ラブひな

■浦島、抜け!■

-Mouth with Mouth(8)-

作・大場愁一郎さま


 

ああっ、だめだ…もっとしてほしいのに、終わっちゃう…!

 やがて、止めどなく逸り水を送り出していた脈動の奥底に巨大なせつなさが押し寄せてきた。景太郎は理性による我慢の限界を突き破られそうな気配を感じ、精一杯肛門を締め付けて絶頂への到達を遅らせようとする。

 このまま素子のペッティングにすべてを委ねてしまったら、純心無垢な彼女の顔面に精をぶちまけかねない。かといって直立の姿勢であるからティッシュペーパーを引き抜くことも不可能だ。先程から合図を送るようにうめいてはいるものの、肝心の素子は気にかけることもなく、ペニスに視線を釘付けたまま愛撫に専念している。

 受験勉強に励むあまり、もうかれこれ数週間は禁欲生活が続いているのだ。そんな濃厚な精をぶちまけて汚してしまうなど、景太郎のフェミニズムは絶対に許そうとしない。

「モトコちゃん…ちょ、やめて…イキそう…!」

「なんだと?た、達したくないのか?射精したくてウズウズしてるんだろう?」

「そ、そりゃあイキたいよっ…今すぐにでも出して、すっきりしたいよ…」

「だったらなぜ…恥ずかしいのか?」

「それもあるけど…このままだと精子、モトコちゃんにかかっちゃうし…それに、もう終わっちゃうのって、もったいないよぅ…」

 いぶかる素子に間断のないペッティングを中断してもらうと、景太郎はついつい本音を口にした。その言葉の意味がわからず、きょとんと見つめてくる素子の純心にあてられ…景太郎は恥じ入りながらそっぽを向き、ごめん、と失言を悔いる。

 確かに、このままずっと素子のペッティングを楽しんでいたかった。マスターベーションを手伝っていてほしかった。

 しかしそれは叶うはずもないわがままであることは、景太郎自身よくわかっている。愛しい女性に愛撫される身体は歓喜と興奮を味方に付け、自分で慰めるよりもずっと早く絶頂感を手繰り寄せるのだ。

 確かに、心ゆくまで射精できる悦びは、男にとって何ものにも代えがたい魅惑的なものである。それでも、射精に至るまでのプロセスにも甘美な幸福感が存在していることも事実だ。一度果てるとすぐに回復できない男性にしてみれば、同じ絶頂を迎えるのであればできるだけ時間をかけたいのが共通の願いであろう。それに、時間をかけて登り詰めた方が射精を迎えたときの満足感も大きい。

 景太郎もまた、数週間ぶりの絶頂を目前にしながらついつい貪欲になってしまったのだ。なにより今日はマスターベーションではなく、素子にペッティングしてもらっているのである。惰弱と責められようが、貴重な経験なのだから少しでも長く堪能していたい。

「…バカモノ、こんなことで自分を焦らしてどうする。さっさと射精すれば気持ちいいんだろうに…。」

「う、うううっ…」

 景太郎の意図を察した素子は小さく溜息を吐き、右手の中からペニスを解放した。絶頂を迎える直前まで高ぶったペニスは背伸びするように強く反り返り、真っ直ぐに天井を仰いでピクンピクン打ち震える。

 意志とは裏腹に身体は絶頂を待ち侘びているようで、解放されてなお先端からは逸り水が幹を伝い落ちてきた。その様子はまるで、お預けを食らったペニスが焦れったさにむせび泣いているようだ。急速に射精欲が引いてゆくのを感じて安堵しながらも、景太郎は恥ずかしいやら申し訳ないやらで素子と顔を合わすことができない。

ぎゅっ…

「わっ…」

 やおら素子が膝立ちとなり、腰に両腕を巻き付けるようにしてすがりついてきたものだから、景太郎は思わず間の抜けた声をあげた。素子はしっかりと抱きついてきて、熱く火照った頬を、豊満で柔らかな乳房を躊躇うことなく擦り寄せてくる。

「うらしま…お主が望むのなら、わたしはいつだって応えるつもりだぞ?だから、そんなことでいちいち欲張りになるんじゃない…。」

「も、モトコちゃん…」

「惚れた男のためだもの…精一杯、尽くしたい…。」

 素子は夢見るように目を伏せたまま、ゆっくりと景太郎の腹筋に頬摺りしてそう申し出る。それが素子なりの愛情表現なのだ。

好きで好きでしょうがないから、景太郎の笑顔が見たい…。

恋しくて恋しくてならないから、景太郎を悦ばせたい…。

愛しくて愛しくてならないから、景太郎のために身を捧げたい…。

 そう願えるほど、素子にとって景太郎はかけがえのない存在になっている。

 管理人として、先輩として、そして想い人として慕っている彼のためならなんだってしたい…。それが素子の真心であった。

 その健気なまでの献身を一身に感じて、景太郎は沸々と胸の内圧を高めた。素子の言葉もたまらなく嬉しいが、なにしろ身じろぎするたびに柔肌がペニスから下腹からをむっちりと押圧してくるのだ。

わ、わざとじゃないと思うんだけど…挟まってるっ…!

 景太郎はせつなげな童顔で天を仰ぎ、興奮を落ち着かせようと努めて深呼吸を繰り返した。それでもまだスベスベとした頬摺りがくすぐったいので、下肢にもだらしなく震えが来る。

「ん…?立っているのがつらいか?」

「い、いや、そうじゃないけど…」

 両脚の微震を敏感に感じ取った素子は顔を上げてくるが、そこで二人は思わず見つめ合ってしまった。素子の気遣わしげな瞳と、景太郎の困惑した瞳が交錯するが…やはりまた景太郎の方から視線をそらしてしまう。

 そんな景太郎の困惑を見て取ったのか、素子は彼を落ち着かせようと少し自制することにした。景太郎から身体を離すと再びつま先立ちの正座に戻り、視覚的に刺激の材料となるらしい乳房も両手で覆い隠してしまう。

「古い考え方だと笑われるかもしれんが…」

「え?」

 やおら切りだした素子はそこで一旦言葉を区切り、景太郎の気を引いた。思惑通りに景太郎は見下ろしてきたので、素子は切れ長の目をわずかに細めて話を続ける。

「わたしはな…?惚れた男のために尽くすことこそが女のあるべき姿だと信じている。それと、女は男より一歩も二歩も控えているべきだとも…。」

「へえ…た、確かに最近にしては古風な感じがするなぁ…。」

「だ、だろう?最近は男女同権とも言うしな…。でもほら、亭主関白という言葉があるよな?わたしは夫婦にしても恋人どうしにしても、あれが普通だと思うんだ。惚れた男にはかしづいて、誠心誠意尽くす…。こういうの、お主は嫌いか?卑屈に感じるか?」

 素子はそこまで独白すると、一方的にしゃべりすぎたことを恥じらってうつむき…上目遣いで様子を伺うように問いかけた。自分の信念があまりに時代錯誤だと笑われるような気がして、不安で唇を噛み締める。

