浦島、抜け!

Sex by Sex(7)

作者/大場愁一郎さん

 

 

 景太郎は上体を戻すと、豆鉄砲を食らった鳩のようにぽかんとしているみつねの前でにっこりと笑った。小春日和を思わせる穏やかな笑顔のまま、胸の前でぺちんと両手を合わせてみつねを拝むようにする。
「ごめんなさいっ!からかったりして」
「こ…こっ、このどあほうっ!くっだらんことしよってからに…!」
「えへへ…わ、ちょ、痛いっ!痛いってば、キツネさんっ!!」
「やかましいっ!ウチがどんなにドキドキしたか、あんたにわかるんかっ!!」
「き、聞こえてましたっ!伝わってましたからっ…痛い痛い痛いっ!!ごめんなさいっ!ごめんなさいーっ!!」
 みつねは声を震わせたかと思うと、たちまち危なっかしい泣き笑いの表情となり…再び景太郎に強くすがりついた。
 しかしその両腕と腹筋には粗暴なほどの力がこもり、からかわれた仕返しとばかり、景太郎をさば折りの状態にしてゆく。その圧倒的な力に抗うこともできず、激痛に見舞われた景太郎は情けない悲鳴をあげ、必死になって許しを乞うた。
 とはいえ、いかに激情が揺り動かされたといっても、別に苛烈なまでの暴力衝動に憑かれたわけではない。あくまで照れ紛れであったから、みつねはすぐにさば折りの責め苦から景太郎を解放した。
「いててて…ホントにごめんなさい、キツネさん…」
「ふんっ…」
 解放されるなり、景太郎は痛む背中を撫でつつ安堵の息を吐くが…みつねはそれでもなお不満そうに口許をとがらせている。両手で乳房や股間を覆い隠し、ぷいとそっぽを向いている様子は見るからにふてくされていることをアピールしてのものだ。
「機嫌なおしてよ…ね、キツネさん…」
「もう知らんっ。乙女の純情をもてあそびよって…」
「…だったら、やっぱり言っちゃっおうか?俺の気持ち…」
「あ、や、こらっ!!いつもそんな…や、やめ、くすぐったい…んっ…」
 すっかりヘソを曲げたように振る舞い、話を聞こうともしないみつねに…景太郎はそっと右手を伸ばし、彼女のあごの線から首筋からを撫でた。指先で髪を退けながら耳の裏をくすぐると、みつねはビクンと肩をすくめてむずがる。
なでなで…なでなで…なでなで…
 そのまま火照った頬を丁寧に撫でると、みつねはそっぽを向かせていた顔を少しずつ景太郎に向けてきた。初めは非難がましい目で睨んでいたのだが、その目もやがて心地良さそうに細まり、幸福感でいっぱいのはにかみ笑顔となる。景太郎の愛撫は、もはやみつねの女心にとってなによりの特効薬となったようだ。
「ん…んぅ…ホンマに、そんなせこいことばっかしよったらあかんで…?」
「ははは…でも今のキツネさん、すっごいかわいい…。なんか、女の子なんだなあって実感して…ホントにドキドキしてくる…」
「なんやて?ほな、今までのウチは女に見えとらなんだっちゅうことかいな?」
「そ、そういうわけじゃないですけど…今の俺達って、ホントにひとりの男と女なんだって、なんだか興奮しちゃって…。今まで男とか女とか、そんなに意識しないで来たから…こうやって照れくさそうにしてるキツネさんが、なんだかもうひたすらかわいくって…。あはは、なんか変ですね…さっきから俺、なになにって、ってばっかり言ってる…」
「けーたろ…」
 揚げ足を取ったみつねの揶揄も、純粋な感動と興奮に身を奮わせている景太郎にはいまひとつ効き目がない。逆に景太郎の初々しい高揚ぶりにあてられ、みつねの胸の内圧が高まってくる。
 景太郎が吐露した心境は、ちょうど今みつねが抱いていたものとまったく同じであった。みつねもまた、景太郎の予想外の男らしさに感慨を深めていたのである。
 比較的筋肉質に見える体躯はもちろんのこと、抱き締める腕の力、想いのこもった愛撫、一途な光を湛えた瞳…それらすべてが、昨日までの景太郎を忘れさせてしまうのだ。どれだけ思い返そうとしても、これほどまでに頼もしかったかという不思議な違和だけが霞のように思考を遮り、いま目の前にいる景太郎をますます見惚れさせてゆくのである。
「ウチも…今のけーたろ、めっちゃ男らしぅ見える。相変わらずのほほんとしてて、かわいらしい顔しとるんにな」
「えへへ…お世辞だってわかってても照れますね、こんな風に言われるのって」
「世辞なんかとちゃうって…。昨日今日とウチに気ぃ使ぉて、一生懸命になっとるからそう見えるんちゃうかな。一生懸命になってるヤツって、みんなかっこええもんや…」
 頬を撫でてくる景太郎の右手に、そっと左手を添え…みつねは感じるままの素直な印象を彼に告げた。照れながらも景太郎は控えめな素振りを見せるが、みつねは決して贔屓目になど見ていない。彼女が言うとおり、何事に対しても一生懸命になっている姿というのは人を惹き付けてやまないものである。一途な想いのままに奮闘している景太郎だからこそ、みつねは女心に…そして、傷ついた恋心に感じるものがあったのだ。
ふわり…
「キツネさん…」
「ん…ベッド行く前に、もうちょっとだけ…」
「うん…」
 舞い込むような優しさでみつねが寄り添い、艶めいた甘え声で頬摺りを望めば…景太郎は二つ返事で彼女に応える。抱き込んだ右手で丁寧に茶髪を撫でつつ、ゆったりと右の頬どうしを摺り合わせてみつねと幸福感を分かち合った。
