EASY LOVE!

第三話「恋のレッスンABC」

書いた人/みゃあ

 

 

「ちくしょぅ……」

 

結局、2,100円(消費税込み)で濡れ場の写真を買わされた一人は、学校につくまで、ぶつくさと文句を言っていた。

彼を脅迫した張本人の「まみまみ」こと間宮真実は、

 

「脅迫じゃないさ、取り引きよ」

 

と、自慢のポニーテールを揺らして、涼しい顔だ。

彼女はこの手のゴシップに目がなく、同様の手段で、かなりの額を稼いでいるらしい。

一部では「ハイエナ真実」と有名である。

 

「おっかねー女…」

「はん?なんだって?」

 

翔の呟きを聞きとがめた真実がジト目で睨み付ける。

 

「いえ…別に」

 

翔は、空との秘め事(笑)という弱みを握られているので、真っ向から文句も言えない。

真実を怒らせた日には…

 

 

『衝撃!朝から幼なじみの女生徒に性的虐待を加える鬼畜男!!』

 

 

などという見出し付きで、翌朝号外を出されるのがオチである。

この傍若無人とも言える彼女、何故か空にだけは甘い。

レズではないか…?

という疑問を翔は抱いているのだが、恐くて聞けない。

しかし、とりあえず今のところ、空の貞操は無事なようである。(翔「ホッ…」)

 

そんなことは全く頭にない空は、今日も右手を翔、左手を真実と繋いで「るんるんるん♪」と、ご機嫌で歩いているのであった。(ちなみに、カバンは翔が持ってやっているので手ぶらである)

 

 

 

「じゃね、空」

 

校門をくぐった所で、部室棟に寄る真実は、一行と別れる。

空は少し悲しそうに、ぶんぶかぶんと、左手を振り回す。

 

「まったねー、まみまみ!!」

 

「ふぅ…やっと行ったか…」

 

一方の一人と翔は、揃って安堵のため息をつく。

一人など、背伸びをしたり肩を鳴らしたりと、露骨に開放感を表わしている。

 

「まったく…あいつといると落ち着かないよ。次は何を脅されるか気が気じゃない」

「同感、同感」

 

そう答えた翔だが、空が一途な眼差しで、

 

んじっ・・・

 

とこちらを見つめているのに気づいて、うぐっと言葉に詰まる。

 

「…ショウちゃん、カズちゃん。まみまみのコト嫌い?」

 

空の質問に、翔と一人は思わず顔を見合わせる。

空はたいへん友達思いで、学校の全員を友達と見なしている。だから好きとか嫌いとかの感情に対して非常に敏感なのだ。

 

「ねえねえ…まみまみのコト、好き?」

 

すでにうるうるしている目で、んじーーーーっと見つめられ、二人はたじたじになる。

 

「き、嫌いじゃないよ、クウ。…ただ、たまには仲が悪くなる時もあるさ。ほら、昔から言うだろ。『ケンカするほど仲がいい』って!」

 

なんかビミョーに違う気がするが、それを聞いた空はきらきらっと目を輝かせる。

 

「そうだよねっ!よかったあ…」

 

にぱぱっ、といつものにこにこ顔に戻った空を見て、翔はほっと胸をなで下ろす。

まったく、泣く子と空には勝てないのである。 

なんとなく毒気を抜かれた感じで、一人も二人に続いて昇降口に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ、カケル!Good Morning !」

 

上履きに履き替えていると、やたらとハイテンションな声が翔を振り向かせた。

と同時に、金髪のダイナマイトボディが飛びついてくる。

 

ぼすっ(ぼんよよよん)!

 

「ふが、ふが…」

 

弾けるような胸の谷間に顔を埋めるという、まったく羨ましい状況に置かれた翔は、しかし苦しそうだった。

2つのビッグな丘に完全にふさがれて、息ができないらしい。

 

「Hi ! How are you ?」

 

たっぷり30秒は胸を押しつけて、ようやく少女は体を離した。

輝く太陽を思わせる笑みが弾ける。

その笑顔に、まるで日射病にかかったような表情で、翔は目の前の少女を見た。

 

「キャハハハハ〜、ぐっもーにんっ!!」

「やめんか」

 

早速、真似をする空をひっぺがして、翔はようやく挨拶を返す。

 

「オハヨ、アリア。朝から元気だな」

 

彼女は白石アリア。日系三世の英国人ハーフである。

まぁ、制服を押し上げている胸のサイズが、それを如実に物語っているが。

身長は翔とほぼ同じくらい。ボブカットにした金髪と、人懐っこいブルーアイが眩しい。

以前、名前の由来を聞いたところ、

 

