闘神都市

■まどろみ■

 

Written by みゃあ


 

・・・・・!

・・・・・!

 

 

・・・どこかで、自分を呼ぶ声がする。

早朝の清涼な空気を思わせる・・・小鳥のさえずりのような可愛らしい声。

 

「・・・・・ムさん」

「・・カスタムさん」

 

カスタム。それが俺の名前。

浮き上がるような感覚と共に目を覚ます。

わずかに薄目を開くと、ぼんやりとした視界の中にピンク色の滝が映り込んだ。

 

「カスタムさん・・・朝ですよ」

 

さらさらと音をたてそうに光り輝く滝は、彼女の髪だった。

俺の顔の側にかかるそこからは、花の芳香が漂ってくる。ほのかな石鹸の香りも。

 

「朝ご飯ができましたよ、カスタムさん・・・」

 

優しく呼びかけつづける澄んだ声。

その声をもう少し聞いていたくて、俺は寝た振りを続ける。

 

「カスタムさん・・・」

 

彼女の声が苛立ったりすることは決してない。

ただ、俺が起きるまで優しく呼びかけ続けるだけだ。

何か意地悪をしているような罪悪感に襲われて、目を開こうとすると・・・。

 

「起きてください・・・」

 

フワ・・・。

 

彼女の吐息が近くなった。

そして頬に柔らかな感触。

 

あ・・・・・。

 

「ん・・・」

 

頬が熱くなる。

思わず目を開くと、そこには幸せそうに目を閉じる、クミコの顔があった。

俺の変化を感じ取ったのか、彼女は俺の頬に口付けたまま薄目を開ける。

 

「・・・・・・」

 

視線が合うと、クミコは恥ずかしそうに頬を染めながら顔を離した。

 

「や、やだ・・・起きてたんですか」

 

彼女は両頬を押さえて、もじもじと俯いてしまう。

クミコの顔を見ていると、なんだか悪いことをしてしまったような気にさせられて、俺は「ごめん」と謝っていた。

 

「い、いえ・・・いいんです。おはようございます、カスタムさん」

 

そう言うと、クミコははにかんだような笑みをみせた。

朝日の中で微笑む彼女。

闘神大会以来、ずっと側にいる彼女。

いつまでたっても、この胸を締め付けるような愛おしさは消えそうにない。

 

気がつくと、俺は彼女を腕の中に抱き締めていた。

 

「きゃっ・・・カ、カスタムさん」

 

驚きつつも、彼女は腕の中で暴れたりしない。

親鳥に抱かれた雛のように、俺に体を預けている。

 

「あ、あの・・・そんな・・朝、から・・・」

 

クミコは普段からピンク色の頬をさらに染めて、俺の顔を見上げる。

 

「?クミコ・・・しばらくこうしていたいんだが・・・いいかい?」

 

「!・・・はっ、はい・・・」

 

何か勘違いをしていたことが恥ずかしいらしく、かぁ〜、と耳まで赤くなった彼女は、表情を隠すように俺の胸に顔を埋めた。

きゅっ、と俺の腕にしがみつく姿が可愛い・・・。

 

「クミコ・・・」

 

「はい」

 

「・・・・・・いや、なんでもない」

 

「?」

 

俺は、腕の中の慎ましやかな少女の温もりを感じながら、この温もりを必ず護ってみせる、という誓いを改めて確認していた。

 

寝間着の俺と、エプロン姿のクミコ。

時間を忘れての抱擁は、30分後お腹を空かせた魔法使いの少女ナオが、俺達を呼びに来るまで続いた。

 

まどろみの時間が終わり、また一日が始まる。

 

 

(おしまい)