サクラ大戦

■主従について■

-4-

作・大場愁一郎さま


 

しこ、しこ、しこっ…ぺちょ、ぺちょ…えるれるれる…

「ふふふ、本当に上手いな…。どうだ、オレの逸物も美味くなったろう?」

「かは、はあ、はあ…ええ、すごく美味しい…ふぁ、ぷっ…」

ちょぶっ、みょぐっ…ちょくちょくちょく…ちょぶ、ちょぶっ…ごくん…

 そっと腰を突き出すと、ミロクは眉ひとつ動かさず男根を口内へと導き入れてくれた。右手で陰嚢を揉み転がしながら、窮屈な口の中で艶めかしく舌をくねらせる。身体の中心線を交差するようにして男根を与えられてはいるが、それでもキチンと亀頭の広い部分と裏側の筋を丁寧に舐め分けてくれた。

 逸り水が唾液に溶け込むと、ミロクは言われるまでもなく喉を鳴らしてそれを嚥下する。その弾みで舌の腹と喉の奥がきゅっ…と先端を摘んでくるのだが、そのときの弾力と締め付けと言ったら並の女陰よりも素晴らしかった。大神はあらためてミロクの口技に濃密な興奮を覚えてしまう。

 しかしミロクは大神の興奮に水を差すよう、そっと彼の下腹を押し上げて温かな口内から男根を解放してしまった。唾液に濡れて艶めく亀頭はまたしても大神のへそを打ち、いきり立ってぴくんぴくん打ち震える。

「どうした…?」

「ね…まだ終わらないんでしょう…?果てるまでもう少し、保つんでしょう…?だったらわたしを抱いてよう…。もっと感じさせて…。」

「…終わろうが保とうが、奴隷のお前には関係なかろう?」

 淫猥に憑かれたミロクの問いかけで、大神はふいに機嫌を損ねたように目つきを険しくさせる。そのまま質問には答えようとせず、逆に意地悪な質問を返した。大人の色気に満ちた火照り顔を見れば彼女の心境が嫌でもわかるというものだが、あくまで大神は冷たくあしらい、主従関係にある自分達の立場を確認するようミロクを睨み付ける。

 それでもミロクには勇気を振り絞ってせがまずにはいられない理由があった。

 絶頂に達すれば達するだけ、次が…しかもさらに上の絶頂感が欲しくなるのである。

 薬の影響だとはわかっているものの、もはやミロク自身にはどうすることもできなかった。ミロクでなくとも、この人智を越えた性欲に抗うことのできる女性は皆無であろう。

 屈服もする。隷属もする。

 気にくわなければ殴って構わないし、畜生同然に扱われても構わない。

 だからせめて今だけは気が済むまで慰めて欲しかった。心身ともに疲労を極め、眠りに就くまでよがり狂わせて欲しかった。

「そんな…もっともっと抱いてよう…!ねえ、わたし、どんな格好だってする!どんな下品な言葉だって望むなら口にするわっ!だから…だからお願いっ、抱いてえっ!!わたし、なんべんもなんべんも…あなたと一緒に果てたいっ…!!」

「ふん。お前には慕っている男がいるのだろう?オレが抱いたところでそいつと寝た気でいるのなら面白くないからな。どれほど媚びられても白々しくてその気になれん。」

「そんな…お願い、お願いです…もう一度愛してくださいまし…!もうあなたのことしか考えません!あなた以外の男に抱かれたら…いえ、触れられた時点で舌を噛みます!ですからどうか…どうか、愛して…おっ、犯してっ…!!」

 すっかり白けた様子で立ち上がり、腕組みしてそっぽを向く大神にミロクは膝立ちになってすがりついた。腰に抱きつくと鍛え抜かれた胸板から腹筋からに頬摺りし、勃起しきりで天を仰いでいる男根に口づける。

ちゅっ、ちゅっちゅっ…ちゅぴっ、ちゅっ、ちゅっ…れるーっ、れるーっ…

 ミロクは大神の気を引こうと上から下から一心不乱に口づけを撃ち、中央で隆起している太い管を舌先でなぞって奉仕した。鈴口から筋を舐め、管に沿って下降して陰嚢を舐めあげると断りもなく右の睾丸を口に含む。そして左の睾丸を右手が愛撫すると…撃ち抜かれたままで赤黒い血がこびりついている左手を陽物の先端にあてる。

「おぐっ…うっ!!ううううっっ!!」

「ほほう…。」

ぽろろっ…

 大神を見上げたままのミロクの両目から大粒の涙がまとまってこぼれ落ちた。

 それも無理はなく…ミロクは大神の男根を撃ち抜かれた左手に貫通させたのだ。肉からは砕けた骨が落ち、使いものにならなくなった血管から再び血が滲み出てくる。

ぐぐっ、ぐぐっ…もぐっ、もぐっ…もみっ、もみっ…

 ミロクは激痛に顔をしかめながらも大神から視線をそらすことなく、真っ直ぐに見上げながら愛撫に専念した。左手の甲で亀頭のくびれを生ぬるく摩擦し、舌の上で、そして手の平の中で睾丸を愛おしく刺激する。

 それは凄惨を極めた愛撫であった。そして、絶対の忠誠を誓う真心のこもった愛撫であった。自暴自棄ともとれる行為ではあったが、視線をそらそうともしないミロクの瞳には一途な情念が煌々と燃えさかっている。紛れもなく本気であった。

 薬を打たれ、強姦されながらも…もはやミロクは身も心も大神を必要としていた。逆に言えば身も心も大神に差し出す意志を固めたのだ。それが男根を貫通させている左手であり、屈辱的な愛撫に専念する口や右手であり、憎むべき男に熱っぽい眼差しを送る両目なのである。

…どうせ死ぬのなら…誰にも真似できない恍惚の果てに狂い死にたい…。この男はその願いを無償で叶えてくれるだろう…わたしが尽くす限りは…。

 ミロクはそう感じながら大神を見つめていた。その間も一生懸命左手に穿たれた傷穴で男根をしごき立て、舌や指先でまんべんなく睾丸を弄んで奉仕する。それでも大神は無表情にこちらを見下ろしているだけで身じろぎひとつしない。

かぼっ…ほぁぐ、おぐ、おぐっ…

 ならばとミロクは一旦右の睾丸を吐き出し、できるだけ大きく口を開けてから陰嚢丸ごと頬張った。あまり狭くして苦痛を与えまいと細心の注意を払い、ゆっくりと舌の上で転がす。ぷつぷつと生えている性毛が喉の奥に触れるたび、精液すらも飲み込んだ胃袋は激しく暴れて嘔吐しかけるが…それでもミロクは真っ直ぐに大神を見つめ続けた。

「ミロク、もういい。お前の心意気、確かに受け取った。」

「あぐっ!!ふぁ、あっ…」

 ふいに大神は口を開き、ミロクの左手を乱暴に引いて男根を抜き去った。激痛にミロクはうめき、おもわず陰嚢を吐き出してしまうが…大神は叱責ひとつせずそのまま彼女の左腕を引き上げ、自分の正面に立たせる。

 一糸纏わぬ裸身を隠しもせず、向かい合って立つ男と女。ミロクはきょとんとしてなお大神を見つめたままであったが…ふいにその頬が熱い手のひらで包み込まれる。大神は見たこともないような柔らかな微笑で、ミロクに慈しむような抱擁を与えてきたのだ。

