<<ラブひな>>

happiness on happiness (12)

作・大場愁一郎


 

「ん…う、うん…」
 やがてむつみは抽象的な言い回しで誘いかけると、肘を突いて平伏していた上体をゆっくりとよつんばいに起こした。景太郎はむつみの尻から秘裂からをぼんやりと眺めながら、その言葉の意味を認識してぎこちなく首肯する。
 来るべき時の訪れに、童貞故の期待感は否が応にも膨らんできた。ふと気が付けば、再びむつみの陰部をマジマジと凝視している始末である。
 指で、唇で、舌で、思う存分刺激してきたこの膣に、早くペニスを没入したい。
 そんな素直な情欲で吐息が詰まるくらい、景太郎もまた欲しがりになっていた。ペニスも今までにないくらいたくましく漲り、びくんっ、びくんっ、と打ち震えて下腹に逸り水を滴らせている。その姿はまるで、焦らし抜かれて半ベソをかいているかのようだ。
 そのペニスの裏筋にもう一度だけキスを残してから、むつみはよつんばいで跨ぎどおしにしていた景太郎の上から退き、膝立ちに身を起こした。そっと右手の甲で口元を拭うと、シックスナインで睦み合ってきた恥じらいがあらためてぶり返してきて、そのままはにかみいっぱいといった風に目を細める。
 そんなむつみの照れくさそうな笑顔と、なにより圧倒的なまでの乳房がどうにも面映ゆくて、景太郎は彼女から視線を逸らした。自らも右手の甲で口の周りの愛液を拭えば、男心は淫行の余韻と羞恥、そしてむつみの裸身の美しさに狂おしくときめいてゆく。
 女の秘裂が陰部と呼ばれるのなら、乳房はさしずめ陽部であろう。
 景太郎は男心を落ち着けようとする中で、そんなどうでもいいことを思い巡らせた。女の秘裂はどこか不健全で淫猥そのものの印象を受けるが、一方で乳房は健康的であまりにまばゆい。こと乳房に関しては、老若を問わず憧れを抱き続けてしまうのも無理はないと、景太郎は頬の火照りとともにしみじみと実感する。
「うらしまくん…ねえ、うらしまくん」
「…あ、は、はい?」
 幸せな照れくささに浸りきっていたために、景太郎はいつしかぼんやりと惚けていた。むつみの呼びかけにも数瞬遅れて気付き、慌てて応じる始末である。
 とはいえ、むつみもむつみで恍惚となっている景太郎に見惚れていたのだから機嫌を損ねたりはしない。景太郎に陰部を眺め回されていた事実が嬉し恥ずかしくて、なにより一秒でも早く交わり合いたくて、それどころではないのだ。
「はい、タッチ交代」
「う、うん…」
 むつみははにかみ混じりでそう言うと、右手の平をそっと景太郎に差し出した。景太郎はタッチ交代の文字通りに同じ右手の平を添え、そのままむつみに引っ張ってもらって上体を起こす。
 もちろん景太郎自身も左手で上体を支えながらであるから、むつみには負担というほどの労苦もかからない。むしろこんな作業すらもスキンシップとして楽しく、同じ膝立ちの体勢となって見つめ合えば、二人の眼差しはたちまち愛おしげに細まってしまう。
「ふぅ…んふふ、うらしまくんもわたしも汗びっしょり」
「ホントだ、いっぱい汗かいちゃいましたね…。さすがにちょっと暑いかな」
「でも、贅沢な話ですよね。外は木枯らしが吹いてるっていうのに」
「あはは、確かにそうですね。年の瀬を前にして暑い暑いなんて言ってるの、日本中で俺達だけなんじゃないですか?」
「ふふっ、さすがに沖縄でもこうはいきませんからね」
 むつみの何気ないつぶやきに景太郎が応じると、そのまま二人は膝立ちのままで向き合い、ささやかなおしゃべりに花を咲かせた。それで二人の募りきった愛欲はやんわりと和らぎ、代わりに睦み合いの幸福感があらためて胸中に満ちてくる。その素敵な居心地の良さに、景太郎もむつみもそれぞれで相好を緩めてしまう。
 むつみがつぶやいたとおりで、シックスナインに夢中になっていた二人の身体は上から下まで汗みずくであった。一糸まとわぬ生まれたままの姿でありながらも、点けっぱなしのストーブとロフトベッドの構造、そしてなにより睦み合いの興奮のために蒸し暑くてならず、ひっきりなしに嘆息が漏れるくらいである。窓の外は木枯らし吹きすさぶ冬景色だというのに、冷えたジュースやアイスクリーム、それこそ瑞々しいスイカが恋しくてならない。
「…じゃあ、少しだけ換気扇を回しましょうか」
 むつみは右の手首で額の汗を拭いながらそう言うと、景太郎に代わって仰向けに寝そべりつつ、壁際の電源スイッチに左手を伸ばした。コンセントと一体になっている換気扇のスイッチをオンにすると、部屋の隅にある排気口から微かな作動音が聞こえてきて、ロフトベッドにこもっていた湿気と熱気がたちまち薄らいでゆく。
「ほらほらうらしまくん、すぐに寒くなっちゃいますから…ね?」
「え、あ…は、はいっ…」
 汗だくの身体全体で穏やかな清涼感に浸っていた景太郎は、むつみの気遣わしげな早口で慌てて我に返る。
 むつみはすでに枕の位置や乱れたバスタオルを整え、正常位で男を迎え入れる体勢作りを済ませていた。両膝を立ててゆったりと開脚し、両手を差し伸べて景太郎の来訪を待ち侘びていたのである。
 豊満な乳房も、十分に潤った陰部もあるがまま、一切覆い隠してはいない。むつみはまさに、大人の女として立派に成熟した裸身のすべてを景太郎に捧げようとしているのだ。
