はじまるシアワセ

06

作者/大場愁一郎さん

 

 そんなレイの肩を両手でしっかりと抱き締め直すと、シンジの良心はいよいよ射精欲に圧迫されてきた。思うがままに雌性を抱き、妊娠させたいという衝動に駆られて、穏やかだったグラインドも次第に荒々しくなってゆく。
 いつしかシンジはレイのクリトリスを刺激することも忘れ、ピストン運動の悦びだけを欲張るようしたたかに腰を突き出していった。ぬかるむような水音と、肌と肌が打ち合う音に合わせて、シンジの陰嚢がレイの尻肉でぽんぽんと弾む。
「はあっ、はあっ、はあっ…あ、綾波っ…綾波っ…!!」
「あん、あんっ、あんっ…んぁ、ん、んぅうっ…!い、碇くんっ…碇くんっ…!!」
 二人は胸の真ん中に募りきった愛おしさに任せ、上擦りきった叫び声で名を呼び合った。シンジもレイも互いを強く欲するために、無我夢中の力で抱き締め合う。頬摺りも今や、力任せに擦り付け合っているほどだ。
 クライマックスを前にして、じゃれ合うようなスキンシップはもはや必要ない。
 男心と女心が求めるものはただひとつ、セックスによる快感のみであった。
 シンジは大胆なストロークとテンポで、勃起しきりのペニスをレイに突き込む。
 レイは身体全体でシンジを感じようとあがきつつ、元気良くペニスを締め付ける。
 普段はそう活発でない二人であったが、今やそんな印象はどこにもない。若々しい身体を汗みずくにして、全力で性の悦びを欲張り、そして分かち合う。
 そんな荒々しいセックスも、終焉は気まぐれのようなタイミングで訪れる。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…あ、あっ、綾波っ!綾波ぃっ…!!」
「い、痛っ…!」
 やおらシンジは名を呼び、思い切りよく腰を突き出した。勃起しきりのペニスでしたたかに子宮口を突き上げられ、レイは苦痛に顔をしかめて鳴く。
 シンジは射精欲に意識を飲み込まれ、レイを恋人であるアスカとまったく同じように扱ってしまったのだ。
 そして、次の瞬間。
 シンジのペニスは最後の怒張をきたし、爆ぜるように精を噴出させた。
「くううっ…!!」
「あああっ…!!」
「ううっ!んぅっ!んううっ…!!く、くぅうっ…!」
「ああっ!あっ、あ…ん、んぅ…んぅう…」
 シンジは女の子のような上擦り声でよがりながら、温かいレイの膣内で五日ぶりの射精を遂げた。レイも生まれて初めての精を子宮口に浴びせられ、少女の素顔を耳まで真っ赤にして恥じらう。
 濃厚な一撃を飛沫かせてから、立て続けて二撃、三撃、四撃、そして五撃。
 シンジはレイと深く深く繋がったまま、心ゆくまで精を放った。
 怒張を極めたペニスはたくましく脈動し、淡いクリーム色の精液を大量に噴出させ、レイの子宮口付近をいっぱいに満たす。もちろん子宮に直接流れ込むことはないから、行き場を失った精液は亀頭と襞の隙間を巡り、たっぷりと幹の方へ逆流してゆく。
 気持ちよかった。本当に気持ちよかった。
 十秒ほども陶然自失となってから、シンジはようやっと意識を取り戻し、深々と恍惚の溜息を吐いた。レイと頬摺りしたままの視界がぼんやりしているのは、両の瞳が感涙で潤んでいるためである。
 それほどまでに、レイとのセックスは素晴らしいものであった。
 雄性としての本懐を遂げる脈動すべてに、シンジは夢心地を覚えることができた。ペニスは今なお射精の快感に酔いしれているようで、緩慢な脈動を繰り返しながら、噴出しきれなかった精液をいつまでもいつまでも漏出し続けている。おかげで亀頭部分は、まるで失禁したかのように温かい。
 もちろん、膣内での射精だけが心地良かったわけではない。
 身も心も温まる抱擁も。
 切望しては捧げ合う愛撫も。
 めくるめくほどに情熱的なキスも。
 他愛もないおしゃべりも。
 照れくさいながらも嬉しい睦言も。
 単なる性交に留まらない、セックスという男女のスキンシップすべてが心地良かった。
 男として生まれて、本当によかった。
 心中でそう実感しながら、シンジは甘美を極めた余韻に浸る。
