浦島、抜け!

Sex by Sex(11)

作者/大場愁一郎さん

 

 

 そんな清らかとも思えるほどの静寂の中、景太郎はそおっと下肢に力を込め…
…ぬ、るっ…
「んっ…!」
「んんっ…!」
 パンパンに膨張している亀頭がキツキツに膣口を押し広げ、ヌルリと膣内に潜り込んだ瞬間…景太郎もみつねも、かわいく上擦った鼻息を漏らした。
 それはまさに、男の想いと女の想いがひとつになった瞬間であった。望む望まないを別にして、みつねの膣口は景太郎のペニス…ちょうど亀頭と幹の境目であるくびれの部分をきゅんきゅんと締め付けてしまう。
「ん、んんぅ…」
「んぅ、んぅ…」
 みつねは夢中で景太郎の首から肩からに両手を廻し、すがりつくような勢いで彼の状態を抱き締めた。景太郎もみつねの膣内に入り込んだペニスから右手を離すと、左手と同様に上体を支えながら彼女の肩を抱く。
 もう、身体中全部で…ううん、身も心もひとつになってしまいたいっ…
 刹那ほどの時間であっても、ひとたびそう切望してしまえばそれに抗うことなど誰もできはしない。愛欲による衝動に突き動かされるまま、景太郎もみつねも夢中になって互いの裸身を抱き締める。接吻欲だけでなく抱擁欲をも同時に満たして…景太郎はもちろん、みつねすらあごに儚げな微震をきたした。
 まさに幸福感そのものともいえるぬくもりを腕の中に感じながら、景太郎は慎重に腰を突き出してゆく。
ぬ、ぬっ…ぬぷっ…ぬぶっ…
 か細い膣内に比べてペニスはあまりに太々としているが、たっぷりと分泌された愛液が潤滑剤となってくれるため、挿入が困難ということはない。むしろ過敏となっている亀頭は突き進むごとに絶妙な抵抗感を覚え、これ以上ないほどに興奮の血潮を巡らせてしまう。
 そんなみつねの膣内に満ちている抵抗感は、決して拒否や嫌悪によるものではない。あくまで高ぶりきっている雄性を…勃起しきりのペニスを悦ばせるためのものだ。抱き合って、キスして、愛撫に酔いしれて…じっくりと時間をかけて睦み合ってきただけあって、みつねの華筒は十分に異性を受け入れられるようになっている。緊張感が程良くほぐれ、なおかつ濃密な愛液で潤滑しているために、景太郎のペニスはみるみるうちにみつねの内側へと入り込んでゆく。
ぬるっ…ぬぷ、ぬぶぷっ…ぬぐんっ…
「んっ!んんーっ…!!ん、んんぅ…」
「んっ…んふ、んふ、んふ…」
 はち切れんばかりに怒張した亀頭は、みつねの華筒をすっかり景太郎サイズに拡張し…やがて格別の熱を孕んでいる行き止まりに到達した。
 その瞬間、ただでさえもよがりどおしであったみつねは悲鳴にも似た鼻声を景太郎に聞かせてしまった。膣の記憶が景太郎によってきれいに上書きされ、新たな悦びを見出したためだ。確かに景太郎のペニスは今までの男に比べて若干大きめではあるが、それとはまた無関係に心が躍る。思わずキスしたまま、嬉し泣きするみたいにしゃくりあげてしまったほどだ。
 一方で景太郎はみつねの深奥まで挿入を遂げると、その体勢のままですっかりおとなしくなってしまった。あれほどまでに欲張りだった唇もいつしかキスを忘れ、ただ単にみつねのそれと触れ合わせているだけとなる。
 それでも、みつねは怪訝に思うことはなかった。
 景太郎が童貞卒業の感動に陶然となっていることは、頬に繰り返し感じる鼻息から十分に伝わってくる。恍惚の溜息にも似た深い鼻息は感慨無量とばかりに火照っており、この上なく初々しい。ついついみつねまで照れくさくなってしまう。
「ん、んっ…ぷぁ…ふふっ、おめでと、けーたろ…」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…んく…あ、あったかぁい…」
「な、なんやねん…んふふっ、童貞卒業して最初の感想がそれかいな…」
 唇を突き出すようにしてキスを中断し、みつねは揶揄半分で景太郎を祝福した。すると景太郎は夢うつつよろしく目を伏せたまま、女の子のような声で歓喜の想いを口にする。悪いとは思いながらも、みつねはその素直な第一声に失笑を禁じ得ない。
 とはいえ、童貞卒業の想いを即座に気の利いた台詞にできる男など皆無であろう。
 きゅううっ、きゅううっ、と元気よくペニスの根本を締め付けてくる膣口も…
 亀頭から幹からにネットリと絡み付き、貪欲なほどにむしゃぶりついてくる膣も…
 意識を疑うほどの心地良さで中枢を奮わせてくる、単に三十七度弱という体温も…
 そのすべてが男心を満たしてくれるのだ。濃密な性欲に苛まれ、異性に対して妄信的なまでの憧れを抱き続けてきた童貞であればなおのことである。
 ましてや景太郎は、想いを寄せている女性が初めての相手となったのだ。その充足感は人生の奇跡とも思えるほどであり、まさに大袈裟なくらいの感動を覚えてしまう。意識は歓喜の想いに余すところ無く埋め尽くされてしまい、気の利いた言葉を紡ぐ余裕などは微塵も残っていない。
「だ、だって、ホントにあったかいから…その、すっごくいい気持ちで…」
「…せやな。ウチもホンマにあったかい…ううん、奥の奥まで熱々や…」
