニスがまたいきり立ってくる。昨夜の痛みはもう感じられなった。
 …ぼくのこれって、すごいな。
 …昨日は最高記録更新だな。
ちょっと誇らしげに思えた。
 …だれにも自慢できないけど。
シンジは手早く身体を洗い、湯船につかる。
 …でも、アスカ、憶えていないみたいだけど、、、。
さきほどの様子だと後半は憶えてないようだ。
 …うぅ、、、どうしよう、、、。
途中から自分もすこし暴走してしまった感じがある。
喘ぐアスカを自分の思うままに犯してしまった。
それを素直に話したらまたアスカの怒りが爆発してしまうのではないかとシンジは思った。
 …説明するの、、、難しいような気がする、、、。
そう思うといきり立ったペニスも段々萎えてきてしまう。
そんなことを考えていると、脱衣場に人の気配がする。
「シンジ。」
アスカの声だ。
ドアの曇りガラスの向こうにアスカのシルエットが浮かぶ。
「え、なに。」
 …なんでアスカが、、、。
 …ま、まさか。
シンジの心臓が高鳴った。
「あんたの着替えここに置いとくから。」
「え?あ、ありがと。」
「それと、シーツとあんたの下着、一緒に洗濯機にかけるから。染み抜きどこにあるの。」
「あ、ああ、染み抜きは付けといたから、もう洗濯機に入れていいと思うよ。」
「わかったわ。」
ばたん、どさっ。
アスカが洗濯機の中に洗濯物を入れる音がしばらくして、そのあとアスカは部屋を出たようだった。
シンジは一緒にお風呂に入ってくるのかと思わず期待してしまった。
しかしそれははずれたようだ。
「アスカの言うようにぼくってスケベなんだなぁ。」
シンジは自嘲気味に呟いた。

入浴を終え、シンジがバスルームから出るとタオルと着替えが洗濯機の上に畳んで置いてあった。
 …アスカが僕の着替えを用意してくれる。なんかこれって夫婦みたいだな。
シンジはなにかほのぼのと幸せな気持ちになった。
シンジの股間は素直に反応する。
またムクムクと起きあがってくる。
 …あ、だめだめ、立ってるとこアスカに見られたらまたなにを言われるかわかんないよ。
シンジはなんとか気を落ち着かせ、服を着る。
いつもの薄紫のTシャツに黒の短パンが用意されていた。
手早く着て、股間が盛り上がってないことを確認してシンジはリビングに向かった。
アスカは両手に皿を持ちテーブルの上に料理を並べていた。
「あら、早かったわね。」
シンジはテーブルの上に並んだ料理を見た。
焼き魚と漬け物と海苔、海藻と野菜を和え物。
質素ながら純和風の朝食である。
予想外の品揃えにシンジはすこし驚いた。
「なによ。」
「あ、いや、なんか和風だなって。」
「パンとかのほうが良かった?」
「ぼくはこっちがいい。」
「じゃあ、なんでじろじろ見て突っ立ってんのよ。」
「うん、アスカの家の朝食もこんなかんじかなぁって思って。」
「あたしん家はパンとかが多いわ。ほら、座んなさいよ、あんたはこっち。」
「あ、ごめん。」
シンジは指図された席に座る。
シンジの前にみそ汁が置かれる。
ダシのきいた味噌の臭いが食欲をそそる。
アスカが茶碗とジャーを持ってシンジの隣に座る。
 …昨日の夕食は向かい合わせに座ったのに。
しかし、そのぶんアスカを身近に感じる。
「はい、ご飯これぐらいでいい?」
アスカはご飯をよそった茶碗を見せる。
「うん、ありがと。」
「それじゃあ、食べましょ。」
「「いただきます。」」
ふたりの声が揃った。
お互いの視線が合う。
アスカはすぐ逸らせて箸を持ちお椀に口をつけた。
シンジもみそ汁を啜る。
「おいしい、アスカ、料理うまいんだ。」
「バカにしないでよ。いままで、シンジがあたしの作ったのを食べる機会がなかっただけよ。」
「バカにしているわけじゃないよ。ほんとにおいしいよ。」
シンジの素直な評価にアスカはすこし頬を染め視線を逸らし気がなさそうに装いながら言う。
「そ、ありがと。」
「隣同士でご飯食べるのって、なんか夫婦みたいだね。」
シンジの言葉にアスカの箸が止まった。
シンジは瞬間、またよけいなことを言ったかなと思ったが、アスカの返事は肯定的なものだった。