 男心も存分に満たされたために、今やレイに対する愛おしさで胸は張り裂けんばかりだ。事後の疲労感や倦怠感すらも心地良く、シンジは恍惚の溜息を吐きどおしになってしまう。
「綾波…」
「ん…ん、んぅ…」
 うっとりとしたささやき声で呼びかけながら、シンジはゆったりとレイに頬摺りした。同時に肩を抱いていた左手で彼女の髪に触れ、そのまま優しく撫でる。
 それでレイは照れくさそうに目を細め、鼻にかかったかわいい声を漏らして愛撫に浸った。頬摺りも、頭を撫でられるのも大好きだから、だらしないほどに相好が緩む。
 エクスタシーにこそ到達しなかったが、それでもレイは十分に満たされていた。シンジと仲睦まじく一時を過ごせた事実だけでも、心の底から嬉しく思えるのだ。もちろんそれはセックスの効果に他ならない。
 その効果は、レイにはまさに覿面であった。シンジとのセックスを経験したことで、レイはますます彼に対する好意を募らせてしまっている。こうして頬摺りされて、頭を撫でられて、射精してなおぴったりと抱き合っていると、なんだか嬉し泣きしてしまいそうな気分にさえなってくる。
 なにより、身体中を満たしているぬくもりが夢のように心地良い。室内は暑気で蒸してはいるが、不思議と不快には思わない。
 そのぬくもりは、シンジに射精された瞬間に生まれたものであった。
 シンジに射精された瞬間、レイは身体の芯が熱くとろけるような心地を覚えた。照れくさいような、そして恥ずかしいような感覚に困惑しているうちに、そのぬくもりは身体中に拡がって快感となったのだ。
 それはまさに、レイの膣がシンジの精液に馴染んだ瞬間でもあった。
 盛大に射精された精液は子宮口に染み込み、膣口の方へと逆流して、膣内に群生している襞の隙間にも浸透してゆく。そのために、処女であったレイの膣にはシンジのサイズと匂いがしっかりと擦り込まれてしまった。
 女性器は繊細な器官であるから、初めての男性器、そして初めての精液の情報を未来永劫に記憶し続ける。レイが今後シンジ以外の男とセックスを経験したとしても、その記憶は決して上書きされない。あらためてシンジとセックスすれば、膣はたちまち記憶を呼び戻し、初めて受け入れた男を悦ばせようと機能するのである。
 実際、レイの膣はシンジのペニスになついてしまっている。精を注ぎ込んでくれたことに感謝するよう、射精疲れによる鈍い痺れを癒さんと亀頭から幹からに優しく絡まり付いているほどだ。膣口に至っては、きゅきゅっ、きゅきゅっ、といたずらっぽいしぐさでペニスの根本付近を締め付けてもいる。
 おかげでシンジのペニスはたくましく勃起したままであり、萎縮する気配を微塵も漂わせない。レイが意識的にそうしているわけでないことはわかるのだが、そのぶんシンジは女心の健気さというものをひしひしと感じてしまう。
「綾波っ…」
「んぁ、ん、んんっ…んむ…」
 やおらシンジは頬摺りを終えると、なんの断りもなくレイの唇を奪った。理性も良心もかなぐり捨て、衝動のままに薄膜をついばみ、すぐさま舌を送り込んでゆく。
 そんな身勝手を振る舞われても、レイは機嫌を損ねたりしなかった。
 むしろレイ自身も接吻欲を募らせてきた矢先であったから、強引なキスでも大歓迎であった。後れを取るまいと一生懸命に薄膜をたわませ、やがて自らも舌を添わせてシンジのそれと絡め合わせる。
 セックスの余韻を味わいながらのディープキスは、男女の別無く愛欲が満たされるものだ。セックスを終えた後に一際募る愛おしさが、唇と舌の隙間で優しく溶けてゆくようで、なんともいえず心地良い。
「んぅ、んぅ、んぅ…ん、んんっ…んふ…んふ…んふ…」
「ん、んっ、んんぅ…すふ、すふ、すふ…」
 シンジもレイもしきりに小首を傾げては、ぴったりと密着させた唇の中でねちっこく舌を絡め、際限なく悦に入る。
 かわいらしい鼻声と鼻息のハーモニーは淫靡そのものではあるが、思い切りセックスを楽しんだ直後であるから発情したりはしない。たわみ合う唇の心地良さからも、くねり合う舌の柔らかみからも、唾液の生温さからも、大きな安堵を得ることができて胸が和む。たった一度のセックスではあるが、もう二人は何度恍惚の溜息を吐いたか知れない。
