■素麺とミニトマト■

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作・大場愁一郎さま


 

 期待に瞳をキラキラさせ、わずかに頬を上気させる耕一に千鶴は恥じらって視線をそらしながらそう問いかけた。本人にはそのつもりがないのであろうが、その申し出を強調するかのように左手の指先で口許を押さえたりもする。

ずきんっ…

 千鶴のそんな魅惑的な申し出に、耕一はたまらない焦燥感で胸を痛めてしまう。

…千鶴さんが、オレに…フェラチオしてくれる…?

 そう考えると、もう左手で慰めているのがもったいなくなってしまった。慌ててペニスを手放すと、おずおずと触れてきていた千鶴の右手を上から押さえつけるようにして握り込ませる。

「耕一さん…?」

「お願いっ、ぜひ頼むよ…今すぐフェラチオして…。」

「…わかりました。」

 コクン、とうなづいて千鶴が了承すると、耕一は焦れるように足を組み替え、ひんやりとした床の上であぐらをかいた。千鶴は耕一の前で正座するようにし、そのまま上体を倒して顔を耕一の股間に近づける。

しこ、しこ、しこっ…

 千鶴はそのまま言われるまでもなく、耕一がしていたように右手でペニスをつかみ、不思議そうに見つめながらゆっくり上下にしごいてみた。カチカチに強張っている幹には激昂しているかのように血管が浮いており、その中央には太いパイプが一本通っている。せり出すように盛り上がっているところはなんとも奇妙であり、また、耕一の男らしさを感じさせてくる。

 包み込む右手は幹だけでなく、先端部を構成するツヤツヤでパンパンに膨れ上がった亀頭をもくまなく愛撫した。幹とは質の違う先端は赤黒く充血しており、指がくびれ、クッキリとした筋、おちょぼ口となぞるたびに耕一をゾクゾクと反応させてしまう。

 それもそのはずで、ここは女性でいえばクリトリスに当たる部分なのだ。耕一も例外に漏れることなく、敏感に性の悦びを享受し…そして、心はなおも逸る。

「ちっ、ちづるさんっ…焦らさないで、早く、はやくしてよっ…!!」

「ごっ、ごめんなさい…つい見とれてしまって…。耕一さんの、たくましくって…男らしいなって、感心してたんです…。じゃあ、しっ、失礼しますね…」

 千鶴の絶妙な愛撫に理性も限界が訪れたのだろう、あさましくも耕一は、子供が駄々をこねるような口調で千鶴を急かしてしまった。それと同時に、ジクン、ジクン、とせり上がってきていた二度目の逸り水が、ちぷっ、と先端から滲み出てくる。

 ペニスが耕一同様すすり泣きを始めたことに千鶴は狼狽え、慌てて言い訳しながらペニスの根本を握ると真上にかまえた。脱力したようにクンニャリしている袋も、左手でそっと持ち上げてやる。

…やだっ…真正面から見ると、やっぱり気味悪いわ…。

 こうして真正面から見てしまうと、どうしてもそのグロテスクさを克服できない。いつだったか、テレビの映画番組で見た異星人を彷彿とさせてしまう。

…それでも、わたしが耕一さんの情欲を受け止めてあげなければ…

 千鶴はあらためて決心を固めると、そっと目を閉じ…

ちゅっ…。

 濡れるおちょぼ口を、柔らかな唇の隙間で塞いだ。むにゅっ…と深く口づけ、唇の弾力を敏感な先端に擦り込もうとする。

「ああっ、ちづる、さんっ…!」

 壁に背中を預けてあぐらをかいている耕一は、千鶴からの愛撫に、きゅっ…とおとがいをそらせて鳴いた。だらしなくも、声が上擦りかけている。

 そんな耕一の反応に確信を覚えた千鶴は、勇気を奮い起こすために何度も何度も先端にキスを放った。押しつけては離し、押しつけては離し…。

むちゅっ…ちゅぴ、むちゅっ…ちゅぴ、むちゅっ…

 水飲み鳥のように繰り返してキスを撃つたび、千鶴の唇と耕一のペニスの間でサラサラな逸り水が粘っこく糸を引く。キスされるごとに逸り水を漏出してしまうのだろう、その粘つきは次第に増し、糸も重そうにぷつん、と切れるようになる。