 お互い言葉にこそ出してはいないが、それぞれを想う気持ちは今まで以上に固い絆となり、二人の心を繋いでゆく。その結束を確かめるよう、景太郎は左手を…みつねは右手を触れ合わせ、じゃれつくように指を絡めてエッチ繋ぎとなった。今さらながら…否、今だからこそ、その感触が面映ゆい。
「俺、初めてだからすっごい下手くそだと思うけど…キツネさんの嫌な気持ち、全部忘れられるように頑張るから…」
「エッチの方は、ずうっと忘れられんようなエッチにしよな…」
「うん…」
「忘れられんってゆうても、あんまりヘンタイっぽいプレイは堪忍やで?」
「わ、わかってますよ、もうっ…」
「あん…ん、んんっ…」
ぶちゅっ…
 互いの耳元にささやく、ホイップクリームもかくやとばかりの甘やかで柔らかな睦言と戯れ言に、二人は中枢を熱く奮わせた。しきりに頬摺りしていたのも束の間、景太郎もみつねも居ても立ってもいられなくなり、夢中で唇を重ねる。
ちゅむ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅうっ…
 二人は目を伏せたまま小首を傾げ、重なる角度を大きくして強く吸い付き…愛欲の燃焼に拍車をかけていった。ささやかな水音が薄膜どうしの隙間で響けば、エッチ繋ぎしている手にも、ぎゅっ…と力がこもる。景太郎に至っては、みつねの髪を愛撫していた右手で、思わず彼女の頭を押さえ付けてしまうくらいだ。
ちゅっ…ぴ、ちゅっ…ぷ、ちゅっ…ぷ…
「んんっ…ぷぁ…ん、んっ…ん、ぷぁ…んんんっ…」
 みつねをキスから逃れられないようにしてしまうと、もはや発情しきりとなった景太郎はキスのねちっこさを際限無く増していった。
 ついばんでは割り開き、ついばんでは割り開き…そんな少々強引なバードキスを繰り返すごとに、景太郎はだらしない鼻声を漏らして悦に入る。ぷっちゅりと吸い付いた瞬間の、唇どうしがたわみ合う儚い感触がすっかり気に入ってしまったのだ。もちろん密着に浸る長いキスも大好きなのだが…こんなささやかなキスでも何度となく欲張ると、狂おしいほどの焦燥感がシャンパンの泡のようにプチプチ弾けて消えてゆくようで、実に気持ちがいい。
 それに、みつねは今まで何人もの男と数え切れないくらいのキスを経験してきているのだろうが…こうしてキスを繰り返していると、まるで自分こそが一番たくさんみつねとキスしている男であるかのように思えてくる。そんなくだらない錯覚ひとつでも、景太郎の胸に潜む独占欲は存分に満たされ…男心は今が盛りとばかりに奮い立ってゆく。
ズキン、ズキン、ズキン…
 キス、エッチ繋ぎ、感触、ぬくもり、匂い、音…
 そんなありとあらゆる性的興奮の源が濃縮され、情欲となって注ぎ込まれているかのように…景太郎のペニスは雄々しく漲っていた。幾重にも血管を巡らせている幹はガチガチに強張り、ツヤツヤのパンパンに膨れ上がっている先端は赤黒く充血して、きたるべき瞬間を今か今かと待ち侘びている。否、きたるべき瞬間を渇望し、景太郎を急かしていた。
 思春期の盛り…それこそオナニーを覚えたばかりの男の子はその素晴らしい快感の虜になり、オナニーが日課のようになってしまうこともあるという。その状況を揶揄して、ペニスに身体が付いている、と称することがあるが…今の景太郎はまさにそれであった。景太郎にペニスが付いているというよりも、ペニスに景太郎が付いているといった方が相応しい状態なのである。
 現に景太郎は勃起しきりのペニスが疼くまま、夢中でみつねと唇を重ねている。ねちっこいキスには二人で抱擁を楽しもうという余裕はなく、せつない衝動を少しでも慰めたいという独善的な気持ちがこもっているのだ。
エッチしたい…もうオナニーでもいいから、射精したいっ…
「ん、んふぅ…」
 劣情に満ちたペニスからの要求に逆らえなくなり、景太郎は鼻から深く嘆息した。小刻みなキスを中断して、しばしぷっちゅりと密着を維持し…エッチ繋ぎしていた指も一旦拡げ、一本ずつずらして繋ぎ直す。
 これは情欲に支配された身体が無意識にとった行動だ。身体全体で異性を…みつねを感じようと貪欲になっているのである。このままだと、またみつねの身体に勃起しきりのペニスを擦り付けてしまいそうだったが…もはや歯止めは効かせられそうにない。ペニスに主導権を奪われている景太郎は為す術無く、ただぼんやりとキスの悦びを堪能し続けるのみだ。
 そんな景太郎の心理を敏感に察知して…みつねはキスしたまま、そっと左手を自分達の隙間に忍ばせた。
もにゅっ…
「ん、んんっ…!ふ…んぅ…」
 その左手がふんにゃりと垂れ下がる陰嚢に触れてきたので、景太郎はキスしたまま鼻の奥で鳴いた。とはいえ睾丸自体は性感帯ではないので、温かな掌にすっぽりと包み込まれても、今まで以上に高ぶることはない。むしろ羞恥と悪寒で鼻息が震えてしまう。
 まるきり怯えた様子の景太郎を気遣うよう、みつねはほっそりとした指を陰嚢にじゃれつかせ、努めて丁寧に双子の睾丸をもてあそんだ。
ころん、ころん、ころん…
 生ぬるい陰嚢ごと、内包されている睾丸を揉み転がしては摺り合わせたり…
ぽん、ぽん、ぽん…
 揃えた指ですくい上げるよう、掌の中で小刻みに跳ねさせたり…
ぎゅうっ…ぎゅうっ…
 左右それぞれの形を確かめるよう、ひとつひとつ握り込んだり…
