ラブひな

■浦島、抜け!■

-Kisses for Kisses(3)-

作・大場愁一郎さま


 

「え…?」

ぎゅっ…。

 反問の視線に耐えきれず、しのぶは景太郎の胸元に逃げ込むようすがりついてくる。それでもなお乙女としての羞恥に責められるのか、しのぶは景太郎のTシャツに押し当てていた唇を噛み締めるように閉ざし…小さな身体をブルブル震わせる。

「しのぶちゃん…?」

「だっ、だから…その、ホントのセックスじゃなくって、セックスごっこ…」

 小声のあまりに聞き取れなかった景太郎が問いなおすと、しのぶは恥じらいに身震いしながら禁忌とも呼べる単語を繰り返した。生まれて初めての求愛に取り乱しそうなのだろう、しのぶの動悸は驚くほどに速い。Tシャツの胸元に降りかかる灼熱した吐息もどこか不規則だ。

 それでもなお景太郎はしのぶの意図を読みとることができず、困惑しきって表情を曇らせる。為す術なく小さな肩に両手を置くと、しのぶは思い詰めた素顔を上げて景太郎を見つめた。恥じらう心中を読みとってほしいとばかり、そのつぶらな瞳を真っ直ぐに向ける。黒い瞳は彼女の健気さそのものを湛えているかのように澄み渡っていて美しい。

「…ふ、太ももで…」

「えっ…」

 見つめ合ったまま数十秒ほどの沈黙を過ごすと、しのぶの胸は戸惑いの眼差しを送り続ける景太郎への慈愛に満たされてしまった。勇気を振り絞って羞恥を一掃すると、そのまま景太郎に背中を向け、調理台の上に這いつくばるよう肘をつく。シュミーズに隠れている小さなヒップを心持ち突き出すと、今にもまた泣き出してしまいそうな危なっかしい顔で振り返ってきた。

「わたし…わ、わたし、やせぎすですけど…せ、精一杯太もも、閉じますから…太ももの隙間で…その…セックスごっこ…」

「しのぶちゃん…そ、それって…」

「センパイので…わ、わたしのあそこ、こすってください…これならあかちゃん、できないでしょう…?お願い…お願いしますっ、センパイ…」

 しのぶは性器どうしを擦り合わせる疑似セックス…俗に言う素股での抱擁を求めているのであった。愛液にぬめる内ももと、若芽の萌える気配すらないまっさらな恥丘に包み込まれてペニスとクリトリスを慰め合う…そんな淫らを極めた戯れに、景太郎も胸をときめかせてしまう。

 とはいえ、しのぶの恥じらい様は頂点を越えているようであった。頑なな口調で求めはするものの、唇を噛み締めながらすすり泣いている様子はたまらなく痛ましい。やるせなく溜息を吐き、フルフルとかぶりを振るしぐさは憐憫の情すら覚えるほどだ。景太郎としても躊躇わずにはいられない。しのぶの純心にこれ以上の負担をかけたくはなかった。

「しのぶちゃん、無理しなくていいんだよ?そこまでしなくても…」

「わたしならいいんですっ…!わたしっ、センパイだから…センパイだからお願いできるんですっ…!大好きなセンパイにも気持ちよくなってもらいたいから…大好きなセンパイと一緒に気持ちよくなりたいからっ…ねえ、センパイ、お願い…お願いしますっ…!!」

 景太郎の狼狽えた声にも耳を貸さず、しのぶは頑なにその身を…その心を差し出し続けた。想いの通わぬもどかしさに涙が溢れる。

 凛とした声でせつなげに繰り返されるしのぶの告白と求愛は、まるで天使が誇らしげに打ち鳴らす鐘の音のようであった。愛情の優しい光を纏った言霊は景太郎の胸の奥にまで響きわたり、躊躇いや戸惑いを乾いた砂のように瓦解させてゆく。

 無限に捧げられる愛情に戸惑うなら、それ以上の愛情で戸惑いを捨て去ればいい…。

 後ろめたさや不安を持つことなく、誠心誠意彼女を受け入れればいい…。

 ただそれだけのことだったのだ。しのぶを愛する気持ちには絶対の自信を有する景太郎にとって、それはあまりに容易いことである。躊躇うことなどどこにもない。躊躇うことに意味はない。なによりしのぶのひたむきなまでの一途さに応えなければ、彼女はきっと後悔と失望の深淵へと沈み込んでゆくに違いない。

こくんっ…。

 景太郎は自分自身に発破をかけるよう力強くうなづくと、まずしのぶのトレーナーに手をかけた。一旦調理台から上体を起こさせ、裾をつかんでするするたくし上げてゆき…ばんざいしてもらって丁寧に脱がせる。これでしのぶはシュミーズとソックスだけの格好だ。シュミーズは細いストラップ二本で布地を吊しているだけであり、首すじや鎖骨、胸元の紅潮した素肌までもがあるがまま剥き出しになってしまう。

「しのぶちゃん…本当に俺なんかでいいの?俺もしのぶちゃんのことが大好きだけど…でも、俺にそこまでしてもらう資格なんてあるの?」

「センパイだから…わたし、センパイでなきゃイヤだから…。わたし、この世で一人だけ…センパイだけに、愛してほしいんですっ…!」

「ああっ…嬉しい…嬉しいよ、しのぶちゃんっ…!俺、泣きたいくらい嬉しいっ…!」

「ふぁ、せ、センパイッ…」

ちゅっ…。

 愛情を言霊に込めて確かめ合い、二人は肩越しに口づけた。妙に懐かしい柔らかみはすぐまた二人に燃えるような愛欲を喚起させてくる。唇ごしにでも互いの鼓動が高鳴ってくるのがわかった。

ちゅっ、ちゅっ…ちゅむっ…ちゅぷ、ちょぷっ…

 欲張って二度三度と吸い付きつつ、景太郎は背中を預けるように寄りかかっているしのぶを抱き寄せ、へそからあばらからをシュミーズの上からまさぐった。こうして背後から撫で回すと、本当にしのぶの身体はスマートであることがわかる。とはいえ、決して痩せぎすなどと安っぽく吐き捨てられるべきものではない。しのぶの瑞々しい柔肌はほどよく脂肪を蓄えてきており、まさに端正の一語に尽きるのである。