 そんなむつみの脚の間に膝立ちのままおずおずと進み入り、景太郎はあらためて生唾をひとつ飲み込んだ。アダルトビデオでしか見たことのない求愛のポーズを目の当たりにして、童貞卒業の期待感がいよいよ濃厚となってきたのである。
 それに加えて、むつみの色っぽさとかわいらしさがうぶな男心を舞い上がらせてくる。美しい裸身と、信頼に裏打ちされた笑顔が今さらながらに照れくさい。こんなにかわいい女の子とセックスしちゃっていいんだろうかなどと、異性と縁遠かった男心の卑屈な部分が余計な疑念まで持ち出してくる始末だ。
 こうしてむつみの裸身を呆然と眺めていると、不意に景太郎は肩から背中、そして二の腕にかけてゾクゾクと寒気を覚えた。思わず部屋の隅の排気口にちらりと視線を向け、先程のむつみの言葉を思い起こす。
 見た目は控えめながらも、換気扇は思いの外強力に熱気を排出しているようであった。そもそもこうして裸のまま汗も拭かずにいれば、わずかな温度の低下でも冷え冷えと感じてしまうのは無理もないことである。景太郎は無性に人肌のぬくもりが恋しくなり、あらためて眼下のむつみを見つめた。
「じゃあ、むつみさん…」
「ん…」
 景太郎はそう呼びかけると、膝立ちの脚を肩幅より若干開き、敷いてあるバスタオルに両手を突いてむつみの上に身を乗り出した。むつみはよつんばいとなった景太郎の背中に両手を伸ばし、乳房が二人の間でたわむほどに抱き寄せてから静かに目を伏せる。
 景太郎も倣って目を閉じると、そのまま二人の想いをひとつにするようふんわりと唇を重ねた。そのまま呼吸を止めて数秒ほど男女の密着感を懐かしみ、やがて鼻で息継ぎしつつ、互いに募っていた接吻欲を満たしてゆく。
 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と優しく吸い付き合って小さなキスを連発したり。
 ちゅむ、ちゅむ、ちゅむ、とバードキスで仲良く唇を割り開き合ったり。
 ちょみ、ちょむ、ちょみ、と上唇と下唇を交互についばみ合ったり。
 二人の唇はシックスナインの名残であるそれぞれの体液で濡れたままであったが、もはやそんなことは微塵も気にならない。逸り水と愛液、そして唾液が混ざり合い、ヌルヌルとぬめる感触自体も楽しみながら、二人は鼻息も荒くキスを満喫する。
 換気扇は作動したままであるが、こうして唇を欲張り合ううちに、景太郎はいつしか肌寒さを忘れていった。それどころか若い身体は性的興奮に燃え上がり、再びじんわりと汗ばんできたほどだ。胸元も、背中も、尾てい骨の辺りも、そして鼻の頭にも汗の粒が浮かんでくる。
 それはむつみも同様だ。キスを堪能するうちに和らいでいた愛欲が再燃してきて、かわいい顔から首筋にかけてがほこほこと紅潮してきた。ましてや景太郎に覆い被さられている格好であるから体熱の逃げ場が無く、特に胸元は汗びっしょりとなってくる。
「ん、んっ…んんっ、んんっ…ん…ま、待って…」
「ん…んぅ…?」
 キスに夢中になってきた景太郎が舌を忍ばせようとしたところで、むつみは唇を固くすぼめてそれを拒み、隙を見て小声で制した。景太郎は失意で表情を曇らせながら、一旦顔を上げてむつみを見つめる。
「続きは、つながってから…ね?」
「あ…は、はい…」
「つながってからのキスと、終わってからのキスって…特別気持ちいいんですから」
「う…」
 むつみは景太郎の寂しげな面持ちを気遣い、彼の汗ばんだ背中を撫でながらそう微笑みかけた。景太郎はむつみのその言葉にたちまち期待感を膨らませ、ドキドキと胸を高鳴らしてしまう。
 むつみの言葉は経験に基づくものであり、過去の男の存在を暗示させるものでもあったが、今の景太郎には純然たる興奮の糧であった。むしろ挑発的にさえ聞こえるその言葉に、雄性としての本能も理性を振り払って奮い立たんばかりとなってくる。
 なにせ、むつみの言うつながってからのキスも、終わってからのキスも、今は自分だけが彼女と堪能できるのだから。
 その魅惑的な事実が、景太郎にはもう嬉しくてならなかった。幻想的な現実が嬉しくてならなかった。理想の異性と心ゆくまで睦み合える日が訪れたことに、なんだか嬉し涙が滲んできそうなくらいである。
「…本当に、いいんですよね?」
「ええ、いいですよ…いつでも…」
 景太郎はありったけの理性で逸る気持ちを抑え付けながら、夢のような現実を再確認したくてそう問いかけた。むつみは景太郎の真意をわずかに読み違え、縮こまるように腰を浮かせて結合の体勢を整えながらぽつりと答える。
 背中を抱いていた左手もそっと下ろし、景太郎が右手でペニスを誘導しやすいようにした。シックスナインとキスのおかげで二人とも潤いは十分であるから、今ならそっと触れ合っただけでもすんなりと繋がってしまうことだろう。
「じゃ、じゃあ、むつみさん…その…ゴム、着けますから…」
「あらあら、ちゃんと用意してたんですね」
「えっ…?」
「はい…?」
 こうして、むつみから先に心の準備を終えた矢先。
 二人はなんとも要領を得ないやり取りを交わしたことに気付き、きょとんとなって見つめ合ってしまった。景太郎はむつみの言葉の意味が、むつみは景太郎の困惑の理由が理解できず、それぞれで小首を傾げ合う。
「む、むつみさん…ゴム、持ってるんじゃないんですか?」
