浦島、抜け!

Sex by Sex(12)

作者/大場愁一郎さん

 

 

 浅いとこなら…もう少し腰を引かないと…
 景太郎は奥深く挿入した体勢から、しりを突き出してゆくように意識して、ゆっくりと腰を戻していった。ずっと膣内に挿入されたままであったペニスがヌプヌプ引き抜かれてくると、コンドームにくるまれた幹からは湯気がほこほこと漂う。たっぷりとした愛液に濡れそぼり、淫靡につやめくその姿は、まるで茹で上げたばかりの特大フランクフルトのようだ。
「ちょ、どこまで…あっ、あかん、抜けるっ…抜けるぅ…!」
 ぴっちりと密封状態になっている膣内から、亀頭部分が見えてしまうくらいまでペニスを引き抜かれてしまうと…みつねはイヤイヤとかぶりを振ってむずがった。おもちゃを取り上げられそうになって不安がる子どものようなしぐさとは裏腹に、発情のために白濁した愛液が膣口から掻き出され、トロリと肛門へと伝い落ちる様子はまぎれもなく大人の女のものだ。
きゅっ…きゅきゅっ…きゅきゅっ…
「うわ…くっ…!」
「な、なんや…?」
 尾てい骨の辺りにまで伝い落ちてきた生ぬるさがどうにもくすぐったくて、みつねが無意識に肛門をすぼめてしまうと…突然景太郎は苦悶するような声を漏らして息を詰まらせた。腰を浮かせて、必死で結合の維持を図っていたみつねは泣き出しそうな顔のままで景太郎に問いかける。
 そんなみつねの目を見ることもできず、景太郎は時折上擦った鼻声を漏らしながら、じっと腰を引いた体勢のままで濃密な性感に打ち震えていた。
「あ、あの…き、キツネさんの入り口、こんなにきつく…」
「ははぁん…カリのとこ、めっちゃ感じるんやろ…?」
「うん…」
 景太郎の初々しい狼狽え様と、少々頼りない声音からみつねはすべての事情を察した。幾分余裕を取り戻し、いたずらっぽい目で問いかけると、景太郎はあっさりと降参して素直に答える。
 景太郎は膣口の絶妙な締め付けで、肉体的に強く高ぶっているのであった。
 奥深くまで挿入していたときも、もちろんペニスはみつねの膣口によってキツキツに締め付けられていた。しかしその際に膣口の恩恵を受けていたのは、性的には鈍感な幹であった。
 ところが今は違う。今は指でのマスターベーションでも十分に快感を得ることのできる、亀頭と幹の境目…ちょうど無骨にくびれた辺りが、まるでしゃぶりつかれているかのようにしっかりと締め付けられているのだ。わずかに身じろぎするだけでも興奮の血潮が巡り、勃起しきりのペニスは濃密な射精欲とともに雄々しく漲ってゆく。
「奥と違って、入り口はなんかコリコリしてて…あっ!い、今も締め付けてっ…!」
「んふふっ、今のはちょっと意識して締め付けたんやけど…どや、奥とどっちがええ?」
「お、奥も良かったけど…入り口の方が、もっと気持ちいいっ…」
 景太郎の困った顔が見たくて、みつねは肛門をすぼめるよう、ぐっ…と力を込めた。
 肛門から膣口にかけては、括約筋が環状で連なっている。簡単にいえば、意識的か否かを問わず、肛門がすぼまれば自ずと膣口も収縮するようになっているのだ。
 当然みつねが肛門をすぼめると、景太郎のペニスは膣口によってきつく締め上げられる。しかも力を込めている間はずっと締め上げられたままになるのだから、景太郎としてはたまったものではない。嬉しい責め苦にたちまち声を上擦らせ、半ベソのような声音で素直な感想を口にしてしまう。それを聞いて、みつねは面映ゆそうに目を細めた。
「けーたろ、締め付けだけでそないに感じてどないすんねん…動く自信、残ってる?」
「う、動かなきゃ…キツネさんだって、気持ちよくなれないでしょ…?」
「よぉし、ええ根性や…ほな、ウチも気持ちようして…。もうコツ、わかったやろ?」
「うん…」
 健気に笑みを浮かべてみせる景太郎に、みつねは何かを期待するように目を伏せ、ささやき声で求める。景太郎も静かに目を閉じると、
ちゅっ…
 鼻の奥での声で応じながら、優しく唇を重ねた。瞬間、みつねの鼻から恍惚の吐息が漏れる。キスはもはや、二人の間でかけがえのないスキンシップであるのだ。
 一度だけふんわりとついばみ合ってキスを終えると、景太郎はみつねの横顔に左の頬を摺り寄せ…そのイチャイチャと睦み合う想いのまま、ゆっくりとピストン運動を再開した
ぬ、ぷっ…ぬりゅ、ぬるっ、ぬぷっ…
「あん、あんっ、あんっ…あっ、ん、んうぅ…!」
「んっ、く…んっ、んうっ…!」
 膣の浅い部分でのグラインドに、艶めかしい水音と二人の上擦り声が柔らかにもつれ、絡まって暖かな寝室内に広がる。景太郎もみつねも確実に高ぶってきているようで、お互いよがり声を押し殺せなくなっていた。むしろその音程も音圧も、次第に高くなってきている。
すごいっ…!あ、浅いとこ、奥よりもはっきり感じるっ…!
