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「ちくしょぅ……」
結局、2,100円(消費税込み)で濡れ場の写真を買わされた一人は、学校につくまで、ぶつくさと文句を言っていた。
彼を脅迫した張本人の「まみまみ」こと間宮真実は、
「脅迫じゃないさ、取り引きよ」
と、自慢のポニーテールを揺らして、涼しい顔だ。
彼女はこの手のゴシップに目がなく、同様の手段で、かなりの額を稼いでいるらしい。
一部では「ハイエナ真実」と有名である。
「おっかねー女…」
「はん?なんだって?」
翔の呟きを聞きとがめた真実がジト目で睨み付ける。
「いえ…別に」
翔は、空との秘め事(笑)という弱みを握られているので、真っ向から文句も言えない。
真実を怒らせた日には…
『衝撃!朝から幼なじみの女生徒に性的虐待を加える鬼畜男!!』
などという見出し付きで、翌朝号外を出されるのがオチである。
この傍若無人とも言える彼女、何故か空にだけは甘い。
レズではないか…?
という疑問を翔は抱いているのだが、恐くて聞けない。
しかし、とりあえず今のところ、空の貞操は無事なようである。(翔「ホッ…」)
そんなことは全く頭にない空は、今日も右手を翔、左手を真実と繋いで「るんるんるん♪」と、ご機嫌で歩いているのであった。(ちなみに、カバンは翔が持ってやっているので手ぶらである)
「じゃね、空」
校門をくぐった所で、部室棟に寄る真実は、一行と別れる。
空は少し悲しそうに、ぶんぶかぶんと、左手を振り回す。
「まったねー、まみまみ!!」
「ふぅ…やっと行ったか…」
一方の一人と翔は、揃って安堵のため息をつく。
一人など、背伸びをしたり肩を鳴らしたりと、露骨に開放感を表わしている。
「まったく…あいつといると落ち着かないよ。次は何を脅されるか気が気じゃない」
「同感、同感」
そう答えた翔だが、空が一途な眼差しで、
んじっ・・・
とこちらを見つめているのに気づいて、うぐっと言葉に詰まる。
「…ショウちゃん、カズちゃん。まみまみのコト嫌い?」
空の質問に、翔と一人は思わず顔を見合わせる。
空はたいへん友達思いで、学校の全員を友達と見なしている。だから好きとか嫌いとかの感情に対して非常に敏感なのだ。
「ねえねえ…まみまみのコト、好き?」
すでにうるうるしている目で、んじーーーーっと見つめられ、二人はたじたじになる。
「き、嫌いじゃないよ、クウ。…ただ、たまには仲が悪くなる時もあるさ。ほら、昔から言うだろ。『ケンカするほど仲がいい』って!」
なんかビミョーに違う気がするが、それを聞いた空はきらきらっと目を輝かせる。
「そうだよねっ!よかったあ…」
にぱぱっ、といつものにこにこ顔に戻った空を見て、翔はほっと胸をなで下ろす。
まったく、泣く子と空には勝てないのである。
なんとなく毒気を抜かれた感じで、一人も二人に続いて昇降口に入った。
「ハイ、カケル!Good Morning !」
上履きに履き替えていると、やたらとハイテンションな声が翔を振り向かせた。
と同時に、金髪のダイナマイトボディが飛びついてくる。
ぼすっ(ぼんよよよん)!
「ふが、ふが…」
弾けるような胸の谷間に顔を埋めるという、まったく羨ましい状況に置かれた翔は、しかし苦しそうだった。
2つのビッグな丘に完全にふさがれて、息ができないらしい。
「Hi ! How are you ?」
たっぷり30秒は胸を押しつけて、ようやく少女は体を離した。
輝く太陽を思わせる笑みが弾ける。
その笑顔に、まるで日射病にかかったような表情で、翔は目の前の少女を見た。
「キャハハハハ〜、ぐっもーにんっ!!」
「やめんか」
早速、真似をする空をひっぺがして、翔はようやく挨拶を返す。
「オハヨ、アリア。朝から元気だな」
彼女は白石アリア。日系三世の英国人ハーフである。
まぁ、制服を押し上げている胸のサイズが、それを如実に物語っているが。
身長は翔とほぼ同じくらい。ボブカットにした金髪と、人懐っこいブルーアイが眩しい。
以前、名前の由来を聞いたところ、
「My Parentsハ、大のOpera好きネ!特にMomは、アリアが大好きなのヨ」
ということであった。
どうも彼の周囲には、個性的な名前の人物が集まるようである。
「元気、元気!」
アリアは屈託なく笑うと、右手でえいっと力こぶを作ってみせる。
そして、これまた唐突に情熱的なキスを浴びせてきた。…頬にだが。
「な、なんだよいきなり!」
「Yes ! skinshipネ☆」
にこにこにこと、猫のように目を細めて笑う。
それを見た空が、不満そうに自分の頬を突き出す。
「あーん、空にも、空にも…」
「OK !」
チュッ。
軽い感じのキス。
空はくすぐったそうに、きゃははと笑って首をすくめた。
「空もする〜」
チュッ、チュッ、チュッ!
