はじまるシアワセ

03

作者/大場愁一郎さん

 

「…ねえ綾波、横になろ?」
「うん…」
 かいぐりしながらシンジが誘いかけると、レイは小さくうなづいて顔を上げた。そのままお互い照れくさそうに見つめ合い、小さくキスを交わす。
 レイは安堵感に相好を緩めながら、薄手の掛け布団を大きくまくり、仰向けに寝そべった。愛用の枕の上で頭の位置を整えてから、物欲しそうな目でシンジを見上げる。やはり微妙な心細さを覚えるために、乳房や股間は両手でそっと覆い隠した。
「綾波、見せて…」
「うん…」
 それでもシンジが求めると、レイは二つ返事で両手を下ろし、あるがままを彼に晒してしまう。裸身を見られるのが恥ずかしいわけではないし、自分ばかり甘えておねだりしているのは気が引けるからだ。
 そんなレイの右側から寄り添うように横臥すると、シンジは左の肘で上体を支え、あらためて彼女の裸身を眺めた。
 レイの乳房は、お椀を伏せたような形で女性としての膨らみを備えている。
 サイズはアスカより控えめながらも、形の良さでは決して引けを取っていない。レイの寡黙な優等生然とした性格にはぴったりといえた。
 濃桃色の乳首や乳輪も、やはり控えめにその存在を主張している。柔肌の真っ白さもあって、レイの乳房は色っぽいというよりも、綺麗という印象だ。清潔感はそこかしこに溢れている。
 乳房から下降すると、ぱっと見でもあばらのわかる細い脇腹へと続いてゆく。
 脂肪分の少ないくびれたウエストは、わずかに腰骨をも浮かせているほどだ。シンジの腕力であっても、レイはゆうゆうと抱き上げることができそうである。
 適度な腹筋はなだらかな丘陵を築き、へそでくぼんで、さらに下降するとレイの股間が見えてくる。レイの性毛は髪と同じ水色に近い銀色であり、細い紡錘型に生え揃って少女の恥丘を覆っていた。
 ヒップも女性としてのまろみを帯びてはいるが、あまりにほっそりとしているために肉感は乏しい。太ももからふくらはぎにかけてもほっそりとしており、華奢な印象は強まるばかりである。
「綾波の身体って、本当にきれいだよね」
「…シャワーは、毎日浴びてるから」
「そういう意味じゃなくって…なんていうかな、美しいっていうのかな…」
「ちゃんと石鹸を使って洗ってるもの。牛乳石鹸」
「…ま、いいや」
「うん…ふふふっ」
 一瞬きょとんとまばたきしたものの、シンジもレイもすぐに目を細めて笑みを交わした。
 睦言は微妙にすれ違いを残したが、のんびりとした雰囲気の中で交わすおしゃべりが二人は大好きだ。こうして裸で寄り添い、他愛もない戯れ言を重ねているだけでも胸は和むし、愛おしさは募る。
 シンジは左手をレイの首の下に忍ばせて、そっと彼女の肩を抱いた。そのぬくもりがくすぐったくて、レイは嬉々としながらシンジを見つめる。
「こうして碇くんとくっついてるの、好き」
「僕も好きだよ」
「ふふっ…じゃあわたしと碇くん、好きどうしね」
「あはは、そうだね…僕と綾波、好きどうしになっちゃった」
「うん、好きどうし…嬉しい、碇くん…」
 二人は今度こそ甘やかに睦言を交わし、ゆったりと唇を重ねた。ぴったりと隙間無く塞ぎ合えば、お互いの歓喜の気持ちは過敏な薄膜ごしに温かく行き交う。
 レイの言った好きどうしという言葉は、別に両想いになれたという意味ではない。
 もちろんそれはわかっているが、その甘美な響きでシンジの男心は狂おしいほどに奮い立った。アスカという大切な恋人がいるにもかかわらず、まるで初恋のようなときめきを覚え、胸は早鐘のように高鳴る。
 それでもシンジは、今日だけはアスカの信頼に甘えることに決めていた。だからこそ幸せいっぱいで同意して、レイと恋人気分でキスを交わしたのだ。
 レイはそもそも恋心を知らないから、純粋にスキンシップが好きだという共通点を見つけて喜んでいるだけである。何につけても、シンジと一緒であればそれだけで嬉しい。
 だからこそ、シンジが優しくしてくれるなら、どこまでも甘えるつもりだ。いつまでも裸でくっついていたいし、キスだってしていたい。拙いながらもおしゃべりしたいし、しりとりだってしたい。もうわがままなくらいにあれこれとおねだりしてみたい。
「碇くん、もっと…もっといっぱい、キスして…」
「うん…」
 レイはシンジの唇を甘噛みして割り開きながら、熱く湿った吐息とともにさっそくおねだりした。シンジはふんわりと唇を重ねて、了承の声をレイに口移しする。
 シンジはそのまま右手でレイの頬を包み込み、すべらかな手触りを確かめるようゆっくりと撫でた。中指の先があごの線から耳たぶにかけてをなぞると、レイはたちまち上擦った鼻声を漏らす。熱い吐息も、たちまち甘ったるい溜息となった。
 そのタイミングを見計らって、シンジはそっと舌先を差し出した。唾液に濡れた舌先はレイの唇の隙間にゆっくりと割り込み、やがて前歯を探り当てる。
「んんっ…」
 レイは困惑して眉根にしわを寄せながらも、すぐにしおらしくシンジの舌先を唇に含んだ。噛んだりしないよう意識しつつ、バードキスの要領で丁寧にむしゃぶりつく。
 シンジはそのままレイと唇を重ね、しばし彼女のじゃれつきに身を委ねた。
