新世紀エヴァンゲリオン

■舞い降りた天使■

〜約束 another ver.(後編)〜

Written By.みゃあ

 


 

あの後、いかなる心理的葛藤が少年の中で行われたかは分からない。

 

とにかく、彼は目覚めた。

 

自分の意志で。

 

 

 

「おおおおおおっっ!!」

 

ズンッ!

 

初号機の手にしたロンギヌスの槍が、量産型エヴァを2体まとめて串刺しにする。

 

「でやああああああっっっ!」

 

続いて横薙ぎの一閃が、新たな一体を葬る。

 

シンジは猛っていた。

 

しかし、その雄叫びに狂気の色は感じられない。

 

少年の瞳は、今までで最も強い理性の色を湛え、死をもたらす偽りの天使たちを屍に変えていく。

 

まるでそれが自分の使命であると言わんばかりに、シンジは槍を振るって血生臭い戦場を疾駆した。

 

だが、彼の脳裏にあるのは、敵を殲滅することではなかった。

 

「(ミサトさんっ……!)」

 

シンジの目に映っているのはミサトの笑顔だけだ。

 

「(ミサトさんっ!!)」

 

もう少しで取り返しのつかないことになるところであった。

 

シンジは既に弐号機とアスカを救出している。

 

「僕が人を救うことができる」

 

それを再確認したシンジが今なすべきことは、一刻も早く偽天使たちを倒してミサトを迎えに行くことであった。

 

無論、別れしな唇に残っていた血の意味は分かっている。

 

だがシンジはあきらめていなかった。

 

「ミサトさんっ!!!」

 

シンジの強い想いは、鏃(やじり)となって目の前の量産機に炸裂した。

 

 

 

 

……かくして、人類は補完されなかった。

 

ゼーレの思惑にもよらず、ゲンドウの固執にもよらず。

 

こうして再び彼らの迷走が始まる。失われた破片を探す、果てることの無い旅が。

 

 

……しかし、少なくともいくつかの命は救われた。

 

「生と死は等価値」

 

最後の使者たる渚カヲルの価値観からすれば、これは喜ぶべきものなのか、悲しむべきことなのか。

 

だが、シンジは自ら動くことによって選び取った。

 

自分の命と、それに連なる未来と、そして………。

 

 

 

 

ミサトの意識は、識域下の海を漂っていた。

 

揺れる……。

 

全てを脱ぎ捨てて波間を漂うような感覚。

 

しかし、そこもシンジへの想いで溢れていた。

 

(シンジくん………)

 

(シンジくんっ……)

 

(シンジくんっっ!)

 

ミサトはシンジを欲していた。

 

無論慰めのためだけではない。

 

男としてだけでもない。

 

家族として、半身として、共に生きて行く者として。

 

(私はあの子が欲しい………)

 

(私はあの子と生きたい)

 

その想いが、ともすれば呑み込まれそうになる意識を繋ぎ止めていた。

 

 

(ミサトさん……)

 

懐かしい声が彼女を呼んでいた。

 

陽だまりの様な笑顔を浮かべて。

 

 

 

 

「……ト……んっ」

 

初め、彼女が知覚したのは声とも呼べぬような音であった。

 

「……サトさんっ!」

 

やがて、音は声に、言葉にと明瞭さを増す。

 

「ミサトさんっ!」

 

ミサト……それは私の名前……?

 

「ミサトさんっっ!」

 

「ん………」

 

ぼやける視界一杯に広がったのは、光輝く翼を持った天使の顔だった。

 

光の天使は目に一杯の涙をためて、自分の名を繰り返し呼んでいる。

 

「……天使……?」

 

やがて、天使は窓からの陽光を背負った少年へと変わった。

 

「……シンジ…くん……?」

 

「ミサトさんっ!!」

 

少年は歓喜の声を上げ、次の瞬間ミサトは柔らかい抱擁の中にいた。

 

「シンジくん……?」

 

「ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!」

 

我を忘れたように、シンジはミサトの名を繰り返し、腕の中の息遣いを確かめる。

 

「…………」

 

ミサトは胸のあたりに荷重が加わるのを感じた。

 

だが今は、その重みが心地よい。

 

まだ意識のはっきりとしないまま、ミサトはシンジの体を抱き返し、その黒髪を指で梳いた。

 

「……生きてる……」

 

ミサトの呟きが耳に入ったのか、シンジは涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。

 

「シンジくん……」

 

ミサトは改めて、今やかけがえのない存在となった少年の名を呼んだ。

 

「ミサトさん」

 

シンジは無理矢理笑顔を作ると、ミサトを導くように、大きく両手を広げた。

 

「お帰りなさい…ミサトさん」

 

「……ただいま。シンジくん」

 

ミサトの浮かべた微笑みに、二人の一杯の想いを込めた口付けが続いた。

 

 

(つづく)

 

 


 

みゃあの後書きらしきもの

 

ふう……やっと後編が終わった。(笑)

実はこれ一日で書いてるんですよ。

ようやく次がリクエスト本題のシーンだ(笑)。

 

なんだか、随分長い話になっちゃったなぁ(しみじみ)

でも、ここまでは結構気に入ってます。

ちなみにコレ書いてる現在はミサトが一番好きです。

やっぱり感情移入しちゃうなぁ…今までろくな役やらせてなかったのに(笑)

さて、次はいよいよ最後の締めです。

はてさて、うまくまとまるかどうか。期待せずに待っててね(おいおい…)