「たまにはこういうのもいいでしょ。」
「うん。」
アスカと並んで食事をする。
シンジは至福を感じていた。
 …昨夜のアスカも魅力的だけど、いまのアスカがいちばん好きだ。
シンジは率直にそう思った。
快活できれいで知性的で、すこしワガママだけれど、それも魅力のひとつだとシンジは思う。そんなアスカにシンジは見とれる。
 …ぼくの好きなアスカ。
 …アスカとずっと仲良くいたい。
シンジはアスカへの想いを心に膨らませた。


アスカは自分の気持ちが高揚していくのを感じていた。
シンジに自分の料理を褒められて嬉しいと思う。
でも、その感情を素直に表すことができない。
どうしても照れてしまう。
そしてこんどはシンジの視線を感じる。
 …シンジがあたしを見ている。
なぜだろう、心臓の鼓動がますます速くなる。
アスカは照れ隠しにどうしても乱暴な言葉遣いになってしまう。
「なに、ジロジロ見てんのよ。」
「あっ、ゴ、ゴメン。」
「シンジ、目つきイヤラシイ。」
ほんとうにそう思っているわけではなかった。
 …そんなこと思うのは自分が思っているからよ。
昨夜のことが頭からはなれない。
 …あたしがいやらしいんだ。
「え、そ、そんな、、、そんなつもりで見てたんじゃないよ。。」
シンジは顔を赤くながら否定する。
「じゃあ、どういうつもりで見てたのよ。」
「え、それは、そのぉ、アスカってきれいだなって、いつまでも仲良くしたいなって、、、。」
「それがイヤラシイっていうのよ。ほんと、男ってエッチでスケベなんだから。」
「そんな、、、。」
シンジは反論できず、黙ってしまった。
しばらくふたりは黙々と食事を続けた。
こんどはアスカがシンジをチラチラと見ていた。
シンジは意気消沈して寂しそうに箸をすすめている。
アスカはここはひとつのチャンスとみた。
 …夜のことを聞き出せるかも。
記憶が繋がってないところを知りたい。
アスカはシンジの方を見ず、言葉だけなげかけた。
「あたしの身体中にキスしたでしょ。」
シンジの箸がピタリと止まる。
「う、うん。」
「お腹のずっと下の方にもついていたわ。」
「・・・・。」
アスカは視線だけをシンジに向ける。
シンジは俯いて顔を真っ赤にしていた。
「おっぱい噛んだでしょ。」
「ごめんなさい、、、。」
「いつ噛んだのよ。」
「あ、あの、アスカ覚えてない?」
「知らないわよぉ。」
「あの、ど、どのくらいまで覚えている?」
どのくらいまで覚えているのか、アスカ自身判然としない。
いったい、いつ、どれくらい気が飛んだのか。
漠然と憶えているのはシンジの熱い身体の温もりと、譬えようのない恍惚の瞬間。
 …あたし、シンジからなにを聞きたいの?
 …そんなの聞いてどうするの?
それすら判然としていないことにアスカは気づいた。
しかし聞かずにはいられない。
それが羞恥心を苛むものであっても。
「・・・後ろからされて、、、。そのあと、、、途中はよく覚えてないわ。」
「途中って?」
「と、途中は途中よ。」
「あ、あの、じゃあ、、、アスカがボクの上になったのは?」
そのことには憶えがあった。
シンジに愛してるといわれ気持ちが昂ぶってしまい、シンジに誘われるままに自ら淫らに腰を振りシンジを求め痴態を曝してしまった。
 …あ、あたし、ものすごいことしちゃった。


いまシンジの目の前でアスカの顔が一気に耳まで赤くなった。
瞳は見開かれ俯いたままどこか一点を見ていた。
シンジはそんなアスカの表情からそのことは憶えていることが理解できた。
「あ、そ、それは憶えてるみたいだね。」
シンジのその言葉にアスカはキッとシンジを睨む。
シンジは気圧されてまた俯いてしまった。
 …どうしよう、その前ったら、ぼくが暴走していたときじゃないかな。
朦朧とするアスカを己の欲望のままに蹂躙していた。
シンジはまた困惑する。正直に話すべきか。そんなことをすれば嫌われてしまうのではないか?アスカに嫌われたくない。当たり障りのないことを話してごまかしてしまってもいいのではないか?
