「…嬉しい…螢一、きて…」
四つん這いのウルドは髪を横に流し、そっと目を伏せて交尾を望んだ。
一方で螢一は童貞を卒業しようとしている興奮に目眩まで覚えていた。
こんな妖艶な女神とこれから交わろうとしているなんて…。
こんな妖艶な女神が初めての相手だなんて…。
ベルダンディーの事が気にかかりはしたが、ウルドへの愛欲はすでに理性の息の根を止めていた。一回だけ…一回だけならなにも変わりはしない。自分ながらに意味深な説得を心中繰り返す。
決心がついた。そっとウルドのおしりに触れる。
「い、いいんだな?するぞ…?」
「ええ…あたい初めてじゃないから、もう一気に入れて…!」
その瞬間をうなだれて待つウルド。螢一は舌で愛撫されて興奮しきりのペニスをしっかり握り、慎重に目標を定めた。先端が裂け目に埋まり、ヌプ、と一部入り込む。
「そこよ…お願い、ひとつになって…!」
感触に、せつなく求めるウルド。初体験の緊張に螢一はあごが震えた。
ふざけ友達感覚で今まで過ごしてきたウルドと…艶やかではあるが、刺激が強すぎて敬遠していたウルドと、まさかこんなことになるなんて…。
螢一はきゅっと目を閉じると、一息に腰を突き入れた。
ずぶっぷぷ、ぬぷぷぷ…
「あはああっ!い、いいのっ、けえいちぃっ!!」
「うわあ、あっ、す、すげ…っ!!」
ウルドも螢一も、結合の感動を叫び声にしていた。螢一の長太いペニスはいっぺんにウルドの膣内深く潜り込み、こつん、と行き止まりにつっかえてしまう。腰とおしりはぺた、とくっついてしまっていた。
細かな襞が生暖かくぬめりながらくびれに吸い付いてきて、まるで搾るように絡まってくる。そのあまりの心地よさに螢一は童貞卒業の歓びを隠そうともせず、上擦った声を漏らしながら腰をとすんとすん動かした。両手でウルドのおしりをつかみ、ぢゅぷ、ぢゅぷっと膣口から愛液をかき出して…交尾の歓びに浸る。
「ああっ、ああっ!!ウルド、気持ちいいっ!あっ、う、ウルドッ!ウルドッ!!」
「あんっ、やぁねえ、あたいはここにいるでしょうっ…!?」
「すごい、すごい、すごいよおっ…!や、ヤバイッ、出ちゃうっ!!」
ものの十秒も動いていられただろうか。螢一はウルドの想像を絶した気持ちよさに躍らされ、感極まったあまり興奮がリミットを越えた。深く没入したままのペニスは最高に強張り、凄まじいまでの高ぶりが根本に殺到する。ぴた…と腰の動きは止まってしまった。
ウルドはきつく目を閉じたままイヤイヤして、
「いいのっ、一回出して!このまま中に出していいからっ!!」
と膣内射精を促した。自ら擦れるようくい、くいっとおしりを振るが…螢一は左手で根本の管を押さえつけ、肛門を締めるようにして最後の瞬間を堪えつつ、ずぽぷ、とウルドからペニスを引き抜いてしまった。ぬめる先端も慌てて右手で塞ぐ。
「…そんなぁ…マイルーラ入れてあるんだから、そのまま出してもよかったのに…」
「ごめん…だけど…ああ、もうヤバイッ!手を離した途端にイッちまいそうだっ…!!」
「けいいちぃ…」
一方的に中断されたウルドは不満そうに溜息を吐くと、身体を向き直して螢一の顔を見上げた。四つん這いのままだからほんの少し上目遣いぎみになる。
「ね、螢一…もう少し待てる?」
「あ、ああ…でももう、今にも…ごめん、ごめんな、ウルド…!!」
「謝らないで、それだけあたいが気持ちよかったってことでしょう?気にしないでいいの、初めてだったんだし…それに、元気いっぱいな証拠…。」
うなだれて泣き出しそうな螢一にウルドは上体を起こし、両手で自らの乳房を寄せて見せた。はちきれそうな乳房と、くっきり作られた谷間が螢一の目の前に迫る。
「ね…胸でイッてみない?あたいの…女神の胸で…。」
「なっ…!?」
螢一はあごを微震させながら誘われた内容に打ち震えた。その言葉だけで果てそうになったが、左手で管が堰き止められているため終わりはこない。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、どうにか波を引かせる…。
なんとか落ち着きは戻ってきたが、それで興奮がおさまったわけではなかった。
螢一の身体は確実に、一回イキそこなったのだ。次回の射精に備え、腰の奥でドロドロしたわだかまりが蓄積する。
おそるおそる両手を離しても、もう暴発の気配はなかった。代わりに粘液状でない、サラサラな白液が右手の平にこぼれていた。
「ほら、あたいの上をまたいで…螢一の特大ソーセージでホットドッグを作るの。」
「いいのか、ウルド…?オレだけ気持ちよくなっても…」
「一回スッキリしたいでしょう?もちろん…後であたいも気持ちよくしてくれる、のが前提よ…?」
「ううっ、ウルド、ゴメン!!」
先に横たわったウルドの言葉に、いてもたってもいられなくなった螢一は彼女の胸の上をまたいだ。乳房の狭間にペニスをあて…両側からむにゅ、と包み込んでもらう。なるほど、こんがり焼き上がったパンでつくったホットドッグのようになってしまった。しかしホットドッグというにはボリュームがありすぎる感もなくはない。
