<<ラブひな>>

happiness on happiness (10)

作・大場愁一郎


 

「…もう、平気ですか?」
「は、はい…」
 景太郎の呼吸が落ち着いてきた頃合いを見計らい、むつみは再び前髪ごしに額をくっつけ、小声でそう問いかけた。抱擁のぬくもりと、泣いたばかりの顔を覗き込まれない安堵感の中で、景太郎はそっとうなずく。
「ごめんなさい、取り乱したりして」
「うふふっ…浦島くんは優しすぎるうえに、真面目すぎるんです。だからそこまで思い詰めちゃうんですよ?もっと気楽に考えていいのに…」
「ま、真面目だなんて…」
 むつみは景太郎と前髪ごしの額を摺り合わせながら、諭すというよりも、むしろたしなめるような口調で告げた。思わず面映ゆくなりそうな讃辞も今はただただ白々しく、景太郎としては苦笑を禁じ得ない。優柔不断で無節操な男のどこが真面目なものかと、自嘲の溜息まで漏れ出てしまう。
「んぅ…どれから話せばいいかしら…」
 まだまだ沈み気分から抜け出せない景太郎を前に、むつみはそうつぶやいて一旦言葉を区切った。景太郎はうつむき気味にむつみと額をくっつけたまま、わずかな緊張感とともに言葉の続きを待つ。
「あのね、浦島くん。わたしは浦島くんの気持ちが嫌だとか、迷惑だとかは少しも思ってないんですよ?浦島くんの抱き締め方とか、キスの仕方とかでね?あ、もしかして浦島くん、わたしのこと好きなのかな…なんて、勝手にはしゃいでたくらいなんですから」
「そ、そんなのでわかっちゃうもんなんですか…?」
「もちろんですよ。ぎゅって抱き締めてもらっても、キスしてもらっても…なんてゆうか、すごく安心できるんです。あったかくって、いい気持ちで…変なたとえになっちゃいますけど、ゆりかごにいるみたいな感じで」
「ゆりかご…」
 むつみは景太郎の背中から肩からを左手でゆったりと撫でつつ、胸中の幸福感をピロートークさながらの穏やかさで丁寧に語った。睦み合いのしぐさや抱かれ心地をひとつひとつ告白されては妙に照れくさくて、景太郎は再び頬を熱く火照らせてしまう。
 それでも、先程までの胸苦しい居心地の悪さは少しずつ解消しているのがわかった。キスも、愛撫も、抱擁も、そして募らせた想いも、すべてむつみに受け入れてもらっているのだと思えばずいぶんと気持ちが楽になってくる。幾分かは世辞の意味合いもあろうが、こうしていつまでも寄り添い、あるがままを委ねてくれているのだから、それで十分と男心も活気を取り戻してきた。
 なにより景太郎には、抱かれ心地を平穏の象徴たるゆりかごにたとえてもらえたことがやたらと嬉しかった。こうして心ゆくまで睦み合い、事後に至ってもなおむつみに安らぎを与えていられるのであれば、景太郎としてはまさに万々歳である。男としての自尊心も奮い立ち、胸もワクワクと逸ってくるようであった。
 もちろんむつみも、景太郎をおだてるつもりで言葉を選んだりしたわけではない。
 景太郎のキスや愛撫、そして抱擁はどれもが懇切丁寧であり、彼の優しい人となりを存分に感じることができる。童貞ということもあってキスも愛撫も稚拙ではあるが、それでも決して独り善がりの一方通行ではなく、お互いに性の悦びを分かち合おうとする景太郎なりの思いやりに溢れているから、むつみも彼との睦み合いを存分に楽しめたのである。男女の睦み合い自体が久しぶりであるということを抜きにしても、本当の本当に満足できているのは揺るがぬ事実なのだ。
 こうして性の悦びを堪能できるのも、景太郎の抱かれ心地に穏やかな安息感を覚えてしまうからに他ならない。それに男らしい頼もしさも加味されて、まさに抱かれ心地はゆりかごさながらの居心地良さとなるのである。
「…それで、こうして告白までしてもらったら…照れくさいけど、やっぱり嬉しいです。わたしも浦島くんのことが好きだから…あ、わたし達って両想いなんだ、なんて」
「りょ、両想いって…だ、だったら…」
「…でも、浦島くんが本当に好きな人はなるさんでしょ?忘れちゃだめです」
「ん、んぅ…」
 むつみの何気ないながらも思いがけない独白に、景太郎は慌てて顔を上げた。その真剣な面持ちをまっすぐに見つめながら、むつみは困ったように苦笑をひとつ、もう一度景太郎の想いを確認して念を押す。
 その諭すような言葉が二度目の拒絶であることは景太郎にもわかったから、もうそれ以上想いを言葉にすることはできなかった。恋人どうしにはなれないと暗に宣言されているわけであり、これ以上強情を張り続けても、二人の間の空気がまずくなる一方であることが明白であったからだ。
 むつみの独白が嘘偽りのないものであり、気休めのための出任せではないことも十分にわかる。お互いに惹かれ合う両想いの状態にあることも、おしゃべりやキスの楽しさ、抱擁やペッティングの心地良さを思えば事実なのだろう。確かにこの一時を振り返ってみても、異性に慕われるという思春期の快感はそこかしこに散らばっていたように思う。
 それでも、むつみにそのつもりがないのであれば、もはやこれまでであった。
 景太郎は深く溜息を吐き、そのまましばし深呼吸を重ねて胸苦しさを紛らわせる。
「…じゃあ、むつみさん…もう一回だけ…もう一回だけ、言わせてください」