 こうして触診すると、景太郎の睾丸はみっしりとした質量を秘めていて、大きさもうずら卵より二周りほども大きい。それに手応えもあり、長い間射精させてもらっていないのであろうことが如実にわかる。毎日のように射精していれば、睾丸も疲弊して小さく萎縮するものだが、これほどまでに充実するには相当長い間禁欲生活を送らなければいけないはずだ。先程から下腹に押し付けられたままであるペニスの漲りようからも、これはもう間違いないことだろう。単に若さゆえというだけでは証明できない。
ホンマ、かわいい顔してとんでもないもん持っとるわ…
 みつねは景太郎とのねちっこいキスに浸ったまま、期待と興奮に胸を高鳴らせた。思わず生唾を飲み込み、んく…と喉を上下させる。
 一方で景太郎はみつねの触診に、キスしたまま小さくイヤイヤしてむずがりどおしである。中でも睾丸を握り込まれるのが一番堪えた。ころんころんと転がされるだけでも下腹に悪寒が拡がるというのに、確かな握力で圧迫されては鈍痛すらこみ上げてくる。
 絶対にそんなことはありえないと思いながらも、もしこのまま握りつぶされたらという不安を抱いてしまえば…たちまちキスを楽しんでいられる余裕は消失した。頭を押さえ付けていた右手も、今さらながら恐縮するようみつねの肩にかけたりする。
「ぷぁ…き、キツネさん、そこはそおっと…おねがい…」
「ん、痛くしてもぉたか?」
 じっと目を伏せたまま、景太郎はみつねの唇にささやきかけるように哀願した。その頼りない声音を唇に感じて、さすがにみつねも度が過ぎたかとほぞをかむ。
「こんな大っきなっとるさかいな、ちょっとやりすぎてもぉたかもしれへんな…。ほぉら…堪忍してや…」
「うん…」
 みつねはおもちゃにしていた小魚をそおっと逃がしてやるよう、左手の中から優しく陰嚢を解放した。それで景太郎は一安心とばかり、ほっ…と安堵の息を吐く。
 みつねの謝辞に小さくうなづけば、幾分落ち着きも戻ってきた。キスの余韻が唇にまだ残っているのに気付いて、妙に照れくさい。
 みつねの愛嬌たっぷりの微笑を眼前にして、これほどまでにかわいく、なにより愛しい女性とねちっこいキスを重ねてきたのかと実感すれば…もう天にも昇ってしまいそうな心地になってくる。浮き足立つとはきっとこんな状況のことをいうのだろうと、景太郎は幸福感の中でぼんやりと思った。
「はは、ははは…ごめんなさい、俺だけ夢中でキスしちゃって…」
「ううん…。そんな事言わんと、ベッドでもいっぱいキスしてくれたら…ウチ、めっちゃ嬉しいねんけど…」
「こっちこそ…。キツネさん、ベッドでもいっぱいキスさせてくださいね…」
「ん…」
ちゅっ…
 吐息が顔にかかるほどの距離で睦言を交わし、もう一度だけと唇を重ねた瞬間…
ぎゅうっ…
「ぷ、んあっ…!!」
 みつねが勃起しきりのペニスを左手で握り締めてきたので、景太郎はキスを中断してよがり鳴いた。興奮の血潮が粘膜質の先端に殺到し、ぐっ…と漲りを強くする。
なで、なで、なで…しこ、しこ、しこ…
「あっ、あっ、んあっ…!き、キツネさんっ!ちょ、あっ…ん、んんっ…!!」
 思いがけないみつねからのペッティングに、景太郎は一オクターブ以上も上擦った情けない声であえいだ。反り返って勃起する裏側を手の平で撫でられ、次いでくびれの辺りを親指と人差し指でこさえた輪っかで絞められてから、そのままゆっくりと上下にしごき立てられ…景太郎は身体の芯から震えをきたす。
 みつねに丁寧なペッティングを施されるごとに、背伸びするように少しずつかかとが浮き上がり、徐々に腰を突き出す体勢になっていくのだが…なにもこれは景太郎が意識してやっているわけではない。長い間射精の悦びに飢えている身体が一人歩きし、下品なほどに欲張ってしまうのだ。おのずと右手も彼女の肩をつかむように抱き寄せ、左手はエッチ繋ぎの握力を強めるが…それはまるで景太郎の良心がみつねに救いを求めているようにも見える。
「だ、だめ…だめえっ…!」
「ふふふっ、エッチくさい声になってきとるで?こっちはちょっと強めにしたほうがええんやろ?ずいぶんと御無沙汰なんやろぉしな…」
 追いつめられて絶体絶命であるかのような景太郎の反応に、みつねは満足そうに目を細めた。労るような言葉にはしかし、大人びた女の色気がたっぷりと込められている。思春期真っ盛りの少年であれば、もうこの時点で射精を遂げていることだろう。
 景太郎はオナニーで刺激に慣れていることもあり、そこまで無様に果ててしまうことはないが…それでもみつねはありとあらゆる手つきでペニスを悦ばせようとする。
しこ…しこ…しこ…
 膣内に挿入する瞬間の刺激を疑似体験させるよう、亀頭だけをゆっくりとしごいたり…
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ…ぷに、ぷに…むに、むに…
 ガチガチに強張った幹や、ツヤツヤに膨張した亀頭を握り締めたり、指圧したり…
しこ、しこ、しこ…にぎゅっ、にぎゅっ、にぎゅっ…
 くびれの辺りを左手でこさえた筒で刺激しては、幹から包皮ごとしごき立てたり…
 みつねのペッティングは実に巧みであった。ジーンズの上から撫でられても相当な快感を得られたのだが、こうしてじかに触れられると、本当に男の悦ぶポイントをわきまえていることがわかる。
す、すごい…もしかしてキツネさん、俺より上手…?