 そのまま、実に五分もだらだらとしたディープキスを楽しみ、二人はようやく唇と舌を引き離した。キスの余韻が残る唇をムニムニとたわませて見つめ合うと、たちまち胸が歓喜でいっぱいになってしまう。
「…綾波っ」
「やぁん…ん、んふっ…い、碇くん、くすぐったい…ん、んんぅ…」
 長い長いディープキスを終えたばかりだというのに、シンジはすぐまた舌を伸ばして、唾液でべちょべちょになっているレイの唇の周りを舐め始めた。混ざり合った自分たちの唾液を舐め取り、すすって、そしてまたふんわりとキスする。
 レイは猫撫で声でむずがりながらも、嬉々としてシンジのじゃれ付きを受け入れた。
 シンジとキスしていれば、本当に時間が経つのを忘れてしまうから不思議だ。しかし気付いたときには驚くほどの時間が過ぎ去っているから、レイは少しだけ寂しさと焦りを覚えてしまう。夢のような一時を過ごせたぶん、その反動はどうしても大きい。
「…かわいかったよ、綾波」
「ん、んぅ…」
 今度の今度こそキスを終えて、シンジはレイの頭を左手でかいぐりしながら微笑みかけた。微かに憂い顔だったレイはたちまちはにかんで目を細めたが、ふと違和感を覚えてぱちくりとまばたきし、遠慮がちにシンジを見つめる。
「…過去形なのね」
「…今もかわいいよ、綾波っ」
「あんっ…ふふっ、ふふふっ…」
 シンジはくすぐったさ極まったような苦笑を浮かべるなり、再びレイに頬摺りした。水色に近い銀髪をくしゃくしゃと強引にかいぐりし、横顔にいくつもいくつもキスを撃って想いの丈を伝えんとする。
 それでレイも満足して、陶酔の溜息とともに愛らしく破顔した。シンジからの惜しみのない愛撫にすべてを委ねようと、しっかと抱きついて目を伏せる。手荒いほどのかいぐりも、くすぐったくてならない頬へのキスも、そのどれもが嬉しい。嬉しくてならない。
 ひとしきりじゃれ合ってから、あらためてシンジはレイを見つめた。レイも鼻で小さく息をつき、シンジを見つめ返す。
 ひたむきな愛情を共有し合う二人の表情は、どこまでも穏やかで優しいものだ。
「ごめんね、綾波。いっぱい痛くしちゃったね」
「そんなことないわ。本当に痛いのは初めだけだったし…それに、碇くんが…その、普段よりずっと優しかったから…」
「えへへ、そんなこともないけど…あ、きゅ、窮屈だったよね、今退くよ」
「あ、あっ…んぅう…」
 シンジは照れくさそうな早口でそういうなり、最後にもうひとつだけレイの頬にキスして上体を起こした。抱きついていた両腕の中からすり抜けられた格好となり、レイは名残惜しそうな声で不満を鳴らす。
 ようやっと抱擁が解けると、汗にまみれた二人の胸からは、過剰な体熱がほんわりと気化して逃げていった。室内はサウナのように蒸し暑いというのに、シンジもレイも爽やかな涼感を覚え、ふと安堵の吐息を漏らす。
 やがてシンジは下肢にも力を込めて、緩やかな四つん這いとなった。そのまま右手でペニスの根元付近を押さえ、ゆっくりと腰を引いていく。それに合わせて、幾分和らぎを取り戻してきたペニスがレイの膣内から抜け出てきた。
「ん、んんっ…」
 二人のかわいらしいうめき声が一瞬重なり、淫猥な響きを伴う和音となる。
 シンジもレイもなんとなく見つめ合い、お互いささやかに苦笑を交わした。
 二人の性器は相性がぴったりであったから、すっかり馴染み合って結合を密にしているのだ。そのために、結合を解くのにも思わぬ力を必要とするのである。自ずと性器どうしが分かち合う刺激も大きくなるから、シンジもレイも声を押し殺せなかったのだ。
 そんな鋭いくすぐったさを亀頭全体に感じながら、一センチ、二センチ、三センチ、と少しずつ。
 やがてシンジはレイの膣内から、愛液と精液にまみれたペニスを丸々引き抜いてしまった。小刻みな収縮を繰り返している膣口から亀頭が抜け出るなり、密封状態になっていた膣内からはくぐもった空気音が漏れ出る。
「あ、あっ…」
