ああっ女神さまっ

■For your love■

第一夜、ウルド〜Illicit love〜(前編)

作・大場愁一郎さま

ジャンル:X指定


「け・い・い・ち・さんっ…!」

 背後から暖かな手の平が伸びてきて、スッと螢一の視界を塞いだ。

 明日に控えた二人きりのドライブに備え、ロードマップを眺めていた螢一であったが…慣れない戯れ言に恥じらいの漂う声を聞いて思わず頬が緩んでしまった。期待に弾んでいた胸がたちまち苦しいくらいに乱打する。

「ど、どうしたんだよぉ、ベルダン、ディー…!?」

「あっはぁ〜ん、けいいちさぁ〜ん!」

「どわあっ!う、う、ウルド!!」

 手をかけて目隠しをどかし、すっかり緩みきってフニャフニャな表情で振り返った先にいたのは…愛しのベルダンディーその人ではなく、彼女の姉であるウルドであった。

 チビTにミニスカ姿の彼女は、螢一の見事なほどの狼狽えぶりに脇腹を抱え、涙まで浮かべて哄笑を始める。

「あはっ!あははははっ!あーはっはっは…!あた、あたたたた…ひ、ひひひ…っ!!」

「な、な、な、なんだってんだよもう!声マネまでしてっ!!」

「あははははっ!あーおかしいっ!ど、どうしたんだよぉ、ですって!ま、まさかここまでとろけそうな顔するとはもう予想外!!あーっはっはっは!!」

「ウルドッ!!からかいにきただけなら帰ってくれ!!」

 恥ずかしさと照れくささと憤りに顔面を紅潮させた螢一は、身振りも激しくウルドを追い返そうとした。もっともこういった戯れ合いは日常茶飯事なのである。ウルドにしてみれば螢一は実に体の良いヒマつぶし相手なのだ。

「あら、そんな冷たい言い方しなくてもいいでしょう?せっかく重要なコトを警告しにきてあげたのに。」

「重要?警告?またなんか悪巧みかよ?」

「人聞きが悪いわねぇっ!この本を見なさいっ!!」

 頭から疑ってかかる螢一にへそを曲げて見せたウルドは、さっさと座布団を一枚引き寄せるとその上にどっかとあぐらをかき、手にしていた一冊の本を螢一に示した。

 ひょい、と螢一は無言で手に取る。その本は分厚く重く、ハードカバーでしっかりした装丁の…ちょうどなにかの辞典のような本であった。ウルドの持ってきた本とはいえ、魔術書のように古めかしいものでもない。螢一はいぶかしげに表紙から中身からをなんとなく眺めてみて…

「あのね、神聖語とか言われてもわかんないんだけど?」

「読めとまでは言ってないでしょう?それはあたい達の世界版…まぁ、家庭の医学みたいなモノなのよ。」

 人間には解読不能な神聖語でかかれた本をウルドはひょい、と取り戻し、紙芝居でも見せるかのように表紙から目次からをひとつひとつ指でトントン指示しながら螢一に説明した。それでも螢一は警戒するように、怪訝な表情を崩そうとしない。

「家庭の医学ぅ?なんでまた?」

「ふふん、明日のあなた達を思って…ま、あなた達に限ってそんなことはあるはずもないとは思うんだけど、一応気になったから調べてみたのよ。」

 冒頭にも触れたが、螢一は明日、ベルダンディーとドライブに出る予定なのだ。言い換えれば久しぶりのデートである。予定では放牧場のある高原に向かうつもりだ。

 夏の緑が映える山道を登り、都会の喧噪から遠く離れた高原で二人きりの昼食でも、という螢一の計画にベルダンディーもすこぶる乗り気で、準備に余念がないらしい。

「調べてみたって…家庭の医学なんかで何を調べてたんだよ?」

「いいからいいから、まぁ待ちなさいよ…」

 デートと家庭の医学がどう関係してくるのか。螢一は訝しい目で睨め付けるようにウルドを見たが…真顔でページをめくりだしたウルドはそれに気付かないようであった。

「付箋くらいつけてくればよかったのに…ひもしおりだってあるじゃないか。」

「うっ、うるさいわねぇ…あ、あったあった…ここよ、ここ!!」

 螢一の鋭い指摘にちょっぴり憮然としながらも、ウルドはページをくり続け…ようやく目的のページにたどりつけたらしい。そのページを大きく見開き、突きつけるように提示しながらニヤリと笑う。

「ジャーン!タイトルはズバリ、妊娠について。」

「に、に、ニンシン!?」

 予想もしなかったページに螢一は素っ頓狂な声をあげ、再び顔面を紅潮させた。

「そう、妊娠!まぁ家庭の医学だから体位がどうとか出てるわけじゃないんだけど…」

「た、た、体位って…あ、あのなぁっ!」

 今度は耳まで真っ赤になってしまう。最近の若者にしては妙にシャイな螢一だが、そんなところは大学を卒業した今でもほとんど変わっていない。

「それよりも、ほらここ!ここの予備知識がポイントなのよ、今の場合!」

「だーかーらー、わかんないって。」

 ページの一角を人差し指でトントンするしたり顔のウルドに、螢一は小さく溜息を吐いて答えた。四角く区切ってあることくらいははわかるのだが、理解できそうな文字はひとつも見あたらない。

「いいかしら?この本によるとね、あたい達女神…いや、女神に関係なくあまねく神族は人間種との交配が可能、とあるわ。」

「それって…人間が神の子を受胎したり、またその逆もあるってことか?」

 螢一はウルドの語った内容をしっかり吟味したうえでそう確認した。いつの間にか真顔に戻っていたウルドは螢一の目を見つめながら無言でうなづく。

 ところでこの古寺…通称森里屋敷には四人の住人がいた。

 まずこの森里螢一。猫見工業大学を卒業後、バイクチューン専門ショップに就職、現在に至っている。純情で心の優しい…どちらかといえばお人好しな好青年だ。

 そして残りの三人なのだが…彼女たちはひょんなきっかけがひょんな理由を生んで螢一の元にやってきた純然たる女神達なのである。

 最初に訪れたのはベルダンディーという名の女神であった。

 温厚で慈愛に満ち、それでいて世間知らずなためにどこか抜けている印象を与える彼女だが、その実一級神の肩書きを持つ高位の女神であり、螢一とのある契約によって彼と生活を営んでいる。

 もっとも現在ではその契約も二人の愛情の間で意味を失い、お互いが心から必要としあっているからこそ、彼女は人間界に留まっているのだが。

 次に訪れたのはウルドという名の女神。

 薄褐色の肌を持ち、妖艶な色気を漂わせる彼女はベルダンディーの姉であり、女神でありながら魔族の血をも引いている。軽い性格ではあるが、状況によっては人が変わるほどの冷静沈着さを発揮する。

 彼女もまた高位の女神クラスの実力を有しているのだが、職務態度が悪いとかでその能力は著しく制限されている。

 そして、最後に訪れたのはスクルドという名の女神だ。

 彼女はベルダンディーやウルドの妹であり、天真爛漫で、ちょっとした自信家で…面白いコトとかわいいモノ、アイスクリームがなにより好きという性格をしている。そのうえ螢一をはるかにしのぐメカマニアだ。

 そんなスクルドだが…ちょうど今螢一の部屋の外で耳をそばだてている最中であった。

「またウルドのヤツ…螢一をたぶらかして悪事を働こうとしてるわねぇ…」

 ふと螢一の部屋の前を通りかかったとき、室内からウルドの声が聞こえてきたのだ。

 本心は二人の話に混ぜて欲しいだけなのだが…素直にそう言い出すことができないスクルドは二人の会話を悪巧みと決めつけ、聞き耳を立て始めたのである。

 この、人間にして小学校高学年程度のうら若き女神は…普段から年長の姉とは仲が悪い。いや、これは本人達がそう思っているだけで、端から見ればすこぶる仲の良い姉妹としてうつるはずだ。