シンジは心の中で葛藤していた。
アスカは顔を真っ赤にしながら、なおもシンジを睨みつけていた。
シンジから聞き出すまでその視線をはずすつもりはないのだろう。
心なしか涙で潤んでいるように見えるその瞳にはアスカの決意が見てとれた。
 …アスカは知りたがっている。
 …アスカに嘘をつきたくない。
 …アスカには正直にいたい。
 …逃げちゃだめだ。
アスカに嫌われたくない。でもアスカに誠実でいられないのはもっといやだ。
己のした行為で嫌われるのであればやむおえない。もし、嫌われたとしてもアスカには誠実でいたい。
シンジは意を決し顔を上げアスカを見た。
アスカがシンジを刺すように見つめている。
シンジはその気迫に思わずたじろいでしまいそうになる。
 …ア、アスカ、ちょっと恐い。
それからシンジはおどおどと話しはじめた。


アスカはジッとその話を聞く。
何度も抱き合ったこと。
互いに何度も絶頂を迎えたこと。
そしてアスカの気が飛んでしまっているときであろうときも、シンジは欲望のまま行為に耽り、アスカと繋がり続けていたこと。
シンジも顔を赤くしながらモジモジと話し続ける。
シンジの話で自分の断片的な記憶が繋がっていく。
 …なんてこと、、、。
その内容はあまりに恥ずかしく、羞恥心で顔が火を噴くように熱くなっていく。
脳みそまで沸騰して卒倒しまうのではないかと思うくらい頭がクラクラしてくる。
 …なんてことなの、、、。
恥ずかしい体位でシンジに嬲られるように求められ続けた。
しかし昨夜のアスカも肉欲に溺れその快楽に興じていたいと思っていた。シンジに愛していると告白され、己の自制がきかなくなり、シンジと身体を重ね、より求めあった、あたえてほしかった。あの気がいってしまう堪らない快感を何度も感じ味わっていたかった。
アスカも性欲の求めるまま溺れていたのである。
 …あたし、いやらしい、、、。
「ア、アスカ?」
シンジの呼びかけにアスカはハッと我に返った。
「な、なによ。」
「あの、、、ごめんなさい、むちゃくちゃしちゃって、、、。」
 …ううん、シンジが謝ることはない。あたしも、、、。
「・・・シンジの好きにしていいって言ったの、あたしだから。」
「・・・・。」
シンジはそのまま黙り込んでしまった。
アスカもまた俯いてしまう。
そして身体の火照りを感じる。
頭だけではない、身体中が熱くなっていく。
お腹の奥の疼いてくる。
 …あたし、また感じている。
昨夜初めて感じた感情。
それがまた沸き上がろうとしている。
シンジが愛おしく感じる。
また抱き合いたいと思う。
シンジは隣りにいる。たぶん受け入れてくれるだろう。
 …またあれを感じたい。シンジを感じたい。
またあの快楽に沈みたいと思う。
しかし、アスカは理性を奮い起こし辛うじてその感情を抑える。
 …だめ、アスカ!決めたでしょ!今日はもうしないって!
「シンジ。」
「ん?」
アスカはシンジの方を見ず俯いたまま、話しはじめる。
まだ頬は赤い。
「言っておくけど、夜はもうお終いだから。今日はもうしないから。」
「う、うん。」
「正直にいうけど、あたしいまヘンな気持ちになっているの。だから、言っておかないとあたしまた、、、。でもこういうのにもケジメみたいなのが必要だと思うの。だから、今日はもうしない。また次の機会にしましょ。」
「う、うん、そうだね、、、。」
シンジの口調が寂しげに聞こえる。シンジも期待していたのだろうか。
 …ううん、あたしが期待しているの。だからシンジの言葉がそう思えるの。
 …いやらしいのは、あたしだ。でも、、、。
 …すこしだけ、ほんのすこしだけシンジを感じたい。
アスカは自分の理性に言い訳するようにささやかなシンジとの交わりを求めた。
「でも、ひとつだけお願い、、、。キスして。」
「え、う、うん。」
アスカはシンジの方を向き、ゆっくりと瞼を閉じた。
シンジの唇が触れるのを待つ。
やがてシンジに両肩を掴まれた。
アスカの鼓動が一気に速くなる。
心の奥底ではまだ情欲が燻っている。
 …あたしまだ抱かれたいって思っている、イヤラシイ。
そして、唇に暖かく柔らかいモノを感じた。
ゆっくり撫でられるように唇に触れる。
 …シンジがキスしてくれている。
