ラブひな

■浦島、抜け!■

-Mouth with Mouth(9)-

作・大場愁一郎さま


 

「ちょ、ちょっと待ったあっ!!」

 素子の申し出をうわごとであるかのように聞いていた景太郎は、彼女の瞳が正気の光を宿していることに気付いてそう叫んだ。フェラチオですら想像もできなかったというのに、素子は乳房の谷間でペニスを挟み込んで刺激する…いわゆるパイズリを申し出てきているのであった。

 確かに素子の乳房は発育良好で丸まるとしており、それでいて手触りも滑らかで最高の柔らかみを内包していたから…その狭間に包み込まれ、思うがままにピストン運動できたとしたら紛れもない夢心地を体験することができるだろう。あまりに誘惑的な申し出に、景太郎の理性もたがが外れてしまいそうだ。せつなげな顔で見つめられているだけでも情欲が募り、ペニスからは熱く逸り水が漏出されてくる。

「どっ…どうした?こういうのは嫌いか?」

「好きとか嫌いとかじゃなくって…モトコちゃん、なんでそんなこと知ってんの…?」

「こ、この間夕食で湯豆腐を囲んだことがあったろう?その時にキツネさん、お酒が弾んでいたらしくて…ロビーでみんなを捕まえて、聞きもしないことを色々と、その…。確かお主はあの夜、勉強するからと食事を済ませたらすぐ部屋に戻ったよな。」

「そ、ソースはキツネさんかぁ…ったく、あの人はもう…」

「わ、私は興味がないから聞き流していたんだが…キツネさんが言うには、胸で挟んでやったら大抵の男は泣いて悦ぶと…キツネさんの恋人もこれが大好きだと…」

 聞き流していたというわりに、素子はやけに詳しく情報の入手先を告白した。

 キツネというのは、やはり同じひなた荘の住人である紺野みつねのことであるが…何事に関しても行動的な彼女らしくて、景太郎としてはもう苦笑するほかにない。

 確かに当夜、みつねは食と同時に熱燗も弾み、アルコールが回るに連れて舌もよく回っていたように覚えている。酔った心地良さもあり、食後のお楽しみとばかりに住人達をからかいの的にしていたのだろう。ロビーのソファーであぐらをかき、食後の缶ビールを片手に嬉々としている彼女の姿は容易に想像することができる。もちろん、性に関しては奥手な他の住人達の困惑した顔についても同様だ。

「…これなら私も横になっているから楽だし、息苦しくもない。それに、飲んでしまうようなこともないだろう?き、キツネさんほど立派な胸ではないが…」

「でっ、でも…それだってモトコちゃんを性欲処理に使うみたいで…」

「うらしまっ…!」

 しきりに促すものの、それでも景太郎は理性と情欲のせめぎ合いに苛まれるので…素子は恨みがましい涙目で彼を睨み付けた。しかも豊満な乳房を左右それぞれ両手でつかみ、見せつけるようにゆっくりとこね回して彼を挑発する。みゅっ…と沈み込むようになっている指の隙間からは、大きく寄せ上げられている柔肌が今にもこぼれ出てきそうだ。

「…確かに私はデカ女だが…そこまで魅力、無いか?」

「そっ、そんなことないよっ!モトコちゃんはかわいいし、スタイルいいし…肌もスベスベだし、髪だってきれいだし…」

「…その言葉が出任せや気休めではないと言うのなら、私に求めてくれ…。私はもうどうなってもいい、粗野に扱われてもかまわない…私はお主に満足してもらいたいんだ…」

 泣きじゃくるようにして、素子はそう切望する。あくまで景太郎を尽くし抜こうとする頑な意志は、優しくされることに慣れていないがための反動でもあった。

 素子が生まれて初めて恋した相手は、今までずっと格下に位置づけてきた景太郎なのだ。彼に気遣ってもらったり、慈しんでもらったりすることは至上の悦びであるのだが、同時に今まで保持してきたプライドがそれを許さない。恋心に素直になることが照れくさく、どうしても戸惑いを覚えてしまうのであった。

 だからこそ意固地なまでに景太郎に尽くそうとするのだし、どんなふしだらな戯れでも勇気を振り絞ることができるのである。実際、景太郎が悦んでくれるのであればどんなことだってするつもりだ。操を捧げる覚悟もとうにできているし、気の早い話ではあるが、一生添い遂げたいと願う気持ちも膨らみつつある。

「モトコちゃん…」

「あっ…ん、んんっ…」

 景太郎は素子の側でよつんばいになると、右手で彼女の頬を撫でながら小さく口づけた。微かな鳴き声を濡れる音でかき消してから、膝立ちで少女の裸身をまたぐ。覆い被さる印象をできるだけ少なくするため、平伏して寄り添うように身をかがめると、素子も乳房から両手を離して無防備な仰向けとなった。久しぶりに目線を近づけたため、素子は照れくさそうにまばたきを繰り返す。