「あっ、あのっ…」

「焦らすつもりの意地悪だったのだが…気に入ったぞミロク。オレが認める最高の女…。」

「あっ、あっ…!」

ぎゅっ…

 ミロクが何か言いかける前に、大神は彼女の身体をきつく抱き締めていた。胸の間でミロクの乳房をたわませるほど力強く抱き、狂おしく頬摺りする。

「…一生、飼ってやる。」

「大神…様…。抱いて…くださるのですか…?」

 大神の簡潔な言葉に、ミロクは恐る恐る彼の耳元で尋ねる。激昂を怖れて口調を改めたものの、頬を離して真正面から見つめてきた大神の微笑はすこぶる穏やかなものであった。

 それは奴隷に対する主人としての愛情の現れ。最高と認めた女を奴隷として迎えるに当たり、全力を以て養い、守り、飼い慣らす決心の裏打ち。

 奴隷を使い捨ての道具と思い違いしている輩には決して備わっていないものを、大神は確かに有していた。もちろん命令に逆らえばそれなりの罰を与えるが、忠誠を尽くしている限りは何があろうとも不自由させない。それは主人としての義務なのだ。その覚悟無くして奴隷は飼えない。飼う資格も無い。

「愛して欲しければ愛してやる。犯して欲しければ犯してやる。性に関しては絶対に不便をさせん。望みたいだけ望め…。そして、精一杯オレに尽くすことを誓うんだ…。」

「あっ、あああっ…誓うっ、誓いますっ!!」

「ようし…待たせたな。」

「ふぁぷっ…んんんっ…!!」

ちゅっ…

 大神はミロクの瞳から嬉し涙が溢れるのを確認し、クルリと西洋ダンスを踊るような脚裁きで抱いたままの彼女を壁に寄りかからせ…口づけた。ミロクもそれに応えつつ、そっと大神の腰に両手をまわして抱き寄せる。

 抱き寄せられた大神はいきり立ったままの男根をミロクの腹に押しつけながら、右足を彼女の太ももの間に侵入させて身体を合わせた。二人は互いをしっかと抱き締めながら、しばし口づけに情熱を注ぐ。

ちゅっ、ちゅっちゅっ…ちょむ、ちょむっ…

 ささやかに吸い付き、様々な角度でついばみあって弾力を堪能しあい…

ぐに、みゅね、ぐね…こは、はぷ…ぐりゅ、ぐねゅ…

 舌を忍ばせて摺り合わせ、唾液に任せて絡め、舌下や歯茎をまさぐる。淫猥を極めた深い口づけはミロクをか細く身震いさせるほどに興奮を喚起するようだ。

「ぷぁ、はっ、はあっ…あっ、もう待てません…!つ、続きを…」

「もう少し焦らしてからだ。その程度の声では逸物も本気になれん。」

「そんな…あっ、ひゃうっ!!」

 狂おしく抱擁を重ねあっていたが、ミロクはたちまち身体のうずきを押さえきることができなくなり、接吻を拒むように顔を背けてまぐわいをせがんだ。しかし大神はすぐには応じず、ミロクの頬に唇を押し当てながら右手を陰阜へと滑らせてゆく。性毛を押し倒して進んだ指先が粘膜の縁取りをムニムニ摘み、少しずつ勃起を取り返しつつあった陰核を引っかけては弾くようにすると…ミロクは膝頭を擦り寄せて悲鳴をあげた。大神の右脚が割り込んでいるため、必然的に彼の脚でせつない焦燥をモジモジなだめようとする。

むにゅっ、ぬにゅっ…ぬりんっ、ぬりんっ、ぬりんっ…

「あ…かは、はぁあ…早く…早く欲しいっ…!!」

「ならばミロク、もっと大きく脚を開け。オレの足に媚びても始まらんぞ?」

「は、はいっ…ああっ、やだ…漏れちゃう…おつゆ、滴っちゃうっ…!」

 大神の言いつけを忠実に聞き入れると、ミロクは恥じらいながらも膝を肩幅の倍以上に開いた。いじられてジクジクうずきどおしの陰裂も、それにあわせてくちゃ…っと拡がる。

 その弾みで漏出しきりの愛液は粘膜の端から滴り落ち、畳をポタポタッと鳴らした。たまらずミロクは真っ赤になってうつむき、きゅっと目を閉じて恥じらう。

 大神は左手でミロクの尻を撫で回しながら、右手をさらに陰唇の奥へと進み入れた。中指と薬指を裂け目の中に埋め、のこぎりをひくようにして膣前庭から陰核にかけてをじっくりと苛む。

ぴちゅ、ぷちゅっ…ぬるっ、ぬるっ、ぬるっ…ぬりっ、ぬるっ…

 往復させるごとにミロクの膣口からは精製したての愛液が漏れ、大神の手の平は熱いぬめりでいっぱいになった。ミロクは心持ち腰を突き出すようにし、あわよくば指を膣内に挿入してもらおうとねだる。

「もっ、もうホントに我慢できませんっ…!!せめて指を…いっ、一本だけでもいいからゆびっ!いっ、入れてえっ…!!」

「あまり欲張ると…動きを遅くするぞ?」

「だっ、だめっ!!遅くしちゃだめっ!!乱暴なくらいにぃ…!!」

「これくらい、か?」

「はあっ!!ああんっ!!そ、そうっ!もっと、もっといいの!!や、やだ…指だけで、イキたくないっ…!!もったいないっ…!!」

にちっ、にちっ、にちっ…ぬちゅぬちゅぬちゅ…

 大神の指先がぬめりにまかせて激しく裂け目をくじりだすと、ミロクはせつなげに背中をのけぞらせてむせび泣いた。のけぞった拍子に無防備となった首筋へ大神が唇を添わせると、それだけで彼女の熱い動悸が感じられる。荒ぶった呼吸や発汗から見ても、ミロクが覚えている愉悦は相当なものであるようだ。

「ではミロク…どうしてほしい?どうやって達したいんだ?言ってみろ。」

「あっ、ああっ…大神様と一緒にぃ…」

「一緒なら指でも同じだぞ?指で満足したいのか?」

「はうんっっ!!や、いきなりっ…んんっ!んんんっ!!」

ずぷっ、ずぷっ、ぬぷっ…ぬっちゅぬっちゅぬっちゅ…

 首筋に口づけしながらの問いかけにミロクは恥じらいながら答えたが、大神は焦らす姿勢を崩すことなく予告も無しに中指を彼女の膣内へと突き込んだ。柔らかな襞をぐりぐりくじってはほじくり返す動きにミロクは張りつめた声で啼き、身をよじって苦悶しながら中指をきつくきつく締め上げる。

 大神の右手はもうミロクの漏らした淫蜜でいっぱいであり、指の間からトロリと溢れ、畳へとぽたぽた滴ってゆく。もはや足元は愛液と汗でベトベトであり、一度拭き取ったくらいではミロクの匂いを消し去ることができなくなっているはずだ。

「ほれ、何をどうしてほしいのか…はっきり言うんだ。」

「ああっ…堪忍してください…こんなに恥ずかしいこと、はっ、初めて…!!」

「言わねば止めるまでだ。すぐさま連行準備にかかるぞ。」

「…あ、あううっ…!!」

ぴたっ…

 あれだけ情熱的だった愛撫が何もなかったかのように止んでしまう。大神は中指を根本まで膣内に没入させたままでミロクの言葉を待った。ミロクは大神の腰に爪を食い込ませるようにして焦燥と快感、そして羞恥に耐えていたのだが…やるせなさそうに深い溜息を吐くと恥じらった愛らしい面を大神にさらし、真っ直ぐに見つめながら口を開く。