 しのぶが撫で回されてもむずがることなくキスに浸っているようなので、景太郎はさりげなく乳房に触れてみた。ぷにぷにと布地の上から指圧していたのだが、やがて乳首の周りをクルクルいじったり、不意打ちに摘んでみたりする。

きゅっ…くにくに…くにくに…

「んっ!んっ…んんっ…!」

 幼いながらもツンツンにしこっている乳首は相当過敏な部位であるらしく、指先で摘まれたまま左右にひねられると、しのぶは快感を堪えるようにきつく目を閉じてよがった。驚いた景太郎が慌てて愛撫を中断すると、シュミーズの布地にはその名残がしわになってしまう。二対のしわのため、勃起した乳首は否応なしに目立つようになった。

こちょこちょ、こちょこちょ…なでなで、なでなで…

 ここはひとまず牽制球とばかり、景太郎はしのぶのわきの下をくすぐってみた。びっちょり濡れている興奮の汗を指先に馴染ませるよう、小刻みに指をもがかせると…しのぶはモジモジ身をよじり、キスに微笑という隠し味を加える。

 しのぶが幾分緊張を和らげた隙に、景太郎はシュミーズの脇から内側へと両手を滑り込ませた。少女の乳房をじかに包み込み、汗ばんでなおスベスベとした柔肌の感触を手の平いっぱいに堪能すると…しのぶは敏感に反応して唇をわななかせる。よがり鳴きたくてならないらしいが、それよりもキスしていたい気持ちの方が強いらしい。

ふにょん、ふよん、ぷにょんっ…ぽろん、ぽろんっ…

 景太郎の指が、発育途上である二つの膨らみをそれぞれ押しこね、指の腹で乳首を弾くと…しのぶはキスの隙間から陶酔の吐息を漏らした。やはり直接触れてもらうと快感も倍加するようだ。

「ちゅちゅっ…ぷぁ、ふぁふ、んう…わたしの胸、小さいから魅力ないでしょ…?」

「そんなことないって。しのぶちゃんのおっぱい、かわいくって好きだよ…?」

「あ、嬉しいな…。ねえセンパイ、もっと強く揉んでいいですよ…センパイに触られて、胸も喜んでるみたいに気持ちいいんです…。」

「じゃあ、もう少しこうしてよっか?」

ぷにょ、ぷにょ、ぷにょんっ…きゅっ、きゅっ、くにっ、くにゅっ…

 しのぶが甘えた声でおねだりすると、景太郎は素直に乳房への愛撫を続けた。下から寄せ上げた膨らみ全体に栄養が行き渡るよう、丁寧に丁寧に揉みこねる。ふにゅっ…と揉み上げられるたびにしのぶは狂おしく嘆息し、媚びた目で見上げてキスをせがんだ。景太郎も意地悪することなく、その小振りな唇を真上からちゅぷっ…と塞ぎ、滑らかに舌を差し入れる。

くちゅっ、くでゅっ…ぢゅっ、ぢゅむっ…ぐみゅっ、ぐねゅっ…

 しのぶの舌がじゃれついてくるのを見計らい、景太郎は固く屹立した乳首を執拗に押し倒し、親指と中指で念入りにひねくり回してやる。ディープキスと愛撫の二重攻撃に痺れるしのぶは腕の中で細かく身震いするのだが、その儚さがたまらなくかわいい。

くぢゅ、ぢゅぱっ…ひゅぢゅっ…

 舌を絡め合わせたまま、景太郎は頭を浮かせて強引にディープキスを中断した。同時に乳房への愛撫も中断すると、しのぶはすっかり気を抜かれたように惚けてしまう。汗ばんだ額に前髪が貼り付いていたので、指先でそっと退けると…それだけでしのぶの愛くるしい微笑は天使のそれから女神のそれとなった。

「はふ、はふ、はふ…すてきです、センパイ…」

「あははっ、しのぶちゃんったら、吐く息までエッチな声になってるよ?」

「う、んうっ…だ、だって…センパイの指、すごく気持ちよくしてくれるから…」

「このまましてたら…おっぱいだけでイッちゃいそう?」

「は、はい…そんな気がします…ああっ、やだ…恥ずかしいっ…!」

 ピリピリとしたくすぐったさが乳房全体に凝縮してきて、しのぶはすっかりその気になってしまった。荒ぶった呼吸に上擦り声を乗せ、まるで幻覚でも見ているかのように瞳を恍惚とさせる。トク、トク、トク、と左の乳房の奥から伝わる鼓動もすこぶる速い。景太郎の問いかけにはにかみながら答えるものの、性的興奮は物凄かった。許されるものなら一晩中でも景太郎とこうしていたい。

「でも…センパイだって、その…興奮…してるんでしょ?」

「どうして?」

「だって、わたしのせなかに…つ、つっかえてるから…」

「あ…」

 しのぶに指摘されてようやく気付いたのだが、天を目指すように伸び上がっている景太郎のペニスは彼女の背後でグイグイとシュミーズの布地を押し上げていた。しのぶの腰から上辺りに、ぴったりと幹の全長が押し当てられている格好だ。陰嚢はちょうどヒップラインに触れる具合である。恐らく抱き寄せた弾みでこうなってしまったのだろう。

 欲望に満ちて太々とした男の杭を、純心無垢な少女の背中に押し当てている…。

 あらためて確認すると、その鮮烈なまでの淫猥さは息が詰まるほどの胸騒ぎを喚起してくる。そこはかとない弾力を感じてはいたが、まさかここまでしのぶを辱めていたとは露にも思わなかった。しかも恥知らずなことにベットリと逸り水を漏らし、シュミーズを濡らしているではないか。これはしのぶに愛撫している感動でこみ上げたものだが、まったく持って恐れ多い。

「ゴメン…」

「そんな、気にしないでくださいっ…。センパイの、熱くて、太くて、固くって…センパイもわたしとおんなじ、興奮してるんだなあって…安心してるんですから…。」

 少しも気にしていないようにしのぶは言うが、これも彼女なりの気配りなのだろう。景太郎は恥じ入りながら腰を引き、ペニスを引き離した。それでも密着の名残を惜しむよう、ペニスの先端はシュミーズとの間で逸り水の糸を引かせる。愛欲の結晶たる逸り水はねっとりと滴り落ちてすのこの上に滲んだ。