「え?もう、うらしまくんったらこんなときに変な冗談なんか言っちゃって。さっきシックスナインしてたときにも見てたでしょ?わたしはれっきとした女です。コンドームって男の人が使うものじゃないですか」
「え、あ…そっ、そりゃあそうなんですけど…いや、あの、むつみさんのほうでゴムとか用意してるのかな、なんて思ってたんですけど…違うんですか?」
「用意、ですか?わたしは別に…そもそも、女である自分が使えないものをわざわざ買っておく必要なんてないと思うんですけど…?」
「う、ううう…」
 苦笑半分ながらも至って真面目な口調で語るむつみを前に、景太郎は狼狽しきりとなって唇を噛み締める。
 景太郎にしてみれば、まさか今日こうしてむつみと交わることになるとは夢にも思っていなかったから、当然避妊の用意などしていない。そもそもむつみから誘ってきたわけだから、てっきり彼女の方で必要な準備をしてくれているものと信じ込んでいたのだ。
 それがどうやら、当てが外れてしまったらしい。そうなると童貞卒業は、理性的に考えればお預けにしなければならないだろう。
 景太郎もむつみも、お互いに東大合格を目指している受験仲間だ。ここで万が一むつみを妊娠させようものなら大事である。景太郎としても軽はずみな行動で自分の首を絞めたくはないし、なによりむつみの人生を狂わせることだけは絶対にしたくない。
もうこんなチャンス巡ってこないかもしんないけど、我慢しなきゃ…
 景太郎はむつみの柔らかみとぬくもりを裸の胸いっぱいに感じながらも、懸命に良心を奮い立たせて情欲を押さえ込むことに決めた。もちろんペニスは今なお射精欲を満たして勃起しきりであるが、今夜は少なくとも三回はマスターベーションするつもりで逸る気持ちをなだめにかかる。
「うらしまくん…コンドーム着けなきゃ、いやですか?」
「…え?い、いや?俺が…?」
 ふとむつみは様子を窺うような上目遣いとなり、極めて遠慮がちな口調で景太郎に問いかけた。景太郎はその問いかけの意味を量りかね、困惑に両目をぱちくりさせながら問いかけで応じる。
「あ…ご、ごめんなさいっ。当然ですよね。処女じゃない女とエッチするんですもの…やっぱり、性病とか気になりますよね」
「せ…あ、おっ、俺はそういうことで言ってるんじゃなくって…」
 かと思うと、むつみはたちまち苦笑しきりとなり、自嘲めいた独語で先程の問いかけをうやむやにし始めた。その独語の中に現れた剣呑な単語を耳にして、景太郎はようやくむつみの真意を悟り、ますます狼狽を深めてしまう。
 あくまで景太郎は、不要な妊娠を避けたくてコンドームの着用にこだわっているのだ。性病などとはせの字も思い付かなかったし、そもそもむつみの陰部が汚らわしいとは一瞬たりとも感じていない。もしそう感じていたなら、シックスナインに夢中になどなっているはずもないのだ。
 むつみの誤解を解きたいところだが、そうしたところで童貞卒業延期に変わりはない。
 こうして心中を整理していると、景太郎の意識にはほの暗い靄のように居心地の悪さが立ちこめてきた。肌を重ねて寄り添い、ぬくもりを分かち合っていることすらもこのままでは無意味のように思えてきて、どうにも気まずくなってくる。
 気まずいながらも、男心の奥底ではやはりまだ未練があった。睦み合いの中で愛欲を燃え盛らせたために、景太郎の男心は、今やすっかり甘えんぼで寂しがり屋になってしまっている。もうおしゃべりすることさえも睦み合いの終末を速めることになりそうで、次第に誤解を解く意欲も消失してゆく。
「…赤ちゃんのことなら、気にしないでください」
「えっ…んぁ、あっ…んぅ、ん…?」
 景太郎が唇を噛んで塞ぎ込んでしまうと、むつみは何かに気付いたかのようににっこりと微笑みながら、先程下ろした左手で景太郎のペニスをしっかりと握り締めた。景太郎はむつみの思わぬささやきと愛撫に素っ頓狂な声をあげ、まっすぐに彼女を見つめる。
「うらしまくんの赤ちゃんなら…産めるものなら産みたいです」
「そっ、それはだめでしょっ!?だって俺達まだ学生だし、それに…その、もしできちゃったら…そのときはもちろん養っていけるように頑張るけど、でもセンター試験だって目の前だし、実家に戻るにしても和菓子の修行なんて、俺全然…」
「んふふっ、まあまあ落ち着いて。赤ちゃん産みたいっていうのは冗談としても…とにかく大丈夫ですから、心配しないでください」
「大丈夫って…あ、ちょ、むっ…むつみさんっ…」
 むつみは狼狽しきりとなって錯乱しかけた景太郎に優しくささやきながら、左手でゆっくりとペニスをしごき始めた。景太郎のペニスは絶望やら狼狽やらで和らぎかけていたものの、その丁寧なペッティングですぐまた興奮の血潮を巡らせてくる。
 幹がたくましく漲り、亀頭もツヤツヤのパンパンに張り詰めると、先端の鈴口からはたちまち逸り水の漏出が再開されてきた。むつみは下から撫で上げるようにしごき立てているため、手の中はすぐに逸り水でいっぱいとなり、にちゅにちゅとぬめる音が否応なしに漏れ出てしまう。
「ほら…うらしまくんのおちんちん、エッチしたいってぐずってる…。わたしの…その、わたしだって、おんなじなんですから…」
「で、でもっ…赤ちゃんできちゃったら、俺…むつみさんに、迷惑かけちゃうっ…」
「ううん、大丈夫ですから…うらしまくんにも、絶対に迷惑はかけません…約束しますから…ねえ、お願い…お願い、うらしまくん…もう、ここまで来てるのに…」
