機動戦艦ナデシコ ■静かな刻■ -a silent moment- Written by MIYA
「あれ、ルリちゃん買い物かい?」
(CG:にょろさま)
帰り道。
振り向くと、あの人がいた。
ひと呼吸の間を置いて、こくり。
軽い首肯。
それがいつもの私の返事。
こつ…。
あ、痛…。
買い物の紙袋から突き出したフランスパンに頭をぶつけた。
「だいじょぶかい」
くすり、と笑うあの人。
……少し、恥ずかしい。
少しだけ熱い頬で、もう一度、こくりと頷く。
今度は、頭をぶつけないように……。
「重そうだね。一人?」
紙袋を見て、あの人の声。
少し、気遣わしげだ。
「はい」
我ながらそっけない。
「全く……、料理できないんだから、買い物くらいすりゃいいんだよ、あいつは」
あきれたような声。
そう、アキトさんとユリカさんは新婚さん。
私はその同居人。
チャルメラも吹く。
「いいんです。暇ですから」
「……暇っつったら、あいつもだけどね」
沈黙。
「そういえば、そうですね」
「………」
「………」
「ぷっ」
吹き出すアキトさん。
「?」
「…いや、なんでもないよ。ルリちゃんも、結構言うな、と思って」
「私……少し、大人ですから」
「あははっ、確かに」
くす。
アキトさんの笑みにつられる。
「ほら、オレ持つよ」
「大丈夫です」
「いいからさ、ほら」
「……ありがとうございます」
腕が軽くなった。
気分も一緒に。
「寒いね、今日は」
「はい」
「今日は、厚着していかないとね」
「はい」
「こんな日は、お客さんも待ってるだろうし」
「そうですね」
会話が途切れる。
少しだけの、静かな刻。
……ふたりだけの。
でも……。
「あ…」
それは長く続かない。
「アーキートー!!」
ほら、ね。
「……やれやれ、騒々しいのが来た」
「はい」
でも……。
騒々しいのも……いいかも、ね。
(おわり)
(98/01/06)