そんな特大ソーセージを挟み込むパンは柔らかく暖かく…最高の食材であった。形も、きめの細かさも一級品である。
それにしてもウルドに…女神にこんなはしたないことをさせているなんて…。背徳感、冒涜感が螢一の心の奥に潜む暗い欲望を揺り起こし、たまらなく満たしてくれる。
「うわぁ…や、やわらかくって…いい気持ちっ!」
「ほら、抜け出ないように動いてみて。きっと凄いわよぉ…!」
螢一は仰向けのウルドとできるだけ平行になるように身体を倒し、ゆっくり…しかし深く腰を動かした。くびれが谷間をを抜け出るたびに感じたこともない快感が脳髄をひっかきまわしにかかる。螢一が無色透明のソースでパンの間をヌルヌルにすると、ソーセージの動きは一層滑らかになり、大きさは迫力を増した。
「あっ、ああっ、あああっ!き、気持ちいい、ウルドの胸、最高っ!!」
「うふふ、喜んでもらえて嬉しいわ!あたいに気にしないで、イキたかったら思いっきりイッていいわよ…?」
「そんな、か、顔にかかるよ…汚しちまう…」
「いいから…早くイッて、つ、続きを…!」
そうせつなげにつぶやくウルド。欲しくてたまらないペニスは…先程交尾を中断されたペニスは目の前でぬっちゅぬっちゅと出たり入ったりしている。
早くこれでかき回してほしい。デタラメにえぐってほしい。そして…。
そう思うだけでヴァギナはきゅんきゅんうずき、狭く締まって想いのこもったラブジュースを噴き出した。
「はやく…はやくほしい…!」
そうつぶやくとウルドは頭を起こし、精一杯舌を伸ばして情欲のソースに濡れた螢一のソーセージをチロチロ舐めた。尖った舌先が逸り水を舐め、尾てい骨の辺りにまで鋭い刺激を叩き込む。
刹那さえあればことたりた。
「ああっ、う、ウルド!ウルド!!ああ、出る!出るうっ!!」
びゅううっ!!びちゃっ!びちゃ、べちゃ…
「ひっ…!!」
それで淫乱のホットドッグは調理を完了した。歯ごたえのありそうな熱々ソーセージは、ふんわりホカホカのパンの狭間奥深くから抜け出た瞬間、黄ばみかけた白濁のスペシャルソースを…耐えに耐えたぶんまとめて放出した。一切の躊躇い無く、グルメな女神の顔いっぱいに…それはもう額、まぶた、鼻、頬、唇、あご…。顔のあらゆる部分に心ゆくまでぶちまけ、その味を披露する。
射精の瞬間に備え、きゅっと目を閉じたままウルドは顔じゅうに精液を浴びた。べとべとにまみれたまぶたを開け、汚された事実で呆けたようにペニスを見つめていたが…
ぷぁ…ぴちゅ…
脱力して頭を寝かせ、唇についた精液を舌を伸ばして舐め取った。渋味が喉に絡みながら胃に流れ込んでゆく。
「けいいちの…精液…」
「ウルド…ごめん、ごめんな…」
射精した余韻に包まれたままの螢一は左手を伸ばしてティッシュペーパーを大量に引き出し、腰を離してウルドの顔から精液を拭き取りにかかった。
薄褐色の肌に白はよく映えており、あらためて盛大に放出したことに気付く。ぼうっとしたままのウルドの顔は、二回分の生臭い精液ですっかりドロドロだ。
「けいいち…あたいの胸、よかったでしょう?」
「うん、最高だった…。ひどいことしてごめんな。」
自らの性器も入念に拭い、螢一は深々と頭を下げた。
「ううん、そう思うのならあたいを満足させて…?」
「…わかったよ。オレ、頑張るから。」
自信はなかったが…螢一はそう約束せずにはいられなかった。そっと差し出された左手を右手でつなぎ、しっかとうなづく。
そのときウルドが浮かべた微笑は…胸が破裂しそうになるほどかわいらしいものだった。
大人の女性とばかり思っていた。
自分なんかにはいささかの興味も示してくれないものと思っていた。
だから敬遠していた。
異性としていくばくかの憧れは抱いていたが、それを見透かされては手玉に取られ、挙げ句の果てには妹との仲にまで茶々を入れてくる彼女を…正直な話、疎ましくさえ思っていた。
なのに…今はこんなに愛しい。
発情の標的に定められたためか、男性としての本能は彼女に応え始めていた。ウルドがかわいくてならない。ウルドが愛しくてならない。ウルドが…ウルドが…
「ウルドッ…」
「んっ…」
綺麗に精液を拭き取られた頬にキスし、そして唇どうしを重ねる。大量に放っておきながらも螢一のシンボルは萎えることを知らず、強く硬直したままであった。
「したい…。」
「あ…」
螢一は手を取ってウルドを起こし、あらためて四つん這いにさせた。挿入を待ちきれなくて溢れかえった愛液は、おしりの穴から太ももからをすっかりべちょべちょにさせている。裂け目はくんにゅりと開き、深奥の薄膜はひくっひくっと螢一を手招きしているようであった。
「すぐにいいの…?休憩しないで大丈夫?」
「…ウルドだって待てないんだろ?オレなら大丈夫。もういつだってできるよ。」
「うふ…素敵よ、けいいち…。」
「ありがとう。じゃあ今度こそ…最後まで…」
「うん…」
普段のウルドからは聞き慣れない了解の言葉。すっかり螢一に甘えるように、自分からそろそろと腰を近づけてくる。