「ごめんね…俺、モトコちゃんに甘えちゃう。こんなわがままさせてもらうの、一回だけだから…」

「くどいぞ…お主なら、何回だって…」

「それも悪いってば…じゃあエッチ一回につき、わがままは一回。」

「そ、それでもいいが…でも…さすがに毎日、その…エッチは…控えてほしい…」

「い、いくらなんでも毎日させてなんて言わないよっ!」

 自然な体勢で寝そべる素子と、彼女に寄り添うようなよつんばいで見下ろす景太郎。二人は二言三言おしゃべりを交わし、ささやかな笑顔を見せ合って気分を高めてゆく。ふいに訪れた穏やかな幸福なひとときが嬉しい。

「でも…ね、モトコちゃん…」

「だ、だめ…今はキス、しないでくれ…」

 じゃれ合う楽しさに胸を踊らせた景太郎が欲張るように唇を寄せると、なぜか素子は顔を背けて拒んだ。視線を泳がせて気まずそうにしているその表情は、相反する感情のせめぎ合いに苛まれる困惑そのものが現れている。先程予告無く奪ったときも、すぐさま彼女の方から引き離そうとしたために景太郎も気が気でならない。

「どうしたの?さっきのもすぐ嫌がったし…」

「い、嫌がったわけじゃないんだ…でも、さっきまでわたしは…その、お主のものを口にしていたんだぞ…?」

「なんだ、そんなこと…俺は気にしないよ?」

「わっ、私が気にするんだっ!」

 無頓着なままで笑いかける景太郎に、素子は瞳の中の潤みを揺らめかせてそう叫ぶ。

 唇にも舌にも、まだ太々としたペニスの感触が残っているのだ。逸り水独特のしょっぱさだって口内から払拭しきれていない。

 そんな唇を重ねてしまうのはどうにも気恥ずかしいのである。見つめられる視線でさえも、どこか口許がムズムズして落ち着かないくらいであった。

 そんな素子であっても景太郎は容赦しない。両手を彼女の肩の後ろから伸ばして頭を押さえ、逃れられないようにしてから…

ぷちゅっ…

「んんっ…!」

角度を付けて口づける。深く密着された途端に、素子は端正な長身を打ち振るわせて鳴いた。一瞬きつく閉ざされたまぶたはやがて、キスの心地に酔いしれてかうっとりとした様子で開いてくるが…陶然とした瞳の潤みはすっかり増している。

ちゅむっ、ちゅむっ、ちゅむっ…にゅみ、ねゅっ、ねゅっ…

「すぅ、すぅ、すぅ…」

「んっ!んんっ!んんーっ…!!ん…んぅ…ふぅ、ふぅ、ふぅ…」

 景太郎がリードするままに、二人は優しく薄膜どうしを噛み合わせ、舌を触れ合わせてゆく。落ち着いてディープキスを堪能している景太郎に比べ、恥じらいで動揺しきりの素子は鼻声で鳴きじゃくり、クネクネと身悶えも激しい。

 そんな戸惑いも束の間、舌がもつれ合ってきたところでようやく観念したのか、素子は突然おとなしくなった。荒ぶった鼻息を繰り返してディープキスに浸るうち、当初の目的も忘れ…すがりつくようにして景太郎の背中に両手をまわしてゆく。

ちゅ、ぱっ…

「あんっ…あ…」

「あれ?どうしたの?物足りなさそうな顔して…胸でさせてくれるんじゃなかったの?」

「…いじわるっ。」

「へへへ、ゴメンゴメン!」

「ば、バカモノッ…!き、気安く触るなっ…!」

 景太郎がその手から逃れるようにして身を起こしたので、ついつい素子は不満の声を漏らしてしまった。端から予想していたように問いかけてくる景太郎が恨めしく、すねて口許をとがらせる。

 それでも景太郎は悪びれる風もなく右手で頬を包み込んできたので、素子はふてくされた強がりにまかせ、ペシンとその手を払いのけた。からかわれてはやはりおもしろくなく、心にもないことまで口走ってしまう。

「ホントにごめん、機嫌なおしてよ…」

「う、うるさいっ…!」

 さすがに景太郎は反省の色を示すが、素子はなおも聞く耳を持とうとせず、かわいげのある膨れっ面でそっぽを向いたままだ。それでも両手は少しずつ乳房を寄せ上げて、景太郎のために用意を調えてくる。ただでさえも形が良くて豊満な乳房は、こうして横から寄せ上げることで一層ボリュームを増した。本当にサラシの中できつく固定しておくのが惜しいほどの美乳である。

「モトコちゃん…」

「ほ、ほらっ…ぐずぐずしていると、もう帰るからなっ…」

「わ、わかったわかった…!」

 素子に帰るつもりがないことはわかっているが、これ以上機嫌を損ねては本気でポロポロ泣き出しかねない。そう危惧した景太郎は態度の豹変を指摘することもなく、慎重に体勢を整えていった。左手一本で上体を支え、素子をまたいでいる膝立ちの両脚を開き…微妙に腰の位置を調整する。

