つづくシアワセ

03

作者/大場愁一郎さん

 

「…えっ!?」
 慎重に言葉を選んだぶん、しどろもどろな日本語になりはしたが、それでもアスカは目の前の少年にそう告白した。極東の、これといった特徴のない地味な男、碇シンジに。
 そのシンジは、アスカがいったい何の話を始めたのか理解するのに五秒近くの時間を要した。その大胆きわまりない発言がじんわりと意識に染み込んできた途端、ぼっ、と音が立ちそうなくらい顔が赤くなる。幸せいっぱいだった胸は、たちまち気恥ずかしさでいっぱいとなった。
「だ、だって…見ず知らずの男とそういうことするくらいなら、まだあんたの方が…そっ、それだけよっ!?別に他意は無いんだからねっ!?あたし、あんたのことなんかなんとも思ってないんだからっ!!ホントよっ!?わかってるんでしょうねっ!?」
「ちょ、お、落ち着いて…」
 アスカの大胆さは、なにも今に始まったことではない。
 それでも、今自分がどれだけ大胆な発言をしているのかに気付くと、アスカは慌てて言葉を付け加え始めた。反論のいとまを与えまいとする語調のため、シンジの火照り顔には彼女の唾液がいくつもいくつも降りかかる。
「…でも、とりあえず僕のこと…嫌いってわけじゃないんだよね?」
「ま、まあね」
「じゃあ、嫌いじゃないってことは…その…」
「…ばっ、バカッ!!」
「いたっ!」
 心配そうにシンジが問いかけ、なおも無粋な推理をしかけたので、真っ赤になったアスカは何の手加減もなく頭突きを見舞った。先程まで額をくっつけていて、なおかつ夜闇の中であるから、シンジは心の準備も無くしたたかにそれをくらってしまう。よくそういった話は聞くが、今の瞬間ははっきりと目の前に火花が見えた。
 そのうえアスカは意地悪にも、抱きついている身体を離してくれない。そのため、頭突きの直撃を食らった場所を撫でさすりたくても両手が自由にならないのだ。ついつい抱擁の手を解き、オタオタと身じろぎしても、むしろアスカは強く抱きついて頑なな戒めとしてくる。
「…あんたのことは、なんとも思ってないけど」
「…うん」
 結局アスカは微塵も戒めを解くことなく、ぴったりとすがりついたまま口を開いた。
 開口一番、苦痛の溜息が聞こえたことは、シンジは決して触れないでおくことにした。飛びつくように頭突きを見舞っては、見舞った本人も相当痛かったことだろう。
「あんたとの子どもなら、産みたいかな…」
 将来の夢を語るような口調で、アスカはささやいた。それと同時に、再びアスカは頭をもたげてシンジのそれと触れ合わせる。
 単なる偶然ではあったが、二人の前髪ごしに触れ合った部分は、先程の頭突きが直撃した部分であった。それとは無関係に、シンジの胸がせつなく疼く。
 自分の子ども、つまり、碇シンジの子どもを産みたい。
 子どもを産めば、アスカは母となる。そして、その子の父は自分だ。
 漠然としすぎてイメージのかけらも湧かないが、それでも男心は危険なくらいにさざめいた。反り返って勃起しているペニスが、ハーフパンツはおろか寄り添っているアスカの下腹部すらもグイグイと押し返す。
「産まれてきた子どもは、どうせすぐにネルフの教育機関か何かが引き取っていくんだと思う。でも、その子を産んだのはあたしよ。あたしは、絶対ママとして育児に関わる。何が何でもね」
 そう言うアスカの口調には、頑なな意志が感じられた。
 とはいえ、シンジにはその意志がどこから起因するものなのか思い至る由もなかった。単に母性の顕現、母への憧憬、そういった程度の発想しかできなかった。
「きっといい子に育つわよ。あたしに似て容姿端麗、才識兼備、立てば芍薬座れば牡丹!エヴァのパイロットになれば、弐号機とのシンクロ率は四百パーセントオーバー!!」
「ちょ、ちょっと待ってよアスカ!僕にも似るところがあるかも知れないだろ?それに、なんで弐号機のパイロットって決まっちゃうんだよ?」
「残念でした、バカシンジに似るところはありませーん!初号機はあと数年で耐用年数を超えてしまい、お役ごめーん!」
「そっ、それはないだろっ!ひどいよっ!」