 他人に触れられるだけでも感覚は鋭くなるものだが、それを差し引いてもみつねの愛撫は気持ちがいい。精通して以来、景太郎は十年近くペニスと苦楽を共にしてきているというのに…なんだかみつねのほうがペニスの扱いに長けているように思えてくる。
 すべては経験の差によるものだが、そんな新鮮な驚きを身体で思い知らされ、景太郎はもはや為す術無く恍惚の嘆息を繰り返のみとなる。
「こうやって誰かにシコシコしてもらうのもええもんやろ…」
「はあっ、はあっ、はあっ…う、うん…」
 ペッティングの手を休めることなく、みつねは細まった瞳に妖艶の光を宿して景太郎に微笑みかける。その色っぽい表情を直視することができず、景太郎は視線をそらし、苦悶に優面をしかめた。つらそうにしていながらも、吐息はみるみるうちに弾み、熱と湿り気を帯びてゆく。濃厚な快感が射精欲となり、景太郎の中枢を奮わせるのだ。
 確かに、景太郎のペニスは今にも射精欲の権化と化そうとしている。
 赤黒いほどに興奮の血潮を満たし、膨張しきっている亀頭。
 鋼のように固く漲り、幾筋もの血管を浮き上がらせている幹。
 生え揃った性毛の中から二十センチほども突出し、痛々しいほどに反り返っているペニスは異形のものと呼んで何ら差し支えのないものだろう。男性のドロドロとした性欲が形になったとすれば、まさにこうした醜悪な物体になるに違いない。
 それでもみつねは太々と屹立するペニスに細い指を絡め、慈しむように撫でさすり…また、挑発するようにしごき立ててゆく。その滑らかな手つきには恐れなどなく、むしろ愛おしさのままにじゃれついているようだ。
長くって、太くって、固くって…めっちゃ男らしい…。それに、こんなに熱々や…
 実際みつねは景太郎のペニスを愛撫しながら、その無骨な佇まいに陶酔していた。経験上、大きければ大きいほど良いというわけでもないことはわかっているのだが…景太郎のあどけない素顔とのギャップがみつねを興奮させるのである。
 ペニス自体は雄々しさに満ちていながらも、少し強く愛撫するとたちまちせつなそうに吐息を震わせ、女々しい声でよがる。そんないささか頼りない姿に普段通りの景太郎の面影を見て、みつねは嗜虐心ともいうべき衝動を発露させるのだ。いじめるとまではいかなくとも、からかって困らせたいという…それこそ小学生あたりに見られるような、チープではあるがひたむきな思いに駆られるのである。
「どや…さっき痛くしてもたお詫びに、このまま最後までしたろか?」
「え、い、いいですよ、そんな…」
「ウチとけーたろの仲やないか、遠慮なんて無用やで?受験勉強の毎日で、いっぱい溜まっとるんなら…いっぺん出しといたほうがスッキリするんちゃう?」
「そ、そりゃあそうですけど…で、でもやだ…やだっ…!」
「あ、わかった…。けーたろもホンマにスケベやんなぁ…せっかく溜まっとるんやから、エッチで思いっきり出したいねやろ?そっかそっか、童貞卒業の祝砲にしたいんやな?」
「そ、そういうわけでもないですけどっ…あっ、も、もうやめてっ!やめてえっ…!」
 みつねはそっぽを向いたままの景太郎の頬に小さくキスしては、あれやこれやとおしゃべりを続けるが…その間も左手は乳搾りするような手つきでペニスをしごき立てている。みつねは本来右利きであるのに、そのいやらしい指使いは景太郎も息を飲むばかりだ。
 しかし、いつまでもこうしてペッティングに身を委ねているわけにもいかない。
 ペニスの根本に重苦しい射精欲が渦巻いてくるのを感じて、景太郎はたちまち焦燥を募らせきり、ブルブルかぶりを振って嫌がった。みつねの推理を否定しながらも、羞恥で顔中真っ赤にしていては少しも説得力がない。結局みつねにもてあそばれて、欲張りな図星まで突かれてしまい、景太郎はすっかり憔悴してしまう。
ちぷ…ぬちゅ、にちゅ、ぬちゅ…
「あっ…」
「んふっ…けーたろも、また濡れてきたな…」
「あ、だ、だめ…ヌルヌルさせないで…恥ずかしいよっ…」
 徹底的に愛撫されて、ジクンジクン疼きっぱなしであったペニスは先端の鈴口からねっとりとした逸り水を送り出してきた。無色の粘液はみつねの手の平を濡らし、愛撫に合わせてぬめる音を立てる。
 そのぬめりにまかせ、みつねがペニスの裏側…クッキリとした筋の辺りを指の腹で刺激すると、景太郎は鼻にかかった情けない声でむずがった。発情の証である逸り水を漏出した羞恥と、暴発してしまいそうな不安で動揺しきりなのだ。
 すると、今度ばかりはみつねもしおらしく引き下がり、ペニスを左手から解放した。
 そのまま逸り水にまみれた左手を眼前に持ってきて、そっと目を伏せると…
ぺろっ…ちゅぴ、ちゅっ、ぷちゅっ…
「き、キツネさん、汚いよ…そんなことしないで…」
「汚いってことあるかいな…カウパーも精子も、赤ちゃんつくるときに出るもんやろ?つまりは、いっちゃんきれいな体液ってことや。それともなんや?あんた…お風呂でも洗ぉてへんのんか?」
「ちゃ、ちゃんと洗ってますけど…」
「ほな平気や…けーたろの、命の味やもん…」
 戸惑う景太郎の前で、みつねは左手についた逸り水を丹念に舐め取ってゆく。指をしゃぶっては吸いつき、指の間で舌をくねらせる様はそれだけでも十分に淫猥だ。