螢一は連戦に応じようと武者震いするペニスをつかみ、ウルドへの入り口に押し当てた。ひちゅ…と先端を埋めて固定する。両手でまろやかさを確かめるようにウルドのおしりを撫でてから、ぎゅっと指を食い込ませてつかんだ。
「いいね…?」
「うん…つながって…!」
体重を前方に移動させながら、ずっ…と腰を突き出す。パンパンにつやめくペニスの先端は先程同様容易く膣口を割り拡げ、ヌルルルッ…と潜り込む。
「んんんっ…!!」
「ウル、ド…!」
つらそうに声を漏らすウルド。しかし苦痛では無かった。待たされたぶん快感が大きすぎただけである。こなれたウルドの内側は螢一が押し込めば押し込むだけ、ズプヌプと熱い深奥へと導き込んだ。
かといって狭さは絶妙で、螢一のペニスは全体でその寵愛を拝受した。でこぼこした膣壁に擦られながらヌル、ヌルル、と突き進み…再び終点を探り当てる。
射精直後で感覚は鈍っているとはいえ、中枢がナタで叩き切られたような感触に背筋がゾクッとする。先程放ったばかりだというのに、信じられないくらい気持ちいい。
あまりの快感にペニスの感覚は一層鈍くなり、ウルドのヴァギナの中で熔けてしまったような錯覚に見舞われた。
「あったかぁい…。ね、ウルド…つらくさせてる?」
「ううん、すごいいいの…さっきよりもいいの…!この感じ、久しぶり…!いっぱい、押し広げられてるっ…!ね、螢一…初めての感想はどう?」
「なんていえばいいのか…もう、メチャクチャ気持ちよくって…これがセックスなんだなぁって、感動のほうがすごくって…!ああ、ずうっとこうしていたい…!」
童貞卒業の感想を上手く言葉にできず、螢一は納まったままの体勢でウルドの背中を撫でてあげた。明らかに男とは作りの違う肌。触るだけでゾクゾク感じてしまう。
螢一は繋がったままで上体をゆっくり前方に倒し、左手で支え、右手でウルドの乳房をつかんだ。下を向かされたぶん胸の膨らみはいっそうボリュームを増し、螢一の手の平にみっしりと質量を感じさせてくる。
「…ああ、ウルドとセックスしてるんだ…ウルドと…ウルドとっ…!!」
「けいいち、動かないとセックスじゃないわ…?早く動いて…!行ったり来たりして!!」
「あ、ああ…じゃあ動くぞ…?」
ぺた…ぺた…
腰とお尻が密着しては離れ、密着しては離れ…。螢一の不慣れなピストン運動は極めて短いストロークでウルドの深奥を刺激した。こつん、こつんと子宮口がノックされる。
「うはぁ、すっごい入ってる…!ここ、ウルドの一番奥なんだろ…!?」
「ああ…そ、そうっ…!すごい深いわ…螢一、もっと強くしてみて…!」
「も、もっとだな…よぉし…。」
ウルドの求めに応じようと、螢一は乳房をつかむ右手にさらなる力を込め、徐々にテンポとストロークを増していった。行ったり来たりと擦れる時間が長くなるぶんペニスが受ける快感も増す。螢一の中枢は間断なくズタズタにされ、油断するといっぺんに達してしまいそうであった。ペニスは最高潮の大きさを持続させられたままだ。
そんなはちきれんばかりのペニスで掘り返されるウルドもまた、腰の中身が熔けだしそうな心地に打ち震えた。ズンズンと深奥を突かれるたびにあん、あんっと声を漏らす。
「ああっ、感じるぅ…っ!そうよ、もっとして、けいいちっ!やんっ、上手っ!ねえ、どうしたの…?けいいちの…なんかすっごい大っきくない…?」
「ウルドの中があんまり気持ちいいからだよっ…こんな、ぐにゅっ、ぐにゅってなって…ああっ、もっと…もっとしたいっ!」
緩やかな動きに満足できなくなった螢一はウルドの乳房から右手を離すと、彼女の腰にしっかりと両手をかけた。少し膝立ちの位置を整えると、感じたいまましたいままに腰を動かし始める。
ペース配分なんか考えない、デタラメなストロークとテンポ…。ぬぺん、ぢゅぺん、とぬかるむ音と肌の打ち合う音が響く。それにつれてウルドの声も大きくなっていった。
「ひいいっ!!け、螢一っ!すごいわぁ…!こんなの、ホントに久しぶりっ!すっごい燃えちゃうっ!中身が…で、出ちゃいそうよ…!!」
「もう出ちゃってるよ、ウルドのおまんこ…。びるびるって出たり、押し込むと一緒に隠れたり…。オレの動きに合わせて、め、めくれ出てる…!」
螢一が見下ろす結合部は艶めかしくもありながら、どこか痛々しい感もあった。太々としたペニスが儚げな桜肉に突き刺さっているうえ、それが引き抜かれると内側の襞が少しだけつられてはみ出てしまうのだ。押し込むとまた、引っ込む。それが繰り返されるたびに女神の愛液は彼女の太ももをつたい、あるいは螢一の袋を濡らし、やがてシーツに染みを拡げていった。
「も、もうだめ…っ!」
ブルルッとかぶりを振ると、ウルドは上体をガクッと落とした。両腕で上体を支えていられなくなったのだ。布団の上で乳房をむぎゅっとたわませ、おしりを高々と突き出す格好になってしまう。
「あっと、う、ウルド…気持ちいいの?」
「メチャクチャ気持ちいいわ…ね、螢一…ホントに初めて…?」
「ホントに初めてだよ…。一回出してるからね、余裕があるからできるみたい。」
