FF7

■こころとこころからだとからだ■

(3)The fortune〜TIFA〜

作・みゃあ

  


 

 

「じゃ、そろそろ行くね。……全部終わったら、また会えるよ」

 

エアリスはそう言って笑った。

 

春の陽射しを受けてほころぶ花のように……。

 

我が子を抱いて目を細める母親のように……。

 

 

忘らるる都。

 

そこが終焉の地だった。

 

 

「エアリス……?」

 

エアリスは微笑んでいる。

 

クラウドの腕の中で。

 

以前、彼の腕の中で温もりを確かめ合った時のように……。

 

だが、その可憐な唇がほころぶことはもはやない。

 

「エアリス……」

 

二度目の問いかけは、理性より先に現実を理解し始めた悟性のため震えていた。

 

「エアリス……!」

 

クラウドは三たび呼びかける。

 

そうしなければ、腕の中の少女が塵と化して消えてしまいそうで……。

 

「あれ……?」

 

「おかしいな……」

 

体が震える。

 

「指先がチリチリする……口の中が…カラカラだ」

 

こくり。

 

水分を欲する喉が音を立てた。

 

「目の奥が……熱いよ。エアリス……熱いんだ」

 

クラウドは、無理に笑顔を作って、エアリスに向ける。

 

しかし、次第にクラウドの視界は霞み出していた。

 

 

こころとからだがまるでばらばらだ。

 

 

エアリスはもう笑わない。

 

 

 

 

あの後……戻ってきたクラウドを待っていたのは、罵声でも、平手打ちでもなかった。

 

クラウドの二歩後ろに下がって、ためらいがちに佇むティファを見て、エアリスは微笑んだ。

 

そして言ったのだ。

 

「やっと、気づいたのね……」

 

と。

 

 

「赦し」という行為が、神の特権だというのは大きな間違いであろう。

 

愛憎を乗り越えて、何の理由もなく赦すことのできる可能性を秘めているのが人間である。

 

エアリスという少女は、それを最も顕著に体現する人物であったろう。

 

彼女はふたりを心から祝福したのである。

 

エアリスのこころのかたちは、きっと純白の新雪でできている……。

 

 

 

 

「セフィローーーースッ!!!」

 

キンッ!

 

クラウドの大刀がセフィロスの長刀と交錯する。

 

人の命の儚さを示すかのように、刹那の間瞬いては消える火花。

 

「貴様は許さん!!」

 

チィンッ!

 

……ガキッ!!

 

剣を交錯させたまま、至近でにらみ合うふたり。

 

「……くだらん。お前とそこの娘の死と、なんの関係がある?」

 

「貴様っっ!!」

 

ギリッ……。

 

クラウドの剣が強烈な力を受けて押し込まれる。

 

「何をそんなに猛っている……俺と、母が受けた苦しみに比べれば、お前の感情など取るに足らん」

 

セフィロスの両目に狂気の光が宿ると、クラウドの力を圧するほどの威力で剣が押し返された。

 

だが……。

 

「……貴様に何が分かる」

 

前髪で表情の隠れたクラウドの声は不気味なほど静かだった。

 

「憎しみと狂気の中に逃げ出した貴様に……」

 

クラウドの言葉は次第に熱を帯び始める。

 

「エアリスの何が分かる……!」

 

ティファを選んだクラウドであったが、その後、この場所で息絶えるまで、パーティの一員として、共に戦う仲間として、エアリスを愛し、尊敬していた。

 

生死を共にする、という性質上、その絆は恋人同士よりも強いものかもしれなかった。

 

クラウドは戦ってきたのだ。

 

自ら選んだティファと。

 

そして、エアリスと。

 

「貴様に、エアリスの苦しみが分かってたまるかっっ!!」

 

その苦しみの一面を与えたのは自分である。

 

クラウドはそれを当然の報いとして受容していた。

 

彼女の想いに応えることのできなかった報い。

 

だがそれだけに、クラウドにはセフィロスの言葉が許せなかった。

 

「セフィロス……!!」

 

いつの間にかクラウドの青い瞳からは、熱いものが溢れていた。

 

それを見たセフィロスは口元を歪める。

 

「ふ……クックック……悲しむふりは止めろ」

 

「……なに?」

 

「怒りに震える演技も必要ない。なぜなら、クラウド。お前は……人形だ」

 

「なに!?」

 

こころの内にひびが入る音が、クラウドにははっきりと聞こえた。

 

 

 

 

「………分からないよ、ティファ」

 

ティファと背中合わせに座りながら、クラウドは魂の抜け殻のように呟く。

 

「俺は何者なのか……。何をなすべきか……何もかもが」

 

「………」

 

ティファは、力なくもたれかかってくるクラウドを背中に感じながら、しばらく無言であった。

 

「……あなたはあなたよ、クラウド」

 

やがて、ティファはきっぱりと言う。

 

「クラウドのことはあたしが一番良く知ってる。小さい頃からずっと…ね」

 

一分の迷いもない、紺碧の空のごとき目をしたティファは、クラウドの右手を自分の胸に導いた。

 

「ティファ……」

 

「……聞こえる、クラウド?あたしの鼓動が」

 

「…………」

 

「エアリスは死んではいないわ。……ここに、彼女はここに生きている」

 

ティファは続ける。

 

「あなたの中にもよ、クラウド。私たちが彼女の思いを忘れない限り、エアリスは生き続けるの」

 

「……ティファ。なぜお前は……」

 

その後に言葉は続かなかったが、ティファはクラウドの気持ちを汲み取って応える。

 