 その気恥ずかしさに戸惑うより早く、レイは股間に両手を滑り込ませ、慌てて指で膣口を押さえた。栓となっていたペニスが抜き取られたために、混ざり合った二人の体液がたちまちフローバックしてきたのだ。
 大量に精液を注ぎ込まれただけでなく、愛液の分泌もしとどであったために、十四歳の膣内はまさに満杯状態であった。そのために、生命のぬくもりに満ちた粘液は、まさに滑り落ちるような感触で膣口から溢れてくる。指で押さえてなお足りず、生温い体液はシンジのサイズに割り広げられた膣口から、まるで温めたハチミツのようにトロトロとこぼれ出てきた。
「も、もう出てきちゃった?」
「う、うん…せっかくなのに、もったいない…」
 レイのしぐさを見て、シンジは膝立ちの姿勢のままきょとんとなって問い掛けた。レイは残念そうに表情を曇らせると、わずかに視線を逸らして唇を噛む。
 相当痛い思いをしてようやく注ぎ込んでもらった精液であるのに、為す術もなく漏出させてしまうことがどうにももどかしい。同時に、シンジに二度目をせがむのもなんだか悪いような気がする。精液は新たな生命の源であるのだから、際限なく射精してもらえるということもないだろう。それくらいは調べなくとも容易に想像できることだ。
「…ずっと、入れたままにしていてくれたらよかったのに」
 こぼれ出てくる精液を中指で膣内へと押し戻しながら、レイはぽつりとそうつぶやいた。
 溜息混じりに、少しだけ恨めしそうな目でシンジを見つめてしまうのは、レイ自身では意識できない女心の発露によるものだ。フローバックを押し止めるためのひらめきも、結局は再び胸を焦らしてきた抱擁欲に突き動かされた結果に過ぎない。
「…綾波って、本当に甘えんぼだね。今日初めて知ったよ」
「そ、そういうつもりじゃなくて…碇くんは本当にいじわる。今日初めて知ったわ」
「もう、すぐそうやって切り返すんだから…」
 らしくもなく動揺して憎まれ口を叩くレイに苦笑すると、シンジは彼女の左側に寄り添って横臥した。そのまま少しだけレイに頭を持ち上げてもらって、右の二の腕を枕の下端に添えて腕枕を用意する。
 レイは少しだけ大きくなった枕に目を細め、甘えんぼそのもののしぐさでシンジの腕枕に頬摺りした。そのまま居心地良さそうに溜息を吐き、ぴっとりとシンジに寄り添う。
 睦み合う前にも確かめてはいたのだが、レイの部屋にはティッシュペーパーが無い。
 二人は粘液にまみれた性器も、汗みずくの肌もそのままに脚を絡め、愛欲の限りを尽くした身を寄せ合った。前髪ごしに額を合わせ、火照った肌のぬくもりを分かち合って、あらためてセックスの余韻に浸る。
 シンジは何気なく左手を伸ばし、そっとレイの右手に触れた。レイはその誘いかけに応じるよう、シンジの左手を優しく握り返す。横臥していてなお自由な二人の手は、まだまだ睦み合いが足りないとばかり、じゃれつくような手つきで互いの身体に触れてゆく。
 シンジはレイの二の腕から肩、首筋にかけてを丁寧に撫でたり。
 レイはシンジのへそから脇腹をくすぐったり、腰を抱き寄せて撫で回したり。
 あるいは二人で指を絡めてつなぎ合ったり、時には乳房や性器に触れたりして、イチャイチャとスキンシップを重ねた。こうしてだらだらと時間を過ごしているだけでも嬉しくて、シンジもレイもくすぐったそうに相好を緩めてしまう。
「…仲良しになれたよね」
「え」
 腕枕している右手でレイの銀髪を撫でながら、ふとシンジはそう切り出した。
 レイは腕枕に甘えていた顔を上げ、汗ばんだ鼻先を触れ合わせたまま問い返す。きょとんとまばたきしてシンジを見つめてしまうのは、事後のスキンシップにすっかり夢中になっていたためだ。
「手も、ほっぺたも、唇も…あと、その…ま、まあ僕と綾波の身体全部、仲良しになれたよね」
「ああ…」
シンジの照れくさそうなささやきに、レイはようやっと彼の言葉の意味を思い出した。シンジ同様、ほんのりと頬を染めてはにかむ。
 指を絡めて手をつないだら、二人の手はすっかり仲良しになった。
 そっと唇を重ねてついばみ合ったら、二人の唇はすっかり仲良しになった。
 きつく抱き締め合い、身を擦り寄せ合ったら、二人の肌はすっかり仲良しになった。