「ん…」
 わだかまりの消え失せた胸中に再び愛おしさがこみ上げてきて、景太郎は一呼吸置いてからそう切り出した。むつみは穏やかな安堵感の中で表情を和ませたまま、景太郎の想いを見透かしているかのようなしおらしさで応じる。
「好きです…。成瀬川はもちろん、むつみさんも、本当の本当に大好きですっ」
「…ありがとう、うらしまくん」
 景太郎が身勝手きわまりない想いを告白すると、むつみは素直にそれを受け入れ、両想いの証としてぴったりと唇を重ねた。そのままお互いに小首を傾げ合ってお気に入りの角度となり、ゆったりと吸い付いて、敏感な薄膜ごしに愛情を分かち合う。
「んぅ…ん、ふ…」
「んぅう…ん、んんぅ…」
 贅沢に唇を重ね合う密着キスの心地良さに、景太郎もむつみも鼻の奥からの甘ったるい声でよがった。ふんわりとした柔らかみも、とろけそうなぬくもりも、甘酸っぱいような照れくささも、すべてが歓喜と興奮の糧となってくる。
 そのために、ツンツンと触れ合っている鼻先や、互いを抱き寄せている手の平はたちまちジットリと汗ばんできた。もちろん二人とも意に介することはない。むしろ興奮の汗を擦り込み合うよう、キスしたまましきりに互いを抱き締め直して悦に入る。
 景太郎はむつみのたおやかな肩や背中、まろみ十分の腰から尻にかけて。
 むつみは景太郎の弛みのない二の腕や脇腹、頑強な背中にかけて。
 それぞれ丹念に撫で回して、異性への接触欲を満たしていった。
 男女の体格の違いからそれぞれの感触はまるきり別物だが、温泉の効能もあって肌は美しくすべらかであり、お互いの撫で心地はまさに至高のものである。景太郎はむつみの柔らかな抱き心地に、むつみは景太郎の頼もしい抱かれ心地に、それぞれ心酔しきりとなってしまう。意識すればするほど、裸の抱擁がもたらす心地良さは倍増した。
「すふ、すふ、すふ…ん、んぅ、ん…」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…ん、ふ…」
 景太郎もむつみも鼻で息継ぎしながら、やがてお互いに舌を差し出し、ねちっこく絡め合わせていった。二人ともありったけの想いをキスに込めているから、もはや想いを告白する必要はない。裸の抱擁がもたらすぬくもりと、唇と舌に感じる照れくさいようなくすぐったさは、まさに愛し合える悦びそのものなのだ。
 こうして愛し合える悦びを覚えたら、それ以上に愛したいという欲求もこみ上げてくるのが人としての本能である。両想いの仲であればなおさらだ。
 景太郎も狂おしいほどの愛欲に突き動かされ、萎縮していたペニスを再び雄々しく勃起させた。もちろんむつみとはぴったりと寄り添ったままであるから、そのたくましいセックスシンボルは、たちまち彼女の下腹をグイグイと押圧してゆく。
 ディープキスに夢中になっていながらも、むつみは鋭くそれに気付き、握手するかのようにしっかりと握り込んだ。ペッティングで愛し抜いたこともあり、景太郎のペニスにはすっかり愛着が湧いている。大きく膨れ上がっている亀頭も、血管を浮かせて悠然と伸び上がっている幹も、剣呑な佇まいでありながらたまらなく愛おしい。
「んぁ…ん、んぅう…」
「んふふっ…」
 ふとむつみは親指をペニスの先端の鈴口にあてがい、そこから裏側のくっきりとした筋にかけてを繰り返し繰り返しなぞり始めた。そのヒリヒリするようなくすぐったさに景太郎はかわいい鼻声を漏らし、たちまち舌先の動きがおろそかになってしまう。それくらい裏側の筋の部分は敏感であるのだ。
 そんな景太郎に目を細めながら、なおもむつみは鈴口から筋にかけてを親指で丹念になぞった。景太郎が快感に酔いしれてディープキスに集中できなくなると、そのぶんむつみが積極的にリードしてゆく。
 物怖じし始めた景太郎の舌先を同じ舌先で弾いたり。
 唇に舐めついたかと思うと、その隙間に舌先を忍ばせたり。
 時折、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と音立ててキスしたり。
 舌と唇、そしてペニスという敏感な性感帯にたっぷりと愛情を注ぎ込まれて、とうとう景太郎は二度目の発情期を迎えてしまった。むつみの親指になぞられどおしの鈴口で、くすぐったさを凝縮したような快感が小さく弾ける。
「んぁ…ん、んぅ、う…」
「…欲しがりに、なっちゃいました?」
「ん…うん…」
 漏出されてきた逸り水のぬめりを親指に感じ、むつみは唇どうしを触れ合わせたままでそう問いかけた。景太郎は一瞬の躊躇いを残してから、やがて観念して小さくうなずく。
 虚勢を張ろうにも、すでにむつみの親指は逸り水に濡れ、鈴口から筋にかけてをヌルヌルと往復している。これで否定しても説得力はなかった。そのぶんむつみに揶揄されるだけであろう。
 そう認識して開き直ることに決めると、景太郎は男心を奮い立たせ、あらためてむつみの唇を奪った。少しも揶揄の言葉を紡げないようにぴったりと吸い付いてから、ちょむ、ちょむ、とついばむように何度も何度も割り開く。
