新世紀エヴァンゲリオン

■「ノゾミと足長おじさん■

「希望(ノゾミ)」番外編(前編)

 作・みゃあ

  


 

冬月コウゾウ。

 

 

 

特務機関ネルフ副司令。

 

セカンドインパクト以前は京都大学にて形而上生物学の教鞭を執る。

 

ネルフ司令官・碇(旧姓六分儀)ゲンドウ、故・碇ユイとは旧知。

 

A.D.2015。同組織解体の後は、新設された類似組織の司令官を務め、多忙を極める。

 

 

 

「司令。本日のスケジュールはこれで全て終了です」

 

実務的な、しかしどこか硬質な響きを持つ秘書の声に、冬月は軽く頷いた。

 

「うむ。………明日の実験は何時からだったかな?」

 

疲労回復に、と漢方薬を入れた薬湯をまずそうに飲み干して、カップをテーブルに置く。

 

「いえ……実験はタイムスケジュールの遅延により明後日に繰り越されます」

 

「またか……」

 

思わず出たため息と共に、冬月は目頭をもみほぐす。

 

ネルフ解体後、後継的な機関として新設された現組織だが、実質、予算面や人員面では大変な凋落ぶりを示す。

 

これだけ多忙を極めているというのに、実作業は遅々として進まない。

 

このままでは運営だけでも困難な状態である。

 

にも関わらず、政府援助は皆無と言って良く、組織存続が立ち行かなくなるのを歓迎する風潮すら見られていた。

 

「……所詮我々はイレギュラーな存在なのだ」

 

「は?」

 

冬月の呟きを秘書が聞きとがめた。

 

「いや、なんでもない」

 

冬月には、政府の考えていることが手に取るように分かる。

 

彼等の思惑は、自分達を飼い殺しするところにある、ということが。

 

ネルフは超法規組織であった。その存在自体がトップシークレットであり、その内情ともなれば世界規模で見ても隠蔽しておかねばならないものである。

 

したがってネルフ解体後、同組織に在籍していた者たちを野放しにするのは危険極まる。

 

かといって、一旦その存在が明るみに出た以上、彼らを抹殺してしまうわけにもいかない。

 

よって、新設した空洞組織に全てを押し込み、自分達の監視下におく方が賢明だと判断したのだろう。

 

そんな組織の司令官を務めさせられる者こそ良い面の皮だ。

 

 

 

「あの……いかがなされましたか?」

 

難しい顔で黙り込んでしまった冬月に、秘書は気遣わしげに声をかける。

 

「いや……ご苦労だった。今日はもう上がりたまえ、私もすぐに帰る」

 

釈然としない様子ながらも一礼をして、実務的な秘書は退室した。

 

 

………。

 

 

秘書の姿が見えなくなったのを確認すると、冬月は椅子を回してデスクに向き直る。

 

キイッ……。

 

軋む椅子。

 

「……安物だな」

 

ふぅ、と今日何度目かのため息をつくと、冬月はかつてゲンドウがそうしていたようにデスクに肘をつき、手を組みあわせた。

 

「碇め……私にこんなものを押し付けて、自分ひとり悠々自適とは……まったく」

 

度重なる作業の延期。全く展望のない毎日。

 

愚痴も出ようと言うものだ。

 

「しかし、まあ………」

 

ゲンドウの今の生活を思い、冬月は再びため息をもらす。

 

しかし今度のものはその質が全く違う。どこか嬉しそうな感じがした。

 

ゲンドウはネルフ解体時、引き続き司令官職を提示されたが、これをあっさりと拒絶。

 

後任を全て冬月に任せ、自分は楽隠居してしまった。

 

無論、ネルフ司令官だった男をそのまま放置しておくような政府ではない。

 

様々な監視が付けられたが、ゲンドウはネルフ時代のコネクションを逆利用し、それらを上手く煙に巻いている。

 

結果、彼の友人にして部下であった冬月が人身御供同然の扱いを受けているのであった。

 

冬月としては、自分こそさっさとこんな碌でもない職から退きたいと思っているのだが、そのような経緯から、まだ当分楽隠居の身分にはあやかれそうもなかった。

 

ゲンドウは現在、息子シンジ夫婦、さらに綾波レイと同居している。

 

これは冬月にとって驚くべきことであった。

 

碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー・碇夫妻が彼を招いた時もそうであったが、ゲンドウがそれを受けたと聞いた時の驚きといったら……。

 

確かに望んでいた一つの形ではあったが、まさかこうして実現するなどとは予想だにしていなかった。

 

「あの碇がなぁ………」

 

冬月はノスタルジックな気分でしみじみと呟く。

 

彼がゲンドウとユイにあったのは、いつのことだったか……。

 

「ユイくん……君の生き方は、間違っていなかった」

 

デスクの引き出しの一番奥にしまってあった、色褪せたアナログの写真を取り出すと、冬月はわずかに遠い目で語り掛ける。

 

頬はわずかに緩み、目には光り輝くものが……。

 

「おっと……私としたことが」

 

ちょっと鼻をすすると、冬月は笑顔をつくって写真の中で笑いかけるユイを見た。

 

「あの碇が、今やおじいちゃんだそうだ。……信じられるかね?」

 

そう呟いて、冬月は碇家の肝心な人物を忘れていたことに気づいた。

 

 

『おじちゃん』

 

光に透かすと金色の光彩を放つ、さらさらの黒髪。

 

『おじちゃん?』

 

アクアマリンを底に沈めたような、くりくりとした黒い瞳。

 

『おじちゃん!』

 

そして、花のような満面の眩しい笑顔。

 

 

碇ノゾミ。

 

シンジの娘だ。

 

 

「……おじちゃん、か」

 

あの子にそう呼ばれる度に、冬月の心は何か温かいもので満たされる。

 

あの笑顔を向けられると、こちらまで幸せな気分にさせてくれる。

 

……かつて、碇ユイがそうしてくれたように。

 

 

「……ユイくん。君の息子は立派に育ったよ。君の孫を、見せたかったな……」

 

その時の冬月の顔は、とても……とても穏やかだった。

 

 

(つづく)

 


みゃあの後書きらしきもの

 

ふい〜〜〜。っちゅうわけで、冬月をまともに書くの始めてなみゃあです(笑)

「希望」番外編、いかかでしたでしょうか。

え?ノゾミが出てないって?

……あははははっ。次に出ますよ、次に。(^^ゞ

カノンさま……こんなのでいかが?(笑)

冬月難しいッス。じじむさくしないで、出来るだけダンディーに渋く決めようとは思うんですが…なかなか。

一応次で終わる予定です。

次回はもっとほのぼのよん(笑)