「ウルドが螢一の部屋に行くと必ずロクでもないことになるんだから…ここはお姉様に迷惑が及ぶ前にこのあたし、スクルドが悪の種を摘み取るっ!!最新究極発明の…あれ?えっと、あっと…あれ?持ってたハズなのに…?」

 お姉様、とはベルダンディーのことである。スクルドはベルダンディーを心の底から慕って…あくまで姉として慕っており、姉に近づこうとするものは螢一であろうが何であろうが排除しないと気が済まない性質を持っている。そのためには手段さえ厭わない。

 今も一人で使命に燃え、自ら開発した道具を取り出そうとしているのだが…なかなか取り出せない様子だ。薄手のオーバースカートにはポケットがたくさんあしらわれており、あっちこっちと手を突っ込んで目的のものをまさぐっているのだが…手応えがないらしい。よほど小さいモノなのだろうか。

「あ、あったあった!じゃじゃーん!マイクロサット、ひまわりくーん!!」

 ようやく見つかったらしいのだが…高々と上げられた手の平にはひまわりくんどころか塵一つ乗っていないように見える。

「えへへー、これはね、超小型人口衛生なの!目標とする相手に向けて放ると自動的に飛行、追尾。その後目標を一秒間におよそ百回という高回転で周回し、モニタリングマシンによってリアルタイムでクォドラホニック音声と、あらゆる角度からの映像を確認することができるスグレモノなんだから!ちなみにひまわりくん自体の寿命は約二十四時間。任意に破壊も可能。魔力で関知することは不可。ふふふ、ウルドを観察するにはうってつけのアイテムねっ!!ではさっそく…」

 自ら設計した発明品に陶酔するよう、スクルドは誰にともなく長々と、声まで出してひまわりくんのスペックを説明した。小指の先をちゅぷ、と口に含み、音もなく障子に穴を開ける。そこに右手を構え、手の平に乗っているらしいひまわりくんに口元を寄せ…

「目標ウルド、発射!…やった!軌道に乗ったわ!!」」

 発射は、ふっ…と息を吹きかけるだけでいいらしい。なんの軌道に乗ったのかはわからないが、とにかくスパイ衛星をウルドにくっつけることに成功したようだ。

「さ、ではモニター…って、ああっ!!カンパンマンの始まる時間じゃないの!!いっけない、モニターは録画して後で見ようっと!カンパンマンカンパンマンッ!!」

 腕時計のようなモニターに視線を落とした瞬間、時刻が楽しみにしている番組の始まる時間になっていたらしい。いつぞや映画もみたことのある番組だ。スクルドは慌ててきびすを返し、小走りに居間の方へと去っていった。

 

「…スクルド、行っちゃったね。」

「…ま、お子様には関係ない話だからね。その方が都合がいいわ。」

 話を中断し、障子の向こうでモソモソしていたシルエットを見つめていた螢一とウルドであったが、シルエットが居間の方に駆けていったのを確認して話を再開した。

「で…それって本当なのか?」

「ええ、これは本当よ。実例もあるみたいだし。」

 ウルドはあくまで真顔だ。真顔すらもウソである場合があるが、さすがにこんな重要な話を冗談のネタにはしないだろう。彼女とてひとりの女性だ。

「だから一応警告。明日ヘンな雰囲気になってお泊まりってコトになってもこれだけは気をつけてあげて。こういうことは男がしっかりしてないといけないんだからね?」

 ウルドは真剣そのものの口調で螢一に語った。二人の仲を尊重しつつ、妹の身をひたむきに案じるように。

 ウルドは普段から軽い性格ではあるものの、二人の妹を思いやる気持ちだけはベルダンディーのそれにも劣りはしない。

 螢一もそれはわかっている。もとよりベルダンディーは大切な人だから、おざなりに扱うつもりなど毛頭ない。あらためて言われるまでもないことであった。

「もちろんわかってるよ。まぁ…そんな雰囲気になれたとしたら、だけどね。」

「あら、ちゃんと分をわきまえてるじゃない。おせっかいだったかしら?逆に今夜、悶々として眠れなくなったりして!ああ、ベルダンディーの胸…ベルダンディーの腰…避妊しないと、避妊しないと…ああっ!!」

 螢一の耳元に整った唇を寄せ、艶めかしい声でクネクネ身をよじらせながら煽りたてるウルド。くいっとのけぞった拍子にチビTの裾から彼女の柔らかそうな膨らみが二つ、螢一の視界に飛び込んでくる。

「うわ…っ!」

 一瞬の悩ましい光景にくわえ、ウルドの香りが螢一の鼻孔をくすぐってきた。その場で淫らな行為にふけりたくなるほどウルドのフェロモンは官能的で、誘惑的だ。

 いかに螢一がベルダンディー一途とはいえ、彼も健全な男子のひとりなのだ。理性とは裏腹に、身体は自然と反応を示す…。

むくっ…。ぐっ、ぐうぅっ…。

「わああっ!や、やめやめっ!!もうわかった!気をつけるのはわかったから!!もう出てってくれよっ!!」

「あははっ!夜中に妄想して変なことしたらダメよ!寝坊してたら行けるデートも行けなくなるんだからねっ!!」

 ウルドの色香にしどろもどろになってしまった螢一は、怒ったように彼女の右手をつかむと引きずり出すようにして自室から追い出した。女性相手に手荒な行為だが、これもまた日常茶飯事だ。

 ウルドにしても乱暴に扱われながら、嬉々とした笑声をあげている。ぽい、と廊下に放り出されてからも、勢い良く閉められた障子戸の向こうでしばらく愉快そうに笑っていた。

「はーっはっはっはっ…あ〜笑った笑った。とにかくそうゆうワケだからね。」

「はあ…はあ…ったくもう…」

 ウルドが廊下を歩き去ってゆくのを聞きながら…螢一は胸元を押さえて深呼吸した。

どきん、どきん、どきん…

 胸が高鳴り、苦しくてならない。ぼうっとしてうなだれた視線の先に見えているものは…はき慣れたジーンズの膨らみであった。デニムの生地を内側から突き破らんばかりに、若い男性器は猛々しく怒張している。指先で弾くと、トントン、と固い音がした。

「男って悲しい生き物だよな…。オレもオレでいちいち反応するなよっ!わかってんのか、森里螢一!!明日はベルダンディーとデートなんだゾッ!!」

 胸の奥から沸き上がった劣情に歯がみする。自らを諫めるように叫ぶと、螢一はドスンと机の前に腰を下ろした。ロードマップを見つめ、必死でベルダンディーとのデート風景をイメージする。

 サイドカーに乗り、風に吹かれながら微笑むベルダンディー。そんな行為なんて考えもつかないような清純な笑顔…。

 淫魔を追い払うには十分な効果があった。淫魔にとり憑かれていた身体の一部分は、ハッと我に返ったようにみるみる萎縮してゆく…。

「ふう…。避妊だなんて…オレ達、まだそんなの早いよな。ただ一緒にドライブに行って、一緒に景色を眺めて、一緒にお弁当を食べて…。それで十分すぎるくらい幸せじゃないか、これ以上望むのは高望みってもんだ!」

 結局いつもの螢一におさまってしまった。しかし本人がそれで納得し、それが一番心地が良いのだから第三者が口を挟むことなど不要なのである。

 求める時期が来れば自ずと求め合うようになるだろう。いたずらに惑わすのは勝手知ったるウルドであろうが御免被りたかった。

「ウルドなんかにいちいち欲情してちゃ…ベルダンディーに申し訳ないよな。」

 ごろ、と仰向けになり、螢一は目を閉じてひとりごちた。

 