 ジェンダーフリーが叫ばれて久しい昨今においては、その風潮は世間的にもごく自然なものとなりつつある。徹底しているとは断言できないが、それでも職場の採用条件や待遇、趣味や嗜好などにおいても性差の壁が取り払われてきていることは確かだ。

 そんな世間で男女同権を声高に叫ぶ女性は多々見受けられる。なかにはその風潮に乗じ、重箱の隅を突き破るほどの勢いで男女差別をこじつける者も時として現れることがあるくらいだ。

 にもかかわらず、この青山素子という少女は…女という立場を自分なりに築いており、思慕の情を寄せた男に対してはその位置づけを常に後にしているのである。そして、惚れた男に尽くすことを美徳とし、いかなる場面であろうとも男の顔を立てる…かつての日本人女性が代々身に叩き込まれてきた精神を受け継いでいるのであった。確かに現代社会に於いては、素子は異端と呼ばれても不思議ではない存在であろう。

 それでも、素子が景太郎に対して抱いている不安は杞憂に過ぎなかった。

信じられないけど、今でもこんな娘がいるんだなぁ…しかもそんな娘と、両想い…

 景太郎は縮こまるようにして返事を待っている素子を見つめたまま、感激に胸を熱くしていた。無意識のうちに頬が緩む。なんだか涙腺まで危なっかしく震えてきた。

 景太郎もジェンダーフリーの風潮には賛成派の一人だ。男も女も同じ人間であるから、それぞれで差別するのはナンセンスだと思っている。必然的に、素子の信念にも違和感を覚えずにはいられない。

 とはいえ、ここまで一身に慕われて悪い気のする男は皆無であろう。お互いに惹かれ、両想いになれただけでも身に余る果報だというのに…真剣そのものの口調で申し出られては持ち前のフェミニズムもどこへやら、今にも浮き足立ちそうなくらい幸福感でいっぱいになる。

「ほ、本気…なの?俺、信じちゃうよ?」

「本気で言ってるんだっ…お主のことが好きだから…」

「俺、軟弱者だよ?ドジだし、おっちょこちょいだし…それにスケベだから他の女の子にも目がいっちゃうかもしんないよっ?」

「それでもいいっ…お主のすべてに惚れたんだから…どうか、側にいさせてっ…」

 真意を探るような景太郎の質問攻めにも、素子は怯んだりはしなかった。真っ向から彼を見つめ返し、心からそう願う。

 そして、とうとう二人の間に過剰な言葉は必要無くなった。

ちゅっ…。

 思いがけない景太郎からの抱擁を、素子は嬉し涙に濡れながらしおらしく受け止める。

 素子が差し出す無窮の愛情で、微塵の不安も消失させた景太郎は…その返礼を抱擁の形で示していた。愛しさだけに突き動かされた身体は意識することなくかがみ込み、その想いを口移ししてしまう。

 その溢れんばかりの愛情は過敏な薄膜ごしであるからこそ、より強く分かち合うことができる。正座したままじっと抱擁に浸る素子はそっと右手を伸ばし、景太郎の左手をまさぐると指を絡めて繋がった。左手は相変わらず乳房を覆い隠したままであったが、その奥が幸福感できゅんきゅん痛むのだろう、わずかに指を沈めるように胸元を押さえている。嬉しくて鼻息も止めていられない。

ちゅ、ぱっ…

 同じ感動を確かめ合うためのキスはささやかなものではあったが、それでも十分であった。見つめ合う二人は、もう吐息まで燃えそうなほどの暖かな余韻に包まれている。

「モトコちゃん…俺からもお願い、ずっと側にいて…。ずっと、大切にするから…」

「うらしま…うらしま、先輩…」

「ぶっ…な、何だよ急に…」

「だ、だって…今までは呼び捨てだったが、これからはそう言うわけにはいかんだろう…い、いや…いかない、でしょう…?」

 素子は不慣れながらも一生懸命になって丁寧語を駆使しようとする。

 もちろん素子は丁寧語どころか敬語にしても使い分けができるのだが、景太郎に対しては高圧的な口調を使い慣れているぶん思った以上に改めにくい。というより、面と向かって丁寧語を使うのが照れくさい。

 それでも景太郎は気を悪くすることもなく、むしろ親しげに微笑みかけて素子の頭をかいぐりした。右手で頭を包み込んだ瞬間、素子はきゅっと目をつむったのだが…まるでぶたれるとでも思ったのか、見上げてくる瞳は極めて恐々としたものだ。

「普段通りでいいよ、急に変わったら俺だって戸惑っちゃうし。かといって変われって言うわけじゃないよ?自然が一番!自分らしさを大切にしなきゃ!」

「…ありがとう。お主を好きになることができて、本当によかった…」

「へへへ、照れるなぁ…」

「ふふふっ…」

 そこまで言葉と笑みを交わし、幸福感を噛み締めた二人であったが…やがて互いが裸で睦み合っていたことを思い出す。見つめ合う視線、それと指を絡めて繋がっている手と手から…再び体奥に小さな愛欲の火が灯った。

「じゃあモトコちゃん、続き…お願い。」

「うん…。」

 鼓動が高鳴ってくるのを感じながら、景太郎は確かな口調で愛撫を求める。素子も彼を見つめたままでしっかとうなづいた。繋がっていた手をほどき、あらためてペニスに意識を向ける。

「わ…どうしたんだ、ぐったりとなってしまったが…?」

「うん…興奮も醒めちゃったからね、すぐ元に戻ると思うけど…。」

 素子がペニスの変貌振りに両目をぱちくりさせて驚くので、景太郎は苦笑半分でそう説明する。

 ほったらかしにされたペニスはすっかりいじけたようであり、あれだけ痛々しく勃起していたのが嘘のように脱力していた。完全に萎縮しているわけではないが、へそを目掛けて反り返っていた頃とは正反対で、垂れ下がるようにうつむいてしまっている。先端から透明な逸り水が滴り落ちそうになっているのが、まるで悔し涙の落ちる寸前のようで妙な憐憫を誘う。

にちゅ…ふにゅ、ふにゅ…

「まだぬくいが、すっかり柔らかくなって…。あれだけたくましくそそり立っていたかと思えば、こんなにまで脱力したり…男の身体は不思議なものだ。」

 右手でペニスを、左手で袋を捧げ持った素子はその見違えるほどの柔軟さに感心しつつ、おむすびをこさえるような手つきで一緒くたに揉みこねた。興奮から醒めつつあるペニスは手の中で生温かく、性毛の辺りからしっとりと汗ばんでいるようだ。

「モトコちゃんだって…おっぱいとかクリトリス、興奮すると固くなるじゃん。」

「そ、それと同じか…で、でも男のものは極端なんだっ。淫猥な気持ちでいっぱいだから、欲望の権化そのもののようにガチガチになるんだっ!」

「いててっ!ひ、ひどいなぁ…」

「ふんっ…!」

 性器丸ごと包み込まれる愛撫に嘆息しながら、景太郎が揶揄のつもり無くそう指摘すると…素子は一瞬恥じらってうつむいたが、それも束の間、視線を鋭くして睨み付けてきた。おまけに雑草を引き抜く要領でペニスを捻り上げてくるものだから、景太郎はたまらず悲鳴をあげて不平を漏らす。それでも素子はすっかりご機嫌斜めとなり、小さく鼻を鳴らしたきりだんまりを決め込んでしまう。