 景太郎は膣口の締め付けにすっかり夢中となり、亀頭部分が露出する寸前の辺りで小刻みなピストン運動を繰り返し繰り返し堪能した。
 コンドームを装着しているぶん、肉体的快感はマスターベーションに比べてどうしても劣ってしまう。それも柔軟な膣の深奥部分ではなおのことであった。
 しかし膣の浅い部分…なにより膣口の締め付けは、身勝手にすらなりかねないほどの快感を景太郎にもたらしてくれる。腰を引いて内側から膣口の締め付けを感じては、ヌルンッ、ヌルンッ、ヌルンッ、と突き込むたびに、ピストン運動の心地良さが中枢に染み込んできた。それはまさに、男として生まれてきたことへの感動を覚える瞬間である。
 気持ちよかった。本当に気持ちよかった。直接的な快感にペニスもたくましく漲り、ネットリとした逸り水をコンドームの精液溜まりへと間断なく漏出してゆく。
 じわりじわりと射精欲が募ってくることすらも厭わず、景太郎はすっかり調子づいてグラインドに浸った。このまま一気に射精してしまいたいような、不埒な衝動すらこみ上げてきているほどだ。
 そんな景太郎に負けないだけ、みつねも濃密な愉悦に中枢を冒されている。景太郎は見る間にテンポの良いピストン運動を繰り出せるようになってきたのだが、そのリズミカルな動きによって、みつねは確実に絶頂へと近づきつつあった。
 景太郎はもちろん意識していないのだが、膨張しきりの亀頭が膣口付近を往復するたび、膣内のへそ側にある性感帯…いわゆるGスポットがグリグリと突き上げられる。この他人に触れられてこそ愉悦を生み出す部位を執拗に刺激され、普段より収縮気味の膣口はなお一層きつく景太郎のペニスを締め付けてしまう。
う、ウチのなか…ううん、もう身体ぜんぶ、トロトロに溶けてしまいそうやっ…!
 みつねは紅潮した顔をせつなげにしかめたまま、心中でそううめいた。
 たくましいペニスに膣を揺さぶられ、狂おしいほどの愉悦が身体中の隅々にまで広がってゆく。もはや身体中のすべてが性感帯になってしまったような気さえするほどだ。
 ときおり景太郎の胸板と、ツンと屹立したままの乳首が触れ合うのだが…そのたびにもみつねはビクンとおとがいをそらし、荒々しく鼻息を漏らしたりする。
 もう髪を撫でられたり、手をつないだりするだけでもよがり鳴いてしまいそうだ。不慣れな景太郎では考えられないことだが、グラインドと同時に愛撫などされようものならあっけなく達してしまうことだろう。絶頂感のクラスター爆弾が体内で炸裂し、景太郎の前であられもない痴態を晒してしまうに違いない。
ぬっぷ、ぬっぷ、ぬっぷ…ぬっ、ぬるぶぷぷっ…ぐんっっ…
「ひぅうううっ…!!」
 そんな恥ずかしい不安にみつねが気を焼いていた…ちょうどそのとき。
 景太郎はまるきりの不意打ちで腰を突き出し、女陰の奥深くまで一息にペニスを没入させた。しかも没入させるのみならず、ツヤツヤのパンパンに膨張した亀頭でみつねの子宮口を強く強く穿ったのである。
 何の心の準備もなく、まさに無防備であった性感帯に、鋼もかくやとばかりの破砕槌を見舞われて平静でいられるはずもない。みつねは電気ショックで跳ね飛ぶように枕の上でおとがいをそらし、ひなた荘の住人の誰にも聞かせたくなかった声で啼いた。じわっ…と恍惚の涙が溢れる。件のクラスター爆弾はあっけなく炸裂していた。
「んっ、んんんっ…んぅ…ふぁ、はふ、はふ、はふ…」
 狂おしくのけぞったまま、みつねは軽いエクスタシーに三秒ほどもその身を打ち震えさせていたが…やがてぐったりと脱力して息をついた。溢れた涙がこめかみへと転がり落ち、頬を寄せていた景太郎のこめかみをも濡らす。
 みつねの激しい反応を裸身全体で感じて、景太郎は感慨無量といった溜息を吐きながら彼女に頬摺りした。想像もできなかったみつねの反応があまりに愛おしく思えるぶん、ついついじゃれついてしまうのである。
「…けーたろのくせに…けーたろのくせにっ…」
 みつねはそう恨み言をつぶやくものの、その口調には憤りの波長が微塵も感じられない。
 むしろその声音は弾んでいた。景太郎の頬摺りにも積極的に応じ、肩につかまっていた両手はやがて抱き締めるように彼の背中へと戻ってゆく。なでなで…なでなで…と愛撫のような手つきで背中を撫でるのは、本能が抱擁でのぬくもりを切望するからだ。
 そんなしぐさに抗うことなく、景太郎もわずかに身を落として裸の胸と胸を触れ合わせた。豊満な乳房が胸板の下でむんにゅりとたわむのを感じ、景太郎は頬摺りしながらそっとみつねの横顔に口づける。
「痛くしちゃった…わけじゃ、ないんですよね?」
「知ってて聞きよるわ、もう…けーたろのくせに、やるやないか…」
「ん…まぐれ当たりですよっ…」
「んふふ…でも、今のはホンマに効いた…ホンマに効いたで…」
 ゆったりと頬摺りしながら、声を潜めて睦言を交わす二人。
 とはいえ、お互い高揚感はいよいよもってクライマックスにさしかかろうとしており…景太郎もみつねも、睦言の内容は至ってぞんざいなものになってしまう。単に高揚感のみで言葉を紡いでいるに過ぎず、すでに身体は続きを欲張っていた。景太郎は少しずつグラインドを再開し、みつねはすがりつく両手に力を込めてゆく。
 みつねの右手が背中を…左手が首筋を撫でつけるように抱き込んできたところで、景太郎はささやかな困惑に両目をしばたかせた。頬を寄せているために表情を窺うことはできないものの、ちらと横目でみつねを見遣る。
