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ほんのりアスシン劇場

「アイ!シてる8」

作・みゃあ


 

「……あつ……」

 

うつろな目で、シンジはため息とともに、今日何度目かの呟きをはき出した。

汗でべったりのまぶたを上げると、寝そべっているリビングの天井が見える。

風は、そよとも吹かない。

 

エアコンが、その活動を止めてから、どれくらいたったのだろう。

外は今日も、真夏日というのもおこがましいような灼熱地獄。

自分がはき出す呼気ですら、部屋の温度を上げている気がする。

フローリングなら、まだ少し違うのかもしれないが、あいにくリビングはカーペット敷きである。

寝そべっていても暑いだけなのだが、起き上がる気力が沸いてこない。

 

汗で重くなったTシャツは、べったりと肌に張り付いて不快指数を上げている。

せめて、冷水のシャワーでも浴びようと思えば、追い打ちをかけるように―――断水。

ミサト秘蔵のビールを入れて作った即席氷のうが、完全に「お湯ビール」になって、額からずり落ちた。

ペンペンは、まだ生きているだろうか……。

電源供給が絶たれて久しい冷蔵庫を思い、シンジは頭をめぐらせた。

 

「………」

 

ガラステーブルを挟んだ向こう側に、もう一人の同居人が、片足を伸ばした格好で座り込んでいた。

目線は左斜め5度に据えたまま、30分も前にシンジから奪って食べきったアイスの棒をガジガジとかじっている。

ぴくりとも動かず、左手だけが、うちわ代わりのプラスチック製下敷きを動かして、暑いだけの空気をかき混ぜていた。

タンクトップにホットパンツは、すでに限界ギリギリの露出具合である。

 

「……暑いね」

 

不用意な言葉に、アスカの黒目の部分だけがキロリとスライドして、シンジをロック・オン。

分かり切ったことを言うんじゃないわよと、凄まじい殺気が放出される。

しかし、のーみそが半分煮えているシンジは気付かない。

 

「あれ……髪上げたの?」

「………」

 

朝からずっとポニーテールにしているというのに、今ごろ気付いたようだ。このニブイ少年は。

 

「上げると涼しい……?」

「……大して変わんないわよ」

「ふーん……」

「………」

「………」

「………」

「……じゃあ、なんで上げてるの?」

 

のそり。

 

「……?」

 

ずいっ。

急に、シンジの視界が翳った。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「……ぷはぁ」

 

再び、視界に刺すような日差しが戻ってくる。

 

「……こうする時、邪魔になんないようによ」

 

のっしのっし。

 

「ああ……そっか」

 

 

 

 

シンジが我に返って飛び起きるのは、この数分後。

 

(おわり)

 

 

 

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