 景太郎はもう照れくさくてならないのだが、それでも視線はみつねに釘付けとなり、新鮮な興奮で胸を高鳴らせてゆく。鼓動は耳元で聞こえっぱなしだ。エッチ繋ぎしたままの左手の平もびっしょりと汗ばんでいるのがわかる。
 そんな矢先、突然みつねはエッチ繋ぎを解き…手首を返すようにして景太郎の左手をつかんだ。意表を突かれた景太郎が何か言葉を探している間に、指しゃぶりを続けたままのみつねは上目遣いになって微笑みかけてくる。
「…ウチも、一緒やで?」
「え…あ、あっ…」
 言葉の意味を推し量るいとまもなく…景太郎の左手は引っ張られ、みつねの内股に導き入れられた。
ぬるっ…
「ん、ぐっ…」
「…そのまま、触ってみ?」
「あ、わ、わっ…」
 すべらかな内股に生ぬるいぬめり気を感じて、景太郎は思わず生唾を飲んだ。そんな景太郎の左手をつかんだまま、みつねは真っ直ぐに両脚の付け根…きれいに生え揃っている性毛の向こう側へと押し当てる。
ぬみっ…ぬちゅ、にちゅ…
「わああっ!き、キツネさんっ!ちょ、こんな…俺っ…」
 手刀を振り上げるような具合で、景太郎はみつねの股間…ぷつぷつと性毛の生える大陰唇の裂け目に触れた。熱いぬめりと、軟式のテニスボールほどの柔らかみを人差し指の付け根に感じ、すっかり舞い上がった景太郎は軽い錯乱をきたしてしまう。
 みつねは景太郎の左手を裂け目に押し付けたまま、そっと腰をグラインドして陰部の柔らかみを彼の指に擦り込んだ。吐息に甘いさえずりが混ざるのは、景太郎の手刀でクリトリスが擦れるためだ。
「んっ…んぁ、んぅ…あっ、んんんっ…!」
 みつねが腰を振るごとに、景太郎の左手は愛液のぬめりによって柔らかな裂け目を割り開いてゆく。それにつれ、裂け目の縁でぷっちりと突出しているクリトリスからは待ち焦がれていた快感が激しくほとばしり、みつねの中枢を灼いた。たまらずにみつねはよがり鳴き、思わず空いている左手で景太郎の首にすがりついてしまう。
「キツネさん…」
「んっ…びっくりさせてもたな…ちょっと、気持ちよかったさかい…。でも、どや?ウチのいっちゃん大事なトコの、入り口…」
「う、うん…熱くって、ぷにゅぷにゅしてて…べちょべちょになってて…」
「んふふっ…なんやそれ、そのまんまやないか…」
「だ、だって…ホントに、女の人ってこんなになっちゃうんだぁって…」
 ある意味憧れでもあった女性器に触れ、舞い上がりっぱなしの景太郎は感じるままを言葉にすることしかできない。実際意識は緊張混じりの感動でいっぱいで、気の利いた言葉を繕う余裕など微塵もなかった。
 それでも、みつねはこの景太郎の初々しい姿に悪くない微笑ましさを覚えていた。
 童貞であることと、なにより生来の温厚な性格もあり…景太郎は些細なことでも感動してくれるし、些細なことにも気を使ってくれる。今までこういったタイプの男と肌を重ねた経験がなかったぶん、みつねにはその新鮮さが楽しく…そして、嬉しい。
 その嬉しさ余って、みつねはまた夢中で頬摺りをせがんでしまった。もちろん景太郎は期待を裏切ることなく、すぐにすりすりとじゃれ合ってくれる。
 景太郎自身もみつねとの頬摺りを楽しみながら、右手でそっと彼女の腰を抱き寄せた。小指の先がまろみ十分なしりに触れると、どうやら過敏になっているらしく、みつねは一瞬だけぴくんと身をさざめかせる。
「…ウチをこんなんにしたんは…けーたろ、あんたやで?」
「俺が…キツネさんを…」
「そうや…いっぱい抱き合ぉて、いっぱいキスしたさかい…ウチの女心はあんたにメロメロになってもぉた。せやから…」
「…せやから?」
 うっとりと目を細め、頬摺りしながら耳打ちする様子はまるで恥ずかしい内緒話でもするかのようだ。誰にも聞かれたくない…誰にも聞かせたくない秘密を景太郎にだけ打ち明けるよう、みつねは湿った吐息とともにささやき、一旦言葉を区切る。景太郎はじっとみつねの腰を抱き寄せたまま、鸚鵡返しで先を促した。
「…もう唇だけやのうて、身体中…身体中全部…気持ちようして…」
 思い詰めるほど慎重に言葉を選んだ末に、みつねは景太郎にそうせがんだ。それでも最後の一言だけは相当に照れくさかったらしく、みつねはごまかすようにぐいぐいと頬摺りし、横顔に乱暴なほどキスを撃つ。
ぼっ…
 発情しきったみつねの求愛に、景太郎は湯気が出るほど顔中を赤くした。ビッグバンもかくやとばかりの歓喜の大爆発にあごが震え、茫然自失となってしまう。
 そんな景太郎の首からすがりつきを解くと、みつねはくっつきっぱなしにしていた身体を引き離し、腰を抱いていた彼の腕からもスルリと逃れた。それに合わせて、景太郎の左手がみつねの股間から抜け出ると…ネットリとした愛液はたちまちほのかな湯気となって二人の間に漂う。
 両の内股と裂け目とが為す熱々の間隙から抜け出てしまえば、いかに暖房の効いた室内であってもひんやりと感じるものだ。景太郎は手の甲の冷たさで我に返り、きょとんとまばたきひとつ…一瞬みつねと目があってしまう。
 みつねはあどけないままに目を細めると、掛け布団や毛布を手早く揃えてまくり上げた。すっきり広々としたスペースをベッド上に作り出してから、一旦その端に腰を下ろす。