む、にゅっ…

わっ…柔らかっ…

 右手でペニスの幹を摘み、逸り水でぬめる切っ先を寄せ上げられた乳房の谷間にあてがったところで景太郎は一呼吸置いた。揉みしだくのがくせになりそうなほどの絶妙な弾力はペニスであっても同じである。

「じゃ、じゃあ…差し込んでいい?」

「わ、私の方から挟まなくてもいいのか?」

「ど、どうすればいいんだろう…とりあえずこのまま押し込んでみるね?」

「わかった、やってみてくれ…」

 景太郎も素子も自分達の接点をマジマジと見つめ、必要以上にパイズリの作法を気にかける。とはいえ、失敗を怖れていては何も生まれることはない。お互い経験がないのだから、不言実行あるのみだ。

 景太郎は仰向けの素子とできるだけ身体を平行に保つように平伏すと、もう少しだけ亀頭を柔肌に埋めた。身体を支えていた左手がつらそうに震えてきたので、素子の頭の向こう、目覚まし時計の側に頭頂を突く。窮屈な体勢ではあるが、ペニスが乳房の谷間に納まってしまうまでの我慢だろう。

ぬっ…ぬ、すっ、すっ…ぬんっ…

 景太郎は右手にしたペニスを下向かせ、胸の谷底をなぞるようにしながら腰を突き出していった。ヌルンヌルンの亀頭が柔肌の隙間に突破口を作ると、そのまま幹も押し込まれてゆき…ついにはトンネルを抜け出て素子の眼前に突出する。

「…ど、どう?モトコちゃん?」

「あ、ああ…すっぽり納まってるぞ…先っぽ、出てきてる…。お主こそどんな感じだ?気持ちいいか?」

「うん…柔らかくって、温かくって…いい気持ち…」

 寄せ上げられている乳房の柔らかみを下腹に感じたところで、景太郎は左手同様に右手も上体の支持にまわし、自信なさそうに問いかけた。素子もわしづかんでいる乳房でしっかりとペニスを挟み込みつつ、やはり遠慮がちな声で問い返す。

 お互いパイズリという異様な愛撫が上手くいっているのかわからず、戸惑いも大きかったが…それでも景太郎は乳房に包み込まれている心地よさを信じることにした。初めての試みで高望みは禁物である。若い二人にはたっぷりと時間があるのだから、これからじっくりと模索していけばいいのだ。

むにゅんっ、むにゅんっ、むにゅんっ…ふにふにふに、ふにふにふに…

 景太郎が乳房の柔らかみに浸っていると、素子の方から積極的に愛撫を捧げてきた。真っ直ぐ根本まで受け入れた幹を歓迎するよう、左右の乳房を同一周期でこね回して幹をしごき…あるいは左右互い違いに前後へ揺さぶって刺激する。まさにめくるめくほどの柔らかみ漬けだ。

うわ、わっ、わあっ…!柔らかぁい…!し、しかも丁度いいところにっ…!

 景太郎はあえぐように吐息を震わせ、素子からの愛撫に打ち震える。

 実際、乳房が有する儚いほどの柔らかみではマスターベーションほどの快感を得ることは不可能だ。単に乳房で愛でてもらうだけでは、ぬるいゴムマリでペニスをもてあそばれるのと変わりはない。

 しかし刺激は少なくても、こうして乳房に性器を挟み込んでもらっているという事実だけでも十分に興奮は喚起される。ましてや異性と睦み合った経験の無い景太郎には効果覿面と言えよう。女性の象徴で性器を愛してもらっているだけあり、口でしてもらう以上に高ぶりが凄い。

 それに、素子が乳房を揺り動かすたび…根本まで受け止めてもらっているペニスはちょうどくびれの辺りに柔らかみを覚えてくる。過敏な部分に間断の無い刺激を与えてもらい、景太郎はだらしないほど気持ちよさそうに童顔を和ませていた。優しい快感がペニスにジワジワ蓄積されてくると、すぐまた先端から逸り水が染み出てくる。素子の胸元に滴ると、往復する乳房の柔肌に馴染んで淫らな音まで立ててきた。

あっ…ち、乳首が…そんな、や、やぁ…そんなつもりじゃないのにっ…

 そんな粘つく音を耳にすると、素子は胸の真ん中にせつないうずきを覚え…身体中の性感帯を欲張りにさせてゆく。景太郎を悦ばせたい一心で愛撫を捧げていた乳房もその誘惑には抗えず、柔肌をわしづかんでいる指の間で乳首を屹立させた。

 感度の良いアンテナともいえる乳首は素子の指が動くたびに快感を生み、体内を巡る興奮の血潮に乗ってすみずみまで悦びを分けてまわる。愛液に濡れつつある真央はもちろんのこと、尻や内もも、唇や耳の裏、髪やまつげに至るまでがいやらしくうずいてきた。