もみっ、もみっ、もみっ…ぷにぷに、ぷにぷに…

 素子は萎縮してゆくペニスを見つめながら、右手で幹を揉み、左手の指先で先端を突っつく。それでも幹はやんわりとしたままで強張る様子も無く、あれだけツヤツヤに膨れ上がっていた先端も小さくしわしわになってきた。

意地悪が過ぎたか…?おいどうした、元気になってくれよ…

 焦燥に駆られた素子はしきりにペニスをしごくが…どうにも景太郎の脱力を阻むことができない。右手の筒の中でみるみるうちに萎縮してゆくのを感じると、焦燥はいよいよ大きくなり、不安にも似た色合いを素子の胸の中に漂わせてくる。

「うらしま、さっき意地悪したことは謝る…だから機嫌を直してくれ…」

「べ、別に怒ってなんかないよ…」

「じゃあどうして、どうして固くならないっ?大きくならないんだっ!?」

「お、俺だってわかんないよっ…でもちょっとモトコちゃん、もう少し優しくっ…!」

 勃起する様子のないペニスに素子はすっかり狼狽えて、半ベソをかきながら景太郎を見上げた。どうしていいのかわからず、軽い情緒不安定に陥って声まで潤わせる。

 景太郎にしてみれば、こうして今にも泣き出しそうな顔で語気を荒くする素子が子供みたいにかわいく感じるが…それでも彼女からの愛撫には高ぶりを覚えることができなかった。むしろ焦りに憑かれた手つきが苦痛にすら感じ、思わず顔をしかめてしまう。

優しく…?そういえばこの状況は…あの時の…

 景太郎の苦し紛れの声に、素子はふと脳裏に閃くものを感じた。頑なに否定しようとして、記憶の奥底に封印していたある光景が懐かしさとともに蘇ってくる。不安は一転、躊躇いや戸惑いに取って代わられた。

 しかし…素子はもう躊躇っている余地など無いような気がしていた。萎縮しきったペニスの先端を見つめたまま、コクン…と微かに喉を鳴らして覚悟を決める。

「浦島…こ、これからわたしがすること…嫌だったらすぐに言ってくれ、いいか…?」

「え、な、なにをするつもりなの…?」

「い、いいから、そのまま…」

 不安が飛び火したかのような声で問い返す景太郎に有無を言わせず、素子は静かに目を伏せた。そのまま右手でペニスを摘み上げるようにし、記憶を頼りに唇を寄せ…

ちゅっ…。

「あっ、ああっ!」

 その一瞬の愛撫は、感覚的にはすこぶる儚く…しかし視覚的にはすこぶる鮮烈に景太郎の中枢を揺り動かした。快感よりも先に驚きの声が口をついて出る。

 素子はすぼめた唇で亀頭の表側、面積の広い部分に口づけたのであった。口づけとはいえ接触は一瞬だけであり、柔らかみどうしがたわんだかと思ったときにはもう唇は離れている。素子の頬が燃えるように火照っていることからも、その愛撫を維持することができなかった理由がわかるはずだ。

だめ、これじゃあ全然足りない…。姉上はもっと…もっと大胆に…

 必死に過去の光景を回想しながら勇気を振り絞ると、素子は脱力したままのペニスの切っ先を真正面に据えるよう右手で持ち上げた。小さく舌なめずりして薄膜を潤わせ、羞恥を堪えるようにきつく目を閉じる。

ちゅむっ…ちむ、ちむ…みゅっ、みゅっ…

 今度は唇を微かに開き、逸り水の染み出てくる鈴口を覆うように口づけた。そのまま頭を寄せてぷっちゅりと密着し、恐る恐る甘噛みしたりもする。

 それでもまだペニスは柔軟なままであったから、素子はそのまま左右に小首を傾げて亀頭のそこかしこに唇の柔らかみを押しつけた。次第に逸り水が薄膜に馴染んできたのか、微かな甘噛みだけでもいやらしくぬめる。卑猥な気持ちで胸が張り裂けそうだ。

「あっ!ああっ…モトコちゃんっ!!」

「んっ…んんっ!?ぷぁっ!!」

むくっ…むくっ、むくくっ…ぐんっ、ぐんっ、ぐんっ…

 性器に口づけてもらった感動は為す術もなく景太郎のあごをわななかせ、だらしない声でよがらせる。そして、次の瞬間…景太郎は素子の優しい口づけをはね除けん勢いでペニスを勃起させた。唇から直接注ぎ込まれた愛情でペニスは再び激しく漲り、太く、固く、長く…男としてのたくましさを充実させてそそり立つ。悠然と天を仰ぐ様は、恥じらう景太郎と裏腹にひどく誇らしげだ。

「…ば、バカモノッ!貴様、さてはまたわたしをからかっていたなっ!?大きくしようと思えば最初からこうやってできたんだ、そうだろう!?」

「ち、違うよっ!コントロールなんてできるわけないよっ!濡れ衣だあっ!!」

「嘘をつくなっ!あれだけ強く揉んでも反応しなかったのに、こんな些細なことで反応するなんておかしいじゃないかっ!!」

 突然の豹変に驚いた素子は涙目になりながらも景太郎を睨み付け、毅然とした態度で詰問する。これには景太郎も恥じらいで苦笑しつつ、真っ向から反論するが…素子も胸の前で両の拳を固めて譲らない。

「…俺にとってはちっとも些細じゃないよ、だって…キスされたんだよ?モトコちゃんにキスしてもらったんだよ?」

「うっ…な、何度も言うなっ…」

 景太郎が口調も、瞳の色も真剣そのものに変えたとき、素子は胸の奥に痛みを覚えて声を潜めた。きゅんっ…きゅんっ…と繰り返すうずきに耐えかねるよう、ちら、と視線まで逸らしてしまう。景太郎の眼差しがあまりにせつない。

 確かに素子自身も、ペニスに口づけた瞬間は身体中が焦れったくなるような心地を覚えた。唇どうしのキスを交わした瞬間にも似ていて、甘酸っぱいようなくすぐったさが身体中の性感帯に拡がってきたのだ。景太郎のペニスに負けないだけ、素子の唇も性感帯であるからそれも無理はない話である。

 だから、素子が感じるのと同じだけ、あるいはそれ以上に景太郎も感じてしまう。感じたら反応してしまうのは当たり前のことだ。ましてや二人の身体は若く、瑞々しさに満ちている。