「ウルドなんか、かぁ…。言ってくれるわね、螢一も。それだけベルダンディーひとすじってことなのよね…。」

 中庭に面した廊下の角でウルドはつぶやき、爽やかに晴れわたった夏空を見上げて腕組みした。チビTでみっちり締め付けられた乳房がむにゅっと寄せ上げられる。

 切れ長の瞳は眩しげに細められ、微かに開いていたが…それに対して唇は少しだけ噛み締められるように閉ざされている。なにかを思い詰めているようにも見えなくはない。

 ふと例の辞典を眺める。

 からかうつもりで調べたのではなかった。

 螢一にも知っておいてほしかったのだ。人間と女神でも交配が可能であることを…。たとえそれがベルダンディー相手であれ…そして、自分相手であれ…。

ずきん…ずきん…。

 胸の奥が痛みだす。焦れったい気持ちが呼吸を早めさせた。押さえ込もうとすればするだけ、せつない感覚がゆっくりとこみ上げてくる…。

「あんなもの…試してみるんじゃなかった…。」

 腕を組み直すつもりが…なぜか手の平が胸の膨らみを輪郭に沿って包み込んでしまう。そっと指をすぼめて揉んだ。敏感になっている乳房にむぎゅっと力を込めるたび、焦れったい鈍痛は和らいだ。しかしせつなさはより強さを増してゆく…。

「こんなに…こんなになるまで思い詰めちゃうなんて…いや、違う…ずっと前からこうだった…あたい、あの娘のために…んんっ!!」

じわり…。

 ショーツの真ん中に湿り気が拡がる。ウルドは立ったままで発情していた。

 充血し、強くはみ出ようとショーツの中身がジクジクうごめき、膝をすりすり擦り寄せないといられなくなる。己の真央を…思いきり慰めたくなる…。

「こ…こんな真っ昼間から…?いけない、いけない…また、つらくなるだけ…!!」

 角の柱に寄りかかってしまった。立っていられなくなりそうであった。ぽおっとした顔で切れ長の瞳が媚びるように細まる。火照った頬に似つかしく吐息も燃えるようであった。

 それでもウルドは理性をフル稼働させて両手を後ろ手に持っていき、自慰行為の誘惑から強引に引き離した。しかしその行為は、彼女にある決断をさせてしまう…。

「…もう決めた…。あの娘には悪いけど…」

 危険な…背徳的な予感に頬が熱くなる。ウルドの鼻の頭に浮かぶ汗は夏の熱気によるものばかりではなかった。

 

 夜も深まり、通りは静けさに満ち…虫の声だけが僅かに聞こえる。

 ベルダンディーと最終打ち合わせを済ませると、螢一は明日に備えて早めに床につこうとしていた。

 布団を敷き、蚊取り線香に火をつけてほのかな煙を立ち上らせる。タンクトップとトランクスだけで眠るのが常だから、この緑色の渦巻きだけは欠かせない。

「これでよし、と。居眠り運転はしないと思うけど…ま、明日も早いし、早めに寝ておくにこしたことはないよな。ではおやすみなさい…」

と照明のスイッチひもを引こうとしたときであった。

「螢一、ちょっといいかしら?」

「ウルド…?」

 ひもを引こうとした手が戻される。夜の来訪者の声に螢一は障子戸の方を向いた。

 聞こえた声はまぎれもないウルドのものであった。昼間のワンシーンが鮮明に蘇り、思わず、んぐ、と喉を鳴らしてしまう。

「どうぞ?」

「悪いわね…寝ようとしてたんでしょ?」

 促されて入室したウルドは…黒のTシャツにTバックショーツ姿であった。

 普段彼女はネイキッドで眠る習慣があるので、就寝前にはいつでもこの程度の軽装だ。

 さすがの螢一とてこのスタイルにはもうすっかり慣れてしまっているのだが…今夜に限っては昼間の件もあり、どうにも直視ができない。

「い、いや、まだ早い時間だから大丈夫だけど…今度はなんだ?」

「う、ううん、そんな難しいことじゃないの…ちょっと、ね。頼み事…。」

 ウルドは少し上気しているように頬を染めていた。今夜がいつになく暑いせいか、Tシャツを見ると微かに汗ばんでもいるようであった。もちろんノーブラなのだが…それにしたとしても二つのアクセントがやけに目立つ。螢一は口元をハクハク開閉させてそっぽを向いた。

「あ、な、な…とりあえず座れよ、いま麦茶でも持ってくるから…」

「いや、気を使わないで…。あたい…いま、ね?座れないのよ…。」

 ウルドにつられたわけでもないが、軽く汗ばみかけた螢一は座布団を勧めて立ち上がった。しかしウルドは辞退するでもなく、極めて不自然で不可解な返答をよこしたきり、腰を下ろそうとしない。薄褐色の頬を赤らめ、うつむいてしまう。モジモジするような両手を後ろ手にした身体は…微かに震えてもいた。

「どうしたんだよ…まさか熱でもあるんじゃないだろうな?」

 体調でも崩しているのではないか。そう思うと螢一はたちまち猥雑な感情を払拭させ、心配そうな表情でウルドに歩み寄った。そっと彼女の前髪をよけて額に手を当てる。じっとり汗ばんではいるが、熱があるほどでもない。

 そんなウルドは…ふらっと倒れ込むようにして螢一に寄り添ってきた。両手を螢一の肩にかけ、彼の耳元でつらそうにささやく。

「あの…ね?あたい…」

「おい大丈夫かっ!?熱はないみたいだけど、身体、すっごい熱いぞ!?」

 真剣な口調でウルドを気遣う螢一。耳にかかる吐息も深く…熱くなっている。

 なにか女神特有の体調不良なのかもしれない。この場合は人間に処方する薬を投与しても無意味であることはすでに解っている。

 どうすることもできない自分に対する苛立ちが湧いてきた。無意識にウルドの背中に右手を伸ばし、少しでも落ち着いてくれるよう、労るように優しく撫でてあげる。

「しっかりしてくれウルド…。困ったな、ベルダンディー起きてるかな…?」

「うふ…螢一、優しくしてくれるんだね…あたい、嬉しい…」

 背中から伝わってくる手の平の感触に、ウルドはホッ…と安らぐような息を吐いた。つらそうだった表情が僅かながら、なごむ。

 『手当』という言葉の語源の通りで…螢一の手の平から染みわたる柔らかな温もりはウルドをつらく苛んでいる痛みを…せつない胸の痛みを癒してくれるようであった。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ…?とりあえずオレの布団に横になっててくれるか?ベルダンディー呼んでくるから、それまで待っててくれ。

「気にしないで、病気じゃないから…いや、病気なのかもね…。」

「おいウルド、しっかりしてくれよ!なんか言動がおかしいぞ?」

「座れない理由ってね…」

「え?」

 不意をうつようにウルドの右手が螢一の左手を取った。突然のことで力を抜いていた左手は…真っ直ぐにショーツの真ん中へ導かれた。すごい熱を孕んだ柔らかな中心は…ショーツ越しでもねっとり濡れていた。

「うっ、ウルド!?」

「だめっ…しばらくこのまま…」

 あからさまに狼狽える螢一。慌てて左手を引っ込めようとしたが、ウルドはそうさせてはくれなかった。熱い吐息を繰り返し、寄り添ったままつぶやく。

「ね…?こんなになってるから…座布団に染みができちゃうでしょ…?」

「ちょ、な、なんで!?な…何を考えてるんだよっ…!?」

 大声を出そうとした事に気付き、慌てて螢一は声を潜めて訊いた。左手の指はウルドの中心に押し当てられたまま、彼女の熱と湿り気だけを感じている。指の腹には…小さな突起の存在も感じられた。クリトリス、という単語が螢一の記憶野から浮かび上がり、興奮で彼に息をのませる。

 螢一の問いかけにウルドは即答せず、寄り添っていた身体をそっと離し、一息置いた。

「ウル、ド…」

 螢一は思いもかけない胸のときめきを上擦りかけた声にしていた。螢一は見てしまったのだ。

 潤んだ切れ長の瞳。濃紫の、吸い込まれてしまいそうな瞳。

 火照りきった頬。滑らかで、汗の粒が浮かんだ薄褐色の頬。

 額と目尻についた逆三角形の聖痕。青から…黄昏色へと充血した聖痕。

 熱く湿っぽい吐息、上擦って震える声。

 インセンスのようにたゆたう…彼女だけのフェロモン。

 間違いなかった。ウルドはひとりの女性として、強く発情していた。

 かわいい…。

 自分でも信じられない感情に、螢一は支配された。

「ウルド…どうして…?」

「あたい…ついさっきまで、オナニー…してたの…」

「お、オナ…!?」

 カタパルトで弾かれるような勢いで急激に高ぶる螢一。反応しかけていたペニスは、ウルドの淫らな告白を前に一瞬でガチガチに強張ってしまった。

 発情した女性に寄り添われ、淫靡に潤んだ言葉をささやかれては反応するなというのが無理な話である。いかに螢一がベルダンディー一途とはいえ、先程も述べたが彼も健全な男子のひとりなのだ。ましてや左手はウルドの発情の現場に強く押し当てられている。

