ラブひな

■浦島、抜け!■

-Mouth with Mouth(7)-

作・大場愁一郎さま


 

 やがて景太郎は拭い終えたティッシュを無造作に放り、右手の指先で素子の頬に触れてから、汗で額に貼り付いた彼女の前髪を真ん中できれいに分けた。その後で自分も前髪をかき上げると、もうすることはひとつである。

ちゅっ…

「んっ…」

 泣きベソの顔を見つめられた素子は、照れるいとまもなく景太郎にキスされてしまう。余韻の残る身体は唇の薄膜が感じる歓びを倍加し、素子をかわいく鳴かせた。

 とはいえ、今のキスは互いの愛欲を増幅させるためのものではなく、愛おしさあまっての短い接触であった。おかげで素子の胸はゆったりと和み、陶酔の吐息がはふはふ漏れ出る。幸福感に満たされ、意識は溶けかけのアイスクリームさながらトロトロになってしまったようだ。

「モトコちゃん…泣いちゃうほど気持ちよかった…?」

「う、うん…なあ、うらしま…あの、頼みがあるんだが…」

「なに?」

「いや、その…抱き締めて、キスしてほしいんだ…。しばしお主に抱かれていたい…。」

「いいよ。そんなことならお安いご用だ。」

 嬉し泣きしてしまうほどの愛情を注ぎ込まれたために、素子の恋心はすっかり甘え癖がついたようだ。恋人としてなら当然の願いを極めて恥ずかしそうに口にするので、景太郎は二つ返事でうなづき、彼女と並ぶように身を横たえる。

 そこで素子は慌てて横臥となり、裸の身体を少しずらして景太郎のための場所を開けた。小さな枕も本来の持ち主に譲るよう、その端に頭を移動させる。些細なことでも一生懸命気遣う素子が、景太郎にはたまらなく嬉しい。

 景太郎は素子の体熱が感じられるほどの近くまで寄り添うと、右手で彼女の頭をかいぐりしつつ引き寄せ、ひとつの枕を共有財産とした。こつんと前髪ごしに額が合わさり、視線を交わせばそれだけで二人の素顔は嬉しいはにかみ笑いとなる。

「裸で寒くない?布団、かけよっか?」

「いや、大丈夫…。ストーブもあるし、それに…お主が側にいてくれるから…」

「ふふふっ…俺が側にいるんじゃなくて、モトコちゃんからすがりついてきてるんじゃないかぁ…」

「どっ、どうでもよかろうっ…とにかく、くっついていれば寒くはないからっ…」

 素子がおもちゃを独り占めする幼子のような手つきで背中を抱いてきたので、景太郎は鼻先どうしをツンツン突っついてからかった。人恋しさが…否、景太郎恋しさが頂点に達している素子は気恥ずかしそうに語気を強めながらも、乳房から下腹を擦り寄せるように抱きつき、必死に唇を寄せて景太郎との密着を図ろうとしてくる。景太郎の吐息はすぐそこで感じられるというのに、欲してやまない優しい感触を得ることはできず、胸を苛むもどかしさは募るばかりだ。

「ちょ、モトコちゃん、鼻が痛いよ…さっきからいったい何がしたいの?」

「わ…わかっててこいつ、さっきからっ…!ひ、ひどいぞ…ひどいぞ、うらしまぁ…!」

 景太郎の言葉から揶揄の気配を感じ取り、素子は事情を悟って猫撫で声を怒りに震わせた。景太郎は鼻先を突っいているように見せかけて、実はあごを引いたり小首を傾げたりしながら巧みに素子とのキスを避けていたのだ。

 そうとわかると、素子は積極的に唇を追い求めたが…景太郎はそっぽを向いたり、あるいは枕に顔を埋めたりと彼女の望みを叶えようとしない。素子は恨めしそうに景太郎を睨み付けるが、その眼差しは潤みで迫力を削がれていて痛ましいほどである。

「うらしま…うっ、うらしまあっ!頼むからキスさせて…キスさせてえっ…!」

「わ、わかったわかった!ごめん…。」

 素子にマゾッ気はないし、景太郎にもサドッ気があるわけではない。景太郎はからかいすぎたことを素直に反省すると、静かに目を伏せて唇を無防備とした。

ちゅうっ…

 焦らし抜かれた素子は景太郎の背中に回した左手に力を込めつつ、バカモノッ…と普段通りの非難を彼に口移しした。そのまま甘えかかるように小首を傾げ、甘噛みして密着の度合いを深めてゆく。待ち焦がれていたささやかな弾力はすぐさま素子の胸を癒してくれた。大きな安息感はたちまち熱い鼻息となって景太郎の頬にかかる。

なでっ、なでっ、なでっ…

「ひくっ…ひくっ…ひくっ…すぅ、すぅ、すぅ…ひくっ…」

「んっ…すふ、すふ、すふ…」

 景太郎は右手で素子の頭を抱き寄せながら、慈しみを込めて美しい黒髪を撫でた。穏やかな抱擁がたまらなく心地良いのだろう、素子は腕の中で小さくしゃくり上げつつ、じっとキスに浸っている。

 景太郎は横臥した身体の下になっている左手で二人の隙間をまさぐり、同じ理由で下になっている素子の右手を探し当てた。ちょんちょんと指先でつつくと、それだけで以心伝心、素子は少しも唇を離すことなく指を一本一本絡めて繋がってくる。手首を上下に交差させたエッチ繋ぎになるだけで、二人の一体感はなお増した。

「ちゅ、ぷぁ…ふぅ、ふぅ、ふぅ…うらしま、そろそろよかろう…お主も、裸に…」

「うん…」

 ふと素子は唇を突き出すようにしてキスを解き、そう申し出た。目を伏せたまま心持ちうつむく辺り、心では裸のスキンシップを望みながらもどこかで意識が警告を発しているようである。