 同時に腕枕している左手の指先でむつみの横顔から髪を退け、耳の輪郭をなぞるようにくすぐってもみた。ペニスを愛撫してもらっているせめてものお礼というかお返しというか、愛欲にささやかな悪戯心を混ぜて、まだ触れたことのなかった部分に指を走らせる。
「んんぅ…ん、んんっ…」
「んふっ…ん、んっ…ん…」
 途端にむつみはゾクゾクと身震いをきたし、かわいく上擦った鼻声でよがり鳴いた。しきりに眉根にしわを寄せてくすぐったさに耐えるものの、それでも愛撫を拒もうとはしない。じっと腕の中に抱かれ、甘えんぼそのもののキスに応じながら、自らも景太郎のペニスに愛撫を捧げ続ける。
 鈴口から裏筋、そして左右へ分かれてゆく亀頭のくびれへ逸り水を塗り込むように親指を滑らせると、景太郎も少女のような声を鼻の奥で震わせた。マスターベーションのようにしごき立てられているわけではないのだが、それでも敏感な部分にばかり愛撫を集中されては、やはり景太郎も高ぶりを抑えられない。勃起しきりのペニスも、ぐんっ、ぐんっ、とたくましく漲り、鈴口から精製したての逸り水を止めどなく滲ませてゆく。
「…ね、うらしまくん」
「ん…んぅ?」
 そっと突き放すように唇をすぼめてキスを終えると、むつみは愛撫の指先も止めて景太郎を呼びかけた。景太郎はリップクリームを伸ばすように唇をたわませてキスの余韻に浸りながら、陶酔に潤んだ眼差しをむつみに向けて応じる。
「今度は、わたしにさせて…」
「え…あっ…」
 景太郎が言葉の意味を探るより先に、むつみは彼と絡めるように交差させていた脚を解き、そのままゆっくりと体育座りに上体を起こした。左手で髪を整え、ひとつ大きく伸びをしてから景太郎に振り返り、にっこりと微笑む。
 わずかに遅れてむつみの意図を悟ると、景太郎もころんと仰向けになり、彼女に笑みを返した。とはいえ、その表情はむつみと違い、若干のぎこちなさが伴っている。
 むつみに裸身を晒してしまうのが、まだ少し照れくさくもあり。
 遠ざかっていったむつみのぬくもりが寂しくもあり。
 そして、これからむつみに愛してもらえることが楽しみで、かつ不安であり。
 そんないくつもの戸惑いが、景太郎の笑顔をぎこちなくさせていた。
 ささやかな羞恥や寂寥はいくらでも埋め合わせていけるはずだが、むつみの愛撫を一身に受けるのは初めてだから、本音を言えば少々怖かった。もちろんむつみのことを信用していないわけではないし、求められて嬉しいのだが、童貞の男心はどうしても身構えてしまうのである。想像以上のくすぐったさや心地良さのために、あられもない痴態を晒すのではないかという懸念もあった。
 そんな景太郎の戸惑いを察知して、むつみは振り返ったままで右手を伸ばし、そっと彼の頬を包み込んだ。そのすべらかな手触りを楽しむよう、頬はもちろんのこと、あごの線から耳の裏側に至るまでを優しく優しく撫でさする。
 自分で触れるのと、他人に触れられるのとでは、身体の感覚はまるきり別物だ。特に景太郎は睦み合いの悦びを覚えて間もないから、それだけでもすこぶるくすぐったくて、ぴくんぴくんと小さな身悶えを禁じ得ない。その気恥ずかしさあまって、勃起しきりのペニスも両手で覆い隠してしまう。
「…うらしまくんのほっぺた、本当にスベスベでいい気持ち」
「ひ、ん、んぅう…く、くすぐったいっ…」
「くすぐったかったら、我慢しないで声を出した方がいいですよ?その方が楽だから早く気持ち良くなれるし…それに、我慢してたら腹筋が痛くなっちゃいますからね」
「そ…そういうものなんですか…?」
「ええ、そういうものなんです」
 頬を染めて恥じらう景太郎に断言すると、むつみは右手での愛撫を終え、一旦膝立ちとなって彼に場所を譲った。景太郎が枕と布団を占有したところで、むつみはゆったりと身を翻し、彼の真上でよつんばいとなる。
 それでいよいよ景太郎の表情には不安の黒雲がかかってきたので、むつみは苦笑しながら布団に両肘を突き、彼の両わきから肩を抱いて寄り添った。むつみの豊満な乳房が胸板にずっしりとのしかかってきたところで、景太郎も股間から両手を戻し、そっと彼女の両肩につかまる。
「このアパート、昼間はみんな出掛けてますから、遠慮しないで声を出してください。電車もすぐ近くを通ってますから、多少は紛れちゃいますし」
「む、むつみさんに聞かれちゃうのが恥ずかしいんですよっ…」
「んふふっ、わかりました。じゃあ、くすぐったくしないように…少しずつ…」
「うん…」
 吐息がわかるほどの距離で見つめ合い、内緒話のように睦言を交わしてから、二人はあらためてキスを交わした。余裕綽々のむつみも、可憐に恥じらう景太郎も、それぞれお気に入りの角度でぴったりと吸い付き、仲良く薄膜をたわませ合う。
 まったくもってキス好きな二人ではあるが、キスはもう十分に楽しんできているから、今はお互い心の準備を整えるだけに留めることにした。十秒ほどもふんわりとした柔らかな感触を味わってから、むつみも景太郎もあっさりと薄膜どうしの密着を解く。
 それで景太郎の緊張は幾分和らぎ、あどけなさの残る童顔は自然なままにほころんだ。むつみもそれを間近で見て取り、にっこりと朗らか笑顔を浮かべる。
「ああ…こんなかわいい女の子とこんなことになっちゃうなんて、一生ありえないって思ってたけど…」