 それでも、こうしていつまでも恥じらいながら気まずい状況のままでいるわけにはいかない。景太郎は寄りかかっていたしのぶの背中を押して離ればなれになると、合図するように彼女の小さな撫で肩を揉んだ。

「じゃあしのぶちゃん、そろそろしよっか…?心の準備、できてる?」

「は、はい…わたしならいつでも…あ、いえ、いつでもってゆうのは、その…」

「ふふっ、わかってるって…。ほら、おしり…俺の方に…」

「はい…あ、あのっ…優しくしてくださいね…?」

「うん、約束するよ…。」

 景太郎が確かな口調で断言すると、しのぶは再び調理台の上に肘を突き、おずおずとヒップを差し出してきた。ヒップは乳房同様まだまだ発育途上ではあるが、たいへん形良く…シュミーズ越しであってもその丸まるとした形がわかるほどだ。

 しのぶちゃんって、スマートだけどけっこうスタイルいいよなぁ…。

 少女の色気に魅了された景太郎は興奮にクラクラと目眩を覚えながらも、そっとシュミーズの裾を摘んでたくし上げてゆき、しのぶのヒップを丸出しにする。ふわりと熱気が発散すると、それに合わせてしのぶはまろやかな柔肌をゾクゾク震わせた。思わぬ肌寒さでそうなったとはいえ、その様子は初々しいことこの上ない。

 露わになったしのぶの下肢は、陶酔の溜息が出るほどに素晴らしかった。

 幼いながらもヒップラインは絶妙なカーブを描いており、背中から太ももまでを絶妙に繋いでいる。全体的なまろみも程良く充実を示していてすこぶる色っぽい。二十歳を過ぎていよいよ成熟を迎える頃には、きっととびきり悩ましいプロポーションを備えるに違いない。これは確信だ。

 もちろん柔肌はきめ細かであり、ざらつきのひとつも無い。異性に触れられないでいることが罪悪であるかのような滑らかさは汗ばんだ尾てい骨の辺りから白桃の谷間、太ももを経てソックスに隠れているふくらはぎに至るまでくまなく拡がっている。健康的な色の白さも、まるで舌を添わせたらミルクの甘い味がしそうなくらいに健康的だ。

 男女共通のすぼまりも色素が薄めで、いかにも彼女らしく慎ましやかである。ヒップ全体を突き出しているために股間は丸見えなのだが、すぼまりも伝い落ちた愛液でぬめっており、厨房の照明を卑猥なくらいに照り返している。

さわっ…さわっ、さわっ…なでなで、なでなで…

 景太郎は誘惑に抗うことができず、太ももの辺りから両手でしのぶのヒップを撫で上げてみた。じかに触れた少女の白桃は瑞々しさに満ちており、くせになってしまいそうなくらい手触りが良い。円を描くように撫で回すと、そのまろみは手の平にしっくり来て吸い付いてしまうようだ。本当にいつまでも撫で回していたくなる。

「あんっ、ああんっ…せ、センパイのえっち…。おしり、そんなに好きですか…?」

「だって、しのぶちゃんのおしり…あんまり触り心地がいいから…。ホント、女の子の身体なんだって感動しちゃうっ…。」

「んんっ、もう…センパイッたら…」

 しのぶにしてみれば、ヒップへの愛撫はなんとなく物足りなかったりする。

 くすぐったくはあるものの、それはどちらかというと性感には繋がらない感覚だ。むしろゾクゾク鳥肌が立ちそうで不快に近い。景太郎だからこそしたいがままにさせているのであって、そうでなかったら機嫌を損ねていることだろう。混み合う路面電車内で尻に触れてくる不埒漢に遭遇したとしたら、為す術もなくその場で泣き出すに違いない。

 景太郎もしのぶの声に艶が乗ってこないことから、すぐさまこの愛撫が不適切なものであることに気付く。ひとしきり撫で回して柔肌を堪能してから、あらためてペニスを右手にした。しのぶに触れている間にも逸り水はジクジク染み出ており、その節操の無さに苦笑を禁じ得ない。トータルすれば、たっぷり射精一回分は漏出しているのではなかろうか。

ぬちゅっ…

「あんっ…ん、んっ…だめ、センパイ…」

「大丈夫、ちょっと濡らすだけ…。」

 景太郎は約束を違えるよう、ツヤツヤに漲っている亀頭をしのぶの裂け目に埋めた。熱い異物が膣口に触れてきたので、しのぶは思わず振り返って声をあげる。景太郎としてはとりあえずの潤いを求めただけなので、なだめるようにそう告げるとしのぶは素直にうつむき、性器どうしをぬかるむがままにさせた。

にちゅっ…ぬり、ぬりゅっ…ぬちゅっ…ぬちゅっ…

 景太郎はそのままぬかるむ音を立てて亀頭を動かし、しのぶの処女膜からクリトリスの間を往復してペニスにベットリと愛液を馴染ませてゆく。そうやって濃桜色の粘膜を刺激するだけでもしのぶは感じてしまうのか、処女膜をきゅんきゅん収縮させては膣内から新鮮な愛液を搾り出してきた。その様子はまさにしとどであり、恥丘から滴り落ちそうになるのを手の平ですくい、マスターベーションの要領で亀頭から幹からに塗り込むことができるほどだ。

 おかげで景太郎のペニスはローションでも塗りたくったかのようにべちょべちょになった。これで太ももの隙間で摩擦されても快感は本格的なものとなる。

 余談ではあるが、俗に言うパイズリもこうして何らかの潤滑を与えないと感触は味気ないものになるのである。ヌルヌルぬめらない限り、せっかくの乳房の柔らかみをもってしても心地はマスターベーションと変わらない。しらけてしまうのがオチである。

ぷ、ちゅっ…。

 閑話休題。ペニスをしっかりと潤わせた景太郎は幾分腰を落とし、下から突き上げるような体勢でしのぶの恥丘と太ももの隙間に亀頭を押し当てた。逆三角形の隙間は事前準備するまでもなく愛液でびちょびちょであり、少し身じろぎしただけでも容易くぬめり込んでしまいそうだ。