「おっ…大神様のたくましい珍棒で…わっ、わたくしめのほとに栓をしてくださいまし…!おつゆを垂らしてならない淫らな穴を塞いでくださいまし…!!」

「…いいだろう。では布団の上で四つん這いになるんだ。サカリのついたメスイヌになったつもりで、しきりに尻を振ってせがめ。」

「かっ…かしこまりました…。」

 照れくさそうに目を伏せると、ミロクは大神の胸から離れて布団に上がり、クルリと背を向けてしゃがみこんだ。美しい黒髪を片手で前に流すと、ミロクの官能に満ちた後ろ姿が露わになる。

 たおやかな撫で肩も、真っ直ぐ通った背筋も、丸々とした尻も…火照った肌にあって実に美しい。大神の視線が気になるらしくミロクはいちいち背後を振り返るのだが、そうして恥じらう横顔を向けられると十分偃息図絵の参考美人として通用しそうなほどだ。それくらいに色っぽい。

 しゃがみこんだままでしばし躊躇していたミロクであったが、やがて上体を傾げると前方に両手を突き…べちょべちょに濡れている陰部を丸出しにする四つん這いとなった。幾分上向き加減で形の良い尻は意識せずとも大神に突き出されているように見える。

ふりふり…ふりふり…

「こっ、こうですか…?」

「そうそう…ふふふ、まっことスベスベして手触りの良い尻だ。」

「あっ…やっ、ああっ…こんな…恥ずかしい…!」

 かわいらしく左右に尻を振るミロクの後ろで膝立ちとなり、大神は両手で彼女の臀部から太ももにかけての滑らかさを楽しんだ。つるんとした柔肌は汗ばんでなお触り心地がよく、また敏感で…ミロクはうつむいたまま涙声を漏らす。

 大神はミロクの血で濡れた男根を右手にすると、溢れどおしの愛液に包まれている陰核に亀頭で合図を送った。勃起しているミロクの女芯は固く、きゅぷ…と鈴口に栓をすることができるくらい張りつめている。そのまま女芯で鈴口を裂くよう男根を上下に振ると、ミロクはだらしない顔で振り返ってわなないた。

「やっ!だめえっ!早くっ!!早く入れてえっ!!交わりながらイキたいっ…!!」

「こんなに固くしているくせに…。このまま女芯に精をぶちまけてやろうか?素股で果てるというのもなかなかにそそられるしな…クックック…」

「そんなっ、だめっ!終わらないでっ!!お願い…お願いです…わ、わたしの奥まで突き込んで…おっ、犯してくださいっ…!!大神さまあ…どうか、どうかっ…!!」

 どうしようもない焦燥感は声になって溢れ出る。ミロクは嗚咽しながら精一杯心を込めて切望した。否、そのねだり様はもう熱望と称してもよかったかもしれない。陰阜の向こうから右手を伸ばし、指先で亀頭を膣口に導こうとあがく。

 そんな様子に大神も十分満足したらしく、最後に陰核を下から弾くと亀頭でなぞるように裂け目を押し割り、奥まったくぼみに埋めてきた。そっと処女膜の名残を押し広げると、ぴしゃぴしゃ彼女の尻を叩いて笑う。

「冗談だ。望み通り犯してやろう。」

「はっ、はい…!ありがとうございます…!」

「では…つながるぞ?」

「はい…お願いします…んんっ、ふぁ、あっ…!!おっき、い…!!」

ぬるっ…ぬぶっ、ぬぷんっ…

 真上から尻をわしづかんだ大神が腰を突き出すと、亀頭はヌルンッ…と膣口を通過し、ぬめりながら女陰の奥へと飲み込まれていった。待ってましたとばかりに襞の群が一斉に絡みついてきて、男根全体を熱く搾り込んでくる。

ぬるるっ、ぬるっ…ぢゅぷぷっ…とんっ…

「あんっ、ふぁ…あ、あはっ…!」

 狭い華筒を一息に突き進み、弾力のある行き止まりを突き上げるとミロクはうっとりとして微笑んだ。焦らしに焦らされてきたぶん…泣いてしまうほど待ち侘びていたぶん、その太さ、固さ、長さがたまらなく嬉しいのである。

 腕といい、背中といい、腰といい、脚といい、ミロクの身体全体がさざめくように微震して悦びを体現していることは感じ取れるのだが…汗の粒と感涙、紅潮がミロクの素顔で色香を際立たせていることは後ろから交わっている大神には察知できない。なまじっかかわいらしくさえずるぶんその残念さは大きかった。

 その鬱々とした気持ちを紛らわすつもりで、大神はミロクの尻に下腹を押し当てるよう彼女の上に身を乗り出してから左手で上体を支え、下向きにされて一際大きく実っているミロクの乳房を右手にする。こうして体勢を整えてしまうと、一人の女性を胸の内にすっぽりと包み込んでいるような形となり…全身から性交している実感を覚えてしまうものだ。

 見つめ合っては口づけし、つぶさに愛情を確かめ合うことができる正常位もいいものではあるが…どちらかといえばただただ差し出されている女陰に欲望を突き込む後背位という体位を大神は好んでいた。一人の女を支配下に置いたような錯覚が男を奮い立たせるのである。

「こんなに欲しがっていたとはな…たったの一突きで奥までぬめりこんでしまった。熱いぞ…すごく熱い…。オレの逸物を欲張って、粘り着いてくる…。」

「だって、だってホントに欲しかったんだもの…。はっ、早く突いて…。奥の奥、ゴツンゴツンしてえ…!」

「助平になったものだ…。まあ、それもまた今後の魅力となるだろうがな…。」

「だって気持ちいいの、好きだもの…好き…好きだもの…んあっ!はうんっ!!」

ぐんっっ!

 おしゃべりを中断するよう、大神は惚けてつぶやくミロクを後ろから勢い良く突き上げた。ぬめりに任せて子宮口を強打してやると、ミロクはうつむいていた頭を跳ね上げて部屋いっぱいによがり声を響かせる。

もみゅっ、もみゅっ…ぐんっ、ぐんっっ…ぐんっ、ぐんっっ…

 大神は柔らかな乳房を揉みこねながら、一定の間隔でミロクの女陰を突き上げていった。ミロクも大神の動きに同調するよう、奥まで進み入ってきたところできつく締め上げたりする。発情しきった性器が互いの愛液でぬめり、激しく擦れ合うことで途方もない法悦が生み出されるのだ。ミロクはもちろん大神もその夢心地に息を弾ませてゆく。

ぢゅぷっ、ぢゅぷっ、ずぶぶっ…ぎゅっ、ぎゅうっ、ぎゅうっ…

「いっ、いいぞミロク…すごく良く締まる…。それでいてこんなにヌメヌメして…ああっ、あんまりいいから…またたっぷり出そうだ…っ!」

「わっ、わたしっ!わたしもいいっ!!気持ちいいっ!!ああんっ、すごっ…んあっ、すごいのっ!!だ、だめっ、死んじゃうっ…死んじゃうわっ…!!」

 大神もミロクも互いの性器、動き、体熱、匂い…それら性交を構成する要素に酔いしれ、夢中で快感をまさぐっては受け入れてゆく。

 ミロクはしきりに腰を振って大神との繋がる角度を一生懸命模索し…大神はミロクの乳房を搾り、乳首を摘み、膣奥に円を描くよう腰の動きにクセをつけて…それぞれ思い思いに性交の楽しさに浸り、悦びを膨らませようと苦心した。