「…疑ったりして、すまなかった…。まさか、そんなに気持ちいいとは思ってなかったから…」

「ううん…だってモトコちゃん、こういうことするの初めてだろ?仕方ないよ。」

 うなだれて詫びる素子に、景太郎はただ変わらぬ優しさでかいぐりするのみだ。

 キチンと相手に対する聞く耳を持ち、深く思いやることのできる素子はまだ不慣れなだけなのである。それでも少しずつスキンシップを重ねていけば、要領のいい彼女のことだから耳年増なだけの景太郎くらいすぐにリードできるようになるだろう。

 そんな素子を叱ったりすれば、自信喪失に陥ることくらい容易く想像できる。彼女も恥を忍んで一生懸命になってくれているのだから、景太郎としても怒ることになんとなく引け目を感じるくらいだ。なにより怒るどころか…これだけ淫猥な愛撫に進んで挑戦してくれる素子には一生かけて感謝しても感謝しきれない。

「だったら…このまま続けてもいいか…?」

「う、うん…」

 素子は迷子の子犬のような目で景太郎を見つめ、そう問いかけながら右手でペニスに正面を向かせる。口づけひとつで怒張を取り戻した幹は驚くほどに固い。

にぐっ、にぐっ、にぐっ、にぐっ…

 逆手持ちした右手はやがて、ゆっくりとした往復運動を開始する。とはいえ仮想の膣を味わわせるものではなく、ちくちく性毛の生えている包皮ごとしごいて直接幹に刺激を与えるペッティングだ。

 ペッティングとはいうものの、素子の右手の動きは極めてスローテンポである。これは素子が勃起しきりのペニスに少しずつ興味を抱き始めたからだ。

 普段から軟弱なイメージの景太郎とは裏腹に、ペニスは見事なほどの大業物であるからそのギャップにも妙に惹かれてしまう。外見こそ醜悪で今ひとつ馴染めないが、それでもたくましくそそり立つ姿は男らしさに満ち満ちているし…なによりキスひとつで感じてしまう意外な繊細さがなんともいえず愛おしい。男根崇拝の念を抱くわけではないが、素子は丁寧な手つきで幹全体をしごいてゆく。

 そんなのんびりとした愛撫ではあるが、亀頭に近い辺りまでしごかれると景太郎は吐息を震わせ、ペニス全体に強い情欲が募ってくるのを感じた。往復運動一回一回に力を込められるたび、ペニスは勃起を促進されて背伸びするように漲る。

 もう素子からのキスが待ち遠しくてならない。欲張りな気持ちがフェミニズムに縛られていた言語中枢を解き放つ。

「も、モトコちゃん…もう一回だけキスして…。で、でも、無理はしちゃダメだよ…?」

「わかってる、くれぐれも気をつけるが…痛くしたらいつでも言ってくれ…」

「いや、俺じゃなくって、モトコちゃんが無理しちゃダメだって…」

「あっ、当たり前だっ…無理してまで尽くすつもりはない…」

 独り善がりの紙一重で気遣いはするものの、景太郎の声はもどかしさでいっぱいだ。もう一回だけ、と控えめに願い出ただけでも彼のフェミニズムは褒め称えられるべきだろう。それだけ初々しい素子に無理をさせたくなかったのだ。

 素子はその思いを一瞬誤解したが、それに気付くと照れくささに任せて冷たい返事を寄こしてしまう。優しくされることに慣れていない自分が苛立たしい。どうせ無理してでも尽くすくせに、と心の奥から自嘲の声が聞こえてくる。

ちゅっ…

「んあっ…!」

 素直になれないまま深呼吸をひとつ、素子はもう一度景太郎のペニスに唇を押し当てた。薄膜の柔らかみを伝えてからすぐ離すと、それだけで景太郎は押し殺していた上擦り声をあっさりと漏らしてしまう。強く漲って膨張している亀頭は弾力十分であることからも、よほど過敏になってきているらしい。

 鈴口の周囲では逸り水が乾き、微かに粉を振ったようになっていたのだが…口づけられた場所だけがその形に合わせてしっとりと湿り、鮮やかな赤紫色が浮かび上がってきた。自分で付けたキスマークに興奮するよう、素子はなお一層動悸を強めてゆく。

ちゅっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ちゅむっ、ちゅむっ…

「はあっ、はあっ、はあっ…あ、ああっ…あ、ん…く…」

 素子は正座したままの両脚でわずかに這い寄る、唇での愛撫をより積極的なものにしていった。

 正面から始まって、上から下から横から…それこそ亀頭にくまなくキスの雨霰を降らせる。そっとすぼめて固くした唇がツヤツヤとした粘膜でたわむたび、景太郎は小刻みに繰り返している吐息を弾ませた。一旦キス攻めを中断し、思い出したように右手でしごくと、その吐息には上擦り声まで混じってくる。

「んっちゅ、んっちゅ、んっちゅ…気持ちいいか…?」

「ふぅん…う、ううんっ…んっ、んくっ…!んっ、んんんっ…!!」

 それに気をよくした素子は五回ほど先端にキスしてから、五往復ほど幹をしごき、また五回ほど先端にキスして…そんな交互の愛撫で彼を悦ばせようとした。

 それでもまだ男心には恥じらう余裕があり、景太郎は懸命に唇を噛み締めてよがり鳴くのを堪える。とはいえ鼻にかかったうめきまでは抑え切ることができていない。気取られるのを怖れ、警戒するようなペースで少しずつ腰を引いてゆくところからも、彼が相当高ぶってきていることがわかるだろう。絶頂までそう遠くはない。

そうか…そうだったんだな…今なら本当に、姉上を理解できる…

 素子は景太郎を愛撫しながら、遠い故郷で暮らす姉の姿を懐古していた。

 忌まわしいあの日…素子の貞操の危機を救ってくれたのは姉であった。

 確かにあの日から、姉は同志の男達に対しても接し方が違ってきた。悪鬼羅刹もかくやとばかりの形相を見せるようになったのもその頃からである。剣の腕も周りが畏怖するほどの上達を見せ、とうとう神鳴流の歴史上でも希有の達人と称されるまでに至った。

 これもすべてはあの日がきっかけだと素子は信じていた。それと相関するように、男性不信となった自分を理解し、味方してくれる姉もまた自分と同じ思いであるとも信じていた。だからこそ素子は敬愛する姉に憧れるまま、剣の修行に励み…そして一層男性を疎んじるようになっていったのだ。

 その男嫌いは成熟が進むにつれ、次第に強まってゆくこととなる。姉が信頼を置いている同志に対しても、素子は相変わらず風当たりを強くしていた。素子に憑いた男嫌いは伝説の妖刀ひなでも断てぬだろう、と笑えない冗談が流行ったのも無理はないことである。

 両親も素子を気遣いながら、懸命に日本女性の在り方を説いて男性不信を和らげようと苦心した。それでも彼女は両親に対しても、惚れるような異性が現れたときに考えます、とぶっきらぼうに答えるのみであった。そう答えておけばひとまず煩わしい一時からは逃れられたからだ。

 そんな周囲の心配を気にすることなく、やがて素子も強く、美しく成長した。極度の男嫌いさえ直れば次期神鳴流頭首は間違いないと周囲も認めるほど、彼女は剣の腕においても姉に引けを取らない天才を発揮してみせたのだ。

