For example...

ほんのりアスシン劇場

「アイ!シてる9」

作・みゃあ


 

「〜♪」

 

買ったばかりのブラウスに袖を通したアスカは、上機嫌で通りを歩いていた。

道行く人々から、視線が集まっているのを感じる。

見も知らぬ人からじろじろと見られるのは好きじゃないが、注目を浴びること自体は嫌いではない。

物欲しげな視線を向けてくる男共をさらりと無視しつつ、アスカは暫くその状況を楽しんだ。

 

自慢ではないが、プロポーションには多少の自信がある。

ドイツの血が混じったはっきりとした顔立ちだって、そう悪くはないだろう。

ナチュラルメイクだけで、毛穴も見えないような肌のきめ細かさは、十代だけの特権。

惣流アスカ・ラングレー。花も恥じらう16歳。

 

「待ってよ、アスカ〜」

 

情けない声が、ようやく追いついてきた。

いい気分に浸っていたアスカは、少なからず機嫌を損ねて、長い脚をぴたりと止める。

両手を腰に当てて、振り返ったその先には。

 

冴えない顔。

冴えない体格。

 

「ひどいよ、一人でどんどん先に行っちゃうんだもんな…」

 

おまけに、冴えない声。

碇シンジ、16歳。

2年経っても、ほとんど変化がない。

両腕に荷物を抱えて(全部アスカが買って持たせた物だが)、ひいはあとだらしなく息をつく姿は、格好良いとか、ステキとかいう形容詞からほど遠かった。

 

アスカは半眼になって、じろーりとシンジの顔を見やる。

 

「…なんで、あんたなのかしら」

「へ?」

 

我ながら、理解しがたいことではあるが。

ぽりぽりと、頬をかく。

 

すると周囲から、嫉妬と、あからさまな嘲り混じりの視線が集中しているのに気付く。

曰く、

あんなヤツに、この子はもったいない。

まったく釣り合いが取れていない、等々。

 

(カチン)

 

「アスカ…? あの…何か怒ってる?」

 

一番腹立たしいのは、そういう視線に当の本人が全然気付いていないことだろう。

アスカは、つかつかとシンジに近寄ると、荷物でいっぱいのシンジの両腕を抱え込むように、ぎゅうと抱き締めた。

 

「え? な、なに…」

 

間近に迫ったアスカの顔に腰が引けているシンジに、こつんとおでこをぶつけてから、

 

「確認作業よ」

「え?んむっ…」

 

アスカは、鼻を擦り付けるように情熱的に口を塞いだ。

 

周囲から、絶望とも驚愕ともとれる声が複数上がる。

 

アスカは満足そうに唇を重ねていた。

 

(おわり)

 

 

 

お名前  mail

 ご意見・ご感想などありましたらどうぞ。