 千鶴はようやく薄目を開け、あらためて濡れそぼった先端を見つめた。唇に馴染みきらなかった逸り水は筋に反って流れ、幹にまで伝い落ちている。根本をつかむ指先にまで伝わってきているくらい、もはやペニスは身震いしきりだ。ときおりビクン、と強く脈打つのは、射精の瞬間を待ち焦がれているからなのか、逸り水が噴き上がる証なのか…。

「もっともっと…慰めてあげますからね…」

「う、うん…。いいよ、千鶴さん…感じてる、気持ちいい…。」

 ちら、と顔を上げて上目遣いに告げる千鶴に、耕一は安らぐような柔らかい笑みを向けた。合図するように、汗ばんで火照った千鶴の頬を右手で撫でてやる。

 千鶴は再び顔を伏せると、クッキリとした裏側の筋に舌を這わせた。舌の腹を大きく拡げ、ざらざら感を誇示するかのように大きくくねって舐め上げる。

べろーっ、べろーっ、べろーっ…ちゅぴちゅぴちゅぴ…

「くっ、くうっ…気持ちいいっ…!!」

 ぬめる先端をも舌先で細かく愛撫されると、耕一はたまらず喘ぎ声をもらした。

 その感じ方を表すように、千鶴の舌先が間断なく逸り水をすくい上げるたび、ペニスは強く反り返ろうと身じろぎする。これは耕一が射精欲を堪えようと肛門に力を込めるためだ。一方でそれは同時に、射精の勢いを強める結果にも直結している。

 堪えに堪えた果ての射精には、例えようもないほどの法悦が待ち受けており、そして精液の噴出する量も法悦の度合いに応じて多くなるものだ。そのうえでなお、千鶴は耕一を絶頂に追い込むように…まんべんなくペニスに舌を添わせて念入りに愛撫してくる。右手で膣をかたどるように筒をこさえ、太くそそり立つペニスを丁寧にしごき立てながら、何度も何度も裏側の筋を舐め上げた。

しこ、しこ、しこ…ぺろ、ぺろっ、べろーっ…

 即時の射精を促すような、実に巧みな愛撫。しかし千鶴は、男性に対してこうした愛撫を施した経験がないのだ。今こうして、耕一にしているのが初めてなのである。

「すごいじょうずだよ…千鶴さん、オレの感じるところ…ぜんぶ知ってるみたい…」

「ふふっ…聞かなくっても、ちゃんと耕一さん、反応してくださいますから…。わたし、これでも耕一さんの反応、ひとつひとつ確かめながらやってるんですよ…?」

べろっ、べろっ、べろっ…

 張りつめた先端を右手で押さえながら、逸り水の伝う裏側の筋に拡げた舌の腹を押しつけてくねらせる千鶴。柔らかく舌触りが駆け抜けるたび、耕一は天井を仰いで熱い吐息を漏らす。

「この、裏側のクッキリした筋なんか、特に敏感で…」

「おっ、そ、そうっ…!あっ、いいよっ…!」

もみっ、もみっ、もみっ…しこ、しこ、しこ…

 また、左手の掌で袋の中の睾丸を揉み、転がし、ひとつひとつ握りしめてはペニスの幹を大きくしごいてやった。指の一本一本がくびれを刺激するたびに、右手でこさえた筒の中で耕一のペニスは熱く熱く情欲の血を巡らせてしまう。

「袋の中の…その、モミモミしながらだと、手の中でこんなに固く…」

「あっ、あんまり強く握らないで…痛いんだ、強く、されるとっ…!」

 実際千鶴の言うとおりで、彼女の局部的な愛撫は確実に耕一をよがらせ、一歩ずつ射精へと登り詰めさせているのであった。凛々しくたくましい好青年であった耕一も、千鶴の愛撫の前には迷子の子供よりもだらしない姿を晒してしまう。

 耕一をひたむきに想っているからこそ…たとえ羞恥を極めた愛撫でも、子細に様子を伺いつつ尽くすことができる。そして、耕一の情欲を一身に受け止める覚悟ができたからこそ、千鶴は愛撫に専念できるのだ。