「あははははっ!ちょ、やめなさいよっ!く、くすぐった…や、だめ!だめっ!」
 アスカはシンジを抱き締めなおしながら、まるで歌うように我が子の未来図を夜闇に描いてみせた。
 しかしその未来図は、子どもの父をまったく無視したものであった。これにはまだ父になったわけでもないシンジも頭に来て、もう一度指の先でアスカの脇腹をぐりぐりとくすぐった。アスカはかぶりを振って身悶えしながら、必死になってシンジのくすぐり攻撃をやめさせようとあがく。
 それでも、ぴったりと抱え込んでのくすぐりであるから、いかにアスカが両手で突っぱねようとしても二人の身体が離れることはない。むしろもがけばもがくほど両脇のガードが甘くなるから逆効果であった。
「だめ、だめぇ…!お願い、もうやめて…もうだめ、ゴメン…」
「…ったくもう」
 シンジの執拗なくすぐり攻撃の前に、アスカはすっかり声を上擦らせ、涙を浮かべて降参の意志を伝えた。右手でぽんぽんとシンジのうなじを叩きつつ、甘えかかるように頬摺りする。キスしたとき以上に息は上がっていた。
 それでシンジもくすぐり攻撃を止め、ぽんぽんと背中を叩いて苦笑した。それを合図に、二人は息をつきながらしばし笑声に心を湧かせる。
「…ちょっと、気になるな」
「なにが?」
 ひとしきり声を出して笑ってから、思い出したようにキスをひとつ、シンジは心持ちはにかんだ声でそうささやいた。アスカはすがりついていた両手をシンジの肩にかけ、小首を傾げて問いかける。
「初めては僕がいいとか、僕の子どもなら産みたいとか…さっきも、ゴメンだなんて」
「なっ、何が言いたいのよ、あんたはっ!」
 あらためて言われると、顔から火が出そうな言葉のオンパレード。しかし、そのどれもがアスカ自身の口から出た言葉だ。
 アスカはシンジの意図が分からず、彼の肩を揺さぶって黙らせようとした。そこでシンジは一旦言葉を区切り、慎重に言葉を選び出してから続ける。
「どんな顔で、僕に言ってくれたのかなって。気になるんだ」
 シンジはからかうつもりもなく、あくまで興味本位でそう言った。
 いつもシンジのことを小馬鹿にして、自分から折れるようなことは絶対にないのに。
 プライドが高く、他人を認めたり、受け入れようとは決してしないのに。
 暗闇の中でキスを交わし、イチャイチャと睦み合ったこの少女は本当にアスカなのか。人が違えたようにしおらしいこの少女は、本当にあのアスカなのか。
 もし本当にアスカであるのなら、あの思い出すのも嬉し恥ずかしいせりふをどんな表情で告げたのだろう。
 シンジはやにわに、この夜闇がもどかしくなったのだ。
 アスカの素顔を見つめたかった。まさしくきどりもてらいもない、素顔のアスカを。
「…なんだ、そんなこと」
 シンジの言葉に憤慨するでもなく、アスカはあっさりと言ってのけた。
 そして次の瞬間、アスカはシンジの肩にかけていた左手を背後の壁面へと伸ばす。
「わ…」
 突然、濃密な夜闇はリビングの蛍光灯の明かりによってたちどころに払拭された。暗闇に慣れていた視界に光が射し込み、シンジはまばたきしながら間の抜けた声をあげる。
 アスカの左手は、壁面の照明スイッチをオンにしたのであった。
 役目を終えた左手を再びシンジの肩に戻し、アスカは照れくさそうに目を細める。
「ふふっ、グゥテンモォゲン!どう?あたし、こんな顔で言ったんだけど」
「えっ…あ、あの、えっと…」
「な、なによ、はっきり言いなさいよっ。男らしくないわね」
 せっかく望み通りにアスカの顔を見ることができたというのに、シンジはたちまちしどろもどろになり、赤くなってうつむいてしまった。
 アスカは訳が分からず、口元をとがらせていつものようにシンジをなじる。
「い、いや…アスカって、こんなにかわいかったかなって…」
「…あっ、あんたは全然代わり映えしてないけどね。冴えないまんま」
「ぼ、僕のことは別にいいじゃないかっ…」
 別に期待していたわけではないが、それでも男の沽券が少々傷ついた。
 シンジが語気を強めて顔を上げると、今度はアスカが赤くなっていた。視線はそらし気味になっていて、やや上目遣いでシンジを窺っては、また視線をそらしてモジモジと口をつぐんだりする。
