はじまるシアワセ

02

作者/大場愁一郎さん

 

「碇くん…」
「綾波…」
 固く手をつなぎ合った二人は、まるでベンチでバスを待つ恋人どうしのように仲睦まじく寄り添い、優しく名前を呼び合った。欲しがりになりつつある気持ちもそのままに、真っ直ぐに互いを見つめる。
 あれだけ希薄だったレイの表情は、いまや誰の目にもはにかんだ微笑と映るくらいにまで和んできていた。それにつられて、シンジも照れくさそうに相好を緩める。
「碇くん…わたし達、もっと仲良くなれるかしら」
「うん、きっとなれるよ。僕も、もっと綾波と仲良くなりたいし」
「嬉しい…こんな嬉しい気持ちになったの、初めてかもしれない…」
「…じゃあ綾波、今度はこっち」
「あっ…」
 甘やかに睦言を交わしてから、やおらシンジはエッチつなぎを解き、ベッドから立ち上がった。素肌に心地良いぬくもりが遠ざかったために、レイは一瞬残念そうな声をあげたものの、すぐに気を取り直してシンジの後を追う。
 裸の二人はベッドの横で相対すると、しばし互いを見つめ合った。レイはもちろん、シンジもその裸身を包み隠すことなく直立しているが、別に十四歳の瑞々しい身体に見とれているわけではない。
 シンジははにかみながらも、胸いっぱいの愛おしさを眼差しに込めて。
 レイは希薄な表情ながらも、ひたむきな憧憬を眼差しに込めて。
 二人はそれぞれの想いで、互いの素顔を見つめ合った。
「…おいで、綾波」
「うん…」
 たちまち二人は、欲しがりな気持ちに逆らえなくなってしまう。
 シンジはそっと両手を広げ、レイに誘いかけた。レイはシンジの呼びかけに、居ても立ってもいられないとった足取りで彼の胸に寄り添う。
 シンジはその華奢な身体をしっかと受け止めるなり、包み込むように抱き締めた。それでもまだ男心は満たされず、愛おしさ余ってレイに頬摺りする。
「はぅ…ん、んっ…」
 抱擁のくすぐったいような心地良さに、レイはささやかに歓声をあげた。
 そのままレイも両手をシンジの背中へと伸ばし、倣ってその身を抱き締める。シンジからの頬摺りにもうっとりと目を細め、甘い溜息を吐きながら頬摺りを返してゆく。
「綾波…裸で抱き合うのって、気持ちいいと思わない?」
「うん、気持ちいい…。先週は、こんな風に感じなかったのに…」
「先週は僕も慌ててたから…でもそのぶん、今日は慌てないでゆっくりと…ね」
「うん…」
 シンジはレイに頬摺りしつつ、彼女の耳元に優しくささやきかけた。レイも夢中で頬摺りに応じながら、かわいく上擦った声でうなづく。
 裸で交わす抱擁によって、とうとうレイはスキンシップの心地良さに目覚めてしまったのだ。人肌のぬくもりを分かち合う悦びに、女心が奮い立ってきたのだ。
 もっとシンジに触れたい。
 もっとシンジとくっついていたい。
 もっとシンジとぬくもりを分かち合いたい。
 シンジに迷惑をかけると思いながらも、レイはそのわがままな衝動を抑えることができなかった。精一杯の力でシンジに抱きつき、胸の真ん中を満たしてくる好意に任せて、一生懸命に頬摺りを重ねてゆく。
 そんなレイが愛おしくて、シンジは嬉しそうに目を細めた。火照ってなお積極的に擦り寄せてくるレイの頬に、ついついじゃれつくように唇を押し当てる。
 レイの頬はニキビのひとつもなくスベスベとしていて、なおかつぷにゅぷにゅと柔らかい。シンジは陶酔の面持ちで目を閉じると、頬摺りしながら何度も何度もレイの頬にキスした。
 さすがにこれはくすぐったくて、レイはその華奢な身体をゾクゾクとさざめかせた。眉根にしわを寄せると、こぢんまりとした鼻の奥から愛くるしい鳴き声を漏らす。
「や、ん、んぅう…い、碇くんっ…」
「えへへ、ゴメン。くすぐったかった?」
「う、ううん…平気…」
「だったらいいけど…でも、あんまりくすぐったかったら、ちゃんと言ってよね?」
「うん…碇くん…碇くん、碇くんっ…」
「あ、綾波…ちょ、く、くすぐったいよっ…」
 シンジの優しい気遣いが、たまらなく嬉しい。
 レイはその歓喜の気持ちに急かされるよう、モジモジと身じろぎしながらすがりつきを強めていった。少女の柔肌を夢中でシンジに擦り付け、身体全体で抱擁の心地に浸ろうと躍起になる。頬摺りのペースも速まり、吐息には甘えんぼな上擦り声がしっかりと混ざってきた。
 こうしてレイがしきりに身体を擦り寄せてくるため、今度はシンジがくすぐったくて吐息を震わせてしまう。女の子を抱き締めている実感も増幅されるため、嬉し恥ずかしくてならない。もちろんこうしたじゃれ合いはアスカと経験済みだが、今まで色気も素っ気も感じていなかったレイが相手だからこそ、男心は興奮しきりとなってしまう。