「ど、どういうつもりだよこれはっ!!あ、またオレをハメようとしてるな!?明日のデートの邪魔をしようってことなんだろ!?な、そうなんだろ!?」

「そんなつもりなんてないわ…ハメてほしいのはあたい…。こっちに来てから御無沙汰でさぁ…。ね、しよおよぉ、けいいちぃ…」

「は、ハメ…って!?ば、バカなこと言うなっ!!」

 猥褻な冗句を紡ぐウルド。螢一はそんな彼女を見るまいときつく目を閉じ、激しくかぶりを振って誘惑を振り切ろうとあがいた。欲情してはいけない、ベルダンディーに申し訳がない、と心中説得を開始する。

 しかしウルドは本気であった。そんな螢一の肩をつかみ、激しく揺さぶって必死にせがんでくる。色欲は女神である彼女すらも狂わせるらしい。

「なんで?したくないのっ!?まさか…そっちのケが…」

「ち、違う違うっ!したいのはやまやまだけど、オレにはベルダンディーが…!!」

 螢一が妹の名前を口に出すと、ウルドは幾分か表情を翳らせた。こと恋愛に関してはまったくもって甲斐性なしの螢一であったが、そのぶん一途さ、重厚さには信じるに足るものがあった。

「つれないこと言わないで、なぁけいいちぃ、あの娘には…ベルダンディーには秘密で…一回だけでいいからしてよぉ…?」

「な、なにを言ってんだ!?ベルダンディーを裏切れってのか…?オレに浮気しろって言ってんのか!?」

「…そ…いや、そんな深く考えないで!気持ちいいことするだけじゃない…。」

「ふざけるなよっ!オレにそんなことできるわけないだろっ!!」

「きゃっ…!」

 螢一は厳しい口調で叫び、思った以上の力でウルドを突き飛ばしてしまった。ウルドは力無くよろめき、パソコンのモニターに両手をかけてなんとか身体を支える。

「あ…ご、ごめん…つい…」

「いいの…。」

 人の良さが螢一に謝辞の言葉を吐かせる。うつむいたウルドは首を横に振りながら苦笑し…今にも泣き崩れてしまいそうな表情を見せ、ふらり、と頼りない足取りで螢一に追いすがろうとした。

 しかし螢一は潔癖さをむねとする信条に一切妥協などしなかった。キッとウルドを睨み付け、追い払うように右腕を振るう。

「来るな!これ以上近付くなっ!やめてくれよ…オレを困らせてそんなに楽しいか…?」

「そんなんじゃないのっ!オナニーなんて…一人で慰めるなんて…もう二度とゴメンなのっ!あんな寂しくて、虚しい事なんてもうイヤッ!」

「ぜ、ゼイタク言うなよっ!そんなの誰だって同じだよ…!!」

 まるで思春期の男の子の気持ちを代弁するかのようにウルドは叫んだ。

 女の子でも…たとえ女神といえど性欲は持ち合わせているし、欲情だってするのだ。

 しかし螢一はウルドの背徳に満ちた求愛を頑なに拒否した。

 確かに…今のウルドはすこぶるかわいく見えてしまう。思う様慰めてあげたい。

 しかしベルダンディーを裏切るわけにはいかない。ベルダンディーを悲しませるわけにはいかない。彼女の大切な想いを踏みにじるようなマネは、絶対にしたくない。

 が、一方で膨れ上がった肉体的欲望を滅することは容易ではなかった。ここ数週間分の性欲を凝縮したかのようにペニスは強く勃起し、萎える様子を見せない。

 相手が悪かった。相手が悪すぎた。

 ウルドという女神は…本人に自覚が無くとも、誘惑という名の切れ味鋭い凶器をいくつもいくつもその身に備えているのである。

 彼女がその気になればそれらを容赦なくふるい、いかなる潔癖さをも昇華させ、男を狂わせることができるだろう。大切な恋人を忘れさせ、不義に走らせることができるだろう。人間程度の理性では、本来なら一秒たりとも耐えてなどいられないはずなのだ。

 螢一はあらゆる良心を、道徳心を試されているかのような気になった。

「頼むから…もう許してくれ…!」

 忘我し、欲望に支配される自分の姿が見えたような気がした。うめきながら後ずさる螢一を…ウルドはすり足で追う。螢一が一歩退けばウルドは二歩進み出て…少しずつ間合いが詰まってゆく。

とん…。

 背中が壁に触れる。螢一は後ずさるうち、部屋の隅に追いやられていたことに気付いた。

 そんな螢一の前で…ウルドは懇願するように胸の前で手を組み合わせ、ひくっとかわいらしくしゃくり上げた。

「じゃあ…じゃああたいが…螢一のこと、好きって言ったら…抱いてくれる…?」

「好きって、お前…待てよ…待ってくれよ…!いけないってば、ウルド…ッ!!」

 止まった時間の中を泳ぐように…ウルドが最後の間合いを詰める。

「螢一…っ!!」

「ウルドッ…い、いけ…ない…!!」

 ぽろろ、と涙をこぼしたウルドは…真っ直ぐに螢一の胸に飛び込んだ。どうすることもできず、ウルドの身体を抱き留めてしまう螢一。

 くすん、くすんと…耳元ですすり泣く声を聞かされた。聞いたこともないウルドの泣き声は…不安に満ち満ちた声であった。

「お願い…一生のお願い…今夜だけ、あたいを愛して…。このままじゃあたい、待てなくって…外に出てっちゃうかもしれない…。」

「な、なに言って…!!」

「これは脅しよっ!?素性の知れない男とするくらいなら螢一がいい…いえ、螢一だからしたいの、してほしいの!ねぇ、お願いよ、螢一…今夜一回だけでいいの、一回だけでいいから…お願い…」

「ウルド…」

「お願い、助けて…!一夜だけでいいから…普段あの娘にしてあげてるように、あたいにも優しくして…!このままじゃ、このままじゃあたい…女神の資格、自分から捨てちゃいかねないっ!!」

 ウルドはせつなさに耐えるよう、螢一の背中に強く指を食い込ませてきた。求愛の泣き声は出任せでも、その場しのぎでもない本物であった。ガクガク震えるウルドの両脚には…もう膝にまで発情の雫が伝い落ちている。

 螢一はまぶたを閉じ、覚悟を決めるように小さく息を吐いた。

 ウルドを…満たしてあげたい。できる限りの力で彼女を癒してあげたい。

 それは傲慢などではなかった。男としての本性…女性に優しくしたいという生まれながらに備わっているプログラム。女性と愛し合いたいというプログラム。

 螢一はウルドの背中に右手を伸ばし、力を込めて抱き寄せた。

「わかったよ、ウルド…。ウルドにそんなこと、させたくない。」

「じゃあ…それじゃあ…」

「ああ…。そのかわり、絶対に今夜一回だけだからな?キスもしない。」

「…いいわ、それで…。唇は…あの娘だけのものだものね…。」

 唇を重ねることだけはしないという合意のもと…螢一もウルドの身体を抱き締めた。彼女の顔に…歓びに満ちた安らぎの表情が花開くように浮かぶ。

 それは情熱的なウルドにはおおよそ似つかわしくないアーケイックスマイルであった。普段ベルダンディーが見せるような穏やかな微笑…。

 螢一の耳元に、はあ…と熱い歓喜の吐息がかかる。と、ふいにウルドは何事か呟いた。たちまち彼女の指先から霧のようなものが立ちのぼり、渦巻くように室内に満ちると…隅々へ溶け込むように掻き消えた。なにかの法術であったらしい。

