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その日。
サードインパクトが起きた日。全人類はLCLへと姿を変え一つになった。
それは、彼の求め続けた安らぎの世界。
他人と傷つけ合うこともなく、自分一人が心地良い世界。
だが、彼自身の希望のはずであったこの世界に、彼は疑問を持った。
──でも、これは違う。違うと思う。
生命の源の海の中で、彼はかつて想いを寄せていた少女に出会った。
彼は彼女に願った。
──できることなら、もう一度あの時に戻りたい。
──戻って、やり直したい。
──それはこの世界から都合良く逃げてるだけなのかも知れない。
──でも、そう願う僕の気持ちは・・・
本当だと思うから。
─NEON GENESIS EVANGELION THE SECOND WORLD─
<1> 回帰
2015年、6月。
彼は、今確かにその時その場所にいる。
目の前で戦自の戦闘機と第三使徒サキエルが戦っている。
爆音と共に現れる青いスポーツカー。
「シンジ君ね?遅くなってごめん!」
──ミサトさん
シンジを乗せたその車はネルフ本部へと向かった。
「それで、この子がサードチルドレン?」
「そう。碇シンジ君」
「私は技術開発部所属の赤木リツコよ。リツコでいいわ。よろしく」
「・・・・・」
「シンジ君?」
「・・・よろしくお願いします・・・」
「これが、人造人間エヴァンゲリオン。人の造り出した究極の汎用決戦兵器。人類の切り札よ」
「シンジ、お前はこれに乗って戦ってもらう」
「・・・・・」
シンジの耳には大人達の言葉など耳に入っていなかった。
──僕は一体何をしにここへ戻ってきたんだろう?
何ができるんだ?これじゃ前とまるっきり同じじゃないか。
父さんに見捨てられて、そして・・・
「・・・そうか。嫌ならばいい。帰れ。・・・冬月、レイを起こせ。死んでいるわけではなかろう」
「!!!」
レイ、という言葉がゲンドウの口から出た途端、シンジの意識は突然に覚醒した。
──・・・レイ?綾波レイ。ファーストチルドレン。母ユイと第二使徒リリスのクローン。
彼女はあの時、僕を守って死んだ。そして最後も僕の願いを叶えてくれた。
綾波・・・レイ。
包帯が体中に巻かれた状態で、レイが運ばれてくる。
「う・・・くっ」
サキエルの放った光線がジオフロント直上に命中する。
天井が崩れて落ちてくる。レイの上にも瓦礫が・・・
シンジにはまるでそれがスロ−モ−ションのように見えた。
そして、気付いた時には飛び出していた。
「綾波っ!」
その時、シンジとレイを守るように初号機の腕が二人の上を覆った。
無論エントリープラグは未挿入のままだ。
「大丈夫?・・・綾波・・・」
「うっ・・・はぁはぁ・・・」
──・・・母さん・・・また守ってくれたんだね。ありがとう。
・・・そうだ。僕は、守るんだ。
綾波を、アスカを、トウジを、ケンスケを。・・・みんなを。
もう、二度と繰り返さない。繰り返させない。あの結末を。
「・・・乗るよ」
「何だ、まだいたのか。帰るならぐずぐずしてないで・・」「乗るよ。僕が、これに」
「・・・そうか。なら赤木博士から説明を受けろ」
シンジの瞳には、先刻とは全く違う強い意志の光が宿っていた。
──ミサトも他の皆も気にしてないみたいだけど・・・
初号機の発進準備が滞りなく進む中、リツコは一人考え込んでいた。
──碇シンジ君・・・レイの名前を知っていた。会ったこともないはずなのに。どうして・・・?
それに、エントリ−プラグ注水の時、驚きもせずにすんなりLCLを受け入れていた。
私が事前に説明していたとは言え驚かない人はいないはず・・・
そしてあのシンクロ率。76%ですって?初めてで?ただ事じゃないわ。
「? リツコ?何考えてるのよ?」
周りの雰囲気とは懸け離れた様子のリツコに、ミサトが話し掛けた。
「ええ、ちょっとシンジ君のことをね」
「確かに彼、普通じゃないわね。才能かしら?」
「それもあるんだろうけど・・・才能だけじゃ片付けられない問題がいくつかあるわ」
「んーまあ後で考えましょ。今は使徒殲滅が最優先よね」
「初号機、発進準備完了」
「指令、構いませんね?」
「もちろんだ。どのみち使徒を倒さねば我々に未来はない」
ミサトは頷いた。
「発進!」
地上へ上がるまでの十数秒間が、やけに長く感じられた。
シンジは考える。
──どうやって倒そうか?前は暴走っていう形で勝ったけど、
今回もそう上手くいくんだろうか。母さんは・・・
かかっていたGが消える。目の前にはサキエルがいた。
「シンジ君、とりあえず歩くことをイメ−ジしてみて。エヴァはそれを読み取って動くわ」
すると、初号機が一歩、動いた。そして突撃して行く。
使徒を通り過ぎたところで転倒。サキエルが頭を掴んで持ち上げた。
腕をへし折られる。続いて頭を光の矢が穿った。
・・・・!!!