「さ、耕一さん…いよいよ、お口の中に入りますよ…?」

「はぁ、はぁ…千鶴さん、オレ、精一杯我慢するけど…出しちゃったら、ごめんね…。」

「お気になさらないで下さい…。出したくなったら、遠慮なさらずに出してかまいませんよ…?わたし、耕一さんの精子…一滴残らず、飲んじゃいますから…。」

 ありったけの勇気を奮い起こし、あまりにはしたない言葉を口にすると千鶴はあらためて耕一のペニスと相対した。固い性毛を押し退けてから、親指と人差し指でペニスの根本をつかみ、真っ直ぐに見つめながら震える唇を寄せ…

ちゅっ…ちょむ、ちむっ、ちょむっ…

「く、くうっ…!!千鶴さんっ…や、約束だよ、さっき言ったこと…!」

 熱いキスを捧げると、千鶴は艶めく亀頭を柔らかな唇でついばんだ。表面積の広い表側や側面のくびれをついばまれると、耕一は我を忘れて千鶴の頭を両手で押さえ込んでしまう。ゾクゾクゾクッ…と脊髄がとろけそうな感触が走ると、ペニスは媚びるように新鮮な逸り水を滲ませた。それでも、どうにか生き残っている理性は押さえ込んだ両手をゆっくり動かし、千鶴の黒髪を撫でるよう丁寧にかいぐりする。

「もう少し、お口はお預けにしましょうか…?ふふふっ…」

「あ、あぁあ…千鶴さん、ひどいよ…ホントに我慢できなくなるよ…!」

 情けない声でよがる耕一に対して少々余裕が生まれたらしく、千鶴は上目遣いで微笑みかけながらそう意地悪を言ってみた。耕一はたちまち涙目になり、慈しむようなかいぐりも、それとなく急かすように忙しないものになってくる。

ちょぷ、ちゅぷっ…れろれろれろ、ちゅぴ、ちゅっ…

 千鶴は舌先を少しだけ伸ばすと、アイスキャンディーの先端を舐め上げるように唇の中で優しく転がした。前歯に使えない程度まで亀頭を唇に受け入れ、細かく舌を出し入れして逸り水を舐める。上から下から、そして横から…。先端にくまなく唇の弾力を教え込まれた耕一はせつなげにかぶりをふり、とうとう両手は千鶴の頭皮に指を立ててしまった。ペニスはもはや勃起しきりで、強くへそに反り返らんとビクンビクン震えている。

「はっ、早くしゃぶって…!千鶴さん、ちんぽしゃぶってっ…!」

「ご、ごめんなさい…じゃあ、お預けはここまで…おしゃぶり、しますね?」

「はやくっ!はやくしてよっ!中途半端で出しちゃうの、イヤだよっ!」

 耕一はとうとう理性の息の根を止めてしまったらしく、恥も外聞もかなぐり捨てて千鶴におねだりした。千鶴もその悲痛なまでの声に憐憫の気持ちを抱き、焦らし抜いたことに対して思わず詫びてしまう。

 千鶴はもう一度耕一のペニスと相対すると、これから自分がしようとしていることの恥ずかしさにあらためて頬を染めた。緊張の余り、ごくん、と生唾まで飲んでしまうほどだ。

 なにしろ、勃起した男性器を頬張ろうというのだから…。しかも想いを寄せている耕一の大きなものを…。

 羞恥心もさることながら、なんともいえず不思議な気持ちがあった。幼い頃から見知っている、それこそ弟のような存在でもあった耕一と、まさか男女の関係を持つことになってしまうなんて…。

 とにかく、耕一さんを楽にしてあげなければ…。それに、命まで絶たずとも耕一さんを異常性欲から解き放つ術は必ずあるはず…。

 千鶴はそう自分に言い聞かせると、躊躇いを意識の奥底に封じ込めた。微かにあごを震わせながらゆっくりと、かつ、できるだけ大きく口を開き…

…かぷっ…もぐ、みょぐっ…ぢゅ、もぐっ…

 歯を立てたりしないよう細心の注意を払いつつ、千鶴はその小さな口いっぱいに耕一のペニスを受け入れていった。パンパンに膨れ上がった先端は予想外に大きく、舌や口蓋が圧迫されるとどうにも息苦しくなってしまう。