 天才少女であるアスカでも、やはり思春期を迎えているひとりの女の子だ。面と向かってかわいいと言われて、気分が悪いはずもない。むしろ相手が相手だけに、嬉しいよりも照れくさい方が大きい。
「…アスカ」
「うん…」
 シンジがそっと呼びかけると、アスカはしおらしく答えた。二人の両手が、あらためてそれぞれの背中へと伸び、今度は明かりの下できつく抱き合う。
 少しだけ頬摺りしてから、二人は自然な動きでキスを交わした。阿吽のタイミングで目を閉じ、お気に入りの角度で柔らかく薄膜を重ね合わせる。
 重なり合った唇の中で、過度な緊張やてらい、はにかみが甘くとろけていくようだった。
 明かりの下でも、もう平静でいられる。むしろ相手がはっきりわかるからこそ安堵感も大きくなるし、幸福感も現実味を帯びてくる。
「…脱がせて」
「…うん」
 キスの余韻を生唾とともに飲み込み、しばし見つめ合ってから、アスカはそう告げた。くすぐったく痺れている唇に、その大胆なおねだりは不思議なくらいに心地良かった。
 シンジはわずかな間の後に、首肯してそれを了承する。ここで念を押したりしようものなら、プライドの高いアスカがどんな反応に出るかは想像にたやすい。
 シンジがTシャツの裾に手をかけると、アスカは自ら袖の内側に両手を引っ込め、彼が脱がしやすいようにした。ルーズネックの襟から左手を出し、ハニーブラウンの髪を胸元にたぐり寄せると、シンジの作業はますます楽になる。
 おかげで、ゆったりめのTシャツはあっけなく脱がすことができた。上半身を露わにしたアスカは両手で左右それぞれの乳房を覆い隠し、大きく首を振って髪を背後に戻す。
「…ほら、あんたも脱ぐのっ」
「僕は、自分で脱ぐんだね」
「当ったり前じゃない、バカ」
 自分だけ他人に脱がせておいて、その言い様はあんまりであるが、これがアスカだ。
 シンジは今さらあれこれ言うつもりもなく、自らTシャツを脱ぎ捨てる。これで二人とも上半身裸の格好だ。お互い、ハーフパンツとスパッツ、そして下着を残すのみとなる。
「…ショーツも、まとめて脱がせて。その方が早いし」
「うん」
 一枚一枚脱がされてゆくと、そのぶん恥ずかしい時間が多くなるような気がする。
 そこでアスカは、シンジにそう依頼したのだ。スパッツ自体下着のようなものであるから、ショーツとまとめて脱がされたところで大差はない。
 シンジは素直にうなづくと、アスカの脇腹からしりにかけてを撫でるような手つきで、スパッツと下着の内側へ指先を進み入れた。
 その途端アスカは小さく悲鳴をあげ、毅然とした表情になってシンジを睨み付ける。
「ちょっと!なんでこんないやらしい脱がし方っ…!!」
「違うよっ!爪で引っ掻いたら嫌だから、それで…」
「う、ううう…」
 そう言われてはアスカも反論できない。仕方ないといった風に唇を噛み締め、シンジに身を委ねる。
 シンジは気を取り直し、できるだけアスカの柔肌に触れないよう意識しながら下着を下ろしていった。手の甲でウエストを広げながら、しり、下腹、そして太ももと順に露出させてゆく。
 アスカの右手が慌てて下りてきて股間を覆い隠したときは、ついついぶたれるものと勘違いして身を強ばらせたりもした。これも日頃の悲しい性である。
「アスカ、足」
「う、うん…」
 ぴったりと太もものラインに張り付いていたスパッツをショーツとともに足首までずり下げてから、シンジは小声で促した。一糸まとわぬ姿となって心細くなり、アスカは不安そうな声で応じながら、右足、左足の順で脱がしてもらう。
 見たくて見たわけではないのだが、アスカのショーツのあて布はジットリと粘液を吸い、スパッツの黒色を透かしていた。シンジは真っ赤になってブルブルかぶりを振り、その光景を見なかったことにしようとあがいた。
 勢い、スパッツとショーツとを分けることなく、そのまま彼女のTシャツの上に放る。もっとも、あまり下着を触れ回されてはアスカもいい気分はしないだろう。
「あっ、あんたもさっさと脱ぎなさいよっ」
