「ねえ、シンジ。…キスしようか」
「え?」
「キスよ」
「ど、どうして?」
「退屈だからよ」
「退屈だからって、そんな…」
「したことないでしょ」
「うん…」
「じゃ、しようよ」
「でも…」
「…お母さんの命日に、女の子とキスするのイヤ? 天国から見てるかもしれないからって」
「そんなことないよ」
「怖いんだ」
「怖かないよ。キスぐらい…。 いいよ。やってやるよ」
「…歯、磨いてるわよね」
「う、うん」

 

 


For example...

嘘と沈黙if...「おあずけ」

作・みゃあ


 

歩み寄ってくるアスカに、シンジはごくりと一つ、喉を鳴らした。
いやが上にも、視線が彼女の唇に吸い寄せられる。
赤くて、小さい。
あ…なんかダメだ。

どくどくどくどく…。
あっという間に、頭がくらくらしてきた。

「い、いくよ」

シンジはアスカの両肩に両手をかけた。

あれ、とアスカは思った。
何かちょっと予定と違うような…と考える間もなく、いきなり視界に大写しになるシンジの顔。
目を閉じたまま、ぷるぷる震えながら唇を突き出している。
自分から「暇つぶし」と持ちかけておいて何だが、ムードもへったくれもない。
そのまま受ける気になれず、アスカは上体を反らした。

シンジはがっつくように顔を追っつける。
アスカ、のけぞって逃げる。

シンジ、なおも追いかける。
アスカ、さらに逃げる。

追う。
逃げる。

…しまいには、ペアのフィギュアスケートのフィニッシュポーズのような格好になっていた。

ぷるぷるぷる…。

「ちょっ……と待ちなさいよ!」

むぎゅいっ。

「はぁ、はぁ、はぁ…アンタねぇ」
「え? な、なに」

シンジはようやく、目を開けて我に返る。
アスカはビシッと、その物欲しそうな鼻先に、指を突きつけた。

「いきなりブッチューっじゃなくて! ちったぁ、雰囲気ってモンを考えなさいよ!アンタには、デリカシーてモンがないワケぇ?!」
「そ、そんなこと言われたって…」
「なによ、できないってぇの」
「わ、わかった。やるよ、やればいいんだろ!」

半ばやけくそ気味に言って、再びアスカの両肩に手をかけるシンジ。

「………」
「………」

見つめる。

「………」
「………」

さらに見つめ合う。

「………」
「(イライライライラ……)」
「………」
「何やってんのよ、バカ!」
「そ、そんなこと言ったって、初めてなんだからどうしていいか分かんないんだよ!」
「だから、あるでしょう?!好きとか愛してるとか、そういうヤツよ」
「ええっ?!」
「ホラ、早く!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ、じゃあ、いくよ」

深呼吸。すーはー。
アスカの両肩に手をかける。

「アスカ……。ず、ずっと好きだったんだ!」
「…?!」

ぎし。

アスカ、固まる。

「………あれ。アスカ?」

はっ!

「だ、ダメだった? 雰囲気出せっていうから…」
「い、今のはあれよ。そう、『鳩がマシンガン食べた』ってヤツ。 (←そんな言葉ありません)
 い、いきなりだったから」
「じゃ、じゃあ、もう一回?」
「い、いいわよ」

すでに、最初の目的が変わってきている二人。

シンジ、アスカの両肩に手をかける。

「アスカ……僕、ずっと好きだったんだ」
「………………………あ、あたしも」

ぎし。

シンジ、固まる。

「え!! ……ほ、ホント?」
「ちっ…違う、雰囲気づくり、雰囲気づくりよっ!」
「あ、ああ、そっか…」
「も、もう一度よ」
「う、うん…」

…………。
………。
……。
…。


 

 

 

 

 

 

プシュッ。

「いやぁ…まいった。誰かいるかい。 葛城が大変でさぁ……って、あれ?」

完全に潰れているミサトに肩を貸して居間に入ってきた加持が見たのは、向き合ったまま真っ赤な顔でうつむき合っている、シンジとアスカの姿だった。

「なにやってるんだ、二人とも…?」

結局。
「暇つぶしのキス」は未遂に終わった。

碇シンジ14歳、ファーストキスならず。
惣流アスカ14歳、右に同じ。


この齟齬が、以降いかなる歴史的差異をもたらすのか、それはまたの機会に♪


 

(おわり)

 

 

 


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(updete 2003/09/24)