 それでも景太郎は念を押すこともなく、素子に寄り添ったまましっかとうなづいた。愛欲もこれ以上ないほどに高まっているから、戸惑いも躊躇いも無い。一瞬だけ薄目を開けて素子の様子を伺ったものの、狼狽えたり怯えたりしている風ではなかったのでもう一度唇を寄せてゆく。すぼめた唇からそっと呼気を吐きかけて合図を送れば、素子もすぐさまうついていた顔を起こしてきた。

ちゅうっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ぷちゅっ、ぬみみゅっ…

 景太郎は素子を愛しさで包み込むように…素子は景太郎に不安を忘れさせてもらうため、それぞれ恋人としてのキスにふけっていった。舌なめずりして潤いを乗せてから深く噛み合い、貪るように吸い付いて…ぴっちり密着してから舌を絡める。

 ちなみにディープキスを挑んでいったのは素子のほうだ。キス好きとしての素質を十分に開花させたこともあり、今まで抱いていた美徳も猥褻の誘惑に魅せられてしまう。

「んぅ、んぅ、んぅ…すぅ、すぅ、すぅ…」

「んんっ…んっ、んんっ…」

 果敢に差し出した舌先は景太郎の唇を割って滑り込み、驚いて硬直している同種を見つけ出して親しげにまとわりついてゆく。ザラつく舌の腹どうしを擦り合わせると、相手も少しずつ緊張を解いてきてスキンシップに応じてきた。

ねゅっ、ねゅっ…みちゅ、ぬちゅ、ぷちゅっ…

 ランデヴー状態の続いている唇の中央で、せめぎ合うように突っつき合い…

くちゅ、ぐりゅっ…ぬみゅっ、ぬみゅっ、ぬでゅっ…

 のたうつように追っかけっこをしては、舌の裏側を探るように絡め合ったり…

にりにり、ねりねり、ぬみみゅっ…んふっ、ふふっ…

 お互い上下交代交代で歯茎を舐め、そのくすぐったさに鼻で吹き出したり…

ぷじゅううっ…くちゅくちゅ、ぴぢゅ、ぢゅっ…くちゅくちゅ…

 口腔内に溜まってきた興奮の唾液を口移しし、ゆすいで攪拌しては送り返し…

 若い二人は思春期の好奇心にものを言わせ、思うがままにディープキスを楽しんだ。寝そべったままで交わすのんびりとした抱擁はささやかな睡魔をも呼び寄せてくるようで、惚けてきた頭の中は暖かな幸福感でいっぱいになる。ともすれば景太郎も素子も、このままキスだけで夜明かししかねない。

ぎゅっ…むにゅっ…

 焦れったいような気持ちが素子の左手に一層の力を込めさせる。夢中で景太郎の身体を抱き寄せると、乳房はそれなりにたくましい胸板との間で挟み込まれて柔軟にたわんだ。混ざり合った興奮の汗は二人の体熱で気化され、セックスに没頭してゆく男女のフェロモンを部屋中に満たす。熱く胸を奮わせる香気はストーブの炎まで妖しく揺らめかせた。

ちゅ、ちゅ、ちゅ…くぢゅっ、ちゅぴっ…ごくんっ…

 キスの心地よさはなにより魅惑的なものではあったが、いつまでもこうしているわけにもいかない。恋人どうしとして結ばれたばかりの二人にはまだまだ抱擁が足りないのだ。

 とりあえず満足できるまで舌の柔らかみを堪能し、唾液を交換してから二人は長いキスを終えた。顔が離れたところで思わず視線が合ったものだから、二人は思わず同じタイミングで唾液を飲み込んでしまう。

 トロトロになるまで往復させては温め合った唾液がお互いの喉を鳴らすと、ウイスキーボンボンが胃の手前で融解したかのように身体中が熱くなってきた。景太郎にも素子にも、陶酔の溜息には一様にだらしない喘ぎ声が混ざる。なんとなく照れくさくて、おかしくて…二人は見つめ合ったまま小さく苦笑した。

「…時間の流れが緩やかに感じる。裸だというのに、お主とこうしているとすごく落ち着けるんだ…。ああ…それ、嫌いじゃない…。うらしま、すまぬが…しばらくこうしていてはくれぬか…?」

「いいよ、じゃあしばらく休憩っ。」

「すまない…」

 見違えるほど柔らかな表情で夢見るようにつぶやくと、素子は感涙に潤んだ瞳を伏せてゆったりと枕に頬摺りした。髪への愛撫がよほど気に入ったらしく、ついついおねだりしてしまう。エッチつなぎの右手もクネクネ指を絡めなおしてすこぶる上機嫌だ。

 もちろん景太郎は拒むことなく、素子の黒髪を手の平で丁寧に慈しんだ。素子の髪は艶やかでありながらも指通りがよく、景太郎の方からお願いして触らせてもらいたいくらいである。そのうえでこうして寝入ったように安らいでくれるのなら、いつでも大歓迎であった。

 腕の中で甘える素子の素肌がやけにまぶしくて、景太郎はふと明かり取りの障子戸に視線を向けた。外では太陽が雲間からその姿を現しているのだろう。障子戸の向こうからは真っ白な午後の日差しが室内を照らしてきている。積もった雪からの反射もあってか、その明るさは神聖なほどに優しい。

 その暖かな光と燃え盛るストーブは真冬の外界を彼方のものとし、睦み合う二人に微塵の肌寒さも感じさせなかった。しかも体温とともに、若い身体をより活性化させてくれる。

 試みに室内の温度を上げ、裸でいるときが適温の状態を作ってみるといい。きっと衣服を身に着けているときよりずっと居心地良く感じられるはずだ。これは本来生物に衣服を着用する習慣など無いことを思い出させてくれるおもしろい実験である。