「あ、ちょっと低いですか?これくらいでどうですか…?」

「しのぶちゃん、無理しなくっていいんだよ?俺の方で高さはあわせるからさぁ…。」

「中腰の方が背伸びより大変でしょう?わたしなら大丈夫ですから…ね?」

 つらそうな中腰体勢の景太郎に気を利かせ、しのぶは懸命につま先立ちになって彼の負担を減らそうとする。

 自分はこうして待っているだけなのに、景太郎は動かないといけないのだから…せめてそれくらいは協力したい…。

 そう願うとしのぶはぐっと調理台の上に身を乗り出し、より高く景太郎にヒップを突き出した。下肢に力が込められたぶん、ヒップもささやかに上向き加減を増してまろみを強調してくる。

 閉じた膝からふくらはぎは、まるで生まれたての子鹿のようにプルプル震えているが…これは彼女に言葉ほどの余裕が無いことの現れだ。健気さが痛ましいが、気丈なしのぶのことだ、一度浮かせたかかとは最後まで下ろそうとはしないだろう。どれだけつらくとも景太郎のために愛くるしい微笑を浮かべ続けることだろう。しのぶはそんな女の子だ。奇跡のような女の子だ。

ぐいっ…。

 景太郎は謝辞の代わりにしのぶのヒップを真上からわしづかみ、緊張をほぐすように一度だけ深呼吸した。しのぶもそれを聞いて真似るように深呼吸する。思わず顔を見合わせて表情をほころばせると、それで残りの緊張はいっぺんに解消してしまった。ささやかな幸福感を見つけただけでも胸の真ん中はすこぶる和む。

 お互い童貞、あるいはヴァージン卒業はお預けとなったが、それでもセックスに酷似した素股での睦み合いを前にして、脊髄までゾクゾクするほどの興奮をきたしていた。所詮真似事ではあるが、愛情を確かめ合うことに変わりはない。

 お互い、欲張りな気持ちが頂点に達し…そして、ひとつになった。

「しのぶちゃん…つながるよ…?」

「来てください…わたしの、なかにっ…!」

ぬむっ…ぬるるっ…

 ごっこの中にもリアリティーを求めるよう言葉を交わし、景太郎はしのぶの太ももの隙間にペニスを突き入れ、貫いた。二人の中枢に新鮮な快感が殺到する。

 そんな初めての心地に浸っていられる余裕もなく、景太郎は愛欲に駆られるまま積極的にグラインドしてしのぶを突き上げていった。主のへそを目指して反り返ろうとするペニスは必然的にしのぶのクリトリスに触れ…突き入れては撫で上げ、引き戻してはくびれで弾き、それぞれ敏感な部位で性の悦びを分かち合ってゆく。

「くっ…しのぶちゃん…しのぶちゃんっ…ああっ、ぬめるっ…!」

「あっ!あはっ、ああんっ…!せんぱいっ、せんぱぁいっ…!」

ぬむっ、ぬぢゅっ、ぬちゅっ…ぬりぬりゅ…ぬるんっ、ぬるんっ、ぬるっ…

 発情の血潮を巡らせた粘膜どうしが淫猥な音を立てて擦れると、しのぶはせつなげにおとがいをそらせて厨房いっぱいに鳴き叫んだ。下肢から身体中隅々へと拡がる濃密な快感に打ち震え、調理台のステンレスにがりがり爪を立てる。

 ただでさえも粘膜は…それこそ小陰唇はもちろん処女膜から尿道口に至るまですべてが過敏となっているのに、矢尻のような形でくびれているペニスが押し開いては引っ掻くものだからたまらない。景太郎が往復するたび、薄膜を介して彼の情欲が浸透してくるようであった。

 わたし…わ、わたしっ…どんどんエッチな女の子になっちゃうっ…!!

 しのぶは息継ぎすら許してもらえないほどの快感の中、線の細いあごをわななかせながらそう感じてかぶりを振った。桃色に染まりそうな吐息にあわせ、ぽた、ぽた、と唾液を調理台に滴らせる。自分が自分以外の誰かになってしまいそうで、怖くて怖くてならなかった。

 それでも景太郎は容赦も妥協もなく、心からの愛情をすべてしのぶに注いでしまおうと奮起する。両手でしのぶのヒップをつかみなおすと、大胆なまでに腰を振って愛欲をぶつけていった。ぐんっ、ぐんっ、ぐんっ…と力強く押し上げるようだったグラインドも、ぱんっ、ぱむっ、ぱんっ、ぱむんっ…と下腹とヒップを打ち鳴らすほど激しいものに変わってゆく。その猥褻な音も、しのぶのヒップが波打つ様もさながら後背位だ。景太郎も繰り返し下腹に当たるしのぶの柔らかみで、実際にセックスしているものと錯覚するほど高ぶってしまうし…しのぶも背後からヒップを強打されることで、セックスと同等の浮揚感をきたしてくる。

「だ、だめ…だめえ…!あん、ああんっ…だめっ、だめだめえっ…!」

 しのぶは力無くかぶりを振りつつ、随喜に上擦った声で何度も何度も許しを乞うた。

 景太郎と戯れることで得られる至高の快感は、しのぶに絶対と呼べるほどの法悦をもたらしてくれるが…その法悦に溺れるあまり、景太郎に嫌悪されるほどの淫乱娘になってしまうのも怖いのだ。そもそも昨日までは、こうした性の戯れなど想像することすら罪に思えていたのである。慎み深いしのぶが戸惑うのも無理はない。

ぬ、りゅっ…ぬぷっ、ぬりゅんっ…ぬぷっ、ぬ、るんっ…

「だめっ、だめえっ…ふぁ、んあ、あふんっ!!あっ、あひいっ…!!」

「しのぶちゃんっ…気持ちいい?ねえ教えて、気持ちいい…?」

「は、はいっ…いいですぅ…きっ、気持ちいいですうっ…!!ああっすごい…こんなの、信じられない…!!」

 景太郎は哀願を聞き流し、手荒と呼べるほどのグラインドでしのぶの裂け目をクリトリスごと挽き割ろうとする。もはや本能だけで腰を突き出してしまうほどに感じていた。肉体そのものが性の悦びを渇望してくるのである。

 独り善がりになってはいないかと、景太郎は意地悪するつもりもなくそう問いかけた。素股での戯れに酔いしれるしのぶは恥じらいもせず、ただ感じたままを素直に言葉にする。

 その感想は世辞でも偽りでもなく、しのぶは景太郎が二、三度往復するたびに腰をブルブル震わせ、裂け目の奥から快感の証たる愛液を漏出させてきた。ほのかに白っぽい愛液はとろみも淡く、ぴゅっと飛沫くように染み出ては景太郎のペニスへと滴り落ちてゆく。そのため景太郎の性毛はすっかりべちょべちょになって寄り集まっていた。

 本来愛液は、男女が形成したピストンの動きをよくするためのものではあるが…今は太ももと恥丘の逆三角形をネットリと潤わせてペニスを潤滑させていた。その潤いに任せ、しのぶはさらに太ももをせばめようと交差ぎみに膝を重ねる。理性とは裏腹に、もう欲しがる気持ちを殺せない。景太郎を気持ちよくしたかったし、なにより自分も気持ちよくなりたかった。

 センパイお願い、私にウソついて…。もういいから、このままセックスして…!