 舌と唇をいっぺんに甘噛みされる心地良さは、キス好きなシンジを腑抜けにするに十分であった。レイのバードキスは健気そのものであり、性感帯である唇はもちろん、舌からも甘酸っぱいような快感が生まれてくる。鼻の頭にはすっかり興奮の汗が浮かび、吐息のひとつひとつにも女の子のようなかわいい上擦り声が混ざってきた。
 勃起しきりのペニスもキスによる性感でぴくんぴくん震え、鈴口から精製したてのカウパー線液を滲ませてくる。五日間の禁欲生活を送ってきたために、その漏出もしとどであった。無色の粘液は亀頭に沿って伝い、今にもくびれの辺りから滴り落ちようとしている。
「んぅ…んぅ…んぅう…んっ…ね、綾波も…」
「うん…」
 シンジは高ぶりのままにキスを中断し、もどかしそうな声でレイにねだった。レイも拒むことなく、おずおずと舌を伸ばしてシンジのそれと触れ合わせる。
 二人の舌先は遠慮がちに突っつき合い、はにかむようにして初めての挨拶を交わした。それだけでたちまち仲良くなり、どちらからともなくじゃれついてゆく。
 濡れた舌先どうしで、上下左右あらゆる方向から寄り添い合ったり。
 固く尖らせて、ぐいぐいと押し合ったり。
 かと思うと力を抜いて、唇ごと優しく舐めついたり。
「はあっ、はあっ、はあっ…綾波…」
「はぁ、はぁ、はぁ…い、碇くん…」
 レイもシンジも熱く湿った吐息を吐きかけながら、丁寧に丁寧に舌でのスキンシップを楽しんだ。シンジはレイの頬を撫でながら、レイはシンジのぬくもりに浸りながら、それぞれ愛おしさのままに呼びかける。もう胸は愛欲でいっぱいだった。
 シンジは、レイに優しくしたくて。
 レイは、シンジに甘えさせてほしくて。
 思わずぐずりたくなるほどの衝動に、二人の胸はせつなく焦がれた。舌の動きは少しずつ忙しなさを増し、唇の触れ合う頻度も多くなってくる。
「はあっ、はあっ…綾波、このまま…」
「んぅ…ん、んむ…」
 じっくりとリードしてきたぶん、シンジの方が先に愛欲を抑えきれなくなった。
 シンジはレイと舌を触れ合わせたまま、彼女の了承を得る間もなく唇を重ねた。レイは大胆なキスに歓喜と困惑をない交ぜにしながら、夢中で了承の声をシンジに口移しする。口内へ入り込んできたシンジの舌に一瞬怯みかけたものの、すぐに自らも大きく舌を伸ばし、彼の口内へとできるだけ深く送り込んでゆく。
 そのまま二人は小首を傾げてぴったりと唇を重ね、シンジのリードでゆっくりと舌を絡め合わせていった。
 ざらつく表側どうしを念入りに擦り合わせたり。
 あるいはヌメヌメとした裏側どうしを擦り合わせたり。
 クルクルと円を描くように追いかけっこしたり。
 代わりばんこで上唇や下唇をめくり、その向こうの歯茎をくすぐってみたり。
「んぅ、んぅ、んぅ、んぅ…んっ、んんっ…!ん、んぅ、んふっ…」
「んっ、んっ、んっ…ん、んぅ、んぅう…ん、んふっ、んぅ…」
 二人は愛欲を自制することなく、思う存分に舌をくねらせてディープキスに耽った。舌どうしのねちっこい交尾があまりに心地良くて、シンジもレイも鼻にかかったよがり声をあげ通しとなる。
 シンジはレイとのディープキスに鮮烈なまでの感動を覚え、胸を熱く奮わせていた。
 ミサトやアスカと対照的に、レイのディープキスは極めてしおらしいものであった。積極的に欲張ることなく、あくまでシンジのリードに舌使いを合わせ続けるのである。
 とはいえ、ただシンジに翻弄され続けるという意味ではない。シンジの想いを敏感に気取り、微に入り細をうがつ理想の形でディープキスに応じるのである。
 舌を擦り合わせるときには、唇をすぼめたり、あるいは小刻みに吸い付いて。
 追いかけっこするときには、シンジよりも控えめな舌使いで付き添わせて。
 歯茎をくすぐられるときも、シンジの舌に舐めついてくすぐり返して。
 もちろんレイはディープキス初体験であったから、初めのうちは舌使いもたどたどしいものであった。それでもシンジによってキス好きにされてしまったために、ディープキスのポイントをつかむのも早かった。それも自分自身が気持ちよくなるよりも、シンジが気持ちよくなれるようなポイントをである。
 しかし、レイにそのつもりがあったわけではない。レイはあくまで、シンジの舌と自分の舌とが仲良くなれるように意識しているだけだ。シンジに優しくしてもらいたいからこそ、舌使いにもその想いがこもるのである。
 レイは生まれて初めてのディープキスに、今までにない興奮を覚えていた。
 唇を触れ合わせるキスにしても不思議な行為であるというのに、そのうえでさらに舌を絡め合わせるなんて。
 レイも初めはシンジの意図が理解できなかった。こんな不潔なことをしたがるシンジの正気を疑ってしまったほどだ。
 それが今はどうだろう。舌どうしがくねり合うくすぐったさに快感を覚え、夢中で欲張ってしまう自分がいる。驚くほどの柔らかさとぬくもりに夢心地となり、一生懸命になってじゃれついてしまう自分がいる。
 このままシンジとディープキスを交わしながら、いつまでもイチャイチャと過ごしたい。
 レイはもはや淫蕩を極めたキスの虜となり、胸中を愛欲でいっぱいにした。そのために発情期も盛りを迎え、舌使いは自ずと巧みになり、唇はもちろん乳首やクリトリスといった性感帯もせつない疼きを増してくる。