そう言うと螢一は激しいピストン運動のテンポを緩め、とうとう完全に停止してしまった。そしてそのまま…何を思ったのか、ウルドのおしりを突き放すようにしてペニスを引き抜いてしまう。
ズルッ、と跳ね上がるように抜け出た弾みに、彼女の膣から、ぽぶっ、という空気音がした。螢一のサイズとウルドの締まり、双方の相性がよっぽどよかった証である。膣内はほぼ密封状態で抜け出るのにも一苦労だった。
「どうして…?抜かないでよぉ…!」
息も絶え絶えな顔で見上げ、恨みがましくつぶやくウルド。真っ赤に頬を染め、興奮の最中にあるのがわかる。螢一はウルドのおしりをぺちぺち叩いて言った。
「ウルド、今度は前からしたい。ウルドの気持ちいい時の顔、見たいんだ…。」
「…スケベ。」
「イヤならもうやめちゃうよ。明日は早いんだからね。」
「…イジワル。」
ウルドは唇をとがらせてすねたようにそう言ったが…やはりしてほしい気持ちは変わらないらしい。ころん、と布団の上に仰向けに寝転がる。スラリと長く、しなやかな両脚を優雅に開き、その間に螢一が進み寄ると…ウルドは両手を差し出した。
「来て…。」
「ん…」
螢一も素直に応じる。彼女の横に肘を置き、互いに目を閉じて口づけを交わした。
ウルドのうなじを撫でると、彼女は両手を螢一の背中に回して応えてきた。そのまま抱き寄せられると、二人の胸の間で乳房がむにゅっと押しつぶされ、その形を柔らかに変化させる。
「今度は最後までするよ…?どう、もうそろそろキテる?」
「かなり…。でもイクときは一緒にイキましょ…?」
「ウルドが先にイッてほしいな…。オレはウルドのイクときの顔と声、確かめてからイクつもりだし、ね。」
「ふふ、そんなコト言ってて、あたいだけ置いてイッちゃダメよ…?」
身体を重ねる雰囲気に馴染んだ二人は、互いを慈しむような笑みを浮かべながらいくつかのおしゃべりを交わした。恋人どうしのような錯覚はどんどん深まり…
ちゅ…。
自然に顔が近付いただけのキスひとつで胸の奥が暖かく満たされるようになる。
螢一はウルドの右手で膣口へと導いてもらい、再度の挿入に備えて四肢の位置を整えた。
「入れるよ…。」
「うん…んっ、んあ、はうっ!!」
ヌブ、ププッ…。
恥じらう顔を見下ろしながら腰を突き出し、螢一がゆっくりと侵入してくると、それだけでウルドは小さく悲鳴を上げた。何度も中断されることで、ヴァギナはすっかり過敏になっている。挿入されたときの満足感は初めよりも大きくなっていた。
狭まってきているヴァギナの奥深くまでペニスを没入させると、ウルドの顔は大きな快感を持てあまし、しかめられた。螢一は心配そうな眼差しで彼女の頬を撫でてあげる。
「痛くしてる…?」
「違うの、さっきよりずうっと感じてるから…。さ、続き…!」
「うん…」
ちゅ…っ。
何度目か覚えていないほどのキスを重ね、螢一はウルドの深奥からゆっくりと腰を引き戻していった。
体位を変えただけだというのにデコボコしたウルドの襞がペニスのくびれに一層ひっかかり、何とも言えぬ刺激を与えてきてくれる。そんな襞の群れがペニスを逃すまいとすがりつくようにクニュクニュ動いてくるのだ。
中程まで引き抜き、また奥まで差し込む。ゆっくり、ゆっくり…螢一はできるだけ時間をかけてウルドの内側をえぐった。ヌルル、じゅぷぶ、ヌルル、じゅぷぷ、の繰り返し。
さざ波が寄せては返すような優しいピストン運動にウルドはすっかり酔いしれ、螢一の背中に夢中でしがみついていた。後日を慮って爪は立てないよう努力している。豊満な乳房は先程より強く形を歪めていた。
「ウルド、こんな感じか?気持ちいい?」
「まだまだ…もっと強く動いていいわ…。マイルーラは入れてあるんだから気にしないで駆け抜けてもいいのよ…?」
「ありがとう…じゃあもう少し早くなるから、身体、起こさせて…」
螢一は上体を解放してもらい、ウルドの顔の横に両手を突くと、ぺた、ぺた、と腰をならすほどの勢いをつけてグラインドを強めた。下肢に力を込め、リズミカルにグラインドを繰り返す。ヂプ、ヂュプ、プブ、とぬかるむ音が大きくなるにつれ、自分にも大きな快感が生まれてくる。
高揚してきたウルドの膣内はすこぶる快適だ。正常位の方がフィットしてくると思っていたのは、どうやらウルドが程良く感じ始めているかららしい。後背位で交わっていたときよりも膣の径が狭まっているため、襞も高くなったように感じられるのだ。
「こう?こんな感じか、ウルド…?ああっ、すっげえイイ…!」
「あ、そ、そうっ…!ん、イイ感じよ、けいいち、すごい上手になったわ!あん、あ、んふっ!素敵よ、もっとしてぇ…!」
ウルドもウルドで遠慮無しによがり声をあげ、布団カバーを握りしめながら快感にむせびないた。じわじわかき出されるラブジュースはおしりの穴を伝い、シーツにべっとりとぬかるみを作っている。螢一の上体が離れたおかげでカタチをとりもどした乳房は前後運動に合わせ、たぽんたぽんと波打つように揺れた。
「ああ…ぴっちりしてる…さっきよりもいいよ、気持ちいい…!」
「け、けいいち、あ、あたいも…すごいの、気持ちいいのっ!!」