 その努力は実を結んでゆき、大神はミロクの膣内に何度も何度も逸り水を滲ませ…ミロクはきめ細かに泡立った愛液を濡れて寄り集まった性毛からポタポタ滴らせている。

 それら強い興奮の結晶は、二人がひとつとなっている場所で熱く熱く混ざり合っていた。

 猛烈な勢いで往復する男根が膣壁いっぱいに群生している襞を掻き分けるたび、攪拌された体液はその粘膜へと…また、敏感な先端へと優しく浸透してゆく。それは中枢に直接媚薬を打ち込まれるのと同じ意味合いを有しており、大神とミロクの情欲をさらにさらに燃え上がらせていった。

「ああっ…ああっミロクッ…ミロクッ…!!」

「大神様、おっ、おおがみさまあっ…!!あっ、もっと、もっともっとおっ!ねえっ、もっと激しく突いてっ!おねがい…ねえっ、おねがいっ…!!」

「…ふ、ふふっ…そんな顔をされてはかなわん…!!」

 サカリのついた犬猫以上に激しく…まるで気の触れた野獣のように荒々しく交わり合っているにもかかわらず、ミロクはあられもない阿婆擦れ声で哀願して背後に振り返った。

 その切羽詰まる興奮と淫楽は白眉秀麗であるミロクの素顔をとびきり甘えた媚び顔に変えており…一瞬大神の胸をせつなく詰まらせてしまう。あまりのかわいらしさにあごが震え、吐息が踊った。

 大神は上体を起こすとミロクの尻を両手でつかみ直し、柔肌に指が食い込むほどしっかり押さえ込んでから彼女の瞳を見つめた。目配せを交わしたようにコクンとうなづくのを確認すると、大神は亀頭が露出してしまうほどに腰を引いてゆく。ミロクの膣口も今ではすっかりくつろいでおり、男根に追いすがるよう少しだけめくり出されてきた。

「…そぉ、れっ!!」

「ひっ!ひうんっっ…!!あわっ、うわあああっっ!!しっ、死ぬっ!死ぬうっっ…!!」

ずぷっ!!ぬるる、るっ…ずぷっ!!ぬぢゅぢゅぢゅっ…ずぷんっ!!

 愛液を膣内から掻き出すような乱暴さで、大神は歯を食いしばりながらミロクを深く深く貫いていった。膣の全長を愛撫するように大きく腰を振り、ぺたんっ、ぺたんっ、と音立てて彼女の尻を打ち据える。そのたびにミロクは腹の底からよがり啼き、かぶりを振って汗と涙の粒を散らした。

 絶頂の気配を感じさせるミロクの女陰の中はすっかり狭まってきており、一回引き抜いては突き込むだけでも強烈な射精欲が体奥で渦巻いてくる。淫猥にぬめる極上の女陰にしごかれては、いかな剛胆の猛者であれ数分と保たないはずだ。

 それほどまでに素晴らしい法悦に中枢を灼かれながらも大神は懸命に肛門をすぼめ、天を仰いで歯ぎしりしながら射精欲を押さえ込んでいた。できるだけ長くミロクの女陰を楽しんでいたかったし、なによりミロクの絶頂の中で爆ぜたかったからだ。

 一方でミロクも腰の中から膨張してゆく圧倒的な愉悦に全感覚を高揚させ、歓喜に満ちたよがり顔で感涙とよだれを溢れるがままにしていた。恥じらいは快感で圧壊してしまい、今はもう尻をつかまれて突き上げられる心地に打ち震えるのみである。女性器だけを必要とされるような意地の悪い体位でもたまらなく嬉しい。

ぐんっ!ぐんっ!ぐんっ!ぐんっ!ぐんっっ…!

「あんっ!あんっ!あんっ!あはっ…あ、ああんっ…!!ふぁ…きゃふっ!!」

「おっと…もう身が持たないか…?」

 必死に四つん這いを維持してきたミロクであったが、とうとう両腕を脱力させてしまうと顔から布団に突っ伏してしまった。豊かな乳房もたわませ、這いつくばって尻だけを高く突き出している格好になってしまうが…ミロクを見下ろしている大神としてはその淫靡さだけでも胸が高鳴り、あられもない格好ひとつで危うく暴発してしまいそうになる。口では平静を装っているが、この淫らな体勢で交わり抜くには少々自信が無くなってきた。

ぬる、ぬるる、るっ…ぬぢゅっ…ぽぶっ…

「うんんっ…!!や、だめえ…抜いちゃだめえ…」

「心配するな、すぐにまた貫いてやる…。」

 しばしの休憩も挟む意味で、大神はミロクの膣内に深々と食い込ませていた男根をすべて抜き去ってしまった。狭い膣内でヌルヌルの愛液漬けにされ、ひどくもみくちゃにされた男根が反り返って天を仰ぐと…そこからミロクの匂いが湯気となってホカホカ舞う。愛液を飛沫かせたミロクの女陰も同様に二人ぶんの温もりを発散した。

 ミロクは尻を突き出した格好のまま息も絶え絶えに不満を鳴らしたが、大神は彼女をなだめながらそっと腰を押し、ころん…と布団の上に横倒しにしてしまう。そっと顔を寄せ、物欲しげな表情を和ませるように口づけしてやることも忘れない。

 大神はそのままミロクの左脚を持ち上げて大きく開脚させると、彼女の右脚をまたいで腰を近づけた。黙って成り行きを見守っていたミロクであったが、大神が先端を膣口に密着させてきたところで上目遣いになり、おずおずと口を開く。

「…こ、こんな格好で…?」

「…また達する顔を見せるんだ。」

「はい…。も、もう一度…お願いします…。」

 興奮にはみ出た濃桃肉が自ずと割り開いてしまう体勢に戸惑いながらも、大神の意志がそう望むのであれば逆らうことはできない。ミロクは目を伏せることもなく、濡れた瞳で真っ直ぐ大神を見つめて結合を求めた。

ぬちゅっ…ぬる、ぬぢゅるるっ…

「ふあ…あっ、ふうっ、うっ…!!」

「さあ、今度こそ最後まで愛してやるぞ…!」

 左脚を抱え上げられた松葉崩しでの挿入に、ミロクは布団を引っ掻いて悶える。股を裂かれるように深く深く突き入れられる体位がたまらなく恥ずかしく、そして心地良い。

 大神もはち切れんばかりの男根を女陰の奥へと深く突き入れ、抱き込んだミロクの太ももをスベスベと撫でさすりながら甘美な挿入感をじっくりと堪能した。最高の女性とねちっこいまぐわいを重ねている事実に歓喜の身震いを覚えると、舌なめずりしながらゆっくりと腰を引いてゆく。妙な角度の挿入感がなんとも言えず新鮮だ。

ぢゅぷっ、ぢゅぷっ、ぢゅぷぷっ…ぐりっ、ぐりいっ…ぐんっ!ぐんっっ!!