 その疼きによって膣口がきゅんきゅん収縮を繰り返すため、レイはその焦燥をなだめようと膝頭から太ももからをしきりに擦り寄せていた。疼くクリトリスを指で慰めたくて、ついついむずがるような鼻声でうめいてしまうくらいである。
「んぅ…ん、んんぅ…んぅ…んぅう…」
「んんぅ…んぅ、んぅう…」
 ふとレイの鼻声とシンジの鼻声が重なり、淫猥な韻律となる。
 すっかり発情したレイとのディープキスに酔いしれ、シンジもだらしないうめき声を押し殺せなくなったのだ。いつしか頬への愛撫はうなじを抱き込む拘束となり、レイをディープキスから逃すまいとしている。
 それだけ、レイとのディープキスは気持ちよかった。
 気持ちいいというよりも、男として胸が空いた。不純だとは思いながらも、リードする悦びが痛快でならない。しおらしく従属するようなレイの舌使いが嬉しくてならない。
 ほの暗い快感で男心が沸き立つと、愛欲よりも独占欲の方が勝ってしまう。
 良心の呵責に苛まれながらも、シンジはにわかに燃え上がった独占欲に屈してしまった。
「ん…んん…」
「んんんっ…ん、んんっ…んぅう…」
 シンジは右手でレイのうなじを強く抱き込むと、彼女の口内へゆっくりと唾液を送り込んでいった。その生ぬるい感触を舌の根本に覚えて、レイは瞬間湯沸かし器よろしく顔中を真っ赤にする。まさか唾液を口移しされるとは思ってもみなかったのだ。
 それでも、レイは拒まなかった。存分に舌を絡め合ってきたから、不快感も湧かなかった。むしろシンジと二人で禁忌を犯しているようで、ゾクゾクと胸が逸ってくる。
 レイはすこぶる照れくさそうにしながらも、舌を絡めたまましおらしくシンジの唾液を受け入れた。その量もまた予想以上であったため、照れくささはひとしおとなる。
「ん…ん、んっ…」
「んふっ…ん…んんっ…」
 一滴残らず唾液を受け入れてもらって、シンジは再びレイの頬を右手で包み込む。うなじを抱き込んだ意地悪を詫びるよう、そして心からの感謝を伝えるよう、ほこほこと火照っている頬を丁寧に丁寧に撫でた。
 想いのこもったスキンシップは、お互いに心地良い愛撫となる。レイは左手でシンジの右手に触れながら、儚げに鼻声を震わせた。絡め合っていた舌も口内へと戻し、生ぬるい唾液のプールに浸す。
 自分の唾液の味はわからないのに、他人の唾液の味ははっきりとわかるものだ。
 レイはシンジとキスしたまま、唾液のプールで舌をくねらせてそう実感した。
 シンジの唾液はミネラルウォーターのように無味であったが、強いていえば澱粉質の甘味があった。そのほのかな甘味を少しでも多く感じ取ろうと、レイは右に左に舌をくねらせて唾液を攪拌する。
 このほのかな甘味が、シンジの味。
 いかにも彼らしい、優しい味。
 そう思うだけで照れくさくなり、レイの頬は熱く火照った。汗の粒を浮かべた鼻から、うっとりと恍惚の溜息が漏れ出る。今さらではあるが、唾液を口移ししてもらった事実があまりに照れくさくて居心地悪い。どこかに逃げ出してしまいたいくらいだ。
 そんなレイの動揺を頬の火照りで感じ取り、やがてシンジも彼女の唇の隙間から舌を戻した。代わりにすぼめた唇で、ちゅっ、ちゅっ、と水音を立ててレイの唇に吸い付く。愛撫の中指でもあごの線を突っついて合図を送った。
 それらはささやかな合図ではあったが、レイにはシンジの意図が十分に伝わった。
 レイもシンジに倣って唇をすぼめると、石清水のようにゆっくりと唾液を送り返した。シンジはレイの口中で温まった唾液をちゅぱちゅぱ音立ててすすりながら、今度は愛撫の手を頬から頭へと移す。固めの髪に指を埋め、撫でつけるようにかいぐりすると、レイははにかんで甘えんぼな鼻声を漏らす。
 そうやって二人は、二往復、三往復、四往復と唾液をやり取りした。互いに唾液を舌に馴染ませるよう口内で転がし、あるいはくちゅくちゅと口をゆすいだりしてじゃれる。
 もちろんその間でも、キスをおざなりにはしない。すぼめた唇でキツツキのように突っつき合い、小刻みに薄膜をたわませて接吻欲を満たす。
 こうして二人の口中を往復する間に、唾液はすっかりとろみと甘味を増してきた。シンジの口でもいっぱいになるほど、その量も増えてしまう。
「ん、んっ…」
「んぅ…」
 心ゆくまで淫蕩の限りを尽くしてから、二人は仲良く唾液を分け合い、ようやっと長い長いキスを終えた。まばたきした拍子に視線が合って、それをきっかけにシンジもレイも唾液を飲み干す。とろみがかった唾液は喉越しが悪く、おまけに背徳感でゾクゾクとした悪寒すら覚えるほどだ。
 ともかくこれで、レイの唇と舌はシンジとのディープキスに馴染んでしまった。無垢であった唇にも、舌にも、舌下にも、歯茎にも、口蓋にも。レイの口腔すべてにシンジの唾液が染み込み、キスによる睦み合いの心地良さを女心にまで焼き付けてしまう。
 そのために、とうとうレイの身体は発情の生理現象をきたした。レイは陶然となった意識の中で、そのくすぐったいような違和感に気付く。
 先程から和らぐ様子のないクリトリスの疼きに合わせて、なにやら熱いものが膣内を下りてきているのだ。一瞬生理が始まったのかと思ったが、それよりももっと熱くて、もっと照れくさいような感触が伝い落ちてきているのである。