「き、キツネさん…あの、あんまり抱きついたら重くなっちゃいますよ…?」
「ううん、平気やからこのまま…けーたろの身体、擦り付けるみたいに動いてぇ…」
「こ、擦り付け…もう、キツネさんの甘えんぼっ…」
「う、うっさい…」
 持ち前のフェミニズムでみつねに気遣った景太郎であったが、彼女から大胆に求められてはたちまち胸が高鳴り、吐息が火照ってしまう。耳鳴りまで聞こえてきたほどだ。
 過剰な興奮を気取られる前に、景太郎から吐息混じりに揶揄すると…みつねは少しむずがり、ゴシゴシと強めに頬摺りした。本来であればこのままヘッドロックをかけられ、ゴツゴツとげんこつの雨霰をくらってもおかしくないところだ。
 すっかりしおらしくなったみつねにおねだりされて、景太郎も揶揄こそしたものの意地悪までするつもりはなかった。腰を引いて浅い挿入となり、膝立ちの両脚をわずかに伸ばしてみつねと身体を重ねる。みつねもそれに合わせて浮かせていた腰を下ろし、ほう…とひとつ安堵の息を吐いた。
ぬっぷ、ぬっぷ、ぬっぷ、ぬっぷ…
「あっ、あっ、んあっ…ん、んふっ…け、けーたろ…けーたろっ…」
「はあっ、はあっ、はあっ…キツネさん…キツネさんっ…」
 景太郎は覆い被さっている身体全体で揺れ動き、膣口からすぐの辺りでゆったりとペニスを往復させる。汗ばんだ肌と肌が前後に擦れ合うと、景太郎もみつねも意識することなく、感動の音律で互いの名を呼び合う。
 ぴったりと寄り添っての正常位は姿勢が楽なうえに、常に相手を身体全体で感じていられるから安堵感も大きい。景太郎もみつねも、そののんびりとさえしている交わりの中からあたたかい愉悦が生まれてくるのを感じ、くすぐったそうに相好を緩めた。なにより、互いのぬくもりをずっと感じていられることがたまらなく嬉しい。
 そのぬくもりは肌だけでなく、ぬめって悦びを分かち合っている結合部でも当然感じられる。むしろ結合部は繊細な粘膜質の部位であるだけに、その熱も、そしてその感触も格別であった。
キツネさんの中って、ホントにあったかい…すっごい、いい気持ち…
 声にこそ出さないが、童貞を卒業したばかりの景太郎はセックスの悦びに感動しきりだ。
 驚くほどの体温を秘めているみつねの膣内は活気とぬめり気に満ちていて、実に瑞々しい。プリュプリュとしている襞のすがりつきもきめ細やかで、すこぶる居心地がよかった。しかも意識してやっているわけではないのだろうが、引き抜こうとすると締め付け、押し込もうすると逆らい…まるきり天の邪鬼のように振る舞うのである。
 その想像もつかなかった淫靡な振る舞いに興奮の血潮が激しく巡り、ペニスは恥ずかしいほどに勃起を強いられた。狭い膣内、窮屈なコンドームを押し退けるよう、ぐぐっ、ぐぐっ…と漲りを増して歓喜に打ち震える。
 やはりペニスはヴァギナに納まるべきものなのだ。こうしてじっくりと交わることによって、あらためてそれを実感する。こう言ってはあまりに贅沢であるが、もうこれからはマスターベーションでは満足できないような気さえしてきた。
 一方でみつねも、景太郎との相性ぴったりの一体感に酔いしれている。
ほ、ホンマにけーたろ、童貞やったんか…?まだまだ不慣れなんやけど…ええ気持ち…
 そう勘ぐってしまうくらい、みつねは景太郎とのセックスで満たされつつあった。
 実際、景太郎は童貞であったし…セックスもまだまだ上手いとはいえない。グラインドに集中すればキスも愛撫もできなくなるし、その逆もまた同じである。
 そのグラインドにしてみても、まだまだ覚え立てでぎこちない上に、力の加減もわかっていない。テクニックに関しては、童貞を卒業したばかりであればどうにか及第点というところであろう。
 それでも、景太郎にはセックスに対する…というよりも、睦み合いに対するセンスがあった。ひとつひとつ教えればすぐに吸収するし、応用を利かせる機転も備えている。なにより、こちらの感じる部分を見付けるのが憎たらしいくらいに上手い。
 頬摺りしながら、さりげなく耳朶にキスしたり…
 身体全体でのグラインドに合わせ、胸板で乳房を大きく押し転がしたり…
 浅めのピストン運動でも、モジモジと角度を変えて攪拌するように動いてみたり…
 景太郎は単にみつねの反応をつぶさに確認しながら、必死であれこれ試行錯誤しているだけなのだが…その持ち前の一生懸命さがあるからこそ、努力は実を結んでいるのだ。みつねは為す術なく、感じるまま素直によがり鳴いてしまう。
 身体が熱くてならなかった。軽いエクスタシーのために、もはやみつねの身体全体が性感帯のように過敏となり、興奮の発汗をきたしてくる。額も、鼻の頭も、胸の谷間も、わきも、太ももの付け根も、尾てい骨の辺りも…もうどこもかしこも汗びっしょりの状態だ。
 それは景太郎も同様であり、抱きついている背中はすっかり汗みずくであった。時折浅いピストン運動を中断し、思い出したように摺り寄せてくる頬もじっとりと濡れている。
 みつねは目を伏せて景太郎との頬摺りに浸りながら、そっと右手で彼の背中を撫でた。背中だけでなく、肩や二の腕、脇腹から腰にかけて…景太郎の体付きを確かめるよう丹念に撫で回す。さすがに景太郎もくすぐったいのか、鼻の奥で吐息を震わせた。
「き、キツネさん、ちょ…く、くすぐったいっ…」
「ふふっ…けーたろもウチも、汗びっしょりや…」
「そ、そうですね…いっぱい汗かいちゃった…」
「後で風呂入らなあかんな…」