「はあっ、はあっ、あっ…う、んううっ…」

「モトコちゃん…?」

「す、すまないが…お主が好きなように動いてみてくれ…」

「う、うん…」

 いつしか両膝を立て、腰まで浮かせて太ももを擦り寄せていることに気付いた素子は深く恥じ入りながら愛撫の手を止めた。これ以上続けていたら、まだ一度も達していない景太郎をそっちのけで求愛してしまいそうな気がしたからだ。性の悦びに対しては極めて意志の弱い自分自身に呆れて苦笑も出ない。

 愛撫を中断しても乳房を寄せ上げたままであることから、景太郎も取り立てて理由を問いただそうとはせず、促されるままに腰を動かしてみる。アダルトビデオで見た男優の動きを思い返しつつ、両手で上体を支えながら下肢に力を込めていった。

ぬっ、ぬっぬっ…ぬるんっ…ぬぬっ、ぬっ…ぬるんっ…

 ゆっくりペニスを引き抜いては、いっぺんに突き込む。それは決して軽快とはいえない不器用なものではあったが、それでも生まれて初めてのピストン運動からは目から鱗が落ちるほど鮮烈な快感が拡がってきた。

「すごい…すごいっ…すごいっ…」

 和やかな表情はやがて、つらそうにしかめられてゆき…うっすらと開いたままの口許からは随喜がうわごととなって漏れ出る。夢中で腰を往復させるたび、今まで感じたこともない濃厚な快感が限りなく増幅してゆくようだ。

ぬんっ、ぬんっ、ぬんっ、ぬずっ、むんっ、むんっ、むんっ…

 景太郎はすっかり法悦の虜となってしまい、性交しているものと錯覚した本能に命じられるまま腰の動きを速めてゆく。しかも身体も欲張りになってきているようで、長いストロークを求めて自然と腰の位置が高くなっていった。ちょうど乳房のトンネルを往復するような動きであったのが、次第に急角度から谷底を穿つようなものへと変わってゆく。

 逸り水の漏出もしとどであるから、潤滑自体に問題はないが…その潤滑が災いし、ペニスはおのずと柔肌の隙間を切り上げていった。

「あっ、こ、こらっ…あんまり激しいと…」

「はあっ、はあっ、はあっ…あ、あっ…」

「ほら見ろ、抜け出てしまう…。」

 激しいグラインドを見守っていた素子が注意を促すいとまもなく、景太郎のペニスは乳房の隙間から抜け出てしまった。もちろん素子が挟み込みの手を抜いたわけではない。強いて素子に原因があるとすれば、乳房の見事なまでの柔らかみが原因であろう。

 仰向けの女性とのパイズリは、その体勢上男性の方でペニスが抜けでないように意識しておく必要がある。それは勃起しているペニスが常にへそを目掛けて反り返ろうとしているためだ。逸り水でぬめればなおのこと、腰の動きを丁寧にしなければならない。

「ごめん、もう一回お願い…あんまり気持ちいいから、夢中になっちゃって…」

「根本の辺りを私に押しつけるようにして動くといいんじゃないか?できるだけ低い姿勢で…そうそう、慌てないで…焦らないで…」

 些細な失敗はしかし、ていのいい小休憩となる。景太郎はひとつだけ深呼吸して落ち着きを取り戻し、苦笑半分で再戦を申し出た。お互い乗ってきたところに水を差してしまったようで、なんともいえず気まずい。

 しかし素子は興醒めを露わにすることもなく、ゆったりと乳房を開いて再びペニスを谷底へと受け入れた。直接的な快感を覚えているわけではないのでそれなりに冷静さを保っており、状況を判断して景太郎にアドバイスを与えたりもする。

 激しいグラインドのため、丸まるとした双丘が形成する谷底には逸り水で作られた小川がヌメヌメと明かりを照り返し、淫猥の痕跡を留めていた。景太郎はその光景を見渡しつつ、右手でペニスを導いて、ひたっ…と谷底にあてがう。その後で両側から柔軟な土砂崩れを起こしてもらえば、柔肌に埋もれたペニスはすっかり上機嫌だ。ほんわりと包み込まれるぬくもりは何度味わっても格別である。

ぬにゅっ、ぬにゅっ、ぬにゅっ…むにゅっ、むにゅっ、むにゅっ…

 今度こそ抜け出たりしないよう十分意識しながら、景太郎は乳房の中でゆっくりとピストン運動を再開した。素子の貴重な意見もありがたく参考にして、彼女のみぞおちの上辺りを根本で擦り付けるように腰を振る。身体はもろに覆い被さるような格好ではあるが、常に反り返ろうと力んでいるペニスに従うためには仕方のないことだ。

 そんな協力の甲斐もあり、勃起しきりのペニスは真っ直ぐに乳房のトンネルの往復を続けることができた。柔らかみのただ中を突き抜け、また引き込まれると敏感な亀頭はムクッ…ムクッ…と膨張を繰り返して逸り水を漏らす。そのため、素子の胸の谷間はすっかりヌルンヌルンだ。景太郎はふよんふよん揺れて落ち着きのない陰嚢すらも素子に押しつけ、目一杯低い姿勢で素子の乳房を満喫する。