「キツネさんも、わかるんですか…?」
「わかるわかる。けーたろの、ちょっと大きめやからな…ほんわりと熱くって…ぴくんっ、ぴくんって動いてるさかい、ウチも…ウチも、ええ気持ち…」
 照れくさそうに言い訳する景太郎に、みつねも自然な笑みを浮かべながら素直な感想を聞かせた。それを聞いた景太郎がちらりと視線を向けると、今度はみつねが照れくさそうに想いを口にする。余裕ありげであったキツネ目もすっかりはにかみ、人なつっこく細まってたまらなく愛くるしい。
 確かに、景太郎のペニスはみつねが今まで受け入れてきた中でも大きい部類に入る。
 自ずと禁欲生活を送っていたためでもあるが、亀頭はパンパンに膨張し、幹との境を成すくびれもクッキリと形成されている。それはコンドームを被されてなお如実であり、鈍感な膣内にあっても男性器特有の無骨さを感じ取れるほどだ。
 幹も亀頭に負けじと鋼のように固く漲っている。そのうえで長く、太く勃起しているため、膣内の居心地の良さに酔いしれて打ち震えるたびに…そもそも景太郎がわずかに身じろぎするだけでも、いっぱいいっぱいに押し広げられている膣全体が揺さぶられ、性感帯である子宮口をも刺激されるのだ。そのくすぐったいような快感に歓喜の想いが増幅され、きゅんっ…と胸の真ん中がせつなくなる。
 また、ペニスを勃起させている興奮の血潮は、同時にその全長を灼熱させてもいる。もちろんみつねの膣内もるつぼのごとく火照っているのだが、異性からのぬくもりはいつでも別物だ。景太郎の素直なつぶやきにも心から同感できる。
「…じゃあ、キツネさんも一緒ですね」
「うん、一緒やな…けーたろと一緒や…」
「わ、き、キツネさん…?」
 同じ悦びを共有できていることに感動して、景太郎はどこまでも優しい微笑をみつねに見せた。二十歳を過ぎているわりに、その微笑は少々あどけなさの残るものではあったが…それでもみつねはつられて微笑み、現実を噛み締めて味わうかのようにつぶやきながら景太郎を強く抱き寄せる。体重をかけてしまわぬよう、両の肘で上体を支えていた景太郎は思わず狼狽えて身を強張らせた。
「んぅ、もっとくっついて…もっとぎゅうって抱き締めてほしいねん…」
「そんな、お、重くしちゃいますよっ…」
「布団が柔らかいさかい平気やって!ほら、遠慮せんとウチに乗っかり!」
「わ、わわ…し、知りませんからねっ?」
 嬉々としてじゃれついてくるみつねに戸惑うものの、景太郎は彼女を避けているわけではない。体重を預けて彼女に負担をかけさせまいと意識しているだけだ。
 それでもみつねは頑なにねだってくるので、やむなく景太郎はその求めに応じることにした。みつねに抱き寄せられるまま、上体を支えていた両肘からゆっくりと力を抜き、裸の胸を彼女に預けてゆく。
 下肢を支えていた両膝もやんわり伸ばしてしまえば、これで景太郎はまるまるみつねにのしかかる格好だ。豊満な乳房、柔軟な腹筋、蒸せた性毛、そしてとろけそうなくらいにあたたかい膣内…それらに基づく興奮と感動を包括したみつねの抱き心地に、景太郎も思わず感動の溜息を禁じ得ない。
「あふっ…ん、んぅ…」
「…ホントに重くないですか?」
「平気やって…柔らかい布団と、あったかいけーたろに挟まれて…ホンマええ気持ち…」
 知りませんからね、と突き放しておきながら、やはり景太郎はみつねを気にかけずにはいられない。それでもみつねは景太郎の重みを受けてわずかに吐息を漏らしただけであり、苦悶の様子は皆無であった。むしろ願いを叶えてもらったことが嬉しいらしく、ウットリとした陶酔顔で頬摺りしてくるほどだ。
 たしかにみつねのベッドはスプリングもよく効いていて、そのうえで横たえた身が埋まるほどにフカフカのマットレスと布団が乗せられている。こうして身体まるごとのしかかったとしても、その重みはうまく分散されてゆきそうだ。東大受験のために蓄えた知識を引き出さずとも、この穏やかな抱き心地が中枢にそれを教えてくれる。
「えへへ…いいですね、こういうの…」
「んふふ、せやから言うたやないか…」
「うん…ふふっ、キツネさんと一緒…キツネさんと一緒っ…」
「ん…けーたろと一緒…けーたろと一緒っ…」
 男女の結合を遂げた後でも、ぴったりと抱き締め合う悦びは他の何物にも代え難い。
 身も心もいっぺんに満たされるような抱擁の愉悦に、景太郎もみつねもくすぐったそうに相好を崩した。ワクワクと逸る気持ちに身体も反応して、やがてお互いどちらからともなく頬摺りでじゃれついてゆく。
すりすり…すりすり…
「キツネさん…ふふっ、キツネさん…キツネさんっ…」
「んぅ、けーたろ…んふふっ、けーたろ…けーたろっ…」
 火照り、わずかに汗ばんで湿り気を帯びている右の頬どうしを摺り合わせながら、二人は無邪気に名前を呼び合って悦に入る。
 言葉を操ることのできる人間として生まれておきながら、景太郎もみつねも、今はその悦びを上手い言葉にして伝えることができないでいた。ただただ甘えかかるような声音で互いを呼びかけ、それぞれで持ち寄ったぬくもりを堪能し合うのみである。
 それでも、今の二人には十分であった。十分過ぎた。