 ミロクの左脚を肩にかけ、両手で腰を押さえ込みながら大神は感じたいままに往復して彼女との交尾にふける。盛大にぬかるむ音を立てながら柔らかな膣内を蹂躙し、弾力を確かめるよう先端で子宮口を圧迫させた。じゅわっ…じゅわっ…と体熱を拡げ、精を求めて締め上げてくるミロクの膣内はどうにも気持ちよくてならない。

「ミロクッ…ミロクッ…!!いいぞっ…何度でもイけそうだっ…!!」

「はあんっ!ひっ、イッて!なんべんでもイッてえっ!!わたしっ、わたしもおっ…!!」

 愛しさ余って大神はミロクをいじめ抜くよう強引に腰を振り、何度も何度も子宮口を突き上げた。そんな乱暴な交わり様にミロクは布団に頬摺りして悶え狂い、声を限りによがり啼く。感涙も愛液もしとどに溢れ返り、興奮の発汗もあってミロクは全身びしょびしょだ。下腹を太ももの付け根に打ち据えている大神も、もはや股間は太ももに至るまでべちょべちょになっている。激しく揺さぶられている陰嚢などはその裏側まで愛液に濡れそぼっている始末だ。

ぢゅぷっ、ぢゅぷっ、ぷちゅっ…ちゅぴ、ちゅぷっ…ぺろっ、ぺろっ…

「ひゃうっ…ふぁ、あはんっ!!だめ、くすぐったい…!!はっ、はふんっ!!」

「かわいい指だ…。ふくらはぎも太ももも、こんなにしなやかで、スベスベで…」

 大神が左脚の親指に口づけてからしゃぶり、指の間に舌を這わせるとミロクは擦り切れてしまいそうなせつない声であえぎ、ほっそりとした左脚をピクンピクン痙攣させた。親指をしゃぶったままで小気味よく腰を突き出してゆくと、それにあわせて親指は舌の腹を引っ掻くようにきゅんきゅん曲がる。

 そんな反応を楽しむよう、大神はミロクの足の指を一本一本丁寧にしゃぶり、指の隙間もくまなく舐め上げた。細い足首をつかみ上げつつ片手の指先で足の裏をくすぐると、ミロクは憑かれたかのように激しく悶えまわる。

「あっ!!あああっっ!!やっ、やめっ…!!おかしくなるっ…!!ホントに死んじゃううっ…!!」

「おっと、死なれたら困るからな…この辺で許してやるか…。」

「ふぁ、ふぁ、ふぁあ…はあ、はあ、はあっ…」

 布団の敷布をひっつかみながら大神の責め苦を耐え抜くと、ミロクはグッタリと脱力して深呼吸を繰り返した。それでもまだ達したわけではないらしく、右手で自らの乳房を揉みながら大神の動きにあわせて丁寧に腰を振ってくる。

ずぶっ、ずぷっ、ぢゅぶぷっ…ぢゅぬるるる、るっ…ずぶぷっ…

 絶妙に同期した二人の動きに、結合部はこれ以上ないほどにはしたない音を立てている。

 大神が視線を落とせば、勃起の頂点にさしかかろうとしている男根がいっぱいいっぱいにミロクの女陰を押し広げて突き刺さっている様子が確認できた。後背位では結合の様子が見えても女陰が丸見えになることはなかったが、松の葉を押しちぎるようなこの体位では恥丘から会陰に至るまでのすべてを見渡せることとなり、こうして入り口付近の襞がめくり出たり押し込まれたりしている光景は息を飲むほどに淫猥だ。しかも二人の熱い情欲を潤滑させてきた愛液が次から次へと掻き出されてくる。

 その奥では膣壁が男根の形に添ってくねり、襞を高く立たせて大神をきつくきつく締めつけてきた。それは貴重な精を逃すまいとする人間の本能によるものだ。男を狂おしく射精させる生来の愛撫である。

 大神もまた、その愛撫の魅惑から逃れることはできなかった。必死に押し殺していた射精欲はいよいよ男根いっぱいに張りつめ、根本付近の管を危なっかしく震わせてくる。

「ミロクッ…出すぞっ…!お前の女陰に…オレを染み込ませてやるっ…!!」

「はあっ、はああんっ!!だっ、出してえっ!中いっぱいに出してえっ…!!わたしももうだめっ、イッちゃう…またイッちゃう…!!」

「ふっ、ふははっ…よかろう、身ごもるくらい思いきり出してやるっ!!」

「おっ、お願いっ!!双子でもいいっ、三つ子でもいいからできちゃうくらい…いっぱい、いっぱい精子、出してえっ!!」

ずぶっ!ずぶっ!ずぶっ!ずぶっ!ぬ、るる、るっ…ずぐんっっ!!

 大神は避妊のことなどおくびにも出さず、もはや絶頂は回避できないと悟ると腰の動きをさらに早く、深いものにした。遠慮なく腰を引いては一息に根本まで突き入れ、最後の瞬間までミロクの女陰を感じ抜くことに決める。

 ミロクもこのまま大神と繋がったままで絶頂を迎えたいらしく、はしたない言い回しをしてまで膣内射精をせがんだ。妊娠の危険性も考えず、媚びた瞳で大神を見つめながら夢中で血まみれの左手を差し伸べる。大神はそれに応えるよう右手を伸ばし、指を絡ませるようにして固く繋いでやった。

ぬぢゅるる、るっ…ずぷぢゅぷっ!ぬちゅるるっぷ…すぶぶぶっ!

「出るぞっ…!出るっ!出るうっ…!!」

「もっ、もうだめえっ!イク!イクうっ!!あああっ…イクッ!イクうっっ…!!」

 手を繋ぎあってから大神はミロクの太ももを押さえつつ全力で男根を往復させ…ミロクは布団に突っ伏して痙攣しながら泣き叫び、それぞれ絶頂の訪れに打ち震えた。室内は湿気と熱気を極めて二人の交尾の果てを見守る。

「あひっ!ひっ!ひいいっっ…!!いっ、イッッ…!!」

びくっっ…きゅきゅっ、ぎゅっ、ぎゅううっ…

 先に登り詰めたのはミロクであった。突っ伏した布団の中で声にならない悲鳴を上げ、きつく閉ざしたまぶたからぽろぽろ感涙を溢れさせる。ブルブルッ…と腰を震わせると、膣は最強最後の締め上げで大神の男根を深く捕らえた。強引に射精を促すよう、子宮口付近がボッ…と燃え上がる。

「うっ、ぐううっ…!」

 大神は沸き上がった射精欲にたまらずうめくと、彼女の太ももに爪を立てながら亀頭を子宮口にグイグイ押しつけた。突き破ってしまわんばかりの強引な力はググッ…と勃起を極めさせ…最後の堰を切らせる。

「出るっ!!でっ、出っっ…!!」

ぶびゅるっっ!!

「うくうっ…!!」

「きゃうんっ!!」

びゅるっ!びゅるるっ!びゅくっ!