 やがてそれは、小刻みに収縮を繰り返している膣口から静かに漏れ出た。途端にレイはぴくんと腰を震わせ、焦れったそうに太ももを摺り合わせる。キスを終えたばかりの火照り顔は、その未体験の感触にたちまち困惑を極めてしまう。
 レイは、発情した雌性としての潤いをきたしてしまったのだ。
 睦み合いによる性的興奮と快感によって、レイの身体は異性を受け入れる体勢を整えたのである。もう唇から、乳首から、性器から、それどころか肌という肌すべてがシンジを切望していた。どれだけ抱き合っても、どれだけキスしても、どれだけ撫で回されても落ち着かないような気分にさえなってくる。
 このままシンジに甘えていたら、自分はどうなってしまうのだろう。
 今まで性欲について意識したことのないレイは、この不思議な生理現象と、シンジに対するせつない焦燥感に狼狽しきりとなった。説明しようにも的確な言葉が思い当たらず、レイは怯えたような目でシンジを見つめる。
「はぁ、はぁ、はぁ…い、碇くん…」
「綾波…」
 レイの呼びかけに応じながら、シンジは惚けた眼差しで彼女を見つめ返した。
 久しぶりに見たようなレイの素顔は、すっかり恍惚となっていた。
 強い発情のために、潤みきった赤い瞳。
 興奮の汗を浮かべた、小さな鼻。
 唾液まみれでべちょべちょになっている、火照った頬。
 うっすらと開かれ、忙しない息遣いの聞こえてくる可憐な唇。
 淫らなキスを覚えたがために、今やレイの素顔は美少女としてのかわいさだけでなく、女性固有の艶をも帯びてきていた。表情こそ相変わらず希薄ではあったが、それでもシンジは狂おしいほどの愛おしさを覚えてしまう。男としての独占欲も満たされ、代わりに晴れ晴れとした愛欲が熱く胸を奮わせてきた。
「綾波…かわいいよ、綾波っ…」
「あ、やぁ…ん、むっ…」
 シンジは夢中で睦言をささやき、もう一度だけレイと唇を重ねた。そのキスはふんわりと薄膜をたわませ合うだけのささやかなものであったが、レイはきつく目を閉じると、シンジから顔を背けてるようにキスから逃れてしまう。
 そんなレイの反応を見て、シンジは矢庭に狼狽えた。なにか気に障ることでもしたのかと、不安そうな面持ちとなってレイの横顔を見つめる。
「綾波、もしかして…ディープキス、嫌だった?」
「ううん、そうじゃないの…。あまり、かわいいって言ってほしくないの…」
「えっ?ど、どうして?」
「ん、んぅう…」
 シンジの気遣わしげな問いかけを慌てて否定すると、やはりレイは視線を逸らしたままひとつだけ懇願した。意外な要求にシンジもきょとんとなり、質問を重ねる。
 かわいいという睦言は、極めて何気なく言葉にできる想いの発露である。アスカであれば、シンジがささやくより先に彼女自身から問いかけてくることだ。それでかわいくないなどと冗談を言えば、アスカはポカポカと拳固を振るってきたりもする。
 それだけに、シンジはレイの気持ちが理解できなかった。愛撫を重ねていた右手で髪を退け、その照れくさそうな素顔を見つめても答えらしい答えは見つからない。
 レイはシンジの指先と視線にはにかみながらも、その潤みきった赤い瞳をまっすぐ彼に向けた。ささやかに深呼吸をひとつ、さざめく気持ちを抑えて覚悟を決める。
「…碇くんにかわいいって言われると、嬉しくて、照れくさくて…その、逃げ出したくなるの…。あんまり照れくさいから、碇くんの顔、まっすぐ見れなくて…今もキスされたら、涙が出てきそうになって…それでっ…」
「綾波…」
「そう言われるのが嫌じゃないの…かわいいって言われるのも、キスするのも、本当に嬉しいのに…。ごめんなさい…ごめんなさい、碇くん…嫌いにならないで…お願い…」
 別人のような饒舌ぶりで心情を吐露したレイであったが、やがて危なっかしく吐息を震わせると、たちまち涙ぐんで哀願を始めた。恍惚となっていた素顔も不安に曇り、せっかくの美少女ぶりも損なわれてしまう。
 シンジにかわいいと言われることが嫌いなのではない。絶妙なタイミングでかわいいと言ってくるシンジが嫌いなわけでもない。
 むしろシンジにそう言ってもらえると、照れくさいながらも嬉しかった。先程もかわいいと言われたうえにキスされて、そのあまりの嬉しさに失神しそうになったくらいだ。
 ところが、こうしてイチャイチャと睦み合っているうちに、その照れくささの際限が無くなってきた。かわいいと言われることも、キスされることも、優しい眼差しでシンジに見つめられることさえも、もう照れくさくてならない。まさに、穴があったら入りたい気持ちであった。
 だからこそ、レイはシンジの睦言を拒んだのである。しかし拒みはしたものの、せっかくのシンジの気持ちを無下に扱ったようで、どうにもいたたまれなくなってくる。
 本当は、かわいいと言ってもらいたい。
 まだまだキスしてもらいたい。
 こうして寄り添ったまま、いつまでも他愛のない一時を過ごしていたい。
 シンジへの思慕の情は、レイの心の中であまりに大きく膨らみすぎた。
 そのぶん、心は臆病になってしまった。
「碇くん、ごめんなさい…お願いだから、わたしのこと嫌いにならないで…碇くん…」
「あ、綾波…大丈夫だから…大丈夫だから、ね?」
「ん、んぅ…」
 シンジに嫌われたくない一心で、レイの女心は睦み合いにふさわしくない言葉を紡いでしまう。そうでも言わないと、せつなく胸を詰まらせてくる焦燥感に耐えきれないのだ。想いを言葉にして伝えなければ、このままシンジを失ってしまうような気がして、不安でならないのだ。