 そして、その仲良しな気持ちを持ち寄って深く交わり合ったら。
 そうしたら、自分たちは。
「…そうね、仲良しになれた。碇くんとわたし、すごく仲良しになれた。手も、頬も、唇も、性器も…だって…」
「だって?」
 夢見るような口調でつぶやくレイであったが、ふと静かに目を伏せて言葉を区切った。シンジはレイの固い髪を指先でいじりながら、小声で復唱して続きを待つ。
「だって…今もまだ、碇くんが入っているみたいだから…」
「綾波…」
「わたしのヴァギナが、碇くんのペニスを忘れられなくなったみたいなの。もう入っていないのに…元通りにすぼまっているのもわかるのに、今でも奥まで入っているみたいな感じで鈍く痺れていて…」
「や、やっぱりまだ痛むんだ?」
「痛くないわけじゃないけど…でもこれはきっと、碇くんのペニスとわたしのヴァギナが仲良しになれた証拠だから、むしろ嬉しい」
 レイはいつになく一生懸命な口調で語ると、触れ合わせていた鼻先を離し、あらためて真っ直ぐにシンジを見つめた。虚ろであった胸の中を歓喜でいっぱいに満たしてくれる、碇シンジという心優しい少年の素顔をはっきりと眺めたくなったのだ。
 今のシンジは気恥ずかしそうな伏し目がちとなり、決して素敵な表情ではない。それでもレイには十分であった。目元が危なっかしく震えるのもそのままに、レイは突き上げてきた衝動をそのまま声にする。
「碇くん…キスしても、いい」
「えっ…い、いいよ」
 美少女からの熱っぽい独白と眼差しに恥じらっていたために、シンジはその申し出に一瞬たじろいだものの、すぐに了承して目を伏せた。
 今まではシンジの方からレイにキスしてきたぶん、今度はレイの方からキスされるのかと思うと、なんだか緊張してしまう。しかもレイの健気な美少女ぶりに見惚れていた矢先であるだけに、性的興奮もぶり返してきた。すっかり和んでいたペニスに、再び熱い血潮が流れ込んでゆくのがわかる。
 そんなシンジが心の準備を整えるよりも早く、レイはあごを突き出すようにして彼の唇を奪った。大胆な勢いでついばみかかり、そのままむしゃぶるようにして薄膜どうしの密着感を欲張る。
「んっ、んっ、んっ、んっ…」
「んんっ…ん、ん…」
 レイはかわいい鼻声をしきりに漏らしながら、積極的にシンジとのキスを堪能してゆく。
 右手はシンジの火照った頬を撫でると、たちまちうなじを押さえて逃すまいとした。そのまま小さな唇で、シンジの唇を何度も何度も割り開くようについばみかかる。
 シンジはひとまずついばみ返したりせず、ただじっとレイに為されるがままを決め込んだ。せめてもと左手でレイの肩を抱き寄せると、腕枕している右腕もあり、レイを丸々包み込んでしまう格好となる。
 異性の抱擁感と、薄膜のたわむ心地良さが重なると、その心地良さは格別なものとなる。瑞々しい肌と肌が直接触れ合っていることも大きい。あれだけ盛大に射精したにもかかわらず、シンジは再びペニスを勃起させてしまった。それも相当に雄々しく、びくんびくんと打ち震えるほどに。
 そんなシンジからの抱擁に任せて、甘えるように身を擦り寄せていたレイは、次第にその身を大きく乗り出していった。そのうち仰向けとなったシンジに覆い被さる体勢となってしまうが、愛欲に憑かれたレイは意に介する素振りも見せない。それどころか、一心不乱のキスは大胆さを増すばかりである。
 ちゅぱっ、ちゅぱっ、と水音を立てながら、何度も何度も小刻みに唇を奪って。
 かと思うと、十数秒ほどもぴったりとした密着感を堪能して。
 さらには舌先を左右にひねっては、丁寧なキスに合わせてシンジに含ませて。
「んぅ、ん、んんぅ…ん、ふ…ん…」
 まさにレイは思いつく限りの様々なキスを欲張り、思う存分に堪能して悦に入る。鼻にかかった上擦り声は、もはやよがり声そのものであった。
「んっ、んっ、んっ…ぷぁ、綾波…んっ…」
「んんぅ…い、碇くん…ん、んふっ、んぅう…」
 されるがままのシンジはレイの重みを感じつつ、なおも強く抱き寄せようと両手を彼女のしりに伸ばした。指を大きく開き、まだまだ発育途上のまろみしか帯びていない少女の尻肉を撫で回すと、レイは華奢な身体をゾクゾクと身震いさせてよがる。