「わ、わかってるよ…」
 シンジが立ち上がる前に、アスカはそそくさと回れ右してぶっきらぼうに命じた。回れ右したところで、まろみ十分の逆さハート型をしたヒップが丸見えであるから、あまり意味はないはずだ。きっとアスカの心情では、胸や股間の方がしりを見られるより恥ずかしいのだろう。単に感覚の問題かもしれないが。
 シンジも彼女に習って回れ右し、ショートパンツのファスナーを下ろし、ウエストのボタンを開けた。現れたブリーフは、勃起しきりで直上を目指しているペニスをギリギリのラインで包み込んでいる。逸り水で先端が濡れそぼっており、どうにもみっともない。
「ぬ、脱いだよ?」
 ミサトとの時より多くの心の準備を済ませてから、シンジはショートパンツとブリーフを脱ぎ捨てた。回れ右したままで、背後のアスカに声をかける。
「…まだ、こっち見ないでよ?」
「うん…」
 その合図を聞いて、アスカはゆっくりとシンジの背中に寄り添った。彼の肩に両手を置き、乳房を背中に触れさせる。
 その温かな柔らかみを強烈な興奮とともに感じ、シンジのペニスはなおもたくましく打ち震えた。ツヤツヤのパンパンに膨張している亀頭の先端から、精製したての逸り水が滲み出てくる。
「…いいよ、シンジ」
「う、うん…」
 他に上手い返事もできぬまま、シンジは背後のアスカに身体ごと振り返った。
 生まれたままの姿の二人は、お互いの素顔を見つめ合った瞬間、はにかんだ微笑となってそれぞれの身を抱き締めた。今度はシンジが、アスカを腕の上から抱く格好となる。
「あったかぁい…!」
「うん…ホント、あったかいね…」
 アスカもシンジも、共通の感動を口にして安息の吐息を漏らす。
 実際、直接肌と肌を触れ合わせての抱擁は格別である。着衣ごしでは、ひとのぬくもりはどれだけ工夫しても決して芯まで伝わらないのだ。
 生まれて初めての裸での抱擁に、アスカはすっかり夢心地であった。シンジに強く抱き締められ、身体の芯までが幸せなぬくもりに満たされてゆく。
「シンジ…んぅ、シンジ、シンジッ…」
 アスカはウットリと惚けたままシンジと頬摺りし、遠慮なくグイグイと身体を擦り寄せて悦に入る。先ほどから陶酔の溜息が尽きない。この奇跡のような心地良さを伝えたいのに、その想いを口にしようとすれば、なぜかシンジの名を呼ぶだけになってしまう。
「シンジ…シンジ、シンジ、シンジぃ…ん、んぅ…」
「アスカ…もう、アスカってこんなに甘えんぼだったの?」
「う、うるさいっ…」
 とろけそうな猫なで声で連呼されて、シンジも照れくさくてしょうがない。くすぐったそうに頬摺りを返しながら、愛おしさあまってアスカを揶揄してみた。
 アスカも一応言い返しはするものの、その声はすこぶる嬉しそうだ。抱擁の心地良さを身体中で堪能したくて、今は言い争いどころではないのである。
 もちろんアスカは、十四歳にしては豊満と呼んで差し支えない乳房をシンジの胸にぴったりと押し付けている。
 シンジも亀頭を剥き出しに、背伸びするように勃起しきりのペニスをアスカの下腹にもグイグイと押し付けている。
 お互いそれは感じていて、相当の動揺はあるのだが、それでもこの心地良さの前では無関係であった。若くて瑞々しい肌を重ね、ぬくもりを持ち寄って分かち合い、照れくささすらも楽しむように頬摺りすれば、もう身も心も甘美な幸福感で満たされてしまう。
「ね…」
「んぅ…」
 シンジが頬にキスしながら誘いかけると、アスカはその意図を悟り、同様に頬にキスを返してきた。アスカは期待と興奮に胸を高鳴らせ、さっそく鼻息を荒くしてしまう。
 そして、二人の望む瞬間は訪れた。
「んっ、んんーっ…!」
 唇と唇が重なり合った瞬間、アスカは上擦りきった鼻声で鳴いた。シンジの腕の中でゾクゾクと身震いした途端、閉ざしたまぶたの隙間から感涙が一粒こぼれ落ちる。
 信じられないほどの一体感であった。自分がどうにかなってしまったかのように、意識がぼんやりとしている。恥ずかしいと思うのに、上擦った鼻声が陶酔の溜息となって繰り返し繰り返し鼻から漏れ出てゆく。