「んふふっ、うらしまくんったら本当にお世辞ばっかり」
「お世辞じゃないですって。むつみさんのにこにこしてる顔って、本当にかわいいです。見てると元気が湧いてくるし、本当に大好きなんですっ」
 景太郎は眼前のむつみに見惚れるまま、果報極まった現実を自身に言い聞かせるようにつぶやき、今まで抱いてきた劣等感のひとつをきれいに解消させた。むつみははにかんで苦笑するものの、景太郎は首を横に振り、気取りもてらいもなくそう宣言する。
 黒目の美しい瞳も。太めの眉も。
 こぢんまりと慎ましやかな鼻も。白くてすべらかな頬も。
 そして、キスが大好きな唇も。
 まさにむつみの顔を構成しているすべてが愛おしいのに、こうして無防備なままに相好を緩めてくれると、その度に一目惚れのような感動を覚えてしまう。
 笑顔は一人一人誰もが有する至宝であるが、やはり愛おしい女の笑顔は格別であった。素直にかわいいと思えるし、この笑顔のために頑張りたいと無限の勇気さえ湧いてくる。
「でも、わたしよりなるさんの方がずうっとかわいいと思いますけど…」
「成瀬川は成瀬川、むつみさんはむつみさんです。成瀬川とむつみさんじゃあ感じは全然違うけど、二人とも彼氏がいないのが不思議なくらいにかわいくって…できるんなら、二人とも俺の彼女にしちゃいたいくらいで…」
「あらあら、うらしまくんったらすっごい欲張り。やっぱりくすぐったくしちゃいます」
「え、そ、そんなぁ…」
 景太郎がつい男としての本音を口にすると、自嘲していたむつみはたちまち苦笑しきりとなり、そっと彼の左頬にキスを撃った。景太郎は自身がつぶやいたわがままに気付いて狼狽しきりとなり、むつみからのキスもあって、頬を真っ赤に火照らせてしまう。
 その頬のぬくもりを唇で感じ取ってから、むつみは喜色満面で景太郎に頬摺りした。左の頬どうしをゆったりと摺り合わせ、その居心地の良いぬくもりを満喫する。
「はぁ…ん、うらしまくん…」
「ひ、ひぃあ…う、ううううっ…」
 やがてむつみは景太郎の耳元に唇を寄せると、陶酔の溜息とともに景太郎を呼びかけ、耳朶に小さくキスした。耳朶も頬と同様熱々に火照っており、じゃれて甘噛みすれば、その柔らかみとぬくもりがなんとも心地良い。引っ張ったり、ついばんだり、またキスしたりと、思うがまま景太郎の耳朶にじゃれついてゆく。
 景太郎にしてみれば、そんなむつみのじゃれつきは少々刺激が強すぎた。
 頬摺りしている間なら景太郎もご満悦といった風に浸っていられたが、淫靡なささやき声で呼びかけられ、耳朶にじゃれつかれると、たちまちゾクゾクとした悪寒に襲われてしまう。二の腕はいっぺんに鳥肌立ち、鼻にかかったうめき声も狂おしく上擦った。
 そんな景太郎の儚げな反応が愛おしくてならず、むつみは再び頬摺りして、胸に募る愛欲をなだめた。もちろんそれくらいではもどかしいような焦燥感は癒えないから、頬摺りしては横顔にキスして、また頬摺りしてはキスしてと、甘やかな抱擁に際限なくのめりこんでゆく。
「んぅ…む、むつみさん…むつみさん…」
「ん…んぅ?」
「き、キス…キスしたいっ…」
「んふっ…」
 左の頬をくすぐったい幸福感で満たされてしまい、景太郎はだらしない声でむつみに求愛した。むつみは嬉々とした笑みを返事代わりにすると、景太郎の耳朶から頬、そして口元へと、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、とひとつずつキスしながら唇を移動させてゆく。
「ん…んっ、んっ、んっ…」
「んぅ…ん、んぅ、んぅ…んんっ、んんぅ…」
 やがて唇どうしがふんわりと重なり合い、景太郎もむつみも鼻の奥から歓喜の溜息を漏らした。
 おねだりを叶えてもらった景太郎がおずおずと背中を抱き寄せてきたので、むつみは鼻で息継ぎひとつ、しばしバードキスを重ねて接吻欲を満たし合う。上唇をついばみ、下唇をついばみ、割り開いてからまた上唇と、順繰り順繰りで愛おしさを口移しすれば、それで景太郎はすっかり上機嫌となり、かわいい鼻声でよがった。勃起しきりのペニスも愛欲のままに逸り水を漏出し、下腹をしとどに濡らしてゆく。
「ぷぁ…んふっ…うらしまくん…」
「あっ…ん、んぅう…」
 互いの鼻の頭が汗びっしょりになるまでキスしてから、むつみは次に景太郎と右の頬どうしを摺り合わせた。キスを終えられた景太郎は一瞬未練がましい声をあげたものの、すべらかで温かな頬摺りの心地良さに浸るなり、すぐに不満を忘れてしまう。
 たっぷりと接吻欲を満たしたために、今ではむつみも景太郎に負けないだけ頬が火照ってきていた。そのために頬摺りで分かち合えるぬくもりが増し、心地良さも大きくなってきている。
 そのくすぐったさとぬくもりを堪能するよう、むつみはゆったりゆったりと景太郎に頬摺りして甘えた。景太郎もじっと目を閉じたまま、むつみからの頬摺りに浸る。その穏やかな心地良さは、一切のしがらみを忘れてしまいそうなほどだ。
 とはいえ、胸に募る愛欲まで忘れ去ることはない。