「モトコちゃん…今の俺達ってさ、世界中の誰よりも贅沢で幸せな時間を過ごしてるって…そんな気がしない?真っ昼間からイチャイチャしてさぁ…。」

「そうだな。みんなまだ学校なり仕事なりに精を出している時間だというのに…本当に贅沢なことだ。放蕩が過ぎて、身体の芯から溶けてしまいそう…。もしそうなっても、うらしま…ちゃんとわたしを抱いていてくれよ…?」

「それを言うなら、俺だって幸せすぎてとろけちゃいそうなんだけどなぁ…?」

「だったら…一緒に混ざり合えたらいいな…」

「そうだね…」

ちゅっ…。

 一瞬でほっぺたが落ちそうなほどに甘ったるい睦言を交わすと、二人は飽きもせずに唇を重ねた。たわいもないおしゃべりも、恋人どうしの抱擁も、気怠い幸福感に浸る二人には一時たりとも欠かせない重要なエッセンスだ。間近に感じるぬくもりが心の底から嬉しい。愛しい相手のことを思ってか、身体はますます火照ってゆく。

 そのぬくもりを捧げ合うよう二人はそっと抱き寄せ合い、汗ばんだ素肌を密着させた。ひたむきな想いが同調すると、エッチつなぎの手にも力がこもる。

すりすり、すりすり…ちゅっ、ちゅっ…

 そのうち二人は小さな枕の上でじゃれるように頬摺りを始め、それに紛れて何度も何度もキスを交わした。甘美な戯れに酔いしれてか、素子は景太郎の背中を撫でさすりながら媚びるように腰を擦り寄せてくる。

 初めのうちは堪えていた呼吸も、いつしか熱々に火照った呼気を遠慮もなく吐きかけるようになってきた。もはや鉄の理性をもってしても、発情期を迎えた身体は抑制が利かないらしい。はあっ、はあっ、はあっ…と、忙しなく繰り返される吐息は暗黙の内に愛撫をねだっているためのものだ。

モトコちゃん…すっごいエッチな息遣い…

 素子の湿った吐息に浮かされると、景太郎も倣うようにして彼女に下肢を押し当てていった。トランクスごしとはいえ、ガチガチに勃起しているペニスがエッチつなぎしている素子の手に、そしてなだらかなうねりを示している下腹にグイグイ押圧される。

 執拗な愛撫と念入りなキス、なにより素子の声としぐさで怒張しきりのペニスはもはや痛いほどであった。心なしか根本の辺りに気だるさを感じるのは勃起疲れであろう。ジクン、ジクン、と無意識に繰り返す脈動は身体的疲労だけでなく、精神的にももどかしい焦燥を募らせて景太郎を憔悴させている。

だめだぁ…もうオナニーでいいから、出したいっ…!

ぐんっ、ぐんっ、ぐんっ、ぐんっ…

 逆らいがたい射精欲が景太郎のフェミニズムを押さえつけてしまう。

 募りに募った愛欲がレッドゾーンに突入すると、景太郎は夢中で素子の柔肌にペニスを押しつけていった。身体は本能に命じられるまま性感を求め、ピストン運動よろしく腰を振る。

 不埒を働いている事実が口惜しいが、紛れもない快感の前には為す術もなかった。にわかに漏出を増した逸り水はトランクスの布地を素通り、素子の柔肌をぬめらせる。様々な思いを余所にグラインドは止まらない。殺到する射精欲と後ろめたさで、景太郎の声は情けないほどに震えた。

「も、モトコちゃん…モトコちゃんっ、ごめん…俺っ…」

「わかってる…次は、わたしの番…」

 困惑する景太郎を落ち着かせるよう、素子は彼と額を合わせたまましっかとうなづいた。景太郎の背中に回していた左手ですぐさま彼の腰を抱き、男の悲哀を慰めるようにゆっくり撫でる。景太郎は理性を振り絞って不埒を堪えているのだろう、きゅっと引き締められている尻は凍えるようにブルブル震えていた。

男という生き物は難儀なものだな…わたしで、楽にさせてやれるだろうか…

さわっ…

「ああっ…!!」

 先程のお返しのように臀部を撫で回していた素子は、やがて手の平をあてがうようにして、勃起しきりのペニスを掌に包み込む。その途端に景太郎は鋭いあえぎ声をあげたので、素子は慌てて左手の動きを止めた。

「…痛むのか?」

「う、ううん…気持ちいいんだ…」

「そ、そうか…でもなんだ、お主も他人のことを言えないくらい敏感なんじゃないか…」

「あっ、はあっ…あ、くっ…」

なでっ…なでっ…なでなで、なでなで…

 だらしなく声を震わせる景太郎に微笑と揶揄をひとつずつ、素子はへそを目掛けて反り返るように怒漲している彼のペニスを慎重なほどの手つきで撫でさすってみた。伸びやかに勃起している幹に手の平と指を添え、さらなる勃起を促すよう下方から何度も何度も撫で上げる。

 景太郎のペニスは素子の想像以上に長く、太く、固く…興奮の血潮をたぎらせて悠然と勃起していた。もちろん亀頭と幹とのメリハリも大きく、素子は布地ごしにでも歪にくびれた形を感じ取ってしまう。懸命に勇気を振り絞り、景太郎の反応を逐一確かめながら愛撫に専念しようとするが…左手の動きは緊張感でぎこちなくならざるを得ない。

「モトコちゃん…またつらいこと、思い出してる?」

「やはり気取られるか…。すまない、こうして睦み合ってなお、払拭できないとは…」

「モトコちゃんが謝ることなんてないよ。無理はしないで、時間はあるんだから…」

「いや、いずれは通らねばならぬ道…。お主が励ましてくれれば…お主が求めてくれるのなら、わたしは大丈夫…。」

 景太郎は抱き寄せる右手で気遣わしげに素子の背中を撫でるが、それでも彼女は気丈な様子で首を横に振り、わずかに頭を上げて微笑んだ。結局愛撫の止まった左手は、その頑なな思いを現すように親指と小指で幹を摘んでくる。