「アハハハ!ソラ、くすぐったいヨ」
空は、真っ白なアリアの顔にキスの雨を降らせる。
「どうせなら、カケルとするのがいいヨ!」
「な、なんでだよ…」
にこっ、と笑ってアリアはくるりと空の体の向きを変えさせる。
至近距離で向かい合うことになった翔は、思わず動揺してしまう。
「Why ? カケルとソラはSteadyデショ?」
「い、いや。だからってなぁ…」
実際、翔と空の仲は、学校でも公認だったりする。
まぁ、にも関わらず翔にモーションをかけてくる女子もいるが…。
「ねえ…ショウちゃん。キスして…」
二人のやり取りの間に、空はすっかり出来上がっていた。
目がトロンとして、すでに完全に気持ちが盛り上がっているようだ。
とにかく空は、全ての感情において直情傾向にある。
「う……」
翔はこの目に弱い。
人から頼まれ事をするのが大っ嫌いな翔だが、空の頼みだけは断れないのは、そのせいかもしれない。
「ホラ、ソラは準備OKヨ!」
無責任にのたもうアリアに押され、翔はしぶしぶ、空の頬に唇を寄せる。
「(…ったく、何だって学校の廊下でこんなこと)」
言っておくが、今は登校ラッシュの時間帯である。
したがって、この下駄箱付近はかなりの人出で、完全に目立ちまくっていた。
ちなみに、状況に置いてけぼりにされた一人は、すっかりギャラリーと化してたりする。
「ん…」
「んんっ!?」
頬にするつもりが、直前で空が頭を動かしたため、唇に行ってしまった。
すぐに離れようとするのに、空はしっかりと翔の頭を抱いて離さない。
そうこうするうちに、舌まで入れてくる。
「むぐぐっ、むー、むーっ!!むぅぉ(彼はクウ、と言いたいらしい)……」
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「…はぁっ…」
ギャラリーから罵声が飛びまくるくらいの時間が経って、ようやく空は唇を離した。
頬が完璧に紅潮している。
「クウ、お前っ…」
「ショウちゃん…気持ち良かった?」
頬を染めて、上目遣いに翔を見上げる空。
「あ、う…(う…めちゃめちゃ可愛い)」
怒鳴り散らすつもりが、完全に出鼻をくじかれる。
「あ、ああ…気持ち良かった」
「嬉しい…あのね、空も…気持ち良かったの」
もじもじもじ、と空は内股を擦りあわせる。
その姿に、翔は不吉な予感を覚えた。
「おい、お前・・・」
「それでね…あの…空、感じちゃって…」
解説しよう。
空は正真正銘バージンである。
が、とてつもなく感度が良いため、大好きな翔とは一緒にいるだけで、たびたび感じてしまうのだ。
キスなどされたら、もう大変である。時には、思わず失禁してしまう時もあるのだっ(どどーん)。
「(さーっ…←翔の血の気が引く音)」
空がぷるぷる震え出したのを見て、翔は慌てて彼女の腕を取った。
「こ、こいっ、クウ!!」
「あん…」
そのまま、うんざりとしたギャラリーたちを蹴散らして全力疾走でトイレに向かう。
「ホントに仲がいいのネ…ふたりとも」
ちょっと羨ましそうにアリアは二人を見送った。
同時に、ギャラリーが散り始めた。
(つづく)
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(updete 2001/05/04)