 ひとしきり頬摺りを楽しんでから、むつみはよつんばいのままゆっくりと後ずさっていった。それに合わせて、二人の隙間で柔軟にたわんでいた乳房も、景太郎の胸板から腹の上へとずり動いてゆく。ずっしりと重い双子の膨らみがずるずる引きずられてゆくだけでも、景太郎としてはもうくすぐったくてならない。
「く、くっ、くぅうっ…うっ…ひ、ひあっ…う、うううっ…」
「ん…くすぐったいんでしょ。くすぐったかったら、我慢しないで声を出してください。本当に腹筋がつっちゃいますよ?」
「で、でも、恥ずかしいし…それに、男が声を出すなんて格好悪いですっ…」
「あらあら。さっきイッた時はあんなにかわいい声出してたじゃないですか。ディープキスしたままだったから、ちゃんと覚えてるんですよ?」
「あっ、あの時は本当に夢中だったから…そ、その、今とは別ですっ」
 むつみが右胸の乳首にキスしたところで、とうとう景太郎は堪えきれずに苦悶の声を漏らした。むつみは上目遣いに視線を向けて気遣うものの、景太郎は素直に聞き入れようとしない。半ベソ気味に瞳を潤ませながら、きゅっと唇を噛み締める始末だ。
 強情を張る幼子さながらの景太郎に苦笑すると、むつみはスキンシップのくすぐったさに慣れさせようと、まずはその胸板にゆっくりと左の頬を摺り付けた。景太郎の胸はそれなりに厚みがあってたくましく、ほんわりと温かいために、多少汗ばんでいても十分頬に心地良い。
 景太郎も初めはくすぐったがったものの、そのうちすぐに順応し、甘えかかられる幸福感を噛み締められるようになった。声を出すまいと強張っていた表情もやんわりと和み、さほど意識することなく右手でむつみの頭をかいぐりしたりする。こうすることが自然であるかのように、こうすることが男として当然であるかのように、なんとなく右手が動いてしまうのだ。
「うらしまくん…」
「う、うん…」
 しばし目を細めてスキンシップに浸り合ってから、やがてむつみは景太郎を呼びかけ、彼の胸の真ん中に小さくキスした。景太郎もむつみの意図を悟り、こくんと緊張の生唾を飲んで応じる。
 むつみは景太郎にかいぐりしてもらいながら、あらためて彼の乳首に唇を押し当てた。そのまま軽く吸い付き、男の慎ましやかな乳首に愛撫の感覚を染み込ませてゆく。
「ん、んぅ…んぁ、あっ…んぅ…う、くっ…くううっ…!」
「…まだ、平気?」
「うん…そ、それよりも、前髪の方がくすぐったくてっ…」
「え?あ、あらあらあら…」
 景太郎が吐いた意外な弱音に、むつみは思わず顔を上げた。確かに目の前には自らの前髪がちらついているが、そこでようやく彼の弱音の意味に気付き、小さく苦笑する。
 景太郎もとうとう狂おしい上擦り声をあげ始めたのだが、これは乳首を愛でられる快感よりも、むつみの前髪が胸元をなぞるくすぐったさによるところが大きかったのだ。むつみが頭を動かすのに合わせて前髪もフワフワと揺れ動くのだが、その弾みで胸元をなぞられると、まさに総毛立つほどのくすぐったさが景太郎の中枢に走るのである。
「…でも、こればかりはどうにもできませんから、我慢してください」
「そ、そんなぁ…」
「んふふっ…もっともっと声を出すようにしたら、すぐに慣れちゃいますよ?」
「ん、んぅう…」
 前髪のいたずらという思わぬ伏兵に景太郎は困惑しきりとなるが、むつみはお構いなしに愛撫を再開する。
 一応右手で前髪を左右に流しはしたが、それも気休めにしかならない。むつみが乳首に口付けた途端、前髪は再び景太郎の胸に垂れ落ちてソワソワとくすぐり始めた。
「う、くっ…ふ、んんんっ…くっ、んふっ…ん、んぅうっ…!」
 景太郎は声を出すまいと唇を噛み締めるものの、鼻の奥からは堪えようもなく苦悶のうめきが漏れ出てしまう。前髪のいたずらがくすぐったいのはもちろん、むつみの丁寧な愛撫もまた、景太郎の乳首に快感を生み出してきたからだ。 
 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と音立てて吸ったり。
 ふにふに、ふにふに、と小刻みに甘噛みしたり。
 ささやかに毛の生えている乳輪ごと、舌先でくるくると舐め回したり。
 時には前歯で軽く引っ掻いて意地悪したり。
 その意地悪を詫びるよう、乳首から乳輪からにいくつもいくつもキスしたり。
 微に入り細を穿つむつみの愛撫に、景太郎の身体はあっさりと反応を示してしまう。
「あっ、くっ…んぁ、あああっ…!う、うううっ…」
 その瞬間、景太郎は女のような声音で鋭くよがった。
 景太郎はむつみの唇の隙間で、乳首をツンツンに屹立させたのだ。風呂に入ろうとして身体が冷えたりとか、肌着で擦れて過敏になったときのものとはまるきり違う。景太郎の右の乳首は、むつみの愛撫によって立派な性感帯にされてしまったのだ。愛撫に性の悦びを見出せるようになってしまったのだ。
 自ずと乳首も性感帯どうしのリンクを広げることとなり、その性感は勃起しきりのペニスへと伝わってゆく。おかげでペニスは今まで以上に愛欲を満たし、猛々しく漲って剛直を強めてくる。
「…くすぐったいの、だんだん気持ち良くなってきたでしょ」
「き、気持ち良いってゆうか、ドキドキするってゆうか…その…早くしたい気分になってきたってゆうか…ああもう、何言ってんだろ、俺…」