 そんな狼狽しきりとなったレイをなだめようと、シンジは頬への愛撫を再開した。レイの吐息に合わせ、火照った柔肌に手のひらの感触を擦り込むよう丁寧に丁寧に撫でる。
 その愛撫はレイを落ち着かせるつもりで、心からの慈しみを込めたはずであった。
 しかし胸の内圧を高めている愛おしさは募るばかりであり、シンジの相好はくすぐったそうに緩んでゆく。レイの一途な気持ちが言霊となって哀願にこもるために、シンジの男心が歓喜で奮えるのだ。
「嫌いになんてならないよ、綾波…。誰だって恥ずかしいものは恥ずかしいんだから」
「はずかしい…この気持ちが、恥ずかしいって気持ちなの」
「え?あ…うん、きっとそうだと思うよ。綾波が恥ずかしいって思うのは、それだけ僕のことを意識しちゃうからだろ?先週はそんなこと、少しもなかったじゃない。だから綾波が恥ずかしがってくれたら、僕は嬉しいな。僕と綾波の間で、ちゃんと気持ちが行き交ってるって感じがするし」
「碇くん…」
「だから綾波、心配しないで…僕は綾波のこと、嫌いになんてならないよ」
「ん…んぅ、んっ…」
 シンジは子どもを諭すような優しい口調でそうささやき、右手の親指でレイの涙を拭った。そのまま愛おしむように頭を撫でると、それでようやくレイは表情を落ち着かせる。
 安らかに目を細めると、レイはかいぐりされる照れくささに少しだけ声を震わせた。もう嬉しくて嬉しくてどうしようもない。せっかくシンジに目元の涙を拭ってもらったというのに、すぐまた涙ぐんでしまいそうなくらいだ。
「綾波…今度は唇だけじゃなくって、身体中にキスしちゃうね」
「か、身体中なんて…その、恥ずかしい…」
「ふふっ…恥ずかしがってる綾波も、すっごいかわいいよ」
「や、ま、また…い、碇くんのいじわる」
 シンジは嬉々としてじゃれつきながら、レイはくすぐったそうに恥じらいながら、イチャイチャと睦言を交わす。
 そのままそっと唇を重ね、それぞれで胸いっぱいの愛おしさを持ち寄った。小さなキスひとつでも、二人の幸福感はぐんぐんと増幅されてくる。
 その幸福感による素直な笑顔を交わしてから、シンジはレイの横顔にもキスした。火照った左の頬どうしを擦り寄せながら、その頬に、あごの線に、あるいは耳たぶに、いくつもいくつもキスを撃つ。その間も右手はかいぐりを止めないから、レイの固めの髪はくしゃくしゃされどおしだ。
「綾波…かわいいよ、綾波…綾波っ…」
「い、碇くんっ…く、くすぐったいっ…あっ!く…ん、んううっ…!」
 シンジの睦言と愛撫に、レイは仰向けの身体をモジモジと身じろぎさせて悶える。
 特に耳たぶを甘噛みされると、レイは枕の上でおとがいを逸らしながら狂おしい上擦り声をあげた。レイはまだまだスキンシップに不慣れであるから、快感より先に鋭いくすぐったさを覚えてしまうのは仕方のないことだ。
 それでもその反応に気をよくして、シンジはなお丁寧にレイの耳たぶを甘噛みした。唇の弾力を擦り込むよう縦に横にとついばみ、かと思うと舌を伸ばして、耳の裏から耳孔からをきめ細かに舐め回す。
 とはいえ、耳孔の奥深くにまで舌を入れることはない。あくまで産毛をくすぐる程度で済ませておき、やがてその舌をゆっくりと首筋へと下降させてゆく。
「あ、あっ、あああっ…!ひゃう、ん、んぅうっ…!!」
 シンジの舌先に責められて、レイは鼻にかかった声で敏感によがった。ゾクゾクと身震いした途端、二の腕にはうっすらと鳥肌が立つ。
 身体中にキスされ、舌を添わされることがどういうものなのか。
 陶然となった意識の中で、レイは今さらながらに怖気づいた。今でさえもあまりのくすぐったさに、なんだか腹筋が痛くなってきているほどなのだ。これ以上くすぐられては全身が筋肉痛になりそうである。ともすれば無様に失禁してしまうかもしれない。
 そんなレイの怖気を余所に、シンジは彼女の首筋にキスを連発した。ほっそりとした首筋のそこかしこに唇を押し当て、軽く吸い付いては舌先で舐めあげる。
 レイがイヤイヤとかぶりを振れば、二人は自ずと頬摺りする形になった。そのぬくもりがなんとも心地良くて、シンジもレイも吐息を弾ませて睦み合いに浸る。
「…綾波、ちょっとごめんね」
「え…あ、やぁん…」
 やがてシンジはレイの首の下から左手を戻して身を起こし、仰向けの彼女の上でよつんばいとなった。弾みで逸り水がペニスの先から糸を引いて滴り、レイの下腹を濡らす。
 レイはついつい不満そうに口元を尖らせるが、それは逸り水が滴り落ちてきたためではない。温かな抱かれ心地が遠ざかってしまったためだ。
「…もっと、碇くんとくっついていたいのに」
「ちょっと離れるだけじゃないかぁ…まったく、綾波がここまで甘えんぼだったなんて想像もしなかったなぁ」
「い、碇くんが甘えていいって言ったから…わたしも、碇くんがここまでいじわるだったなんて想像もしなかった」
「あ、ひどいなぁ…僕って、そんなにいじわる?」
「うん、いじわる。碇くんはいじわる」
 ささやかな言い争いが生じるものの、シンジもレイも、その表情は嬉々としたままだ。こんな他愛もないやりとりひとつでも、お互いに思春期の胸はワクワクと逸る。