 そのまま体育座りになるよう両脚を上げ、ゆったりと身を横たえてから…みつねは先程同様股間と乳房をそれぞれの手で覆い隠した。
「ええよ…」
「うん…」
 慎ましやかなみつねのささやきに、景太郎はコクンとうなづく。ベッドの端に腰掛けてから、そっと身をひねるようにして足を上げ…左の肘で上体を支えつつ、みつねに寄り添った。その間もずっとみつねは眩しそうな目で景太郎を見つめ、穏やかな笑みを浮かべていた。
「キツネさん…」
「ん…や、あんまりいたずらしたらあかんで?」
 その愛くるしい笑みにときめくまま、景太郎は愛しい名を呼び…左手を枕の下端に添えて、そっとみつねのうなじに忍ばせた。みつねはピクンと身を震わせると、景太郎の腕枕に首を預けながらも、困ったような上目遣いで一言だけ言い添える。
「いたずらなんてしませんよっ」
「んっ…」
 景太郎はそう断言しながら、左手の指先でみつねの茶髪に触れた。左の耳の後ろ辺りからくすぐるようにして髪を集めると、みつねはきゅっと口をつぐみ、くぐもった鼻声を漏らす。拒みこそしないが、チラリと睨んだ目は明らかに景太郎を非難していた。
 そんなみつねの眼差しくらいでは、もう景太郎の愛欲は萎縮したりしない。
なでっ…なでり、なでり…
「あんっ!ん、やめ…ん、んふっ…くすぐったいやんか…」
 景太郎は右手でみつねの首筋に触れると、そのままあごの稜線から頬からを包み込むようにし…そのすべらかな感触を確かめるよう、丁寧に丁寧に撫で回した。すっかり過敏となっているみつねは鼻にかかった声で鳴くと、両手で乳房や股間を覆い隠したまま、モジモジと左右に身じろぎして悶える。しかしその表情には不快の色など無く、むしろそのくすぐったさに悦びを覚えているようであった。
「…こうやってくすぐったそうにしてるキツネさん、ホントにかわいい…」
「んぅ、そんなことばっか言いよる…ほな聞くけど、あんたから見てウチのどうゆうとこがかわいいのん?ただかわいいってだけやったら、女は納得せぇへんで?」
「どういうとこって、見たまんま全部かわいいんだけど…そうですね、眉とか」
「眉ぅ?」
「ええ。最近の女の子は眉を細く整えたりしてるけど、キツネさんはそうじゃないでしょ?そのぶん色っぽ過ぎなくて…なんていうのかな、目を細めてにっこり笑うとすごく愛嬌があるっていうか…そんなとこがすごく好きですっ」
 意地悪く意表を突いたつもりのみつねであったが、意外にも景太郎は動じることなく、あっさりとその質問に答えた。少し照れ混じりであるのは仕方ないにしても、即答できたのはその言葉に偽りのない証拠だ。
 確かに、みつねの眉はそのラインこそ丁寧に揃えてはあるが、決して細く剃られてはいない。ひなた荘の住人は景太郎を除いた全員が妙齢の女性であるから、眉の手入れなどにも余念はないのだが…そのぶんみつねの眉はどうしても太めに見えてしまう。
 それでも景太郎にしてみれば、年齢よりもずっと大人びた色気を身に着けているみつねにはすごく似合っていると思えるのだ。短めにまとめてある髪と相俟った中性的な人なつっこさが、きっと絶妙なバランスを生み出しているのだろう。
「それとね、もうひとつ…キツネさんの口も好き」
「く、くち…?」
 今までに一度も言われたことのない部分を好きだと言われて、みつねがありったけのはにかみを胸の真ん中に凝縮させていると…景太郎は立て続けてお気に入りの部位を挙げてきた。耳どころか首筋まで真っ赤になったみつねは思わずたじろぎ、じんわりと潤んだ瞳をしばたかせて景太郎を見つめる。気の合う親友どうしとして付き合ってきただけに、いざこうして目の前でお気に入りの部位を即答されると照れくさくてしょうがない。
「おしゃべりが好きで、美味しいものが大好きで…だけど唇は小振りで、その…すっごく柔らかくって…キスしてると、ホントに時間を忘れちゃうし…」
「あ、あんたなぁ、それ…口が好きなんやのうて、キスが好きなんとちゃうか?」
「え…た、確かにキスも好きですけど…」
 瞳を輝かせながら力説する景太郎に、みつねは苦笑半分で指摘を入れた。
 すると先程までの頼もしさはどこへやら、景太郎は決まりが悪そうに視線をそらし、恐縮したような声音になって答えをぼかした。あまりに正直すぎた答えを有耶無耶にするよう、なでなでと忙しなく頬を撫で回しても…その手首からみつねの左手につかまれてしまうと、もうどうすることもできなくなってしまう。とうとう景太郎は気まずくなってしまい、唇を噛み締めながら顔をそらした。
 とはいえ、みつねも徹底的に景太郎を責めるつもりではない。思わず舞い上がってしまった腹いせに、ちょっとからかってみただけなのだ。
「…ウチの口なんて酒臭くって、そのうえタバコ臭いやん?」
「…それでも好きですっ!」
「しょーもないことも言うし、きっとまたあんたを小馬鹿にするで?」
「そ、それでこそキツネさんの口って感じじゃないですか!」
「…なんや、ウチがいつもしょーもないことばっか言うとるみたいやな」
 景太郎の頑なな返答に少しふてくされながらも、みつねはつかんでいた彼の手首を解放し、今度はその手の甲を覆うようにそっと重ねた。静かに目を伏せてから、ひゅくん…と媚びるように唇をすぼめてみせるしぐさは、もはや二人の間では暗黙の合図だ。