 その愛撫によって押し出されるように、レイの膣口からは混ざり合った男女の体液がドロリとフローバックしてきた。レイはシンジをまたいで覆い被さっているから、その温かい粘液は性毛を伝い、勃起しきりのペニスへと滴り落ちてゆく。その様子はヴァギナがペニスの来訪を待ちきれず、だらしなくよだれを垂らしているかのようで淫猥極まりない。
「ん、んっ、んんっ…ぷぁ…はぁ、はぁ…碇くん…」
「はぁ、はぁ、はぁ…うん?」
 ねちっこいくらいにキスを重ねてきたレイであったが、やおら唇どうしを引き離すなり、ぼんやりとした眼差しでシンジを見つめた。シンジは口の周りを唾液でべちょべちょに濡らしたまま、忙しなく息継ぎしてレイを見つめ返す。
「んぅ…碇くん…碇くぅん…」
「ひゃっ…あ、綾波、くすぐったいよっ…」
 やがてレイは半ベソにも似た照れ笑いを浮かべると、再びシンジの唇を奪い、次いで彼の頬に、鼻先に、額にと見境無く唇を押し当て始めた。しかもそれに飽きたらず、シンジの顔のそこかしこをぺろぺろと舐め回したりもする。
 まさに甘えんぼな子犬同然の声音と行動に、さすがのシンジも相好を緩めながらむずがった。不快というわけではないのだが、レイの柔らかい唇と舌に顔中を愛してもらうと、さすがにくすぐったくてならないのだ。
 それに顔を舐めさせてしまうというのは、フェラチオしてもらうのにも負けないくらいに気の毒な感じがする。ただでさえも思春期の男の肌であるから脂っぽいうえに、シャワーを浴びたかのように汗まみれでもあるから、シンジとしてはどうにも落ち着かない。
 そんなシンジの気持ちを汲み取ることもなく、レイは一生懸命に唇を押し当て、舌をくねらせ、心ゆくまで愛情の丈をぶつけた。時間にして、おおよそ五分。
 シンジも一分ほどで観念し、レイに身を委ねてしまった。隙をついては舌先で舐め返したり、思い出したように唇を重ねたりして、決して長くはない時間を実に仲睦まじくじゃれ合って過ごした。
「…幸せ」
 それでようやくレイも満たされ、シンジに寄り添ったまま、再びゆったりと横臥した。陶酔の溜息に混じって、素直な気持ちが独語となる。
「こんなに心が落ち着くのは、生まれて初めて。なんだか、胸の奥がすっきりした感じ」
「えへへ…よかったね」
「うん…本当によかった。初めは、単に命令だとしか思ってなかった。碇くんとセックスして、碇くんの子どもを産むことがわたしに与えられた任務なんだって、それだけしか感じてなかった。でも…でも、今は違う」
 レイは穏やかに目を伏せたまま、訥々と心情を語り、先程のように言葉を句切った。同時に目配せして、シンジに腕枕をねだる。
 ここでレイを甘えんぼだと揶揄するほどシンジも無粋ではない。愛おしげに目を細めると、再び右腕を横に伸ばし、レイの小さな枕を少しだけ大きくした。そのまま硬めの銀髪に指を埋めて抱き寄せると、レイはとびきりの美少女然とした愛くるしい笑みを浮かべてなついてくる。
「今は…今は、碇くんとセックスできて、本当によかったと思ってる。こんなこと思ったらいけないのはわかってるけど、ずっとこのまま妊娠しなかったらとも思ってしまうの。そうしたら、毎週こうして碇くんとセックスできるから…こうして、碇くんと二人きりで過ごせるから…」
「綾波…」
「ごめんなさい…今日のわたし、碇くんに甘えて、わがままばかり言ってる」
 溜息とともに自責しながらも、レイはシンジの腕枕に頬摺りして甘えた。チルドレンとしての責任感に苛まれながらも、やはり本能へと通ずる女心には逆らえないのである。
 そんなレイを優しく見守りながら、シンジは枕の上でそっと首を横に振った。自由な左手でレイの頬を包み込み、そっと撫でさすって彼女に笑みを取り戻させる。
「綾波はいつもいつも頑張ってるんだからさ、こんな日くらいは甘えたって、わがまま言ったって誰も責めないよ。今日だって、ちゃんとセックスして子どもを作るって命令を果たしてるだろ?」
「碇くん…」
