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ほんのりアスシン劇場「アイ!シてる5」

作・みゃあ


 

 

ひやり。


背筋を伝う汗の、いやぁな感触にアスカは我に返った。

サー………
サー………

変に耳に残る高音域の雑音。

目を上げると、いつの間にかテレビが砂嵐を写していた。

「いけない、いけない。テープ終わってたわ」

声を出すことで気分を変えようとするが、返事が返ってこない独り言は、余計に寒々しさを増すばかりだった。

ピッ…。
カチャ、シュルルル……。

ビデオテープの巻き戻る音に、ブルーバックのテレビ画面。
そして、ようやくアスカは電気を消していたことを思い出した。

「そうそう、電気電気。電気つけなきゃね」

またしても、明るく独り言を呟きながら、部屋のスイッチを入れる。

パチッ。

あれ……?

思っていたほど、明るくない。
まだ、夕方前のはずなのに…。

「あ、そっかそっか。カーテン閉めてたんだっけ。やだなー、あたしってば、ちょっと雰囲気出し過ぎ?」

あははー、と作り笑いを浮かべながら、窓際へ。

シャッ。

サー………。
サー………。

「あ…………雨、降ってる」

サー………。
サー………。


しん、と静まり返った室内に、こもった雨音だけが流れる。

「………」

カシャン。

「!!」

びくっと、背を伸ばし、おそるおそる背後を振り返る。

「……なぁんだ、テープが巻き戻っただけかぁ」

やれやれと、テープをデッキから取り出そうとして…ピタリ、と手が止まる。

確か、ビデオではこの後……

考えかけて、アスカはバッとテレビから遠ざかった。


一人で見るんじゃなかった……。

ヒカリから、「恐いわよ」と言われて、「そんなの全然平気、平気。あたし、そういうの全然平気なのよねぇ」と、勢い余って借りてきてしまったホラービデオ。
実は、あまり得意ではなかったりする。

アスカは、ミサトに教わった日本の伝統的なことわざを思い出していた。

「まさに、後悔あとのまつり、ね…」  ←そんなことわざありません


「まったく、こんな時にミサトはいないし。バカシンジは夕食の買い物とか言っちゃってさ」

口に出して、そういえばシンジが出て行ってから随分たっていることに気付く。

「もう、買い物なんかにいつまで時間かかかってるのよ、あのバカ!…そうよ、大体あいつがいれば、一人で見ることなかったんだから」

二人で見ていたら、じゃあどうだったんだ、という仮定はまったく無視して、この場にいない少年に向かって悪態をつきまくるアスカ。

「あいつ、ぼけぼけぇってしてるから、きっとこういうの苦手よね。ハンッ、男のくせになっさけなぁい」

サー………。
ゴロゴロ………。

いつのまにか、雨音に遠雷が混じりだしていた。
室内は、カーテンを閉めていた時とたいして差はないくらいに薄暗くなっている。

「ど……どこほっつき歩いてんのかしら、バカシンジ!帰ってきたら、ぎったぎたに…」

カッ!

「!!」

凄まじい雷光。

……ゴロゴロ。

遅れて、腹の底に響く雷鳴。
窓の外は、すっかり本降りになっていた。

ぶるるっ!

「かっ……帰ってきたら、ぎったぎたの、メッタンメッタンにオシオキしてやるんだからぁっ!!」












そして。

「………」
「……………」
「………」
「……………」
「………」
「……………」

ぎゃっはっはっはっは…!

テレビ画面の中で、コテコテの大阪弁漫才が繰り広げられ、やけくそのような笑いが響いている。

「………」
「……………」
「………」
「……………」
「……あの、アスカ? 僕、いつまでこうしてれば、いいのかな…?」
「………うるさいわね。あたしがいいって言うまでよ。ほら、黙って画面だけ見てなさいよ!」
「い、いいけどさ。…? …?」

しっか、と左腕にしがみつかれながら、さっぱりわけがわからない、碇シンジ15歳であった。


 

(おわり)

 

 

 


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(updete 2003/09/24)