「ま、ええわ。ほなけーたろ…ウチの口が好きやって証拠…」
「うん…」
ちゅっ…
 みつねの求愛に首肯で応じると、景太郎もまどろみに落ちるよう目を伏せ…触れ合うほどの優しさで口づけた。それに合わせてみつねの左手にも力がこもり、景太郎に愛撫をねだってくる。
なで…なで…なで…ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…
「んっ…ん、んっ…んんっ…ん、ふ…」
 景太郎は中指の先を先導させるようにして、みつねの頬からあご、首筋や耳の裏を丹念に撫でた。その間もキスをおざなりにすることはなく、何度も何度も頭を振って、薄膜どうしのささやかな密着感を繰り返し繰り返し生み出す。
 いかにも景太郎らしい愛撫とキスに、みつねは鼻にかかったさえずりを堪えることができない。慈しみとも呼ぶべき優しさに脳の随まで恍惚となり、意識ごととろけてしまいそうだ。恍惚のさえずりを乗せた鼻息も、ついつい荒ぶったものとなる。
 左手は無意識のうちに景太郎の手の甲から腕を滑り、肩に触れ、背中に辿り着いていた。手繰り寄せるように力を込めると、景太郎はそれに逆らうことなく、横臥した身体をゆったりと寄りかからせてくる。再び裸の胸を触れ合わせてぬくもりを共有すると、たったそれだけのことでも心は和んだ。
ん、ふうぅ…
 みつねの鼻から陶酔の溜息が漏れ、景太郎の頬をくすぐる。景太郎はそのくすぐったさをなだめようと、ついついみつねに頬摺りした。火照った左の頬どうしを摺り合わせれば、愛撫を重ねていた右手は自ずと彼女の左肩を包み込み、覆い被さる体勢となった上体を支えるように落ち着く。
すりすり…すりすり…
「んんっ…な、けーたろ…他のとこにも、キスして…」
「…」
 みつねは心地良さそうに喉を鳴らしてから、抱き寄せた景太郎の背中に中指の先で小さなのの字を書きつつ、そうねだった。景太郎は無言のまま、ただコクンとうなづく。みつねの艶めかしい上擦り声でのおねだりと、鳥肌たつような背中のくすぐったさに男心が狂おしく奮え、思わず動揺したのだ。
ちゅっ…ちゅ、ちゅっ…ちゅっ…
 それでも手始めならぬキス始めに、景太郎は摺り寄せ合っていた頬に唇を押し当てた。その間に、腕枕状態になっている左手でみつねの茶髪を退け、今度は露わになった耳に唇を寄せる。
ちゅっ…ちゅみ、ちゅみ…すふ、すふっ…
「ひっ…ひいっ…!ん、んぅう…!!」
 熱く火照っている耳たぶに口づけてから、心持ち引っ張るように甘噛みすると…みつねは背中を浮かせるように身をよじらせ、切羽詰まったか細い声で鳴いた。景太郎の鼻息が耳孔に舞い込めば、もうみつねはいてもたってもいられず、彼の背中に指を立ててしまう。
キツネさんって、ホントに耳が弱いんだなぁ…オレだとくすぐったいだけなのに…
 うっすら産毛の生えている耳たぶを唇の先でついばんだまま、景太郎は背中に感じるみつねの腕力に感慨を深める。
 確かにみつねにとって、耳は立派な性感帯のひとつである。それもすこぶる敏感な部位であり、指先でなぞられたりキスされたりするだけでもだらしないくらいに声が上擦ってしまうほどだ。
 とはいえ景太郎が心中で比較したとおり、すべての人間の耳が生まれつき性感帯であるということはない。性器以外の性感帯はすべて、思春期を迎え、発育を遂げ、様々な経験を重ねてこそ開花するものだ。唇や乳房はもちろんのこと、指先、首筋、わき、へそ、背中…あらゆる部位は想いのこもった愛撫を施されて、少しずつその感度を増してゆくのである。
 いわば発情へのトリガーとしての機能を備えるわけだが、これはなにも特定の相手に対してだけということでもない。互いの愛情がリンクし合えば、自ずとトリガーのセイフティは解除される。このトリガーを引かれて、発情しきった淫らな姿を愛しい相手に見せしまうのが躊躇われるからこそ…世の女性たちは愛撫を施されても、本音とは裏腹にいやいやとむずがってしまうのかもしれない。
 みつねもセックスの経験は豊富であるから、俗な言い方をすれば色んな部位が開発されている。中でも耳は性感帯としての素質が良かったのだろう。こうして景太郎に甘噛みされているだけでも、裂け目の奥のか細い華筒はきゅんきゅんと疼く。熱い愛液の漏出を堪えることなどできず、スラリと長い両脚はその膝頭をモジモジと擦り寄せどおしだ。
 演技などではないみつねの悶えようを覆い被さっている身体で感じ、景太郎は一層強く愛欲を募らせてしまう。勃起しきりのペニスから、ジクジクと逸り水が滲んでくるのを遠く感じつつ…景太郎は念入りに甘噛みしていたみつねの耳たぶに舌を添わせた。鼻先が茶髪に埋まると、シャンプーの匂いが鼻孔に舞い込んでくる。
ぺろっ…ぺろ、ぺろっ…ぴちゅっ…
「いっ、ひっ、ひいいっ…!や、やめ、耳ばっか…!!」
 舌先で耳の裏を舐め、耳たぶをもてあそび、耳孔へ忍び込ませると…たちまちみつねは危なっかしい悲鳴をあげた。ゾクゾクゾクッ…と身震いすれば、もうみつねはぐったりとなって荒い呼吸を繰り返し始める。豊満な乳房がふよふよ上下に揺れている様子からも、いかに彼女が高ぶってきているかが窺い知れるだろう。
