FF7 ■こころとこころからだとからだ■ (2)The reverse〜CLOUD〜 作・みゃあ
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
クラウドは走っていた。
走り出した時。なぜ自分でも走っているのか良く分からなかった。
あの時……。
そうあの時、涙を見せて駆け出すティファを何故追いかけたのか。
何故エアリスを置いて走り出したのか。
何故あのような真似ができる?
こころにおいても、からだにおいても信頼を寄せてくれたエアリスを置き去りにするような真似が。それも他の女性のために。
何故追いかけることができる?
あんなシーンを見せたというのに。ティファの常夏のような笑みを消した自分が。
クラウドは自問していた。
……が、満足な答えは得られなかった。
エアリスに想いを打ち明けられた時、クラウドはごく自然な形で、彼女の気持ちを受け入れた。
それが自然であると思った。
エアリス・ゲインズブール。
初めて会ったその時から、何か運命めいたものを感じていた。
予感だの運命だのといった言葉を心底嫌っていた自分が、である。
最初に心を奪われたのは、その瞳だった。
吸い込まれそうなエメラルドの眼差し。
次にその絹糸のような美しい髪と、雪のように白い肌……。
彼女が一つ年上だと聞いた時、クラウドはとても信じられなかった。
それほど、彼女の顔には屈託がなく、無邪気だったのだ。笑顔は幼子のそれとまるで変わりがない。
自分よりも、初めに他人のことを考えてしまう。自分の大切なものまで相手に譲ってしまう……そんな優しすぎる女性だった。
その彼女が、必要だという。
この俺のことが……。
白状すれば、初めからエアリスには好意以上のものを寄せていた。
護ってやらなくては。
男の身勝手かもしれない。第一、自分にはその資格がないかもしれない。
だが、追われるエアリスを見て、本心からそう思ったのだった。
彼女と結ばれたのも、ごく自然な気持ちからだった。
自分はエアリスが好きだし、彼女も自分を愛してくれている。
それ以外に何か必要なものがあるだろうか。
エアリスは、こころまで痺れるような快感と、安らぎをくれた。
彼女と結ばれる時、クラウドは確かに幸せだったのである。
その時ティファのことは頭になかったのか、と問われれば「なかった」と答えるしかない。
実際、ティファはクラウドにとって「近すぎる」存在だった。
その自分が、なぜ今ティファを追いかけている?
クラウドは自らに問う。
あの時。
クラウドは、ティファに「見られた」ことよりも、彼女の見せた「反応」の方に慌てた。
ひっぱたくでもなく、罵るでもなく。
ティファは背を向けて走り出したのだ。涙を見せて。あの気丈なティファが。
その時ようやく、クラウドには理解できたのかもしれない。
ティファが、エアリス以上にかよわい女の子なんだということが。
といって、ではティファがエアリスよりも大切なのか、というと、未だその答えは出ない。
いや、エアリスを置いてきた時点でその答えは出ているのだが、クラウド自身は気付いていない。
もしかすると、それを認めることが恐かったのかもしれない。
いつも側にいたティファ。無防備な笑顔を見せるティファ。頬を膨らませるティファ。泣き虫なティファ。
そして…家族以上の絆をもったティファ。
その彼女のことを「女」として捉えたとき、俺は俺でいられるだろうか。
ティファはティファでいられるだろうか。
ずっと惹かれ合ってきた想いが、肉欲的な衝動だけになりはしまいか……。
俺はティファを「女」として受け入れられるのか……?
えい、くそ!
思考の堂々巡りに入ってしまったクラウドは、頭を強く振って雑念を追い出した。
今はとにかくティファに追いつくことだ。
考えるのはそれからでもいい。
捕まえなくては。
今、そうしなければ、二度といつものティファとは会えないかもしれない。
元々クラウドは即断即実行を信条とするタイプだ。決断すれば後は早い。
それが、こうまで優柔不断の態度をとることになったのは、彼が初めて直面する問題だったからかもしれない。
しかもそれは、今まで出会った中でも最大の難問であった。
「(薄情な男と言われるかもしれんな……)」
一気にスピードを上げて林の中を疾走しながら、クラウドはひとりごちた。
ティファのことだけで、エアリスのことがまるで頭に浮かばなかったことに気付いたからである。
「いた!」
どのくらい駆けただろうか。
いい加減、息も上がり始めた頃、クラウドは前を行くティファの背中を発見した。
おそらく後先考えずに全力疾走しているに違いない。
ティファは疲れないのだろうか…などと愚にもつかない考えを巡らせていたクラウドは、限界までスピードを上げた。
あと数歩、という距離にまで迫った時、ティファはこちらに気付いた。
もう限界も近いはずなのに、さらに加速する。