「う、うううっ…」
 むつみは焦れてむずがるように笑顔を歪めながら、ねちっこく景太郎のペニスをしごき立てて求愛を重ねた。その巧みなペッティングが喚起してくる射精欲に翻弄されて、景太郎はあどけなさの残る優面をしかめて狂おしくうめく。
 むつみを大切に思う気持ちと、むつみを愛おしく思う気持ち。この二つが景太郎の心中でせめぎ合っているのだが、募りきった愛欲の援護を受けられるのはやはり後者であった。
それにこうして裸のまま寄り添い、ペッティングまで施されているのだから、童貞の男心が血気盛んとなるのも仕方のないことであろう。
「はあっ、はあっ、はあっ…むつみさん…むつみさん、むつみさんっ…ん、んっ…」
「はぁ、はぁ、はぁ…あん、んっ、んふっ…んぁ…ん、んんっ…んぅう…」
 景太郎は堪えようもない愛欲に突き動かされるまま、ゆっくりとよつんばいの上体を低めていった。そのまま左の頬どうしを触れ合わせると、愛おしいその名を連呼しながら夢中で頬摺りに浸ってゆく。
 とはいえ、その優しいスキンシップに浸っていたのはわずかな間だけであった。
 景太郎は甘えんぼそのもののしぐさでむつみに頬摺りしていたのだが、いつしか頬摺りしながらさりげなく彼女の頬に唇を押し当てていった。そしてそのうち頬摺りとキスの比率は逆転し、やがてキスばかりに積極的となってしまう。それも頬だけに留まらず、耳朶やこめかみ、あごの線から首筋にかけてと、いくつもいくつも小さなキスを撃って募る愛欲をなだめようと躍起になる。
 そんな景太郎のじゃれ付きを拒んだりせず、むつみはその間も丁寧に丁寧にペッティングを施してゆく。逸り水のぬめりに任せて、剥き出しとなっている亀頭から幹の根本へと、優しく包皮を押し下げるよう長いストロークでペニスをしごき立てていった。そのたびに景太郎はかわいい鼻声で悶えるのだが、それでもむつみは彼をもっともっと欲しがりにしようと、加減を意識しながら愛撫に一生懸命となる。
 そんなむつみのねちっこい求愛行動に浮かされ、とうとう景太郎の理性は愛欲の大渦に呑み込まれてしまう。
「はあっ、はあっ、はああっ…ま、待って…待って、むつみさんっ…」
「ん…」
「…本当に…本当に、いいんですね?本当の本当に大丈夫なんですねっ?」
「ええ、心配しないで…本当の本当に大丈夫ですから…お願い…」
 景太郎は横顔へのキスを終えて愛撫を制すると、両手をついたよつんばいに上体を起こし、思い詰めた表情であらためてむつみに念を押した。むつみは息を弾ませながらペッティングを終え、朗らか笑顔をせつなげにしかめながら景太郎を求める。
 景太郎はやけっぱちよろしく覚悟を決めると、右手でペニスの幹を摘み、ひとまず当てずっぽうで亀頭をむつみの秘裂へと導いた。とはいえ亀頭が辿り着いたところはたまたまクリトリスであったから、その瞬間むつみは思わず小さな鼻声でよがり鳴いてしまう。
 そのかわいい声音にときめく余裕もなく、不慣れな景太郎は困惑半分、繰り返し繰り返し亀頭の先でむつみの膣口をまさぐった。もちろん秘裂のぬくもりは感じ取れているし、性器どうしがぬめっている感触もわかるのだが、ここだという見当がまるきりつかない。だいたいの位置は把握しているのに、上かと思うと性毛に覆われた恥丘へ辿り着くし、下かと思えばぬくもりから逃れてしまうしで、焦燥は募るばかりとなってくる。
「あれっ…?あ、あれっ…?ん、んぅう…」
「…うらしまくん、わかりにくいですか?」
「え、あ…は、はい…」
 秘裂をまさぐられるくすぐったさと焦れったさで身じろぎしどおしのむつみであったが、ようやく景太郎の狼狽を気取り、小声で助け船を出した。景太郎は気まずくてむつみと見つめ合うこともできず、自分たちの結合部を見透かすようにうつむいたままで小さくうなずく。
「触るとすぐわかるのに、先っぽだとわかんないもんですね…。なんだか、ここってこんなに小っちゃかったかな、なんて…」
「んふふっ。指と…その、おちんちんじゃあ大きさが全然違いますからね」
 景太郎は弁解しながら、自身の不甲斐なさに苦笑しきりとなった。むつみは景太郎を意気消沈させまいと、両手でそっと彼の肩を抱き込み、おどけ半分で微笑む。
 実際、指先で触れるのとペニスの先端でまさぐるのとでは、陰部の感触はまるで別物だ。童貞ならなおのこと、その意外さに戸惑いを禁じ得ないことだろう。
 指もペニスも敏感な部位という意味では同じだが、指は細いうえに自由自在に曲げ伸ばしができるから、何かをまさぐるという行為に於いては明らかにペニスより優れている。そもそも人間の手指はその類の行為を日頃から受け持っているのだから当然だ。ペニスで物の形や感触、温度や硬度を確かめたりすることはまずありえないのだから、景太郎が戸惑うのも仕方がないことである。
「コツさえつかめば結構すんなり入っちゃうものだと思うんですけど…とりあえずうらしまくん、下の方へグイグイ押し割るつもりで試してみてください」
「お、押し割る…ですか?」
 むつみは両手で景太郎の肩からうなじにかけてを撫でつつ、そんな端的なアドバイスを送った。景太郎はむつみの大胆な言葉で挿入の要領をイメージしながら、あらためて亀頭の先端をクリトリスに触れさせる。