 シンジは諭すような口調でレイにささやきかけると、抱き込んでいる頭を右手でゆっくりと撫でた。それでレイは愛くるしい微笑を浮かべたまま、シンジに見惚れてしまう。
「だから…僕でよかったら、好きなだけ甘えてほしいな。僕でできることなら、わがままもできるだけ聞いてあげたいし」
「…でも碇くんは、すぐわたしのことを甘えんぼだって言うし」
「そ、それは冗談だよっ…甘えてくる綾波があんまりかわいいから、ついついからかいたくなっちゃうだけで…その、責めてるわけじゃないよ…」
 素直なままに気持ちを述べたシンジであったが、少しだけ表情を潜めたレイに指摘されては、確かに説得力がない。たちまちしどろもどろになって弁解し、気まずそうに視線を泳がせてしまう。
 それでも、レイはすぐさま相好を緩め、愛おしげにシンジを見つめた。今ではもう、シンジの顔を見るだけで接吻欲がせつなく胸を詰まらせてくる。
 とめどなくこみ上げてくるわがままな気持ちに辟易としながらも、レイは頬を包み込んできているシンジの左手に右手を添え、慈しみを込めて撫で返した。それはささやかながらも、れっきとしたレイの求愛行動のひとつである。
「碇くん、もう一回だけ…もう一回だけ、キスしたい…」
「いいよ。一回なんて言わないで、綾波の好きなだけキスしていいから」
「うん…じゃあ碇くんも…その、わたしとでよかったら、好きなだけ…キス…」
「あはは、ありがとう。じゃあこれからも二人で、いっぱいいっぱいキスしようね」
「うんっ」
 幸せな恋人どうしさながらに笑みと睦言を交わしてから、レイは待ちきれないといった風にシンジの唇を奪った。今度はシンジも受け身に徹することなく、レイからのキスに応じる。
 軽く吸い付き、割り開くようについばんで、薄膜どうしをたわませて。
 しかし、それであっさりとレイからのキスは終わってしまった。拍子抜けしたようにまばたきするシンジをうっとりと眺めながら、レイは恍惚の溜息を深々と吐き出す。
「…好き」
「え…」
 その甘やかな溜息に乗せられたささやき声を聞き、シンジは一瞬、胸の真ん中を撃ち抜かれたかのような心地となった。思わず息を詰まらせ、そのささやきの意味をじんわりと噛み締めつつレイを見つめる。
 レイは恥じらったり照れたりすることなく、純粋な幸福感のみで彩られた穏やかな笑みを浮かべるのみであった。頬がほんのりと上気していることもあり、本来彼女が持ち合わせている愛くるしさがこれ以上ないほどに発散されている。
「碇くんとキスしてると…ううん、碇くんの顔を見てるだけでも、そんな気持ちで胸がいっぱいになるの。なんだか不思議…一回言えば済むことなのに、何度も何度もそう言いたくなってしまうなんて」
「綾波…」
「碇くん…私は碇くんが好き。大好き」
 ひたむきな気持ちを繰り返し告白して、レイは極めて心地良さそうに目を細めた。内圧が高まりどおしの胸をなだめようと、思春期の身体は無意識下に溜息を吐かせる。
 レイ自身は気付いていないが、これが彼女の初恋であった。
 元々レイは、シンジに対して少なからぬ好意を抱いていた。
 初めはシンジも内向的な性格であったから、レイも単にチルドレンとして、クラスメイトとして接してきた。シンジから声をかけてくることも無かったから、レイも積極的に声をかけようとはしなかった。その必要がなかったからだ。
 しかしヤシマ作戦をきっかけに、二人の仲はたちまち親密になった。親密になったとはいえ、あくまで挨拶以上の言葉を交わしたりするだけの関係ではあったが、それでも今までのレイからは考えられないことであったのだ。レイ自身、ふとそのことに気付いて驚いたほどである。
 シンジと話していると、なんだか気持ちが楽になる。
 シンジと行動していると、なんだか安心できる。
 だから、シンジとおしゃべりがしたくなる。
 平和な日常であれ、使徒との戦闘であれ、シンジと一緒に行動したくなる。
 二人の間に絆は必要ないと思っていたのに、レイはいつしか自発的にそれを求めるようになっていた。臆病なくらいに優しい気性のシンジであったからこそ、レイも自然と距離を置かなくなってきたのだ。