「ぐっ…ぐうううっ…!」

「はひ、はひ、はひいっ…!!」

どくんっ、どくんっ、どくん…

「はあっ、はあっ、はあっ…ミロク…ミロクッ…」

「ふう、ふう、ふう…うっ…ううんっ…」

 強くのけぞった瞬間、大神はミロクの膣内に思い切りよく射精した。

 濃厚な一撃を子宮口に見舞うと、あとは二撃、三撃と繰り返して噴き上げ…ミロクの熱い女陰をさらに熱く染め抜いてゆく。二人はだらしない声もお構いなしに、部屋いっぱいに響くよう繰り返してよがり鳴いた。絶頂感が余韻へと変わってゆくにつれ、二人の胸は大きな充足感で内圧を高めてゆく。

 大神は男としての本懐を極めたのであろう、今日三度目の射精であるにもかかわらず、その量は実に目を見張るものがあった。性欲が狂喜乱舞して肉体に射精を促すよう、後から後から精を放たせて快感の波紋を中枢に広げる。

 しかも達成感、充足感も物凄い。狭い膣内で狂おしい脈動を遂げるごとに熱く熱く胸が満ちてゆく。初めての性交、初めての膣内射精もかくやとばかりの心地よさで大神はすっかり忘我し、惚けた視線を中空に漂わせながらあごをわななかせて余韻に浸った。女陰の温もりに包まれたまま、一滴も残さぬようミロクの奥へと精を送り込む。新鮮な精液はミロクの子宮へと流れ込み、襞の隙間ひとつひとつに染み込んで…行き場を失った愛液を繋がりあっている隙間から溢れさせた。

「ミロク…よかったぞ…。やはりお前は最高の女だ…。」

「ふう…ふう…ふう…」

「よかったか?」

「ん…」

こくん…

 肩にかけていたミロクの左脚をゆっくり下ろし、正常位のように向かい合ってから大神は満ち足りた表情でそう告げた。ミロクはうっとりと大神を見上げながら小さくうなづくだけで、言葉を紡ぎ出すことができないようだ。

 事実、ミロクは今純粋な恍惚のただ中にいた。ともすれば気が触れてしまわんばかりの快感を少しでも多く享受できるよう、意識が全力を尽くしているのである。おかげでミロクの肉体は性感帯をはじめとして、今では髪から爪の先に至るまでくまなく甘やかな悦びに満たされている。

 なかでも最後の最後まで愛し抜かれた女陰、その奥の膣は…途方もない法悦のあまりに大神の男根を締めつけたままだ。熱く濃厚な精液でいっぱいにされたこともあろう、酒に酔っているかのように繰り返してきゅんっ…きゅんっ…と精を搾ろうとする。

 これほどの高みに到達したのは初めてであった。ミロクはぼうっとしたまま嘆息を重ね、感涙で敷布を濡らす。まぐわいがこれほどまでに素敵なものであったとは、まさに目から鱗が落ちる思いだ。余韻にいたってなお、手淫とは天と地ほどの差もある。

…強姦されて、よかった…

 たまらない狂喜の内でそう感じてしまうのも無理がないくらい、ミロクは満たされていた。この快感を前にしては、もはや愛情や美徳、貞節といった観念に縛られている人生が馬鹿馬鹿しく思えてしまうくらいである。

「素敵だったぞ、ミロク…。オレの、ミロク…。」

「ん、んんっ…あ、はうん…」

 汗ばんだ尻を撫でてやりながら大神が言うと、ミロクは照れくさそうに両手で淫阜を覆い、陰部を包み隠そうとしてきた。意識が恍惚の果てから回復しつつあるのだろう、大神とは性器を結合させたままなのだが、彼女のかわいらしい女心がそうさせるのである。

ぬっ…ぬる、ぬるるるるっ…ちゅ、ぽぶっ…

「んあっ、んんっ…!」

「やれやれ…そんな声で鳴かれると、萎えるものも萎えんだろう…?」

 大神はミロクの腰を突き放すようにしてゆっくり男根を引き抜いてゆき、密封状態を作り出している彼女の内側から抜け出る。巨大な異物がいっぺんに抜け出たことで、膣が慌てて収縮したものか…ミロクは結合を解かれた瞬間に小さくさえずった。大神は冗談めいて微笑むと、引き抜いたばかりの男根を彼女の眼前でしごいてみせる。心持ち脱力を呈してきてはいるが、まだまだ勃起を維持する気力は持ち合わせているようだ。

 結合を解かれたミロクの膣口からは、ささやかな空気音に続いて二人が激しく交わり合った証がトロトロと漏れ出てきた。こってりと濃厚な精液はさらさらな愛液に混じり、ミロクの尻の谷間を伝って肛門をも濡らしてゆく。

ぞくっ…

 その感触にミロクは二の腕を鳥肌立たせた。異常なきらめきを湛えた瞳で柔らかく微笑むと、ミロクは溢れ出てくる自分達の愛情液を両手で堰き止めようとする。狂気に憑かれた指先はそのまま膣内に潜り込み、ゆっくりとひだをくじりはじめた。もう次が欲しくなってきたのである。

「さあミロク、もう一度しゃぶってくれ。」

「はい…あぷっ…」

みょぐっ、みょぐっっ…ごくん…にょぐ、みょぐっ…むりゅむりゅ…

 大神はミロクの顔をまたぐと、二人分の体液にまみれた男根を彼女の口許に運んでそう命令した。ミロクは二つ返事で了承し、陶酔の面持ちで男根を受け入れる。頬と唇をすぼめながら艶めかしく舌をくねらせ、ぬめりを飲み込んでから再び愛撫を始めた。

 もう男根が…なにより大神自身が愛しくてならない。大神のために誠心誠意、どんなことでも尽くしたい気持ちが胸を満たしている。敵であることも今となってはどうでもよかった。主従関係になろうとも、お互いが性の悦びに浸れるのであればそれでよかった。

ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ…

「んっ、んっ…ふん、ふん…んっ、んんっ…」

「…ミロク、まだまだ足りないようだな…。そうやってせがまれたら…ほれ、また漲ってしまったぞ…。」

 勃起したままの男根をしゃぶられているうち、大神は思わずミロクの喉へと腰を突き込んでいた。ミロクも拒むことなく舌を拡げて愛撫に専念しようとしたが…大神は理性を振り絞ってか彼女の口内から慌てて抜け出てしまう。

 そのままミロクの横に寝そべって寄り添い、抱き締め合ってからごろごろと布団の上を転げ回った。大神が上になり、ミロクが上になり、また入れ替わって…行ったり来たりと転がりながら深く口づけを交わし合って抱擁を重ねまくる。主人としての、そして奴隷としての愛しさがお互い溢れそうであった。

「あっ、あんっ…お、大神さま、もっと…もっと愛してくださいまし…!」

「いいだろう…夜が明けるのが早いか、精根尽きるのが早いか…満足できるまで貫いてやる。思う様に精を注ぎ込んでやるぞ…。」

「あっ、大神さまっ…嬉しっ…わたし、わたしはっ…んっ、んんっ!!」

ちゅっ、ちゅちゅっ…

 こうして二人は再び、身体の内に愛欲の炎を宿したのであった。

 

 

 

 遊郭『翠芳』を包囲している完全武装の陸軍兵達はすっかり疲労していた。

 これというのも若き海軍将校、大神一郎少尉が屋敷に単身乗り込んでいったきりいつまで経っても戻ってこないからである。

 もうあれから夕刻が過ぎ、夜が訪れ…紫なす東の空も次第に白みかけてきた。大神が上がり込んですぐ銃声が響いたときには一斉に緊張が走ったものだが、この時間となっては上官の目を盗んでこっそりあくびをする者もいるくらいである。もちろん野次馬も大半が去り、いるのはよほどの物好きか、一眠りして再び見物に来た物好きの玄人くらいだ。

…軍が捜索している重要犯のひとりとは聞いているが、たかが女一人ではないか。

 重要犯とやらの具体的な素性を知らない兵卒達は皆そう考え、一様に苛立っていた。口にこそ出しはしないが、そもそも海軍の人間が何の権利で自分達陸軍を指揮するのかについても納得がいかない。

 今回の行動を大神の元で指揮している曹長などは、その肥満した身体をどっかと折り畳み椅子に預けていながら顔を赤らめて汗だくであった。明け方まで冷え込む季節にありながらもこれだけの様相を呈しているのは帰りの遅い総指揮官への苛立ちの他に、軍規を無視した勤務中の飲酒によるものでもある。