「…お主は昨日も、そして今日もわたしのために一生懸命になってくれたろう?だからわたしも…お主のために一生懸命になりたい…。」

「モトコちゃん…」

「お主は他の男とは違う。少なくともわたしはそう感じている。ここをこんなに固くしているのは…きっとお主の思いやりがいっぱいに詰まっているから…」

すりっ、すりっ、すりっ、すりっ…きゅっ、きゅっ…

 真摯な口調でそうつぶやくと、素子は左手での愛撫を再開した。掌で下腹に押さえつけながら先程よりも早い間隔で幹を撫でさすり、親指と小指で挟んでくびれから先端にかけてをいじってみる。剛直な幹と違い、幾分弾力のある先端部分はもてあそび甲斐がありそうだ。

 そんな性的好奇心を抱きながらも愛しい男への愛撫を実感するため、素子の切れ長で美しい瞳は景太郎を見つめたままである。その熱っぽい眼差しが愛撫との相乗効果を生み、男をより高ぶらせるということには素子はまだ気付いていない。

「くっ…ん、んんっ…う、くっ…」

「気持ちいいか…?間違っていたら教えてくれ、なにぶんこういったことには疎くて…」

「大丈夫だよ…モトコちゃん、すごい上手。ホントに上手だよ…。」

「そっ、そんなに褒めなくてもいいっ…!」

 快感を堪えているのだろう、景太郎は照れくさそうに視線を逸らしながら唇を噛み締め、時折鼻にかかったよがり声を漏らす。素子は自信なさそうに声を潜めるが、景太郎が陶酔した声で太鼓判を押すと、たちまち頬を染めて声を大きくした。褒められれば嬉しくはあるが、あまり手放しで褒められると淫行の素質を認められてもいるようで、乙女心に恥ずかしいのである。

なでっ、なでっ、なでっ…ふにゅんっ、ふにゅんっ…

 照れ紛れで左手の愛撫にも過剰な力がこもり、ペニスの全長を往復する振幅が大きくなると…素子は根本付近に異質な柔らかみを感じた。

 おっかなびっくりの手つきでまさぐると、その柔らかみはペニスの根本から脱力するように垂れ下がっている袋状のものであった。しかも中には、ころん…と質量のある球形のものが二つ内包されている。すくい上げるように捧げ持つと、全体がほんわりと温かい。

「う、うらしま…これって、お、お主の…睾丸…?」

「そ、そうだけど…」

 素子とて、男性器の部位くらいは知識がある。ただ触れたのは初めてであったから、思わず専門用語が口をついてしまった。素子も景太郎も一様に恥じらって頬を染める。

 素子としては、景太郎の新たな命がたっぷりと蓄えられている部分を手にしていることが、どこか恐れ多いような気がしていた。一方で景太郎は、雄性として一番大切な部分を素子に包み込まれ、本能的な怖気すら覚えている。このまま握りつぶされるかも…と杞憂を抱くと、たちまち背すじが絶体絶命の予感でゾクゾクしてきた。

「こ、ここも…その、揉んだりすれば気持ちいいのか…?」

「や、そっ、そこはそおっとしといて…気持ちだけ、いただいとくから…」

「わ、わかった…すまない…」

「い、いや…気にしないで…」

 初々しいやり取りの果てに、景太郎の睾丸はようやく素子の手から解放された。意外なぬくもりがお互い名残惜しいような気がしたが、高ぶれないのであれば意味がない。

 素子はあらためてペニスを左手に納め、努めて根本を避けるように幹を撫でさすっていった。幹の中央で隆起している太々としたパイプを指の腹でなぞり、そのまま先端へと撫で抜ける。しゅっ、しゅっ、とくびれの中央を一気になぞると、そのたびに景太郎は目を細め、熱い嘆息を繰り返した。

浦島、気持ちよさそうだな…特に先っぽは敏感そうで…

 景太郎の様子に愛欲を掻き立てられるまま、素子は丁寧にペニスを愛撫してゆく。固く勃起しているとはいえ、決して粗雑には扱わない。誠心誠意、想いを込めて撫でると景太郎もそれなりの反応を返してくれるので、それがまた不慣れな素子にとって最良の励みとなるのだ。

プニプニ、すりすり…ぬりっ、ぬる、ぬるっ…

 景太郎にとって、特に過敏な性感帯である亀頭を指先でいじったとき、素子はウエストのゴムにほど近い布地が濡れているのに気付いた。ちょうど先端が内側からグイグイと押し上げている辺りである。

 ぬるぬるとしたぬめりがまとわりついた左手を目の前でマジマジ眺めてから、素子は視線を景太郎に向けた。その瞳は潤みも揺れていて、どことなく躊躇いが満ちている。

「うらしま、まさか…精子、出てしまったのか…?このぬるぬるは、いったい…」

「ううん、それは…さっきのモトコちゃんと一緒。すごく気持ちよくて、興奮しちゃうと男も濡れちゃうんだ。カウパー氏線液っていうんだけど…やっぱ専門用語って恥ずかしいなぁ…」

 逸り水を眼前で観察された景太郎は照れくさそうに声を潜めたものの、決して悪気のない素子に懇切丁寧に説明した。とはいえ言葉尻は多分なはにかみで消失してしまう。

「うらしま…わたしにこうされて、気持ちよくなってきているのか?」

「うん…このままされてたら俺、パンツ穿いたままでイッちゃうかも…」

「…その、なんだ…イク時、というか一番気持ちよくなった時に、男は射精するのか…?」

「うん…」

 素子は思い詰めた目になり、指先のぬめりと景太郎を交互に見つめながら次々に問いかけてくる。いかに素子が性に関して疎いとはいえ、この質問攻めは景太郎にとってまるきり羞恥プレイであった。見つめられたままという状況もあり、もう恥ずかしくてならない。力無くうなづく心地はまるで尋問される罪人のようだ。

