新世紀エヴァンゲリオン

■舞い降りた天使■

〜約束 another ver.(前編)〜

Written By.みゃあ


 

 

 

地下通路の天井が発する、頼りなげな光の下で、二つの人影がもつれあっていた。

 

ウィーーーーーン……。

 

運転を続けるエレベーターの音だけが、その空間を圧していた。

 

嵐の前の不気味な静寂の中、湿った音がわずかに漏れる。

 

それは二人の重なった唇の間から漏れているものだ。

 

「ん……ふ。……これが大人のキスよ」

 

ミサトはそっとシンジから唇を離すと、静かな眼差しでそう囁いた。

 

ピチャン……。

 

通路の床に、紅い雫が落ちた。

 

ピチャン……。

 

それはミサトの膝を伝い、脇腹に源を発している。

 

だが、未だシンジはその雫に気づいていない。

 

ただ呆然とミサトの顔を見上げるだけだ。

 

ミサトは聖母のような慈愛の眼差しを、自分より15も年下の少年の、深い夜の色を湛えた瞳に据えた。

 

「……帰ってきたら、続きをしましょう」

 

優しい声だった。

 

人とは、こんなにも優しくなれるのか。

 

そんな思いを引き起こさせずにはいられない、穏やかな口調だった。

 

ガーーー。

 

シンジの背後で扉が開く。

 

トンッ……。

 

ミサトは俯いて、シンジの肩を軽く押した。

 

閉じゆく扉の向こうに消える、愛しい少年の顔。

 

わずか数ヶ月、家族であったシンジの顔。

 

この扉の向こう側とこちら側が、生と死の分岐点……。

 

「(さよなら)」

 

そうミサトが呟いたかどうか、定かではない。

 

 

 

 

ウイィィーーーーーン……。

 

下降を続けるエレベーターの中で、シンジは唇に残る生暖かい感触にようやく気づく。

 

「………血だ」

 

拭った掌についた真紅の雫を見たシンジは、思わず呟いていた。

 

「う………」

 

そして自らの言葉に触発されたように、今まで湖面のように静かだった感情にさざなみが生まれる。

 

やがてそれは堤防を破り、シンジの目から溢れ出した。

 

「う……う……」

 

ミサトさんっ!!

 

ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさんっっ!!

 

シンジは昂ぶる激情を抑えようともせずに、心の内で絶叫を繰り返していた。

 

 

彼の手の甲に、涙の水溜まりができるほどの時間が経った後。

 

潮が引くかのように、シンジの感情は急速に静まっていった。

 

絶望ゆえの静寂ではない。これから嵐を起こすための、弓弦(ゆんづる)を引き絞るかのような静けさであった。

 

その証拠に、少年の拳は血が出るほどに堅く握り締められている。

 

ゆっくりと上げられた顔。

 

そこには一分の迷いもなかった。

 

引き結ばれた唇をわずかに動かすと、その隙間から、小さな呟きが漏れた。

 

「死なせはしない」

 

それは、今はまだミサトの耳には届かなかった。

 

(つづく)

 


 

みゃあの後書きらしきもの

 

ども。

ミサトシリアスお初&ミサトHお初&エヴァでアダルトモードお初。

という初体験ばかりの小説になりました。

いかがでしたでしょうか。

ここまで読んで、「えっ、これホントにみゃあ?」

と思った方もいるかもしれません。

が。

結末はやはりみゃあです。(笑)

あと2回で完結しますが、心配せずにお待ちください。

 

ハッピーしか書けないみゃあでした。