新世紀エヴァンゲリオン

■素直なこころ■

- ノーマルVer. -

作・みゃあ

 


 

 

 

いらいら。

焦燥感。

落ち着かない。

 

近頃、不安でしかたがない。

 

理由は分かってる。

バカシンジのせいだ!

あたしの、大切な大切なものを奪ったくせに。いつもと変わりないバカ顔ぶらさげて!

……そりゃ、あの時は成り行きだったけど。

キスに誘ったのは確かにあたしだけど。

「いいわよ」って言ったのもあたし……。

 

………。

 

でも!

前と全然かわらないじゃないの!

あたしのこと抱いたくせに!あんなに痛い思いさせたくせに!

……あたしのこころを奪ったくせに……。

 

……分かってる。

本当の理由はあたし自身にあるんだっていうこと。

 

あたしは気付いたんだ。

自分の気持ちに。

意地を張って、つっぱって、突き放して、必死で自分を誤魔化してきたこと。

シンジがどれだけ大切かってこと……。

 

あたし、恐いんだ。

シンジにどう思われてるかってこと。

シンジがどう思ってるかってこと。

 

アタシノコトドウオモッテルノ?

 

あの時自分から抱かれたのもきっとそのせい。

体でつながることで、安心感を得たかったんだ。そうすれば、シンジをつなぎ止めておくことができるって……。

 

でも、不安は前より大きくなった。

どうして何も言ってくれないの?

あたしの体はどうだったの?もしかして嫌になった?

あたしのことどう思ってるの?

どうしていつもへらへら笑顔を向けてくるのよ。

どうして優しくするのよ。

あたしのこと………好き?

 

分からない!

分からない分からない分からない分からない分からない!

 

だいたい、なんでこんなことで悩まなくちゃならないの?

あたしはアスカさまよ!何者にも拘泥しない、無敵のアスカさまがなんだってこんなことでうじうじ頭を悩ませなくちゃならないのよ!?

あんなバカシンジのためになんか!

あんな、あんな………。

………シンジ。

シンジ。

 

……あたし、弱くなったよ。シンジと出会ってから。

知りたい。

シンジがあたしのことどう思ってるか知りたい。

教えてよ。

教えてよ……。どうしたらこの胸の痛み止められるの?

シンジ………。

 

 

 

 

憂鬱な朝。

 

 

またいつもと変わらない日常、あたしにとって耐え難い一日が始まる。

……少なくとも、朝のうちはそう思ってた。

 

 

PM0:00。

 

いつものようにシンジがブランチの支度を始める。

今日は日曜。ミサトは今日も帰ってこない。

 

(おはよう、アスカ)

 

台所に立つシンジの後ろ姿を見ていると、朝の会話がフラッシュバックしてくる。

 

 

 

「おはよう、アスカ」

「………」

「……元気ないね、どうかしたの?」

「………」

「ねぇ、アスカ。気分でも悪いんじゃ……」

「…っっるっさいわね!あたしの機嫌が悪かろーと、アンタには関係ないでしょ!」

 

自己嫌悪。

ホントはこんなことが言いたいんじゃない。せっかくシンジが気遣ってくれてるのに……。

でも、いつもと変わらないシンジの様子を見ているとイライラする。

あたしの気持ちに気付いてくれないシンジに対する、

気付いて欲しいのに、あんな言い方しかできない自分に対する、

それは苛立ち。

 

「……ごめん」

「うるさいって言ってるでしょ!さっさとあっち行きなさいよ、バカシンジ!!」

 

なんで謝るのよ!

私がみじめになるだけじゃない!いつもみたいに卑屈になっちゃってさ!

