るろうに剣心

- 新章 -

作・みゃあ

 

第五幕


第五幕

 

▼ ▲

 

 

 

剣心が入ってきた。

 

薫は「あ」、と声を漏らして、瞬間、肩をすぼませた。

 

剣心を感じた。

先程は、痛みと衝撃に気付く間もなかったが、今度は、彼の体温と存在をはっきりと膣内で感じる。

力強く、熱い…。

彼を受け入れているのだという想いが、薫の心を震わせる。

それは、一層の疼きとなって、胎内を締め付けた。

 

「……!」

 

その収縮に反応したように、剣心の細身の身体がぴくりと慄えた。

そして、堪えきれなくなったのか、僅かに前進する。

 

「ん…っ」

 

破瓜の傷はまた新しく、沁みるような痛覚が薫の尻を一歩、退かせる。

無意識の裡に、内股が後込みして、剣心の腰を押し返していた。

 

「薫殿……」

「……っん、ごめん。…平気」

「………」

 

短いやり取りで、二人は互いの想いを伝えた。

それでもなお、剣心はすぐには腰を進める気になれず、薫の頬に手をやる。

火照った肌の質感に、涙の通り道だけが、ひんやりとした感触を残した。

 

ふと、薫の髪に目をやる。

敷布の上に、夜目にも艶やかな黒髪が、華のように広がって、複雑な紋様を描き出している。

 

「………」

「……剣心?」

 

あまりにもじっと見詰められて、薫は眉を寄せた。

 

「……解くと、ヘン…?」

 

漆黒の瞳の中に、愛しい人の姿を映したまま、剣心はゆっくりと頭(かぶり)を振った。

薫の愛らしさは少しも変わることなく、可憐さと同時に、年相応の色気を匂わせている。

 

剣心は、無言で放射状に広がった薫の黒髪を撫でた。

なめらかな感触が、掌に心地よい。

肌と違ってひんやりとした感触を愉しむように、敷布の上で黒髪を幾度も撫で付ける。

神経など通っているはずもないのに、薫は慄えるような快感に身を捩った。

 

どうも、意識している以上に、自分は薫が愛おしくて仕方ないらしい。

改めて、そのことに気付いた。

気を抜くと、細腰を抱く腕に、必要以上に力が入ってしまいそうになる。

側にきてほしいのだ。

 

身内に湧き起こる衝動に耐えきれずに、剣心はぐっと腰を沈めた。

薫の襞(ひだ)を割り入る。

粘液が己の分身に絡みつき、えもいわれぬ快楽が、脳髄を痺れさせた。

 

薫は声もなくのけぞった。 

 

一つになりたいとの欲求は、独占したいという欲望の現れだ。

無意識に発した、その強烈なまでの剣心の意志を直(じか)に子宮に受け、薫は啼(な)いた。

歓びに、啼いた。

 

受け入れたい。

 

痛切に、そう思った。 

心が、躰が、剣心を求めている。

どうしようもない。

なぜ、こんなにも愛おしいのか。

 

寂寥にも似た情が、いくら注いでも満たされぬ杯のように、求愛する薫の胸を締め付ける。

知らぬ間に、涙が零れた。

 

どうしたら、もっとこの人の側にいけるのか。

いっそ、本当にひとつになってしまえたら…。

そうすれば、引き裂かれる喪失感を想像せずにすむようになるのだろうか。

その間隙を埋めて欲しい。

剣心で、埋めて欲しい。

 

薫にできるのは、良人にしがみついて、膣で彼の昂ぶりを必死に締め付けるだけだった。

 

薫の胎(なか)は、あたたかく濡れて、剣心を迎えた。

躰の中心に、薫が絡みつく。 

絡みつき、扱(しご)く。

扱いては、嘗(な)める。

 

「…ぅ…」

 

思わず呻いた。

 

自分の中に、これほどの情念の炎(ひ)が残っているとは意外だった。

情動など、忘れ去ってしまったものと思っていた。

 

ただ、今は薫の胎内に埋めたい。

 

すべてが薫を求めている…。

 

 

 

ふと、薫は我に返った。

 

自分の女の部分に、剣心の荒々しい昂ぶりを感じる。

下から、上から、衝き上げられる揺らぎに身を任せながら、良人の顔を仰ぎ見る。

 