 慎み深いしのぶがそう願ってしまうほど、彼女のヴァギナはペニスに恋い焦がれていた。きゅきゅっ、きゅきゅっ…と身悶えしつつ、結ばれない悲しみをトロトロの涙にして溢れさせる。

 きっと今ペニスを突き入れたとしても、法悦は破瓜の痛みを凌駕してしまうだろう。未通のヴァギナも驚くほど柔軟にくねり、ペニスをしゃぶり尽くしてくれるに違いない。

 それでも景太郎はそこまで高望みできるほどの余裕も喪失し、しのぶとの猥褻な戯れにのめりこんでいた。濃密な快感を欲張り、一心不乱で疑似セックスに没頭してゆく。

ぺたん、ぺたん、ぺたんっ…ぐにぐに…ぺたんっ、ぺたんっ、ぺたんっ…

「はあ、はあっ…な、なんか…ホントにセックスしてるみたいっ…」

「んあ、んんうっ…!センパイ、センパイも、気持ちいいですか…?」

「うんっ…しのぶちゃんの後ろ姿も色っぽいから、すぐにでも出ちゃいそうっ…!」

「や、やんっ…あんまり見ないで…恥ずかしいっ…」

 景太郎もしのぶも声を震わせ、激しい往復運動の中で悦に入る。

 しのぶは両脚につらそうなつま先立ちを強いたままであるが、その努力のおかげで景太郎のペニスはすっかり膣内に没入しているものと錯覚してきた。しのぶの恥丘と太ももにしごかれる感触は、右手の筒なんかとは大違いだ。それにしのぶのかわいいよがり声が拍車をかけ、強く射精欲をこみ上げさせてくる。贅沢な話、もはやマスターベーションでは物足りなくて情欲が慰められないかもしれない。

 しのぶにしてみても、強く閉ざした太ももの付け根でペニスの太さ、固さ、形が生々しくわかるため、交わっているような印象はすこぶる強い。景太郎の往復に合わせてむっちりした恥丘もむにゅむにゅたわみ、クリトリスも包皮の上から間断なくくじられて快感を生み出し続ける。この世にこれほどまでに気持ちいいことがあったのかと、まさに目から鱗が落ちる思いであった。

「しのぶちゃんっ、もっと近くに欲しいっ…!」

「ふぁっ、んあふっ…せっ、センパイ…!」

 しのぶのヒップをわしづかんでいた景太郎の左手は、今度は腰骨をすくい上げるようにして彼女の華奢な身体を支える。一方で右手はしのぶのわきからシュミーズの中へ潜り込み、大胆なまでの手つきで乳房を包み込んだ。上体からも快感の波紋が拡がるのを感じ、しのぶは一瞬身を強張らせ、まるでひきつけでも起こすように吐息を引きつらせる。

もみっ、もみっ…くにゅっ、くにゅんっ…ぬちゅ、ぬちゅ、ぬぢゅっ…

「はぁ、はぁ、んんっ…んあ、あっ、いいっ…センパイ…!」

「しのぶちゃんのおっぱい、ホントにかわいいね…。柔らかくって、でも乳首はこんなにツンツンで…」

「あんっ!さ、先っちょ摘んじゃだめえ…ああすごいっ、すごいの…いいっ…」

「俺…今、しのぶちゃんを独り占めしてるんだよねっ。しのぶちゃんの身体も、心も…。すごいよ、すごいっ…俺達、ホントにひとつになってるっ…!!」

「…ほ、ほんとに、ひとつにぃ…あっ!あふんっ!ふぁう、うぁ、ううんっ…!!」

 景太郎はリズミカルに腰を突き出しながら、掌で少女の膨らみを揉みこねつつ指先で乳首をこねくり回した。女体を代表する性感帯を二ついっぺんに愛されて、しのぶは幼げな外見からは思いも寄らないほど色っぽい声でよがり鳴く。幼いとはいえしのぶもひとりの女だ。本能に基づく快感を前にしては、恥じらいも忘れてその悦びを享受せずにはいられない。時折恥ずかしそうに振り返るものの、くねくね身をよじるシュミーズの背中はひどく汗ばんでおり、彼女の身体が喜悦の虜になっていることを証明している。

 そんなしのぶをもっともっと悦ばせたい…。

 もっともっと声が聞きたい…。

 もっともっと…二人で気持ちよくなりたいっ…。

 しのぶの後ろ姿から醸し出される色気に触発され、景太郎は彼女の乳首を執拗にいじり、さらに激しく下腹を打ち付けていった。

ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ…

「あんっ!あんっ!あんっ!あ、んっ!んひうっ…!!

ぬみ…ぬ、ぬぬっ…ぱむっ、ぱむっ、ぱむっ、ぱむっ…

「あ、ふぅうっ…きゃうんっ!あんっ、あんっ!あんっ…!!」

ニチュ、ニチュッ、ヌチュッ…ニチッ、ヌチッ、ニュチッ…

「だめ…あんっ、だめえ…もうだめ、ああんっ!もうだめぇ…!!」

 しのぶは身体の芯からよがり啼き、激しくかぶりを振って汗と感涙の粒を散らした。

 肌と肌が打ち合うはしたない音に合わせ、少女の柔肌はヒップから波打ち、肩の辺りで揃えた黒髪までもがフワフワ揺れる。下の方から聞こえてくる粘っこい音もピークに達しており、二人の間で潤滑を終えた愛液はそれぞれの太ももを濡らして伝い落ちてゆく。