唇が触れ合うだけのキス。
優しいシンジの温もり。
唇が触れ合っているだけでもそこにシンジを感じられる。
好きな男との繋がりを感じられる。
心が温かくなる。
肉体的な欲望ではない。
アスカの心が満たされていく。
 …ああ、シンジ好き。
言葉にはしない、でも素直な気持ち。
気持ちが安らいでゆく。
心の昂ぶりが消えていく。
唇が触れ合っているだけなのに、温かい気持ちに身体が包まれる。
渇いた欲望が薄まっていく。
 …これでもいいんだ。
キスだけでも身体が鎮まる。
 …あたし、シンジを感じたかったんだ。
心の奥底の情欲に囚われていた心が解放されていく。
お腹の奥はまだ熱い。でも、先程跳ね上がった鼓動もおさまってきた。落ち着いていられる。
 …やっといつもの自分に戻れる。
やがて唇が離れていく。
ゆっくりと瞼を開く。
目の前にシンジがいる。
そのシンジの顔を見てアスカは思わず吹き出しそうになった。
シンジは顔を紅潮させ目を爛々と輝かせ鼻の穴を膨らませている。
鼻息は荒く、いまにも飛びかかってきそうな感じだ。
 …あら、その気にさせちゃったかしら。
アスカはいたずらっぽく、
「また、できると思った?」
「え?!」
シンジはパッと身を引いた。
「ふふ、図星ね。」
「そ、そんな、、、。」
「ほんと、男ってスケベね。」
「も、もういいよ。」
シンジはプイッとそっぽを向く。
シンジはアスカを無視してふてくされるように食事をする。
 …あらあら、いじけちゃったかしら。
「ごめんなさい、からかうつもりじゃなかったの。」
「・・・アスカがそんなこと言うからだよ。」
キスを求めたのを咎めているのだろうか。
 …そうね、男だったら、やはりその先も期待しちゃうよね。
 …でもそれ、男だけじゃない、女も、、、。
「そうね、あたしもスケベね、あたしもシンジと感じたいって思ってたんだもの。」
「アスカ、、、。」
アスカはシンジの頬に軽くキスをする。
「でも、あたしはいまシンジがしてくれたキスで十分よ。ありがと。」
「もう。」
「もうもう言わないの。でも、ま、話は大体わかったわ。しっかし、シンジもおっとこよねぇ。あたしが知らない間にそんなことしてたなんて。」
また昨夜の話をしてしまう。でも、もう心の昂ぶりはなかった。
シンジとの繋がりを感じられたことで心の安息を得られたから。
 …シンジとこんな話しもできる。それをできるのはあたしだけ。
「知らない間にって、だ、だから、謝ったじゃないか。」
「別に責めてるわけじゃないわ。でも、シンジ様としては、こおんなかわいい娘とすっごいできて、もう大満足ってところでしょう。ネッ。」
「も、もう、自分でいうとこがアスカだよな。」
「でもまあ、あんだけしたんだから、もうとうぶんしなくてもいいわね。」
「え?!」
シンジが声をあげた。
シンジの予想通りの反応にアスカは可笑しくなった。
そのアスカの表情にシンジは見透かされていることを悟りまた顔を赤くする。
「なにが、『え?!』なの?シンジ。」
「・・・」
シンジは答えられない。
「うそよ、またこんどね。でも、昨夜のシンジ様はどれくらいいたしたのか、ちょっと知りたいわ。」
シンジはチラリとアスカを見た。そして、
「う、え、たぶん、ろ、6回かな、、、。」
「6回?!あんた、いちばん多いときで5回って言ってなかった?」
「う、うん、だから、記録更新かな、、、はは、ははは、、、。」
「・・・ほんと底なしね。やっぱとうぶんしなくてもいいわね。」
「そんなぁ。」
アスカがシンジをギロリと睨む。
「いえ、なんでもないです。」
「それとコンドームは着けなきゃダメね。そんなにされちゃあ、大丈夫な日でも赤ちゃんできちゃうわ。」
「う、うん、そうだね。」
「あら素直ね、なんか言うかと思ったわ。」
「だって、アスカの中、気持ち良すぎる。」
ゴチン。
「痛!」
アスカは箸を持つ手でシンジの頭を殴った。
「なに恥ずかしいこと言ってんのよ!バカシンジ!!」
「ゴ、ゴメン。」
「バカなこと言ってないで、食べちゃいなさいよ。」
「バカなことって、アスカから言い出したんじゃないか。」
「何か言った?」
「いえ、、、。」
反論できずシンジはシュンとなる。