 そんな不謹慎な曹長の脇に神経質そうな痩せ男が歩み寄ってきて、恭しく敬礼した。

「曹長、交代致します。」

「うむ、ご苦労…。まったくあの青二才、女一人になにをやっておるのだ!?伍長、お前もおかしいとは思わんか!?」

 肥満の曹長は傲慢の見本であるかのようなふてぶてしさでうなづくと、椅子から立ち上がるなり痩せぎすの伍長に食ってかかった。その野牛の咆哮にも似た剣幕は新兵を失禁させるに十分な威圧感を有しているが、伍長にとってはすでに日常茶飯事のこととなっているため意にも介することがない。くだらなそうに溜息を吐くと、直立の姿勢を崩すことなく意見を述べる。

「確かに…これほどまでに時間がかかると、いささか不安になりますな。」

「まさかあやつ…その女と職権を乱用してよろしくやっているのではなかろうな!?うぬぬぅ…なんと…なんという破廉恥漢!あの若造め、米田中将閣下のお気に入りだからといって調子に乗りおって…!!軍の恥!恥だわいっ!!」

 意外に鋭い男ではあるが、所詮想像は想像の域を超えない。曹長は勝手に想像を広げておきながらそれを現実と錯覚したようであり、憤怒の形相で大神を罵った。建物を包囲している兵卒達は横目で彼を見つめ、辟易の溜息を吐いている。

 この曹長は自分よりもはるかに若い大神に嫉妬しているのであった。

 海軍の所属でありながら陸軍に編入し、指揮を執っていることについては兵卒達にしてみてもおもしろくはないのだが…この肥満軍人が妬むのは、大神が米田一基陸軍中将からの全幅の信頼を得ていることにある。

 憧れの米田中将に目を付けてもらっている…わずかそれだけのことがどうにも許せないのであった。もっとも日頃の行いも省みず勇猛さだけで昇進してきた曹長には、一生かかっても大神が米田に気に入られる理由を理解することができないだろう。

…軍の恥はお前だろうが。

 生ぬるい折り畳み椅子に腰掛けてしまい、慌てて立ち上がった伍長は仮宿舎へとドスドス歩いてゆく曹長の背中を睨み付けながらそう独語した。

 ちょうどその時であった。

ぼんっ。

 そんなくぐもった音が辺りに響くのと前後して、屋敷を包囲している兵卒の一部から緊迫した悲鳴が上がる。

「…火の手だ!たっ、大変だっ!!屋敷からっ…『翠芳』から火の手がっ!!」

「なにっ!?」

「なんだとうっ!?」

 音と声に反応して伍長も曹長も屋敷を注視する。するとどうであろう、二階の一室から明かり取りの障子戸を突き破り、もうもうたる黒煙が噴き出てきているではないか。しかもその奥からはチロチロと橙色の炎が揺らめいているのも見える。どう見ても火災が起こっていることは明らかであった。

「総員、ただちに消火活動に入れっ!!」

「伍長、消火装置の用意はありませんがっ!?」

「ならば至急消防隊に連絡だっ!少しでも食い止めろっ!絶対に延焼だけは阻止させるんだっ!!おいお前達、バケツを運ぶぞ!ついてこいっ!!」

 痩せぎすの伍長が素早く指示を下し、それに応じて兵卒達は素早く行動に移る。『翠芳』の包囲陣から人数を分け、それぞれ消防隊へ連絡に、あるいは消防水利を利用してバケツを運びはじめた。これを機にと野次馬達を追い散らし、消火を手伝わないのなら帰れと怒鳴り散らしている者達もいる。

 そんな慌ただしい中、一人だけなにひとつ行動に移ろうとしない者がいた。誰あろう肥満体の曹長だ。

 わざとらしい咳払いをひとつ、自分は総指揮を執るとばかり折り畳み椅子にどっかと巨体を下ろしてふんぞり返ってはいるが…ようはこういった緊急事態に即応できないのと、面倒くさいことは極力避けたいだけなのだ。それどころかこの火災の中で大神少尉が殉職でもしてくれれば幸い、とまで思っているほどである。背後で遊郭『翠芳』の老店主が焦燥の面持ちで狼狽えていることにもてんで気付く由がない。

「あわわ…あ、あのう…も、もし全焼にでもなったら…その時は…」

「全焼だとう!?きさまっ、栄えある帝国軍がそんなヘマをするとでも思っとるのか!?不敬罪に値するぞっ!!」

「そ、そんなことは…」

「だったら黙って見ておれい!ええい、ぐずぐずするなっ!早くなんとかせんかっ!」

 曹長は大声だけで老店主を黙らせると、不当な苛立ちに任せて無茶苦茶な指示を下した。自分は何もせず、かといって具体的な打開策を提示するでもなく、事態の解決をただただ待つ腹づもりのようである。

 側で見ていれば伍長と曹長との性格の違いは軍の関係者でなくとも理解することができるだろう。そんな曹長のあまりといえばあまりの傲岸不遜さに、老店主は非難していた他の花魁達と顔を見合わせて絶望の溜息を吐いた。

 それもそのはずで…彼らの見守るなか、遊郭『翠芳』の屋敷は兵達の努力も虚しく大火に包まれ始めていた。表に面した障子戸からは黒煙のみならず炎が噴き上がり、怒髪天を突く勢いで屋敷を橙色に包み込んでゆく。板壁は煤けて燃え上がり、土塀は黒焦げて醜く剥がれ落ちていった。煌々と揺らめく炎はほんのわずかな時間だけで、莫大な時間をかけて築いた富を容易く炭化させてゆくのである。

 悪条件も確かにあった。屋敷自体が相当な年月を経たものであり、空気もかなり乾燥していたに違いない。火の手が回るのは兵達の予想以上に早かった。消防隊はいまだに姿を見せず、消防水利からのバケツも延焼を食い止めるのが精一杯というていたらくである。

がらがらがらーっ…

「あああっ…わしの…わしの店が…」

「…あたしたち、これからどうなっちゃうんだろう…。」

 柱から音立てて灼け崩れてゆく屋敷を見つめ、老店主はのしかかってきた絶望に押し潰されるようにひざまづいた。花魁達も不安に揺れる小声でささやきあう。財産はもちろんのこと、夜露をしのげる場所すらも無くなってしまったのだ。季節が季節であるだけに不安もひとしおだ。

「…海軍の青二才が悪いんだ。我々陸軍は関係ない。」

 そんな彼らをあえて無視し、誰にともなく曹長がうめく。同時に、今回の作戦の総責任者が大神少尉であることを心中で確認したりもしている。指揮は遅いが打算はすこぶる早いようだ。

 その大神少尉が、焼け落ちつつある屋敷の正面玄関からゆらりと姿を現したことで一同は幾分安堵を取り戻すことができた。自力で脱出してきたということはさほどの重傷も負っていないものと思われる。

「おお、少尉!ご無事でしたかっ!!」

 汗だくになりながらも一生懸命バケツを運んでいた伍長はすぐさま大神に気付き、気遣わしげに呼びかけながら彼の元へ駆け寄ろうとした…が、すぐさま足を止め、思わず声を詰まらせてしまう。大神の姿に戦慄し、不快な生唾を飲んだ。

「なっ…なにがあったのですか、少尉…!?」

「少尉!戻られましたか…そっ、その格好はっ…!?」

 伍長に続いて曹長も大神の元に歩み寄ったが、先程までとは打って変わった口調の続きは出てこなかった。裸足ですり歩いてくる大神の異様な姿に、兵卒達からもにわかにざわめきが起こる。