 特に、二人の胸の間でたわんでいる乳房の柔らかみは格別だった。
 先週も眺めて、触れてもみたが、レイの乳房はアスカのそれよりも幾分小振りである。
 それでも女性固有の柔らかみは負けず劣らず備えているから、シンジの胸板にはレイの抱き心地がしっかりと染み付いてしまう。抱き心地だけでなら、レイはアスカにもなんら引けをとらなかった。
 アスカと抱き合えば、シンジの男心は愛欲で高ぶる。
 レイと抱き合えば、シンジの男心は保護欲で奮う。
 原動力は違えども、どのみち愛おしさは募った。アスカにしろレイにしろ、行きずりで身体を重ねる相手ではない。常に親しく接している相手であるから、ひとたび男女として接すれば、自ずと想いは深まるのだ。
 そして、想いが深まれば深まるほど、抱擁の心地は際限なく素晴らしいものとなる。
 シンジとレイのスキンシップは、もはや先週のような退屈な触れ合いではなかった。汗ばんだ肌と肌を擦り寄せ、夢中でよがりながら頬摺りに耽る様は、まさに恋人どうしの睦み合いである。
「はぁ、はぁ、はぁ…あ、綾波…綾波ぃ…」
「あん…ん、んんっ…いっ、碇くん…碇くぅん…」
 シンジはだらしない声でレイを呼びかけながら、ゆったりと頬摺りを重ねてゆく。
 そのうち愛おしさに唇が焦れてくると、シンジは再び頬摺りに混ぜてキスを撃ち始めた。火照る頬に唇を押し当てられて、レイはやはり敏感に身震いし、さかんに鼻声でむずがる。
 それでもレイは圧倒されることなく、健気にシンジを真似て、自らも彼の頬に唇を押し当てていった。甘えんぼな声で呼びかけながら、すぼめた唇を遠慮がちに触れさせる。
 ゆっくりと頬摺りしては、交代交代で頬にキスして、また頬摺りしては、キスして。
 そのうちレイもキスのコツをつかみ、ただ唇を触れさせるだけでなく、そっと吸い付くようになっていった。さすがにエヴァンゲリオンのパイロットを務めているだけあって、何事に於いても飲み込みが早い。
 というよりも、好きこそ物の上手なりけれ。レイは唇でのじゃれ合いがすっかり気に入ってしまったのだ。
 慎ましやかな唇がシンジの頬でたわむたび、その薄膜からは不思議な感覚が身体中へと広がってくる。
 それは重力の支配からやんわりと解放されるような、安らぎを伴う高揚感のようでもあった。身も心もフワフワとしてきて、なんともいえず心地良い。吐息はすべて甘ったるい溜息になってしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ…ん、あっ…はあぅ…」
 やがてその心地良さが胸の真ん中で凝縮し、せつない焦燥に変質してきた。
 レイはかわいく上擦ったあえぎを吐息に重ねると、シンジを抱き締めている両手にさらなる力をこめた。頬摺りも、次第に唇を押し当てている時間の方が長くなってゆく。
 別に、頬摺りに飽きたわけではない。それ以上に唇が焦れるのだ。シンジさえよければ、このままずっと頬にキスしていたいほどである。
「綾波…」
「あん…ん、んぅう…」
 そんなレイの様子に気付くと、シンジは彼女の横顔にひとつだけキスを残し、そっと顔を上げた。一方的に頬摺りもキスも中断されて、レイは鼻にかかった声でむずがる。
 むずがってしまってから、レイはやおら自責の念にかられ、気まずそうにうつむいた。
 仕事に専念していたはずなのに、ささいなスキンシップひとつで駄々をこねた自分が情けなく思ってしまったのだ。シンジの機嫌を損ねたかと、控えめな上目遣いで彼の表情を窺ったりもする。
「…綾波も、けっこう甘えんぼだね」
「ごめんなさい…」
「そんな、責めてるわけじゃないんだよっ。今は甘えたいだけ甘えていいんだからさ」
「甘えたいだけ、甘えていい…」
 普段以上に優しいシンジの言葉を噛みしめるよう、レイは視線を落として復唱する。
 甘えたいだけ、甘えていい。
 普段誰かに甘える機会のないレイにとって、その一言はあまりにも漠然としていた。レイ自身も、下された命令に対して全力を注ぐことに生き甲斐を見出してきたから、自らその機会を望もうとしなかったのだ。
 それでも今、こうして甘える機会を与えられた。それも、優しいシンジによって。
 シンジに甘えていい。甘えたいだけ、甘えていい。
 彼の言葉の意味がじんわりと心に染み込んできた途端、レイの頬は瞬間湯沸かし器よろしく火照った。頬摺りを堪能していたために、頬はすでにほんのりと火照っていたが、こうしてはにかめば顔中が真っ赤に燃え上がってしまう。
 そんなレイの初々しい反応に、シンジは鼓動を高鳴らせた。愛おしさいっぱいで微笑むと、右手でレイの頭頂に触れ、そこからうなじにかけてを繰り返し繰り返し撫でる。