「んふふっ…そのためにこうしてイチャイチャしてるんじゃないですか。わたしだって、さっきうらしまくんにしてもらってる間は、早くエッチしたいって、そればっかり考えてたんですよ?」
「う、ううう…」
 淫らな睦言を交わしてから、むつみは景太郎の右の乳首にもう一度だけぴったりと吸い付き、そのままゆっくりと頭を上げ、ちゅぱっと音立てて解放した。ツンとしこった乳首はむつみの唾液にまみれてべちょべちょであり、ほかほかと湯気までのぼりそうである。
 その乳首を左手の指先で摘むと、むつみは景太郎の胸板に小さなキスを連発しながら、今度は左の乳首へと唇を移動させた。こちらは当然ふんにゃりと和らいだままであるから、むつみは静かに目を伏せたまま、あらためて舌先でくるくると舐め転がしてゆく。
 それに合わせて景太郎も、むつみの頭を撫でていた手を右手から左手へと添え替えた。今まではかいぐりで撫で回していたので、今度は髪に添って丁寧に丁寧に撫で下ろし、その艶やかな黒髪の撫で心地を手の平いっぱいに満喫する。
「んふっ…ん…んぅ…」
「んぁ…あっ…く…んぅ…ん、んんっ…」
 むつみは髪を撫でてもらえる心地良さに、景太郎は乳首にじゃれついてもらえる心地良さにそれぞれ目を細め、お互い睦み合いの悦びに浸った。
 それでもやはり、敏感な乳首を愛してもらっている景太郎の方が反応は大きい。しかも左右いっぺんにであるからなおさらである。
 むつみは先になついた右の乳首を指先で前後に押し転がしつつ、左の乳首にも性の悦びを擦り込もうと、丹念に丹念に舌先をくねらせた。
 舌の表側と裏側を駆使して、乳首だけを集中して舐め転がしたり。
 あるいは大きく舌を伸ばして、べろり、べろりと乳輪ごと舐め上げたり。
 優しく乳首にキスして、そのまま上唇と下唇でぽろんぽろんと弾いたり。
 程良く唾液にまみれてきたら、ちゅくちゅくと乳飲み子さながらに吸い付いたり。
 次々と繰り出されるむつみの巧みな愛撫に、いつしか景太郎は髪を撫でることも忘れていた。両の乳首から広がるくすぐったさが、今ではもう気持ち良くてならない。ペニスはつらいほどに漲りを繰り返し、後から後から逸り水を漏出させてくる。
「はあっ、はあっ、はあっ…んぁ、くっ…んっ、んううっ…!」
「んふふっ…こっちも、ツンツンになっちゃいましたね」
「ん、んぅ…」
 むつみがささやくとおり、景太郎は左の乳首もまた、彼女の唇の隙間で固くしこらせてしまった。景太郎は恥じらいのあまりに言葉も返せず、ついと視線を横向けてしまう。
 ともかく、これで景太郎の乳首は両方とも、むつみによって立派な性感帯にされてしまった。今後は乳首にキスされれば、それだけであっさりとペニスを勃起させてしまうことだろう。愛撫と唾液を擦り込んだむつみが相手なら、数分と経たぬうちに逸り水を滲ませるかもしれない。
俺の身体…どんどん敏感になってく…
 景太郎が陶然となって物思いに耽っていると、むつみは名残を惜しみ、左の乳首に少しきつめのキスを撃った。強く吸い付いたために、色素の濃い乳首も乳輪も、わずかに紅梅色に染まってしまう。
 これには景太郎も思わず狼狽えたが、注視されなければ目立つことはないようであり、すぐに胸を撫で下ろした。逆に、キスの余韻が過敏となっている乳首にじんわりと残り、アンコールをせがみたいような気分にさえなってしまう。
 とはいえ、そんな景太郎の欲張りな気持ちは、もはや乳首だけに留まっているわけではない。唇や耳、首筋や背中、そしてなによりペニスといった性感帯全体に色濃く募ってきている。こうしてむつみと睦み合うことによって、若々しくて健康な身体はすっかり活性化し、今までにないくらい欲しがりになってきた。
 そんな景太郎の愛欲を嗅ぎ回るように、むつみは再びよつんばいで後ずさりながら、彼の身体にいくつもいくつもキスを連発していった。乳首から左の腋へ、左の腋からみぞおちへ、みぞおちから今度は右の腋へと、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、とスキップするように唇を躍らせる。もちろんキスマークを残したりはしない。あくまで唇のふんわりとした柔らかみだけで、景太郎の身体中に愛情を注ぎ込もうと一生懸命になる。
 一方で両手でもそれぞれ五本の指を駆使し、景太郎の裸身をくすぐってゆく。胸元や乳首、腋や二の腕、脇腹や背中と、後ずさるのに合わせて汗ばんだ肌をこしょこしょとくすぐって回った。これは景太郎を困らせようとしてのことではなく、睦み合いに不慣れな彼の身体を馴染ませるためである。景太郎がくすぐったさを性感と認識できるよう、むつみは想いをこめて彼の裸身に指先を滑らせてゆく。
「あひっ、ひ、ひぃあっ…!ん、ひっ、ひいいっ!く、くふっ!ふぅううっ…!」
 それでも、やはりくすぐったいものはくすぐったい。
 ただでさえも過敏となっている身体をキスとくすぐりで刺激されて、景太郎はもはや堪えようもなく、すっかりよがりどおしとなってしまった。火照った童顔は苦悶にしかめられ、枕の上で何度も何度もかぶりを振って身悶えする。