「そうですね…後で、お風呂…」
 そこまで夢うつつのような声でささやきあって…ふと妙な沈黙が訪れた。
 お互い、何かもう一言を切り出せなかったように口ごもってしまうと、それぞれの耳元には荒ぶった鼻息が聞こえるのみとなる。濡れた肌を重ねたまま、三秒、四秒、五秒…やがて汗が気化熱を奪い始め、忘れかけていた肌寒さを思い出してしまう。
ぬっ…ぬぶぷぷぷっ…ぐぐっ、ぐぐっ…
「んんうっ…!!んっ!んんっ…!!」
 そんな硬直状態をうち破ったのは、みつねの愛くるしいうめきであった。
 やおら景太郎は女陰の奥深くまでペニスを突き込み、子宮口を刺激しようと腰をグイグイ突き出してみつねの恥丘を押圧したのだ。絶頂感のために萎縮しつつあるクリトリスもそれに合わせて刺激されるため、みつねはブルブルとかぶりを振って狂おしく悶える。
「えへへ…ワンパターンじゃダメなんですよねっ?」
「あ、あほう…」
 みつねの頬に唇を押し当てながら、景太郎はどこか照れくさそうにそうささやいた。らしくもない不敵を振る舞っていることは承知の上なのだろう、リードするような素振りでありながら、ついつい緊張による生唾を飲み込んでしまう。
 みつねは苦笑半分で吐き捨てると、景太郎の方へと振り向きながら…
ちゅっ…
 そっと唇どうしを触れ合わせた。景太郎もそれを望んでいたのか、優しくついばみ返してキスに応じる。敏感な薄膜どうしがふんわりとたわめば、景太郎もみつねも満足そうに鼻息を漏らし…寝入るような穏やかさで、身体全体での密着感にしばし浸った。
ぬ、ぷっ…ぬぷっ、ぬぷっ、ぬぷっ、ぬぷっ…
「んんっ…んっ、んっ、んっ…んふっ…」
 ぴっちりと唇を塞ぎ合ったまま、景太郎は再びグラインドを再開した。その動きに同調して、みつねは骨までとろけそうな甘ったるい鼻息を景太郎の頬に吹きかける。
 景太郎も正常位での動き方がすっかり身に付き、その往復運動は当初に比べてずいぶんと滑らかになってきた。相変わらずあちこちの筋肉が慣れない姿勢と動きのために悲鳴を上げているが、それでも景太郎は休み休みでなく、テンポ良く動いてみつねとのセックスに没頭してゆく。
 ぴったりと寄り添い、キスしながらのグラインドは身体全体でパートナーを…つまりは雌性を感じることができるものだ。ひいては自身が雄性であることを極めて強く再認識できるのである。
 景太郎の雄としての本能も次第に覚醒してきて、ピストン運動はやがて労苦から愉悦へとその心地を昇華してきた。時折鼻息とともに漏らす初々しいうめきも、その音色が苦痛によるものから快感によるものへと変わってゆく。
 まさに痛快であった。世界の秘密を残らず暴いてゆくかのような高揚感に胸はワクワクと逸り、景太郎のペニスはたくましい漲りを強いられ続ける。
ずぷっ、ずぷっ、ずぷっ、ずぷっ…
「んふ、んふ、んふ、んふ…ん、んんっ…」
 その若々しいペニスにセックスの悦びをできるだけ多く染み込ませようと、景太郎はキスしたまま夢中になってみつねを貫いた。ピストンの動き自体は単調であるが、次第にそのストロークは長くなり、勢いも増してゆく。すっかり意識の外ではあるが、結合部がぬかるみ、男女の肌が打ち合う音もすごい。
 そんな景太郎の発情ぶりに触発されてか、みつねはより深い結合を求めて少しずつ腰を浮かせていった。ともすれば屈曲位にもなりかねないほどに折れ曲がってゆくのだが、これは別に淫乱癖があるというわけではない。確実な受精を期待する雌としての本能が作用しているだけのことだ。性の悦びを知った女性なら誰でもあり得ることである。
 なにより、景太郎のリズミカルなピストン運動は見事に功を奏していた。
 初々しい景太郎を観察しながら、ゆったり睦み合おうという当初の計画はどこへやら…みつねは息をつくいとまも与えられず、まるでジェットコースターのような勢いでどこまでもどこまでも高ぶってゆく。おとなしくイチャイチャを楽しんでいたはずが、今では景太郎の背中に爪を立てんばかりに抱きつき、鼻息も荒くキスを欲張っている始末である。
…これやったらウチら…ホンマに恋人どうしみたいやないか…けーたろと、恋人…
かああっ…
 そんな錯覚ひとつで、みつねはたちまち顔面を紅潮させた。過敏な耳まで真っ赤に萌えさせたまま、照れくさそうな、恥ずかしそうな、申し訳なさそうな…なんとも複雑な表情となり、慌てて錯覚をうやむやにしようと心中ででたらめに喚き叫ぶ。
きゅ、きゅきゅっ…きゅきゅっ…
 とはいえ、身体は意識に対して無情なほどに素直であった。景太郎と恋人どうしというシチュエーションが妙にフィットしてか、みつねの膣口は意志とは関係なく、彼のペニスを小刻みに…しかし強烈に締め付ける。華筒自体も艶めかしくくねって亀頭から幹からにネットリと絡み付き、景太郎に射精を促した。
 その反応が自分自身でも気になり、みつねは景太郎とキスしたまま半ベソになってイヤイヤした。先程の錯覚も、きゅんっ…と詰まるような胸の疼きも、この優しいキスを介して景太郎に伝わったのではないかと杞憂の念までこみ上げてくる。
「ぷぁ…キツネさん…」
「あ、う、うん…?」
 やおら景太郎はキスを中断し、膣口付近で小さくグラインドしながらみつねを呼んだ。みつねは軽いパニックをきたした意識のままで応じ、慌てて頬へとこぼれかけたよだれをすする。ささやかなバードキスであったはずなのに、気が付けばお互い舌先どうしでじゃれ合っていたらしい。