それを横目でアスカは見ていた。
そんなシンジを見て、アスカはすこし可哀想に思えた。
 …そうよね、あたしから言い出したんだもの。
 …イジメてもしょうがないわね。
アスカは話題を変え、話しかける。
「今日、どうしよっか。まだ決めてないわね。」
「え、う、うん、どうしようか。」
「片づけ終わったら、新小田原までいってみる?」
「うん、いいよ。」
「じゃ、そうしましょ。行ってみたいお店ができてね・・・」


ふたりは今日の過ごし方を話し合いながら食事をすすめた。
ふたりで出かけることはいままでも時々はあったが、朝からふたりっきりというのは初めてであった。アスカはこの時を大事に過ごしたいと思っていた。
ほどなく予定を決め、食事もすませた。
そして食事の片づけをシンジがやり、そのあいだにアスカが洗濯物をベランダに干す。
それぞれの仕事を終え、出かけるための支度を始めることにした。
「あたしはおばさまたちの寝室で着替えるわ。」
アスカはそう言ってシンジの部屋に置いてある自分のバックを持ち出すとき、シンジにバックの中からシャツを出し渡した。
「あんた、どうせかわいい女の子と一緒に出かけられるような服持ってないでしょ。」
それはアスカが昨日この家に来た時に来ていたシャツと同じ色のシャツだった。
アスカとお揃いのシャツを着て町を歩く。シンジは照れながらも幸せな気持ちにすこし心が躍らせた。シンジはそのシャツにいつものジーンズを履き、机の上の小さな鏡で身だしなみを確認してリビングでアスカを待つ。
しかし、シンジの期待は裏切られた。
しばらくしてアスカが寝室から出てきたが、アスカは先程から着ていた薄手の長袖の白いタートルネックシャツと赤地のタータンチェックのミニスカートにハイソックスという出で立ちであった。
がっかりしているシンジを見てアスカが、
「あたしもシンジと同じ色のシャツ着ようと思ってたのよ。でなけりゃあんたにそのシャツを渡したりしないわ。でもこれ、」
アスカは自分の襟元と袖を捲ってシンジに首筋と腕を見せる。
そこには透き通るような白い肌に薄赤いシミのような跡が点々と付いていた。
「ここも。」
こんどは左足のハイソックスを降ろす。
そこにも桜色の染みが肌に残っている。
「誰のせい?」
それは紛れもなくシンジが付けたキスマークであった。
シンジは顔を赤くし俯いてしまう。
「ゴメンナサイ、ぼくのせいです、、、。」
「ま、しょうがないけど、それにせっかく用意してきたんだからシンジにも着て欲しいし、、、。それ大事にしなさいよ、いいやつなんだから。でも、あたしと一緒にいるとき以外は着ちゃダメだからね。」
「う、うん。ありがとう。大事にするよ。でも、アスカ、よくそんなうまく隠せるシャツ持ってきていたね。すごい準備がいい。」
そう、まるで見通していたような感じだとシンジは思い、感心した。
そう、アスカは予測していた。男と抱き合えば身体にその印を付けられてしまうかもしれないことを。シンジと愛し合ったシルシを、、、。
こんどはアスカが頬を赤く染める。
「う、うるさいわねぇ。そんなことどうでもいいでしょ。さ、行くわよ。」
アスカはポシェットを肩にかけ、玄関に向いた。
シンジもそのあとにつづく。
アスカが玄関でシューズを履き紐を結ぶ。その隣でシンジはスニーカーを足に掛けいつものようにとっとと玄関を出ようとする。
「ちょっと待ちなさいよう。」
アスカはシンジに遅れまいと手早く紐を結び立ち上がりいつものクセで後ろを振り向いてしまった。
アスカは苦笑した。今日はシンジの両親はいない。
いつもならここで出かける挨拶を碇夫婦にする。
アスカの一日はいつもここからはじまる。
毎朝シンジを迎えに着てシンジを起こし、シンジと学校に行く。
いつの頃からかそれが日課となり、アスカの生活の一部となった。
そしていつもシンジが側にいる。
当たり前の生活。でも、そのシンジと抱き合い悦びを感じあったいま、そのことにひとしおの感慨を覚えた。
 …やっぱりあたしシンジが好きなんだ。
あらためてまたそう想う。