 そして、その日も素子は修行に精を出していた。

 同じ修行でも、体調や気分によっては充実感やノリといったものが違うものである。素子もその日はたまたま調子がよかったため、ついペースを上げすぎて早めに切り上げることにしたのであった。

 いつもの通り風呂で汗を流そうと、脱衣所の引き戸を開けたとき…その向こうの浴場で彼女は見てしまったのだ。姉と、見知らぬ青年が裸で繰り広げている痴態の現場を。

 その痴態は日頃冷静な素子を錯乱させるに十分過ぎるものであった。とはいえ洗い場にひざまづいた美女が一心不乱に男性器に口づけを捧げ、むしゃぶりついていたとあっては普通の人間でも平静ではいられないだろう。しかも二人とも引き戸の開いた音に気付かないほど夢中になっていたようで、鳥肌立つような睦言もさかんに交わしていたのだ。

…姉上も、よほど慕っていたのだろうな…なのにわたしは裏切られたとばかり…

 素子は自嘲の念を抱きつつ、甘えかかるような目で景太郎のペニスを見つめる。

 脳裏には浴場で見た姉の一途な横顔が回想されていた。郷里での進学内定を強引に取り消し、神奈川の私立高校へ転入したのと同時にかなぐり捨てた姉への憧憬が暖かく蘇ってくる。

 思えば大きな回り道ではあったが、これでようやく姉へと続く本線に復帰できたようだ。回り道をしたおかげで景太郎と出会えたのだから、この数年間は皮肉であるともいえる。

 とにかくもう迷うことはない。身を挺して尽くすに足る男は、今こうして目の前にいる。

うらしま…赤い糸を感じるのは思い込みじゃないよな…好きだぞ、うらしま…好き…

 姉へのわだかまりが解消した矢先、今までそれが占めていた心の一角はたちまち景太郎への愛情で取って代わられた。胸がはち切れそうなほどに愛しさが膨らんでくるので、愛撫の手もおのずと大胆さを備えてゆく。唇もウズウズと焦れてきたので、ペニスに口づけている時間も長くなっていった。

ちゅむっ…ちゅむっ…ちゅむっ…しこしこ、しこしこ…

「あ、あっ…?なんか今、モトコちゃんの唇…急に熱くなったような…?」

「わ、わかるか…?」

「わかるか、って…なんかあったの?」

「ん…秘密っ…」

 景太郎が興奮に火照る自らの頬を撫でながら問いかけると、素子は幸せそうに微笑み、答えを永遠にうやむやにするようぴっちりと亀頭に口づけた。そのままじっくりと薄膜の弾力を伝えつつ、右手は手早く幹をしごき立てる。こうしてペニスと密着しているだけでも、どうすれば景太郎が悦ぶかがわかるようだ。

「んっ、んんうっ…!あっ、あんまりしごいたらだめっ…!」

「ん、ちゅ…ぷぁ…また濡れてきてるな…」

「だ、だから言ってるんだよう…」

 狂おしい刺激に景太郎も問いつめることを忘れ、鼻声でうめく。素子からの惜しみない愛情を注ぎ込まれ、ペニスもつらいほどにうずいて逸り水の漏出を再開してきた。素子の唇を濡らしてしまったことで、恥じらいも一際大きくのしかかってくる。

 長い口づけを終えた素子も唇の隙間にぬめりを感じ、当惑の表情のまま舌先でそっと舐め取った。ほのかな渋味はすぐさま唾液に溶け込み、ぬめりもわからなくなってしまう。小さく喉を鳴らして飲む込むと、その途端に胸はせつなく締め付けられてきた。景太郎の体液を飲んでしまったという意識が、素子に初恋のような動悸をもたらしてくる。

はあ、はあ、はあ…せつない…焦れったい…

 熱でも出したかのように火照った呼吸を繰り返しながら、素子はペニスを一旦右手から解放した。ぺちんっ…と主のへそを打ち据えておきながらペニスは悪びれる風でもなく、ふんぞり返るようにして堂々と天を仰ぐ。

 そんなペニスも素子に襟首をつかみ上げられるように包み込まれると、怯えるようにしてピクンと震えた。このときばかりは主も腰にピクンと震えを走らせ、あまつさえ小声でよがったほどだ。

しこ、しこ、しこ…すり、すり、すり…ぬるっ、ぬるっ…

 素子は幹をしごきながら、ツヤツヤの亀頭を景太郎のへそに押し当てて左右に擦り、勃起したペニス全体に刺激が行き渡るようにした。過敏となったペニスはすぐさま刺激を快感の結晶と化し、鈴口からねっとりと溢れさせてへそとの摩擦を潤滑させる。

 幹の中央で太々と隆起しているパイプを人差し指の根本で押し上げると、新鮮な逸り水はさらにたっぷりと漏出し、亀頭の表側だけでなく裏側にも伝い落ちてくる。もはや景太郎のペニスは自らの逸り水でトロトロのヌルヌルだ。

 その粘液を手の平いっぱいに馴染ませると、素子は撫で込むようにして亀頭を包み込んだ。そのまま潤滑を活かし、握り込む右手が真上にずれるようにして亀頭をしごく。

 にねゅっ…にねゅっ…と粘つく音は否応なく二人の耳に付き、それぞれの愛欲を燃え盛らせていった。それでなくとも凄絶な快感を覚えているわけであり、景太郎はもうよがり声を押し殺すことができない。悔しそうにわななく口許からは熱く湿った吐息と、女の子のような上擦り声が延々繰り返される。

「ああっ!あんっ!んあ、あああっ…!!も、モトコちゃんっ!モトコちゃんっ…!!」

「気持ちよさそうだな…先っぽ、熱々で、ぬるぬるだし…このまましていたら、手の中で熔けてしまうんじゃないか…?」

「そっ、そんな感じっ…!これでイッたら俺…泣いちゃうかもっ…」

 景太郎はむずがるようによがりながら、落ち着かない両手で身体中あちこち押さえて快感に悶えた。頬なり、肩なり、胸なり、腰なり手当たり次第に撫で回すのだが、こうでもしていないとすぐさま素子の手の中に灼熱した精を放ってしまいそうだ。

 もうそれくらい素子のペッティングが心地良い。快感に比例する勃起の度合いも景太郎自身驚くほどであり、固さといい太さといい、痛いほどである。それに今全長を測ったとしら、二十センチまであと少しというところまで来ているのではなかろうか。もちろんわずかに過剰ぎみで悩んでいる包皮も、あっさりと幹の途中に紛れてしまっている。

 性的に過敏となっている亀頭も興奮しきって上機嫌だ。メリハリの効いたくびれごと愛撫されていることもあって、粘膜はアドレナリンに満ちた興奮の血潮を身体中に巡らせ、中枢を喜悦に染め抜いてゆく。深く息を吐けば、動悸がすぐ耳元で聞こえてきた。