 まったくの同音ではあったが、相手の名前を呼ぶことも、そして相手から名前を呼ばれることも、今までよりずっと嬉しく思える。世辞も美辞麗句も必要がない。無粋で、邪魔なだけであった。想いはもはや、肌と肌の間に介在するぬくもりだけで不思議なくらいに伝わるのである。
 とはいえ、男女のスキンシップが欠けていればセックスはセックス足り得ない。いかに想いが伝わろうとも、身体から生じる快感までは代用できないのだ。
ちゅっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…
「んぅ…ん、んふっ!んっ、んんっ…!!」
 景太郎はみつねとの頬摺りのさなか、少しずつ彼女の頬にキスを撃ち始めた。吸い付くことはなく、そっと唇を押し当てるだけの優しいキスに、みつねはそっと下唇を噛んで身悶えする。
 かわいく上擦った鼻声が小刻みに漏れるものの、それは嫌悪によるものではなく、嬉しいくすぐったさによるものだ。現に景太郎を抱き寄せる両手にはなお一層の力がこもり、ぎゅうっ…と強くすがりつくよう背中に指を立てているくらいである。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ちゅみ、ちゅみ、ちゅむっ…
「ひぁ、あんっ!や、く、くすぐったい…!!や、あんっ!んふっ、んくっ…!!」
 とはいえ景太郎のキスが頬から首筋に降り、肩に触れたところで折り返して、今度は耳にまで昇ってくると、みつねもとうとう堪えきれずに女の鳴き声でむずがった。みつねにとって首筋は敏感な部位であり、耳に至っては過敏なほどの性感帯なのだ。
 景太郎ももちろんその事実を覚えていたからこそ、あえて唇を進めたのである。
 うつむくようにしながら、赤らんだ首筋から肩にかけて一定のリズムでキスを撃ち、往復して耳朶を甘噛みすると…予想通りみつねはよがり悶えてくれた。特に性感帯である耳へのキスは高ぶっている身体に相当の作用を及ぼしたらしく、ヴァギナ全体がペニスを搾り込んできたほどだ。括約筋が象っている膣口も元気良く幹を締め付けてくる。
うううっ…キツネさん、すっごいエッチな反応っ…
 景太郎も予想以上の艶めかしさを秘めていたみつねの声と反応に興奮し、窮屈な膣の中で一際強くペニスを勃起させてしまう。思わずキスしていたことを忘れ、じっとみつねを抱き締めたまま彼女への挿入感に浸った。それでしばし二人の吐息が重なる。
「…くすぐったくしちゃった?」
「うん…」
「ごめんなさい…でもさっきのキツネさん、すっごくかわいかった…」
「か、かわいいって…あ、あほう、急に何を言い出すねん、けーたろのくせに…」
 みつねが落ち着きを取り戻したところで、景太郎は頬摺りを残しながら顔を上げた。引け目による小声での問いかけに、みつねは少しだけふてくされて口元をとがらせ、恨みがましいような目になってうなづく。
 そんな様子で素直に詫びるものの、景太郎はすぐさま表情を緩めて惚けた感想を口にするので、みつねはたちまち顔を赤くしてそっぽを向いた。ぷいっと顔ごと真横を向き、照れくささあまってついつい憎まれ口を叩いてしまったので…ちらりと視線だけで景太郎を窺ったりする。
 とはいえ、はにかみから狼狽に至るまで、みつねのすべてを上から見つめていた景太郎がそのしぐさを見逃すはずはない。グッ…と愛しさが胸にこみ上げてきて、景太郎はその童顔をとびきりの歓喜で満たす。
「ああもうっ…キツネさん、ホントにかわいいっ…!」
「あん、やぁめ…んぅう…」
ちゅっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…
 嬉々とした表情のまま、景太郎はあらためて感想を口にすると…そっぽを向いて無防備となったみつねの左頬に小さなキスを連発した。先程よりも火照りを増したみつねの頬はすこぶる熱く、唇は異様なまでの高揚感に包まれる。おのずとその高ぶりは中枢を介し、景太郎の胸をもどかしいほどの愛欲で焦がしてゆく。
 みつねはみつねで、今まで弟のように見てきた景太郎にかわいいと言われ、どうしても抵抗感を覚えてしまう。もちろん景太郎がからかい半分でそう言っているのではないことくらいわかるのだが、ちっぽけだと自覚のあるプライドが素直に彼の言霊を受け入れようとしないのだ。照れくささは歓喜の想いではなく、穴があったら入りたいような居心地の悪さを催させてくる。もう泣きたいくらいであった。
「…キツネさん」
「な…なんや?」
 ふいに頬へのキスが止み、耳孔にささやき込むような声で呼びかけられたので、みつねはゆっくりと目を開けた。景太郎の睦言とキスにいつしか身を強張らせ、きつく目を閉じていたらしい。
 ささやかな自己嫌悪による自責の意味合いも込めて見上げた先では、景太郎があどけない眼差しでこちらを見つめていた。
 とはいえその顔は余裕ありげではなく、勝ち誇っているわけでもなく…あくまで愛しさのまま、どこまでも優しくなって見つめているのみであった。他人のことをどうこういえないくらいにかわいい童顔は歓喜と羞恥に火照り、鼻の頭にも興奮の汗が浮かんでいる。