 一向に膣口を探り当てられなくて狼狽えはしたものの、ペニスは今なおたくましく勃起したままであり、結合はいつでも可能な状態だ。同時にむつみのクリトリスも興奮しきりで健気に屹立しているから、そっと切っ先でじゃれかかると、ヌルヌルとぬめりながら先端の鈴口をしっかりと塞いでくる。
 こうして過敏な性感帯どうしでささやかに愛欲を分かち合ってから、景太郎はむつみのアドバイスを意識しつつ、少々強引かと思えるほどの力で秘裂の奥底をなぞっていった。するとクリトリスから数センチほども下降したところで、亀頭の先端部分が小さなくぼみにすぽっと収まり、わずかに引っかかったようになってしまう。もちろん吸着されて動けないというわけではないのだが、少々押しつけ気味にすると、環状を為しているすぼまりにはっきりとはまり込んでしまうのだ。
 おっかなびっくりの生易しい探り方では見つけ出せなかったそのくぼみは、濃桃肉の縁取りの下端に紛れもなく存在していた。景太郎はようやく目的地に辿り着けたことを確信して胸を撫で下ろしながらも、つい心配そうな上目遣いでむつみを見つめてしまう。指で確かめたときよりもはるかに小さいように思えて、本当の本当にここで間違いないのか気になるのだ。
 そんな景太郎の自信なさげな眼差しを受けて、むつみははにかみいっぱいといった風に目を細めながら小さくうなずいた。肩からうなじからを撫でていた両手は、早くも景太郎を抱き寄せようと彼の背中へと伸びる。
「じゃあ、むつみさん…」
「ええ…久しぶりですけど、痛くはないと思いますから…気にしないで、そのまま…」
 コクンと生唾を飲んだ景太郎に、むつみはそう言い添えて微笑む。
 心からの信頼に裏打ちされ、睦み合いの期待感に輝いてさえ見えるむつみの笑顔は、見ているだけでも男としての自信が備わってきそうなくらいに愛くるしい。このとびきり素敵な笑顔を独り占めできている果報に胸を高鳴らしながら、景太郎は走り幅跳びの踏切を蹴るような気持ちで下肢に力を込める。
 そして、とうとう景太郎はむつみとの肉体的距離をゼロ以下にした。
「あああっ…!」
「んあっ…ん、くっ…んうっ…!」
 ツヤツヤのパンパンに膨れ上がっている亀頭が窮屈な膣口を押し広げ、ヌルンッと膣内にぬめり込んだ瞬間、むつみは嬉々とした表情で嬌声をあげた。景太郎は景太郎で、亀頭全体に殺到してきた未経験のくすぐったさを堪えるよう、唇を噛み締めながらかわいい鼻声を漏らす。
 それでも景太郎は、この童貞卒業への第一関門突破だけで感動しきりとなることはなかった。ペニスから右手を戻し、再び両手で上体を支えると、あらためてむつみの膣の奥深くへと挿入を再開する。膣口はきつくすぼまって幹を締め付けてくるものの、内側の膣壁自体はすんなりと突き広げて行けるので、わずかな体重移動だけでペニスはあっけなく子宮口付近にまで没入されてしまう。
「んぅ、うっ…んっ…んぁ…んふっ、うらしまくん…」
「ん、うん…」
 むつみは奥深くでの結合による歓喜で瞳を潤ませながら、両手でそっと景太郎の背中を抱き寄せた。それに合わせて景太郎も布団に両肘を突き、むつみの肩と首筋を抱いて、ぴったりと裸身を寄り添わせる。
 裸身に挟み込まれたむつみの乳房がむんにゅりとたわめば、それで二人の胸は抱擁の安堵感に満ち満ちてきた。裸の抱擁それ自体でも夢心地を覚えられるのに、深く結合を果たした後では、その充足感は格別となる。むつみも景太郎も頬を擦り寄せながら夢中で互いを抱き締め、何度も何度も甘ったるい溜息を漏らした。
「…ねえ、うらしまくん…わたしの中、どうですか?」
「んぅ…その、あったかくって…とにかくもうあったかくって…あったかいのが本当に気持ち良くって…」
「んふふっ…うらしまくんったら、あったかいってばっかり」
「だ、だって、本当にあったかいから…」
 二人はゆったりと頬摺りを重ねながら、吐息の中に消え入ってしまいそうな睦言を交わして嬉々となる。
 実際、景太郎がむつみと交わった第一印象は温かいの一言に尽きた。たとえて言うなら、温泉に肩まで浸かった瞬間の極楽気分がペニスだけに凝縮されたような心地であった。
 それになにより、亀頭から幹からのすべてがすっぽりとぬくもりに包み込まれてゆく感触は、童貞の景太郎にとって想像以上の快感であった。ヌルンヌルンにぬめる膣内の居心地は身震いが来そうなくらいにくすぐったくはあったが、それでも何度も挿入をやり直し、その幸せなぬくもりをペニスに染み込ませたいような欲求さえこみ上げてくる。
 そんな挿入の快感だけでなく、ふっくらとした抱き心地、甘やかな匂い、汗ばむほどの体熱、それらすべてから、景太郎は童貞卒業の感動を覚えていた。しかもその相手が人並み以上にかわいいむつみであるのだから、もう嬉しくて嬉しくてしょうがない。夢ならどうか覚めないでと、祈るように心中で繰り返してしまう始末である。
 一方でむつみも久しぶりに異性を受け入れ、女冥利に尽きる思いでいっぱいであった。
 キスと抱擁、ペッティングにシックスナインと、じっくりと時間をかけて睦み合ってきたために、深い結合を迎えた身体は濃密な充足感に包まれている。特に景太郎のペニスはむつみの膣に対して十二分にたくましいから、結合の実感も素晴らしい。早くピストン運動で小突いてほしいと、たちまち子宮口が性感帯としての貪欲さを覚醒させてきたほどだ。
