新世紀エヴァンゲリオン

■零・愛・命<レイ・アイ・メイ>■

第一話「愛すべき命」Bパート

Written By.みゃあ

 


 

 

あの戦いがいかにして終わりを告げたのか、詳しくはここには書かないが、人類が補完されず、全てが未完のまま終わった、とだけ言っておこう。

 

だが、それがゆえに訪れる幸福もある。

 

少なくとも、シンジとレイの周りは幸せであった。

 

 

戦いの終わりは、ふたりが15才を迎えた春。

 

 

シンジとレイは、惹かれ合った。

 

互いなしでは生きられないほどに。

 

ふたりはすぐに一緒に暮らし始め、シンジが18を迎えた昨年結婚式を挙げた。

 

 

 

5年間使ってきた呼び方を、今日シンジとレイは変えた。

 

それはふたりが新たなスタートラインに立ったことを自覚した故かもしれない。

 

 

しかし、レイと呼びあなたと呼ばれたふたりは同時に赤面した。

 

気恥ずかしかった。そして嬉しかったのだ。

 

頬を染めて俯いていたふたりは、やがて顔を見合わせて笑った。

 

微笑むようなレイの笑顔は、いつでもシンジを満たしてくれる。一方のレイも、シンジの優しい笑顔にいつでも包まれている。

 

無論、何事も初めからスムーズに行ったわけではない。

 

言葉が交わされ、

 

笑顔が交わされ、

 

こころを重ねて、

 

身体を重ねる。

 

その内に、シンジの心を覆っていた氷も、レイの中に根づいていた冬も、ゆっくりゆっくりと融けていった。

 

「レイ……」

 

シンジは彼女を呼ぶ時、いつでもはにかんだような笑顔を向ける。

 

「……はい……」

 

そしてレイは、それを見るのが好きだった。

 

「女の子の方の名前は決まったよ。……『愛』。アイっていうんだ」

 

「アイ………」

 

レイは繰り返した。

 

これはずっとシンジが温めていた名前で、これ以外にはちょっと考えつかなかった。

 

ふたりの間に生まれた女の子につける名は、これ以外にないと思った。

 

レイは、その言葉の持つ意味を、しっかりと噛み締めているようだった。

 

「うん、そう。……君は?レイは決まった?」

 

生まれてくるのが双子だと知った時から、ふたりはそれぞれ名前を考えることに決めていた。

 

シンジは女の子に、レイは男の子に……。

 

「……ええ」

 

レイは、ちょっと戸惑い気味に視線を泳がせた。

 

紅い瞳が揺れている。

 

「聞かせて……?」

 

シンジは妻を促すように、優しく彼女の手を握る。

 

「ん………『命』。メイっていうの……どう……?」

 

自分の考えた名を、シンジも気に入ってくれるかどうか不安らしい。

 

夫の手を握る掌に力が篭もる。

 

「メイ……メイか」

 

シンジは、幾度もその名前を反芻した。

 

一般的に言えば、男の子に「メイ」というのは少し珍しいかもしれない。

 

しかし、『命』と書いてメイと読ませるのは、いかにもレイらしい名前だとシンジは思った。

 

彼女にとってその言葉には様々な想いがこめられているのだろう。

 

しかしそれにしても……。

 

シンジの母がユイ。妻がレイ。そして子供が期せずしてアイとメイとは、シンジにはその偶然性がおかしかった。

 

「(いや……もしかすると偶然じゃないのかもな)」

 

 

ふと顔を上げると、レイが心配そうな顔で自分を見上げていた。

 

夫が黙ってしまったので、不安になったらしい。

 

シンジはレイの額に軽く口づけると、最高の笑顔を見せた。

 

「メイ……とってもいい名前だよ。アイとメイ…僕たちの子供だ。大切にしよう……」

 

その言葉に、レイは嬉しそうに何度も何度も頷いた。

 

紅い宝石からこぼれ落ちる雫をシンジはやさしく拭ってやった。

 

 

 

「…ったくもう!いつまで待たせるのよっ!」

 

その時、勢い良く病室のドアが開かれた。

 

同時に、今までの静かな時間は終わりを告げた。

 

足音も高く入ってきたのは、アスカだった。彼女は寝台で寄り添うふたりを見て、あきれたような顔をする。

 

「あ〜あ、こんな時に辛気臭い顔しちゃって!だいたい、いつまで赤ちゃんをほったらかしにしとく気?全く……バカシンジ!」

 

一方的に言い放つと、アスカはたった今「碇アイ」と名づけられた女の赤ん坊を抱き上げた。

 

「ご、ごめんアスカ……」

 

「きゃ〜、柔らかい!それに…とっても温かい。ん〜〜〜、ぷにぷにしてるぅ」

 

しかしアスカはもはやシンジには見向きもせずに、赤ん坊の感触を楽しんでいる。

 

「ほう……これが私の孫か。どれどれ……」

 

続いて入ってきたゲンドウが、残った一人「碇メイ」を抱き上げる。

 

サングラスの向こうの目は、いつになく優しげだ。

 

「ああっ!父さん、僕だってまだ抱いてないのに……」

 

こういう時、子供っぽい嫉妬心が出てしまうシンジのメンタリティは、まだまだ少年のもののようだった。

 

父が相手だと、未だに対抗意識が出てしまうらしい。

 

「私は祖父だぞ、堅いことを言うな。…それよりシンジ、この子の名はなんと言う?」

 

「……メイ」

 

シンジは渋々答える。

 

「ほう、メイか。……これはレイが考えた名だな?」

 

「……そうだよ」

 

「いい名だ、レイ」

 

ゲンドウの賞賛を受けて、レイは一つ頷いた。

 

シンジは益々おもしろくない。

 

「あらあら、賑やかだこと」

 

「いいじゃ〜ん、楽しくって」

 

「ああ……笑顔があるのはいいことだ」

 

「ああ〜ん、アスカ、あたしにも抱かせて!」

 

「次はワシやで!」

 

「シンジ……おめでとう」

 

「ありがとう、ケンスケ」

 

「碇……私にも抱かせてくれんか」

 

「ダメだ」

 

「センパイ!私たちも抱かせてもらいましょう」

 

「俺も俺も!」

 

「あ、僕だって抱きたいですよ」

 

 

 

次々に増える人波に、あっという間に室内は満員状態になった。

 

先を越されて、我が子にまったく触れることのできないシンジはため息をついた。

 

「…………」

 

ふと、そんなシンジの手に触れる感触。

 

「?」

 

振り返ると、レイが布団の隙間から腕を伸ばしていた。

 

彼女は笑っていた。

 

すごく、幸せそうな顔をして………。

 

 

 

喧騒は益々増して行く。

 

やがて、看護婦たちが彼らを怒鳴りつけにくるに違いない。

 

長い夜は終わりを告げたようだった。

 

 

(つづく)


 

みゃあの後書きらしきもの

 

…というわけですが。

なんか……ゲンドウが別人だ(笑)。

しかも、アスカもいるんですねぇ。設定的には一人も欠けていません。

今回、ホームドラマ的なものを狙っているので、こんな風になってます。

なんか……これはエヴァじゃないような(^^ゞ。

…ま、まあこんなのも一つの形、ということでお許し頂けませんかねぇ…。

え?やっぱり駄目?……ぐっすん。

この後どうなるのかは、実は全く考えてませんが(あのな…)、次回はちょっと溯って、ふたりの結婚式の辺りを書いてみたいと思います。

今回、今まで書いたことのないような路線なので、完璧に試行錯誤の段階です。

お見苦しいものを見せてすみませんです、はい。