「ウルド、どこが気持ちよくなってるの?教えて…気持ちいいところ、教えて…!」
「んっ、ちゅ…いやよ、そんなの…そんなこと、言えない…!」
螢一はウルドにキスしながら、彼女の耳元に淫らな睦言をささやき始めた。ウルドが照れて身をくねらせると結合の具合もグネグネ変化し、螢一をさらに酔わせる。
「じゃあオレが言おうか…ウルドの気持ちいいところ、おまんこだろ…?」
「…そ、そうよ…」
「おまんこって言ってよ、一番淫らなウルドを見せて…ね、おまんこって言ってよ…」
「お…まん、こ…」
本気で恥ずかしいのか、途切れ途切れにそう言うとウルドはプイ、と横を向いてしまった。すねたように鼻をスン、と鳴らすと、目元がすぐさまウルウルしてくる。
螢一は満足そうに微笑むと、ウルドのおしりに両手をまわし、ぐい、と膝立ちになって持ち上げた。持ち上げた彼女の下半身に乱暴なほどの力で腰を打ち付ける。ぢゅぽっ、ぬぼっとピストン運動を繰り返すペニスの先端は何度も何度も女神の子宮口を叩いた。
「ウルド…オレ達、いっちばん深いところでひとつになってる…!」
「うん、うんっ!やだ、けいいちすごい!もうきちゃいそ…ね、もっと強く…!」
腰だけを持ち上げられ、さながら性欲処理の道具のように扱われたウルドだが、意外にもその待遇が気に入ったらしい。拒みもせず、きゅっと目を閉じてあんあん鳴いた。狭い部屋いっぱいにウルドの嬌声が響く。真ん丸の乳房はぷるんぷるんと円を描きながら痛々しく揺さぶられ、ラブジュースはおしりの割れ目から背中へと伝い落ちていった。
「…ね、もう一回教えて?いま、ウルドがいっちばん気持ちよくなってるの…どこなの?ここまで気持ちよさそうなんだもん、今度こそ教えてくれるよね…?」
「…お、おっ…おまん、こ…。おまんこ、気持ちいいのっ…。やだ、もう…キスして…っ」
言い切ってから恥じらい、ウルドがキスをせがむと螢一は彼女の腰をそっと降ろして楽にさせた。しばらく腰の動きを止め、荒い息をそのままに口づけする。息継ぎしては重ね、息継ぎしては重ね…何度も唇を貪りあった。汗でしっとりした肌を擦り合い、積極的なスキンシップも試みる。
「ふう…ふぅ…んっ、んっ、んん…!!」
「んふ、んむ、んふぅ…んっ!んんっ!ぷあ、けいいちっ!嬉し…んむっ、んっっ!!」
やがてキスをしながら…螢一はグラインドを再開した。動き出した途端にウルドの襞のひとつひとつがリズミカルに収縮を繰り返し始める。熱いウルドの身体からも、彼女がすっかり後戻りできないところにまで来ていることが予想された。
「ウルド、ん…んっ、感じるよ、ウルドが感じてるの…オレの、ジクジク締め付けて…」
「ん…ちゅ、ちゅ、ん…あたい、あたいっ…!あ、イキそ…!ホントにイキそっ!!ね、けいいちっ、あたいでイッて、このまま抜かないで、思いっきり…っ!」
「はあっ、嬉しいよウルド!ウルド…ウルドッ…ああ、う、ウルドッ!!」
「…けいいちったら、あたいはここにいるってばぁ…!こんな近くにいるじゃない…。ね、一緒にイこ、一緒にイこうっ!いっしょ、にぃっ…あ、はあっ…くはあっ!ああっ!!」
無我夢中で腰を前後していた螢一だが、ウルドの鳴き声、表情、しぐさを前にしてすっかりペース配分を乱していた。はしたない女神が見せる恍惚の表情に溺れてしまう…。
ウルドも思いも寄らない螢一のペース、サイズにすっかり酔いしれていた。結合の相性は最高で、痛みも不満もなく襞が押し広げられ、擦られる。積極的にペニスを求めようと、ウルドは長い両脚をバタバタさせて腰を浮かせた。今までにも交わった経験はあったが、ここまで気持ちよくなれたのは初めてであった。
ずっぽり食い込んでいる結合部はいつしか鉛直状態になっていた。ウルドは身体を曲げて腰を真上に上げ、螢一はその真上から両手両脚をつっぱねて身体を支え、猛烈にペニスを打ち込んでいる。奥深く結合できる、杭打ち機のような屈曲位だ。
螢一は本能の指令のもと、思う様に腰を操った。ストロークは長く、ズルルーッと引き抜いてはドスンと行き止まりにぶち当てる。想像もできないほどの快感に二人は我を忘れた。発情期の犬より下品に求めあい、与え合う…。
「くあっ、気持ちいいっ!ウルドのおまんこっ、き、気持ちいいっ!!」
「け、螢一っ!あ、あたいも最高っ!!あ、おく、そこっ、お、おまんこのおく感じるっ!ひいいっ!そ、そこっ!おまんこの、おまんこのおく、もっとぉ!」
「ここ?ここなんだな、ウルドッ!?おまんこのいっちばん奥がウルドの感じるところなんだな!?つっかえてるところ、感じるんだな!?」
「ええっ、そうよっ!強く、もっと強くぅっ!すごいっ、こんなにすごいの初めてっ!!いいよけいいち、突き破っていいの、もっとゴツンゴツンしてえ…!!ああっ、いや、すごいのくる、くる、くるぅっ!!」
異常な交わり様であった。部屋いっぱいに二人の熱気と湿気がこもり、この部屋だけ不快指数がとんでもない数値を示している。何も知らない思春期の男の子がこの部屋の空気を吸ったとしたら、きっとそれだけで勃起して情欲の処理に困ることだろう。
