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ほんのりアスシン劇場「アイ!シてる6」

作・みゃあ


 

 

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ…。

気が付くと、時計の音を反芻している。

カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ…。

デジタルの壁掛け時計なのに、なんでこんな音がするのかなと、シンジは思った。
雰囲気作りの効果音ってやつだろうか。
この商品を考えた人は、変わった人だなあと考える。
そして、あまりのどうでも良さに、手にした湯飲みから緑茶をすすりつつ、ため息をついた。

ふう。



暇だ。

夕食が終わり、洗い物も済んで、明日の朝の仕込みを簡単に終えると、途端に手持ちぶさたになる。
昔から多趣味とは言い難いシンジは、手が空くと時間を持て余してしまうところがあった。

お風呂が沸くまでは、まだ時間があるし…と考えて、キッチンのテーブルに両肘をついたシンジはまた一口、お茶をすすった。

…ずず。

二杯目のお茶も空になった。


はぁ。



暇だ。

ちなみに、保護者であるところのミサトは飲み過ぎたらしく、部屋でさらに飲んでいる。
これはいつものこと。
また、もう一人の同居人であるところのアスカは、向こうでテレビを見ながら雑誌を読んでいる。
器用だなと、思う。

しばらく、シンジの意識はクッションに寝そべったアスカの後ろ姿に移った。

ぷーら、ぷーらと脚が交互に上がる。
ぴたりと動きが止まり、画面に視線が釘付け。近頃ハマっているお菓子のCMだ。

再び、脚がぷーらぷらし始める。
ごろん。(右に寝そべり)
ぺら。(ページをめくる)
ごろん。(左に寝そべり)
ぺら…ぺら…
がばっ。

じーっと雑誌を熟読中。
ここからは、何を読んでいるのか分からない。


カッチコッチ、カッチコッチ、カッチコッチ…。


ふぅ。

「………退屈だなぁ」

ぼそり、と思わず言葉が漏れた。

ぴくり。

むこうを向いていたアスカが反応して、頭を上げた。

「(あ、まず…)」

何か気に障ったのだろうか。
アスカは半身を起こして、シンジを見ている。

「なに、アンタ暇なの?」
「い、いや、別に…」
「ふーん」
「………」

何を考えているのかよく分からない顔で、アスカは立ち上がると、シンジが座っているキッチンに歩いてきた。

「あ、あの…」

言いかけたシンジに、唐突に。




そう、まったくの唐突にアスカの唇が重なった。

…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。

ピピピッ、ピピピッ。

すっ。

「(ぱくぱく…)」

何が起こったのか、まったく理解できないシンジは、目を白黒させて魚みたいに口を開閉させた。

ピピピッ、ピッ。

「お風呂沸いたわね。入ってこよっと」

何事もなかったように、アスカはすたすたとリビングを通って廊下へ消えた。

「(ぱくぱく…)」

後には、茫然自失状態のシンジだけが残った。












30分後。

風呂上がりの濡れ髪を下ろしたアスカは、リビングのテレビをつけた。
クッションに寝っ転がり、雑誌の続きを読み始める。

ごほん。

咳払いの音。

アスカは何の反応も示さず、ページをめくっている。

ご、ごほん。

先ほどより、わざとらしい咳払いの音。

シンジが、ちらちらとアスカを覗き見ている。
しかし、やっぱりアスカは完全無視。
シンジ、どこか期待に満ちた目。

「………ご、ごほん。 た、たいくつだなぁ」
「あっそ」
「………」

一言の下に切り捨てられ、シンジはがっくりと肩を落とした。

ばぁーか。

心の中で罵倒しつつ、顔の赤さは隠せない、惣流アスカ15歳であった。


 

(おわり)

 

 

 


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(updete 2003/09/24)