 その体勢はまさに、女性の身体を性処理の道具として扱うものであった。本来は赤ん坊に母乳を授けるための乳房を性器と見立て、一方的に快感を貪るなど…男のエゴと非難されて然るべきだろう。

 しかしそのぶん、根っからのフェミニストである景太郎には衝撃が強かった。素子に悪いと思いながらも、背徳的な悦びは次第に中枢を犯してゆく。まるで西部劇に登場する凶悪なギャングにでもなったような気分だ。尽くしてくれる素子を従順なまでに気遣わせ、自分だけ好きなように快感を欲張るのがこれほどまでに気味がいいとは想像もしなかった。第二の人格が覚醒しそうで怖いくらいである。

むぱっ、むぱっ、むぱっ、むぱっ…ぬちゅっ、むちゅっ、ぬちゅっ、ぷちゅっ…

「はあっ、はあっ、はあっ…あっ、ああっ…いいよっ、モトコちゃんっ…!」

「うんっ、うんっ…よかった…そんなにいいか?私の胸…」

「さっ、最高だよっ…!大っきくって、柔らかくって…もうオナニーなんかじゃ満足できそうにないよっ…!」

「ばっ、バカモノッ!わがままを言うなっ…!!」

 少しずつグラインドに慣れてきた景太郎が小気味良く腰を突き出すたび、下腹とアンダーバストの隙間からは空気音が漏れ…胸元では亀頭が出たり入ったりしてぬかるむ音を立てる。景太郎はすっかり夢中で、畳に額を押しつけながら甘ったるい声でよがった。その声は火照った吐息ごと畳に降りかかると、そこだけほんのり桃色に染まりそうなほどだらしなく上擦っている。

 素子もその賛辞が嬉しくて、うっとりと目を細めた。ペニスの濡れそぼり様からも景太郎の高ぶりが窺えるから歓喜もひとしおだ。他の男が聞いたら蹴飛ばされそうなことを口走るので、素子は苦笑混じりに景太郎をたしなめる。

 そのうえでそっと小首を傾げ、目一杯舌を伸ばして鈴口をチロチロ舐めるのだから、彼女に景太郎をたしなめる権利などないはずだ。ここまで徹底した愛撫を捧げてもらえば、誰だって今の景太郎のような気分にならざるを得ないだろう。

 そんな小悪魔のような確信犯のおかげで、景太郎の高ぶりはいよいよクライマックスに差し掛かってきた。不穏な射精欲がペニスの根本に募ってきて、それを堪えるよう括約筋が縮み上がり…ぐぐうっ、と勃起は頂点を極める。途端にグラインドは不器用になり、きゅっと引き締まった尻もゾクゾクとさざめきだった。

「もっ、モトコちゃんっ…!もうだめ、出ちゃうっ…出ちゃうよっ…!」

「いいぞ、このまま出せばいい…何を今さら躊躇う…」

「そんな、顔にかかっちゃうよ!?ちょ、てぃ、ティッシュは…」

「うらしまっ!!」

 オタオタと右手をさまよわせ、ティッシュペーパーの箱をまさぐる景太郎に素子は鋭い一括をくれる。景太郎は雷でも落ちたかのようにビクッと身体を震わせ、動揺を収めた。

「ここで…ここで止めてどうする…マスターベーションで終わったりするな…。せっかく二人で睦み合っているんだろう?顔にかかったら、拭いてくれればそれでいいから…このまま最後まで欲張ってみろ…」

「ほ、ホントにいいのっ…?俺、本気にするからねっ!?」

「くどいぞっ!!同じ事を何度も言わせるなっ!!」

「…知らないから…モトコちゃんっ、俺、知らないからねっ!!」

ぬむっ、ぬちゅっ、むちゅっ、むちゅっ…

 気丈な素子の声に突き動かされ、景太郎はきつく目を閉じてグラインドを再開した。両肘を畳に突いて上体を支えているのだが、両手は迫り来る絶頂の瞬間を堪えるように固く拳を固めている。

 仮にここで中断したとしても、もはや絶頂を免れることはないだろう。乳房から抜け出た瞬間にあらゆる緊張が解け、めくらめっぽうに射精してしまうに違いない。それでいて、最後までグラインドを堪能できなかった後悔が胸にわだかまってくるであろうことは想像に容易い。

 それならいっそのこと、背徳的な誘惑に身を任せて法悦を貪った方が達成感も大きいはずだ。なによりすでに一度絶頂を迎え損なっているのである。もうこれ以上のお預けはごめんであった。

「モトコちゃん…あ、んうっ…も、モトコちゃん…!」

「だ、だらしない声で呼ぶなっ…!」

「あっ、ふぁ…もっ、モトコちゃんっ!モトコちゃんっ!!」

「…聞こえてないのか…達してしまいそうなんだな、うらしま…」

 景太郎は愛しい女の名をよがり声にして、大胆なくらいのストロークで腰を突き込んでゆく。無我夢中で名前を呼ぶだけでも胸は焦がれた。もう素子のことが愛しくて愛しくてならない。きゅんきゅん痛む胸は今にも張り裂けてしまいそうだ。