「今のは…?」

「静寂をこの部屋に満たしたの。部屋の外には衣擦れ一つ聞こえないわ。どんな声をあげようと…どんな音をたてようと、誰にも聞こえたりしない。」

「…じゃあ…本当にオレで、いいんだな…?」

「さっきから言ってるでしょう…?あなただから、抱いて欲しいの…!」

 そこまで言葉を交わすと、螢一はウルドを愛おしむように抱き締めなおし、転がるようにして布団に倒れこんだ。二人は両手両脚を絡め、ゴロゴロ転がり合いながら夢中で抱擁に浸る。

ちゅっ…ちゅうっ…ちゅ…

 唇以外、おおよそ顔にあるパーツすべてにキスを撃ちあう。

 頬に…鼻先に…まぶたに…。特に額の逆三角形をした聖痕に熱く唇を押し当てられ、強く吸われると…ウルドは身悶えしてか細い悲鳴をあげた。

 そのうち…どうしても互いの唇の感触が確かめたくなる。狂おしく口を塞ぎ、柔らかな内側で舌を絡めてみたくなる…。

 しかし、それは決して越えてはならない最後の一線であった。越えたが最後、二人ともベルダンディーの顔を直視できなくなるような気がしたからだ。

「螢一…嬉しい…。」

「よかった…やっとウルドの笑顔が戻ってきた…!」

 布団の上できつく抱き締め合い、頬摺りしながら感動を伝えあう。胸どうしが強く密着すると、互いの高揚による高鳴りがわかった。

 積極的に愛撫に出たのは螢一のほうであった。許可も得ずにウルドの乳房をTシャツの上から包み込み、揉む。手に余る大きな膨らみは予想以上に柔らかであった。

「ふふ、螢一ったら思春期のガキみたい…。やっぱりしたくてウズウズだったんじゃないの!素直じゃないんだから!」

「…やっぱりやめよう…。」

「ああん、ウソウソ!怒んないでよぉ…!」

「さっきも言ったけど…女神様に売春婦のようなマネをさせるわけにはいかないからね。罰があたる…というか、そのぅ…他人がするくらいならオレがしたかった…。」

「螢一…」

 普段のように軽口を叩いたものの…螢一が素直な気持ちを言葉にすると、ウルドは突然トロン…と陶酔したような顔になった。

「ウルド…オレを…こんなに求めて…かわいいよ、ウルド…!!」

 ウルドがこんなにかわいらしかったなんて…。感じたこともない愛しさがこみ上げてきて、螢一はついつい調子に乗ってしまう。しかしそれは本心であった。

 螢一はウルドの頭を抱き寄せ、頬に強くキスした。ウルドもそれに倣う。ちゅ、ちゅっと音まで立てて…あごに、首筋にキスを撃ちまくった。

「ウルド…上、脱ごっか…?」

「脱がせてくれる…?」

「じゃあ脱がしっこしよう。」

 抱擁の手をしばし止め、二人は上体を起こした。互いをばんざいさせてタンクトップを、Tシャツを脱がしあう。特に螢一は、ウルドの長く美しい銀髪を気遣って丁寧に脱がせてあげた。

「うわあ…」

「な、なによぉ…?」

「あ、ちょっと待って。もっと見せてよ…」

「もう…。」

 薄褐色の乳房が露わになったとき、螢一は思わず感嘆の声を漏らした。ウルドはそそくさと両手で胸元を覆い、恥じらいつつ口元をとがらせる。しかし螢一が求めるとウルドは拒もうとせず、そっと両手を下ろしてあるがままを晒した…。

 大きく、張りのあるドーム形の乳房は…すでに乳首が充血して桃色を呈しており、少し身をよじるだけでも重そうに揺れた。

んぐ…。

 息を飲み、真っ直ぐに見入る螢一。今までのどんなグラビアでも、ここまで美しい乳房を持った女性はいなかった。興奮を通り越し、惚れ惚れするほどの絶対美を感じる…。

 さすがにそうまじまじと見つめられるのは恥ずかしいようで、ウルドはそっぽを向きながらも上体をそらして螢一に差し出した。

「キレイだ…真ん丸で、おっきくて…さすが女神さま…。」

「じゃあ早く…早く女神の乳房に触れて…。好きなようにしていいんだから…!」

「こんな素晴らしい胸に…触れられるなんて…!!」

 感動に打ち震えた螢一は再びウルドを寝かせると、無我夢中で彼女の左胸をつかんだ。右手の指が吸い付くほどの手触りをそっちのけに、真っ先に乳首を口に含む。

 ちゅうちゅうと音まで立てて吸ってみた。懐かしい感覚がこみあげ…かつて母にしたように、甘えた気持ちで一生懸命吸う。彼女の使っているボディーソープの匂いと…発情による極上のフェロモンが混ざり合って螢一を冒し、どんどん夢中にさせてしまう。

「んっ…!け、螢一ったら…もっと、触って…。もっと、痛いくらい…!」

 喜悦の声をあげるウルド。螢一はもうすっかり虜になっていた。ウルドの母性に…淫靡さに…。

 空いている左手で強く右胸をつかむと、搾るように握りながら親指と人差し指とで乳首を摘み、ひねった。一点に集中する苦痛と快感に顔をしかめながらも、ウルドは蒸し暑い室内に女性の鳴き声を響かせる。

「いひいいっ!!」

「ウルドのおっぱい、おいしい…!オレを…狂わせて…」

「もっと狂っていいのよ、誰も来やしない…今夜だけ、今夜だけ特別…。今夜だけはあたいだけに剥き出しの螢一を見せて…。思うさま、乱暴に…!!」

「ウルド…ッ!!」

 螢一はウルドの求める声に魅惑され、さらに乳房への愛撫を強くした。健気にしこった乳首を吸い、唇で挟んで引っ張り、押し転がすように舐め…その周りを舌で擦る。

 左手は手の平いっぱいに包み込んだ右胸を乱暴に揉み、こね、揺さぶった。たぽん、たぽん…と微かに音がする。すべすべで優しい手触りと、むにっ、むにゅっとした絶妙な弾力は危険な常用性を秘めており、何度も何度も撫でては揉む、を繰り返してしまう。

「やわらかい…ウルド、ぽにゃぽにゃしてる…こっちも吸わせて…」

「いいけど、どうしてそんな一生懸命吸うの?こっちだって、なんにも出ないわよぉ…」

「美味しいんだもん…ウルドの汗と、肌の味だけでも…!」

「…なぁんかヘンタイっぽいわねぇ…。」

 ウルドの言葉は聞き流し、螢一は手と口を左右入れ替え、女神の乳房を堪能した。執拗に吸われた左の乳首はすっかりしこり、指で押し転がすと、ツンッ、と固く戻った。右手の平にも滑らかな手触りを、みっちりした質量による弾力を覚え込ませる。

 右胸も乳首を吸われ、素直に反応してきた。小さかった乳首は螢一の唇の中で固くしこり、ちゅうっちゅうっと吸い上げられるたびに張りつめてくるのが感じられる。しこった先端を舌先でちろちろされると、ウルドはクッ…と身体をそらし、たぽん、と乳房を波打たせた。

 螢一に乳房のすべてを独占されてしまったウルドは…優しく、だけどねちっこい愛撫にすっかり感じてしまっているらしい。のしかかる螢一の身体を持ち上げるように、腰を浮かせてよがり鳴いた。

「い、いいわっ、けいいちっ!はぁ…っ、もっと、もっとおっ!」

「うわ…んむ、んん…っ!!」

 螢一の頭を両手で押さえ込んでくるウルド。乳房の気持ちよさに比例した力がどんどん込められ、螢一はむにゅっ…と柔肌に顔を押しつけられた。呼吸を苦しくさせているのにも気付かず、ウルドは離したくない一心で強く抱え込む。

「ああっ、ん、けいいちっ!強く、もっと強く吸って!ねえ、けいいちぃっ!!」

「ん、んんーっ!苦し…ウルド…!」

「あ、あっ、螢一っ!?」

 さすがに螢一の肺腑にも限界が訪れた。拘束してくる両手から頭を引き抜くようにして、ウルドの暖かな膨らみから逃れる。顔中唾液でベトベトにした螢一はつらそうに肩で息をして、思う様新鮮な酸素を体内に取り込んだ。