 モジモジしきりの膝頭まで伝い落ちると、しのぶは調理台に爪を立てるのも止め…何かを堪えるよう、ぎゅっと両手で拳を固めた。可憐な唇は可哀想なほどにわななく。

「もたない…もうだめ、もたない…もう…もうっ、もたないっ…!」

「しのぶちゃんっ…ああっ、しのぶちゃんっ…いいよっ…!」

「だめ、いいっ…気持ちいいっ…きっ、気持ちいいっ!!あっ!だめっ!だめえっ…!!来ちゃうッ…ま、また来ちゃうッ…!!」

「しのぶちゃんっ…くうっ…しっ、しのぶちゃんっ…!!」

 しのぶはもう意識の大半が法悦に飲み込まれているようで、普段より一オクターブ以上も声音を上擦らせてむせび泣く。拒むような言葉とは裏腹に、三度目の絶頂を欲張る気持ちは景太郎の動きに逆らうようしのぶに腰を振らせた。くいっ、くいっ、とヒップを突き出すうちに、クリトリスも粘膜の縁取りの奥へ萎縮しきってしまう。

 景太郎も精一杯狭められたしのぶの隙間を貫くうち、純然たる射精欲だけでペニスを勃起しきりにさせた。愛しい名前を無我夢中で連呼し、その若い彼女にお似合いといった童顔をつらそうにしかめながら絶体絶命の快感に打ち震える。

 少しでも長くしのぶと戯れていたい…。

 そう願っておとがいをそらし、唇を噛み締めて本能に抗うが…それでも我慢は限界であった。景太郎が望むと望まないとに関わらず、錯覚したままの身体は確実にしのぶを身ごもらせようと用意を調える。少女の逆三角形の隙間で、ペニスはグググッ…と最後の怒張を示した。

「ああっ…しのぶちゃんっ!!しのぶちゃんっ…出るっ!出るよっ…!!」

「あっ、あんっ!センパイ、来ちゃう…ああっ、もっ、もうっ…き、ちゃうっ…!!」

 景太郎がしのぶの乳首をきつくつねり、力強く突き上げた瞬間…しのぶも愛液でいっぱいのヴァギナを急激に収縮させた。二人で築き上げてきた甘美な世界は、その一瞬だけで真っ白な輝きの中へ崩壊してしまう。景太郎もしのぶも競うようによがり叫んだ。

「しのぶちゃんっ、しのぶちゃんっ…あっ、ああっ…しのぶっ…!!」

「あっ、だめっ!くるっ…くっ、くるうっ…!!」

びゅるっ!!びゅうっ!びゅぶっ!

「くううっ…!!うくっ、ううっ…!!」

「あっ…きた…きちゃった…あっ…ふぁ…んんっ…んふんっ…んっ…」

ドクンッ、ドクンッ、どくんっ、どくん…

「うあっ、あぁっ…はあ、はあ、はあ…んぐっ…ふぁ、はあ、はあっ…」

「んうっ…んっ、んふっ…んんっ…んっ…んふっ…」

 しのぶの三度目のエクスタシーは、今度は仲良く景太郎も一緒であった。

 計ったかのようなタイミングで絶頂に登り詰めると、景太郎はしのぶの隙間を突き抜けた途端、心ゆくまで射精欲を解き放った。そしてしのぶは景太郎を挟み込んだまま、未通のヴァギナをキツキツに締め上げてしまう。

 三度も立て続けてエクスタシーに達したしのぶはすっかり消耗しきったようで、調理台に寄りかかるとぐったり伸びてしまった。調理台の冷たいステンレスに火照った頬を擦り寄せ、そっと目をつむる。

 いつまでも遠のかない絶頂感は余韻と呼べぬほどに気持ちよく、身体はいまだに達したままであるかのようだ。シュミーズ一枚きりの小さな身体は、その途方もない法悦を持て余すように細かくさざめき立っていた。景太郎のために最後まで浮かせていたかかとも脱力をきたし、その場でしゃがみ込みたいようにヒップを震わせている。弾みで達した直後の愛液がトロリと太ももを滑り落ちるが、よほど良かったのだろう、すっかり白みがかっていて見たままヨーグルトドリンクのようだ。

 エクスタシーを迎える様子も相変わらず慎ましやかである。愉悦のままによがりまくる爽快感は覚えたようだが、性の悦びをじっくりと中枢に浴び続け、ふわっ…と絶頂に到達する姿は淑やかなしのぶらしくて実にかわいらしい。

 しかし、大人しい見た目とは裏腹にしのぶが享受している快感は絶大であった。頭の中は靄がかかったように真っ白であり、ざぶんと温泉に浸かった瞬間が絶え間なく続いているようである。気持ちいい、という認識以外なにひとつできない。惚けて開いたままの口許からも、だらしなく唾液がこぼれるままになっている。

 一方、景太郎の絶頂は爆竹のように激しいものであった。

 クリーム色の濃厚な精液はペニスの根本を蹴飛ばすように噴出し、何度も何度もしのぶのシュミーズに降りかかって生臭く汚した。射精の勢いを失ってなお精液は体内から送り出され、ボタボタ重く滴ってしのぶの膝の上を生ぬるく濡らす。

 数週間ぶりであるうえ我慢に我慢を重ねてきたためか、その勢いと量は目を見張るほどであった。もし実際に繋がっていたとしたら、まず間違いなくしのぶを妊娠させていたことだろう。

 射精の瞬間…。

 とめどない脈動…。

 甘やかな余韻…。

 それらの充実感も実に素晴らしかった。これもしのぶと二人で愛情を分かち合ったからに違いない。生殖本能に基づく快感のため、独り遊びなど比にならないほど射精は促されたのだ。腰が軽くなったような感じがするくらいである。

ぬ、るんっ…

 しのぶの隙間からペニスを引き抜くと、景太郎は横から肩を組むように寄りかかり、恍惚としている少女の唇をそっと塞いだ。エクスタシーの余韻に包まれながらも、しのぶは甘えかかってついばむように応じてくる。よっぽどキスが気に入ったようだ。

 そんなしのぶを前に、勃起を維持したままのペニスはまだまだ足りないとばかりに精液を漏出させてくる。どれだけ愛しても愛し尽くせない、若々しさ故の現象であった。お互いその気になれば、少なくとも三回は連続で愛し合えるのではなかろうか。