 一方、素子は素子で景太郎の高ぶりに引きずられるように胸を焦がし、吐息を熱くしている。実際勃起しきりのペニスをしごくたび、元々淡白な素子の性欲も手の平からの感触に触発され、女の悦びを覚えた身体に作用していった。

ズキン、ズキン、ズキン、ズキン…

 あの狂おしいクライマックスの瞬間を待ち侘びるよう、素子の真央にある粘膜質の裂け目や紅梅色のクリトリスはひどくうずいて慰めたい衝動を駆り立ててくる。なまじっか素子はちょっとやそっとの欲望に屈しない頑なな意志を持ち合わせているため、その焦燥はなおのこと重圧となって理性を苛んできた。

 つらそうに震える左手は景太郎の臀部をつかんでいるのだが、時折ぎゅっと指を立ててしまうのはどうしようもないほどの情欲の波が襲いかかってくるからだ。それでもなお素子の理性はマスターベーションしたい気持ちを強く押さえ込む。

 今は自分が景太郎を悦ばせる番だというのに、同時に自らも慰めていては色情狂に思われるようで怖い。景太郎に軽蔑されることだけは絶対に避けたい。

「あっ…あっ、あっ…!気持ちいいっ…!腰、勝手に動いちゃうっ…!」

「い、いちいち腑抜けたことを言うなっ!それにそのだらしない声も我慢できんのかっ?男ならもっとシャンとしてろっ!」

「そ、そんなこと言ったって気持ちいいんだもん…気持ち、いいんだもんっ…!」

 景太郎の高ぶりはピークに差し掛かろうとしているらしく、怯えるようにしていた引け腰も、ぐんっ、ぐんっ、と突き出して素子の右手を追うようになってきた。本能が素子の手の中を膣内と錯覚してきたのだ。

 そんな景太郎を素子は恨みがましい目で睨み付け、厳しく叱咤する。とはいえその本心は気持ちよさそうにしている景太郎への妬みであった。これ以上気持ちよさそうな声やしぐさを目の当たりにしては、悔恨の思いの中でマスターベーションしかねない。

 なにしろ強く欲情したため、裂け目の奥からは愛液の漏出が再開していた。粘りけが少ない愛液はすでに会陰を通り、尻の谷間まで伝っているくらいである。

 それにもう敏感な粘膜質の部分だけでなく、むっちりとした外側の柔肉までズキズキ欲張りになってきている。焦れったくてまた太ももをモジモジ擦り寄せてしまうが、正座しているために脚を交差することができず、肝心なところは少しも慰められない。

 そのうち焦れったさは唇にも凝縮されてきた。唇も立派な性感帯のひとつであるから当然ではあるが、それでも素子の貞節は景太郎にキスをせがむこともできない。

…うらしま、すまんっ…少しだけ、わがままさせて…我慢できないっ…

ちゅっ…。

 とにかく焦れる唇をなだめたくて、素子はひとまず愛撫を中断し…亀頭に口づけた。想いを込めて愛撫したおかげで、亀頭はホカホカと湯気が出そうなくらい逸り水でヌルンヌルンだ。身を乗り出すようにして唇を押しつけると、勢い余って口内にぬめり込もうとしてくる。

「んっ!んんんっ!」

ぷ、ちゅ、ちゅっ…ぬとんっ…

 慌てて阻止しようと素子は唇をすぼめたのだが、時すでに遅く…ぬめる鈴口は白く整然としている前歯に触れてしまった。結果として素子は景太郎の亀頭をぷっちゅりと唇に含み、まるで姫りんご飴を甘噛みしているような格好になってしまう。

「も…モトコ、ちゃん…」

「ん…ちゅ、んむぅ…」

 先端がほんわりとぬくもりにくるまれたのを感じて、景太郎は感動に声を潤ませながら素子を呼びかけた。右手の指先で前髪を退けると、素子は亀頭に濃厚なキスを捧げたまま甘ったるい鼻声でよがる。はにかみいっぱいといった様子で目を伏せると、深い鼻息が性毛にまで降りかかってきた。すふぅ…すふぅ…と繰り返してそよぐと鳥肌立ちそうなほどにこそばゆい。

ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ…ちゅみ、ちゅみ、ちゅっ…ちゅちゅっ、ちゅちゅっ…

 やがて素子はペニスの根本を握り締め、薄い唇をいっぱいに使って亀頭への愛撫を開始した。夢見るような穏やかな表情で先端を甘噛みすると、ペニスは躍起になって反り返ろうと力む。それでも素子に根本付近をしっかりと握り締めているため、ペニスはその温かで柔らかな淫蕩攻めから逃れることはできない。絶体絶命の亀頭は為す術もなく、素子の唇の隙間に逸り水を流し込んでしまう。

はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…

 性感帯同志で織りなす愛撫は若い二人を魅惑してやまない。景太郎は素子の唇でペニスに…素子は景太郎のペニスで唇に性感を募らせてもらい、それぞれ吐息を荒くする。

「ちゅ、ちゅっ…ちゅぱっ…ふぅ、ふぅ…本当に大きいな…。長いし、太いし…先っぽも丸まるとしてて…」

「あっ…うあぁ…ゾクゾクするぅ…!」

 素子はそそり立つペニスを上向かせると、根本から先端に至るまでくまなく眺め回して嘆息した。惚れ惚れとした表情で幹に頬擦りし、手早くしごくと景太郎は両手で顔面を包み込んでわななく。

 激しく刺激されると射精の衝動は急激に募ってくるのだが、それにあわせた快感も相当なものであり、逸り水の漏出も異常なほどに多くなってくる。こまめなマスターベーションを怠っていたこともその理由のひとつだろう。頬摺りを繰り返す素子の頬にもべっとりとまとわりつかせてしまう。

 そのぬめりを活かすべく、素子は再びペニスの切っ先を正面に据え、薄く開いた唇で鈴口を塞いだ。そのまま一度だけ左右に頭を振り、桜色の唇全体に逸り水を馴染ませる。ちょうど首を振って口紅を引くような要領だ。

 猥褻な化粧を施した素子はあらためて亀頭に口づけると、しきりに小首を傾げたりして逸り水を塗りたくった。面積の広い表側から先端、そして真上を向かせてから裏側へと、まるでスケートのような滑らかさで亀頭全体を愛撫し尽くす。

んん…ちゅっ、ぢゅっ…。

「あっ、あああっ…!ふぁ、はあっ、はあっ、はあっ…ふう、ふう、ふう…」

 最後に素子はペニスから手を離し、真上に伸び上がって赤裸々となっている裏筋に二回だけ強めに口づけて、キスのフルコースを終えた。唇を引き離すと薄膜と裏筋の間でねっとりと粘液が糸を引き、布団に滴る。

 ペニスに最大限の敬意を払ってもらった景太郎は、もはや感激で言葉も出ないらしい。ぽおっ…と童顔の頬を染めたまま、余韻に浸るよう忙しない呼吸を繰り返す。それでも射精を遂げられない焦れったさは着実に蓄積されていたようで、肺腑の空気を入れ換えるごとに胸はズキズキうずいた。