「…ごめん、螢一…。あんまり気持ちよかったから…」

「はあ、はあっ…いや、いいんだよ…。はぁ、息するの忘れて夢中になってた…。でもさ、ウルドのおっぱいで窒息なんかしたら、天国と地獄、どっちに行けるのかな?」

「あら、あたいは女神なのよ?決まってるじゃない。」

「じゃあ…たぶん地獄だろぉな。」

「なんでそうなるのよぉ…?」

 くすっと微笑を交わし、そのまま見つめ合う二人。照れくさくてならない気持ちですら心地よい刺激となって興奮を誘う。

 これは恋に落ちた錯覚…。恋人どうしのような錯覚…。

 じぃっと対峙した二人を、しばし沈黙が包み込む…。

「螢一…」

 先に沈黙を破ったのはのしかかられた体勢のウルドであった。うわめづかいに螢一を見、思春期の男の子なら聞いただけで果ててしまいそうな甘えた声で…

「やっぱり唇に…キス…して…。」

とおねだりした。螢一からの禁じられた愛撫を求めるよう、震えるように唇が開閉する。

 螢一は表情を引き締めてウルドを見つめ直した。困惑の色が目元に漂う。

「…ウルド、お前がそんなこと言っていいのかよ…?姉だろ、お前は…。オレの気持ちを知っててそんなこと言うんだから…」

「いやっ!お願い…キスしてほしいの…。今だけっ…今だけ、あの娘を忘れて…っ!」

 そう涙声で駄々をこねると、ウルドは右手の人差し指で焦れた唇を慰めた。風呂上がりですっぴんの唇を押し割るように擦り、上から下からをまんべんなくいじりまわして…ちゅぷ、と口に含む。

 唇をとがらせるようにすぼめながら細い指をちゅうちゅうしゃぶり、泣きベソ顔で上目遣いに螢一を見上げた。すん、と鼻をすすり上げたりする。

ぱきん…。

 そんなウルドを見てしまった螢一の奥で…何かが潰れる音がした。

 それは金剛石もかくやと思われた螢一の理性が圧壊し、潰れてゆく音であった。あごが背徳の歓びにわななくのを必死に耐えていたが…所詮悪あがきであった。右手が彼女の指を唇から強引に引き離す。

 もう…ウルドが愛しくてならなかった。

「…ウルド、頼むよ…もうオレを困らせないでくれ…!」

ちゅっ…。

 禁断のラインを越える音が…室内に響いた。

 戸惑い果てた螢一が押し当てた唇はウルドの整った唇に強く密着し、いつまでも離れなかった。互いが鼻でブレスするのを頬に感じながら、二人は一分を超えてキスを続けた。

 胸が苦しい…。最愛の女性以外の女性と唇を交わしたことに螢一は自責に苛まれたが、その奥からこみあげてくる感動がすごかった。忘我を繰り返してしまう。

 ウルドも感激のあまり…感涙を溢れさせていた。螢一の唇があまりに心地よくて…焦れたヴァギナはおもわずしおを噴いてしまった。黒いTバックショーツの布地を通り越し、膣口を覆う辺りから、ぬむ…と愛液が漏れ出る。

 螢一の方から唇を離すと…ウルドはすっかりのぼせたようになっていた。んく、と小さく喉を鳴らし、さらに両手を差し伸べてくる。

「けいいち…もっとキスして…もっと深く、もっとたくさん…」

「もっとかよっ、じゃあもっともっと、ウルドがイヤッて言うまでしてやるっ!」

 苛立つように告げた螢一は再びウルドの唇に吸い付いた。螢一もウルドとのキスにのぼせてしまっていた。もうそのままのウルドしか見えない。

 螢一は唇の隙間から、くぴ…と唾液を流し込んだ。ウルドはそれを受け入れ、舌で自らの唾液と攪拌してから送り返す。

 互いに舌を差し込み合って何度も何度も唾液を交換し…媚薬めいた雫を味わった。脳が沸騰してしまいそうなくらいに悩ましい味に、二人して身悶えする。

 螢一にはそれとはわからないのだが、ウルドにはキスを通して螢一の気持ちが如実に伝わっていた。熱い欲望、冷たいうしろめたさ…その奥に見える、確かな好意…。

 ベルダンディーへの想いはうしろめたさもあいまって圧倒的であったが、自分への好意も欲望と同時に光を放っていたことはなにより嬉しかった。安心したように身体中の緊張を解き、螢一が貪欲に繰り出すキスに応える。

「う、ウルドの唇、柔らかくっておいしい…!!」

「あ、け、螢一…嬉しい…!もっと頂戴、もっと…ちゅあ、む…かはぁ、ん、ちゅ…」

 舌を深く潜らせながら何度も重なる角度を変え…息継ぎしてはまた舌を絡み合わせる。唾液の味は舌の先から根本までくまなく染み込み、背徳の美味を忘れられなくさせた。

 口の周りがベトベトになるまでキスを交わすと、螢一はウルドの胸元に唇をあて、強く吸った。螢一の頭を押さえつけ、せつなくおとがいをそらすウルド。

 ずらすように唇をどけると…そこにはもう鮮やかなキスマークが残されている。螢一はウルドの首筋にも唇を押し当てようとした。

「だめ…キスマークつけないで…。ふたりにバレちゃう…」

「襟の付いた服、着てればいいだろ…それか、部屋にこもってるか。」

「だったら螢一にもつけたげようか?同じトコロに…?」

「わ、わかったよ!キスマークつけるの、やめる…」

 明日がデートだというのに、キスマークなど見つけられたらどうなることか想像に容易い。螢一は不満そうにつぶやき、唇を別の場所に移動させた。そこはウルドの額の聖痕であった。

「じゃあここなら…いいよね?」

「ウソ、ちょ、ダメッ!そこ弱いのっ!!だ、だめ…あ、あ…あはあああっっ…!!」

 ウルドはどうもこの聖痕が性感帯らしい。唇を当てただけで身を強張らせ、強く吸われると狂おしい絶叫を迸らせた。ぽろろ、と涙をこぼし、ボッと顔面を紅潮させる。

 螢一の下でウルドは腰をガクガクさせると、例によってTバックショーツの布地から愛液を染み出させた。立て続けにしおを噴いたらしく、大量に染み出た愛液はとろ…とハチミツのように流れ落ちる。

 ちゅぱっ、と唇を離しても、螢一の見立てではそれほど目立つ跡は残っていなかった。逆三角形の部分は相変わらず黄昏色に充血しているのみである。

 ウルドは軽く達してしまったようで、惚けた顔でぐったりしてしまった。女神の聖痕はよっぽど敏感なところであるらしい。ベルダンディーやスクルドも同様なのだろうか。

「ウルド、大丈夫か…?ちょっとやりすぎた?」

「だめって…だめって言ったのに…あ、やだっ!噛んじゃだめ…っ!!」

 息も絶え絶えに非難するウルドであったが、その頃にはもう螢一は聞く耳を持ち合わせておらず、さっさと次の愛撫に取りかかっている。

 非難を言い終える間もなく、ウルドは鋭い鳴き声をあげた。螢一の唇は彼女のしこった右胸の乳首を口に含み、そっと歯を立てたのだ。もちろん噛みつきなどしない。少しだけ歯先の感触を与え、意地悪しただけだ。

 螢一はだらしなく唾液を乳首にこぼし、それと一緒に強く吸い上げた。ぢゅ、ちゅっ、ちゅうっ、と刺激と音でウルドを攻めたてる。

「ん、んはあああっ!や、も、け、けいいちっ…!!」

 乳首もそうとう敏感なのか、ウルドは艶やかによがり声をあげ、もう片方の乳房も自ら愛撫した。手の平いっぱいに包み込んでムニムニ揉み、指先で乳首をくりくりひねり上げて刺激をくわえてから、ぐい、と膨らみを前に引き寄せ…精一杯うなだれて口に含む。