「…マルゴーサンマル、細川ミロク逮捕。これより撤収する。」

 ズボンだけを身につけ、端正な上半身を露わにしている大神は…単衣のみをまとった髪の長い女性をおぶった格好で一同の前に姿を現し、手短にそう命令を下した。つぶれかけた紙タバコを悠然とくゆらせているところからも怪我らしい怪我はないらしい。

 それだけならまだ異様とは言えまい。しかし大神の胸板から首筋にかけて無数に残されている濃桜色の跡はどう考えても異様だ。これはいくらなんでも犯人逮捕に関わる負傷とは思えない。不敵な薄笑みが浮かんでいる頬には口紅の跡も無数についている。

 そしておぶられている女性、細川ミロクは…まるで死んでいるかのようにグッタリとしており、恍惚とした微笑を涙から汗からよだれからでベトベトにしていた。深い呼吸を繰り返しているようであったが、その音は聞きようによっては上擦ったよがり声に聞こえなくもない。単衣の中に隠されている尻からも、なにやらなまっちろい雫がポタポタ滴りどおしだ。

 大神の胸元に伸ばされている彼女の両手には固く手錠がかけられているが、その左手は血まみれであるうえ大きく穴が開けられている。それは恐らく大神がズボンと腹の隙間に差し込んでいる陸軍拳銃によるものだろうと、伍長は冷たい戦慄の中で想像した。

ひゅううっ…ごがっ、がらがらがらーっ、どすーんっ…

 不気味な沈黙が辺りに立ちこめ、ふいに風が流れる。次いで屋敷の大黒柱が轟音とともに焼け落ち、遊郭『翠芳』は完全に燃え潰れてしまった。それでもなお誰一人声を発せず、動こうとせず…ただただ固唾を呑んで二人を見つめるのみだ。大神から発散する異常な雰囲気はその場にいた者すべてを戦慄の針金でがんじがらめにしてしまったのである。

「店主。翠芳の店主はいるか?」

 制止した時間を再び動かしたのは大神自身であった。伍長や曹長の間をすり足で通り抜けると、呆然としてひざまづいている老店主を見つけて真っ直ぐ歩み寄った。ミロクを心持ち背負い直しつつ小さく頭を下げる。

「店主。逮捕の不手際で屋敷を焼失させたこと、陳謝する。賠償は軍が間違いなく行うから安心しろ。」

「は、はい…」

 そう言われたとしても、気が動転している老店主は間の抜けた声で返事を返すことが精一杯であった。夢うつつであるかのように全焼した屋敷はもちろんのこと、あれだけ美しい笑顔を見せていたおミクの変わり果てた姿にも度肝を抜かれているのである。

「おミク…あなた、なんで逮捕されちゃうのよう…」

「それにその格好…ねえおミク!おミクったらあ!」

 花魁達も親しくしていた仕事仲間に次々と声をかけたものの、

「おっ、おおがみさまあっ…。あっ、あはっ…おおがみ、さまあっ…。」

 ミロクはそう繰り返しながら陶酔の表情で視線を虚空に泳がせ、大神の首筋へ甘えるように頬摺りするのみであった。大神は子供をあやすようミロクに微笑みかけながら、跡形もなくなった屋敷を背にして帰路に就こうとする。

 そんな大神の前に立ちはだかったのは肥満体の曹長であった。無遠慮に歩み寄り、悪意に満ちた下品な笑みを浮かべて問いかけてくる。隙あらば非難の雨霰を降らせてやろうという魂胆が見え見えだ。

「少尉っ!撤収の前に事情を説明してはいただけませんでしょうかねえ…?そのう、犯人逮捕までの経緯をですねえ、なんですか、これだけ時間がかかった理由を…」

「…マルゴーサンマル逮捕、撤収だ。聞こえなかったのか…?」

ぎらんっ。

 それは悪意を通り越した殺意の光。人を人とも思わない凍てついた視線。

 質問を遮るように不快を極めた低い声で問い返すと、大神は醜く肥え太った陸軍曹長を真っ向から睨み付けた。それだけで曹長は巨体をビクンと揺さぶり、気持ちの悪い脂汗を背中に感じながら深々と頭を下げてかしこまる。先程までの悪意は圧倒的な殺意の前に踏みつぶされていた。

「もっ…もっ、もっ、申し訳ありませんでしたっ…!!」

 首を絞められてあえぐような声で詫び、曹長は深々と頭を下げたままその場にうずくまってしまう。脊髄を氷の串で貫かれたような心地となり、下肢が脱力して立っていられなくなったのだ。

 先程ミロクに微笑かけていた姿からは想像もできないが、大神からはある種妖力とも呼べるほどの殺気が放たれていたのである。曹長はまともに受けた大神からの殺気に心臓をえぐられたような心地となり、急激にこみ上げた嘔吐感で目を見開いた。

「うぶっ、うぉええっっ…!!おぐっ、げええっ…!!おげええっっ…!!」

びちゃっ、びしゃびちゃびちゃっ…

 不甲斐なく地べたに縮こまり、悪臭を放つ汚物を吐き散らして曹長は苦悶にあえぐ。大神からの殺意に絶対的な恐怖を覚え、剛胆を誇る大和魂ごと震え上がる思いだ。

 兵や市井の者達の真ん前で赤恥を掻かされていることにも口惜しさを覚えている余裕がない。ただただ、海軍の青二才と侮っていた青年将校が恐ろしかった。

「ふぁ、あっ、ふぁあ…けほっ、こほっこほっ!」

「おっと。煙かったか、ミロク。」

 汚物の臭いか、大神の紫煙か…ふいにおぶられていたミロクがかわいらしく咳き込んだ。がちゃり、と手錠を鳴らしながらより強く大神にしがみつくと、鼻から口許からを覆うよう彼の肩に顔を埋めてくる。

 そんなミロクを気遣い、大神はくわえていたタバコを嘔吐しきりの曹長の首筋へ放り捨てた。ぎゃひっ、と情けない悲鳴を上げ、肥満体は汚物を撒き散らしながら無様に地べたの上を転げ回る。

「ブタめ…。さあミロク、行こう。」

「んふ…ふぁ、ふぁい…おおがみさまあっ…」

 曹長に無慈悲な一瞥をくれると、大神は背中のミロクに小さく声をかけて歩みを再開した。男の背中で揺られ、ミロクはうっとりとしたまま答える。大神の撤収命令は三度繰り返されることはなく、彼らはそのまま兵達を置き去りにするよう遠ざかっていった。

 裸足のまま遠くすり歩いてゆくうち、大神は呆然として見送る伍長や兵卒に聞こえるような声で独語した。

「帰ってからもすることが山積みだし、な。」

 

 

 

 伍長はそのとき、大神におぶられていた細川ミロクが彼の独語に同意するよう二、三度うなづいたように見えた、と後に述懐している。が、それが彼の錯覚だったのかどうかは大神とミロク以外に知りうるはずもない話であった。

 

 

 

 ちなみに…その細川ミロクが尋問中に抵抗したため射殺、という記録がその年の陸軍報告書の一枚に残されている。

 その書類に併記されていた当時の尋問官、そして遺体処理責任者が大神一郎少尉であり…しかもその書類を作成したのもまた彼であったことも、一応ここに付け加えて筆を置くことにする。

 

 

 

終わり。

 

 

 


(update 99/12/19)