「エアリスの想いはあたしの想いよ。あたし自身の、そして彼女から託されたクラウドへの想い。……ここでクラウドを励まさなきゃ、エアリスにしかられるわ」

 

「ティファ……」

 

言葉の内に秘められた、ティファの気持ちが伝わってくる。

 

振り返れば……いつでも、一番近くにこの少女はいた。

 

その存在が、クラウドの一部となるほどに……。

 

他人の想いまで汲み取って、自ら背負ってしまうティファ。

 

そんな少女を、クラウドは愛した。

 

そして、彼女に想いを託したエアリスを。

 

クラウドの瞳に、再び光が戻った。

 

「………」

 

その無言の内の決意に、ティファはやはり無言で頷いた。

 

ティファ。

 

彼女のこころのかたちは、きっと澄み渡る空の色で出来ている………。

 

 

 

 

「だあっっっっ!!!」

 

そして今、ジェノバ(セフィロス)と戦いながらクラウドは強く思う。

 

道を刻んでいってくれたエアリスのことを。

 

彼女の笑顔を。

 

伝えきれなかった、想いを。

 

そして、最愛のティファのことを。

 

 

想いは受け継がれる……。

 

今のクラウドにできることは、エアリスの望んだ、破滅ではない形の終局をもたらすこと。

 

そして、ティファを精一杯愛すること。

 

エアリスもそう望んだように。

 

最後にエアリスは言った。

 

「ティファを泣かせちゃダメよ」

 

 

彼女はティファと共に生きている。

 

そして自分の中にも生きている。

 

からだが消え去った後も……こころの内に。

 

 

からだとからだ。

 

肉体的なつながりを、何かに追い立てられるように求めていた。

 

こころとこころ。

 

今、なによりもエアリスとティファを身近に感じる。

 

同時に一人の男性を愛した少女たち。

 

同時に二人の少女を愛してしまった男。

 

今、それがひとつになる。

 

それぞれが望んだように……。

 

「おおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」

 

クラウドの渾身の力を込めた最後の一撃が、星を食らう怨念を打ち砕く。

 

 

 

やがて……星に光が戻ってきた。

 

 

 

 

クラウドとティファは、今しっかりと重なり合っていた。

 

「ん……はぁっ……」

 

クラウドが奥深く分け入る度に、ティファは熱い吐息をもらす。

 

二人は無言のまま、互いの距離を少しでも0に近づけようと、肌を寄せ合う。

 

汗の光るクラウドの背中にティファが爪を立てれば、クラウドはティファの首筋に消えない跡を残す。

 

めくるめく快感と一体感の中、ふたりは二人きりではなかった。

 

常に誰かに包まれているような感触。

 

常に誰かを抱いているような気持ち。

 

それが何であるのか…ティファとクラウドには考える必要もなかった。

 

「はっ……!」

 

クラウドの逞しいものがティファの子宮口を突き上げる。

 

ティファの内壁がクラウドを呑み込むように締め付ける。

 

内から外へ。

 

外から内へ……。

 

からだとからだをぶつけ合い、こころとこころを合わせて。

 

ふたつがひとつになるようにと、互いを求め合う。

 

言葉はない。

 

だが、二人にはそれで十分だ。

 

やがて、頂が訪れる。

 

大きな波にさらわれ、昇りつめる瞬間まで、二人は互いの体を抱きしめ合い、互いのこころを結んでいた。

 

「ん……んん…はぁ」

 

「はあ…はあ…はあ……」

 

心地よい余韻に身を浸す。

 

自分の中に放たれたものが揺り動く感触。

 

命の熱さを持ったもの。

 

それがしまわれた、子宮のあたりをお腹の上から押えながら、ティファは薄く微笑む。

 

「あたし……赤ちゃんが欲しいな」

 

「え?」

 

まだつながったままのクラウドは、わずかに頬を染めたティファの顔を見下ろす。

 

「それも女の子よ。髪は…クラウドと同じ金髪よ」

 

「………」

 

「とても優しい女の子……」

 

「ティファ……ああ、そうだな」

 

「その子の名前はね……」

 

二人は見詰め合い、そして笑った。

 

同じ想いを確かめて。

 

 

(Fin)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

みゃあの後書きらしきもの。

 

ユフィ「なにこれ?」

エアリス「…………」

みゃあ「う……その、ちょっと卑怯かなー…とか思ったりして」

エアリス「あの…場面が良く飛ぶんですけど……」

ユフィ「なんだか良く分からないな。ゲームやってないと意味不明だよ、これ」

みゃあ「う……みゃあも今日知ったシーン、というんかセリフから思い付いて…」

ユフィ「前回までとまるで別物じゃん」

みゃあ「あうぅ…私自身、そう思います(^^ゞ。だけど…今回の設定じゃティファをうまく表現できないことが分かったから……」

ティファ「でも、結局Hはさせるわけね」

みゃあ「いやぁ…全然納得いかないんで、次はばりばりえっちにします(笑)」

ティファ「ちょ、ちょっとやめてよっ!」

クラウド「…………」

ティファ「あっ、クラウド。クラウドもなんとか言ってやってよ」

クラウド「おい……。まだ書くつもりか?」

みゃあ「い、いや…だってティファとエアリスの性格がまるっきり逆だったことが分かったし。もっとちゃんとしたシチュエーションでも書いてみたいな、と」

ティファ「でもえっちなんでしょ?」

みゃあ「うう…(^^ゞ」

ティファ「………」

クラウド「処置なしだな」

みゃあ「今度はうまく書きますから、クラウドくんも」

クラウド「期待はせん」

みゃあ「あう(^^ゞ」