 景太郎もここは素直に応じることにした。またね、というようにもうひとつだけ耳たぶにキスしてから、頬に、そしてあごの稜線に甘噛みするようにキスして…どこまでもキス好きな唇は、やがて首筋に辿り着く。
ぬりるーっ…ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…ぬりるーっ…
 景太郎は舌先を覗かせたままみつねの首筋にキスすると、そこから左の肩口めがけて一息に舐め抜いた。そして、その唾液に濡れた跡を辿るよう小刻みにキスして首筋まで戻り…また舌先で舐め抜く。こうやって舌と唇を交互に往復させる愛撫は、まるでなにかの儀式のようだ。
「そ、そないな、あかんって…あ、あかんっ、あかんって…!」
 だがここもまたくすぐったさが強すぎるようで、みつねはブルブルとかぶりをふってむずがった。心持ちおとがいを反らせて景太郎のしたいようにさせてはいるものの、その上擦り声は愛撫が重ねられるにつれ、少しずつ半ベソの様相を呈してゆく。
 確かに耳や首筋はみつねにとって性感帯のひとつである。しかし性的に過敏となっている部位は、あまり念入りな愛撫は責め苦にもなりかねないのだ。感度が高いということはそれだけ繊細であるということだから、相手に応じて丁寧に接しなければならない。自己満足な愛撫は雰囲気をだめにしてしまう危険性もあるのだ。
 その点、甘いと指摘されるほどに思いやりのある景太郎には心配無用である。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…なで、なで、なで…
 景太郎は覆い被さっている身体でみつねの心情を気取り、唇での愛撫を鎖骨のあたりへと移動させた。緩やかに柔らかみを帯びてゆく胸元に、雀が米粒をついばむよういくつもいくつもキスを撃ち…同時に右手で肩から二の腕にかけてをゆっくりと撫でさする。
「キツネさん…このへんなら、どう…?」
「そ、そのへんならええよ…ん、んっ…んふふっ…」
 文字通りの柔肌を唇と手の平で堪能しながら、景太郎は気遣う意味でそう尋ねた。
 胸元へのキスは程良い刺激が得られるようで、みつねはやんわりと緊張を解き、満足そうに吐息を弾ませる。声は上擦っているものの、その抑揚は先程とは打って変わった穏やかなものだ。
 直接声で安堵を確かめることができたので、景太郎も安心してみつねの胸元にキスを撃ってゆく。首筋や肩と違い、胸元はそれなりの柔らかみを秘めているからキスの感触も格別だ。これでみつねも悦んでくれるのだから、景太郎としてはもう申し分ない。
 また、みつねは実にきめの細かいもち肌の持ち主であり、胸元はうっすらと血管が見えるほどである。その美しい柔肌もしきりに唇を押し当てられ、ほんのりと紅潮を示してきた。その様は愛情のこもった景太郎のキスで、乳房が照れているようにも見える。
「あ、跡は付けんといてや?風呂入ったら丸わかりになるさかい…」
 夢中で胸元にキスしてくる景太郎に、みつねは苦笑半分でそうくぎを差す。
 目立たないところになら少しくらいキスマークを残されても気にはしないが、首筋や胸元では襟の緩いシャツを着ていても人目に付くだろう。それで他の住人たちにあれこれ言われるのも面倒だし、勘の良い者なら景太郎と睦み合っていたことすら見抜きかねない。ただでさえも、住人達からは夕べまるまる部屋から出てこなかったことを不審に思われているのだ。
 もちろん、景太郎にはみつねを狼狽えさせるほどの悪意は無い。否、悪意を持てるだけの余裕がないといった方が正確であった。
 景太郎はみつねの胸元にキスしながら、右手で彼女の二の腕を丹念に撫でていたのだが…若い性衝動はやがて、その柔らかみに飽き足らなくなってきた。なにせ胸元にキスするたびに、あごの辺りに誘惑的この上ない柔らかみがぷにゅぷにゅ加わってくるのだから仕方がない。逸る気持ちに呑まれてキスはだんだんと控えめになり、二の腕を撫で回していた右手はなにやら肘のあたりでモジモジと躊躇う。
「…ええよ?」
「え?」
「ううん…むねも、触ってんか…」
「う、うぅ…」
 景太郎の焦燥を気取り、みつねはそう言った。しかも景太郎が問い返したのに合わせて了承の言葉を訂正し、自らそう望む。景太郎の背中を抱き寄せていた左手も自然なままに下ろし、乳房の無防備を極めた。
 そう言われてなお、景太郎は躊躇うようにみつねの左手をモジモジと撫で回していたが…やがて勇気を振り絞って、彼女の女心に甘えることにした。
 衣服の上からとはいえ、すでにみつねの乳房はさんざん揉みこねているのだ。それに今さら遠慮なんかしていたら失礼でもあろう。
 心中で自身に叱咤して、景太郎は興奮で震える右手を滑らせた。
む、にゅっ…
「あ、はぁっ…!」
 左の乳房をアンダーバストからわしづかんだ途端、みつねも景太郎も異口同音、恍惚たる上擦り声を吐息に混ぜて漏らした。みつねは乳房への刺激に…景太郎は裸の乳房に触れた感動に、それぞれ胸の真ん中を熱くしたのだ。

つづく。


 

 


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(updete 2003/07/15)