「ん…ん、んんっ…碇くん…」
 シンジの愛撫に合わせて顔を上げ、レイはくすぐったそうに目を細めた。こうして頭を撫でてもらうのは、いったいいつ以来だろう。とにかくその懐かしい心地が照れくさいながらも嬉しくて、自ずと相好が緩んでしまう。
 あれだけ無愛想だったレイも、今やすっかり嬉しいときの表情を覚えてしまった。
 照れくさいけど、嬉しい。
 くすぐったいけど、嬉しい。
 シンジの抱擁と愛撫で、レイの意識はそれぞれの感覚を歓喜と関連づけたのだ。シンジに優しくしてもらったり、少しくすぐられたりするだけで、レイははにかんで目を細めてしまう。
 笑顔は、誰もが持つ最高の宝物だ。レイもこうして微笑むと、素顔には活気が宿り、その美少女ぶりにはますます拍車がかかってくる。
「綾波、かわいい…かわいいよ…」
 レイの嬉々とした表情に、シンジはたちまち見惚れてしまった。陶酔の面持ちで睦言をささやくと、さらなる愛おしさを右手に込めて、丁寧に丁寧にレイの頭を撫でる。
 しかしレイはシンジの睦言に表情を曇らせ、ふと寂しげに視線を落とした。矢庭に湧いた不安をなだめようと、すがりつく両手に力を込める。
「…かわいいって、言われたことがないから…よくわからない…」
「え、あ、そ、そうなんだ…そうだなぁ…ふふっ、ぎゅうって抱き締めて、大切にしたくなるって感じかな」
「大切に…したくなる…」
 シンジは照れくさそうに微笑むと、子どもを諭すような口調で睦言の意味を説明した。
 かわいいという意味はもっと広義であったろうが、ひとまずシンジはレイに対して抱いている心情をそのまま言葉にしたのだ。レイのことは愛おしんで大切にしたいし、精一杯の気持ちで守ってあげたい。時としてお節介な男心は、それでもシンジの真心であった。
 しかしレイはシンジのお節介を鬱陶しがることなく、彼の説明を復唱しながら、はにかんでうつむいてしまう。シンジの言葉があまりに嬉しくて、照れくさくて、まっすぐに見つめ合っていられなくなったのだ。
 そんなレイがたまらなく愛おしくなり、シンジはやんわりと抱擁を解いた。代わりにレイの肩に両手をかけ、まっすぐに彼女を見つめる。
 レイはすっかり甘えんぼになっているため、抱擁を解こうとはしない。それでも陶然となっている火照り顔を上げ、まっすぐにシンジを見つめ返した。シンジとまだまだ仲良くなれるような期待感で、甘えんぼな胸はドキドキと高鳴る。
「ね、綾波…キスしよっか」
「う、うん…」
 シンジは内緒話するかのように声を潜め、そっとレイにささやきかけた。レイは小さく首肯しながら、その可憐な唇をむずがゆそうにモジモジとさせる。
 キスは先週も試してみた。しかしシンジの焦りのために、せっかくのレイのファーストキスはすこぶる味気ないものに成り果ててしまった。
 むずがゆいようにくすぐったくて、息苦しくて、ひたすら気まずくて。
 そのためにレイはもちろん、キス好きなシンジでさえも欲張る気になれなかった。お互いに想いがこもっていないのだから、心地良さを得ることができないのは当然である。いかに唇が敏感な性感帯であっても、それは無理な話だ。
 しかし、今は違う。心はすっかり打ち解け合っているし、思春期の身体も裸でのスキンシップに酔いしれている。
 なにより、シンジもレイも睦み合いを切望していた。
 シンジはレイに優しくしたくて。
 レイはシンジに甘えたくて。
 まさに愛欲と呼べるだけの感情は、今や互いの唇をせつないほどに焦れさせていた。頬にキスしてじゃれ合っている間にも、二人は確実に接吻欲を募らせてきたのだ。
「碇くん…」
 先に待ちきれなくなったのはレイであった。人恋しげに呼びかけて目を伏せてから、うっすらと開いていた唇を心持ちすぼめる。それで可憐な薄膜は無防備を極めた。
 あれだけキスに無関心だったレイが、今はこうしてキスをねだっている。
 その姿に、シンジは吐息まで火照るほどの愛欲を覚えた。喉のすぐ下で力強い鼓動を感じつつ、自らも目を伏せて唇を寄せる。
「んんっ…」
 二人の唇が吸い付くように重なった瞬間、レイは眉根にしわを寄せ、鼻の奥で小さく鳴いた。線の細いあごはキスの心地にゾクゾク震え、両手はなお強くシンジの身体を抱き締める。
 そのお返しとばかり、シンジもレイの二の腕を優しく撫でてから、再び彼女を抱き締めた。包み込むイメージで華奢な身体を抱き寄せつつ、わずかに小首を傾げて薄膜どうしの密着を深める。
「んふ…んふ…んふ…んんっ…」
「ん…んんっ…んむっ…んふ…」
 キスの感触は、先週とはまったく別物であった。レイもシンジも上擦ったよがり声を鼻息に混ぜつつ、夢中でキスに浸る。