「うらしま…そろそろ、楽になるか…?」

「え…えっ!?モトコちゃん、どうして…?」

「わたしは剣士だぞ?それなりに気を読むことには長けているつもりだ…。」

 やおら申し出てきた素子に、景太郎は心の中に渦巻く情欲を覗き見られたような思いで一瞬狼狽える。素子は不思議そうに問いかけてくる景太郎の真顔と、相変わらず勃起しきりのペニスを交互に見遣って答えた。微かにほころんだ口許には彼女の誇りというべきものまで垣間見える。

「…もっとも、お主のような煩悩のカタマリであれば、たとえふすまごしにでも高ぶりを気取ることができるだろうな。ふふふっ…」

「ひ、ひどいなぁ…いくらなんでもそこまで…あっ、あっあっ、あああっ…!!」

ぷちゅ、ぷちゅっ…

 あまりと言えばあまりの戯言にさすがの景太郎も言い返そうとしたが、素子はそのいとまを与えることなく両手でペニスを握り締め、ヌルンヌルンの亀頭にむしゃぶりついた。様子を窺うような上目遣いは景太郎の反応を逐一観察するためのものだ。本当は恥ずかしくてならないのだが、彼を退屈させはしないか、ましてや苦痛を与えはしないかと色々気になってしまうのである。

ちゅぷ、ちゅっ、ぷちゅっ…

 初めは唇で亀頭を含み、舌で鈴口を塞いでいるだけであったのだが…素子はやがて前歯を覆い隠すよう、おずおずと舌を差し出してきた。そして、景太郎を見上げたままゆっくりと頭を進めて…

ぬみっ、ぬっ…かぷっ…もご、もぐ…

「あっ!はああっ…!!」

パンパンに膨れ上がっている亀頭をすっぽりと口内に引き入れる。その途端、景太郎はひなた荘全体に響きわたるような声で狂おしく鳴いた。

す、すごい…俺、フェラチオしてもらってるんだ…モトコちゃんに、フェラチオ…

 感動を増幅させるよう、景太郎は淫猥な単語を心中で反芻する。感涙に潤む瞳で見下ろした光景も淫猥そのものであり、景太郎の性的興奮はいよいよもってクライマックスに差し掛かってきた。

 なにしろ、あの素子が…剣道一筋で十七年間生きてきたというストイックな美少女がペニスを頬張っているのだ。可憐な唇を精一杯開き、歯を立てたりしないよう健気に意識して口での愛撫を捧げようとしているのだ。

 熱っぽい上目遣いを送ってくる火照り顔だけでも、景太郎は彼女の舌の上にジクジク逸り水を漏出してしまう。このまま躊躇うことなく射精できたらどれだけ欲望が満たされることだろう。汚れを知らない口内を陵辱する誘惑に嗜虐心が奮えてくるが、もちろん鋼の理性は大切な素子を粗雑に扱うような真似を許さない。

 景太郎は素子の上目遣いから視線を逸らすと、過剰な高ぶりをなだめるように意識的に深呼吸した。肺腑の中の澱んだ空気を入れ替えるごとに、胸を締め付ける内圧は少しずつ下降してゆく。安堵感が蘇ってくると精神的な余裕も生まれてきて、素子に微笑みかけることもできた。

「…くれぐれも言っとくけど、無理しちゃダメだよ?」

「んう…。」

 景太郎の念押しに、素子は喉の奥で返事しながらコクンとうなづく。それだけでも亀頭は柔らかな舌の上に押しつけられ、ペニス全体がビククッ…と打ち震えた。危なっかしい予感に景太郎も小さく嘆息する。

きゅっ、みゅっみゅっ…ちろちろちろ、ちろちろちろ…

「ああっ…!はっ!ふぁあっ…!!あ、いっ…いいっ…!!」

 素子は決して歯を立てないよう大きく口を開けながらも、精一杯唇をすぼめてくびれの辺りを締め付けた。舌先も鈴口にあてがい、研磨するよう小刻みに左右させてあやすと逸り水の漏出もいや増す。泣きじゃくるような景太郎のよがりに合わせ、とぷん…とぷん…と噴き出るように溢れてきた。

 そのほのかにしょっぱい粘液が唾液に溶け込んできたので、素子は舌下のプールにそれを溜め込み、攪拌を兼ねて存分に舌を浸した。重湯のように柔らかくなった体液を舌の腹にたっぷり馴染ませてから、そのぬめりに任せてペニスの裏筋を舐める。

ぬみゅっ、ぬめゅっ…れる、れる、れるっ…

「わっ!わっわっ!わああっ…!!」

 景太郎が悲鳴をあげるのも無理はなく、鈴口から左右にくびれてゆく辺りまでのクッキリとした筋は男性の身体でも特に敏感な部分だ。

 観察力鋭い素子は一連の睦み合いでそれに気付いており、筋やくびれを舐めるだけでなくゴシゴシと擦り立ててくる。まさしく男のウィークポイントたる場所に念入りな愛撫を施され、景太郎は下肢をガクガク震わせて身悶えした。

 性毛の生い茂っている辺りからも独特の汗臭さが立ちこめてくる。ペニスの根本もひきつけを起こしたような荒々しさでビクンビクン脈動し、射精の瞬間を待ち侘びた。

ちゅ、ばっ…ちゅっ、ちゅっ…ぺちょっ、ぺろっぺろっ…

「はふ、はふ、はふ…うらしま、気持ちいいか…?こんなに濡れてぬるぬるなのに、まだ射精できないか…?」

 肩で息をする素子は達する寸前にまで導いたペニスを口内から吐き出し、自信なさそうな上目遣いでそう問いかける。すでに景太郎の亀頭は逸り水と唾液にまみれてべちょべちょだ。見る者によっては膣内から引き抜いたばかりにも見えるだろう。

 それくらいペニスは…否、景太郎は快感に酔いしれていた。

女の子の唇とか、舌とかって…こんなに柔らかくって、あったかいものなんだぁ…

 フェラチオを中断され、余韻に浸る余裕のできた景太郎は新鮮な快感に感心しきりである。素子の問いかけにも上の空であり、火照った童顔で虚空を見つめながら惚けた嘆息を繰り返すのみだ。

 景太郎はオーラルセックスについても知識だけは有しており、憧れてマスターベーションしたことも何度かあったが…それでもここまで慈しみに満ちた優しい愛撫だとは思ってもみなかった。もちろん右手の筒でしごき立てるのと、素子の不慣れで不器用な舌使いとは快感の度合いは断然違う。

 しかし物足りないということは一瞬もなかった。なぜなら気持ちいいという感覚が肉体的なものにとどまらず、精神的な領域にまで浸透してきているからだ。過敏な粘膜は素子の舌や唇からの刺激のみならず、彼女の一生懸命さをも感じ取るのである。