「My Parentsハ、大のOpera好きネ!特にMomは、アリアが大好きなのヨ」

 

ということであった。

どうも彼の周囲には、個性的な名前の人物が集まるようである。 

 

「元気、元気!」

 

アリアは屈託なく笑うと、右手でえいっと力こぶを作ってみせる。

そして、これまた唐突に情熱的なキスを浴びせてきた。…頬にだが。

 

「な、なんだよいきなり!」

「Yes ! skinshipネ☆」

 

にこにこにこと、猫のように目を細めて笑う。

それを見た空が、不満そうに自分の頬を突き出す。

 

「あーん、空にも、空にも…」

「OK !」

 

チュッ。

 

軽い感じのキス。

空はくすぐったそうに、きゃははと笑って首をすくめた。

 

「空もする〜」

 

チュッ、チュッ、チュッ!

 

「アハハハ!ソラ、くすぐったいヨ」

 

空は、真っ白なアリアの顔にキスの雨を降らせる。

 

「どうせなら、カケルとするのがいいヨ!」

「な、なんでだよ…」

 

にこっ、と笑ってアリアはくるりと空の体の向きを変えさせる。

至近距離で向かい合うことになった翔は、思わず動揺してしまう。

 

「Why ? カケルとソラはSteadyデショ?」

「い、いや。だからってなぁ…」

 

実際、翔と空の仲は、学校でも公認だったりする。

まぁ、にも関わらず翔にモーションをかけてくる女子もいるが…。

 

「ねえ…ショウちゃん。キスして…」

 

二人のやり取りの間に、空はすっかり出来上がっていた。

目がトロンとして、すでに完全に気持ちが盛り上がっているようだ。

とにかく空は、全ての感情において直情傾向にある。

 

「う……」

 

翔はこの目に弱い。

人から頼まれ事をするのが大っ嫌いな翔だが、空の頼みだけは断れないのは、そのせいかもしれない。

 

「ホラ、ソラは準備OKヨ!」

 

無責任にのたもうアリアに押され、翔はしぶしぶ、空の頬に唇を寄せる。

 

「(…ったく、何だって学校の廊下でこんなこと)」

 

言っておくが、今は登校ラッシュの時間帯である。

したがって、この下駄箱付近はかなりの人出で、完全に目立ちまくっていた。

ちなみに、状況に置いてけぼりにされた一人は、すっかりギャラリーと化してたりする。

 

「ん…」

「んんっ!?」

 

頬にするつもりが、直前で空が頭を動かしたため、唇に行ってしまった。

すぐに離れようとするのに、空はしっかりと翔の頭を抱いて離さない。

そうこうするうちに、舌まで入れてくる。

 

「むぐぐっ、むー、むーっ!!むぅぉ(彼はクウ、と言いたいらしい)……」 

「…はぁっ…」

 

ギャラリーから罵声が飛びまくるくらいの時間が経って、ようやく空は唇を離した。

頬が完璧に紅潮している。

 

「クウ、お前っ…」

「ショウちゃん…気持ち良かった?」

 

頬を染めて、上目遣いに翔を見上げる空。

 

「あ、う…(う…めちゃめちゃ可愛い)」

 

怒鳴り散らすつもりが、完全に出鼻をくじかれる。

 

「あ、ああ…気持ち良かった」

「嬉しい…あのね、空も…気持ち良かったの」

 

もじもじもじ、と空は内股を擦りあわせる。

その姿に、翔は不吉な予感を覚えた。

 

「おい、お前・・・」

「それでね…あの…空、感じちゃって…」

 

解説しよう。

空は正真正銘バージンである。

が、とてつもなく感度が良いため、大好きな翔とは一緒にいるだけで、たびたび感じてしまうのだ。

キスなどされたら、もう大変である。時には、思わず失禁してしまう時もあるのだっ(どどーん)。

 

「(さーっ…←翔の血の気が引く音)」

 

空がぷるぷる震え出したのを見て、翔は慌てて彼女の腕を取った。

 

「こ、こいっ、クウ!!」

「あん…」

 

そのまま、うんざりとしたギャラリーたちを蹴散らして全力疾走でトイレに向かう。

 

「ホントに仲がいいのネ…ふたりとも」

 

ちょっと羨ましそうにアリアは二人を見送った。

同時に、ギャラリーが散り始めた。

 

 

 

 

(つづく)

  

 


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(updete 2001/05/04)