「あ、あの…」
「うん…」
 景太郎はどこか切り出しにくそうに口ごもり、そのままうつむいてしまった。揺らぐ程度であったピストン運動も、ついにはぴたりと止んでしまう。
 みつねは別段急かすことなく、惚けた目でなんとなく天井を眺めながら景太郎に頬摺りして続きを待った。景太郎の頬も熱々に火照っていて、それでなんとなく安心したりする。
「あのね、あの…イキそう…」
 みつねからの頬摺りに応じながらも、景太郎は無念そうな吐息混じりにそうつぶやいた。きゅっと唇を噛めば、鼻息がやたらと大きく聞こえる。
 確かに、景太郎のペニスは男としての本懐を遂げんとその漲りを極め、みつねの膣口付近をキツキツに押し広げていた。興奮の血潮は長く太く、固く勃起しているペニスの全体に巡り、射精欲を満たしている。膣内に没入したままではあるが、亀頭の怒張具合は相当なものだ。幹の中心を真っ直ぐに通っている尿道も太々と隆起しており、雄のセックスシンボルとしての無骨さ、剣呑さを存分に醸し出している。
 しかも数週間ぶりであるため、その不穏なほどに重苦しく渦巻く射精欲には景太郎自身戸惑いを隠しきれない。もちろんこのまま躊躇い無く射精を遂げれば、あの何物にも代え難い甘美な絶頂感を心ゆくまで味わうことができるだろう。それもコンドーム越しとはいえ、愛しいみつねの膣内でだ。
 にもかかわらずグラインドを止め、聞かれてもいないことを情けない声音でささやいたのは、景太郎なりの優しさ…そして臆病さ故であった。
 自分だけ果ててしまうのは身勝手なように思うし…なにより、腰をグラインドさせながらの射精が初めてであるために少々怖いのだ。今までは右手で慰め、好きなように果ててきたのだが…マスターベーションとセックスはまるきり別物なのである。
 景太郎の独語は、まさに迷える子羊が神に求める救いであった。雌に子を身籠もらせる雄としての気高さは、景太郎にはまだ戸惑いの対象であるのだ。特に景太郎は優しい気性であり、しかも勝手を知らない童貞であったのだ。無理もないことである。
 そんな子羊に対して…愛嬌たっぷりの女神は幸せそうに目を細めた。先程景太郎がしてくれたように、頬摺りしながらさりげなく横顔にキスを撃ち…ぎゅ、と両手で抱き寄せる。
「ええよ…。なんも遠慮せんと、このまま最後までしてみ…?」
「でも、キツネさんは…キツネさんは、気持ちよかった…?」
「あほう、なんでもう過去形やねん。まだ終わってへんやろ?もう一センチでも動いたら出てまうんか?ちゃうやろ?」
「そ、そうですけど…でも、キツネさんがあんまりかわいい声出すから…あと、どこもかしこも柔らかいし…キスだって、動いてるのだってすっごく気持ちいいから、もうそんなにはもたない…」
「ほほう、イキそうになったらウチのせいにするんやな。女の味ひとつ覚えたら、さっそくけーたろも偉ぉなりよって」
「そ、そういうつもりで言ったんじゃないですよっ!」
 この愛嬌たっぷりの女神は少々意地悪な性格である。とはいえ、その言葉には心からの悪意があるわけではない。むしろその言葉巧みな揶揄が、彼女の奇跡なのであった。
 おかげで迷える子羊はいつしかすっかり活気を取り戻し、はにかんだ笑みを浮かべられるまでになった。寄せた潮が返すように、あのどんよりとした射精欲も若干落ち着いて気持ちにもゆとりができる。
 これでもう、何度みつねに救ってもらったことだろう。景太郎はそう思うが、それは決して悔恨の念によるものではない。ただひたすらに幸せだった。
「…ありがとう、キツネさん。俺、キツネさんが初めての人でよかった」
「ふふっ、まぁた過去形っ。まだ最中や。まだまだ最中やっ」
「まだまだって言われると、ちょっと自信無くなっちゃうなあ…」
ちゅっ…
 景太郎は幸せそうに目を細めて謝辞を告げ、おどけてみせるみつねと唇を重ねた。
 ふんわりついばむだけのささやかなキスではあったが、女神への感謝の供物はこれひとつで十分だ。もうこれ以上のものは要らない。彼女からの恩恵に、精一杯頑張って応えるのみである。
ぬるっ、ぬるっ、ぬるっ…
 あらためて景太郎は下肢に力を込め、ゆっくりとグラインドを再開した。膨張しきりの亀頭で、コリコリと固いくらいに収縮しているみつねの膣口を確かめるよう小刻みに往復する。やはり膣口による刺激は強く、やんわりと落ち着きを見せていたペニスはたちまち興奮の血潮を巡らせてたくましく漲った。
「んっ、んんっ…んふふっ、けーたろの…ググッって大きなった」
「キツネさんのがきつく締め付けるから…そう感じるんじゃないんですか…?」
 愛しげに見つめ合って、二人は嬉々として睦言を交わす。浅い部分でのピストン運動を続けながら景太郎からもう一度キスすると、みつねはしおらしくそれに応じた。
 唇が離れてゆくと、みつねは一瞬寂しげな目になり…一層強く景太郎の背中を抱き寄せてしまう。そんなみつねをなだめるよう、景太郎は再び左の頬を寄せてゆったりと摺り合わせた。頬摺りとグラインドに酔いしれて、みつねの吐息にはかわいいさえずりが混ざってくる。
 その音律はとびきり官能的であり、たいていの男なら数分も保たずして腑抜けになってしまうことだろう。思春期を迎えた小学校高学年の男の子であれば、その声が耳から離れず、毎晩のように思い出しては自慰に耽るに違いない。
 それだけ、みつねは景太郎とのセックスに夢中になっていた。