 

でも……この時は気付かなかったけど、シンジはいつものようなおどおどした言い方じゃなかった。

あたしの尖った気持ちを汲んでくれる、気遣わしげな「ごめん」だったような気がする。

 

ごめん、シンジ……。

言葉に出しても、このくらい素直になれるといいのにね……。

 

 

 

……思い出してまた自己嫌悪。

情けないな。ちょっと前まで、こんな風にうじうじ悩むことなんかなかったのに。即断・即決・即実行が、あたしのモットー…というよりライフスタイルそのものだったはずなのに……。

はは……まるでシンジみたい。

……今まで意地悪してきた報いかもね。

 

そう思って料理を続けるシンジの後ろ姿を見つめていたら、不意に胸が苦しくなった。

キュンって。

恋してる切なさとは少し違う。

求めても得られないことが分かってる、そんな切なさ……。

 

いつのまにか体が反応してる。

体の中心が疼く……。

そんな気分じゃないのに。シンジを求めてる。

でも、そんな直接的な欲求だけじゃないの。

シンジに触れてもらいたい。優しく髪を撫でてほしい。柔らかく抱擁してほしい。あたしのこと、見つめてほしい……。

 

 

 

 

少しだけいつもより遅い昼食。

気まずい沈黙のまま……。

ううん。それは私だけ。

シンジは必要以上に話題を振ってくる。

いつもより優しく。

……それとも、いつも優しかったのかな?

うん……あたしが気付かなかっただけかもしれない。そう考えて愕然となる。これじゃシンジに呆れられても仕方ないじゃない。

私の……馬鹿。

 

結局あたしは頑固に口を閉ざしたままだった。一刻も早く食事を済ませたくて。

しかめっ面。

この場から逃げ出したくなる。情けない自分に腹が立つ。

言えばいいじゃない。

 

(あたしのこと、どう思ってるの)

 

たった一言じゃないの。どうして言えないのよ。それじゃあたしのプライドが許さないから?

……プライド?あたしのプライドってなによ。何が許せないのよ?

意地を張ること?(素直になること?)

誰よりも優れていなきゃいけないこと?(誰よりも寂しがりやなこと?)

シンジを罵ること?(シンジに気持ちを伝えること?)

 

「……ごちそうさま」

 

不機嫌そうに言って席を立つ。

 

おいしかったよ。

色々気にかけてくれてありがとう。

心配かけてごめんね。

 

言えること、言わなくちゃいけないこと、一杯あるじゃない!

シンジは黙ってあたしを見るだけ。優しい顔。

 

ダカラ、ナニモキケナイジャナイ。

 

 

 

 

もう我慢できない!

こんな宙ぶらりんの気持ちはもう嫌っ!

あたしの気持ちはもう決まってるもの!

あたしはシンジが好き!

だからシンジの気持ちも確かめてやるんだわ!

だいたい、なんだってシンジごときにこんなに気を遣わなきゃなんないのよ!

 

そんな風に矛盾した理由をつけて、無理矢理自分を奮い立たせる。

 

PM2:00。

 

食事の後、あたしは部屋に篭もっていた。

シンジは部屋にいるはずだ。

 

あたしはシンジの部屋の前に立つ。

大きく深呼吸。

襖に手を掛けて、一気にスライドさせた。

 

「シンジ、入るわよ!」

「あっ……!」

「き………っきゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

目の前には全裸のシンジ。

トランクスをはきかけた姿勢で硬直してる。

 

「ご、ごごごごごごごごごめんっ!!」

 

パニック。

まともにシンジのアレを見ちゃった。まだ大きくなる前の……きゃっ!

慌てて後ろを向く。いきなり決意がくじけそうになる。

 

「ごめんよ、寝汗かいたら気持ち悪くて着替えてたんだ。……アスカ、急に開けるから」

 

あたしとは対照的に冷静なシンジ。素早くスラックスとシャツを身につける。

やっぱりこの時には気がつかなかったけど、シンジの頬が少し紅かった。

 

その冷静さに、あたしはパニックから戻る。

再び、やり場のない激情が湧き起こってきた。

 

「……どうしたの、アスカ。突然……?」

 

務めて穏やかな調子で話し掛けてくるシンジ。

あたしは、わざと険悪な表情をつくって、上目づかいにシンジを睨み付ける。

 

「……あんたに

 あんたに……聞きたいことがあって来た、のよ」

 

絞り出すように、低い声で答えるあたし。

 

「聞きたい……こと?」

 

案の定、ぽかんとしたシンジの顔。

バカシンジ!

相変わらず、まぬけ面してぇっ!

 

「なにかな?」

 

でも、真っ直ぐな瞳で見つめられると、何も言えなくなる。聞けなくなっちゃう。

 

「………」

「……どうしたの。口ごもるなんて、いつものアスカらしくないよ?」

 

その言葉を聞いた時、あたしの中で何かが切れた。

あたしらしくない?