ちゅうっ…ちゅっちゅっ、ちゅうっ…

 自分で自分の乳首を吸いはじめるウルド。一度に両方の乳房を吸われ、困惑しきった顔で頬を真っ赤に染めた。小振りな耳まで火傷しそうなほどに真っ赤である。

「ウルド、オレにも気持ちいいこと、して…」

「ええ、わかってる…腰、寄せて…」

 螢一もすっかり待てなくなり、ウルドの太ももにトランクスごしの強ばりを押しつけて求めた。彼女に言われたとおり腰を前に寄せる。

 すると、ウルドのしなやかな右手の指が、待ち焦がれて痙攣していたペニスをトランクスの上から優しく包み込んできた。

 すり、すり、と指がくねり、布地ごしにペニスを愛撫する。直接でなくともわかる大きなくびれに指をひっかけ、何度も弾いては先端部分をつかみ、揉んだ。快感に震えるペニスはウルドの手の平の中で何度も何度も反り返るように飛び跳ねる。

「うわ、わあ…っ!ウルド…すごい気持ちいい…!」

「わかるわ…だっておもらししてるもの…」

 螢一の声は世辞なんかではない。現にウルドの手の平の中、螢一は無意識に腰を動かし始めている。本能が膣と錯覚を起こしているのであった。もうこのまま彼女の手の平で果てたくなる…。

 ビクン、ビクン、と力強く反応を示していたペニスは盛大に逸り水を漏らしていた。トランクスの前を変色させ、ヌルヌルが生地を通過し、ウルドの手の平を濡らす。それを彼女はおもらし、と茶化してみたのだ。

「…直接触ってもいい…?」

「ああ、頼むよ…じかに…じかに握ってくれ…っ!」

 哀願するような螢一の求めに応じ、ウルドは右手をトランクスの内側に差し入れた。熱くてガチガチのペニスは…予想以上に太々としていた。

 一本ずつ細い指を絡め…ぎゅ、とじかにつかむ。螢一の愛液を手の平いっぱいに受け取り、ウルドはツヤツヤな先端を搾るようにしごきはじめた。

 ヌル、ル、ル、ル、と指の一本一本がくびれにひっかかり、さらなる愛液を搾り出させるかのごとく先端を締め付ける。右手はゆっくり、だけど確実にペニスを往復した。ぬめる音が次第に大きくなってゆく。螢一はウルドへの愛撫も忘れ、のけぞって鳴いた。

「うあ、ああ…っ!ウルドッ、ま、待って…!出ちまう…!!」

「ふふふ、敏感ね!どう、自分でするのとは違うでしょう?」

「ち、違うから、ちょっと待って!ねぇ、ウルド…一緒にしようよ…。じかにおまんこ、触ってあげる…」

「ちょ、やめてよぉ、お、おまんこだなんて…!」

 螢一の吐いたある単語にウルドは目を真ん丸にし、左手で口元を覆って恥じらった。意外なしぐさに螢一はついつい調子に乗ってしまう。

「おまんこって、恥ずかしい?オレ、ウルドのおまんこ…どんな具合になってるか見たいなぁ…。ね、ウルドのおまんこ見せてよぉ…。」

「やだあ、もう…!」

「はは、ウルド、かわいい…!」

 恥じらうウルドに満足したような笑みを浮かべ、螢一は右手をウルドのTバックショーツの中に滑り込ませた。

 濃いめの性毛に覆われた、むっちりした恥丘に指がさしかかる。そこで少し侵攻を休め、柔らかな隆起を指の腹でぷにぷに指圧してみた。両側から摘むようにしてみると、ウルドはそっと目を閉じ、ひくく、とあごをわななかせる。

「ぷにぷに柔らかぁい…。けっこうもりもりしてるもんなんだね、ここって…」

「し、知らないっ、そんなこと…!」

 気にしているのか恥ずかしいのか、ウルドは目を閉じたままで、ぷい、と横を向いてしまう。そんなウルドにますます愛しさが増した螢一は頬に軽くキスしてから、女神の性毛をもしゃもしゃ指先で撫で、恥丘より向こうへ右手を進ませた。

 濡れたショーツの布地を手の甲に感じながら進むと…中指と薬指が快感に震える柔肉に触れた。すっかりびちょびちょになっている裂け目の感触を探ろうと、中指を線に沿ってなぞった矢先、中指の先はむちゅ…と狭間に潜り込んで膣口にひっかかった。そのままヌプ、と滑り込んでしまう。くつろいだ、大人の女性器であった…。

「や、ゆび、入ってる…!」

「熱い…!うわあ、中ってこんなにプリプリしてるんだ…狭くって…けっこう深い…」

「螢一、待って!あんまり深く入れちゃダメよ…出てきちゃうから…」

「出…って、な、なにが…?」

 螢一は予想外の言葉に驚き、両目をパチパチさせてウルドを見た。出てくる、とは一体何のことなのか。中指を慌てて引っ込め、ウルドを見つめる。

 ウルドは照れくさくてならないのか…ペニスへの愛撫も中断して、そっぽを向きながら少し早口に説明した。

「今日…薬局へ行ってきたの。人間界の避妊具を買いに、ね?で、いろいろあったんだけど…螢一に手間かけさせたくなかったから…マイルーラ、買ってきたの。知ってる?」

「ま、マイルーラ!?」

 螢一は驚きのあまり、大声で避妊具の名前を叫んでいた。ウルドも自分で行使した法術を忘れたのか、口元に人差し指を立てて、しーっと螢一をたしなめる。

 マイルーラとは円いフィルム状の女性用避妊具だ。円錐状に折ってから膣の奥まで挿入すると、中で溶けだして子宮口を塞ぎ、精子の子宮への侵入を防ぐものである。それと同時に殺精子作用も有しているので二重の避妊システムと言えよう。

 螢一もその手の雑誌でマイルーラについては見知っており、具体的な形状、使用法は知っている。

 しかし女神がそんなものを使うとは…もう意外としか言えない。

「まさかそのために…さっきまでオナニーしてたのか?」

「まあ、そんなとこ…。でもあれって挿入が難しいのよね?手間取ってたら溶けだしちゃって…。だから今あたいの中に入ってるの、実は二つ目…。」

 横目で螢一を見、照れ隠しに舌を出してみせるウルド。普段の彼女からは想像もできない愛くるしいしぐさだが、そのぶんキューピッドの矢となる条件は満たしており、螢一の胸の奥に深々と食い込んだ。動悸が増し、ぽっと頬を染めてしまう。

「あ、あ、や…コンドームでよかったのに…」

「あら、螢一ったら、もう持ってるっていうの?それともあたいがコンドーム頂戴って薬局の人に言えっていうわけ?どちらが買いやすいか想像できないの?」

「う、コンドームは…買えないよなぁ…」

「でしょ…?」

 ウルドの左手が伸び、恥じらう顔を見せまいと螢一の顔を引き寄せ…思い出したようにキスする。唇を重ねたまま、ウルドは片手で螢一のトランクスを下げた。強く反り返ったペニスがへそにあたり、ヌルヌルと雫をつける。

「ね、螢一…本番の前に舌の感触も味わっておく…?」

「し、舌っ!?そ、そんなっ、いいよっ!悪いよっ!」

「悪くなんかないわ…あなたにもしてもらうもの…。さ、ハダカになりましょう?」

 そう言うとウルドは腰を浮かせつつ、自らスル…と薄物を脱ぎ捨てた。ねっとりと愛液の糸を引かせたTバックショーツがぽい、と放られると…ウルドはもう生まれたままの姿を螢一にさらけ出していた。

 洗い立てで美しく光る銀色の髪。

 魅惑の言葉を紡ぐ形の良い唇。

 はちきれんばかりに熟した、迫力あるドーム形のバスト。

 無駄なたるみがなく、しかし筋張ってもいない絶妙にくびれたウエスト。

 美しく弧を描く、余裕に満ちたヒップ。

 ふっくらした恥丘を翳りで覆うヘアー。

 そして…太ももの隙間でねっとり潤っている生命の裂け目。

 女神の裸体は完璧であった。

 螢一も彼女に倣ってトランクスを脱ぎ捨てた。上背はないがそれなりに引き締まり、筋肉質な体格をしている。そそり立つペニスは逸る気持ちでいっぱいで、一生懸命背伸びをするように性毛から突出し、天井を仰いでいる。