 レイは照れくさそうにシンジを見上げていたが、やがて静かに目を伏せると、彼の眼前でそっと唇をすぼめた。枕の上でわずかにおとがいを反らすことからも、それがレイの求愛行動であることは一目瞭然だ。
 シンジも言い返す術を覚えたレイに見惚れていたから、その求愛行動を見逃したりはしない。よつんばいの体勢のままで唇を寄せ、レイの望みを叶える。
「んぅ…」
「んっ…」
 ふんわりとした優しいキスに、シンジもレイも夢見るように目を伏せたまま、鼻にかかった上擦り声を漏らして悦に入る。
 薄膜どうしを重ね合わせたまま、シンジはよつんばいの右手でレイの肩に触れ、そこからひんやりとしている二の腕にかけてをゆっくりゆっくりと撫でた。そのぬくもりがなんとも心地良くて、レイはキスしたまま陶酔の鼻息を漏らす。
 お礼のつもりで、レイも右手でシンジの肩に触れ、そこから背中にかけてを撫でた。その筋肉質な手触りに、強く異性を感じる。決してシンジは筋骨隆々たる体躯の持ち主ではないが、異性の身体に触れるのは初めてであるから感動も新鮮なのだ。
 また抱き合いながら、キスに耽りたい。
 レイの胸中には、たちまち強い抱擁欲がこみ上げてきた。女心はその存在を確たるものとし、レイ自身驚くくらい甘えんぼになってゆく。
 そんな矢先。
「んっ、んんぅっ…!」
 シンジの右手は、なんの断りもなくレイの左の乳房を包み込んだ。大きな安堵感を伴うくすぐったさに、レイは鼻にかかった嬌声を熱い吐息とともに吐き出す。
 レイの狂おしい鳴き声を確認して、シンジはゆっくりと愛撫を重ねていった。異性に口づけ、乳房に触れ、甘やかなさえずりを聞いて、シンジの男心はゾクゾクと奮える。
 レイの乳房は、決して発育良好な部類ではない。しかしシンジには、この控えめな乳房が甘えんぼなレイにはぴったりのように思えてならない。そのためにシンジの男心は、レイに対してもっともっと好意を募らせてしまう。
 シンジはぴったりとキスしたままで、まずはレイの乳房を優しく撫でこねた。親指以外の四本の指を揃え、乳首の上から反時計回りに女性固有の柔らかみを堪能する。つきたての餅をこねるような感触に浸りながら、反時計回りに、そして時計回しに、また反時計回りにと、レイの乳房を少しずつ性感帯へと開花させようとする。
「…綾波、どんな感じ?」
「ん、んぅ…気持ち、いい…」
「くすぐったくない?」
「うん、くすぐったくない…気持ちいい…先週と、全然違う…」
「えへへ、よかった…僕もこうしてて、すっごい気持ちいいよ…」
「んっ、ん、んんぅ…」
 戸惑い半分でよがるレイに、シンジは嬉々として同意しつつ、再び唇を重ねた。レイは線の細いあごをわななかせ、火照った鼻息まで震わせて身悶えする。
 キスも愛撫も気持ちいいのに、その気持ちよさをシンジと共有できて、本当に嬉しい。
 じゃれてついばみ合っている唇からも、そっと押さえるようにこねられている乳首や乳房からも、幸せいっぱいの心地良さが間断なく生まれてくる。もう甘えた猫撫で声を押し殺せない。またシンジにからかわれそうで、それだけがほんの少し嫌だった。
 そんなレイの反応に気をよくしながら、シンジはあくまで優しく彼女の乳房をもてあそび始める。
 揃えた四本の指で、いまだふんわりと和らいでいる乳首を乳輪ごとぷにぷに押圧したり。
 揃えた指をそのままに、わきの下から柔肌を集めるよう何度も何度も乳房を撫でたり。
 よつんばいを支える手を入れ替えて、今度は左手で右の乳房にも触れた。やはりここでもいきなり揉み込んだりはせず、揃えた指でやんわりと押しこね、わきの下から丹念に撫でて、愛撫に慣れさせてゆく。
「ん…ん、んぅう…んふ、ん、んっ…」
 二つの乳房がほんのり温まってきた頃には、レイは鼻にかかったさえずりを漏らし通しとなった。キスも望む以上にしてもらっているために、その美少女の素顔は性的興奮にすっかり火照っている。額や鼻の頭も汗でびっしょりだ。
「ん…ん、ぷぁ…綾波…」
「やぁ…顔、見ないで…」
「恥ずかしい?」
「うん…」
 長い長いキスを終えて、シンジは再びレイの左の乳房を右手にした。
 レイはシンジからの眼差しと問いかけに恥じらい、視線を逸らして首肯する。居心地の良いくすぐったさと歓喜の真っ直中にあるため、まっすぐにシンジと見つめ合うことができないのだ。
 そんなレイの初々しい姿が、たまらなくかわいい。
 シンジは愛おしげに目を細めると、レイの左の乳房をアンダーバストから寄せ上げるよう、そっと掌の中に包み込んだ。まだまだ発育途上ながらも、レイの女としての柔らかみがシンジの手の中に集められる。
「綾波、痛かったらすぐに言ってよ?」
「ううん…碇くんはわたしが痛がることなんてしないから、平気」
「えへへ、ありがと」
「うん」
 シンジの臆病なくらいの気遣いも、レイとの間では甘やかな睦言となる。
 それでまた、二人はふんわりと唇を重ねた。愛おしさでいっぱいだからこそ、いっぱいいっぱいキスしたくなるのだ。こればかりはどうしようもない。この調子ではいつまで経っても先へは進めないが、セックスは理屈だけで楽しめるものではないのである。
 キス好きな二人の唇が離れるか離れないかというタイミングで、シンジは右手に心からの愛おしさを込めた。自ずと右手はレイの乳房を寄せ上げ、反時計回りにゆっくりとゆっくりと揉み転がしてゆく。