あたしらしさってなによ!

 

「……いつものあたしってなによ…あたしらしくないって、なんであんたにそんなことが言えるのっ!?あんたにあたしの何が分かるっていうのよっ!あたしのことなんて!……分かろうともしないくせに……」

 

あたしは完全に逆上して、濁流のごとく怒りをシンジにぶちまける。

 

「あたしのこと、何だと思ってるのよ!あたしだって……あたしだって、女の子なのよ!」

「……あたしのこと。あたしのこと、どう思ってるのよあんたはっ!ちゃんと言葉に出して言ってみなさいよ!」

 

はあはあはあはあはあはあはあはあ。……言った。言っちゃった。

 

「……ごめん。無神経な言い方だった」

 

シンジは、ゆっくり近付いてくると、あたしの顔に手を伸ばした。

あたしの目の両端を指先で拭う。知らないうちに興奮して、涙が出ていたらしい。

 

「だけど僕、言ってたつもりだけどな。あの時……、二人で昇りつめる瞬間、ずっと叫んでたよ」

 

シンジの黒瑪瑙のような瞳が、あたしの瞳を覗き込む。

あたしはドキっとした。

 

「アスカが好きだよっ、て……」

「え……?」

 

なんて言ったの、今?

シンジはなんて……?

 

「覚えてない?」

「だって……あの時あたし、シンジのことばっかり考えてたから……」

「うん……。僕も同じだよ。アスカのことばっかり考えてた」

「う……そ……」

 

シンジの言葉と自分の想いが、頭の中でぐるぐる回ってる。

同時に、今まで感じてきたシンジに対する不条理な不満が爆発した。

 

「じゃあ……じゃあなんで、あの後いつもとおんなじだったのよ!なんでなにも変わらないふりをしてたの!?」

 

シンジは、気遣わしげにあたしを見やって、幼子をあやすような調子で言った。

 

「きっと……アスカが気まずいんじゃないかと思って。変に意識すると、ぎくしゃくするんじゃないかなって。だから、できるだけいつもの僕でいよう、って思ってたんだ」

 

とくん。

 

「なんで……。なんでそんなに優しいのよ!なんでそんなにあたしに優しくするの!」

 

とくん。

とくん。

鼓動が早くなるのが感じられる。

そう言ってシンジを非難しておきながら、内心はどきどきして、シンジの答えを待っている。

 

「だって……。女の子は壊れやすいものだから、優しく扱ってあげなくちゃいけないって。それに……アスカが大切だから。好きだから」

 

真摯な瞳。

シンジの優しい瞳。

 

「好き?あたしのこと……好き」

「信じられない?」

「だって……あたし、シンジが……うそ……」

 

その瞬間。急に、温かくて優しい感触に包まれた。

あたし、シンジに抱きしめられてた。優しい、優しい抱擁。

 

「あ……」

 

シンジは何も言わなかった。あたしはただ緊張して抱きすくめられる。

これから起こることを想像して、体を硬くしてる。

でもシンジはあたしを優しく抱擁したまま、動かなかった。

 

なに……?

なにしてるの?このまま何もしない気……?

 

そう思って身じろぎする。

だけど。シンジの抱擁は優しかったけど、力強かった。

抱きすくめられたまま動けない。

 

訳が分からなくて、しばらく抵抗してたけど、とうとうあきらめた。

力が抜けて、再びシンジに体を預ける。

 

………。

………。

 

チッ、チッ、チ……。

時を刻む時計の音だけが流れていく。

 

あれ……?

なんだろう、これ。……とても落ち着く。

なんにもしてないのに、シンジが今までで一番身近に感じられて……。

あったかい。

心が静まっていく……。

 

あたしはシンジの胸に頬をすりつけた。

シンジの心音が聞こえる……。とくん、とくんって。

 

その瞬間。確かに聞こえたの。流れ込んでくる。伝わってくる。

溢れるくらいのシンジの想いが。

 

(好きだよアスカ。アスカ……。僕のアスカ。可愛い僕だけのアスカ。……こんなにも愛おしい。好き……。好き。もっとそばに来て、アスカ。大好きなアスカ……)

 

抱き合うだけで、言葉の何百倍も伝えられることがある。

 

今のあたしとシンジの間に、言葉なんていらなかったんだ。

とたんに涙が溢れる。胸が熱い……熱いよぉ。

うれしい……!嬉しい!