愛しさが、こみ上げた。 

 

剣心が、少年のような顔で、懸命に腰を送り込んでいる。

無心に快楽を貪る姿が、むしろ、薫の顔を綻ばせた。

求められている。

嬉しい…。

自分の躰で、剣心を悦ばせることができるのだ。

彼の顔が、抑えきれない悦楽に歪むたび、薫は満たされるのを感じる。

 

 

はっ…はっ…はっ…はっ…

 

…ぅ…んっ…は…ぁぁ…んん…

 

 

男と女の息遣いが、寝間を満たした。

湿った音が耳道に溢れて、頭を痺れさせる。

 

剣心が腰を衝き入れるたびに、薫の中心から溢れ出した蜜が、細い小径を伝い、狭い後ろの窄まりを擽(くすぐ)る。

その感触に、薫は身悶えた。

恥ずかしい程に、濡れている。

剣心が、子宮のとば口に辿り着くたびに、奥から溢れ出し、敷布まで濡らしてしまう。

薫は、紅潮した頬をさらに羞恥に染めながらも、必死で剣心に応え、さらなる注挿を求めた。

 

「剣心…けんしん…」

「……薫殿…?」

 

呼ばれて、はたと我に返る。

それほどまでに、薫の身体にのめり込んでいたのかと思うと、なんとも気恥ずかしい気がした。

年甲斐もないな、と思い、目を糸のようにして「おろろ」という顔をする。

それが、彼の恥じらい方だった。

 

「剣心…どこへもいっちゃ、ヤダ……ヤダ…ヤダよ…ぅ」

 

強く抱き竦(すく)められていたため、腕を伸ばすことができない薫は、涙目をさらに潤ませて、首を伸ばして剣心に擦り寄った。

悲しくもないのに、何故、胸が痛いのだろう。

抱き締めれば、するりと、この腕を抜けていってしまいそうな、不安感。

子犬がそうするように、剣心の喉元に、薫は頬を擦り付けた。

汗の匂いの中に、はっきりと剣心の匂いを感じる。

 

「薫殿…」

 

激しく動いたせいか、何時の間にか薫の口元に絡みついていた、濡れそぼった後れ毛を剣心は優しく除(の)けた。

つくづく甲斐性がないことだ。

根無し草のように定まらない、我の存在の希薄さが、これまで幾度、妻である人の心を寂寥に苛(さいな)ませてきたのだろう。

 

「ここにいるでござる」

 

剣心の指が、幾度も薫の頬を撫でた。

あやすようにではなく、求めるように。

強く、薫を求めることで、剣心は自らの誓いを妻に伝えた。

薫の胎内で、存在を誇示するように、誓いを刻みつけた。

 

「薫殿の傍(かたわら)に」

「あぁ……」

 

抜けるような吐息を漏らして、薫は泣き笑いを浮かべた。

それは安堵だったのか、快楽だったのか…。

 

剣心の腕が後ろに回され、薫の腰を引き寄せる。

より深く、二人は繋がった。

剣心の掌が、薫の小さな尻を捏ねる。

びくりと痙攣し、きゅっと筋肉が収縮した。

しっとりとした感触の柔肉が、その微妙な振動を胎内の強張りに伝える。

剣心も慄えた。

 

「剣心…剣心…剣心…剣心…!」

 

譫言のように繰り返しながら、薫は必死に縋(すが)り付いた。

熱を帯びた乳房が、剣心の胸板との間で押しつぶされ、膨らみきった先端のしこりが、気が遠くなるような愉悦を運んでくる。

秘唇の上の、薫の慎ましやかな和毛は、二人の体液で、しとどに濡れそぼっていた。

朦朧としかける意識の中、もう痛みは感じなかった。

胸を刺す寂寥感も。

 

「あっ…あっ…あっ、あっ、あっ…あーーーっ…!」

 

膣を擦られ、子宮を叩かれ、のけぞったところへ唇を奪われ、薫は一気に高みへと押し上げられた。

がくがくと崩れ落ちそうな絶頂感のさなか、ぐうっ、と腰を引き寄せられ、胎内で剣心が大きくなった。

 

薫…っと叫んで、剣心は弾けた。

 