 初めてキスの心地良さを知ったレイは、感動もひとしおであった。頬だけでなく小さな耳までもが真っ赤に火照り、鼻の頭にも興奮の汗が浮かんでくる。
 実際、シンジと唇を重ねた瞬間、レイは身体の奥にある芯のようなものがとろけたような気がした。そのとろけた芯は甘いミルクチョコレートのようになり、身体中隅々にまで広がって、意識を圧倒的な歓喜でぼんやりとさせている。
 しかもキスひとつしただけで、抱擁の心地はなお素晴らしいものになった。内側からも外側からも温かくて、もう身体の芯だけでなく、身体まるごととろけてしまいそうな気分にさえなってくる。
 気持ちよかった。本当に気持ちよかった。狂おしいほどの興奮に胸が詰まり、吐息のひとつひとつにさえずりが混ざってしまう。
「ん、んっ…ぷぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「んぅう…んぁ…はふ、はふ、はふ…」
 三十秒ほど密着の心地良さを堪能してから、二人は一旦キスを終えた。シンジもレイも忙しなく息継ぎしつつ、熱っぽい眼差しで見つめ合って余韻に浸る。
 先週のキスでは後味の悪さばかりが残ったために、そのぶん今日のキスは驚くほど甘美であった。密着の心地も、鈍く痺れるような余韻も素晴らしく、恍惚の溜息が止まらない。
「碇くん…碇くんっ…」
「綾波っ…」
 すっかりキスの心地良さに魅入られて、レイはむずがるようにキスをねだった。もちろんシンジは焦らしたりせず、すぐにその可憐な唇を自らの唇で塞いでしまう。
 今度は先程と重なる角度を左右で入れ替え、それでまたぴったりと吸い付き合った。シンジも慌てず、レイも欲張らず、じっと抱き締め合ったままで薄膜どうしの密着感を堪能する。
 ただくっついているだけでも、二人の若い身体は歓喜の気持ちで活性化した。抱き合ったままの胸の間は、もう汗でびっしょりである。
 胸だけでなく、額も、鼻の頭も、手のひらも、背中も、しりも、どこもかしこも興奮の発汗をきたしている。レイの部屋のエアコンは壊れていて動かないから、もはや二人とも水をかぶったかのようにびしょ濡れの状態だ。チェック模様のフロアーにも、もうすでに汗の滴がぽたぽたと落ちている。
 それでも、二人はこの汗まみれの状態で抱き合うことに抵抗感を抱かなかった。むしろ肌と肌までもが吸い付き合うようで、より強い一体感を覚えられるから大歓迎であった。
 呼吸するたびに鼻孔に舞い込む汗の匂いも、それほど不快なことはない。汗くささは今や蒸せるほど室内に充満しているが、それもさらなる興奮を喚起するエッセンスとなる。
 その興奮はやがて、シンジの身体に強烈な作用を及ぼしてきた。
「んっ…ん、んんんっ…!」
「んっ…?」
 裸での抱擁とキスを堪能しているうちに、とうとうシンジのペニスは勃起をきたした。シンジが気恥ずかしそうにうめくのも無視して、ペニスは抱き締め合っているレイの下腹を押し退けるよう、爆発的な勢いでたくましく漲る。
 とはいえぴったりと抱き締め合っているために、ペニスは強引にうつむかされる格好のまま隆々と勃起してしまった。ちょうどレイの恥丘を押し上げるような形となり、それでシンジはますます羞恥しきりとなる。無事に勃起できたのは嬉しいが、今はそれ以上に照れくさいやら恥ずかしやらでならない。
 レイはレイで何が起こったのか理解できず、シンジとキスしたままわずかに狼狽えて鼻声を震わせた。
 何か固くて熱いものが、ぴくんぴくんと脈打ちながら下腹部を押圧してくる。
 レイはその猛々しさを受け流そうと、わずかに抱擁を緩めて腰を引いた。おかげでシンジのペニスは自然なままに反り返り、天井を目指すよう悠然と伸び上がる。
「…ん…碇くん、これ…」
「うん…綾波とキスしてたら、すっごい興奮して…勃起しちゃった…」
 レイは唇をすぼめるようにしてキスを終えると、気遣わしげな声でシンジに問いかけた。
 シンジは苦笑半分、極めて気恥ずかしそうに事情を説明する。待ち望んでいたこととはいえ、あまり嬉々として言うのも照れくさい。
「これ、碇くんのペニスなの。さっきまでと全然違う」
「えへへ…ちょっとびっくりさせちゃったかな」
「…勃起って、痛くないの」
「うん、全然痛くないよ。逆に敏感になっちゃうから、ちょっとした刺激でもすごく気持ちよくなれるんだ」
「じゃあ、たとえば…こんなのでも、気持ちいいの」
「んぁ…う、うん…柔らかくって、いい気持ち…」
 レイはきょとんと目を見開いて驚きを露わにしたものの、すぐに好奇心旺盛となって、シンジにあれこれと質問を浴びせた。勃起した男性器が密着していることにも嫌悪感は無く、むしろ興味津々であるから、シンジの説明に応じてぐいぐいと下腹を押しつけたりもする。