「…じゃあうらしま、面倒をかけるが、そこに立ち上がってはくれんか?」

「え…?」

「いっ、いいからっ…」

 質問攻めが終わると、やおら素子は繋いでいた手を離し、肘で上体を起こしながら奇妙な要求を突きつけてきた。何かの聞き間違いかと景太郎が問い返しても素子は繰り返すことなく、また理由を告げることもなく急かすのみだ。

 景太郎もそこまで頑なな態度を取られると、それ以上問いつめることはしなかった。気分を害したというわけではなさそうなので、ここは素直に応じることにする。

「こ、これでいい…?」

「ああ…ら、楽にしてていいんだぞ?」

「う、うん…」

 燃え盛るストーブの熱をふくらはぎに感じながら、景太郎はすっかり汗っぽくなった布団の上で直立の姿勢をとった。それに合わせて身を起こした素子が慌てて付け加えたので、景太郎はとりあえず肩幅程度に脚を開き、トランクスのウエストを整えてから軽く伸びをして肩の力を抜く。

 そんな景太郎の前で素子はつま先立つような正座となり、とりあえず両手で髪を背中へと流した。その後でそそくさと乳房を両手で覆い隠し、きゅっと膝もすぼめて恥じらいながら景太郎を見上げる。

 しゃんと背すじが通った素子の端座姿は普段の筒袖袴姿でも美しいが、こうして裸になっているとたまらない色っぽさが漂ってくるものだ。そんな彼女の眼前に股間を位置していることが妙に照れくさくて、景太郎はついつい両手でトランクスの前をかばってしまう。赤裸々さらけ出しているわけでもないのに気恥ずかしさは大きい。

「う、うらしま…」

「なっ、なにっ…?」

 ピリピリと緊張の糸が張りつめた矢先の呼びかけに、景太郎は素っ頓狂な声で応じてしまう。その反応に素子も一様に驚き、ぴくん、と肩を跳ねさせた。彼女もまた、大胆な性の戯れを前にして極度の緊張をきたしているのである。

「し、下着…脱がしてもいいか?」

「うっ…うん…」

 覚悟を決める瞬間の到来に、景太郎は羞恥を押し殺してうなづいた。心持ち上目遣いになっている素子の瞳も、照れくささに屈することなく見つめ続ける。

 素子にしてみても、今が覚悟を決める瞬間であることは同じはずだ。勃起しきりのペニスを目の当たりにすることは、過去のトラウマに敢然と立ち向かうということでもある。

 素子もそれはわかっているのだろう。ほんのりと火照った素顔は不安を押し留めるあまりに深刻な面持ちとなってはいるが、それでも瞳には毅然とした光が揺らめいていた。

 そこから献身的なまでの愛情が垣間見えているというのに、視線を逸らしてしまってはいたずらに彼女を不安がらせるだけであろう。真っ直ぐに見つめ返し、愛撫を切望してこそ素子は勇気を奮わせることができるのだ。

するっ…ずるるっ、ぐんっ、ぐんっ…

 やがて素子はトランクスのウエストに両手をかけると、そのままおずおずとした遠慮がちな手つきでずり下げていった。性器の直視を避けるため、素子はじっと下着の裾を見つめていたのだが…それがあだとなり、トランクスの前側のゴムが天を仰ぐように勃起しているペニスの先端で引っかかってしまう。

「あ…す、すまんっ…」

「い、いいってば…大丈夫だから…」

す、るんっ…するるーっ…すっ、すっ…

 すぐさまそれに気付くと、素子はあたふたしながら指先で引っかかりを解き、一息に足首までずり下ろした。景太郎も彼女を気遣わせまいと、右足、左足、の順番で後ずさるように足首を抜く。これでもう二人とも一糸纏わぬ全裸体だ。

「あっ…け、けっこう大きいものだな…あらためて見ると、こんなに大きい…」

 顔を上げ、初めて景太郎のセックスシンボルと対面した素子の感想がそれであった。

 両目を真ん丸にして、勃起しきりの男性器を不思議そうに見つめながらも、素子は無意識のうちに脱がしたてのトランクスを丁寧にたたんだりする。しかも先程の景太郎同様そっと布団の側に置くあたりからも、二人は几帳面な性格まで相性ぴったりであるようだ。

「怖くない…?」

「怖くない…と言えば嘘になるな。やっぱり思い出してしまう。確かに、こんな形をしていた…。」

 景太郎は素子を見下ろしながらそう問いかけ、静かに両手を自らの背後に回して指を組んだ。せっかく素子がトラウマを克服しようとしているのに、羞恥で覆い隠したりしてはその努力も無駄になるような気がしたし…なにより両手が前にあっては、素子もいつなにをされるか気が気ではないと思うからだ。全面的降伏を示すように、景太郎は素子にすべてを委ねたのである。

 いかにも景太郎らしいフェミニズムの現れであるが、それでも恥じらいを殺しきることはできないらしく、背後で組んだ指はモジモジし通しで落ち着かない。なにせとびきりの美少女に勃起しきりのペニスを間近で見つめられているのだ。とはいえ大抵の男であれば、経験の有無に関わらず舞い上がらずにはいられないだろう。

 そんな景太郎の男心を汲むこともなく、素子は積極的に身体を動かし…正面から、真上から、真横から、それこそありとあらゆる角度からトラウマの元凶を眺め回した。そのたびに艶やかな黒髪が彼女の背中でサラサラと揺れる。