浦島を気持ちよくしたい…。

浦島を悦ばせたい…。

浦島を満たしたい…。

 それら、素子が無償で捧げ続ける想いでペニスは熱く奮え…景太郎は心の奥から高ぶってくる。雄性として生まれたことが最高に嬉しく思える瞬間までは、もはやさほどの時間も必要ないだろう。もう絶対に後戻りできないし、後戻りしたくない。

「…うらしま、なあうらしまぁ…気持ちいいのか?気持ちよくないのかっ?」

「あ、ご、ごめんっ…あんまり気持ちいいから浸っちゃってた…。まさかモトコちゃんにこんなことしてもらえるなんて、思ってもみなかったから…嬉しくって…」

「こんなことでよければいつだってしてやる…だから、気持ちいいのか?」

「うん…最高に気持ちいいよ…あ、あんまり激しくしちゃダメ、もう出ちゃうっ…!」

 上の空で一向に返事を寄こさない景太郎に焦れると、素子は右手でペニスの幹を握り締めて声を潤ませた。そのまま手早くしごきつつ、なおも亀頭に甘噛みのキスを撃ち、裏筋を大きく舐め上げて合図を送る。

 矢庭に再開された激しい愛撫でようやく我に返ると、景太郎は彼女をかいぐりしながら小声で弁解した。その頼りない声は感慨でいっぱいであり、にわかに取り繕ったものでないことは瞭然だ。愛しげに微笑んで賛辞を贈ったまではよかったが、愛撫のピッチを速められるとすぐまた引け腰になってあえいでしまう。

「だったら、いいぞ…出してしまえ…」

「えっ…!?ちょ、ちょっと、モトコちゃんっ!?」

かぽ、かぷ…もぐ、おぐ…

 景太郎が目を丸くして驚いたのも無理はなく、素子は射精を勧めておきながら再びペニスを頬張ってしまった。大きく広げた舌の上に亀頭を受け止めると、先程よりも深い位置まで飲み込んで唇をすぼめる。

 それだけでも理性は射精欲にねじ伏せられそうなのに、素子はさらに右手の親指と人差し指、中指で摘むようにしながら幹をしごいてきた。困惑に潤む瞳でそれを見つめながらも、ウトウトまどろむようなペースで頭を前後してもくる。

 さすがに無意識ではあろうが、逸り水と唾液を飲み込んで舌までくねらせると…ペニスは絶体絶命の快感に包まれ、ぐぐうっ…と最後の膨張を示してきた。可憐な唇と無垢な口内をドロドロに汚してしまう予感に、景太郎は風前の灯火たる理性を振り絞って叫ぶ。

「だっ、だめっ!!やめてっ!!出ちゃう、出ちゃうよっ!?」

「あいおーぶ…おむかぁ…おむかぁ、こぉままらえ…あぁひぁあいおーぶあかぁ…」

「ちょ、ちょっとちょっとちょっとおっ…!?」

 素子は景太郎の悲鳴を聞き流し、頑なにペニスを解放しない。それどころか大胆にも頭の振りを大きくし、口内射精すら促してくる。さすがにその姿は一途というよりも意固地と呼んだ方が相応しいだろう。

 素子は自分自身を犠牲にしすぎていた。素子の性格を知っておきながら、その献身さの上にあぐらをかいてしまってはあまりに彼女が不遇であるように思える。いくら彼女が自身の立場を低く位置づけていようとも、これではあまりに可哀想だ。

 コクン、と自らのフェミニズムに同意すると、景太郎は無理にでも彼女を諦めさせるためにある奇妙な手段を執った。

「…こらモトコッ!口にものを詰めたままでしゃべるなといつも言っているだろう!?まったく行儀の悪いっ!!」

「…っ!!」

 突然の景太郎の叱咤に、素子は驚くどころかみるみる顔面を紅潮させていった。そして次の瞬間には、

ぬぶっ、ぬっ…ぷあっ…はあっ、はあっ、はあっ…

喉の入り口近くまで飲み込んでいたペニスをいっぺんに解放してしまう。

 軽くむせ返りながら深呼吸を繰り返し、幾分落ち着いたところで、素子はキッと景太郎を睨み付けた。愛欲で潤みきった睥睨ではあったが、そこに秘められた圧倒的な迫力は、状況が状況であれば景太郎も泣いて詫びを入れるほどのものである。

「きっ、貴様っ!!こんなときに私の口真似など、いったい何を考えているっ!!」

 胸元で固めた両の拳を激昂に震わせながら、素子は吼えた。

 景太郎の叱咤は、普段素子が同じひなた荘の住人であるカオラ・スゥに対して毎日のように繰り返しているものだった。しかも芸の細かいことに、声音から抑揚までそっくりそのままに真似られたのである。

 なまじっか男性器を口いっぱいに頬張っていた矢先であっただけに、素子にしてみれば羞恥は倍以上であった。からかわれた屈辱感はいつになく大きく、おのずと口調は厳しいものとなってしまう。

「でも、こうでもしなきゃ…モトコちゃん、止めなかっただろ?」

「わ、私はよかれと思って…途中で止めたらお主もつらいだろうし、その、中断して手でしたとしてもマスターベーションと変わりがなかろうっ?私はお主に気持ちよくなってもらいたくて…やっぱり不慣れだから、下手だから気持ちよくなかったか?」

「そんなことない、気持ちいいよ…ホントは止めさせたくないくらい気持ちいい…。でも…でも精子って飲むものなんかじゃないだろ?俺、これ以上モトコちゃんにつらい思いはさせたくないんだっ…。たとえ、モトコちゃんの望みでも認めないっ…。」

 素子が怒りの拳を下ろし、諭すような口調になっても…景太郎はもはや彼女の申し出を受け入れようとはしなかった。これ以上の論議は無用とばかり、ふてくされるように唇を噛み締めてそっぽを向く。

 惚れた男に誠心誠意尽くそうとする気持ちはわからないでもないし、そこまで慕われている身としてはやはり嬉しい。それでも景太郎としては、想いを通わせ合った恋人どうしに自己犠牲の精神は相応しくないと思うのだ。つらいことがあれば分かち合えばいいだけのことだし、なにより二人でならどんな艱難辛苦も乗り越えることができるはずだからだ。景太郎は片方だけが甘んじて負担を受け続けるような関係を望むことはない。

「だったら…これならいいよな…」

「え…?」

 しばしだんまりを決め込んでいた素子であったが、おもむろに口を開くと…何を思ったか正座していた両脚を崩し、黒髪を左手で一方に集めてから布団の上に横たわった。枕に頭を預け、長い脚も真っ直ぐに伸ばしてくつろぐと、両手で乳房を覆い隠しながら景太郎を見上げる。

 視線が合った途端に太ももをモジモジ擦り寄せたのは、過敏な真央に繰り返すうずきのせいだ。焦燥を慰めるつもりのフェラチオは、結果として逆効果に終わっている。そのぶん景太郎を見上げる瞳には熱がこもった。

「うらしま、私をまたいでくれるか…?そうしたら…む、胸で挟むから、それで…」

 

 

 

つづく。

 

 


(update 00/12/28)