「ね…」
「…うん」
 景太郎はわずか一言、おねだりとも誘いかけともとれる合図を送った。
 その意図を察したみつねは微かな鼻声で承諾すると、そっぽを向いた顔を元に戻し、一旦景太郎を見つめてから静かに目を伏せた。すう、と鼻から息を吸い込みつつおとがいをそらし、形良い唇の無防備を極める。
ちゅ、むっ…
「ん、んんっ…ふ…」
「んぅ…ん…」
 景太郎はわずかに小首を傾げると、心持ち唇をすぼめてみつねに口づけた。
 敏感な薄膜どうしがマシュマロのようにふんわりたわむと、景太郎もみつねも一様に甘ったるい鼻息を漏らしてしまう。ぴっちりと唇を塞ぎ合うだけの極めて穏やかなキスに、胸が甘酸っぱく締め付けられたのだ。
 奥深く繋がり、きつく抱き締め合いながら交わすキスは格別なものである。しかも一糸まとわぬ姿であれば、二人のぬくもりもひとつに重なるため、その奇跡のような一体感はまさに夢心地そのものとなる。遠慮がちに繰り返すゆっくりとした鼻息に、陶酔の猫撫で声が混じってしまうのも無理はない。もしこれがディープキスであったなら、より如実に感じられる一体感に恍惚のよがり啼きすら漏らしてしまうことだろう。
 二人の唇が重なり合って、十秒、二十秒、三十秒…
 小春日が柔らかに照らすベッドの上で、景太郎もみつねも次第に時間という概念を忘れていった。贅沢に唇を重ね、きつく抱き締め合い、奥の奥まで繋がり合ったまま…二人とも身じろぎひとつせず、中枢を命の悦びに深く深く浸してゆく。
ああっ…このまま時間が止まってしまってもいい…ううん、止まってほしいっ…
 そして…二人はやがて確たる男と女となり、それぞれでの愉悦をひとつにした。弾みで叶うはずもない切望に胸を焦がしてしまい、そのせつない疼きが破裂のように狂おしく愛欲を産み落とす。ペニスは猛々しく漲り、ヴァギナはひたむきなまでにすがりついて、それぞれの主に時間の流れを思い出させた。
ちゅみ…ちょむ、ちょむ、ちょむ…
「んぅ、んぅ…んっ、んんっ…」
「ん…ん、んっ…んく…んふ…」
 景太郎は汗ばんだ両手でみつねの肩を抱き締め直すと、割り開くような角度で彼女の唇をついばんでいった。ぷりん、と弾力のあるみつねの薄膜を何度も何度も甘噛みして、想いの丈を伝えんと一生懸命になる。
 その様子はまるで、みつねの唇に自身の唇の感触を擦り込もうとしているかのようだ。今朝のファーストキスから数えて、のべで三十分以上もキスしているのに、いささかも変わらない熱心さがその形容に真実味を持たせるだろう。
 なにより、みつねとのキスはたまらなく心地良いのだ。ぴったりと唇を重ね、じゃれついてたわませればたわませるほど胸は嬉しさでいっぱいになる。みつねさえ許してくれるのなら、本当に一日中でもキスして過ごしたいくらいだ。
 みつね自身も気遣うタバコっぽい吐息は、喫煙の習慣がない景太郎には確かに気になるものではある。しかし逆に、これがなければみつねとのゼロ距離を実感することができないようにも思える。目を閉じていても、このタバコっぽさがみつねの姿を鮮明に浮かび上がらせてくれるのだから、むしろ歓迎であった。おのずと抱き締める両手にも力がこもってゆく。景太郎はもう、みつねの何もかもが愛しくてならないのであった。
 そんな景太郎の情熱的な姿は、みつねにとって決して迷惑なものではない。
 ひたむきな想いに応えるだけの気持ちの整理はまだできていないが、それでも友人関係以上に心を開け広げてくれる景太郎のことは嫌いではなかった。どちらかと聞かれれば、躊躇い無く好きな方だと言えるくらいに気が置けない存在となっている。
 だからこそ、しつこいほどに求めてくるキスにもついつい応えてしまうのだ。今ではもう、かつて付き合ってきた男達の方がキスに時間をかけていなかったのでは、と感じてしまうくらいである。
 みつねは景太郎の背中に回していた両手から力を抜くと、今度は抱き込むような手つきで彼の両肩につかまった。小さく喉を鳴らし、しおらしく景太郎のリードに酔いしれる。
ぷちゅ、ぷ…ぷちゅ、ぷ…むちゅ、ぷ…
 密着を維持したまま、繰り返し繰り返し唇を押し割ってもらい…
ちゅみ、ちょむ、ちょむ…ちょみ、ちゅむ、ちょむ…
 上唇と下唇を分け隔てなく甘噛みしてもらい…
ぶちゅっ…んむ、んむ…ぷぁ、あぷっ…んむ、んむ…ぷぁ、ぶちゅっ…
 じっくりと密着されて、小刻みに吸われて、重なる角度を変えてまた密着されて…
「ん…ん、んっ…!んんっ!ん、んんんっ…!!」
 みつねは苦痛に耐えるようきつく目を閉じ、何度も何度も切羽詰まった鼻声を漏らす。
 それほどまでに景太郎のキスは巧みであり、みつねを確実に高ぶらせていた。どこまでも優しく、それでいながらいささかの手抜きもない景太郎のキスは、もはや愛撫と称してなんらの差し支えもないものであった。
信じられへん…キスって、こんなええもんやったんや…
 みつねの意識は、とうとう溶けたミルクキャラメルのようにトロトロになってしまった。深く繋がったままで交わすキスに心酔極まり、恍惚の潤みが目元に滲んでくる。