 粘膜を色濃く充血させ、ツヤツヤのパンパンに漲っている先端…。

 精一杯背伸びするよう、幾重にも血管を浮かせて頑強にそそり立つ幹…。

 幹の根本を覆い隠すように生い茂り、独特の男臭さを漂わせる性毛…。

 根本の辺りから、内包した二つの睾丸を、高さを違えて垂れ下がらせている陰嚢…。

 確かに景太郎のペニスはたくましく、そこかしこに男らしさを充実させている。

 そのぶん女である素子には、この痛ましいほどにそそり立っている男性器が同じ人間の身体の一部であると認められないのだ。愛しい景太郎の身体であるとはいえ、過去の忌まわしい記憶は素子に拒絶反応を示させる。

何を怖じ気づくっ…うらしまはこんなにも優しいだろう…怖いことなんか、ない…

 心中で自身に発破をかけるものの、やはり威嚇するようにピクンピクン打ち震える醜悪な肉塊を前にしては尻込みせざるを得なかった。胸苦しいほどの葛藤に苛まれる素子は深く溜息を吐き、救いを求めるような目で景太郎を見上げる。それでも励ましてほしいと言い出せないのは、頼り切りになることを望まない彼女の強さのためだ。

 しかし…その膠着状態は景太郎の羞恥が頂点に達したことで打ち破られた。

「だっ…だあああっ!!もうだめっ!もう見ないでっ!!」

「あっ…」

 健気な素子の視線を真っ直ぐに受けとめた景太郎は瞬時に耳まで赤くなり、強くかぶりを振ってそう叫んだ。照れくさそうな苦笑を浮かべたまま、両手をいっぱいに使ってペニスを覆い隠してしまう。素子の驚きの声が聞こえはしたが、気恥ずかしさに満ちた胸の奥からは詫びの言葉も出てこない。ただ燃えるように紅潮した童顔を素子から背け、そそそっ…と引け腰になって全裸の頼りなさに震えるのみだ。尻が丸出しになっているだけでもひどく心細い。

「モトコちゃん、横になってしようよぉ…立ったままなんて、やっぱ恥ずかしいよぉ…」

「ふっ…ふふふっ…」

「え…?」

「ははっ、はははははっ…!」

 蚊の鳴くような声で弱音を吐く景太郎であったが、ふいに聞こえたささやかな笑声にちらりと横目を素子に向けた。それも束の間、素子は見違えるほどに愛くるしく両目を細めて嬉しそうに声を弾ませてくる。左手で口許を押さえはするものの、こみ上げる衝動は抑えきれないらしく肩は震えたままだ。

 これにはさすがの景太郎も小馬鹿にされているものと思い込み、気を悪くして素子を睨み付けた。とはいえ半ベソの景太郎がそうしたところで、幼稚園児すら怯ませることができないだろう。

「わっ、笑うなあっ!なにがおかしいんだよっ!!」

「うっ、うぷっ…くっ、くふふっ…す、すまないっ…そうか、恥ずかしいよなぁ…!」

「はっ、恥ずかしいよっ!!悪いかよっ!!」

「ううん…少しも悪くなんかない、むしろ…嬉しい。」

「あっ…」

 やおら見上げてきた穏やかな瞳に胸をときめかせるいとまもなく、ペニスを覆い隠している景太郎の両手は素子の両手によって包み込まれた。手の平のぬくもりを感じると、そこで景太郎は素子の瞳に釘付けとなってしまう。先程までの不安に曇った表情はどこへやら、今の素子は熱い胸騒ぎを覚えるほどにかわいい。

「…突然笑ったりしてすまなかった。なにせ、胸のつかえがいっぺんに取れたような気がしてな…」

「どうして…あ、もっ、モトコちゃん…」

「あの時の連中は恥も何もなく、先を争うようにしてわたしに突きつけてきた…。なのにお主は…こうしてわたしに見られるだけで恥ずかしがっている。ここもお主の性格同様、臆病で、軟弱で…だけど思いやりがあって、優しくて…それに気付いたら嬉しくて…」

 素子の両手に力がこもり、景太郎の股間から彼の両手を退かせる。狼狽える景太郎をよそに、素子はあらためて勃起しきりのペニスに視線を注いだ。その瞳にはもはや翳りはなく、それどころかキスするときのような熱っぽさがきらめいているほどだ。

「…もうお主となら怖くない。お主のためなら何だってできるような気がする…。うらしま、わたしでよければ、求めてほしい…。わたしはお主に尽くしたい…。」

「モトコちゃん…あっ、ああっ…」

 素子はペニスに言い聞かせるようにつぶやくと、右の手の平で怒張している幹に触れた。そのままトランクスの上からしたようにゆっくり上下に撫でさすると、景太郎は戸惑いと快感に背筋をなぞられて身を震わせる。

すりっ、すりっ、すりっ…すりすり、すりすり…

「気持ちいいか…?」

「う、うんっ…」

 強ばりを下腹に押しつけるような手つきで、素子はじっくり時間をかけて幹の全長を撫でさする。じかに触れたペニスは熱く愛欲を漲らせていて、それだけでも景太郎は先端から逸り水を滲ませ、頼りないよがり声を漏らしてきた。

 若々しい肉体は貪欲に刺激を求めるのだろう、景太郎は両手を腰の後ろに回して指を組ませると、引いていた腰をそろりそろりと素子に差し出し始める。それは無言のおねだり以外の何ものでもない。ペニスに注がれる素子の視線には相変わらず気後れしてしまうが、今はそれ以上に彼女の愛撫が心地良かった。吐息が動悸に合わせて小刻みに震える。

うにうにうに…うにうにうに…

「あ、はあっ…こんなのって…」

「固くて、太くて…本当に大きいな。わたしの手でふた握りとちょっと、といったところか?ふふっ、お主がいかにスケベかが窺えるっ。」

「スケベだから、こんなに大きくなっちゃうって言うの?」

「なんだ、違うのか?」

「ふんっ、し、知らないよっ…」

 ひとしきり幹を撫で回した素子は、今度は合掌するようにしてペニスを挟み込み、手前に引き倒して先端と見つめ合う。そのまま勃起の力強さを確かめるよう、キリを回す手つきで幹を愛撫し、景太郎を揶揄した。心理的にも余裕が生じてきた素子には、悪戯っぽい笑顔も実によく映える。