「螢一が仰向けになって…。あたいが上からしてあげるから、あたいにも…ね?」

「わかった…」

 言われるまま布団に寝そべる螢一の上にウルドが天地逆にのしかかり、シックスナインの体勢をとる。ウルドは眼前のペニスを待ち焦がれた瞳で見つめ、そっと手にすると濡れた先端に唇をあてた。すぼめた唇でスタンプを押すように何度も何度もキスを撃つ。ちゅっちゅっちゅっ…と連発するたび、唇と先端の間で逸り水が糸を引いた。

「うあっ、う、ウルドッ!!」

「あたいにもして頂戴…はやく、はやくぅ…」

 女神に性器を口づけしてもらっている。ゾクゾクするほどの背徳感と唇の柔らかい感触に螢一は女の子のような高い声でうめいた。ウルドも待ちきれない様子で、おしりを振って愛撫を求めてくる。

 かぶりを振って気を取り直す螢一。とりあえずは初めて目の当たりにしたヴァギナを事細かに観察することにした。

 濃いめの性毛をたどり、むっちりした肉の内側からはみ出すように開いている濃い桜色の粘膜。その縁に見えているクリトリス。そして、新たな生命の生まれくる膣口…。

 螢一にとって刺激の強すぎるその光景は、まさに猥褻美とでも言うべき存在であった。見た目はそれほど素敵ではなく、むしろグロテスクな感じなのだが…淫靡な雰囲気が錯覚させ、目が離せなくなってしまう。

 誘い込まれるようウルドのヒップに手をかけ、螢一はゆっくり顔を持ち上げた。ヒップもサラサラでつるん、としており、触り心地は乳房に劣らず良い。いつまでも撫でていたい手触りだが、それだけではウルドは満足してくれないだろう。

 独特の女性の匂いがわかるくらいに鼻面を近づけ、裂け目に吸い付くように唇を押し当てた。その奥で、れるん、と舌を翻し、女神の愛液を味わう。

「ひ、そ、そこ…!ああ、もっとベロベロ舐めてっ!」

 ウルドは腰に電流を走らせたように、ブルブルッと震えてよがった。びゅ、と膣内から愛液が絞り出され、螢一の顔を濡らす。

 ひるむことなく螢一は執拗に舌をくねらせ、情欲の匂うラブジュースを舌の根本の辺りで堪能した。ウルドのラブジュースは白っぽく、汗の味の他にほのかな酸味があった。

 もっと濃いラブジュースを求めるかのように…螢一は充血した粘膜肉を指で押し開き、生命の穴に唇を当ててちゅぢゅうっと吸い出す。

 粘膜肉の縁で光る紅玉のようなクリトリスをも舌先で弾いてみた。敏感な本体をくるんでいる包皮に指先をかけ、挟みこむように押すとニュリ、と剥き出てしまう。螢一は女神のクリトリスに口づけし、舌でくりゅくりゅ転がしてから強く吸った。

「ひいっ、い、痛いっ!だめ、皮むいちゃだめ!あ、そ、そう…皮の上から、あ、ああっ!やだ、気持ちよすぎるぅ…っ!」

 恍惚の鳴き声を漏らしながら、ウルドも懸命に螢一のペニスを舐めていた。大きく舌を広げ、先端の広い部分にまんべんなくざらざら感を擦り込む。右手で強く根本をつかみ、左手はフニャフニャな袋をころころ弄んだ。

「うふ…螢一の、すっごい男らしいわ…。かたくて、こんなに大きい…!」

「そ、そうかなぁ…?」

「自信持っていいわよぉ…?女神のあたいが太鼓判押すんだから…。」

 ウルドは螢一のたくましいペニスに惚れ惚れしながら、ぺちょぺちょ音立てて先端を舐めあげた。表から裏かられろっれろっと、滲む逸り水を乗せながら強く舐める。

 右手で作った筒で幹をしごきながらペニスの角度を変え、くびれにもグネグネ舌を絡めた。幹にキスを撃ち、はぷ、と唇で挟んだりして必死に愛撫する。螢一もたまらずあえいでしまった。

「舌がこんなに柔らかいなんて…ウルド、もっともっと舐めてくれ…!」

「ふふ、舐めるだけじゃないわよ…特大ソーセージ、いただきまぁす…!」

「え…?わ、わあっ!?」

 ウルドは言い聞かせるようにそう言うと、大きく口を開け…はぽっ、と螢一のペニスを頬張った。螢一はあまりの気持ちよさに、思わずウルドへの愛撫を中断してしまう。

 それほどまでにウルドの口中はよかった。右手なんかとは比べものにならない。腰を引くようにしてのけぞり、背中と布団の間に隙間を作ってしまう。

 ウルドの唇を押し割るように、長太いペニスは中程まで飲み込まれてしまった。そこがウルドの口中の許容いっぱいのラインであった。狭い喉の入り口が、きゅきゅ、とペニスの先端を確かめている。

 むせこみたくなるギリギリの奥深くまで男性器を飲み込むと、ウルドは頬をすぼめたりしながら舌でもぎゅもぎゅと味わい、ゆっくり頭を上下させた。繰り返してしごかれるたびに舌の上に逸り水があふれ、独特の渋みがいっぱいに拡がってくる…。

「あわ、あわああっ!う、ウルド待って…!口の中に出しちまうっ!!」

 腰を引かせっぱなしの螢一はすっかりウルドへの愛撫を忘れていた。肛門を締めるようにして力を込め、射精したくなる衝動に耐えるのだが…限界が近い。女神のフェラチオに酔いしれ、恥じらいも忘れて情けないよがり声をあげる。

「くそぉ、待ってって言ってるだろぉ…!」

 たまらず螢一は左手の中指をウルドの入り口へと乱暴にねじこんだ。中指を来るべき物と錯覚したウルドのヴァギナは、きゅうっと中指を締め付けてくる。

 第二関節まで埋め込んだところで、螢一は強引に指を曲げて襞の隙間をぐりぐりとかき分けた。熱く、狭い膣内が感じているのが指先から伝わってくる。

「んむーっ!!んんーっ!!」

 ペニスで口を塞いだままウルドは頭をフルフルして悶えた。待ちきれなくなった涙がひとすじ、頬を伝う。

 螢一が曲げたままの中指をちゅぽっと音立てて引き抜くと、ウルドも顔を上げてペニスを解放した。抜け出たペニスは粘液と唾液にまみれ、ベタンと螢一のへそを叩く。

「はあ…はあ…螢一、もうあたい、待てない…っ!」

 発情しきって泣きベソになったウルドは四つん這いで前に這い進むと、くい、と腰を突きだして後背位の体勢で螢一を求めた。

「螢一は…したことないの…よね?」

「あ…ああ…」

「これなら場所、わかるでしょう?早く、早く入れて…!マイルーラが溶けてなくなっちゃう前に…ね、早く入ってきてぇ…。」

 淫欲に堕ちた女神に誘われて…螢一も上体を起こした。膝立ちになってウルドに寄り、あらためて欲情した彼女を見つめる。

 潤んだ濃紫の瞳、真っ赤に火照った頬。

 銀色に艶めく長い髪、小さな汗の粒。

 しなやかな背中、誘惑的なおしり。

 熱く開いた裂け目、愛欲の雫、彼女の…彼女だけの匂い。

 女性はかくも艶やかになれるものなのか…。螢一は古来より欠かすことなく続いてきた男女の営みの理由がわかるような気がした。

「ウルド…きれいだ…」

 その言葉は無意識下に口をついていた賛辞の言葉。まぎれもない螢一の本心であった。ウルドの表情が幾分ゆるみ、瞳のウルウルが増す。

「…嬉しい…螢一、きて…」

 


(98/10/19update)