熱い…熱い迸りが、最も深いところで爆(は)ぜて、薫は立て続けに上り詰め、気を遣った。

薫、と呼ばれ、さらに二度…。

これ以上ない深い繋がりに、薫は剣心と同じ愉悦を共有した。

 

薫は幸せだった。

 

 

 

第六幕

 

 

 

り……りー、りー…

 

「…ぁ…虫の音…」

「もう、秋が近いでござるな…」

 

火照りの余韻の残る剣心の胸に頬を埋めて、薫は、聴こえて来た音色に、目を細めた。

彼女の良人は、常と変わらぬ口調で応じる。

その声色に、穏やかさが増したのを敏感に感じ取って、薫は頭を浮かせて、剣心の顔を覗き込んだ。

 

穏やか…というよりも、少し間の抜けたような、まるい微笑み。

 

画像提供:ひろ雑貨店ひろさん

 

「…?どうか、したでござるか」

「…なんでもないでござるよ、剣心」

「おろ?」

 

出会った頃の、その表情を思い出して、薫は顔中をくしゃくしゃにして満面の笑みを浮かべた。

あの頃に戻ったわけではない。

数々の癒えぬ痛みを経て、ようやく、心の平穏が戻ったのだ。

かつての傷を抉り出して、なお。

薫はそれを感じた。

だから、笑った。

 

野兎が、それ以上潜れぬ穴に、さらに身を潜めるかのように、薫は剣心の腕の中に身を丸め、擦り寄った。

薄衣一枚、身に纏わぬ互いの体温が、これほど心地よく感じられることはない。

 

「こ、こそばゆいでござる」

「………」

 

薫は、剣心の非難には応じず、さらに頬を擦りつけた。

 

「……さっきの、本当?」

「薫殿…?」

 

ぎゅっと胸板に顔を埋め、表情を隠したまま、薫が訊ねる。

 

「どこにも……いかない?」

 

剣心は、目をぱちくりと瞬かせ、そして、口元を綻ばせた。

 

「行かない」

「私の、傍にいてくれる?」

「もちろんでござる」

「私…嫉妬深いよ。剣心がほかの女の人と話してるだけで、焼き餅やくかも」

「どうぞでござる」

 

平然と、剣心は澄まし顔で応じた。

 

「一日中、剣心にべったりしがみついたりするよ」

「ど、どうぞでござる」

「寝間だけじゃなくて、縁側でも、茶の間でも…厠までついていくかも」

「う゛……そ、それはちょっと…」

「………」

「せ、せめて、湯殿くらいまでなら」

 

指を一本立てて、冷や汗混じりに、ひきつった口元で妥協を促す剣心に、薫はぷっと吹き出した。

 

「…冗談よ。…でも、一緒に入る?湯浴み」

「い、いや、今のはものの喩えでござって…」

 

言ってしまってから、薫は自らの言葉に想像力をかき立てられてしまい、勝手に赤面した。

もし、剣心が承諾したら、泡を食うのは自分の方だろう。

なに言ってるのかしら、私…。

 

視線を上げると、互いの視線がぶつかり合った。

裸身のままに身を寄せ合っていることが、急に恥ずかしくなって、さっと身を離すと、互いの夜着をそそくさと身に付け始める。

月明かりに、乾きかけた情事の痕を見つけるたびに、薫は頬どころか全身を朱に染めた。

剣心の精を注がれている間中、その脚を必死に絡みつかせていたことを思い出し、蒸気を吹き上げる。 

ちら、と良人の背をのぞき見ると、自分がつけたと思われる、紅い線が幾本も走っていた。

薫は、あわてて目を逸らした。

見れば、自分の肩口にも、剣心のつけた所有印が、淡いあざとなって残っている。

頭がくらくらした。

 

やがて、白い揃いの夜着の前を合わせた二人は、肩越しに見つめ合って、ハハハハハ、と笑い合った。

それが照れ隠しであることは明確だった。

 

その夜は、気恥ずかしくて、そのまま一言も交わすことなく、床についた。

もう、身を寄せずしても、互いの温もりを感じることができた。

 

 

どちらから求めたのだろう。 

……目覚めた時には、しっかりと、その手が繋がれていた。

 

 

 

(もう少し、つづく)

 

 


(update 01/12/10)