 景太郎の小刻みなピストン運動によって、みつねは膣口とGスポットの両方をいっぺんに愛されている格好である。引いては膣口が内側から押し広げられ、寄せては華筒のへそ側で微かなしこりとなっているGスポットを押圧されるのだ。
 間断のないリズミカルなグラインドによって、みつねの性感帯からは交互に愉悦が迸り…彼女をひどく貪欲にさせる。むろん初体験ではないのだが、この濃密な性感は本当に病みつきになってしまいそうだ。
ぬるっ、ぬるっ、ぬるっ、ぬるっ…ぬぷぷぷっ…
「あん、あん、あんっ…あ、あああんっ!!う、ううう…」
「はあっ、はあっ、はあっ…んくっ…」
 みつねが入り口付近でのピストン運動に身を委ねていると、景太郎はまた華筒の奥深くまでペニスを突き入れてきた。子宮口を押圧されたみつねは大胆なほどの声でよがり鳴き、奥深くでの一体感に言葉もなく浸る。
 景太郎も同様であり、荒々しい息遣いをみつねの耳元に聞かせるだけで睦言のひとつもない。何度味わっても飽きの来ないあたたかな挿入感に感動しきりで、言葉を紡ぐことすら億劫なのだ。
 亀頭から幹からにぴったりとすがりついてくる、愛液にまみれた襞の群れ…。
 逃すまいとしてか、キツキツに根本付近を締め付けてくる膣口…。
 生々しいほどに生命力を感じる、子宮口付近での熱…。
このすべてを…キツネさんのすべてを独り占めしたいっ…!
 もう決して後には引けないほどに高ぶり、いよいよクライマックスを迎えようとしている景太郎の胸に、やおら後ろ暗い独占欲の炎が渦を巻いて燃え盛った。愛しさの裏返しでもあるその衝動に胸は焦がれ、吐息が震える。
ずっぷ、ずっぷ、ずっぷ、ずっぷ…
「あんっ!ちょ、急に…んぁ、あんっ!ああんっ!!い、いい、いいっ…!!」
「キツネさん…キツネさん、キツネさんっ…!」
 景太郎は下から抱き込んでいたみつねの肩に力を込めると、彼らしからぬ激しさでグラインドを始めた。大胆なまでのストロークで華筒の全長を貫き、弾力と熱を秘めているみつねの子宮口を乱打する。その動きはまるで、みつねの性器が有している今までの男の記憶を拭い去り、景太郎自身のデータを上書きしようと躍起になっているかのようだ。
 ふんにゅりと垂れ下がっている陰嚢も往復運動に合わせて揺れ動き、ころん…と内包されている二つの睾丸が、ぽてんぽてんとみつねの尻肉で弾む。
 本来なら独特の鈍痛をきたすところであるが、双子の睾丸はそれをたっぷりと精製してきた精子の開放の合図と認識してか、逆に身体の芯から震えが来るほどの射精欲をペニスに殺到させるのだ。戸惑うみつねを気遣う余裕も喪失し、ただ愛しい女の名を連呼してしまう景太郎の気持ちをせめて今だけは察してあげてほしい。
 とはいえ、みつねは景太郎の振る舞いに苦痛や嫌悪を覚えているわけではない。
 三度も軽いエクスタシーに達しているため、この嵐のように激しいピストン運動は極めて効果的であった。確かに動き自体は単調であるが、息継ぎすらできないほどに間断のないグラインドに、みつねの意識はたちまち真っ白な閃光に飲み込まれてゆく。もう景太郎のことと、気持ちいいという事実、それだけが頭の中をグルグルと駆け巡っている状態だ。
 その爽快ともいえる快感の大渦に身を任せるあまり、みつねの腰はすっかり浮き、陰部をまるまる上向かせるほどに身体を曲げてしまっている。それに合わせて景太郎も膝を浮かせて身を乗り出すようにし、いつしか二人は屈曲位のような体勢で交わっていた。二人の足下にまわると、結合部はまさに丸見えの状態である。
 太々としたペニスを真上から繰り返し繰り返し突き込まれている秘裂は、まさに凄惨という言葉が相応しい。いっぱいいっぱいにまで押し広げられた粘膜質の膣口は、景太郎の大胆なグラインドに合わせて押し込まれたり、めくり出されたりしている。もちろん白濁とした愛液のために、たくましいピストンと窮屈なシリンダーとの潤滑はすこぶる良好なのだが…そのぶんぬかるむ水音、肌と肌のぶつかり合う音はいよいよ盛大になってきた。
 その音とともに、膣口から肛門からはきゅんきゅんと元気良くすぼまり、みつねの興奮の丈をありありと示している。しかもそれらすべてがたっぷりと漏出した愛液にまみれ、ヌラヌラと艶めいているのだから、まったくもって淫靡極まりない。
ぬぷっ、ぬぷっ、ぬぶっ、ずぶっ、ずぶっ…
「はあっ、はあっ、はあっ…キツネさん…くっ…き、キツネさんっ…!!」
「あんっ!あんっ!あん…んぁ、んっ、んんぅ…!け、けーたろっ!けーたろっ…!!」
 火花を散らすように激しく交わりながら、二人は想いのままに名を呼び合う。その辺り憚らない嬌声は、ひなた荘を訪れた人間が耳を澄ましたなら十分聞かれてしまうほどに情熱的であった。
 受験勉強も、管理人としての務めも、遠い昔の約束も…
 ささやかな憧れも、失恋も、それによる失望も…
 二人は何もかも忘れ去り、一心不乱で情事に耽る。今はもう互いを感じるだけで胸がいっぱいであった。もうこのまま、ミルクのように溶け合ってしまいたいくらいに互いが愛おしい。互いのすべてが愛おしくてならない。
 その焦がれるほどに熱い想いは、先に景太郎の身体に作用をおよぼした。数週間ぶりの懐かしい期待感がペニスいっぱいに満ちてきて、景太郎はきつく唇を噛みしめる。
 次の瞬間、景太郎は組み敷くような力でみつねの肩を抱き締めた。雄としての本能に駆られるまま、その瞬間を彼女の深奥で迎えようと目一杯に腰を突き込む。
びゅううっ!!