 薄膜と薄膜が触れ合ってたわめられるたび、その甘美な愉悦は身体中の性感帯へと電光のようにリンクしてきた。特にヴァギナへのリンクは凄まじく、膣口はキツキツにまで押し広げられていながらも、きゅんきゅんと元気良く景太郎を締め付けてしまう。
 そんな女としての生理現象は、ドロッとした濃厚な性快をもたらしてくる。いつしかみつねは、浮かせていた両脚で景太郎の腰を絡め込む体勢となった。リラックスして、のんびりと景太郎との睦み合いを楽しむつもりだったのが…今では縮こまるようにして景太郎にすがりつき、彼との情熱的なセックスを切望している始末である。もう身体の芯から人恋しくてならない。
ちゅ、ぴ…
 みつねは景太郎がキスで唇を割り開いてくるのに合わせ、ちょぴっ…と舌先を差し出した。自ずと景太郎はみつねの舌先を甘噛みする格好となる。
「んぅ、んぅう…」
「ん…」
 みつねが鼻声でせがみながら舌先をツンツン突き出してきたので、景太郎は唇を重ねたまま小さくうなづいた。みつねも景太郎も興奮のさなかにあり、荒ぶった鼻息がしばし互いの頬をくすぐる。
ちゅく、ちゅく、ちゅく…
 景太郎は唇をすぼめると、乳房にむしゃぶりつく要領でみつねの舌を吸った。
 とはいえ、決して大胆に貪ったりはしない。あくまで優しいキスのまま、唇の先だけで軽く吸い付くのみである。その様は母の乳房に甘えかかる乳飲み子さながらだ。もっとも、乳飲み子は母に性的快感を与えるためにそうするわけではないのだが。
「ん、ふ…んんぅ…」
 景太郎が小刻みに舌先を吸うと、それと同時に唇どうしもふんわりとたわみ合う。そのささやかなくすぐったさに舌鼓を打ちながらも、みつねの胸には濃密な劣情がじわりじわりと立ちこめてくるのであった。心地良さともどかしさの板挟みとなり、みつねは鼻にかかった声でせつなげにうめく。
 そのSOSを見事に聞き誤り、景太郎はゴクン…と生唾をひとつ飲み込んだ。
 汗ばんだ両手でみつねの肩を抱き直すと、数分ぶりかで唇を浮かせ、彼女の舌先に自身のそれを触れさせる。
るれっ…るれ、るれ、るれ…ちゅぴちゅぴちゅぴ…
「んぁ、ん、んぅあっ…」
 唇ごとクルクルと舐め回したり、上下に素早く往復して弾いたり…まさに景太郎は舌先を乳首、唇を乳輪に見立てていた。唾液に濡れる二人の舌がぴちゃぴちゃとくねり合えば、そこからはたちまち淫猥な匂いが漂い始める。
 思いがけない景太郎の行動にみつねも虚を突かれ、差し出していた舌先に緊張を走らせた。ツン、と固くとがらせた舌先は自ずと感度も増すため、みつねはついつい危うげな声であえいでしまう。
「はぁ、はぁ…キツネさんっ…」
「んぁ、ぷっ…んふぅ…」
 みつねが口で息継ぎするいとまもあらばこそ。景太郎は舌先どうしを触れ合わせたままで愛しい女の名を呼び、夢中で唇を奪った。お気に入りの角度で深く吸い付くだけでなく、今度は積極的に舌を送り込んでゆく。
 そのためにみつねは息継ぎのタイミングを崩し、苦悶の音色で鼻息を漏らした。とはいえその表情は極めて穏やかなものであり、むしろ待ち焦がれていた瞬間の訪れに嬉々とさえしている。
ぬみ、ぬみゅ、ぬみゅ…ぬりゅ、ぬりゅ、ぬりゅっ…
「んんっ、んんっ…んんんぅ…んぅ、んんう…」
「んっ、んっ、んっ…んふ…ん、んんっ…」
 二人は精一杯舌を差し伸べ合い、あたたかい口内でじっくりと交尾に励ませる。
 左右にのたうたせて絡めながら、ザラザラな舌の腹どうしを摺り合わせたり…
 かと思うとヌメヌメな舌の裏側どうしを摺り合わせたり…
 互いに甘噛みしたまま、ゆっくりと舌を出し入れして唇を刺激したり…
 発情のためにとろみがかった唾液を丹念に攪拌し、歯茎に塗り込んだり…
 そんな濃厚極まりないディープキスに、景太郎もみつねも時間を忘れて耽った。決して広いとは言えない寝室内には、二人の甘やかな鼻声が官能と至福のハーモニーとなって繰り返し繰り返し響く。
 みつねはもちろん、景太郎もディープキスが初めてというわけではないのだが…裸で抱き合い、ひとつに繋がって交わすディープキスはやはり格別であった。
 奇跡とも思えるほどに素晴らしい一体感を身体中で満喫していると、頭の中にはぼんやりと白い靄がかかってくる。その濃いミルク色をした靄の中に意識を浸していると、理性も何もかも置き去りにして、思う様に愉悦を覚えることができるのだ。
 現にみつねは、キスの隙間から染み出る唾液で頬がベトベトになっていても、そんなことなどお構いなしという風に景太郎との一体感を堪能している。景太郎も同様に、荒ぶった鼻息を少しも遠慮することなくみつねに吹きかけている。
 こうして夢中で睦み合えばこそ、ペニスは猛々しく漲り、ヴァギナはいじましくすがりついて男女の性感を喚起するのだ。そして、ひとたび性感を覚えればより濃密な性感を求めてしまうのは当然であり…二人は今さらのように性交欲を思い出す。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ちゅ、ぷぁ…