 そんなレイの無邪気な愛撫でも、シンジは十分に刺激を覚えることができた。
 やはり五日間の禁欲生活を送ってきたために、思春期のペニスもずいぶんと欲しがりになっている。レイの下腹はすこぶる柔らかで、かつすべらかであるとはいえ、さすがにこの漲り様は苦笑する他にない。
 シンジの気持ちを余所に、レイはしきりに腰を振って、勃起したペニスの感触を下腹で確かめ回している。キスしていたことさえも忘れて視線を落とし、いかにもペニスに興味ありげだ。
「…触ってみる?」
「いいの」
「もちろん」
 シンジは興味津々のレイに気遣い、やんわりと抱擁を解いた。レイは妙に真面目な面持ちで念を押してくるから、シンジは気さくな笑みを浮かべて快諾する。むしろ今は、シンジの方からレイにペッティングをお願いしたいような気分なのだ。
 レイも倣って抱擁を解くと、半歩ほど後ずさってから、まずはじっくりとシンジのペニスを観察させてもらうことにした。まるきり佇まいを変えているペニスに、さすがのレイも思わず息を呑む。
 これが、本当にシンジのペニスなのか。
 レイはそのあどけない瞳をまん丸に見開いて、勃起しきりとなっているシンジのペニスをマジマジと眺め回した。
 ツヤツヤのパンパンに膨張している、くるみ大ほどの亀頭。
 幾重にも血管を巡らせ、その中央に太々と尿道を浮き上がらせている幹。
 左右で高さを違えて、二つの睾丸を内包している陰嚢。
 黒くて、チクチクと固い性毛。
 レイはいつしか、熱心な眼差しでシンジの男性器に見入ってしまった。
 萎縮しているときはあんなにかわいらしいのに、いざ勃起するとどうしてここまで醜悪な佇まいになるのだろう。勃起のしくみは知識として知ってはいるが、本当に不思議でならない。
 やがてレイはおずおずと右手を伸ばし、反り返ってぴくんぴくん打ち震えているペニスをそっと握った。長くて、太くて、固くて、そして熱い感触からは、これが先週触らせてもらったものと同じであるとはにわかに信じがたい。手触りはまったく別のものであった。
 もちろん先程も勃起する前に見せてもらったし、なにより今もシンジの腰からしっかりと生えている。作り物かと疑う余地はどこにもない。
 レイは根本の辺りから撫で上げるようにして幹をつかむと、そのまま亀頭と幹の境目辺りを丁寧に丁寧にしごき始めた。その無骨な形やぬくもりを手の中で確かめるよう、指の一本一本をくねらせながらねちっこくしごき立てる。
「あ、んぁ、く…ん、んぅ…!」
 その念入りな手つきはレイの好奇心によるものであったが、ペッティングとして十分通用するものであった。たちまちシンジは濃密な性感を覚え、だらしない声で悶える。
 それでレイは反射的に右手を引っ込め、気まずそうな上目遣いでシンジを見た。
「ご、ごめんなさい、また夢中になって…刺激が強すぎたかしら」
「ううん、大丈夫…ちょっと気持ちよすぎただけ」
「あ…んっ…」
 不安げに表情を曇らせるレイに微笑みかけながら、シンジは再び彼女の肩を抱き寄せた。そのまま唇を寄せると、レイも慌てて顔を上げ、しおらしく目を伏せる。
 それで二人はふんわりと唇を重ね、優しく吸い付き合った。ささやかなキスではあったものの、ぎくしゃくとした雰囲気はたちまち霧散してしまう。
「…で、どうしよっか。セックスしてみる?」
 小さなキスを終えてから、シンジは何気ない口調でレイに問いかけた。まだまだこうして睦み合っていたかったが、レイは命令を優先したがっていたから、一応確認してみたのだ。
 レイはおずおずとシンジの背中に両手を伸ばすと、しばし視線を落として考え込み、やがて気持ちを整理してシンジを見つめた。表情は希薄ながらも、頬は照れくさそうに火照ってくる。
「…もう少し、碇くんに甘えていたい。セックスは命令だけど、もう少しだけ…」
「ふふっ、いいよ。僕ももう少し綾波とキスしていたかったんだ」
「碇くんも」
「うん。だってキスしてるときの綾波、すっごいかわいいんだもん」
「あっ…」
 シンジにかわいいと言われるのは嬉しいが、なんだかすごく照れくさい。
 キスの続行で意気投合したまではよかったが、レイはたちまち気恥ずかしくなってうつむいた。シンジは苦笑半分でレイの前髪にキスして、そのはにかみ顔を上げさせる。
 初々しいレイの姿は見ていて本当にかわいかったが、こうして恥じらってばかりいてはなかなか先へは進めない。上手くできるかどうかはわからないが、とにかくシンジは自分から積極的にレイをリードしていくことにした。レイはセックスが未経験であるというだけでなく、その手の知識すらも疎いのだ。
「綾波、いっぱい優しくしてあげるね…だから綾波も、僕にいっぱい甘えて…」