 素子も景太郎を非難しながら、いよいよ迎える異性の絶頂を見逃すまいと亀頭を見つめる。繰り返し呼びかけてくる上擦り声はどうにも気恥ずかしいが、景太郎を絶頂に押し上げる手助けができたと思えば胸は安らいだ。夢中になってまで乳房を楽しんでくれている事実が純粋に嬉しい。

 その想いすらも愛撫として伝わったのか、景太郎は素子の乳房の中でペニスの勃起を極めた。先端の漲りも、幹の怒張も限界に達した瞬間…絶頂への到達を精一杯堪えていた意識は射精欲一色に染め変えられてしまう。

「あっ!あっ、あああっ…!!もっ、モトコッ!モトコッ…!!」

びゅるるっ!!

「くううっ!!」

「ひんっ…!!」

びゅうっ!びゅっ!びちゃっ!びちゃっ!べちゃっ!

「ううっ!うううっ!!うっ、くっ…!!」

「ひっ!ひいっ…!」

ドクンッ、ドクンッ、ドクン…

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…あ…あう、ぐうぅ…」

「う…うう…」

 愛しい女の名を呼び捨てた瞬間、景太郎は凄絶なまでに男の本能を解放した。灼熱した精液は複雑なパイプを刹那で駆け抜け、ペニスの根本を蹴飛ばすような勢いで噴出して…素子の火照り顔へ大量に降り注ぐ。

 受験勉強のために禁欲生活を余儀なくしていただけあり、精子はたっぷりと製造、貯蔵されていた。景太郎は乳房に腰を突き込んだ体勢のまま盛大に射精し、素子の顔中を熟成されたクリーム色で覆い尽くしてしまう。それこそ前髪、額、まぶた、鼻筋、頬、唇…おおよそ顔を構成している部分で精液に濡れていないところは無いといってもよかった。

はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…すごい…パイズリで、俺…俺…

 腰を乳房に預け、胸板から畳に平伏した体勢で景太郎は絶頂の感動に浸る。

 数週間ぶりに迎えた絶頂は目を見張るほどに素晴らしかった。最後の最後まで腰を振り抜き、躊躇い無く射精を遂げられることがこれほどまでに甘美なものであったとは、まさに目から鱗が落ちる思いだ。

 本当に気持ちよかった。射精する力強い脈動の一回一回すべてが充実しきっており、ある意味イキッぱなしの状態であったような心地だ。これだけ長い間絶頂感を覚えていられたのは生まれて初めてである。何度もマスターベーションを経験してはいるが、ここまでの夢心地には到達した覚えがない。余韻も信じられないくらいに濃密であり、若い肉体は今なお陶酔したまま、ゾクゾクしたさざめきを収めようとしない。

 最高の恩恵を賜ったペニスも惚けたようになっていて、あれだけ激しく射精しておきながら今なおたくましく勃起したままである。素子の顔から首からを生臭く汚しておきながらまだ射精し足りないのか、鈴口からは小刻みな脈動とともに残りの精液が滲み出てきて…トロリと彼女の胸元に滴った。

最高…こんな気持ち、夢みたい…最高…最高だよう…

 景太郎は満ち足りた嘆息を重ね、涙ぐみながら冷たい畳に頬摺りする。火照った頬にいぐさの冷たさはなんともいえず心地良い。ペニスも相変わらず素子の乳房に包み込まれたままであり、その柔らかみは射精疲れを優しく癒してくれるようだ。このとろけるような疲労感と余韻に浸ったまま、惰眠を貪ることができたらどんなにか幸せだろう。

「うっ…ひぅ、うぐっ…うっ、うううっ…!」

「…モトコちゃん?」

「ひっぐ、えぐっ、うっ…ううっ…ううっ…!」

「ちょ、モトコちゃんっ?」

 まどろみで感覚の鈍ってきた耳に、ふと少女の泣きじゃくりが聞こえてきた。

 景太郎は上擦ったままの声で呼びかけてみたが、それでも返事はなく、ただ変わらぬ泣きじゃくりが続くのみである。そこで景太郎は慌てて恍惚の境地から我に返り、よつんばいの体勢になって素子の乳房から身を離した。

「うわ…」

 素子の側で屈み込んだ景太郎は、あらためて彼女の姿を見て絶句してしまう。

 仰向けの素子は、その端正な美少女の面いっぱいに男の情欲を受け止めて泣きじゃくっていた。そのあまりといえばあまりの惨状に、景太郎は言葉を失ってしまったのだ。

 濃厚な精液が目に入って痛むのか、まぶたはきつく閉ざされており…唇の隙間から口内に忍び込んでしまったのか、唾液と一緒に舌先で押し出したりしている。顔じゅうに男の精を浴びた羞恥は相当大きいようで、細いあごから小さな肩、二の腕にかけてはブルブル打ち震えていた。それでも両手は乳房を寄せ上げたままであり、健気なことこの上ない。