 その肉体的な充足感に比例して、精神的な満足感も極めて大きい。日頃から親しくしている景太郎に身も心も許しきり、女として慎ましやかに守るべき秘裂の、その奥の奥まで捧げた解放感に女心は逸りどおしである。童貞を卒業したばかりの景太郎にも負けないだけ期待が膨らみ、胸が焦れったく痛んできたほどだ。
「ねえ…ねえ、うらしまくん…」
「んぅ…?」
「ん…キスして…繋がってからの、キス…」
「あ…ん、うん…」
 むつみは夢中で頬摺りに浸りながら、胸の焦燥をささやき声でのおねだりにして景太郎の耳孔に吹き込んだ。景太郎はむつみからの熱く湿った求愛に舞い上がり、ぼっと火が出る勢いで顔面を紅潮させる。
 キスにはすっかり慣れているはずなのに、繋がってからのキスは素晴らしいものだと教えられているぶん、その場に臨むとついつい期待を募らせ、過剰に緊張してしまう。男心は血気盛んとなって高ぶるものの、一方で身体はすっかり凝り固まってきた。
 それでも景太郎はひそやかに深呼吸をひとつして気持ちを落ち着けると、まずはほこほこと温かなむつみの頬に唇を押し当てた。むつみはそのくすぐったさに嬉々として目を細め、景太郎を抱く手により一層の力を込めてしまう。
 そのまま景太郎はむつみの頬からあごの線にかけて丁寧にキスを連発し、それからようやく唇どうしを重ね合わせた。二人の瑞々しい薄膜がふんわりとたわみ合った瞬間、景太郎もむつみも鼻から恍惚の溜息を漏らし、淫靡なさえずりのハーモニーを奏でる。
 そのまま二人はぴったりと隙間無く唇を塞ぎ、ちゅううっと吸い付き合う密着キスを三十秒ほども堪能した。とはいえ、もちろんそれだけで繋がってからのキスは終わらない。二人はそっと息継ぎひとつ、今度はきわめてのんびりと互いの薄膜をついばみ始める。ちゅっぴ、ちゅっぴ、ちゅっぴ、とささやかな水音を立てながら、二人仲良く代わりばんこで唇を割り開き、心ゆくまで接吻欲を満たしにかかった。
「ん、んっ、んんっ…す、すごい…んっ…つながってからの、キス…全然違うっ…」
「んふっ…ん…でしょ?わ、わたしも…ん、んぅう…つながってからのキス…好き…」
「んぅ、んぅ、ん…む、むつみさん…ん、んぅ…むつみさんっ…」
「んぅ…ん、んんっ…うらしまくん…んふっ、ん、んん…うらしまくぅん…」
 バードキスよりも優しく、そのぶん時間をかけてじっくりと、二人は唇という性感帯どうしを何度も何度もたわませ合ってよがり鳴く。甘ったるい声音での睦言や呼びかけを口移しし合うだけでも嬉し恥ずかしくて、景太郎もむつみも荒々しい鼻息を抑えきれない。
 そんな唇の快感は、同じ性感帯である性器へと鋭く伝わるために、景太郎のペニスもむつみのクリトリスもせつなく焦れてくる。接吻欲は適度に満たされてきたが、そのぶん性交欲とも言うべき情欲が理性を冒し始めてきた。
「ん…んぅう…ん、んんっ…ぷぁ…ん、うらしまくん…そろそろ、動いて…」
「はぁ、はぁ、はぁ…うん…」
 むつみは唇をすぼめて突き放すようにキスを終えると、甘えんぼな猫撫で声で雌雄の交わりを求めた。景太郎は忙しなく息継ぎしながら、コクンとうなずいてそれに応じる。
「…ひっ、ひぁっ…う、くっ…んっ…んぅう…」
 それでも、景太郎は理想通りに事を運ぶことはできず、思わず女々しい上擦り声でよがり鳴いてしまった。膣内からペニスを引き戻してゆく感触があまりにくすぐったくて、リズミカルなピストン運動どころではなかったのだ。
 これは男女の性器の形状や、その構造が主たる要因である。くるみ大に膨張している亀頭は矢尻のような形状であり、膣内を突き進むのは容易だが、いざ引き抜くときには亀頭と幹との境目を成す大きなくびれが襞の群れにくすぐられてしまうのだ。
 また、膣自体も密封状態に近くなっているため、ペニスが抜け出ようとすると、自ずと吸い付いてすがりつきを強めてしまう。もちろん挿入感に酔いしれて膣口もきゅうきゅうと締め付けるから、引き抜く際にはお互いにそれなりの刺激が生まれるのである。
 それになにより、景太郎はセックスを覚えたばかりなのだ。童貞を卒業したばかりのペニスには、そのくすぐったさは少々刺激が強すぎて、快感と認識できないのである。
 それを自己責任のように感じてしまい、景太郎は羞恥と困惑のただ中で愕然と項垂れてしまった。童貞であることを劣等感としてきたために、いざその場に至ってもまともに性運動ができない衝撃は一際大きく、なんとも惨めな気分になってくる。
「んふふっ…もう、うらしまくんったら大袈裟なんだから」
「いや、その、あんまりくすぐったくって…こんなにすごいの初めてだから、くすぐったすぎて動けなくって…ううう、情けない…」
「あらあら…気にしないで、うらしまくん。感じ過ぎちゃうようでしたら、はじめは腰を動かすよりも、身体全体でゆったりと動いた方がいいかもしれませんね。わたしに身体を擦り付けるみたいに、ゆっくり、ゆっくり…エッチってこんな感じなんだぁってことを身体中に馴染ませるつもりで…ね?」
「う、うん…」
 むつみは贅沢な弱音を吐く景太郎を励ますよう背中から腰からを撫でつつ、うつむいた彼の耳元にいくつかのアドバイスを送った。その声援にも似たアドバイスで景太郎は幾分気を取り直し、謝辞の代わりにもう一度だけむつみの横顔にキスを撃つ。
 景太郎はあらためて四肢に力を込めると、引き戻した腰を突き出し、再びむつみの膣の奥深くへ亀頭を送り込んでいった。膣壁をズブズブと突き広げてゆく感触は十分快感として認識できるから、うっすらと開いたままの唇からはたちまち恍惚の溜息が漏れ出てくる。