 テンポ良く小刻みに吸い付いてから、景太郎はようやくみつねとのキスを終えた。舌を絡めたまま頭を上げ、強引にキスを中断すると、混ざり合った唾液が糸を引いてみつねの唇に落ちる。みつねはウットリと陶酔の表情を浮かべたまま、キスの名残を惜しむよう小さく舌なめずりして、その淫蕩の滴を舐め取った。
「…キツネさん、かわいい…」
「んぅ…うん…」
 ぽおっ…と頬を染めているみつねを見て、景太郎はあらためて賛辞を送った。みつねは甘やかなキスにのぼせてしまったようで、今度はしおらしくその言葉を受け入れる。
 照れくさそうにうつむき、潤んだ瞳で上目遣いになるみつねを見れば、景太郎の賛辞が紛れもないものであることが誰の目にも明らかになるだろう。女として生まれたことに感動を覚えている瞬間の女性というものは、どんな美辞麗句を差し置いても、かわいいという形容がもっとも相応しい。
 だからこそ景太郎も、ただ感じたままをつぶやくほかになかったのだ。世辞でもなんでもない。感動のままに言霊が迸っただけである。
 そしてその言霊は、甘やかな睦み合いの中で開ききったみつねの心に届き…彼女を歓喜の気持ちで高揚させる。自尊心という障壁は、夢心地そのもののキスを楽しんでいる間にすっかり消失していた。かわいいと言ってもらえることが、今は素直に嬉しい。
「けーたろ…動いて…」
「うん…」
 恥ずかしそうに、しかしすこぶる嬉しそうに微笑みながら、みつねは吐息程度に声を潜めて求める。景太郎はそれに首肯すると、もう一度だけみつねにキスしてから、リラックスしきっていた四肢にゆっくりと力を込めていった。
 両の肘で上体を支え、膝を込めて腰を浮かせると、二人の汗ばんだ肌と肌とがしっとりとしたままで離れる。柔軟に押し潰されていた乳房も元の豊満さを取り戻し、みつねの安堵に合わせ、ほよん…と揺れた。
 みつねもよつんばいとなった景太郎に合わせ、微妙に体勢を整える。景太郎の両肩につかまったまま、彼のグラインドを真っ直ぐに受け入れられるようわずかに腰を浮かせ、縮こまるようにして両脚を曲げた。
 このため、ベッドの端から見れば二人の結合部はすっかり丸見えの状態だ。みつねは景太郎の太々としたペニスを奥深くまで受け入れており、ふんにゃりとした陰嚢までをもネットリとした愛液で濡らしている。その淫猥な光景は遠巻きにであってもわかるだろう。
 もし間近で見ることができたとしたら、そのあまりの痴態ぶりに息を飲むはずだ。イチャイチャとした仲睦まじい雰囲気にあてられ、嫉妬すら覚えかねない。
「じゃあ…キツネさん…」
「うん…」
 景太郎の照れくさそうな誘いかけに、みつねは目を細めてうなづいた。欲しい気持ちがにわかに強まってひとつになり…互いを抱く両手に、ぎゅっと力がこもる。
ぐっ…ぐっ…ぐっ…
「あ、あれ…?えっと…ん…?」
 強烈な愛欲に身を委ねたまではよかったが…その高ぶりで思いのままに貫くことができず、景太郎は一瞬拍子抜けしてしまう。
 今まで何度もアダルトビデオで見てきた腰使いを思い出しながら、見よう見まねで動いてみたのだが…なぜだか上手くピストン運動ができないのだ。そもそもグラインドできないばかりか、ペニスを引き戻すことすらもできないのである。みつねの締め付けが強烈すぎるわけでもない。単に腰が理想どおりに動いてくれないのだ。
 それにやたらと腹筋が緊張して、どうにもしんどい。油断すれば、再びみつねに体重を預けてしまいそうなくらいだ。上体を支えている二の腕から胸筋にかけても、ぴくぴくとだらしなく震えが来ている。
「…難しい?」
「う、うん…思ったより…」
 緩慢に身体を揺さぶるだけの景太郎から敏感に事情を察し、みつねは子供と一緒に折り紙を折る母のような目になって問いかけた。景太郎は気恥ずかしそうにしながらも、決して気取ることなく、正直に心境を吐露する。
 童貞を卒業したばかりであるというのに、経験豊富なみつねの前で虚勢を張ったところで何になるというのだろう。景太郎は、それが無様の上塗り以外の何物でもないことを十分わきまえている。同じ無様であるのなら、ありのままを晒している方がずっとましだと思うのだ。
「ははは、格好悪いなぁ…情けない…」
「ま、まあ初めてやからしゃあないんやろぉけど…こればっかりは、ウチもなんてアドバイスしてええもんやら…。ウチも童貞の男って初めてやからなぁ…」
 照れ隠しの苦笑を浮かべつつ、景太郎は寂しげな目をして自嘲する。
 あどけなさの残る少年の顔で、そんな沈み気分の瞳をされてはみつねも軽々しく揶揄できず、言い訳めいた言葉で静寂を埋めるのが精一杯だ。気の利いた冗句も浮かばず、気まずそうに視線をそらしたりもする。
 やむなく景太郎は頭を下げ、欲しい気持ちを少しでも伝えようとみつねに頬摺りした。すべらかな左の頬どうしを触れ合わせてから、その横顔にひとつだけキスする。
「…ビデオみたいに、テンポ良く動けるもんなんだろうなって思ってたんですけど…」
「そんな上手くいくかいな、AV男優はキチンと練習してんねんで?そんな訓練学校みたいなとこもあるって話や」
「へえ、AV男優の学校ですか?」