「ひぐっ、うっ、ううっ…びっくりした…こんなにたくさん出るなんて、聞いてない…」

 ぐずぐず泣きじゃくりながら、素子は嗚咽の理由をつぶやく。その途端に紅梅色の唇からクリーム色の精液が口内にヌットリと滴り落ちてゆくので、素子はまた顔をしかめて舌先で唾液ごと吐き出す。その作業に吐息が混じると、濃厚な精液は小さく泡立ち、唇の隙間でプチンと弾けたりもした。

モトコちゃんのあんなにかわいい顔を、俺…こんなに汚してっ…

「ゴメンッ!モトコちゃん、ゴメンッ…!!」

 景太郎は己のしでかした邪悪な行為に戦慄と後悔を覚えながら、慌てて右手を伸ばしてティッシュペーパーの箱を引き寄せた。無造作な手つきで四、五枚まとめて引き抜くと、大急ぎで素子の顔から粘つく精液を拭い取ってゆく。額から左右の頬へと撫でるようにして拭い、あごから首…そして胸元に溜まっているぶんも残すことなく、徹底的に拭き取った。繊細な唇は特に慎重に拭い、その後でそっとティッシュをあてがって…

「残ってたら、出して…」

「ん…ぷ、ぢゅぴ…」

 景太郎のささやきに恥じらうことなく、素子はしおらしく唾液ごと精液を吐き出してくる。たちまちぬるい湿り気がティッシュを素通ってきて、景太郎の指を濡らした。

 あらためて乾いた部分でなぞるように拭き取ると、素子は安堵の息を吐いて落ち着きを取り戻した。寄せ上げていた乳房を解放してなおしゃくり上げるものだから、丸まると実った乳房はそれに合わせてふよん、と揺れる。

「…ホントにゴメンね、やっぱり止めとけばよかった…。」

「お、お主が気に病むことなどない…わたしが驚いて、狼狽えただけであって…」

「でもっ…俺、夢中になっちゃって…こんなに汚して、泣かして…」

「だから全部私が望んだことじゃないか…。射精できたということは、お主も気持ちよかったんだろう?もうそれでいいじゃないか…」

 景太郎は自身の後始末も済ませると、タオルと氷水の入った洗面器を手繰り寄せ、ストーブに乗せられていたケトルからトポトポ熱湯を注ぎつつ素子に詫びた。その沈痛な横顔を見つめながら、素子は景太郎をフォローして励ます。

 景太郎も素子もお互いを深く慈しみ、思いやる気持ちがそれぞれで嬉しいが…今は何となく気まずい。景太郎は素子を汚したことへの後悔で、素子は景太郎を気に病ませたことへの自責で…二人の愛情に躊躇いという名の歯止めをかけてしまう。

「はい、モトコちゃん…」

「ん…」

 やがて景太郎は洗面器の水を程良く温めると、タオルを絞ってから素子の前髪を片手で退け、かわいい素顔を赤裸々にした。意図を察した素子は静かに目を伏せ、景太郎に身を委ねる。それでも両手が乳房を覆い隠してしまう辺り、彼女の乙女心は奥ゆかしさを捨て去ってはいないようだ。

ごしごし、ごしごし…きゅっ…きゅっ…

 精液は相当に粘ついていたから、ティッシュで拭っただけではどうしても素肌の上で乾き、白く粉を振ったように残ってしまう。そこで景太郎は素子の美しい素肌を労るよう、温かいタオルできれいに拭うことにしたのだ。顔面はもちろんのこと、前髪からも丁寧に拭き取ってゆく。無我夢中で楽しませてもらったのだから、アフターケアは徹底しないといけない。

「…よし、きれいになった。鏡、いる?」

「いや、いい…ありがとう。」

「いえいえ、当然のことだよ。」

 黙々と作業を続けた甲斐もあり、やがて素子の素肌は元の瑞々しさを取り戻すことができた。しっとり湿り気を帯びながらも、スベスベと滑らかで手触りがよく…大量に精液を浴びたとは思えないほどきれいだ。

 景太郎が満足そうににっこり笑うと、素子もはにかみがちに微笑む。そこで二人は久しぶりに視線を交わし、しばし目を細めて見つめ合った。

「せっかくジュースもあるし、口の中、もっとゆすぐ?」

「いや、もう本当に大丈夫…それより、うらしま…」

「ん?あ、ああ…」

 クーラーボックスを指さした景太郎の気遣いも辞退すると、素子はなにやら口ごもりつつそっと身体をずらし、枕も半分だけ場所を空けた。そのままころんと横臥して身体を景太郎に向ける。

 景太郎とて、慎ましやかな素子の求めに気付かないほど愚鈍ではない。素子に寄り添うようにして体育座りになってから、そっと身を横たえて枕を共にする。お互い安堵の微笑を浮かべ、暗黙のタイミングで抱き寄せ合えば…