 そして今日、二人の距離はゼロよりも近くなった。形の上では任務のさなかではあるが、身も心もひとつとなり、あるがままの気持ちをお互いに捧げ合った。
 もう望めば望むだけ、どこまでもシンジと仲良くなれそうな気がして。
 レイは焦燥にも似た衝動に突き動かされるまま、夢中でシンジに告白したのだ。
 それはあくまで好意の延長線上という意識ではあったが、好きという気持ちに上限があるのかなど想像もできない。想像することすら無意味だと思うし、なにより想像したくなかった。
 どこまでも、いつまでもシンジを好きでいたい。
 そう思わせるシンジがこうして側にいてくれるから、幸福感を覚えていられる。
 これほどまでに幸せだと感じたことは、今までに一度でもあっただろうか。ともすれば、心から幸せだと感じているのは、今が生まれて初めてかもしれない。
 そうだとすれば、レイの幸せはまさにこの瞬間から始まったのだ。
 素直なままに好きだと思える、シンジのすぐ側で。
「…ごめんなさい。わたしの気持ちばかり一方的に押し付けて」
「そんなことないよ…嬉しいよ、綾波。えへへ、ちょっと照れくさいけどね」
「嫌じゃなかった」
「嫌だなんて」
 腕枕に甘えながらも少しだけうつむき、レイは上目遣いでシンジの様子を伺う。調子に乗り、ついついわがままの限りを尽くしてしまったような気がしたのだ。
 それでも、シンジは気を悪くしたりはしない。むしろはにかみ半分で目を細め、レイの頭を右手で抱き込みながらかいぐりする。
 レイの告白が愛情ではなく、あくまで好意に基づくものであることはシンジにもわかる。スキンシップの心地良さすら知らなかったレイが、突然愛だ恋だと言い出すとはとうてい思えない。
 なにより、アスカにされた告白とは受けた印象もまた異なっていた。嬉しいと思える点では共通しているものの、達成感ともいうべき感動までは得られていない。
 それでも、誰かに気に入ってもらえるというのは幸せなことだ。胸の奥までが暖かく、そしてくすぐったくなってきて、元気が湧いてくる。身も心も活き活きとしてくるような気分になってくる。
 おのずと、レイの頭を撫でる右手にもさらなる力がこもった。それでレイはすっかり嬉々となり、華奢な身体を擦り寄せるようシンジに抱きつく。
 もはやぬくもりと幸せは、どれだけ分かち合っても尽きることはなくなってしまった。
「…もう一回だけ、わがまま言ってもいい」
「もう一回だけ、なんて言わないでってば」
 遠慮がちなレイの申し出に、シンジは枕の上でそっと首を横に振る。
 そんなシンジになおも気兼ねするよう、レイは上目遣いのまま小声で切り出した。
「…碇くんとわたし、本当の好きどうしになれたらいいのに。ううん、せめて、好きどうしくらいに仲良くなれたらいいのに」
「綾波…」
「もっと手をつないで、もっと抱き合って、もっとキスして、もっとセックスしたら…わたしたち、もっと仲良くなれるかしら」
 そこまで言って、さすがにレイもわがままが過ぎたと実感し、シンジの腕枕の中で深くうつむいてしまった。幸せを渇望してしまう女心を抑制しきれなくて、レイはやるせなさに満ちた溜息を漏らす。
 そんなレイを放っておくことなど、今のシンジにはできなかった。レイの純心にあてられて、男心はたちまち高ぶる。
 なにより、先程のキスで勃起したペニスがしきりにシンジを急かしてもいた。シンジは驚かせてしまうほどの力でレイを抱き寄せると、勃起しきりのペニスを押し付けることすらいとわず、強く強く少女の裸身を抱き締める。
「い、碇くん…」
「いいよ、綾波…命令なんだから、もっともっとセックスしよう?それで…もっともっと仲良くなろう」
「…うんっ」
 シンジの熱っぽい誘いかけに、レイは声を弾ませて応じる。
 二人は合図のような目配せ半分で笑みを交わすと、分かち合っている幸福感を糧に、早速唇から仲の良さを深め直していった。

つづく。


 


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(updete 2004/06/25)