一瞬振り向いて、こちらを確認したティファの顔を見た時、クラウドはひどい罪悪感に駆られた。
同時に、自分の鈍感さに今更のように気付いたのである。
ティファの瞳は、ルビーレッドを通り越してクリムゾンに濡れていた。
泣きはらした腫れぼったい目が、悲しそうにクラウドを捉えたのだ。
捨てられた子犬のような目が。
「バカヤロウ!!」
気がつくと、クラウドは叫んでいた。
彼女の想いに気付いてやれなかった不甲斐ない自分に対して。
自分の心に気付かなかった暗愚な自分に対して。
本人は心の中で呟いたつもりが、意外なほどの声量で響き渡り、それがあまりに大きく烈しかったので、思わずティファは驚いてスピードが鈍った。
「ティファ!!」
この時。
クラウドは万感の想いを込めて少女の名を呼んだ。
今は、後ろめたさも後悔も、そして迷いもなかった。
ただ……ようやく気付いた彼女の想いに、そして自分の想いに素直に応えようと思った。
その瞬間、クラウドは逃げ出した小鳥を腕の中に捕まえていた。
ティファの細い体をしっかりと……。
「はあっはあっはあっはあっはあっ………」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」
しばらく、互いの荒い息の音だけが、静まりかえった木々の間に響いていた。限界を遥かに超えた消耗に意識が朦朧となっている。
「んーーーーーーっっ!!」
そしてティファは、思い出したようにクラウドの腕から逃れようともがき出した。
しかしクラウドは離さない。
背後からティファの長く美しい髪に顔をうずめたまま、絶対に逃すまいと、腰に回した腕できつく、きつく抱きしめる。
「離してよっっ!!」
ティファは体力の限界にあったが、それでも激情に押されて暴れ続ける。
本当はクラウドの腕の中にいたかった。
あんなシーンを見ても、否あんなシーンを見たからこそ、ティファはクラウドに対する想いを一層深めていた。
しかし、ひとたび噴出した激情は止まらない。
心とは裏腹に、愛しい人の腕から逃れようと、必死になってもがく。
飼い主の手から逃れようとする子猫のように……。
「クラウドの馬鹿っ!離してよっっ!!」
ティファはもう一度叫んだ。
自分でも驚くほどの涙声だった。
いつのまにか、頬を幾筋もの流れが伝っている。
三度、ティファが叫ぼうしたのを遮ったのは、彼女が驚きを感じるほどのクラウドの大声だった。
「いやだっ!!」
ティファの髪に顔を埋めたままクラウドははっきりと拒絶の意を示した。
「離さない」
言ってクラウドは、一層ティファを抱きしめる腕に力を込める。
「俺はバカで、どうしようもない男だ。だけどこの腕は絶対離さない!」
ティファは少し呆けたように動きを止めた。
少女は驚いていた。
こんなに感情的なクラウドの声を聞いたのは、本当に久しぶりだったからだ。
「ティファ。ティファ!」
クラウドは少女の名を連呼する。
言い訳じみたことを言うつもりはなかった。そんなことをすればティファが余計に傷つくことが分かっていたし、そんなことをすればエアリスに対する想いも偽りだったことになる。
クラウドはエアリスが好きだった。そして今でも好きである。
これは間違いようのないことである。
しかし、クラウドのティファへの想いはそれを上回る。
そのことに気付いたからこそ、クラウドはエアリスを置いてティファを追ってきたのである。
そして今こそ、自分の想いを確信したのであった。
ティファ。
誰よりも大切なティファ!
「ティファ!ティファ!」
クラウドは自分の想いをぶつけ続ける。
それしかクラウドには思い付かなかった。
だからクラウドはティファの小さな体を強く抱きしめ、何度も何度も、声が嗄れるまで彼女の名を呼んでいた。
もうティファがあきれるほど、クラウドは自分の名を呼び続けていた。
初めこそ抵抗を続けていたものの、既にティファはクラウドの腕から抜け出ようとするのを止めていた。
なんだか、何故怒っていたのかを忘れてしまいそうな気分だった。
少し気が抜けると、先ほどまでの疲労が一度に襲い掛かってきた。
普通ならば目眩を起こして倒れるところだが、彼女は今クラウドの腕の中だった。
もたれるように、彼の見かけよりずっと逞しい腕に体を預ける。
ほぅ……。
そしてひとつ、丸い息を吐いた。
最初は痛いとしか感じなかった、クラウドの力の篭もった抱擁が今は何故か心地よかった。
ふと、視線を背後に向けてみる。
すると、クラウドは相変わらず自分の名を呼び続けていた。
既に声は嗄れてしまって、老人のようなかすれた声が、うめきのように聞こえるだけだ。
夜闇の中、辺り中に響く大声で叫び続ければそれも当然だろう。
ティファはあきれてしまった。でも、同時にすごく愛しくなった。
自分のことで感情的になるクラウドが珍しかったのかもしれない。
今のクラウドは、昔別れた時の少年のように無鉄砲で、向こう見ずで、そして純粋だった。