「あ、今東大諦めてそっちへ行きたいとか思ぉたやろ?一瞬でも思ぉたやろ?」
「そっ、そんなことないですよっ!」
「あはは、ホンマかなぁ…?」
 何気なく戯れ言を交わせば、たちまち笑声を取り戻すことのできる二人。
 睦み合いの相性はどこまでもぴったりなのだ。これでセックスが上手くいかないはずはない。そんな確信を抱いているみつねは、あらためて景太郎に頬摺りを返した。同様に横顔にキスして笑声を抑えてから、景太郎の耳元にそっとささやく。
「な、けーたろ…ウチの中に入ってる感じ、確かめるつもりで動いてみ?奥の奥まで入ってるんやって、その感触を確かめるつもりで…」
「入ってる感じを…確かめる…?」
「せや…初めっからAV男優みたいにズコズコ抜き差ししよ思たらあかん。少しずつ腰の動かし方練習して、それからや。ほらほら、ウチもう待ってんねんで…?」
 そこまで言って、みつねはつかまったままの景太郎の右肩をペチペチと叩いて促した。ニッコリとした愛嬌たっぷりの笑顔に見守られ、さすがに景太郎も沸々と男気を高ぶらせてゆく。とはいえ失敗しないようにと意識する余り、ついつい思い詰めた表情になってしまうのは仕方がないことだろう。
 景太郎はあらためて体勢を整えると、みつねの奥深くまで挿入を果たしているペニスに意識を集中してみた。勃起しきりのペニスは、窮屈な華筒をいっぱいいっぱいに割り広げているが…ずっとそのままでいたためか、あの挿入した瞬間の何ともいえないあたたかい感触が紛れてしまっている。これはペニス自体が灼熱しているうえに、コンドームを隔ててもいるからどうしようもないことだ。別に不感症になってしまったわけではない。
キツネさんの、奥の奥まで…俺のが、入ってる感じ…
 景太郎は心中でそうつぶやき、感覚を研ぎ澄ませた。そして、膣内の感触をまさぐるよう、ぐいっ…と腰を突き出してみる。
ぬ、ぐっ…
「あんっ…!」
「ん、くっ…」
 くるみ込まれるような弾力を景太郎が亀頭で感じるのと同時に、みつねの口からは上擦った声が漏れ出た。深奥の感触とみつねの声に反応して、ペニスはたちまち疼きにも似た射精欲を呼び起こし…景太郎も鼻の奥でせつなげにうめく。
ぬ、ぐっ…ぬぐっ、ぬぐっ、ぬぐっ…
 その感触を忘れてしまわないようにと、景太郎は間をおくことなく繰り返して腰を突き入れていった。とはいえ、決して慌てたり焦ったりはしない。もちろん夢中で欲張りもしないし、そもそもできるはずがない。丁寧に丁寧に膣の深奥へとペニスを送り込み、ピストン運動のコツを感じ取ってゆく。
 不思議な心地であった。肉体的な快感はマスターベーションの方が明らかに上なのだが、この息を飲むほどの高揚感はまったく未経験のものである。気持ちいい云々以前に、景太郎はその新鮮な高揚感にただひたすら感心し、意識を奪われた。
 グラインドのストロークこそ微々たるものではあるが、それでも奥へ奥へとペニスを突き込み、深い挿入感を繰り返し堪能していると、胸苦しいほどに愛欲がこみ上げてくる。気が付けば唇を噛みしめ、呼吸を我慢してまで没頭してしまうくらいだ。
これがセックスなんだぁ…いいなぁ、セックスって…ワクワクしちゃう…
 景太郎はやがて、感心から感動へとセックスの印象を強めていった。先程までの緊張した面持ちが和らいでくれば、腰を動かすこと以外にも意識を向ける余裕が生まれてくる。
 みつねのむずがるような鳴き声…。
 みつねの柔らかな肢体…。
 みつねの汗っぽい匂い…。
 みつねの蒸せっぽい性毛…。
 みつねの小高い恥丘…。
 みつねのぬめり、すがりつき、熱…。
 そして…せつなげによがる、みつねの愛くるしい素顔。
ああっ…俺、キツネさんと…キツネさんと一緒なんだ…一緒になってるんだっ…
「んっ!んんんっ…!!」
 誰よりも愛しいみつねの、そのすべてを抱き込んでいる事実にあらためて気付き…景太郎はゾクゾクッと歓喜の身震いをきたした。途端にペニスは射精欲を充填するかのようにたくましく漲り、景太郎は思わずだらしない鼻声でよがってしまう。
 しかも膣の奥深くでの射精を遂げんとする本能に駆られ、思わず打ち据えるように腰を突き出してしまった。そのため、ぷつぷつと性毛の生えているみつねの柔肉はむんにゅりと押し上げられる格好となり、ちょうどつきたての餅のように柔軟にたわむ。
 余談ではあるが、そのむっちりと肥大している柔肉…いわゆる恥丘から大陰唇にかけての部分は、男性の力強いピストン運動に対するショックアブソーバーとしての役割も果たすのである。ただ単に扇情的なだけではない。母となるべき身体を保護するよう、実に上手くできているのだ。
 世話を焼かせっぱなしのみつねに思わぬ不埒を働いてしまい、少々狼狽えたものの…景太郎はすぐに気を取り直し、ぎこちないグラインドを再開した。
 みつねに咎められたわけでもないし、絶頂へ達するまでにもまだそれなりの余裕がある。もっともっとみつねを悦ばせたいし、もちろん自分自身も気持ちよくなりたい。
 そんな景太郎のいじましい努力は、不慣れながらも確実に成果を上げていた。
「んぅ、んぅ、んっ…せ、せや、その調子…ん、んふっ!んぁ、あんっ!ああんっ…!」