こんなにも愛されてる。こんなにも想われてる。こんなにも大切にされてる!

 

「好きよ!好きよ、シンジ。あたしも好き!好きなのっ……シンジ、シンジ!」

 

言えなかった言葉が、次々に口をついて出た。いつも言えなかった言葉。言えないと思い込んでた言葉……。

あたしは泣きじゃくりながら、シンジの胸元にむしゃぶりつく。

 

あたしが泣いてる間、シンジは優しく頭を撫でてくれた。

あたしは堰を切ったように、わんわん泣いた。

子供のように。

 

あたしが少し落ち着いた頃、ぽん、と肩が叩かれた。

まだ涙に濡れたままの目を上げると、そこには眩しいほどのシンジの笑顔があった。

 

(もう何も心配しなくていいんだよ……)

 

シンジはそう言ってるようだった。

 

シンジの笑顔……シンジの笑顔、シンジの笑顔!

 

その瞬間、あたし、何も恐いものがなくなった。

シンジが好き。シンジが好き。シンジが好き!

とめどもなく溢れてくる想いに、あたしは身を任せた。シンジの腕の中に。

 

 

* 

 

 

 

リーーーンゴーー………ン。

 

リーーーンゴーー………ン。

 

 

澄んだ音。

チャペルの鐘が鳴ってる……。

高い空……涼しげな風。

 

「奇麗よ……アスカ」

「うん……ありがと」

 

純白のウェディングドレスに身を包んで、鏡の前に座るあたしの肩に両手を置き、微笑むミサト。

 

「どう?……緊張してる?」

「ん……少し」

 

微かに笑って鏡ごしに答えるあたしを、ミサトはまるで母親のような顔で見つめる。まだヴェールをつけていないあたしの髪を優しく撫でる。

それはきっと……素直なあたしの答えのため。

 

「早いもんねえ……この間まで、子供だと思ってたのに……」

「……ミサト、なんだかおばさんくさい……」

「う、うるさいわね。人がせっかく感慨に浸ってるってのに……」

 

ふふっ……。

ふふふ……。

 

どちらからともなく笑顔がこぼれる。

こんな、あったかい会話が心にしみた……。

 

「……離しちゃダメよ」

「……うん……」

 

「おーい。花婿さんの方、用意できたぞぉー」

 

ノックの音もなしに背後の扉が開いて、加持さんが入ってくる。

 

「ちょっと!あんたねえ……ここは女性の控え室なんだから、ノックくらいしてから入ってきなさいよ!」

「おお、スマンスマン」

「ほら!ネクタイ……」

 

この二人が、あたしたちの仲人役。

ミサトが加持さんのネクタイを締め直す。変わらない光景。

あったかい……。

 

「おっ!アスカ、奇麗だな」

「ありがとう……加持さん、シンジは?」

「ああ、控え室の方にいるぞ」

「……ちょっと、呼んでほしいの」

「?」

「ああ、分かった。シンジくんもその姿見たらびっくりするぞ、きっと」

 

いそいそと出て行く加持さん。

それを見送ったミサトは、ちょっと不思議そうな顔であたしを見た。

 

「どしたの……?」

 

あたしの表情に、ちょっとだけ翳りがあるのに気付いたのかもしれない。

あたしは少し笑って、答える。

 

「ううん。……ちょっと会いたいだけ」

「おーおー。いっちょ前にノロけちゃって……」

 

コンコン。

 

ノックの音。

 

「お……花婿さんのご登場ね。それじゃあお邪魔虫は退散するとしますか……アスカ、ここでのエッチは我慢するのよ?」

「ばか……」

 

シンジがドアを開けて姿を見せた。

純白のタキシード。……いつもより、少し大人びてるかな?