シンジは声にならない叫びを上げた。痛みは前回の比ではない。
シンクロ率が上がれば体にかかる負担も大きくなるのだから当然である。
光の矢が右目を貫いたところで、シンジの意識は途切れた。
・・・・う・・・・
目を開けるとやはりそこはネルフの病院。シンジはベッドに寝かされていた。
右目は、一時的に見えなくなっていた。
それ以外は前回と全く同じ光景が眼前に広がっている。
シンジは体を起こした。体に痛みはない。
廊下に出た。レイが通り過ぎて行く。
「シンジ君」
現れたのはミサトだった。
「葛城さん。綾波は・・・大丈夫なんですか?」
「ミサトでいいわよ。んーレイは全治2週間だって。シンジ君レイのことが気になる?」
「はい・・・少し」
「あらぁー随分と正直ねえ。一目惚れってやつぅ?」
「ち、違いますよ!!そんなんじゃ・・・(真っ赤)」
「あはは。いーのよそんなにムキになって否定しなくても。図星ですって言ってるようなもんだし」
「ミサトさん!いい加減からかうのはやめてくださいよ・・・」
「ごみんごみん。でもレイなら大丈夫よ。もうすぐ退院できるわ」
「そうですか・・・あ。綾波の病室、教えてもらえませんか?」
「いいわよー。でも大丈夫?起きたばかりなのにそんなに出歩いて。」
「ええ。左目以外はもう違和感ありませんから」
そしてシンジはレイの病室へ向かった。
─レイの病室前─
・・・何て言って入ろう?
失礼します、かな?やっぱり。一応初対面なんだし。
「失礼します」
「・・・ハイ」
綾波の、声だ・・・。懐かしい。もう何ヶ月も聞いていないような気がする。
でも、前とは少し違う、全く感情のこもっていない声。
「あなた、誰?」
「はじめまして。僕は碇シンジ」
「あなたが?・・・碇指令の、子供」
「そう。よろしくね、綾波」
「・・・・・」
──この人は、何?他の人とは違う気がする。
碇指令の子供だから?・・・違う気がする・・・
何?このかんじ。暖かい・・・
「あなた・・・何故、私の名前を知ってるの?」
「えっ・・・あ、ああ、病室の前に書いてあったから・・・」
「そう・・・何をしに来たの?」
「えっ、その、綾波が怪我して入院してるって聞いたから・・お見舞いに。・・・迷惑かな?」
「そんなことはないわ」
珍しく強い意思表示に、シンジは少し驚いてしまった。
「綾波・・・エヴァに乗るのは、怖くない?」
「どうして?」
「僕は怖かったんだ。右目を潰された時、凄く怖かった」
「それが自然ね」
「もうこの世界に帰って来れなくなるんじゃないかって・・・せっかく戻ってきたのに」
「・・・?」
「あ、ああ。ごめん。・・・綾波は、怖くないの?」
「私は・・・絆が、あるから・・・」
「絆・・・父さんとの?」
「それがあるから。それ以外私には、」「何もないの?」
「・・・!?」
自分の言おうとしていた言葉。それをシンジに言われた。
──・・・何故、わかるの
「綾波、本当にそう思うの?それ以外、自分には何も無いって」
「・・・そう。私はそのためだけの存在。エヴァに乗り、使徒を倒すための人形・・・」
「人形なんかじゃないっ!!」
「え・・・」
シンジは思わず叫んでいた。レイの体がビクリと震えた。
「ごめん、大きな声出して・・・でも」
シンジは綾波の手に手を重ねて続けた。
「綾波・・・君は、人形なんかじゃない。父さんとの絆の、使徒を倒すことのためだけに生きる人形なん
かじゃないんだ。君は・・・一人の人間なんだよ」
その言葉に、レイの体が再び震えた。
「でも・・・私は」
「少なくとも僕は、君と人間として付き合って行きたいよ。一緒に生きて、幸せに・・・」
「碇・・・君・・・」
「僕には君が必要なんだ。綾波・・・君が」
「私が、必要?・・・碇君に」
「うん・・・だから綾波、自分が人形だなんて悲しいこと言わないで」
「・・・・・」
──碇君・・・この人は、碇指令とは違う。
私を必要としてくれる・・・?碇指令が必要としているというのとは違う気がする・・・
何・・・?この気持ち。暖かい・・・
・・・嬉しい?これが、嬉しいということなの?
「・・・ありがとう・・・碇君」
「!うん・・・」
レイが微笑った。この笑顔こそ、見るのはシンジにとって何ヶ月ぶりかである。
シンジも微笑みを返した。その笑顔はレイの心の奥深くに刻まれた。
「それじゃあ僕・・・そろそろ帰るね。ミサトさんも待ってるし」
「・・・・・」
レイの顔は一気に暗くなった。
──・・・碇君、もう帰ってしまうの?