そんな環境の中、二人はあげられるだけのあえぎ声をあげて押し寄せる快感の奔流に身を任せていた。ぢゅ、ぢゅぬっ、ぢゅぷっと性器どうしをきしませ、どんどん終わりに近付いてゆく。
「せ、狭いよウルドッ!!もうヤバイ、出そ、出そう…ね、ウルド、そろそろどう?イキそう?ウルド、ねえ、ウルド…?」
「イク…イク…イクッ…あ、あたい、だめ、だめに…な、なっちゃ、う…!」
螢一がつらそうに尋ねたとき、もうウルドはこちらの世界にいなかった。虚ろにつぶやき続けるだけで判然とした返事をよこさなくなっていた。
ウルドはすっかり意識を失ってしまったようであったが、来るべきものを逃すまいと締め付ける本能だけは最高潮に働いていた。きつきつに締め上げられ、螢一は下肢にかなりの力を込めないと引き上げることすらできないほどに吸い込まれてしまう。
「…ウルド…もしかして、いま、イッてる最中なんじゃないの…?」
螢一が息を殺すと、ウルドの深い呼吸とうめき声だけが微かに聞こえ、あとはぢゅぽぢゅぽぬかるむ音と、ぺたぺたと腰とおしりがぶつかる音が狭い室内に響くだけだ。あれだけよがりまくっていたウルドは、今やウソのようにぐったりしてしまっている。
ふいにウルドは寝ぼけ眼のようにうっすらとまぶたを開いた。濃紫の瞳はもう焦点があっていない。身体はぐったりしたまま小刻みに震え…よだれをこぼしている口元からは深い呼吸を繰り返しているだけだ。
そして…
シュパーン…と真っ白な閃光のただ中に意識を叩き落とされ、ウルドはとうとう絶頂に達してしまった。ヒクン、と大きく腰をケイレンさせたかと思うと、ぎゅっとシーツを握りしめ…そして同じように、ぎゅうううっ…とヴァギナを収縮させる。繋がったままエクスタシーに登り詰めた弾みで、ウルドはぽろろ、と随喜の涙をあふれさせた。
「い、イクッッ…!!」
最後に…ウルドは螢一の下で、普段より一オクターブ高い声で鳴いた。その瞬間きゅっと目を閉じ、顔じゅうをボッと紅潮させる。
女神のイッた声。女神のイッた表情。そして…女神のイッた時のすがりつき。
所詮人間である螢一ひとりを果てさせるには十分過ぎる要素であった。
「ああっ…う、ウルドッ、ウルドッッ…!!」
下肢に力を込めて立ち上がるようにし、螢一は絶大な収縮を始めているウルドの膣内から、ズボッ、とペニスを引き抜いた。破裂寸前の性器を自らしごき…
びゅしゅっ!!びゅるっ!びゅうっ、どぷ、どぷ…
「うあっ、あああっっ!!」
爆ぜるように鳴き、音立てて精液を飛沫かせる。
火照った頬…。
柔らかな乳房…。
その谷間…。
みぞおちからへそ…。
性毛に覆われた恥丘…。
ウルドの薄褐色の身体いっぱいに大量の精液がふりかけられた。螢一自身、二度目とは思えないほどの激しい射精であった。
「あ…は…」
余韻がすごい。螢一はのけぞったまま、かろうじてそれだけ声にすることができた。
初体験であったことも大きいが、なによりパートナーがウルドであったことが決定的であった。鼓膜に残るほどの嬌声、網膜に焼き付くほどの痴態、そして今でもまだ納まったままのような、相性のいいヴァギナ…。初体験には、ウルドは刺激が強すぎたのだ。
「…どうして?」
失神の縁から戻ってきたウルドは、ひとことだけそう訊いた。いまだ絶頂の快感に包まれているようで、つらそうな顔をしたまま胸元にかかった精液を指ですくい、ちゅぷ…と口に含む。腰が抜けてしまったのか、それが精一杯の動きのようだ。
「マイルーラ入れたって言ったのに…どうして二回も外出ししたの?」
「…オレにも少しはフェミニズムってヤツがあるんだぜ…?」
「え?」
きょとんとした風に問い返すウルド。ウットリしたまま微笑を見せた螢一は彼女の身体を仰向けに戻し、寄り添うように横たわって彼女の頬を撫でた。
「万が一、があるんだろ?人間と女神には。それにマイルーラって、コンドームより避妊の成功率、低いらしいんだよ?」
「でも…」
「ウルドの気持ちはとても嬉しいよ。でも楽しむだけのセックスはリスクが少ないほうがいい。それでも気持ちよかっただろ…?イクときの顔も声も、ぜんぶ確かめたよ。」
「バカ…あたいは完全にイッてないわよっ…。やっぱり置いてイッたじゃない。」
「はいはい…。」
プイ、と照れたように言って顔を背けるウルド。螢一は苦笑しながらティッシュペーパーで彼女の身体にぶちまけた精液から…裂け目で細かい泡状になっているラブジュースからを丁寧に拭きとってあげた。
その間もずっと顔を背けていたウルドであったが、
「置いてイッたこと…」
「ん?」
「あなたのフェミニズムに免じて目をつぶってあげる。」
と耳まで赤くなりながらつぶやいた。螢一はそんな紅潮した頬にちゅっとキスして、
「はいはい…。ウルド、ありがとう。本当に素敵だったよ。」
と、いつもの調子で苦笑したのであった。
おまけの一言はお世辞などではなく、感じたままを単純に告げただけだったのだが…そのぶんウルドの胸の奥に強く伝わり、すっかり舞い上がらせてしまう。
「な、なによ急に…びっくりするじゃない…!」
