新世紀エヴァンゲリオン ■舞い降りた天使■ 〜約束 another ver.(後編)〜 Written By.みゃあ
あの後、いかなる心理的葛藤が少年の中で行われたかは分からない。
とにかく、彼は目覚めた。
自分の意志で。
「おおおおおおっっ!!」
ズンッ!
初号機の手にしたロンギヌスの槍が、量産型エヴァを2体まとめて串刺しにする。
「でやああああああっっっ!」
続いて横薙ぎの一閃が、新たな一体を葬る。
シンジは猛っていた。
しかし、その雄叫びに狂気の色は感じられない。
少年の瞳は、今までで最も強い理性の色を湛え、死をもたらす偽りの天使たちを屍に変えていく。
まるでそれが自分の使命であると言わんばかりに、シンジは槍を振るって血生臭い戦場を疾駆した。
だが、彼の脳裏にあるのは、敵を殲滅することではなかった。
「(ミサトさんっ……!)」
シンジの目に映っているのはミサトの笑顔だけだ。
「(ミサトさんっ!!)」
もう少しで取り返しのつかないことになるところであった。
シンジは既に弐号機とアスカを救出している。
「僕が人を救うことができる」
それを再確認したシンジが今なすべきことは、一刻も早く偽天使たちを倒してミサトを迎えに行くことであった。
無論、別れしな唇に残っていた血の意味は分かっている。
だがシンジはあきらめていなかった。
「ミサトさんっ!!!」
シンジの強い想いは、鏃(やじり)となって目の前の量産機に炸裂した。
*
……かくして、人類は補完されなかった。
ゼーレの思惑にもよらず、ゲンドウの固執にもよらず。
こうして再び彼らの迷走が始まる。失われた破片を探す、果てることの無い旅が。
……しかし、少なくともいくつかの命は救われた。
「生と死は等価値」
最後の使者たる渚カヲルの価値観からすれば、これは喜ぶべきものなのか、悲しむべきことなのか。
だが、シンジは自ら動くことによって選び取った。
自分の命と、それに連なる未来と、そして………。
*
ミサトの意識は、識域下の海を漂っていた。
揺れる……。
全てを脱ぎ捨てて波間を漂うような感覚。
しかし、そこもシンジへの想いで溢れていた。
(シンジくん………)
(シンジくんっ……)
(シンジくんっっ!)
ミサトはシンジを欲していた。
無論慰めのためだけではない。
男としてだけでもない。
家族として、半身として、共に生きて行く者として。
(私はあの子が欲しい………)
(私はあの子と生きたい)
その想いが、ともすれば呑み込まれそうになる意識を繋ぎ止めていた。
.
.
.
(ミサトさん……)
懐かしい声が彼女を呼んでいた。
陽だまりの様な笑顔を浮かべて。
*
「……ト……んっ」
初め、彼女が知覚したのは声とも呼べぬような音であった。
「……サトさんっ!」
やがて、音は声に、言葉にと明瞭さを増す。
「ミサトさんっ!」
ミサト……それは私の名前……?
「ミサトさんっっ!」
「ん………」
ぼやける視界一杯に広がったのは、光輝く翼を持った天使の顔だった。
光の天使は目に一杯の涙をためて、自分の名を繰り返し呼んでいる。
「……天使……?」
やがて、天使は窓からの陽光を背負った少年へと変わった。
「……シンジ…くん……?」
「ミサトさんっ!!」
少年は歓喜の声を上げ、次の瞬間ミサトは柔らかい抱擁の中にいた。
「シンジくん……?」
「ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!」
我を忘れたように、シンジはミサトの名を繰り返し、腕の中の息遣いを確かめる。
「…………」
ミサトは胸のあたりに荷重が加わるのを感じた。
だが今は、その重みが心地よい。
まだ意識のはっきりとしないまま、ミサトはシンジの体を抱き返し、その黒髪を指で梳いた。
「……生きてる……」
ミサトの呟きが耳に入ったのか、シンジは涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。
「シンジくん……」
ミサトは改めて、今やかけがえのない存在となった少年の名を呼んだ。
「ミサトさん」
シンジは無理矢理笑顔を作ると、ミサトを導くように、大きく両手を広げた。
「お帰りなさい…ミサトさん」
「……ただいま。シンジくん」
ミサトの浮かべた微笑みに、二人の一杯の想いを込めた口付けが続いた。
(つづく)
みゃあの後書きらしきもの
ふう……やっと後編が終わった。(笑)
実はこれ一日で書いてるんですよ。
ようやく次がリクエスト本題のシーンだ(笑)。
なんだか、随分長い話になっちゃったなぁ(しみじみ)
でも、ここまでは結構気に入ってます。
ちなみにコレ書いてる現在はミサトが一番好きです。
やっぱり感情移入しちゃうなぁ…今までろくな役やらせてなかったのに(笑)
さて、次はいよいよ最後の締めです。
はてさて、うまくまとまるかどうか。期待せずに待っててね(おいおい…)