「うん…いっぱい甘えるから、いっぱい優しくして…碇くん…」
 二人は本当の恋人どうしのように甘やかな睦言を交わし、仲睦まじくキスした。お互いに小首を傾げて密着の度合いを深めつつ、あらためてそれぞれの身を抱き締め直す。
 レイもシンジも鼻で息継ぎしながら、しばし身じろぎひとつせず裸の抱擁とキスを堪能した。ぴったりとくっついてぬくもりを分かち合い、深い口づけに酔いしれると、それぞれの胸は愛欲で焦がれてくる。上擦った鼻声混じりの吐息は、次第に陶酔の溜息へと性質を変えていった。
「ぷぁ、綾波…綾波っ…」
「んぅ…い、碇くん…碇くん…」
 その愛欲に急かされて、シンジは唇を触れ合わせたまませつなげにレイを呼びかけた。レイもすぼめた唇で一生懸命シンジに追いすがりつつ、頼りない声で呼び返す。
 二人は小さなキスを繰り返しながら夢中で名前を呼び合っていたが、やがてシンジからレイの可憐な唇についばみかかった。
 そっと唇をすぼめるようにしながら、上唇、下唇、そして割り開くように口づけて、また上唇と、念入りにレイの唇を甘噛みする。もちろん、欲張ってがっついたりはしない。あくまでキスの心地良さをレイの薄膜に染み込ませるよう、丁寧に丁寧に唇どうしでのスキンシップを重ねてゆく。
 レイの唇はアスカのそれよりもうっすらとしていて、確かに色気で見れば劣っている。弾力も控えめであり、ついばみ心地もいまひとつ物足りない。
 それでもその繊細な感触によって、シンジは男としての保護欲を一際かき立てらることとなった。自ずと唇には思いやりが慈しみが込もり、ひたむきな愛情は極めて優しくレイに口移しされてゆく。
 そんな慈愛に満ちたキスを重ねるうちに、シンジの唇はやがて、立派な性感帯として機能し始めた。過敏となった薄膜からは、甘酸っぱいようなくすぐったさが間断なく溢れてきて、せつなく胸を詰まらせる。
 そのくすぐったさは性感帯どうしで鋭くリンクするため、勃起しきりのペニスはなお一層漲りを強めた。互いの下腹に挟み込まれたまま、射精欲を濃密に募らせてぴくんぴくんと打ち震える。
 レイと交わすキスが、本当に気持ちいい。
 本当に気持ちいいから、レイにキスする。
 そんな相乗効果もあって、シンジのキスの甘やかさは増すばかりであった。
「んぅ…ん、んぅう…ん…んっ、んんぅ…ん、ふ…」
 シンジの丁寧なバードキスのおかげで、レイはすっかり夢心地になっていた。しおらしくシンジのリードに身を任せ、生まれて初めての心地良さに浸り続ける。
 シンジに唇を甘噛みされるたび、レイの唇はくすぐったさにも似た疼きを覚えるようになってきた。その疼きは、シンジの唇が離れればサイダーの泡のように爽やかに消えてしまうのだが、すぐにまたその度合いを増してぶり返してくるのである。
 しかも落ち着いて感じれば、その疼き具合はどうもシンジとキスするごとに増幅しているようにも思える。どんどん気持ちよくなってくるし、同時にどんどん焦れったくなってゆくのだ。
 このままではくせになる。シンジとキスしていないと、落ち着かなくなる。
 そんな危険信号がレイの脳裏で点滅するが、もう遅かった。レイの唇はシンジとのキスによって、少しずつ性感帯としての開花を始めたのだ。
 上唇を甘噛みされても、下唇を甘噛みされても、そしてすぼめた唇を割り開かれても、レイはかわいい鼻声を抑えきれなくなってしまう。ぴったりと口づけられたら、無我夢中のよがり声をシンジに口移ししてしまうほどだ。
 しかもそのくすぐったいような疼きは、やがて唇だけに留まらなくなってきた。レイの身体でも、性感帯どうしが敏感にリンクを始めたのである。
 シンジにキスされるたびに、唇からは、あの身体の芯までとろけそうな心地良さが繰り返し繰り返し生まれてくる。その心地良さが身体中に暖かく拡がると、生まれながらの性感帯である乳首やクリトリスまでもが焦れったく疼いてきた。
 未体験のせつなさに、レイはすっかり半ベソとなってしまう。太ももをモジモジと擦り寄せて、無意識にクリトリスの疼きをなだめようとあがいた。
 それでも、シンジとのキスが気持ちいい。
 気持ちいいから、シンジとキスしていたい。
 レイはとうとう発情期を迎え、胸中を接吻欲で満たしてしまった。先程の危険信号もいつしか薄れ、レイの理性はシンジのバードキスに屈服してしまう。
「綾波…綾波も、一緒に…」
「う、うんっ…」
 レイの発情を気取ったわけでもないが、シンジは過敏となった薄膜どうしを触れ合わせたままで誘いかけた。たっぷりとよがり声を口移しされたために、愛欲を抑えきれなくなったのだ。
 もちろんレイは拒んだりしない。否、もはやレイは拒めなかった。もどかしげに首肯するなり、顔を突き出すようにして積極的にシンジにキスしてゆく。