これからもそう想うことがあるだろう。いままで見過ごしてきた気持ち。気が付かなかった気持ち。この気持ちに気づいたのはやはり『転校生』が来たせいかもしれない。そう思うと『転校生』にも感謝しなければいけないのだろうか。そうかもしれない。しかし彼女は警戒すべき女であることはかわりはない。だが彼女はシンジのいとこでもある。ひょっとしたら将来親戚になってしまうかもしれない。
 …ちょっと気が早いわね。
あらぬ妄想にアスカははにかんだ。
まあ、憎むべき仇敵から油断ならぬ好敵手にランクアップくらいはいいだろうとアスカは勝手に納得する。
 …あ、いけない。
アスカは我に返り、シンジを追いかけるべく振り向いた。
するとシンジは目の前に立っていた。
シンジがニコリと微笑んだ。
その表情にアスカはドキリと胸を高鳴らせる。
そしてシンジはアスカに手をさしのべた。
「さ、行こう。」
「う、うん。」
アスカは素直にシンジと手を繋ぐ。シンジの掌が暖かく感じる。
シンジの温もりを感じる。
シンジの気持ちが伝わってくるような感じがする。
気持ちが熱くなる。するとどうしても照れてしまい、ぶっきらぼうな言葉遣いになってしまう。
「バカシンジにしてはやさしいわね。」
アスカの挑発するような言葉にも、シンジは心を乱さない。
シンジにもアスカの気持ちが伝わっていたから。
「ぼくだって、すこしは学習するよ。でも、できればそのバカを返上したいんだけど。」
「ま、上出来だわ。考えときましょ。」
手を繋いだまま歩き出す。
柔らかな温かい気持ちに包まれる。
ふと、アスカはまた『転校生』綾波レイのことが頭に浮かんだ。
「こんどどっか行くときはレイも誘ってあげようか?」
「え、アスカが綾波のこと、名前で呼ぶのはじめて聞いた。」
「そんなことないわよ。」
「ほんとうだよ。だっていつも『転校生』って呼んでいたじゃないか。」
「そうお?」
「そうだよ。」
「そうかしら?」
「・・・あの、アスカ。」
「なに?」
「ぼくが好きな女の子はアスカだけだから。」
「な、なに言ってんのよ。恥ずかしい奴ぅ。」
「ほ、ほんとだよ。綾波はいとこだから仲良くしたいと思うけど、好きな子はアスカだけだよ。」
繋いだ手をシンジに強く握られる。
アスカの心にこみ上げるものがある。それは暖かく優しいもの。
不器用だけど誠意を感じるシンジの言葉。
昨日の夜、互いに悦びを感じあい、シンジがより親しいものに感じる。
シンジとの繋がりをより感じられる。
そのシンジに告白され、アスカに心は喜びで満たされる。
でも、口調はあいかわらず、
「ふうん、その言葉にウソはないわね。」
「うん。」
「じゃあ、証しを見せて。」
「え、証しって、、、。」
「そうね、今日は全部シンジの奢りでいいわ。」
「ええ!そ、そんなあ!」
「ヨシ!じゃあ、レッツゴー!」
アスカはシンジの手を引き駆け出す。
「ちょ、ちょっと待ってよお!」
シンジもつられて駆け出す。
アスカはシンジと手を繋いだまま初夏の陽射しの中に飛び出した。弾けてしまいそうな喜びの気持ちを太陽にさらしたかった。今日もきっと暑くなる。でもそれは心地よいものだろう、なぜなら今日もシンジと過ごせるのだから。
そしてこれからもそうだろう。シンジと一緒にいろんなことを見て感じて想い、喜び、悲しみ、触れあっていく。ふたりの繋がりを信じ過ごしていく。
それが永遠に続くことをアスカは願った。
ふたりでこの世界を過ごしていけることに至福を感じた。
「さあ、はやく!」
朝の爽やかな風の中を若いふたりが駆けていった。
ふたりの世界が続いていく。
幸福の時を感じながら、、、




あとがき

どうも、えむえすびーむです。
なんとか完結させました。
いかがだったでしょうか。
お役に(?)立ちましたでしょうか。
とっても若い男の子と女の子が目覚めてしまったら、もうのめり込んでしまうのではと思いこんなのを書いてしまいました。
ところどころ表現等が、?のところもありますが、いまの私にはこれが精一杯。
もっと精進を重ねたいと思います。
どうか暖かい目で見てやってください。

こんな稚作を読んでくださった貴方に感謝。
そして、サイトにアップしていただき、これを皆さんにお見せできる機会を与えてくださった管理人のみゃあさんに百万の感謝を。

こんどはXX指定なしの甘々LASも書きたいなっと思っております。
それではまた。