「しのぶちゃん…よかったよ…」

「センパイ…うらしまセンパイ…」

 うっとりと呼び返してくるしのぶが愛おしくて、景太郎は左手で抱え込むように彼女の頭をかいぐりしてやった。サラサラな髪に触れられるだけでも余韻は増幅されるのか、しのぶは陶酔した表情を柔らかく和ませる。

 潤んだままの声が少し気恥ずかしくはあったが、それでも景太郎はしのぶに寄り添い、その小さな身体をしっかと抱き寄せた。シュミーズ一枚きりの身体は絶頂感で火照ってはいるが、汗だくであるためにすぐさま冷えてしまうだろう。そうならないよう抱き込んだ左手に力を込める。

 達した後でも、こうして寄り添っていると興奮を募らせ切った胸は優しくなだめられるものだ。愛欲に任せて互いを求め合い、力の限り愛し抜いた果てにも…こうして側に愛しい相手がいてくれたら至上の安らぎを得ることができるのである。しのぶは感無量という風に嘆息してから、眩しそうに目を細めて景太郎を見つめた。

「センパイ…わたし、センパイと両想いになれて、本当にしあわせです…」

「しのぶちゃん…俺もそう感じてる。好きだよ、しのぶちゃん…」

「センパイ…わたしも好き、センパイが好きです…」

ちゅっ…。

 熱く満たされてなお、二人は告白と口づけを交わして愛情を確かめ合う。景太郎としのぶにとって、もはやキスは必要不可欠な絆であった。そっと薄膜を重ねるだけで、お互いなにもかも解り合うことができる。穏やかな一体感は揺りかごのように優しい。

 とはいえ、いつまでも下半身裸のままで余韻に浸ってもいられない。

 しのぶが寒そうに身震いするのを感じ、景太郎はひとまず彼女から身を離した。なにかティッシュペーパーの代わりになるものを探し、やむなく厚手のクッキングシートを数枚引きむしってきて、彼女の身体から汗や愛液、精液を拭き取ってゆく。

ふきふき、ふきふき…みゅっ、みゅっ、みゅっ…

「んっ…あ、んあっ…んんっ…」

 丸いヒップを拭い、ほっそりとした太ももを拭い…摩擦熱の残っている裂け目は特に気を使い、押し当てるようにしてぬめり気を吸収してゆく。景太郎の右手がクッキングシートを巡らせるたび、しのぶは前戯ならぬ後戯を施されているように声を震わせた。

「ちょっとゴワゴワしてるけど、このままパンツ穿くわけにいかないでしょ…?」

「ごめんなさい…気を使わせてしまって…」

「平気平気…はい、きれいになったよ。ほら、しのぶちゃん…パンツ穿かせてあげる。」

「あ…やだ、恥ずかしい…幼稚園児に戻ったみたい…。」

 しのぶの下肢から綺麗に湿り気を拭い去ってから、景太郎はすのこの上に落ちていたショーツのウエストを両手で拡げ、しゃがんでから彼女の足元に差し出した。しのぶは恥じらいながらもしおらしく景太郎の肩につかまり、右足、左足、の順番で踏み入れる。

 それで景太郎は薄い布地を丁寧に持ち上げ、キチンとショーツを穿かせてやった。しのぶはすっかりはにかんでしまい、モジモジとしたままうつむいて唇を噛み締める。

 こうして他人に下着を穿かせてもらうなど、いったいいつ以来なのかしのぶ本人でも曖昧なくらいだ。幼い頃に母に穿かせてもらっていた覚えはあるが、それも幼稚園を卒園するまでのことではなかったろうか。礼儀作法やしつけに厳しかった両親の元では、そういった意味での甘えは少しも許されていなかったのだ。

 そのぶんこうして景太郎に下着を穿かせてもらうと照れくさい反面、どこか懐かしい感じがして妙に嬉しい。キスの味を覚え、女としての悦びを覚え…さらにこうして下着を穿かせてもらう感動まで覚えてしまっては、もうどうしようもないくらい甘えんぼになってしまいそうな気がする。もし両親に知られたとしたら、いったいどれほどまでに説教されるかわからない。

「そういえば筑前煮、まだ作りかけだったんだよね…。」

 景太郎は調理の途中で放置された中鍋を眺めて思い出したようにつぶやくと、自らもクッキングシートで情交の後始末を始めた。ようやく脱力してきたペニスから太ももにかけて、雄と雌のフェロモンがない交ぜとなった粘液を丹念に拭き取ってゆく。本来は揚げ物などの余分な油を吸収するために作られたというのに、まさかクッキングシートも精液や愛液を吸収させられることになるとは思ってもいなかったろう。

「どうしよっか?俺も手伝うけど…夕食の準備、間に合うかな?」

「そ、そうですね…今日は筑前煮だけで終わりになっちゃうかも…。」

「俺はしのぶちゃんを食べちゃったからいいけど…みんなはどう思うかなぁ…」

「やっ…やだもう、センパイのエッチ…!」

「あたっ!ご、ごめん…」

 トレーナーを着込んで身支度を済ませたしのぶも、できるだけ作業中の景太郎を見ないにように意識し、照れくさそうに中鍋を見つめながら相づちを打つ。しきりに欲しがって腰まで振ったというのに、今ではその萎縮しきった姿すらも直視できない。

 そんな乙女心に気遣うことなく、同じく身支度を整えた景太郎が戯れ言を口にしてきたので、しのぶは思わず憤慨するように叫んだ。某住人の暴力癖が伝染したものか、ついつい右手で軽く突き飛ばしたりもする。景太郎も素直に非を認めて即座に詫びた。

 とはいえ、こうやって戯れながら事後の余韻に浸っている間にも、夕食の準備は着実に滞ってゆくのである。先程の戯れ言はどう考えても景太郎に罪があるが、作りかけの筑前煮を放置して愛欲に身を委ねたことは両名ともに罪がある。住人の中には万年育ち盛りのような健啖家もいるので、もし夕食の準備が間に合わなかったとしたら理由の説明に苦慮しそうだ。景太郎もしのぶも口ベタであるから、それだけはなんとしても避けたいところである。

「センパイ、申し訳ないんですけどシャワーだけ浴びてきていいですかっ?その後ですぐ続きに取りかかりますから、もう少しだけ手伝って下さいっ!お願いしますっ!!」

「うん、いいよ。じゃあしのぶちゃん、俺はお風呂は後でいいから下ごしらえの手順とか教えてよ。しのぶちゃんが戻ってくるまでに少しでも用意しておくからさ、一緒に頑張って遅れを取り戻そう。」