「んんんっ!!」
「あっ…!」
びゅうっ!びゅるっ!びゅるるっ!
「んっ!!んんっ!!んんんっ…!!」
「あふ、あっ…け、けーたろっ…あぅ…ん、んっ…」
びゅくんっ、びゅくんっ、びゅくん…
「んふぅ、んふぅ…ん、んんっ…ん…」
「はふ、はふ、はふ、はふ…」
 景太郎は想いの丈を絶頂感にし、おおよそ七秒ほどの時間をかけてみつねの体奥へと注ぎ込んだ。それも大量に、とめどなく…。
 景太郎はみつねの深奥…それこそ子宮口をグイグイ押圧したまま盛大に射精した。我慢に我慢を強いてきたぶん、太々と隆起したパイプの脈動も怒濤のごとくであり…ゼリー状に近い濃厚な精液は、先端の鈴口から破裂のように飛沫き出た。
 とはいえ、その生命の源はみつねの子宮へと流れ込むことはない。丁寧にかぶせたコンドームは先端の精液溜まりをぽんぽんに膨らませ、亀頭と幹の境界を成すくびれの辺りにまでたっぷりと逆流させながらも、その役目を堅実に果たしている。
 それでもその絶頂感は、マスターベーションのそれとは比べものにならなかった。形だけであるとはいえ、愛しい女性の胎内へと精を注ぎ込むことができた悦びは例えようもないほどに胸が空く。一瞬おもらしをしたように思えたあたたかさは、たちまち至福の達成感となって男心を酔わせてくれた。
 しかもマスターベーションのような開放状態での射精ではなく、密封された状態への射精であったから快感も倍以上であった。ペニスは力を振り絞って射精を遂げようとするため、その普段以上にたくましい脈動は驚くほどの快感をもたらしてくれたし…そのうえそれが長時間に渡ったのだ。一回の絶頂でできるだけ多く射精しようとする本能のおかげであるが、そのため景太郎は思わず随喜の涙をこぼしてしまったほどだ。
 余韻も凄い。セックスの悦びを知った身体はすぐさま気怠いほどの疲労感に見舞われるが、その気怠さが何ともいえずに心地良い。こうしてみつねを抱き締めたままであることも大きかった。柔肌と膣内のぬくもりを感じたまま、景太郎は身じろぎひとつせず、いつまでもいつまでもみつねとの一体感に浸り続ける。
 また、あれだけ大量に放ったにもかかわらず、ペニスはみつねの奥深くまで没入したまま相変わらず脈動を繰り返していた。これも余韻の素晴らしさ故であろう。
「んふふ…けーたろ、ぎょおさん出た…?」
「ん…」
「スッキリした…?」
「ん…」
「気持ちよかった…?」
「ん…」
「なんやねん、生返事ばっかしよってからに…ふふふっ…」
 景太郎の重みを感じながら、みつねは彼の頭を左手で抱き寄せ、慈しむように撫でながら小声で問いかけた。景太郎はいまだに絶頂感から解放されないのか、どの質問にも小さくうなづくのみである。下肢も余韻に浸るようすっかり脱力しており、真上を向かせたみつねの腰に乗っかってきている始末だ。
 それでもみつねは気を悪くしたりはせず、うっとりと目を細めて何度も何度も景太郎の髪を撫でてやった。落ち着きを取り戻してきた鼻息を耳元に聞くと、そっと左の頬を寄せてもやる。景太郎はすぐさま甘えてきて、すりすりと頬摺りしてきた。それでみつねはますます目を細め、自らも頬摺りでじゃれついてゆく。
 純然たるエクスタシーに登り詰めることはなかったが、みつねも爽快感に満たされていた。肉体的にもたっぷりと愉悦を味わうことができたし、なにより傷ついた女心は徹底的に癒された。気が置けない親友である景太郎とおしゃべりを交わし、キスを交わし…じゃれ合い、睦み合い、交わり合うことはとびきりのストレス発散になったのである。
 景太郎が絶頂を迎え、膣の奥深くで爆ぜまくったとき…みつねは嬉しくもあり、照れくさくもあり、恥ずかしくもあり、そして寂しくもあった。この情事がもう間もなく終わってしまうのだと、一瞬でも儚んでしまった。
 それくらい…景太郎とのセックスは素晴らしかった。
 もちろん、今まで身体を重ねてきた男は全員女を知っていたし、景太郎よりずっとテクニック豊富な者ばかりであった。中には確実にエクスタシーまで導いてくれる、怖いほどの男もいたくらいだ。
 それでも、身体も気持ちも相性ぴったりである景太郎とのセックスは素晴らしかった。なにより楽しかった。飾ることなく、気取ることなく…素のままの紺野みつねでセックスを楽しむことができたのは、これが初めてではないかとさえ思う。
「けーたろ…」
 繰り返し髪を撫でながら、みつねはなんとなく彼の名を呼んでいた。夢見心地でぼんやりとなった意識の中、もう少しだけこのままでいたいというわがままな想いが広がってくる。景太郎の髪を撫でていた左手もいつしかその動きが止み、頑なな力で抱き寄せるのみとなってしまう。
 こうして汗ばんだ肌を重ねているだけでも、すこぶる快適なのだ。すっかり過敏となった柔肌は、景太郎とぬくもりを分かち合っているだけでも猫撫で声が漏れそうなくらいに気持ちがいい。不意打ちで撫で回されようものなら、それだけでも身悶えしかねないくらいに身体は高ぶりきっていた。
