新世紀エヴァンゲリオン

■舞い降りた天使■

〜約束 another ver.(中編)〜

Written By.みゃあ

 


 

 

「リツコ……」

 

今、ミサトの前には白衣をなびかせたリツコと、相変わらずだらしのない格好をした加持がいた。

 

幻影だ。

 

ミサトはそれを理解し、自分が長くはないことを確信する。

 

「もう……いいわよね、リツコ」

 

冷たい床の上に蹲ったまま、ミサトは弱々しく、かつての親友に語り掛けた。

 

この時ミサトは、リツコが既にこの世にいないことを直感していたのかもしれない。

 

ミサトはもちろん、受容の言葉を求めていた。

 

幻覚に許しを請う。

 

その行動自体が、自らの命が尽きることを受け入れるステップである。

 

「生きたい」という心の希望と、「死にたい」という体の欲望を融合させるため、自分の心に語り掛けるのだ。

 

「生きる」ことをあきらめさせるために。

 

が。

 

リツコは以前よくそうしたように、大仰に肩をすくめて見せると、

 

「困った娘ね……」

 

とでも言いたげな微笑を、紅を引いた口元に閃かせた。

 

そしてゆっくりと首を振る。

 

彼女はミサトの「死」をはっきりと拒絶したのである。

 

ミサトは意外の感を禁じ得なかった。

 

心のどこかで、自分はまだ生きることを願っているのだろうか。

 

「加持……そっちへ行っても、いいわよね?」

 

今度は、加持に向かって問い掛けてみる。

 

しかしやはり加持も、ゆっくりと首を振った。

 

「なぜ?」

 

リツコも加持も甘えさせてくれないので、ミサトはわずかに責めるような口調で尋いた。

 

『君の天使が待ってるよ』

 

加持はそう言って、いつものように鼻を鳴らして笑った。それが嫌みに感じないところが、加持の加持たるゆえんだろう。

 

「あたしの……天使?」

 

加持から返ってきた以外な答えに、ミサトは戸惑った。

 

考えを巡らそうとして――――――――――――。

 

一瞬のブラックアウト。

 

再びミサトの視界が回復したとき、そこには加持もリツコもいなかった。

 

「………まったく。いつも勝手に喋って、勝手にどこかへ行っちゃうんだから……」

 

次第に視界にブラインドが下り始める。

 

急速に世界が暗く、狭くなっていくのをミサトは感じた。

 

「これで、お終いか……」

 

かすかな呟きに、自嘲の響きが混じった。

 

「色々あったのに、最期はあっけないもんね……」

 

ミサトはゆっくりと目を閉じる。

 

すると、瞼の裏に光が点るかのように、眩しい笑顔が浮かんでは消えた。

 

ミサトさん……。

 

ミサトさん……。

 

ミサトさん……。

 

すねたような顔のシンジ。

 

捨てられた子犬のような顔のシンジ。

 

あきれたような顔のシンジ。

 

怒ったような顔のシンジ。

 

そして、眩しい笑みを浮かべるシンジ……。

 

幾度も、幾度も、シンジはミサトの名を呼んでいた。

 

出会ったあの日から、あの子は何度私の名を呼んだだろうか?

 

ミサトは消え行く意識の隅でそんなことを考え、不意に熱くこみあげてくるものに襲われた。

 

あれ……?

 

涙が頬を伝う感触だけが温かい。

 

あれ?

 

この気持ちは……なに?

 

何時の間にか、瞼の裏のシンジは泣いていた。

 

(必ず迎えに行きます、ミサトさん)

 

(死んじゃダメだ)

 

(待っててください)

 

(僕が行くまで)

 

(ミサトさん……)

 

「……シンジくん?」

 

あの子はなぜ泣くのだろう。

 

「シンジくんに……会いたい…な………」

 

(約束してください、ミサトさん。もう一度会えるって……)

 

約束……。

 

瞼の向こうのシンジは右手の小指を差し出す。

 

それに自らの指をからめようとして……、ミサトの意識は途絶えた。

 

その瞬間、光の輪郭を纏った天使が泣いているのを、彼女は幻視していた。

 

(つづく)

 


 

 

みゃあの後書きらしきもの

 

という訳で中編です。

なんかミサトの描写していたら、思いの他長くなってしまったので、あと2回続きます。

 

しかし…暗い。暗いなぁ……。

早く明るくしよっと(笑)。

ミサト死んだと思ってる方!……みゃあがそんなことできるはずがないじゃないですか(笑)。

 

と、いうわけで物語は後編に続きます。