 強烈なくすぐったさに身を強張らせて耐え続けてきたため、むつみに予告されていたとおり、腹筋が鈍い痛みを帯びてもきた。重度の筋肉痛に陥ったわけではないが、上体をひねろうとしただけでもピリリと痛む。無意識下に酷使されたために、腹筋も疲労困憊の状態となってきているのだ。
「…うらしまくん、腹筋、痛くなってきてません?」
「はぁ、はぁ、はぁ…え、あ…ど、どうしてわかるんですか?」
 景太郎が悶え疲れてヘトヘトになってきた矢先、ふとむつみが顔を上げてそう問いかけた。景太郎は呼吸を整えながら、素直な驚きのままに問い返す。
「だってうらしまくんの腹筋、すごく張ってきてるんですもの…。指で押さえても…ほら、びくともしないし。わたし、ちょっとしつこくしちゃいました?」
「そ、そんなことはないですけど…」
 むつみは気遣わしげに表情を曇らせながら、右手の指先で景太郎のみぞおちの下を何度か押さえてみた。引き締まってそれなりにたくましい体格の景太郎ではあるが、ここまでしっかりとした手応えがあると、さすがのむつみも筋肉の張りであることがわかる。
 景太郎も一応否定はするが、図星を突かれているのは事実であった。本音を言えば、そろそろ手加減してほしかったところでもある。むつみにじゃれつかれるのは素直に嬉しいが、気持ちはともかく身体は限界であった。
「じゃあ、キスとこちょこちょはひとまずここまでにして…」
「え…わっ、わわわっ!?あ…ん、んぅ…」
 むつみ自身も景太郎の身体を気遣い、キスやくすぐりはここで打ち止めにすることにした。その代わりにと、平伏すようなよつんばいのままでもう少しだけ後ずさり、豊満な乳房の狭間に景太郎のペニスをすっぽりと受け入れてしまう。
 これには景太郎も羞恥しきりとなって狼狽えたものの、その穏やかな感触に魅入られ、たちまち安らかな鼻声を漏らした。くすぐられている間の緊張感から解放されたこともあり、身も心もずいぶんと楽になる。
「これなら、そんなにくすぐったくないでしょ…?」
「ん、うん…あ、ああっ…ん…すごい…」
「あらあら、本当に気持ち良さそう。さっきまでと全然違うじゃないですか」
「だ、だって…」
 むつみはそのまま前後に揺れ動いて乳房をたわませながら、様子を窺うような上目遣いで景太郎に問いかけた。景太郎はペニスを包み込んでいるむつみの乳房に視線を釘付けにしたまま、まさに夢見心地といった声音でつぶやく。揶揄された照れ隠しに反論しかけたものの、目をまん丸にして見とれたまま、結局言葉を紡ぎ出せない。
 それくらいむつみの乳房の感触は心地良かったし、その光景は刺激的であった。
 ペニス自体にはさほどの快感は生まれてこないのだが、下腹から太ももの付け根にかけてがとにかく気持ちいい。豊満な乳房のずっしりとした重みと、どこまでもぽにゃぽにゃとした柔らかみ、そして景太郎の体温よりも若干ひんやりとした感触がどうにも心地良くて、陶酔の溜息が止まらなくなる。
 おまけに、勃起しきりのペニスを乳房で挟み込んでくれているむつみの姿がたまらなく淫靡で、どうにも性的興奮を抑えられない。
 いわゆるパイズリという性行為自体は、景太郎もアダルトビデオのワンシーンで見たことがある。男優が主体となり、女優に乳房を性の遊具として差し出させて射精を遂げる光景には、景太郎も並々ならぬ憧れを抱いたものだ。
 それが、今は違う。今はむつみに奉仕してもらっているのだ。雌性のセックスシンボルで、雄性のセックスシンボルを愛してもらっているのだ。
 異性にしおらしく身体を捧げてもらっている現実がたまらなく嬉しくて、景太郎の男心はこの上ない充足感に満たされてくる。ツヤツヤのパンパンに膨れ上がった亀頭が真っ白な乳房の狭間から見え隠れするのに合わせて、自尊心までもがくすぐられるようであった。
「ああ…うらしまくんの、本当に大っきくて熱いから…おっぱいも、いい気持ち…」
「むつみさんの胸、さっきまではちょっとひんやりしてましたからね…。大きいと冷えやすいんでしょ」
「どうしても、ね。だからうらしまくんとこうしてると、外が冬だってことも忘れちゃいます。こうやって考えると、エッチできるって本当に幸せなことですよね」
「そうですね…きっと今の俺…ううん、俺のそこって、世界で一番幸せなんだろうなぁ」
「あらあら。だったらわたしのおっぱいこそ、きっと今世界で一番幸せですよ」
 乳房での愛撫に浸りながら、二人は新婚夫婦にもひけを取らないくらいに仲睦まじくおしゃべりと笑みを交わす。
 性器ほどに過敏な性感帯ではないが、乳房もこうして愛撫に励むと十分な性感が得られるものだ。乳房も乳首も肌の上で擦れるから適度な刺激を受けるし、特に女が主体であれば自分のペースで動けるから快感も模索しやすいのである。同時に、愛おしいパートナーを攻め立てる興奮も得られるから一石二鳥といえよう。
 なにより、男の下腹やペニスのぬくもりが、冷えやすい乳房にはなんともいえず心地良い。特に勃起しきりのペニスは興奮の血潮を怒濤のごとく巡らせているわけだから、睦み合っている間は常にホカホカで、まさに懐炉のようである。こうした冬場の睦み合いには、実にありがたく感じてしまう。