「…キツネさん…」
「あ、や…んぅ…」
 そんなみつねの寂寥を知ってか知らずか…じっと余韻に浸っていた景太郎は、やがて彼女の左手からするりと逃れるように頭を上げた。それでみつねは思わずむずがるような声をあげてしまい、女々しさに自己嫌悪して唇を噛む。
「キツネさん…」
「なんや…?」
 再度の景太郎の呼びかけに、みつねはどこかぶっきらぼうな口調で応じる。見つめ返す逆恨みの眼差しは危なっかしく潤んでいた。
「…好きですっ」
「…なっ…あ、あのっ…」
「俺、キツネさんが…キツネさんのことが好きですっ…!」
ちゅ、むっ…
 それは、あまりにらしくない身勝手。あまりにずるい不意打ち。
 景太郎は狂おしいほどの衝動に突き動かされるまま、熱っぽい口調でそう告げると…狼狽えるみつねをそのままに、前歯どうしがつっかえそうな勢いで唇を奪った。そのまま二人のお気に入りの角度に小首を傾げ、ぴったりと吸い付く。
 まったく予想外の事態が立て続けで起こり、みつねは軽い混乱をきたして意識を白と黒に明滅させた。それに合わせて、ぱっちり見開いた両目をしばたかせていたのだが…やがて事態を把握すると、たちまちのうちに両目の潤みが増し、まなじりから大粒の涙がこぼれ落ちる。
あ…イク…
 胸の真ん中で歓喜の想いが破裂した途端、みつねは身体中がいっぺんに火照り上がるのを感じた。意識は不思議なくらい冷静にそれを分析し、景太郎の背中を強く抱いて身構えさせる。
 そして…景太郎に遅れることほぼ一分。みつねにもその瞬間は訪れた。
「んっ!んんんっ…!!んん、ふっ…!!」
 恍惚の鼻声で涕泣すると、やけに落ち着いていた意識も法悦の大津波に飲み込まれ…やがてみつねは、その身も心もすべてが性の悦びだけになってしまった。その過負荷に精神が崩壊しないよう、中枢は失神と覚醒をストロボのように繰り返し、エクスタシーによる圧倒的な快感を断続的に享受してゆく。
「ん…ん、んっ…んぅ…んぅう…」
 時間をかけて、ゆっくりとエクスタシーへ登り詰めたみつねはぽろぽろと随喜の涙を流し、その発育良好な身体をぴくんぴくんと打ち震えさせた。景太郎とキスしたままであるため、小さな鼻から熱い吐息が不規則に漏れ出る。
きゅきゅきゅっ…きゅきゅきゅっ…
 華筒は女としての務めを果たさんと、没入したままで萎縮することを知らない景太郎のペニスをねちっこい動きで搾り込んでいた。膣口は確実な膣内射精を期待して、責め苦のように幹を締め上げる。もちろん景太郎は思い切りよく果てた後であるから、これらの反応にはなんらの意味もない。意味があるとすれば、女の健気さを存分に知ってもらえることくらいであろう。意味はなくとも、意義は十分にあるといえそうだ。
あ…これ、キツネさんも…
 心地良い気怠さに満ちているペニスであっても、みつねの反応は確かに感じられる。
 景太郎は陶然たる意識の中でそれを気取ると、たちまち愛しさを体内に押し留めきれなくなり、熱い溜息にしてみつねに吹きかけた。いつまでもこうしてのしかかっていて、負担をかけているという自覚はあるものの…今なお残る絶頂の余韻のために身動きひとつ取ることができない。もっとも、みつねも景太郎の背中にしっかりとすがりついているためにどうすることもできないのだが。
ちゅむ…ちゅむ…ちゅむっ…ちゅむ…ちゅむ…ちゅむっ…
「んぅ…んぅ…んっ…んふぅ…んぅ…んぅ…んっ…」
 せめてもの免罪符になればと、景太郎は絶頂に登り詰めて気をやっているみつねといつまでもいつまでも唇を重ねた。息苦しくしないように意識して、下唇をついばみ…上唇をついばみ…そしてぴっちり塞いで…と、ゆっくり丁寧にキスを続ける。
 みつねも後戯さながらのキスが達した身体に嬉しいのか、かわいらしい鼻声は一向に途切れない。いまだ絶頂感からは開放されないのか、ほっそりとしたあごは儚げに微震していた。
 それでもやがて、セックスならではの心地良い疲労感が二人にまどろみをもたらしてくる。猫撫での鼻声はみつねから…やがて景太郎も、穏やかな寝息へとその音色を変えていった。
んぅ…せめて、退かなきゃ…
 そう思うのが精一杯であり、景太郎は為す術なくまどろみの深淵へと吸い込まれていった。みつねに頬摺りするよう頭をもたげ、ぐったりと脱力してまるまる体重を預けてしまう。
 それに合わせて、浮かせていたみつねの腰も愛液溜まりでべちょべちょのシーツの上へと静かに戻った。両のかかともシーツに着くと、そのままズルズルと滑って脚が伸び、ゆったりとした仰向けの体勢となる。
あったかくって、いい気持ち…ホントに夢みたい…
 奥深くで繋がったまま、ぴったりと寄り添って寝息を立てる二人の想いがひとつになる。
 本当の恋人のように仲睦まじい二人のセックスは、こうして夢の中での延長戦へともつれ込んでいった。

つづく。


 


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(updete 2003/07/15)