For example...

「暑い日」

作・みゃあ


 

 

 

ジーワ、ジーワ、ジーワ…。

 

ミーン、ミンミンミンミーン……ミーン、ミンミンミンミンミーン…。

 

オーシーツクツクツクツクツクツ……オーシーツクツクツクツクツクツ…。

 

ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

 

 

 

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ……。

 

 

「……アスカ……」

 

壁掛け時計の音以外の、静寂に満ちた空気に耐えられなくなったのか、シンジはおそるおそる口を開いた。

 

「………」

 

名前を呼ばれた少女は、返事をしようとしない。

ただ、閉じた目の端が、わずかにピクッと動いただけだ。

それだけの仕草に恐れをなしたように、シンジは視線をさまよわせながら、乾いた笑いを漏らした。

 

「あ、暑いね」

 

その顔は言葉の通り、上気している。

 

「………」

 

沈黙。

 

それ以上、何も言えず、シンジは口をつぐんだ。

 

 

 

ジーワ、ジーワ、ジーワ…。

 

ミーン、ミンミンミンミーン……ミーン、ミンミンミンミンミーン…。

 

オーシーツクツクツクツクツクツ……オーシーツクツクツクツクツクツ…。

 

ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

 

 

 

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ……。

 

 

「…あ、アスカ…?」

「………」

「………」

「………」

「……あの……暑くない?」

「………」

「………」

「……それがどうしたのよ」

 

長ーーーい沈黙のあと、心底煩わしそうに薄目を開けたアスカが、不機嫌そうな声を出す。

その低い声に、完全にひびったように、シンジはシャキーン!と背筋を伸ばした。

その顔は、かなり赤い。汗の玉が、筋を作って流れ出していく。

 

「な、なんでもありません…」

「フン…」

 

再び、目を閉じるアスカ。

しかし、よく見ると、アスカの頬も上気しているような気がする。

 

沈黙。

 

 

 

ジーワ、ジーワ、ジーワ…。

 

ミーン、ミンミンミンミーン……ミーン、ミンミンミンミンミーン…。

 

オーシーツクツクツクツクツクツ……オーシーツクツクツクツクツクツ…。

 

ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

 

 

 

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ……。

 

 

「あ…アスカ……」

「………」

「あ、暑いんだけど…」

 

言うシンジの顔は、完熟トマトのように真っ赤だ。

見ているだけで、暑苦しい。

 

「……夏なんだから、暑いのは当たり前でしょ」

 

にべもなく言い放つアスカ。

やせ我慢なのか、こちらの顔もかなり赤い。汗だらだら。

 

「そ、そりゃそうだけど……でもさ」

「……シンジ」

 

びくっ。

先程までとは、質の違うアスカの声に、シンジはそれ以上言葉を継ぐことの危険性に気付く。

アスカは、まさにリアル・赤鬼状態の顔を上げて、シンジをギロリと睨みつけた。

 

「あんたまさか、これが気に入らないとか言うんじゃないでしょうね」

「めめめめ、めっそうもない!」

「……じゃあ、黙ってなさいよ」

「……はい」

 

やっぱり沈黙。

 

 

 

ジーワ、ジーワ、ジーワ…。

 

ミーン、ミンミンミンミーン……ミーン、ミンミンミンミンミーン…。

 

オーシーツクツクツクツクツクツ……オーシーツクツクツクツクツクツ…。

 

ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

 

 

 

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ……。

 

 

「あ…あ…あ…アスカぁ〜……」

 

シンジ、目の焦点が定まっていない。滝のような汗が、ひっきりなしに。

 

「うる、うるさいわねぇ…あんた男なんだから、いちいち騒ぐんじゃないわよ…」

 

言ってるアスカのお目々も、ぐーるぐる。

室内のエアコンは、正常に働いているはずなのだが…。

 

「そ、そういう問題じゃあ…」

「いーから、このまま大人しくしてればいいのっ」

「うぅ……」

 

 

 

ジーワ、ジーワ、ジーワ…。

 

ミーン、ミンミンミンミーン……ミーン、ミンミンミンミンミーン…。

 

オーシーツクツクツクツクツクツ……オーシーツクツクツクツクツクツ…。

 

ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

 

 

 

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ……。

 

 

30分後。

 

ガチャッ

 

「たっだいまぁ〜」

 

帰宅したミサトの見たものは。

 

あまりの暑さにダウンしたシンジと。

 

……シンジの首に思いっきりしがみつき、暑さの原因を作って、自分もダウンしているアスカの姿だった。

 

「う〜ん……あ、暑いよぉ、アスカぁ」

「うぅ〜ん…だ、だめよ、離れちゃ。だめなんだからね、シンジ…」

「ん……わかってるってば…」

 

うわごとを言っているのに、逃がすまいと、さらに頭をすり寄せようとするアスカ。

死にそうになりながらも、おずおずとその背中に手を回そうとするシンジ。

 

 

ぶぉりぼり。

 

「……ったく、何考えてんのかしらね、この子たちは」

 

ため息をつきつつ、氷のうを作るためにキッチンへと向かうミサトであった。 

 

illust by K-2さん

おしまい。

 

 

注:タイトルは「暑い日」ではなく、「熱い日」の間違いでした(笑)。