For example...
ほんのりアスシン劇場「アイ!シてる」
作・みゃあ
「シンジぃ…暑い」
私はだるいのよ。
そんなニュアンスのアスカの声に、キッチンに立っているシンジは、手を止めずに用心深く身構えた。
トントントン…。
よく手入れされた包丁がまな板を叩く連続音。
暑いのは分かっている。連日、今年の最高気温更新中だ。問題は、そのあとに続く言葉なわけで…。「シンジぃ…アイス食べたい」
トントントン…。
「…シンジぃ、アイス買ってきなさい」
トン…。
シンジの手が止まり、くるりと顔を振り向かせると、いかにも
そんなのやだなぁ…
という風に眉を寄せた。大体、なぜ「食べたい」の後が、「買ってきなさい」なのか。
せめて「買ってきてくれない?」ぐらいにはならないものか。そんな思いを込めて、精一杯イヤそうな顔をしてみるのだが、アスカはむこうを向いて寝そべったまま、見ちゃいない。
それでもシンジはしばらく頑張って念を送っていたが、やがてあきらめたように口を開いた。「…僕、いま昼ご飯作ってる最中なんだけど」
暗に、自分で買ってきなよ、という意思表示。
「ふーん」
アスカは気のない返事。
「とにかく、10分以内によろしくね。…あと9分59秒」
「だから、アイス食べたきゃ、自分で買ってくればいいじゃないか!」
「あと9分50秒」
「っ…!大体、昼ご飯の用意だって、誰のためにやってると思ってるんだよ。今日はアスカの当番の日じゃないかっ。そのうえ、なんで僕がアイスまで買って来なきゃならない…」
「…のか、わかるわよねぇ?」シンジは口を閉ざした。
いつのまにか目の前に立っているアスカの頭の横に、固く握りしめた「ぐー」を見たからだ。「…わかったよ」
「よろしい」アスカは、「にっこり」と笑うと、大きく頷いた。
「あ…」
「…?」シンジが急に顔を赤らめたので、アスカはいぶかしげに眉をひそめる。
さまよっているようで、その実ターゲットをロックしているシンジの視線の先を追うと…。
タンクトップの上の隙間から覗く、自分の谷間が。
ハ、ハーン。
少し、前屈みになってみる。
…シンジの視線がついてくる。
もう少し、前傾姿勢になってみる。
…さらにシンジの視線が追いかけてくる。くっくっ…。
アスカは内心、笑いをこらえた。
長い同居生活の中で、ひとつだけわかったことがある。バカシンジは、からかうと面白い。
「あー、暑いわねぇ」
などとわざとらしく呟きながら、さらに谷間を強調しようとして。
…てっきり自分の動きにつられたのかと思っていた、シンジの前傾姿勢の「真の意味」を悟る。かぁぁ…っ!
「くぉの、バカシンジーーーッッ!!」
バコーンッ!
真っ赤になったアスカの怒りの怪鳥キックが、健康な少年の下あごにクリーンヒット。「ぐはっ…!」
だって、しょうがないじゃないか…!
スローモーションで宙を舞いながら、男の生理をもてあそばれて、どうすればいいんだと心で叫ぶ、碇シンジ15歳であった。
付記:あわれなシンちゃんは、その後、しっかりとアイスも買いに行かされましたとさ。
(おわり)
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(updete 2003/09/18)