緋色ノ髪、揺レテイル・・・。
ユラユラ・・・。 揺ラ揺ラト・・・。
るろうに剣心■睦ミ愛■
−ムツミアイ−緋村 巴 作・みゃあ
ハァ・・・・・はぁ・・・・・。
何時もより少し荒い息遣いだけが聞こえる・・・。
声もなく、音もなく・・・。
女性(にょしょう)のものと見まごう様な、白く、たおやかな指が、私の肌を滑っている。
ゆるゆると。
ゆるゆると・・・。
ためらいがちに伸ばされた掌が、私の黒髪を擽(くすぐ)る。
薄絹にでも触れるよう・・・。
「・・・あ・・・」
吐息と共に漏れ出る声に、あの人はぎくり、と顔を上げる。
私を労(いたわ)る表情。
揺れる藍色の瞳の中に、迷い子のような表情(かお)の私が映り込んでいる。
表情の無い顔に、ほんのりと朱が差して・・・。
それとも、これは私の紅い瞳の色?
剣を帯びた時とはまるで別人のようなあの人の顔を見つめていると、不意に可笑しさが込み上げた。
人を斬り。
我を斬り。
それでも純粋な、この瞳の色・・・。
少年の瞳の色。
「巴・・・・・・」
睦みが始まってから、初めてあの人の発した言葉。
その時ようやく、私はこの人が年下であったことに思い至る。
「・・・・・・」
何時ものように無言で、その緋色の髪に手を伸ばす私。
幼子をあやす母のように、その頭を抱き締める。
夜着のはだけた乳房に、あの人の唇の感触。
そうすると、私の意志とは無関係に、胎内のあの人を締め付ける。
「・・・・っ・・」
苦しそうな、切なそうな顔。
その瞳の中に、同じ表情(かお)をした私がいる。
あの人は、けして荒々しくはしない。
『睦み』の言葉そのままに、私を優しくかき抱く。
痛みと快楽の狭間で、私はふと、そう思う。
この人は私を見ている。
この人は私を抱いている。
では私は・・・?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
不意に途切れる律動。
二つの視線が絡まって・・・やがて唇が重なる。
舌を絡め、唾液を飲み干す。
まるで時間(とき)そのものを求めるように、この人の体を求める。
それは歓びの瞬間。
それは悦びの瞬間。
秘唇から流れる紅いものが、あの人自身を真紅に染めている。
ひとつの傷と引き換えに、私はこの人の温もりを得る。
染まってしまえば良い。
このまま・・・染まってしまえば良い。
雪代巴から、
緋村巴へと・・・。
「・・・・・ぁう・・・っ・!」
「・・・・・・!!」
やがて放たれる熱い精。
その灼熱のような熱さに、
あの人の穏やかな温もりに、
私は昇りつめる。
幾度も・・・幾度も・・・。
甲高い声を押し殺して。
ハァ・・・はぁ・・・。
はあ・・・ハァ・・・。
さら・・・。
達してなお、あの人の指は私の黒髪を梳くのを止めない。
愛おしむように、
慈しむように、
包み込むように・・・。
何時の間にか、私はあの人の腕の中。
白く、しかし思ったより厚い胸板。
その中に、紅潮した頬を埋めて、
その温もりが同じになるまで・・・・・・。
あの人はまだ私の中にいる。
放たれた精はそのままに。
深いところにその温度を感じる。
この人の子種。
まだ少年の・・・。
子供・・・。
未だ見ぬ、そして終に見ることのないであろう我が子。
その顔を思い浮かべて、私は目を閉じる。
とく・・とく・・とく・・・。
あの人の鼓動。
生の証。
この温もり。
この匂い。
この感触・・・。
私の中に、熱く脈動するあの人。
緋村巴。
今、その名を意識する・・・。
清里さま・・・。
あの方の為に守り通した操。
しかし今は悔いはない・・・。
この人と共に生きて行けるのなら。
しかし、それが長く続かないことは分かっている。
それは確信にも似た既視感。
良く『死に花を咲かせる』と言うけれど・・・。
それは私には似合わない。
最後の最期のその瞬間まで。
緋村剣心の妻として。
流水のように・・・。
ゆらゆらと。
揺ら揺らと・・・。
緋色ノ髪、揺レテイル・・・。
ユラユラ・・・。 揺ラ揺ラト・・・。 コレガ私ノ命ノ灯火。
コレガ私ノ生ノ全テ。
私ノ命運尽キヨウトモ・・・、 コノ色ガ消エヌヨウ・・・
(完)
(99/02/22)