「んぁ…んぅ、んぅう…あっ、んふっ…」
「くすぐったい?」
「す、少し…で、でも…でも…あっ、ふぅ…う…き、気持ちいい…」
「ふふっ、よかった…」
「んぅ…」
 レイの愛くるしい上擦り声に安心して、シンジは愛撫をそのままに再びキスした。レイはシンジに身を委ねたまま、気恥ずかしそうに目を伏せて鼻の奥でよがる。
 気持ちいい。もう身体中が、問答無用で気持ちいい。
 まるでトロトロとした甘いイチゴミルクが、シンジからのキスと愛撫によって、身体の内側で激しく攪拌されているような心地である。
 唇を重ねることが、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
 乳房を揉まれることが、どうしてこんなに心地良いのだろう。
 その理由を冷静に考えようとしても、意識はたちまちその甘いイチゴミルクの大渦に飲み込まれてしまう。唇は無条件にキスを欲張り、乳房はくすぐったいような心地良さを身体の隅々にまで広げてくる。
「んんぅ…ん、んぅ、んぅ…んっ…」
 もうレイの意識はぐちゃぐちゃであった。シンジとキスさえしていられれば、もうそれだけでいいというような気持ちにすらなってくる。だらしない鼻息を漏らしながら、もうどうしようもなく、シンジにキスをねだってしまう。
 そんなねちっこいレイに辟易することなく、シンジはどこまでも応えてゆく。
 シンジはレイがねだるままに唇をついばみながら、丁寧に丁寧に愛撫を重ねた。ただただレイを気持ちよくしたいという一心で、右手は踊るように彼女の乳房を刺激してゆく。
 反時計回りで、何度も何度も揉み転がしたり。
 わきの下から柔肌を集めつつ、優しく搾り上げたり。
 かと思うと手の中から滑らせるように解放し、手の平でふにふにと押しこねたり。
「んっ、ん、んんぅ…ん、んぅ、んぅ、んっ…ん、んんっ…」
 そのどれもに、レイはだらしない鼻声でよがった。
 雌性であるレイからの淫靡な韻律に、雄性であるシンジは一際強く高ぶりをきたす。外的な刺激が無くとも、ペニスは勃起しきりで萎縮する素振りを見せない。
 もっとも、レイとキスを楽しみ、彼女の乳房を愛撫しているだけでも、シンジの男心は十分に逸っている。ぬくもりを分かち合えるほどの距離で、思う存分に異性を感じているのだからそれも当然であろう。
 レイの乳房は決してふくよかではないが、それでも女性固有の柔らかみはしっかりと秘めている。こうして丹念に揉み込むことで、右手にはレイの乳房の柔らかみがすっかり馴染んでしまった。
「んっ…ぷぁ…はぁ、はぁ、綾波…」
「んぁ…ち、乳首、くすぐったいっ…や、やぁん…!」
 キスを終えて呼びかけながら、シンジは中指の先で乳首に触れ、濃桃色の乳輪に沿ってクルクルと押し転がした。驚くほど過敏となっていた乳首を愛撫されて、レイは身悶えしながら鋭い鳴き声をあげる。くすぐったさが突然せつなさとなり、乳首に募ってくるのを感じたのだ。
 レイは思わず不安げな目でシンジを見つめた。しかしシンジは愛撫の手を止めようとせず、今度は親指と中指で乳首を摘み、のんびりとした動きで左右にねじり始める。
「あっ、や、だめ、だめぇ…!い、碇くん、碇くんっ…あ、ああんっ…!」
 くすぐられる乳首だけでなく、陰部全体にまでせつなさが殺到し、レイはあられもない声で叫んだ。尿意にも似た快感が身体全体を淡く包んできたため、切羽詰まった無我夢中でむずがり鳴いたのだ。
 その果てに。
 耳たぶのように柔らかかったレイの乳首は、シンジの指の中で固くしこってしまった。その健気な屹立を促すよう、乳輪自体もささやかに膨らむ。
 レイの右の乳房は、シンジの愛撫によって性感帯としての開花を遂げたのであった。屹立してなお左右にねじられ通しの乳首はもちろん、ほんのりと火照った乳房全体からは、上擦り声を殺せないほどの快感が溢れんばかりに生まれてくる。
「綾波…かわいいよ、綾波…」
「んぁ、あ、んっ…んんっ…んっ…」
 レイが女としての反応を示してくれたことに感動し、シンジは睦言をささやきながら、彼女を祝福するようにキスした。レイはたちまち真っ赤になって照れながらも、しおらしくシンジのキスを受け入れる。
「…ね、綾波…脚、開いてくれる?」
「う、うん…」
 シンジは唇を触れ合わせたまま、レイに吐息の中でそう告げた。レイはその吐息を敏感な薄膜に感じながら、ほっそりとした両脚を肩幅よりわずかに大きく開く。陰部がせつなく疼いているために、すぐにまた太ももを摺り合わせたくなってしまうが、シンジが望むのならと懸命に我慢する。
 シンジはレイの脚の間に進み入るために、一旦よつんばいの身を起こした。レイの腰を膝立ちでまたいだまま、ベッドの上を少しだけ後ずさる。
 レイはキスと愛撫で惚けたまま、うっとりとした眼差しでシンジの裸身を眺めた。
 こうして見上げると、シンジもやはり男子らしい体格である。図鑑で見たギリシャ彫刻のように筋骨隆々というわけにはいかないが、それでも適度にたくましく見える。
 少し照れくさそうな笑顔の下には、程良く隆起した温かい胸板。
 ほっそり引き締まって筋肉質に見えながらも、いつだって優しくしてくれる両腕。
 無駄な肉が少ないぶん、頼もしい弾力を秘めている腹筋。