ミサトと一言二言、言葉を交わして、入れ替わりに入ってくる。

 

「アスカ……」

 

扉の閉まる音を確認してから、シンジは口を開いた。

 

「その……ありきたりの言葉で悪いんだけど……奇麗だ、とっても」

「うん……うれしい」

 

見つめ合う。

少しの沈黙。

 

「?……どうしたの、アスカ?」

「………」

 

あたしは黙って、シンジのずっと変わらない黒い瞳を見つめた。

 

二人がお互いを確かめ合ったあの日から……もう4年が経った。

優しいシンジの顔。

穏やかに流れる日常。

みんなの笑顔。

そして……今日。結婚式。

 

何一つ不安などないはずの生活。

そう、シンジがいてくれればあたしには何の心配もいらない。

……でも、あたしにはたった一つだけ気になることがあった。

 

単純なこと。

他人が聞けば、くだらないと笑うかもしれない。

だけどあたしには大切なこと。

 

「シンジ…………愛してるって、言って」

「え……?」

「あたしのこと……あたしのこと、愛してるって言って!」

 

それが4年間、あたしの抱え続けてきた不安。

シンジはあたしのこと「好きだよ」って言ってくれる。何度も何度も……。

だけど、「愛してる」とは言ってくれなかった。

 

「お願い、言って!シンジ、あたしのこと愛してる?あたし……あたし……」

 

くだらない、って言われるかもしれない。

だけどそれがあたしのこだわり。

今まで愛されたことのない、私の……。

 

「……あたしにはシンジだけなの!シンジだけがいてくれたらいいの!シンジがいなくちゃだめなの!」

 

その想いが募るほど、あたしの心は不安を増した。

裏切られるのは恐くない。

捨てられるのが恐いだけ……。

いつ、どんな時にも。ただひとつでも、あたしの心をつなぎ止めておいてくれる言葉が欲しかった。

あたしが必要だっていう証が……。

 

「だからお願い!愛してるって言って!」

 

あたし……取り乱してた。

せっかくのお化粧も、涙でくずれて。せっかくセットした髪も振り乱したせいでめちゃくちゃ。

必死だった。だってシンジはあたしにとっての全てだったから。

あたしは馬鹿みたいに、何度も何度も同じ言葉を繰り返した。

 

シンジはそんなあたしを静かに見つめて、あたしが落ち着くのを待った。

やがてシンジは、いつもと変わらぬ穏やかな声で話し始めた。

 

「アスカ……」

「……僕はアスカが『好き』だよ」

「!?」

 

青ざめるあたしに、シンジは続ける。

 

「……って、何度も言ってきたよね」

「好きがlikeで、愛がlove。……そんな境界線は僕にはないんだ」

「……その言葉を言わなかったのは。乱用するのが嫌だっただけなんだ」

「TVドラマや映画みたいに、その言葉一つで終わらせたくなかった。……僕のアスカに対する想いは、言葉ひとつじゃ伝えられないものだから」

 

「……シンジ……」

 

「だから、その言葉を言うのは、生涯に一度だけでいいと思ったんだ。そう……今、この時に一度だけ」

 

「アスカ……」

「………」

「愛してる」

「…………シンジ…………」

 

あたし馬鹿だ!

シンジの心も知らずに、言葉に救いを求めてたなんて!

でも……でも、今は……。

 

「シンジ!」

 

あたしはもう、自分の気持ちを抑えようとは思わなかった。

ウェデイングドレスが宙を舞う。

あたしは短い距離を駆けて。

シンジの腕の中に。

 

「シンジ!愛してる!あたしも……あたしも愛してる!」

「アスカ……」

 

シンジのあたたかさが心に染みる。

もう何も言わなくていい。

あたしの心が融けてゆく……。

今はただ、シンジの腕の中で。

今はもう、あなただけ……。

 

愛してる……。

 

今までも。そしてこれからも……ずっと。

 

離さないで。

あたしの大事なだんなさま……。

 

 

リーーーンゴーー………ン。

 

リーーーンゴーー………ン。

 

 

チャペルの鐘の音が聞こえる……。

あたし……シンジのお嫁さんになります。

 

 

 

 

 

素直になろうよ。

 

素直になるのは、ちっともつらいことじゃない。

 

それは、自分が人を信じられるっていう証。

 

自分のことが、好きになれるきっかけ。

 

だからもう、強がるのはよそう。意地を張るのはやめようよ。

 

いつだって、素直なこころであの人に……。

 

 

(Fin)


(update 99/09/04)