 正常位は決して深く交われる体位ではないが、それでも景太郎は可能な限り深く亀頭を送り込み、そこでまたむつみの横顔にキスを撃った。むつみがくすぐったそうに微笑むと、再び愛おしむように頬を擦り寄せ、助言通りにゆっくりと身体全体を前後に揺り動かす。
「んぁ、んっ…うん、これなら…んっ…んぁ、んぅ…んっ、んぅ…ん、んぅう…」
「…気持ち良くなってきました?」
「うん…ああっ、すごい…んふっ…き、気持ちいいっ…」
 耳元で繰り返されるよがり声が次第に甘やかとなってきたので、むつみは頬摺りでじゃれつきながらそっと景太郎に尋ねた。景太郎は別段恥じらうでもなく、幸福感を持て余すかのように相好を緩めてそれに答える。先程までの沈痛な面持ちはどこへやら、だ。
 それだけ景太郎はむつみとのセックスに馴染んできていた。もちろん性運動としてはまだまだ稚拙だが、こうしてむつみと揺れ合っているうちに、肉体的にも精神的にもセックスならではの喜悦を享受できるようになってきたのだ。
 そもそも、こうして寄り添って揺れ合っているのも悪くはない。ぴったりと寄り添って前後に揺れ動けば、おのずと胸板が乳房を押しこねることになり、女体固有の柔らかみを存分に堪能することができるのである。むんにゅ、むんにゅ、と豊満な乳房がたわむ感触は男の胸板にすこぶる心地良くて、景太郎は陶酔の溜息を抑えきれないほどだ。
 そしてなにより、生まれて初めて交わりを覚えたペニスからの快感が、まさに身も心もトロトロにとろけてしまいそうなくらいに気持ち良かった。それは景太郎が童貞故の感受性を有しているのと同時に、むつみの膣が文字通りの名器であることにも起因する。
 むつみの膣内には、背の高い襞が奥の奥までびっしりと群生している。そのうえじっくりと睦み合って発情期を迎えたために、襞の群れは温かい愛液にまみれてヌルンヌルンになっているのだ。そのおかげで、興奮の血潮で勃起しきりとなっているペニスでもしっかりとぬくもりを感じられるのである。童貞を卒業した景太郎の第一声を思い起こしてもらえれば、その安らかな感動を多少なりとも想像できることだろう。
 なおかつ、むつみの膣は過去にも雄性を受け入れているぶん、ペニスをもてなす術を十分に心得ていた。とはいえそれはむつみ自身の意志によるものではなく、雌性の生殖本能に基づく不随意的なものである。これはセックスの喜悦を十分に知り尽くしているからこそ、夢中で男性器にすがりついてしまう女性器の条件反射に他ならない。柔軟な膣壁は剣呑な形の亀頭から幹からにしっかりと絡まり付き、膣口は決して逃すまいと根本付近を力強く締め付ける。きゅううっ、きゅううっ、と一定の間隔で収縮する性反応は、雄性から貴重な精を一滴でも多く搾り出させるための、まさに雌性の本能に基づく技法であった。
 そんな極上の膣に送り込まれて、童貞のペニスが平然としていられるはずはなかった。
 景太郎のペニスは生まれて初めての膣の居心地に酔いしれるよう、射精寸前のようにたくましい漲りを維持している。しかもおとなしい性運動でありながら、嬉し涙さながらに逸り水を滲みどおしにしていた。ペッティングやフェラチオ、ましてやマスターベーションより直接的な刺激は少ないにもかかわらず、である。
 こうして交わりの悦びが染みついてくるにつれ、ペニスも膣内の居心地に馴染み、男心にも少しずつ余裕が生まれてくる。言い方を変えれば、控えめな動きでは物足りなくなってくる。
 ペニスのくすぐったさに怯えるような景太郎の性運動は、次第に大きく、そして力強いものになっていった。子宮口より少し手前の襞をこちょこちょくすぐる程度であったストロークは、いつしか亀頭二つぶんくらいの間隔を往復できるようにまでなってくる。双子の睾丸を左右段違いで内包し、ふんにゃりと垂れ下がっている陰嚢も、ぽてんぽてんとむつみの尻肉の上で弾むようにまでなってきた。
「はあっ、はあっ、はあっ…気持ちいい…き、気持ちいいよっ、むつみさんっ…」
「うん…わ、わたしも…わたしも、いい気持ち…すてき…」
 景太郎はむつみの柔肌との接触面積をできるだけ稼げるように抱きつきながら、幸せいっぱいといった風に相好を緩めてよがった。むつみも明確となってきた景太郎の性運動に酔いしれて、すっかり夢心地といった声音でつぶやく。
 今や景太郎もむつみも身体中が汗びっしょりとなってきているが、どちらも抱擁の手を緩めようとはしない。景太郎はむつみの抱き心地に、むつみは景太郎からの抱かれ心地に至高の安息を覚えるため、ついつい夢中になってしまうのだ。
 優しい性運動に合わせて頬摺りを楽しみ、柔軟にたわむ乳房の感触に相好が緩めば、受験勉強によるストレスや管理人業務の労苦といった日頃の憂さもきれいさっぱり忘れ去ることができた。気分転換という目的は十分に達成できているといえよう。念願の童貞卒業を果たせた景太郎はもちろん、むつみも久しぶりのセックスに心を躍らせ、二人の胸中はどこまでもどこまでも晴れ渡ってゆく。
「んぁ、んぅ、んぅう…ねえ、うらしまくん…浅いところも、お願い…」
「はぁ、はぁ…むつみさんって、浅いところの方が気持ちいいんですか?」
「んぅ…奥ばっかりじゃなくって…もっといっぱいしてほしいなあって…」