もっと側に居て欲しい。そうしてくれれば・・・嬉しい
私を、もっと暖めて欲しい・・・でも
「そう・・・碇君には碇君の都合があるものね」
「綾波・・・ごめん」
「いいの。またすぐに会えるわ。・・・すぐに・・・」
だがそれは、短いようで途方もなく長い時間。
「綾波・・・」
「・・・じゃ、碇君・・・」「綾波」
レイの言葉をシンジが遮った。
「さよならっていうのはね・・・もう二度と会わない、会いたくない人に対して言う言葉だよ」
「・・・!」
レイは今度こそ驚いた。何故、シンジには自分の言おうとしている言葉がこうもわかってしまうのか。
分からない・・・分かるはずがない。
「じゃ、またね・・・綾波」
「・・・ええ、碇君。また・・・」
そして、扉は閉まった。
─リツコの研究室─
リツコは、レイとシンジの会話をモニターで見た後、MAGIに登録されているシンジのデータを全て見直していた。
──違う。違い過ぎる。調査結果とは。何もかもが。
この世界有数の有能な科学者は、シンジの異変にいち早く気付いていた。
疑う余地はいくらでもある。だがしかし、まだ彼に問うべき確実な材料はない。
内罰的で、他人との関わりを極力避ける傾向にあり、身体能力も精神的な能力も普通。
いや、普通どころか水準以下だ。
ところがどうだろう。蓋を開けてみれば、全く逆である。
先ほどのレイとの会話。初めてにしては異常に高いシンクロ率。
──まだ疑うには少々早い、か。ま、これからが楽しみね。
そうして彼女はシンジの元へと向かった。
「ミサトさん」
病室では、シンジの退院手続きを終えたミサトが待っていた。
「あらぁー?シンジ君遅かったじゃな〜い?何してたのぉ?」
「別に何も・・・ちょっと綾波と話をしてただけですよ」
「ホント〜?変なことしてない?」
「しっしてませんよ!!全く・・・何言ってるんですかもう」
「あはは〜シンジ君ってからかい甲斐があるわねー。あ、それとシンジ君の住むところなんだけど」
「はい」
「私の家でいい?」
「ええ・・・構いません。よろしくお願いします」
前と同じ生活が始まるわけなので、シンジはさして驚きもしなかった。
「ちなみにレイもうちよ。良かったわねー。好きなだけいちゃつけるわよ」
「・・・・・」
非常に意外でまた嬉しかったが、最後の一言がシンジから返事をする気を奪った。
「シンジ君」
振り返ると、リツコが立っていた。
「起きたって聞いたものだから。無事で良かったわ。目の調子はどう?」
「はい、まだ見えてませんけど痛みはないです」
「そう。戦闘の時について質問があるんだけど、少し時間、いいかしら?」
「えー?リツコォ私達今から帰る・・・」「わかりました。すぐ終わりますよね?」
「ええ。五分とかからないわ」
「なら構いません」「ちょっとシンジ君・・・」「外へ行きましょう」
ミサトの意向は完全に無視された。
後ほどシンジは地獄を見ることになる。
「さて、シンジ君・・・質問っていうのは、戦闘のときのことなんだけど」
「あ・・・そう言えば、目を潰されたところまでしか覚えてないんですけど、どうなったんですか?」
「あの後、初号機は完全に制御不能に陥ったわ。そして・・・暴走した」
「暴走・・・」
「何が原因かはわからないわ。でも理論上は活動不可能なはずだった」
実際のところシンジは理解していた。
生命の危機に陥ったシンジを初号機の中に居るユイが目覚め助けたのだ。
「何か・・・覚えてない?」
「特に何も・・・意識を失った後は気付いたら病室でしたから」
「・・・そう。ならいいわ。今日は帰ってゆっくりお休みなさい。それと・・・」
「?何ですか?」
「ミサトには気をつけなさいよ・・・生活能力ゼロだから」
「は、はは・・・」
そして、シンジはミサトの車でミサトの家へ向かった。
この時ミサトのドライビングテクニックによってシンジが生命の危機にさらされたのは言うまでもない。
・ごあいさつ
どうも初めまして。NIJAMと言います。
色々なHPを回ってたくさんの素晴らしい小説を読んでいるうちに、自分も書いてみたいと思い、
体当たりで書いてみました。ホントに体当たりです。
本編の設定とか全く知らないものですから、学術的知識とかそういう細かい所は殆ど無視してます。
なにぶん処女作ゆえ見苦しい点も多々あったでしょうが、
それでも一応の最後まで読んで下さりありがとうございました。
暇があればこの初心者にアドバイスなど頂けると光栄です。何しろ全く知らないので・・・
では、また次回でお会いしましょう。なるべく早く書きたいなあとは思っていますが・・・
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(updete 2001/05/01)