 それはシンジも同じであった。唇を重ね、軽く吸い付いたところで強烈な耳鳴りを覚えたのだ。本当に耳のすぐ側で、狂ったようなテンポの鼓動が聞こえる。
 心地良かった。気が遠くなるほどに心地良かった。重なり合う薄膜から、身体中の隅々にまで陽光のシャワーが降り注いでいるようである。
「ん、んんぅ…」
 至高の夢心地に、とうとうシンジも鼻声でよがった。女の子のようなかわいい声を出しておきながら、ペニスは雄々しく漲ってアスカの下腹を押し返す。
 余談になるが、アスカと三人で暮らすようになってから、シンジの性事情は極めて都合の悪いことになっていた。
 当然ミサトとの練習はお預けになっているし、マスターベーションさえも、女性二人が留守にしている極めて限られた時間にしかできない状況である。
 日中は学校があるし、その後でもネルフ本部に出向いていたり、場合によっては緊急出動ということもある。休日であっても、そういった時間に恵まれないのがほとんどなのだ。
 だからシンジ自身、もう何日射精していないかわからなかった。
 水泳の授業があった日に、帰宅したらアスカもミサトもいなくて、ついこっそりトイレで水着姿の女子を思い出して慰めたのだが、それでも三週間は前だと思う。そのすぐ後でアスカが帰宅して、ひどく狼狽えたことはよく覚えているのだが。
 そんなアスカと、今はこうして睦み合っている。
 裸でぬくもりを分かち合い、じっくりとキスを楽しんで、身も心も幸せのシロップ漬けにしている。
「ん、はぁ…」
 二人のキスは、どうも長時間に渡ることが多い。
 一分を超える密着を満喫してから、二人はようやく唇を離した。シンジもアスカも紅梅色に頬を染め、すっかり惚けた表情となって嘆息する。
 熱く湿った吐息を顔に浴びて、二人はようやく表情を取り戻した。とはいえその表情というのは、キャンディーを頬張った子どものように幸せいっぱいの笑顔だ。
「はだかで抱き合ってするキスって、なんだかすごい…」
 潤んだ瞳をキラキラさせて、アスカは陶酔しきってつぶやいた。
 普段は眼光鋭い眼差しも、今やすっかり人なつっこくなっている。美少女ぶりにはますますの拍車がかかることになった。
「じゃあ…もう一回する?」
「うんっ!」
 息を飲むほどの美少女ぶりに、シンジは照れながらも思い切って尋ねた。アスカは真夏の陽光を浴びて咲くひまわりのような笑顔を浮かべ、元気いっぱいにうなづく。
 二人は目を伏せると、わずかにすぼめた唇どうしをぴったりと重ね合わせた。お気に入りの角度を付け、ふんわりと薄膜をたわませながら、お互い軽く吸い付く。
 きゅううっ、と胸の真ん中にせつない疼きが凝縮するが、やがて唇から染み込んできた暖かい幸福感に照らされ、穏やかに溶け始める。その安堵感が身体中に広がると、それでまだ陶酔の溜息が鼻から漏れ出た。
「ん、んんっ…んぁっ…」
「ご、ごめん…びっくりさせちゃった?」
「う、ううん、平気…」
 甘いキスを交わしたまま、シンジが左手でアスカの首筋に触れた、そのとき。
 アスカは鋭く肩を震わせ、小さな悲鳴をあげた。思いがけないくすぐったさに、少し驚いてしまったのだ。
 ところが勢い余って、せっかくのキスが中断してしまった。シンジが慌てて気遣うと、アスカは首を振って気丈を装う。
 少し微笑みかけてもみたが、アスカはまっすぐシンジを見つめることができなかった。決して怖いわけではないが、これ以上先に進んだらどんな風になってしまうのかと気が気でならないのだ。興奮と期待、それと少しの不安が少女の胸を高鳴らせているのである。
 その鼓動は、ふっくらとした乳房ごしでもシンジにまで伝わっていた。だからシンジは丁寧にアスカの肩を包み込み、二の腕にかけてゆっくりと撫で下ろしたのだ。
 女の子の二の腕は、ぽよぽよと柔らかくてひんやりしている。そのぶんシンジの手の平の熱が心地良く、アスカも今度は自然に微笑むことができた。

 つづく。

 


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(updete 2004/02/03)