「えへへ…むつみさんの欲張りっ」
「あぁんっ…ん、んぅう…」
 むつみは景太郎の腕の中ですっかり甘えんぼとなり、鼻にかかった猫撫で声でさらなる性運動をおねだりした。景太郎は小声でむつみを揶揄しながらも、にわかにこみ上げた愛おしさのまま、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と横顔にキスを連発する。それがむつみには嬉し恥ずかしくて、思わずおとがいを逸らしながら甘やかによがってしまう。
 ひとしきり横顔にキスして逸る胸をなだめてから、景太郎はやんわりと抱擁の手を緩め、丁寧に四肢へと力を込めた。たわみどおしにされていた乳房から熱気と圧迫感が薄らぐなり、むつみは深く安堵の吐息を漏らす。
 ひとまず景太郎はむつみに重みをかけない程度で寄り添ったまま、おねだりを叶えてあげるべくゆっくりと腰を引き戻していった。ペニスの脱出を阻むように膣口が締め付け、膣壁全体もすぼまるように吸い付いてくると、たちまち堪えきれないほどのくすぐったさが景太郎の中枢を駆け抜けてゆく。
「んっ、んんっ…!んんんぅっ…!!」
「んふっ、んふふっ…」
 そのあまりに悩ましい感触に、景太郎は鼻からだらしない声で呻いた。むつみは汗を塗り広げるように景太郎の背中を撫でながら、その嬌態に思わず笑声を漏らす。
 とはいえ、くすぐったいものはくすぐったいのだから仕方がない。童貞を卒業したばかりのペニスはまだまだ繊細であり、男心もセックスの悦びを無理なく享受するにはまだまだ経験不足であるのだ。
 景太郎は心中でそう自己弁護しながら、気恥ずかしさを当てつけるように少々荒々しくむつみに頬摺りした。むつみは景太郎の頬の火照りから彼の煩悶を気取り、ごめんなさい、と言い添えて頬摺りされるがままとなる。
 そんな景太郎の当てつけは、膣口から亀頭部分が露出する辺りまでペニスを引き抜いたところでぴたりと終わった。きゅううっ、きゅううっ、と力強く締め付ける膣口の感触を敏感な亀頭で覚え、当てつけている余裕がなくなってしまったのだ。
 むつみの膣口の締め付け具合自体は、すでに景太郎も把握している。挿入する際にはきつくすぼまっていたところを亀頭で強引に突き広げたわけだし、奥深くまで挿入していたときも、窮屈なくらいに締め付けてくるのを幹で感じていた。ペッティングで睦み合っていた時には、指でもその力強さを感じ取っている。
 それでも、やはり敏感な亀頭で感じる締め付け具合は別格であった。膣内に挿入している実感がどこよりも明確であり、まるでローションでヌルヌルとなっている親指と薬指、そして中指で締め上げられているような心地である。
 マスターベーションの感覚に慣れている景太郎にしてみれば、襞を群生させている膣壁よりも、きつく締め付ける膣口付近の方に馴染みのある快感を覚えることができた。虚弱体質なむつみとは思えないほどに元気な締め付けを感じていれば、それで十分射精欲が押し寄せてきそうなくらいである。
「浅いところって…ちょうどこの、入り口の辺りですか…?」
「んっ…そ、そう…あぁん、だ、だめっ、抜けちゃう…」
「わ、とと…ごめんなさい、ヌルヌルだから、そのまま押し出されそうになっちゃって…」
「んふふ、途中で抜けちゃったら、お互いに気持ちが逸れちゃうでしょ…?あっ、そこ…んふっ、そ、そこ、もっと…うっ、上の方、意識して…」
「んっ…う、上の方…?」
 景太郎は頭を上げると、むつみの反応を見た目で確かめながら、そしてアドバイスやおねだりに耳を傾けながら、丁寧に丁寧に性運動を重ねた。ピストン運動と呼ぶにはまだまだストロークが短いものの、亀頭で膣口の締め付けを楽しむように動けば、それでむつみは十分かわいい声でよがる。
 特にむつみは、膣口から数センチほど入り込んだ辺りで強い反応を示した。亀頭のくびれがへそ側の膣壁を擦るたびに切羽詰まった声で呻き、少しでも強い刺激を求めるようモジモジと身じろぎまでする。
「こ、この辺で…こんな感じですか?」
「あんっ…!そ、そこ…そこ、好きぃ…んぁ、あんっ!い、いいっ!いいのっ…!」
「んんっ…!ちょ、むつみさんっ…締め付けすぎっ…」
 景太郎が意識的に亀頭を往復させると、むつみは弾かれたようにおとがいを逸らし、むずがるような声音であえいだ。その嬌声に合わせて膣口が力任せにペニスを締め付けてくるものだから、景太郎も声を上擦らせてうめいてしまう。
 むつみが性運動を求めた辺りは、いわゆるGスポットと呼ばれる性感帯であった。この性感帯の有無は人によって違い、セックスを重ねることで開花する場合もあれば、結局見つからないままで終わることもある。
 むつみのGスポットは膣口から数センチほども入り込んだ膣壁のへそ側にあり、存在する場合としては一般的な場所だ。その貴重な性感帯はわずかに隆起しているのだが、それは極めてささやかなものであり、柔らかな襞に埋もれて指でも感じ取ることはできない。
 しかも女の側から探り当てようとしても困難といわれているのだから、男がここだと断定するのはほぼ不可能と言えよう。Gスポットはあくまでセックスの最中でのみ顕在化する、仲睦まじい男女へのごほうびであるのかもしれない。

つづく。

 

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