 むつみは同年代の同性と比べてもふくよかな乳房の持ち主であるから、こうした女が主体のパイズリは大好きだ。ひなた市もまだまだ寒い季節が続きそうだから、景太郎さえよければ毎晩でも相手させてほしいくらいである。それで景太郎も悦んでくれるのであれば、まさに願ったり叶ったりであった。
 とはいえ、景太郎とは今日が初めての睦み合いであるから、もっともっと色んな愛撫で悦ばせたい。それに景太郎は睦み合いが初めてということだから、もっともっと色んな愛撫を体験してみてほしい。
 そんな愛欲を募らせるにつれ、いつしかむつみも乳房とペニスとの押しくらまんじゅうに見とれていった。ふくよかな乳房の隙間で揉みくちゃにされながら、しとどに逸り水を漏出させているペニスが、今はもう愛おしくてならない。
「ね、うらしまくん…脚、開いて…」
「う、うん…」
 むつみはやんわりと愛撫を止めると、乳房の狭間から突出しているペニスに見惚れたまま、そう景太郎におねだりした。景太郎は快感と緊張感と期待感でせつなく胸を詰まらせながら、枕の上で小さく首肯する。
 むつみがよつんばいから膝立ちに身を起こすのを待ってから、景太郎はゆっくりと両の膝を立て、彼女の求めるがままに脚を開いた。それで景太郎の股間はおむつを替えてもらう幼子さながらに、むつみの眼前で赤裸々となってしまう。
 へそを目指して伸び上がるように勃起しているペニスも。
 ふたつの睾丸を内包し、ふんにゃりと垂れ下がっている陰嚢も。
 それでも、景太郎はさほど狼狽えはしなかった。もちろん恥じらいを感じないわけではないが、それでも居心地の悪さや決まりの悪さまでは不思議と込み上げてこないのである。
 これもすべては、胸が騒ぐような緊張感と、同時に胸が逸るような期待感の方が羞恥心を凌いでいるからだ。それに加えて、日頃から親しくしているむつみの前に性器を晒しているという状況があまりに非現実的だという理由もある。胸はドキドキと高鳴り、ワクワクと逸るものの、どこかフワフワとしていて現実味のない感覚に理性も調子が狂ってしまうのだ。
「…本当に不思議です」
「な、なにが…ですか?」
 むつみはあらためてよつんばいに身を低め、まさに目と鼻の先でマジマジと男性器の佇まいを眺めながら、ぽつりとそうつぶやいた。景太郎はペニスも陰嚢も覆い隠したりせず、むつみからの視線を浴びるがまま、きょとんとなって応じる。
「うらしまくんって、顔は女の子みたいにかわいいのに…ここは本当に男らしくって、たくましいから…」
「さ、さっきからそんなことばっかり…」
「だって、本当にそう思うんですもの…。うらしまくんの体付きって、見た目よりずっとたくましいんですけど…やっぱりここは特別です。長くって、太くって、固くって…それに、形にもすっごくメリハリがあって」
「んぁっ…ん、んぅう…」
「ほら、気持ちいいときの声だって女の子みたいなのに…んふふっ」
 景太郎が照れくさがってそっぽを向いた隙に、むつみは勃起しきりのペニスを右手でしっかりと握り込んだ。その思わぬ快感に景太郎がよがると、むつみは悠然と伸び上がるように勃起しているペニスを強引に起こしつつ、嬉々として彼に微笑みかける。
 むつみが感心しきりとなるとおりで、景太郎のペニスは確かに堂々とした佇まいだ。長く、太く、固く勃起した雄性のセックスシンボルは、同年代のそれと比較しても大きめの部類に入ることだろう。それに加えて、へそを目指して反り返ろうとバネ仕掛けのように力強く漲っているから、こうして握り込むと、そのたくましさはひとしおとなる。
 また、カラオケのマイクよろしく正面に見据えると、亀頭の様子もあらためて確かめ回すことができる。
 ツヤツヤのパンパンに膨張している粘膜質の亀頭は、思わず圧倒されそうなくらいに大きい。先程ペッティングでじっくりと愛し抜きはしたが、こうしていざ眼前にすると、その迫力は思わず息を呑むほどだ。その矢尻のような形といい、赤黒い色合いといい、気の小さい女なら思わず目を背けてしまうことだろう。
 むつみもペニスの造形自体には絶対的な好感を持ってはいないのだが、愛おしい男の最高の性感帯という事実だけで、すべてを受け入れることができる。
 特に今の景太郎のように、先端の鈴口から逸り水を滲ませている姿は実に微笑ましく思う。雄々しいたくましさとは裏腹に、早く射精したいと待ち焦がれてウルウルと半ベソをかいているようで、なんともかわいく映るのだ。
「んふふっ、さっきからいっぱい泣かせちゃってますね…。ごめんね、もう少しだけ我慢してて…そうしたら、思いっきり…思いっきり出しちゃっていいから…」
 むつみは包皮ごとゆっくりと幹をしごきつつ、ぐずる子供をあやすような口調でペニスに語りかけた。視線は逸り水で潤う鈴口に釘付けのまま、濃密な男臭さをゆったりと鼻から吸い込み、陶酔の溜息にしてペニスに吐きかけたりもする。
 そんな艶めかしい愛撫が十秒ほども施されたところで、ペニスは逸り水の漏出を再開した。精製したての無色の粘液がとろりと伝い落ちるのを見守ってから、むつみは静かに目を伏せ、その泣き虫な鈴口におずおずと唇を寄せる。

つづく。

 

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