 そんな表情に胸が焦がれるものの、景太郎は快感に耐えながら口許をとがらせてふてくされた。やはりイニシアチブを奪われてはおもしろくない。キリ回しの愛撫はすこぶる新鮮ではあるが、からかわれると気恥ずかしさの方が快感に勝ってしまうのである。

「もう、冗談だ、冗談だよ。機嫌を直してくれ、な…?」

「な…って、ぷっ!ぷぷっ…!」

「うっ…」

 微妙な男心を察知した素子は、不器用ながらもウインクして景太郎に詫びた。が、さすがにこれは媚びが過ぎていて、景太郎は思わず吹き出しそうになってしまう。

 つらそうに失笑を堪える景太郎を見て、素子は気まずそうに唇を噛んでうつむいた。自分ながらに似合わぬ事をやってしまったと後悔の念も大きく、幹へのひねくり攻撃も中断してしまう。

「モトコちゃん…今のウインク、かわいかったよ?ホントだよ?」

「かっ、からかうなっ…あんな真似、もう二度としないっ…」

「でもでも、ほら…わかるだろ?今のウインクで元気になってきた…。」

「あ…あっ…」

 景太郎は恥じ入る素子をなだめようと下肢に力を込め、彼女の合掌に挟み込まれたままのペニスを、ぐんっ、ぐんっ、と上向かせようとした。肛門をすぼめる要領で力を込めれば誰でもできる芸当だが、それを景太郎はあえてたばかったのだ。

 実際素子のウインクはかわいかったのだが、これくらいでもして励まさないとすぐさま自責して落ち込むのが目に見えている。ひたむきさが過ぎる素子の悪癖は身に染みてわかっていた。

 果たして景太郎の思惑は外れることなく、男のメカニズムに疎い素子は逃げだそうとするペニスに慌て、合掌の力を強くして押さえ込んできた。ほっ…と安堵の吐息を漏らしながらも照れくさそうに見上げてくる様子から、どうやら信じ込んでくれたらしい。まったく嘘も方便とはよく言ったものだ。景太郎としても胸を撫で下ろさずにはいられない。

「元気になったら…ますますモトコちゃんにしてほしいって言ってるよ?」

「ば、バカモノッ…してほしいのはお主だろうがっ…」

「うん、俺からもお願い…いっぱいして…。」

「…わ、わたしはこういったことには疎いからなっ、気持ちよくなくても知らんぞっ?」

 せめてもの反論も、開き直ったような景太郎の求めには意味を失う。

 素子は照れ隠しそのものの早口で吐き捨てると、ガチガチに強張っている幹を右手で握り込み、ふんにゅり脱力している袋を左手で捧げ持った。

ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ…ころころ、ころころ…もみっ、もみっ…

 根本から先端へ、先端から根本へ…。懐刀を逆手に持つようにペニスを握り込んだ素子は肩揉みするようにゆっくりと右手を往復させる。幹と手触りの違う先端は掌でくるむよう丁寧に揉み込み、まんべんなくマッサージして興奮の血行を促した。逸り水で濡れるとぬめりに任せ、マッチを擦るように先端を擦ってもくれる。

 一方で左手は掌の上で陰嚢を揺り動かし、みっしり重みのある二つの睾丸をもてあそんでいる。勢い余って手の上から取り落としてしまうと、素子は慌ててそれを捧げ持ち、悪戯を詫びるよう優しく揉んだ。

 わたしだって、激しくされたらよかったんだ…きっと、男も同じだろう…

 そう信じている素子だからこそ、このような愛撫になるのであった。しかも景太郎の悦ぶポイントを聞き逃さないよう、じっと呼吸も止めて専念するほどである。

 だがせっかくの努力ではあるものの、こうした愛撫が大きな快感を与えてくれないことは、きっと多くの男性諸氏には容易く想像できるだろう。景太郎もやはり、一生懸命な素子には悪いが、少々物足りなさを感じていた。否、物足りなさ程度ならいざ知らず、彼女の愛撫は責め苦と呼んでも過言ではなく、今やその身には苦痛すら覚えている。

 なにせ普段から竹刀を握り込んでいる素子の握力は相当なものなのだ。右手がにぎにぎするたびにペニスは漲りを強くするし、左手が揉みこねるたびに睾丸の悲鳴が重苦しく下腹に響き渡ってくる。はっきり言って痛かった。

「も、モトコちゃんっ、ちょっとタンマ…!」

「え?あ、い、痛くしたか?大丈夫かっ?」

 たまらず景太郎が愛撫の手を押さえ込んで制止すると、素子はたちまち動揺を瞳いっぱいに浮かべて見上げてきた。先程そっとしておいてほしいと言われたことを思い出し、左手は慌てて睾丸を解放する。

 それで景太郎は安堵の息をひとつ吐き、ペニスを握ったままの素子の右手をそっと両手で包み込んだ。わずかな逡巡の後で、瞳は彼女を見つめる。

「わ、わたしっ…うらしまに気持ちよくなってもらいたかったから、だから、さっき言われたことも忘れてて…」

「ううん、もう平気だから落ち着いて…。ねえモトコちゃん、ここ…握るんじゃなくて、しごいてみてくれる?」

「し、しごく…?や、槍とか長刀のように、か…?」

「よ、よくわかんないけど…こうやって…」

しゅこ、しゅこ、しゅこ…にちゅ、ぬちゅ、にちゅっ…

 景太郎は両手に力を込め、教え諭すようにして素子の右手を往復させた。少女の右手の筒が幹を擦り、先端で逸り水を馴染ませて粘つく音を立てると…普段から慣れ親しんだ快感がたちまちペニスに凝縮されてくる。やはりペニスはこういう刺激で悦ぶようにできているのだ。