 みつねは景太郎の控えめな動きにも敏感に反応し、次第に声をあられもないものにしていった。ちょうど景太郎の亀頭によって、膣の深奥…子宮口を刺激されるためだ。
 膣や子宮はまさに女性器そのものであるのだが、同じ女性器でもクリトリスと違い、さほど敏感な部位ではない。むしろ鈍感な部類に入るものだ。
 それでも想いのこもったセックスを重ねてゆく間に、膣自体は…特に膣の終点である子宮口は、少しずつ性感帯としての素質を開花する場合がある。もちろん個人差があるのだが、みつねは子宮口を刺激されると、何とも言えないくらい幸せなくすぐったさを覚えるような体質になっているのである。
 先程アドバイスしたとおり、景太郎は奥深くへの挿入感を繰り返し繰り返し確かめるように動いているのだが…それに合わせて、パンパンに膨張した亀頭は子宮口をグイグイ押圧し、あるいは身じろぎするたびにグリグリと擦ってくる。正常位でのピストン運動に慣れようと必死になっている景太郎が意識しているはずもないのだが、それで感じる感じないは当然無関係だ。
 同時に奥深くで繋がっているため、景太郎の恥骨の辺りがさりげなくクリトリスをも刺激してくる。汗蒸した性毛どうしがサワサワと触れ合い、柔肉が押し上げられるのに合わせ、クリトリスも包皮の上から押し潰されるのだ。そのたびにピリピリとした鋭い愉悦が中枢を巡り、身体中の隅々へと女の悦びを広げてゆく。
 もう世辞抜きに気持ちいい。否、世辞など思い浮かべている余裕もなかった。演技でも何でもなく、聞かせてしまうのが恥ずかしくてならないほどの上擦り声でよがり鳴いてしまう。
 せつなげにしかめられたみつねの顔は、もう耳まで真っ赤であった。嬉し恥ずかしい快感が、今はどうしようもなくつらい。
 そんな性的興奮が高まれば高まるだけ…性的快感が強まれば強まるだけ、愛液の漏出がしとどになるのは必然的なことだ。
 夢中でセックスの悦びを堪能するうち、やがて二人の結合部からは、つぼの中の蜂蜜をかき混ぜるような音が大袈裟なくらいに聞こえてきた。その淫らにくぐもった水音を確かめようと、景太郎はグラインドのペースをわずかに落とし、グッ…グッ…とみつねの深奥を力強く突き上げるように動いてみる。
ぬぷっ…ぬぷっ…ぬぷっ…ぬぷっ…
「…な、なんか、さっきからすっごいヌルンヌルンに…」
「ん、うん…き、気持ちええさかい…気持ちええさかいっ、ウチもうべちょべちょや…」
 性感帯である子宮口を何度も何度も突き上げられ、みつねは普段より一オクターブ以上も声を上擦らせ、どうにかこうにか景太郎のつぶやきに答えた。
 ぐんっ…と子宮が揺さぶられるたびに、膣口は元気良く景太郎のペニスを締め付けるのだが…それでもグラインドが阻害されないくらい、二人の結合部はたっぷりと漏出した愛液で潤滑している。景太郎の動きはまだまだ控えめであったが、それでも華筒いっぱいに満たされた愛液は少しずつ掻き出され、今ではもうシーツの上に女くさい水たまりができているほどだ。
 今回の濡れ様はみつね自身も感心するほどであるから、童貞を卒業したばかりの景太郎が驚かないはずがない。
はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…
 景太郎はいつしか動くのを忘れ、なんとなくみつねの胸元を見つめたまま女体のしくみに感動しきりとなった。そのおかげで、執拗に深奥を攻め立てられていたみつねも愉悦の大渦から解放される。結合部のぬかるむ音に代わって、しばし二人の荒ぶった呼吸がベッドの上にたゆたった。
「キツネさんって…いや、女の人って、こんなにまでなっちゃうんだぁ…」
「何言うてんねん…こんなにまでしたんは、あんたやで…?」
「あはは…あ、謝っておかなきゃいけないトコですか?」
「ううん、ウチがお礼言わなあかんとこや…おおきにな、けーたろ。めっちゃ上手や…やっぱスケベはちゃうな」
「もう、すぐそんな風に言う…」
ちゅっ…
 甘い睦言を交わして、はにかんだ笑みを交わして…そして、優しくキスを交わす二人。
 ずっと前からこんな関係であったかのように、穏やかな雰囲気が初春の日差しの中で柔らかく溶け合う。時間の流れは本当に緩やかに感じられた。
「…けーたろ、腰の使い方…だいぶ慣れてきたやろ」
「はい…こうやって動けばいいんだなって、なんとなくだけどわかってきました」
「ほな、今度は浅いとこもお願い…。エッチもおんなじやで?奥ばっかりやのうて、浅いとこもしたり、また奥もしたり…ワンパターンやったらあかん」
「そっか…じゃあ、さっそく…」
 身を寄せ合って頬摺りしながら、みつねは小声で景太郎にアドバイスする。景太郎は素直にそれを聞き入れると、みつねの頬にキスしてから再び体勢を整えた。みつねは照れくさそうに目を細めながら、汗で額に貼り付いた前髪をそっと右手の指で退ける。

つづく。


 


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(updete 2003/07/15)