 レイのバードキスは、すぼめた唇の先だけでついばむのではなく、しゃぶりつくようにゆったりと甘噛みする贅沢なものだ。うっすらとした唇をフルに駆使して大胆にじゃれつくために、キス好きなシンジも喜色満面となって悦に入る。
 それで二人のキスは、まさに恋人どうしのそれとなった。
 お互い欲張るでもなく、仲良く代わりばんこで上唇や下唇をついばみ合ったり。
 小さなキスをいくつも重ねるよう、甘噛みし合って何度も何度も唇を割り開いたり。
 少しだけ気持ちが欲張りになったら、ぴったりと十秒ほども吸い付き合ったり。
 レイもシンジも鼻息荒く、ときにはくすぐったそうに微笑んだりして、時間を忘れて裸での抱擁とバードキスに耽った。
 やはり一方的なキスよりも、二人で楽しむキスの方が気持ちいい。
 シンジはレイと恋人同然のキスを堪能しながら、心中で自身の果報を実感した。アスカと結ばれたうえに、命令とはいえ、こうしてレイとも睦み合えるのだ。身に余るほどの幸福感で、なんだか叫びだしたい気分である。
 そしてその幸福感は、レイに対する愛おしさをさらにさらに募らせてくる。
「綾波…綾波っ…ん、んんっ…ぷぁ、綾波っ…」
「んぅ、んんぅっ…ぷぁ、い、碇くん…ん、んむっ…んっ…碇くんっ…」
 シンジは夢中でレイの唇を奪い、愛おしさのままに名を呼んだ。レイは照れながらもシンジの唇を奪い返し、かわいいよがり声と、大好きな男の子の名前を口移しして甘える。
 肌と肌のぬくもりも。
 キスの心地良さも。
 抱擁がもたらす安堵感も。
 もう何もかもが幸せに感じられる。
 二人はじゃれ合う唇を介して、幸福感が温かくひとつに溶け合うのを覚えた。
「ん、んんんっ…」
「んっ…んんぅ…」
 男心と女心が優しく混ざり合う夢心地に、お互いどちらからともなく、深く唇を重ねてゆく。小首を傾げてお気に入りの角度となり、ぴったりと吸い付き合えば、レイもシンジも恍惚の溜息をゆったりと鼻から漏らした。
 やがてその夢心地に誘発されて、勃起しきりであるシンジのペニスには、五日ぶんの射精欲が重苦しいほどに満ちてきた。ちょうどレイの下腹に押圧されていたこともあり、ペニスには高ぶりを和ませるいとまが与えられなかったのだ。
 ある程度の高ぶりを維持し続けていると、ペニスには独特の生理現象が訪れる。
 シンジのペニスにも、その兆候が現れた。幹の中央を貫いている太々としたパイプに、なにか淡い期待感が少しずつせり上がってくる。
「んっ…」
 シンジが気付いたときには、もう遅かった。
 ぴくん、ぴくん、と小刻みに脈打つうちに、ペニスはその淡い期待感を鈴口で小さく弾けさせた。その快感と羞恥で、シンジはささやかなよがり声をレイに口移ししてしまう。
 シンジはディープキスどころか、バードキスだけで濡れてしまったのだ。
 男の逸り水たるカウパー線液は、もはや堪えようもなく鈴口から滲み出てくる。その雄性の粘液に濡れて、レイのきめ細かな柔肌は一際すべらかさを増した。
「んぅ…あ、綾波、ちょっとタンマ…」
「やぁん…ん、んぅう…」
 シンジは気恥ずかしそうに頬を染めると、唇をすぼめるようにしてバードキスでのじゃれ合いを終えた。一方的にキスを終えられて、レイは恨めしそうな目でシンジを睨む。
「い、いっぱいキスしたからさ、ちょっと休憩しようよ」
「いや…もっと、碇くんとキスしたい…」
「休憩するだけだってば…また後でいっぱいしてあげるから、ね?」
「んぁ…ん、んぅ…」
 発情の証についてはあえて説明せず、シンジは一休みを申し出たが、レイは不満そうに口元をとがらせて駄々をこねる。レイをキス好きな女の子にしたのはシンジなのだから、ここでわがままを言うレイに非はない。もちろんそれをわかっているから、シンジは苦笑半分、優しく頬摺りしてレイをなだめた。
 レイはまだ不満そうにしていたものの、頬摺りどころか頬にキスまでされたら、やはり照れて相好を緩めてしまう。もっとも、後でまたキスすると約束もしてもらったから、なんとなく怒る気も失せてしまった。
 それで、レイもひとまず折れることにした。
 確かに、ずっと立ったままで睦み合っていたから、ちょっと座って休みたい。
 別にシンジがどこかへ行ってしまうわけではないのだから、冷静に考えれば慌てる必要はどこにもないのだ。
 二人はやんわりと抱擁を解くと、再び並んでベッドに腰を下ろした。興奮の汗が気化熱を奪ってゆき、なんとなく胸元が冷える。
「ちょっと喉が乾いちゃった…綾波は?」
「わたしも飲むわ…ありがとう」
 シンジは事務机から飲みかけのミネラルウォーターを手に取り、レイのぶんも彼女に差し出した。レイは素直に受け取ると、先程の不満顔はどこへやら、嬉しそうに目を細めて謝辞を告げる。