「は、はいっ!」

 深刻な面持ちで見つめ合うと、二人はこれからの手筈を打ち合わせてしっかとうなづいた。一緒に頑張るというだけの何気ない行動が、愛し合う悦びに気付いたしのぶにはたまらなく嬉しい。景太郎との共同作業がますます楽しみになってくる。瞳はたちまち活力に満ち、きらきら光り輝いた。

カリカリカリ…

 しのぶは筑前煮以外のメニューを冷蔵庫脇のミニ黒板に書き連ね、食材の下ごしらえの仕方をかいつまんで説明し、要点だけを記してゆく。景太郎の料理に関するノウハウは信頼に足るものであるから、わざわざ家庭科の授業のように懇切丁寧に教える必要はない。もちろん景太郎としてもポイントだけ教えてくれればそれでよかった。あとはキチンと両手を洗ってから取りかかるだけである。

 きっと往時の料理長も、今のしのぶのように真剣な眼差しで板前達に指示を送っていたのだろう…。

 景太郎は一生懸命なしのぶの姿に憧憬の想いを深めつつ、そう感じていた。

 男女の別無く、一生懸命何かに取り組んでいる姿というのは美しいものだ。家事にしろ恋愛にしろ、何事に対しても真摯な姿勢を貫くしのぶにあってはそのすべてが美しさそのものであるといえるだろう。そんな彼女と交際を重ねていけば…その絶え間のない美しさに見惚れてしまい、さほどの期間も経ることなくプロポーズを申し出てしまうに違いない。惚れずにいる方がどうかしているはずだ。

「…っと、こんなもんかな?センパイ、こんな感じでお願いできますか?」

「うん、任せといて!安心してシャワー浴びてきてよ!」

「はいっ!じゃあお言葉に甘えて、失礼しまぁす…!」

 しのぶの説明に聞き入るうち、景太郎は思わず両目を潤ませていた。愛しさ故の感動に胸が熱く奮える。

 景太郎が自信に満ちた声で送り出すと、しのぶは無垢な笑顔を浮かべておじぎをひとつ、しなやかに身を翻して駆けだした…が、その両足はすのこの上を数歩と進まぬうちに止まってしまった。景太郎もきょとんとしてその後ろ姿を見つめてしまう。

「しのぶちゃん…?」

「私も…今日は夕食、そんなにいらないみたいなんですけどね…?」

「え…?」

「ふふっ…だって私、もうお腹いっぱいですから…!」

「わわっ…しのぶちゃん…」

 小さく吹き出した後で、しのぶはそう言って振り返った。かと思うと今しがた走り出した数歩を駆け戻り、真っ直ぐ景太郎の胸に飛び込んで寄り添ってくる。

 ぴったり胸を合わせて見上げてくる笑顔は、もうほんの少しでも景太郎と離れていたくないという甘えんぼな笑顔。暖かな幸福感に程良いくすぐったさを感じている笑顔。

「お腹いっぱいってだけじゃなくって、胸の中までいっぱいなんです…。だって、今日はセンパイに、キス…いっぱい口移ししてもらったから…。」

「しのぶちゃんったら…。ダメだよ、俺達はともかく、みんなはお腹空かして夕食を待ってるんだからねっ。」

「ふふっ、ごめんなさいっ…。なんだか嬉しくって、ついつい甘えちゃうんです…。」

 口ではたしなめていながらも、景太郎は子猫のように甘えかかるしのぶをしっかと抱き留め、右手でうなじを撫でている。しのぶは気持ちよさそうに目を細めて愛撫に浸っているが、これではいささか甘やかしすぎだ。

 景太郎自身も気付いているから、ここは少し意地悪に接することにする。このままではいつまで経ってもきりがない。

「甘えてお腹いっぱいになっちゃったんなら…今日はもう、キスはいらないね?」

「やん、センパイのいじわるぅ…シャワー浴びる前に…もう一回…」

「だめっ。キスの続きは…夜になってからっ…。」

「よ、夜って…きゃうっ!」

ちゅっ…。

 景太郎の言葉に舞い上がった矢先、しのぶは前髪を退けられた額にキスされ…かわいく悲鳴をあげた。欲張りな気分になっていただけに、頭のてっぺんからつま先まで一気に愛情の放電に撃ち抜かれたようになる。

 景太郎に身体を開放されると、ぽおっ…と惚けたしのぶは頼りない足取りで二、三歩後ずさった。両手で真っ赤な頬を包み込み、次いで左の胸を労るようにそっと押さえる。きっと動悸が物凄いのだろう。

「…待ってるから。」

「はいっ、そ、それじゃあ急いで行って来ますっ!」

「ああ、それと…今夜も、ね?しのぶちゃん、俺…待ってるから…。」

「は…はいっ!!」

 元気のいい返事とまぶしい笑顔を残すと、しのぶは一足早い春一番を思わせる勢いで厨房を飛び出していった。後には少女の残り香だけが冷え冷えとした厨房に漂う。あれだけ激しく愛欲を燃やし合ったのが夢のようだ。

「ふぅ…。恋って人を変えちゃうもんだなぁ、俺も、しのぶちゃんも…。」

 景太郎は厨房に一人たたずみ、小さく苦笑する。

 キスひとつ交わしただけで、あの慎ましやかなしのぶが…そして引っ込み思案な自分自身までもが驚くほど積極的になることができた。だけどそれは決して悪いことではない。両想いの二人にとって、それは必要不可欠にして最低限の行動力だ。

 少し欲張りになるだけで、お互いもっともっと惹かれ合えるのであれば…きっとこれからは今日以上に胸を張って愛情を差し出すことができるだろう。そして惹かれれば惹かれるだけ、愛情は後から後から無窮に湧いてくるはずだ。

 本当に、ひとつに結ばれる予感。それは何ものにも代えがたい幸福感。

「…俺も甘えんぼだよなぁ、まったく…。」

 早くもしのぶの帰りが待ち遠しくなってくる。あと十分も待てば、シャワーで汗を流した彼女が廊下の角を曲がって厨房に駆け込んでくるはずなのに…。

 景太郎は胸の焦燥を紛らわせるように、ぽつりとそうひとりごちたのであった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

 


(update 00/06/11)