顔を背けたまま、ウルドはすねたような口調でそう言った。瞳を潤ませ、すん、と鼻まですすりはじめる。横顔が真っ赤であるところから、どうやら泣いているらしい。
「ウルド…かわいいっ…。」
そんなしぐさがたまらなく愛しく、螢一はウルドの頭を抱え込んで夢中で頬どうしをすりすり擦り合わせた。汗でしめった熱い頬はさらさらで心地よく、いつまでもこうしていたいほどだ。頬摺りするたびに、どんどん愛しさが増してゆく…。
「やめてよもう…くすぐったいわねぇ…!」
ウルドは真っ赤な顔を涙でくしゃくしゃにして…実にかわいらしいはにかみ笑いを浮かべた。嫌がりながらも螢一の頭を押さえ、夢中で抱擁に浸る。エクスタシーの余韻で気怠い身体に、螢一の頬摺りは最高のアフターケアであった。
「…ね、螢一…今夜のこと、他言は無用よ?」
「当たり前だろ?ウルドこそ、絶対に秘密だからな?」
「わかってるわ…。ね、螢一…今夜はありがと。最後にもう一回だけ…。」
まっすぐ見つめ合った後で…ウルドは今さらながら恥じらうように目を伏せ、唇をせがんできた。
「はいはい…。」
苦笑混じりに溜息を吐く螢一。ウルドの頬に右手を当てながら唇を近づけ…
ちゅ…。
今宵、この二人は最後の一線を何度越えたのであろうか…。
ドァッドッドッドッドッド…
クルマ好き、特にバイク好きなら熱い血がたぎるような重低音が辺りに響いている。
螢一の愛車、BMW RSオスカー・リーブマン・スペシャル(ただしレプリカ)は今朝もすこぶるご機嫌であった。
フォーストローク水平対向エンジンはキャブレターから早朝の澄んだ空気を元気よく吸気し、これからの仕事に備えて意気高揚しているようである。
「螢一さん、お待たせしました。」
ゴーグルの汚れを拭いていた螢一は声のした方に振り向く。
視線の先の玄関から、螢一の最愛の女神、ベルダンディーが笑顔とともに出てくるところであった。清楚なワンピースに風避け用のカーディガン姿で、籐のバスケットを片手にしている。バスケットの中身は早起きして準備したお弁当であろう。
「用意はできた?」
「ええ。お弁当も水筒も持ちましたし、忘れ物はありません。」
螢一の問いかけに身の回りをきょろきょろ確かめ、バスケットを掲げて答えるベルダンディー。自然な微笑が朝の日差しによく映える。螢一もつられて微笑んでしまった。
「いい、螢一?調子に乗って事故なんかおこすんじゃないわよっ!?」
ベルダンディーの後ろにはスクルドも一緒だ。いついかなる状況でも、二人の和やかな雰囲気を妨害せずにはいられないらしい。
「わーかってるよ。」
「それからっ!くれぐれもお姉様にヘンな気をおこすんじゃないわよっ!?」
「わーかってるって、もう。」
「ホントにわかってるんでしょうねっ!?」
「わかってますって。」
見送りのために出て来たらしいが、気をつけてね、の一言で済むところを事細かに指示して何度も念を押す。螢一は困ったようにうなだれ、はぁ…と溜息を吐いた。
そんな二人のやり取りを見ながらベルダンディーはバスケットをサイドカーに積み込み、ばくん、とトランクフードを閉めてからスクルドに笑いかけた。ぱっ、と小さな花が開くようなかわいらしい笑顔である。
「じゃあスクルド、姉さんと留守番、お願いね。」
「はいっ、お姉様!!螢一には気を付けてね!!」
「螢一には、は余計だよ!」
そうこうおしゃべりしながらベルダンディーがサイドカーに乗り込み、螢一がヘルメットをかぶったところで、玄関からウルドが姿を現した。
「…おはよぉ…ふあ〜あ、落ち着いて寝てられやしない…」
豪快なあくびをしながらガリガリ頭をかき、すぺんすぺんとサンダルを鳴らしながらゆったりとした足取りでこちらへ歩み寄ってくる。
今の今まで寝てました、というような髪の乱れ様と表情だ。なんのてらいもなくTシャツと、ホワイトレースのショーツ姿で現れるところが、まだ半分寝ています、と注釈しているだろう。
「おはよう…ウルド。」
「あ、姉さんおはようございます。これから行ってきますね。」
「ウルドは寝てなさいよっ。そんな格好でわざわざ見送りに来なくたっていいのに。」
三人三様の挨拶を受け、ウルドはもう一度あくびをしてから、
「…くあ〜あ…っ!しっかしよく寝た…ひっさびさの爆睡だったわ!」
と誰にともなくそう言い、屈託無くニカッと笑った。そんな笑顔が眩しすぎるように…螢一は思わずウルドから逃げるようにして顔を背けてしまう。
どうにも気恥ずかしい。夕べあれだけキスを交わし、あれだけ激しく睦み合ったというのに…。いや、だからこそウルドに対する免疫は一層弱くなってしまったらしい。
結局あれからウルドは、Tシャツとショーツ、汚れて取り替えたシーツを片手に、おやすみ、と自室に戻っていったのだ。
「お礼にシーツ、洗っといたげるわ。」
と去り際に残した微笑みが充実感で輝いていたのを、螢一は深く印象に残している。
心地の良い疲労感に満ちた螢一はそのまま眠り込んだのだが…ウルドもまた久しぶりに充足し、しこたま眠っていたらしい。同じ熟睡でも深酒明けの朝と違い、瞳は爛々と輝いている。
「何時頃戻ってくるの?」
