新世紀エヴァンゲリオン ■ノゾミと足長おじさん」■ 「希望(ノゾミ)」番外編(中編) 作・みゃあ
「おっと、いかん…もうこんな時間か」
時計を確かめた冬月は、今日の約束を思い出した。
碇家に、夕食の招待を受けていたのである。
キシッ。
ユイの写真を元どおりデスクの奥にしまい込み、椅子を軋ませて立ち上がった冬月はロッカールームへと向かった。
外には、早くも星が瞬き始めていた。
風が冷たい。
「……冷えるな」
わずかに身体を震わせて、トレンチコートの襟を立てる。
つば広の帽子をかぶり直して、冬月は濃紺から漆黒に染まり始めた空を仰いだ。
ふぅ……と吐かれた息が白い。
今年も後半に入り、日本は異常気象に見舞われていた。
気温が10度を下回ることが珍しくなくなったのである。
カレンダーは12月。
なんのことはない、四季が戻りつつあるのだ。
しかし、常夏と化していた近年の日本においては「異常気象」となってしまうのだから、皮肉なものであった。
「寒さ、か……久しく忘れていたな」
セカンドインパクト以前の日本を知る冬月にとって、この感覚は馴染み深いものだ。
彼は冬が好きだった。
やがて、帽子の下に表情を隠しながら、冬月は足早に歩き出した。
彼を待っていてくれるであろう、温かい人々の家を目指して。
一方、碇邸。
最近、エアコンから冷風以外の風が流れ出すことになった屋内では、今年4才を迎えたノゾミ嬢が大はしゃぎであった。
「ねぇねぇ。おじちゃん、いつくるの?」
背の高い椅子に腰掛け、それを前後に揺すってガッタンガッタンさせていたノゾミが、今日何度目にもなる質問をお腹の大きな母親に向けた。
「もうすぐよ」
母―――アスカは、やれやれといった顔で答える。
このやりとりは、今日何度となく繰り返されてきたものであった。
「……ノゾミは冬月が好きか?」
彼女の右隣に腰掛けている、あご鬚を生やした男―――ゲンドウが静かに尋ねる。
彼は相変わらず、室内でもサングラスを外さない。
その質問に、ノゾミは待ってましたとばかりに勢い良く頷いた。
「うんっ!ノゾミ、冬月のおじちゃんだあ〜いすきっ!」
にぱっ、と顔全体を笑いの表情にして、祖父に答えるノゾミ。
「そうか……」
なんとはなしに嬉しそうなゲンドウ。
そんな二人の様子を、この家のあるじであるシンジが微笑ましげに見やる。
「……それにしても、ちょっと遅いね?」
隣に座ったアスカに言うシンジ。
それを聞いたノゾミが、我が意を得たりとばかりに『おそ〜い!おそ〜い!』を連発し始める。
アスカは、だめじゃないのという顔で夫を見た。
「(ごめん、アスカ……)」
「(もうっ……)」
ノゾミの遅いぞコールは、止まりそうにない。
「……いらしたわよ」
その時、キッチンで食事の支度を整えていたレイが、エプロンで手を拭いながら、トテトテと居間へとやってきた。
キッチンは外に面しているため、来客がすぐ分かるのだ。
「ほんとっ!!」
ガタンっ!とノゾミが椅子から立ち上がるのと同時に、
ピンポーン
というチャイムの音が鳴った。
「は〜い……」
アスカが応答するまでもなく、ノゾミは椅子を降りて駆け出す。
ガチャ、とドアが開いた。
「こんばんは」
「わ〜〜〜〜いっっ!おじちゃんだあっ!!」
ててててて〜〜〜っと駆けていったノゾミは、そのままの勢いで冬月に抱きついた。
ぽふっ!
「おっと……一段とタックルが鋭くなった。……元気そうだな、ノゾミくん」
帽子を取った冬月は、それをノゾミの小さな手に手渡した。
きゃはははっ!
と、ノゾミは笑う。自分が『ノゾミくん』と呼ばれるのが可笑しいらしい。
こんな子供にまで律義な冬月が、ノゾミはお気に入りであった。
「うんっ!ノゾミ、げんきよぉっ!」
にぱっ!と最高の笑顔を見せて、ノゾミは今まで冬月がかぶっていた帽子を抱きしめる。
冬月もその細面に、笑みを浮かべてノゾミに応える。
ようやく、本日の主賓が到着したようであった。
(つづく)
みゃあの後書きらしきもの
うひぃ〜〜〜。また続いちまったい(笑)。
どないしょ?
うむむむむ……どうやって締めようかなぁ。
…って、そんなことは書く前に決めておけっちゅうの(^^ゞ。