ティファはそんな少年が好きだった。
そしてそれは今も変わらない。
「バカ………」
ティファは呟いた。
しかしそれは先ほどまでの刺々しいものではなく、母親がいたずらっ子を窘めるような、そんな響きだった。
「……え?」
しばらくしてから、ようやくティファの変化に気付いたクラウドの声は、まるで別人のものだった。
「バカ」
ティファはもう一度そう言って、そしてわずかに涙で潤んだ瞳で彼を見上げた。
「ティファ……」
そのかすれた声と、呆けたようなクラウドの顔が、どうにもいつもの彼と不釣り合いで、滑稽で、ティファは思わず吹き出していた。
「ティ…ティファ……?」
クラウドは訳が分からず、体を二つに折って笑い続ける少女の姿を見詰めていた。
しばらくして、ようやく笑いを収めたティファは、軽くため息をつくと、生き生きとしたいつもの表情で、クラウドを見た。
「いいわ。……今度だけは許してあげる」
「え……?」
「だから………ん」
完全に呆けた様子のクラウドに、ティファは両手を後ろに組んで唇を突き出した。
「え!?」
ようやく彼女の意味するところが分かったらしい。クラウドは素っ頓狂な声を上げる。
「こ、ここでか……?」
戸惑っている様子のクラウドに、ティファは片目を開けて膨れっ面をしてみせる。
「ちょっと……エアリスにはあそこまでしといて、私にはキスもなし?」
言われて言葉に詰まったクラウドは観念した。
「わ、分かった………」
それを満足げに見やってから、ティファは再び目を閉じた。
「じゃ、じゃあ……」
クラウドはおっかなびっくり、といった風に、ティファの両肩に手を置いて顔をゆっくりと近づけていった。
「ん………」
震える二人の唇が重なった。
ティファには、それは初めての口づけだった。
暫し、不器用に唇を押し付けただけで、クラウドは唇を離した。
柄にもなく緊張していたからだ。
ティファは少し不満そうに、上目遣いに彼を見て、そして今度は自分からキスをした。彼の首にしがみつきながら。
いたずらっぽい、しかし幸せそうな顔で。
「次はなしよ、クラウド」
その瞬間、ティファはクラウドの何もかもを受け入れたのだった。
(つづく)
お・ま・け2(或いはシリアスな展開に疲れたみゃあの暴走(笑))
<ちび号さまの「少女秘密結社」FF7ノーマル作品、エアリスより>
「クラウド……白い肌と日焼けした肌……どっちが好き?」
のーみそが蕩けるような声で、問い掛けるエアリス。
「そ、そうだな。白い肌もいいけど……黒い(日焼けした)肌も好きだよ」
ごくり、と生唾を飲み込みながら、クラウドは答える。
「そう。うふふ……」
エアリスは艶っぽく笑って踵を返した。
翌日。
「ふふ……クラウド?」
「ああ、エアリすすすすすすすすすすぅっ!?」
なんとそこには、日焼け肌どころじゃない、真っ黒くろの女性が立っていた。
いつもの美しさは見る影もない。
「う……うわああああぁぁぁぁぁぁぁん!こんなのエアリスぢゃないぃぃぃぃっっ!」
クラウドは両手を目に当て、泣きべそをかきながら走り去る。
「あっ、待ってクラウド!黒いのが好きだって言ったじゃない〜〜〜〜〜!」
ものには限度があるのだよ、エアリスちゃん。
(おしまい)(またもやなんじゃこりゃ(^^ゞ)
みゃあの後書きらしきもの。
ユフィ「あれ……作者死んじゃってるよ」
エアリス「えっ!そんな……」
みゃあ「う……うう」
エアリス「あっ!生きてるわ!」
ユフィ「ちっ、しぶとい……」
みゃあ「う……あうぅ……書き直しが5回…それでもこんなもんしかできなくて…あう」
ユフィ「どうしょーもないな。才能がないんだよ」
みゃあ「あうぅ…それはあまりなお言葉。前回よりも長くなっちゃったんですよ。しかも予告してたえっちは一切なしになったし」
ティファ「い、いいのよ!別にそんなシーンなくても」
みゃあ「次(最終回)には必ず……(固く拳を握り締める)」
ティファ「ちょ、ちょっとやめてよっ!」
クラウド「…………」
ティファ「あっ、クラウド。クラウドもなんとか言ってやってよ」
クラウド「おい……。これが俺だと言いたいのか?」
みゃあ「い、いやそれは……。これでも精一杯書いたんですが…」
ティファ「ひっどーい!クラウドはこんな情けなくないわよ」
みゃあ「うう…でもだからえっちシーンは止めにしたんですよ。そうすると落ちるとこまで落ちちゃうから。もー、初め書いてて情けなくて情けなくて…これでも随分ましになったんですよ」
ティファ「………」
クラウド「嬉しくないぞ。おい……死にたいようだな」
みゃあ「か、かんべんしてくださいよ〜。次は精一杯かっこよくしますから…戦闘シーンとかも入れて…ついでにえっちも」
クラウド「やはり斬る」
みゃあ「どひ〜!お助け〜〜〜〜〜〜〜!!」
クラウド「逃がさん!」
逃げるみゃあに、追うクラウド。
ユフィ「あたしら、なんのために出てきたんだ?」
エアリス「さ、さあ?」