暑い――――――
暑い夏の日だった。
いつもと同じ……
蝉時雨からも逃げ出して、少年はそこにいた。
白い色に洗浄されたような病室だった。
少女は規則正しい寝息を立てていた。
少年は立っていた。
少年は慰めを求めていた。
ピッ………ピッ…………
規則正しい心電図の音だけが、室内を満たしている。
「……ミサトさんも、綾波もこわいんだ」
アスカの背中に向かって、シンジは呟く。
ピッ………ピッ…………
「助けて」
シンジは、慰めを求めていた。
「助けてよアスカ」
たとえ、アスカが何らかの反応を返せる状態にあったとしても、そんなものは望むべくもないのに。
ピッ………ピッ…………
規則正しく、アスカの肩は上下している。
「ね………起きてよ」
シンジは静かに…次第に激しく、アスカの肩を揺さぶった。
「ねえ…」
慰めてなど、くれるはずないのに。
「目を覚ましてよ……!」
冷たくされるに決まっているのに。
「ねぇ……ねえ…アスカ!」
それでも、慰めてほしかった。
気が付くと、すがって嗚咽していた。
細い体。
助けてと、求めるたびに、点滴が揺れる。
「ねえっ…!」
気が付くと、白い裸身が目の前にあった。
病院着からこぼれ出た乳房は病的なほど白く、なまめかしい。
ピッ………ピッ…………
シンジは昂ぶっていた。
シンジは、慰めを求めていた。
目の前に、アスカの裸身があった。
それは、シンジの求めた慰めではなかったが、それでもよかった。
シンジは荒々しく、窮屈な強張りをズボンから解放した。
そして――――。
アスカと目があった。
アスカは、目を開いていた。
その目は変わらず虚ろで、シンジを見ていたわけではなかった。
しかし、それで十分だった。
シンジは萎えた。
そして、我に返ると膝を折った。
「っごめん……ごめんなさい……ごめん……っ」
ぼろぼろと涙が溢れた。
心とは裏腹に、頬が熱かった。
現実がのしかかってきた。
ただ、忘れていたかった。
逃げていたかった。
アスカがやられるのをただ見ているだけだったこと。
レイを死なせてしまったこと。
カヲルを殺してしまったこと。
人のためにできることなんて、なんにもない。
人を傷つけることしかできないことを。
シンジは、病室の冷たい床にうずくまり、すすり泣いていた。
アスカは、どこかを見ていた。
そして、その時がまもなく訪れる。