 そして、雄々しく伸び上がるように勃起している、無骨な佇まいのペニス。左右で高さを違えて睾丸を内包している、ふんにゃりと柔らかい陰嚢。
 そこまで視線を巡らせて、レイはふとした違和感に気付き、きょとんとまばたきした。思わず自らの下腹とシンジのペニスとを交互に見つめ、次いでシンジを見上げる。
 その不思議そうな視線にシンジも居心地悪くなり、気恥ずかしげにレイを見た。
「あ、あの、綾波…どうかした?」
「碇くん、それ…もう射精したの」
「えっ?あ、い、いや、これは…」
 レイの言葉の意味を理解できず、一瞬狼狽えたシンジであったが、彼女の視線を追うことでようやく納得できた。納得できたからこそ、ますます気まずくなって恥じらう。
 レイは漏出しきりとなっていたカウパー線液を精液と勘違いしたのだ。
 キスと愛撫のためにすっかり意識の外であったが、あらためて見ると、驚くほど大量のカウパー線液をレイの下腹に滴らせていた。今もこうして膝立ちに身を起こしたために、余りが陰嚢付近にまで伝い落ちている始末だ。
 性的興奮状態にあるのはシンジ自身もわかってはいたが、ここまで貪欲な様を晒していたとは、まさに穴があったら入りたいくらいである。シンジはなんとなくあさっての方向に視線を泳がせた。
「膣内に射精しないと、もったいないわ」
「い、いや、これは精液じゃなくって、その…」
「精液じゃないの。だとしたら…カウパー線液」
「う、うん…そう」
 シンジがしどろもどろで答える前に、レイは先にその名称をつぶやいた。
 シンジは曖昧に応じながら、なんとなくレイに視線を戻す。こんな専門用語を知っているレイが不思議に思えたのだ。
「く、詳しいね」
「…前に、辞典で調べたから」
「調べたって…綾波も、男のしくみに興味あったんだ」
「…いじわる。やっぱり碇くんはいじわる」
 シンジの好奇の声に、今度はレイが気恥ずかしそうに顔を背けてしまう。その初々しいしぐさは、暗黙の中の肯定に他ならない。
 顔を背けながらも、興味津々の視線はどうしてもシンジのペニスに向かってしまう。男の逸り水たるカウパー線液を漏出しながら、ぴくんぴくんと打ち震えている様子は不気味ながらも不思議でならない。
「カウパー線液…性的に興奮すると、ペニスから漏出してくる男性固有の体液。つまり、碇くんも性的に興奮しているわけね」
「ま、まあね…綾波があんまりかわいいから、ドキドキしちゃって…」
「んぅ…そ、それじゃ、射精はいつ迎えるの」
「え?えっと…もっともっと興奮して、もっともっと気持ちよくなったら、かな」
 シンジの解説は、経験に基づく非常にわかりやすいものであった。
 だからレイも照れくさそうに相好を緩め、おずおずと右手でシンジのペニスに触れた。シンジも拒んだりせず、しばしレイのしたいようにさせる。
「…カウパー線液って、ヌルヌルしてるのね」
「う、うん…」
 レイは手の平に逸り水を馴染ませながら、ツヤツヤのパンパンに膨張している亀頭をしきりに撫で回した。ペッティングの心地良さにシンジは声を上擦らせ、射精欲を堪えようとわずかに唇を噛む。
 ペニスへの刺激が快感になるのは、ベッドへ上がる前にシンジに教えてもらった。
 そこでレイは、親指と人差し指の輪っかでくびれを締め付けるようにペニスを握り、逸り水のぬめりに任せてゆっくりゆっくりとしごき始めた。途端にシンジは吐息を震わせ、女の子のような鼻声をあげて悶える。
「んぁ、あっ、綾波っ…」
「碇くんのペニス、本当に大きい…。長くて、太くて、固くて…すごくたくましい感じ」
「ん、んふふっ…あ、ありがと…」
 レイは根本の辺りからストローク長くペニスをしごきつつ、感心しきりとなってそうつぶやいた。はにかんだシンジは上擦り声をそのままに、ぽつりと謝辞を述べる。
 レイも初めは、勃起したペニスの醜悪な佇まいに戸惑いを禁じ得なかった。しかしこうして想いを込めて愛撫すると、格別の愛おしさが湧いてくるから不思議なものだ。
 レイは固く漲っている幹から、幹と亀頭の境目をなすくびれから、もちろんくるみ大ほどに膨張している亀頭部分も、丹念に丹念にしごいて刺激する。逸り水がぬめるから、擦れて痛むこともないだろうと一生懸命な手つきでペッティングに励む。
 とはいえ、あまり一生懸命にしてもらうと気持ちいいには気持ちいいのだが、シンジは射精欲に抗えなくなってくる。ただでさえも五日間の禁欲生活を過ごしてきたのだ。うかつな挑発は、たちまち暴発に繋がってしまう。
「あ、綾波、あんまり強くしないで、出ちゃうっ…」
「ご、ごめんなさい…加減がわからなくて」
「ううん、気にしないでよ。ホントに気持ちいいからさ…」
「うん、よかった…碇くんが気持ちいいのなら、いっぱいしてあげたいけど」
 二人は仲睦まじく笑みを交わして、ひとまずペッティングを終えた。レイは名残惜しそうにしながらも、逸り水にまみれた右手の中から、そっとペニスを解放する。
 ほんの一分ほどしか愛撫されていないというのに、ペニスは精製したての逸り水をしとどに漏出していた。おかげで胸苦しいほどに射精欲が膨らんできて、シンジはしばし深呼吸して平静を取り戻す。

つづく。


 


 ご意見・ご感想はこちらまで

(updete 2004/06/25)