「…螢一さん、何時頃に戻る予定なんですか?」
ウルドの質問を受けるように、サイドカーのベルダンディーが顔を上げて問いかけてくる。螢一はゴーグルに手をかけたままウルドの方を見ようとせず、
「ゆ、夕食までには絶対戻るよ。」
と素っ気なく答えた。ウルドはさらに質問を続ける。
「夕食はなんにするつもり?」
「そうですね…鰻巻きでもつくりましょうか。帰りにスーパーにでも寄ってもらいます。螢一さん、よろしいですか?」
「か、かまわないけど…。」
「ふうん…気ぃつけてね。」
それだけ聞いてそれだけ言うと、ウルドはきびすを返して玄関へと戻っていった。彼女がその時、ほんの少しだけ憂いを秘めた表情をしていたのだが、顔を背けていた螢一には気付くはずもないことであった。
少し後ろめたい想いが螢一をかすめる。なんだか…無視してしまったような後味の悪さが残った。
「螢一さん、そろそろ行きませんか?」
「そ、そうだね…じゃあスクルド、ウルドと留守番、よろしく頼むよ。」
ベルダンディーにうながされ、螢一が気まずい気持ちのままBMWのクラッチをミートしようとしたまさにその時であった。
「けーいちーっ!!ほらほら、忘れ物だよーっ!!」
玄関の奥からウルドのよく通る声が聞こえてきた。美声と言うほどではないが、ムチが固い床を叩くような鋭い声ではある。
「まあ、なんでしょう?まだなにか忘れてたかしら…?」
「まったく、そんな大きな声出さなくてもいいじゃない。下品なんだから!」
姉妹でもこれだけ感想が違う。とりあえず螢一はベルダンディーにもう少し待っていてもらうことにし、ヘルメットを脱ぎながら玄関に駆け込んだ。
「ウルド、忘れ物って!?」
玄関を上がったところでウルドは腕組みし、螢一を待っていた。彼女は忘れ物を差し出すでも、提示するでもなく…スッと右手を伸ばして螢一の額にデコピンを見舞う。
「いてっ!!な、なにするんだよ…」
「螢一、なんであたいと顔を合わせようとしないのさぁ…?」
寂しげにウルドはそう言うと、裸足で土間へと降りた。螢一の肩に両手を置き、今にも泣きだしそうな瞳で見つめてくる。やっぱり気にしていたらしい。
「けいいちぃ、夕べのあたい…そんなにイヤだった…?」
「そ、そんなんじゃないっ!」
「じゃあなんで…っ!?」
いけない。このままでは罪もないウルドを泣かせてしまう。自分が意識をしっかり持ち、真っ直ぐに彼女を見つめ返してあげればそれだけですむ話ではないか。
螢一はきゅっと唇を噛むと、照れくさいのを必死に堪えて心中を打ち明けた。
「だって…思い出しちまうんだもん、すごいドキドキして…。」
「思い出す…?ベルダンディーの前でも…?」
「だからこそ…わかるだろ、この気持ちっ!」
赤くなって照れくさがる螢一を前にして、ようやくウルドは不敵な笑顔を見せた。どこで微笑んだのかわからないような、意味深な笑顔を…。
「…ふぅん、悪いヤツだね、これからデートだってときに…。ほら、忘れ物…!」
ちゅっ…。
舞い上がっている螢一の時間を止めたまま、ウルドは音もなく寄り添い、顔を近づけて唇を押しつけた。螢一のうなじに手をかけ、強く強く重なり合う…。
唇どうしが密着してからたっぷり五秒も過ぎた後で、慌てて螢一はウルドの身体を突き放した。手荒に扱われても、ウルドは頬をほんのり上気させて微笑んでいた。
「な、な、なにをするんだよっ!夕べだけって話だったろ!?」
「今のは『いってらっしゃい』のキス!女神さまの唇は旅の安全に効果バツグンだよ?」
「な、何を言ってんだよっ!まったく、悪いヤツはどっちだよ!これからデートだってときに…。それに『いってらっしゃい』のキスしたって顔、してないぞっ!?トロ〜ンとしちゃって!」
「いいでしょう?これは役得…じゃなくって余録ってヤツよ!」
「なんだよそりゃあ…。」
そこまで言葉を交わし、ふと見つめ合ってから二人してぷっと噴き出した。
これが普段通りなのではないか。螢一はようやく気持ちに余裕を見いだしていた。
煩わしさもありはしたが、それに勝る好意はいつだって持ち合わせている。夕べはたまたま好意がオーバーブーストを起こしたに過ぎないのだ。
ひとしきり声を出して笑ってから、二人はようやくいつもの自分達らしく振る舞えるようになった。微笑を浮かべたままもう一度だけ見つめ合い、小さくうなづきあう。
「…気ぃつけてね。」
「…ああ、行って来るよ。」
彼女の何気ない口調に、螢一も何気ない口調で答えたのであった。
BMWのエンジン音が遠ざかってゆくのを…ウルドは玄関の壁に背中を預けながら聞いていた。ゆったりと腕組みしたまま、なんとはなしに天井の一角を見つめていたのだが…頭は引力に従い、そろ、そろ、と…
やがてうつむいてしまう。寂しげな声が漏れ出た。
「フェミニズム、じゃないわよ…」
左手で目元を拭う。
どうにもできない…どうにもなってくれないこの気持ちを…自分はこれからどうすればいいのだろう。
ブレスレット一個分だけ軽くなった左手で…ウルドはいつまでも目元を拭っていた。
(つづく)
(98/10/20update)