ちゅっ…。

それだけで二人の唇はひとつに重なった。二人にとって、キスはもう呼吸と同じくらい欠かせない生理現象である。

「…本当に優しいな、お主は…。私は優しくされることにすら慣れていない、かわいげのない女だぞ?なのにお主はどうして懲りもせず、そこまで優しくできるんだ?」

 鼻先どうしが触れ合うほどの距離で、素子はつぶやくように尋ねた。伸ばした左手は景太郎の背中を撫で、より深く素肌のぬくもりを分かち合おうと模索する。

「どうしてそこまでって言われても…もしかして、おせっかいに感じてる?」

「そ、そんなことはないが…私はすぐに強がるし、はにかみ屋だし、だいいち素直じゃないし…お主だってわかってるだろう?私が面倒な女だということが…」

「ほらほら、また悪い癖。あえてそう言って、俺に否定してもらおうとしてるっ。」

 景太郎はそこまでささやくと、互いの表情が識別できる程度に枕の上で距離を置いた。右手の中指で素子の前髪を耳の後ろへ流し、柔らかな微笑を浮かべる。図星を突かれ、視線を逸らしながらも答えを待っている素子が素直にかわいい。

「…さっきの答え、俺がモトコちゃんのこと、大好きだから…っての、ダメかな?」

「え…?」

「モトコちゃんは俺のことが好きだから、そうやって見返りを求めることなく一生懸命になれるんだろ?俺も同じだよ。大切で、かけがえのない人だからこそ…自然と優しくできる。優しくしたくなる。俺達が恋人どうしだってことの、なによりの証じゃないかな?」

「うん…」

 景太郎の言葉は木訥なものではあったが、彼の純粋な性格を知っている素子だからこそ、その言霊を心で感じることができる。なまじっか気を読むことに長けているだけあって、胸の奥からはにかみの火照りが拡がってくるようだ。

 素子は照れくさそうに頬を染めると、景太郎と見つめ合っていられなくなって伏し目がちとなった。まばたきがしきりとなってくるのは嬉し泣きを堪えきれないためであろう。

 そんな素子の身体を強く抱き寄せながら、景太郎は何度も何度も彼女の背中を撫でた。それは初春の厳しい冷え込みを忘れさせるような、心からの愛おしさがこもった愛撫であった。

「俺、モトコちゃんの揺りかごみたいな存在になれたらいいな…。」

「揺り、かご…?」

「今はまだ照れくさかったり、抵抗があったりすると思うけど…俺はいつだってモトコちゃんを抱き留めてあげるよ。優しくされることに慣れてないんなら、これからすぐにだって埋め合わせしてあげる…って、揺りかごって変な例えだったかなぁ?」

 どこまでも慈しみに満ちている微笑をにわかに崩し、照れくさそうに視線を逸らす景太郎を素子は責めなかった。身震いとともに擦り寄ってくると、鼻先をぶつけて口づけたまま声を上擦らせる。可憐で過敏な唇は歓喜に微震していた。

「…そんなことない、そんなことないっ…嬉しい…うらしま…」

「モトコちゃん…」

「こんな…こんな嬉しいこと、あるなんて…この世に生まれてよかった…お主と出会えて、本当によかった…!」

 薄膜どうしを触れ合わせたままで感動を口にすると、素子の熱い愛欲は理性をオブラートよりも容易く溶かし、あるがままを剥き出しにしてしまう。もはや羞恥や貞淑を意識する余裕すらなくなり、恋い焦がれた夜に思い描いたまま唇を押し当てていった。

ちゅっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ちゅうっ…ちゅむっ、ちゅむっ…

 枕の蕎殻をサラサラ鳴らしながら、素子は人が違えたように情熱的な口づけを繰り返す。過敏な薄膜をたわませるのみならず、強く吸い付いてはしきりに小首を傾げて愛情の融和に酔いしれた。ついばんでは離し、ついばんでは離し…そんなじゃれ合うような口づけで胸を焦らしてからぴったり密着すると、その感動は二倍にも三倍にもなって素子の乙女心を満たす。

 こうして愛しい景太郎とキスできるだけでも嬉しいのに、彼の唇が同性もかくやとばかりに柔らかであるから心地よさもひとしおだ。一分…二分…三分…と過ぎゆく時間も忘れ、擦り寄せた身体をクネクネと悶えさせながら衝動のままにキスを堪能する。もうこのままのぼせてもかまわないと思えるほど、気持ちは欲張りになっていた。

「んっ…んっ…んんぅ…ぷぁ、はあっ、はあっ、はあっ…」

 思春期の少年も顔負けといった荒々しいキスを終え、素子はぐったりとうつむいた。満ち足りた呼吸を忙しなく繰り返し、うずきっぱなしの胸元を左手で押さえて余韻に浸る。そのささやかな胸の締め付けはかわいい上擦り声となり、素子をしきりに鳴かせた。

 とはいえ、うずくのは何も胸に限った話ではない。絶頂感を覚えたばかりの真央もズキズキとしびれ、彼女に生まれて初めて明確な性欲を自覚させてくる。スラリと長い両脚を交差させ、太ももをモジモジ摺り合わせるだけではもう満足できそうにない。

 

 

 

つづく。

 

 


(update 00/12/28)