 そのままラッパ飲みでごくごく喉を鳴らして飲み、二人は安息の溜息を吐いた。多少はぬるくなってはいたが、性的興奮に見舞われている身体には十分冷たくて、まだまだ美味しい。
 シンジが二口目を飲もうとしたとき、ふと視界の左端でレイの視線を感じた。
 ちらりと横目で見ると、レイはそそくさと視線を戻し、何もなかったかのように自らのペットボトルを見つめる。とはいえ、レイは両手でペットボトルを包み込んだままであり、二口目を飲もうともしない。
 そんなレイを気にすることなく、シンジは再びペットボトルに口を付けた。するとレイはまたシンジに視線を向け、じっと彼の横顔を見つめる。
「なぁに、綾波?」
「な、なんでもない…」
 二口目を飲んでから、シンジは視線を向けることなくレイに問いかけた。レイは慌てたような早口で答えると、妙にわざとらしくペットボトルに口を付ける。
 わざわざレイの方を見なくとも、その熱っぽい眼差しはくすぐったいほどに感じられた。それも、バードキスの余韻がいまだに残っている唇に、である。
 そんなレイがどうにも微笑ましくなり、シンジはついついからかいたくなってしまった。なんとなく、自分に対するアスカの気持ちが分かったような気がする。
「…綾波っ」
「ひゃっ」
「あはは、びっくりした?」
 シンジが戯れに、水滴の付着しているペットボトルをレイの頬に押し当てた。レイは思わぬ冷たさにぴくんと身をこわばらせ、小さく悲鳴をあげる。
 普段から冷静沈着なレイでも、こうして驚くことがあるのだ。
 シンジはレイの反応に、微妙に失礼な感動を覚えた。
 もちろん、レイとて人間であるから感覚がある。痛いときは苦痛に顔を歪めるし、熱いときや冷たいときでも即座に反応を示す。ただ、その反応が周りの人間ほど明確でないだけなのだ。
「…碇くんのいじわる」
「ひゃあっ!や、やったな、このっ…!」
「あんっ…仕掛けたのは、碇くんが先でしょ」
「冷たっ!ちょ、僕はそんなとこまでやってないだろっ!」
「や、だ、冷たっ…わ、わたし、そんなに長い間当ててない」
 二人はペットボトルをおもちゃにして、しばし仲睦まじくじゃれ合った。
 冷たいペットボトルを首筋に当てたり、背中に当てたり、脇腹に当てたり。十四歳とはいえ少々大人げないひとときに、シンジもレイも嬉々としてはしゃぐ。
 レイはアスカのように、爽やかな笑顔を浮かべることはない。それでもこうしてじゃれ合っていると、ささやかに幸せを噛み締めているような微笑を浮かべる。
 シンジはそれが嬉しかった。所詮独りよがりではあろうが、今まで以上にレイと親しくなれたようで、自然と笑みが浮かぶ。
 しかもこうして何気なくじゃれついても、無反応どころか一生懸命反撃に出てきてくれた。その意外さが新鮮で、ますますレイに対して好意を募らせてしまうのだ。
 レイもレイで、深く考えたりせず、感じるままに行動に出ることの楽しさを少しずつ理解してきた。
 少なくともシンジの前では、こうして素のままでいられる。
 素のままでいてシンジが喜んでくれるのだから、レイ自身嬉しい。普段からでも、もっともっとシンジと一緒にいたくなってくる。
 二人はひとしきり無邪気なスキンシップを楽しんでから、幸せいっぱいといった風に目を細めた。ペットボトルでのじゃれ合いが休戦を迎えた頃には、中身のミネラルウォーターはすっかりぬるくなってしまった。
「…碇くんはいじわる」
 それぞれでペットボトルを事務机に置いてから、レイはシンジに寄り添って恨み言をつぶやいた。そのまま彼の左腕にすがりつき、心持ちうつむいて肩に頬摺りする。
「優しくするって言ったのに、いじわるばかり」
「いじわるなんてしてないよ」
「キスはやめるし、今だって冷たいペットボトルを押し当ててくるし」
「…先週、どうしてキスする必要があるの、なんて言ってたの…誰だっけ?」
「…いじわる。碇くんは本当にいじわる」
 シンジの揶揄に頬を染めると、レイは少しふてくされたような口調で恨み言を重ねた。
 それでも甘えんぼな気持ちは変わらず、レイは肩への頬摺りを止めようとしない。むしろシンジとのキスが恋しくて、ちゅっ、ちゅっ、と頬に唇を押し当てるほどだ。
 すっかりなついて甘えてくるレイが愛おしくて、シンジは右手で彼女の頭をかいぐりする。固めの髪の手触りを楽しむよう丁寧に丁寧に撫でると、レイはたちまち猫撫で声でむずがった。

つづく。


 


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(updete 2004/06/25)