「あとは自分でできるよね…。あ、あんまり強く握ると皮が動いちゃうから…そうそう、擦るようにして…慌てなくていいよ、ゆっくりしごいて…」

「…か、乾布摩擦じゃあるまいし、こんなのが本当に気持ちいいのか?お主がしてくれたみたいに、強く揉んだりするんじゃないのか?」

「やっぱ男と女じゃ違うみたい。俺がオナニーするときは、いつもこうしてる…。」

「お、オナ…ば、バカモノッ!急に何を言うかっ!!」

 景太郎が口にした思いがけない単語に、素子は舞い上がりながらも教えてもらった愛撫に専念してゆく。真上を向こうとする力に逆らって水平に倒したまま、景太郎のアドバイスを忠実に守ってしごき立てていった。つま先立ちの正座はあくまで崩そうとせず、手持ち無沙汰な左手を彼の臀部に回して丁寧に単純作業をこなしてゆく。

しこ、しこ、しこ、しこ…にちゅ、ねちゅ、にちゅ、ぬちゅ…

 ペニスを逆手持ちしたままの素子は恥骨をノックするようにして根本付近をしごき、次いで幹全体にかけてをゆっくりとした手つきで…そして、逸り水を手の平に馴染ませて握り込むように先端を愛撫する。そのどれもが景太郎の吐息を弾ませるので、素子は感心しながら手の中のペニスを見つめた。

こんな単純な動きが気持ちいいとは…本当に意外だな…まさか…

「うらしま、お主、演技しているのではなかろうなっ?」

「そ、そんなことないって…ホントに気持ちいいよ…。自分でするのと違ってて、す、すっごい感じちゃう…」

 自信なさげな素子はそういぶかるが、景太郎は頼りない口調でそれだけつぶやくのが精一杯のようだ。

 確かに景太郎は感じているらしく、右手の筒から出たり入ったりしているペニスの先、そのおちょぼ口からはたっぷりと無色の粘液が滲み出てくる。漲りも充実しており、性的興奮は今やピークに差し掛かっているところなのだろう。

 それならばと素子は逸り水を手の平だけでなく指にも馴染ませ、今度は順手にペニスを握り直してしごき始めた。面積の広い亀頭の表側を掌でぬめらせ、幹の中央を貫いている太いパイプに指を添わせ、大きく早く全長を往復する。握り方ひとつ変えただけで景太郎は唇を噛み締め、臀部をきゅんきゅん引き締めて快感に耐えた。

 それに合わせて先端が強く充血し、掌の中でムクッ…ムクッ…と大きくなるのが素子には微笑ましい。動物の亀を忌み嫌う原因となった部分ではあるが、景太郎が気持ちよくなっている証だと思うと、それだけでペニスが愛おしくなってくる。

 すると素子はしごき立てる右手を返し、手の平と指を上下入れ替えてみた。ねちょねちょに濡れそぼる指で根本を摘み、乳搾りのような手つきで幹から先端にかけてをじっくりとしごく。特に亀頭と幹の境界は景太郎の敏感な部位であることがわかってきたから、素子は親指と人差し指で輪っかをこさえ、ぬめりにまかせて何度も何度も亀頭を刺激した。

にっちゅ…にっちゅ…にっちゅ…ぬろんっ、ぬろんっ、ぬろんっ…

「あ、やっ…そこ、弱いっ…!」

「これだけたくましいというのに、軟弱なものだな…もうべちょべちょだぞ?」

「だ、だって…だってぇ…」

 動き自体は、先程とはうってかわってスローモーではあるが、一回一回が大きく快感を広げるために景太郎は鼻声で弱音を吐いた。直立したままの両脚はつらそうに震え、少しずつ腰が引けてゆく。

 が、それを素子が許すはずもない。引き締まった尻にかけている左手ですかさず引き戻すと、景太郎は感極まっておとがいを反らした。

「んあっ!ああっ、だめっ…!」

「ふむ、どうやら本当に気持ちいいらしいな…女々しい声をあげおって…」

「ほ、ホントに気持ちいいんだってばぁ…モトコちゃん、上手だからっ…同じ右手なのに、オナニーと全然違うっ…!」

「だっ、だから褒めるなと言っているだろうっ…?」

「はあっ、ああっ、ああっ、あああっ…!」

ぬっちゅ、ぬっちゅ、ぬっちゅ…にっちゅ、にっちゅ、にっちゅ…

 景太郎がうかつに感動を口にしたものだから、素子は恥じらって愛撫の手を速めた。リズミカルに往復してしごき立てるだけでなく、上から握ったり、下から握ったり、あるいは逆手に持ち替えたりして徹底的に景太郎のペニスを愛おしむ。

 景太郎の身震いの頻度が多くなるにつれ、ペニスは手の中でガチガチに怒張してくるが…このまま続けると最後にはどうなってしまうのか、素子は興味津々であった。もしかして本当にはち切れてしまうのでは、と杞憂しながらも夢中でペッティングに励む。

 先程エクスタシーに達する瞬間を見られているため、今度は景太郎のその瞬間を見届けようと負けん気が彼女を鼓舞するのだ。過去のトラウマはすっかり克服できたらしい。

 そんな念入りなペッティングを前に、景太郎が平気でいられるはずもなかった。右手での往復運動はマスターベーションで慣れ親しんでいるとはいえ、中枢は決して性的快感に順応したりはしない。

「ふぁっ!あ、ああっ…だ、だめ…!!」

 景太郎は素子の激しい愛撫にあごをわななかせ、このまま遅滞なく射精を遂げてしまいそうな予感に狂おしくうめく。素子に女々しいと非難されようとも、もはや声を抑えられなかった。今や射精欲は固くそそり立ったペニス全体に満ち満ちてきている。

 

 

 

つづく。

 

 


(update 00/12/28)