…すごい大っきい…!まだ…まだあるの…?つらい、つらい…けどっ…

あか、はか…もごもぐ…のぐ、ほぐっ…ひゅぢゅっ…

 それでも千鶴は、どうにかこうにか喉の入り口付近までペニスを頬張ることに成功した。だらしなくよだれをこぼさないよう、必死で逸り水ごとすすり上げたりもする。

「あっ、ああっ…千鶴さんの舌、ムチャクチャ柔らかい…!ぐにゅってなってて、あったかくって、狭くって…そ、そうっ…唇、きゅって、すぼめてっ…!」

「んん…んか、んかっ…はか、ほか…んむむっ…」

 むしゃぶりついてもらった感触に酔いしれている耕一に対し、唇の端から息苦しそうに外気を取り入れる千鶴はなんとも痛ましい。

 身じろぎして先端が喉の奥を突くたびに、千鶴はたまらなくむせ返りそうになるのだが…それも耕一のため、と必死に耐えた。少しでも早く慣れるよう頬張りきった体勢をしばらく維持し、それでようやく鼻でも呼吸ができることを思い出す。

「すぅ、すぅ、すぅ…う、ううっ…」

「嬉しいよ、千鶴さん…!千鶴さんが、オレのちんぽ…喉の奥まで、頬張ってくれてるなんて…。ね、オレの方、見てよ…。」

「ん…んん…?」

「そうそう…ああっ、かわいいよ、千鶴さん…!もうたまんないっ!」

 今の千鶴は、あぐらをかいた耕一の前でひざまずき、彼の股間を覗き込むようにしてペニスを頬張っている格好だ。頬は羞恥で燃えるように赤らみ、両目は苦しさの余りにしっとりと潤んでいる。

 そんな千鶴が上目遣いに見上げてくるのだ。その表情は苦悶によるものではあるが、まるで強く発情し、媚びているようにも見えなくはない。情欲の虜になった耕一が錯覚して歓喜する気持ちもわかってやってほしい。

「ちっ、千鶴さん…お願い、そのままフェラチオしてよ…オレの顔見ながら…おっきく、頭を振ってみて…」

「ん、んんんっ…」

かぼっ、こぼっ…ちゅぽ、ねぼ、ねぼっ…

 耕一に言われるまま、千鶴は上目遣いに彼を見つめながらゆっくりと頭を前後した。右手の指先でペニスの根本を摘み、左手で袋を丁寧に揉む。

 舌の上に乗せて長く、深くしごくたび…狭い口の中に渋い逸り水が拡がった。何度か動いては鼻で呼吸し、口いっぱいに溜まってきた唾液と逸り水を飲み干して、また一生懸命に頭を振る。ふわふわ揺れていた前髪も、次第に汗ばんだ額にくっつくようになってきた。

「いいよぉ…千鶴さん、最高っ…!」

「ふぅ、ふぅ…ん、んんっ…ん…」

 陶酔の眼差しで千鶴を見下ろしながら、耕一は指先で彼女の前髪を額から退かせた。甘えんぼそうな瞳は変わることなく耕一を見上げ続けている。

くちょっぷ、ちょぷ、にょぐ、にょぐっ…

 千鶴はさらに耕一の反応を確かめるよう、小首を傾げるようにして角度を付けてみた。狭い口中にありながら、ざらざらする舌を窮屈そうにくねらせてもみる。ヌルヌルと逸り水にまみれた先端を舐め回すと、耕一は唇を噛み締めて押し寄せる快感に抗った。

「す、すごいや千鶴さん…なんでも、上手にこなしちゃうんだね…。も、もう、出ちゃいそうだよ…!千鶴さん、あんまりかわいいから…オレ、すぐに終わっちゃう…!」

「ん、ん、ん…んふ、ふんっ…」

 まさに絶頂感はすぐそこまで来ているのであろう。耕一はすっかり上擦った声で、息も絶え絶えにそこまで告げた。両手はさりげなく千鶴のうなじに忍び込み、彼女を逃さないように心持ち押さえつけてくる。

 そんな無言の求めを、千鶴は承諾するように…そっと両手を耕一の腰へ伸ばした。引き締まっている尻に指を立てながら、なお一層早く頭を振る。文字通りのオーラルセックスであった。

ちゅぼっ、ねぼっ、ちゅぼっ…ちょぶ、ちょぶっ…

 頬をすぼめながら、一心不乱にペニスを愛撫する。舌の上を滑らせ、喉の奥に衝突させ、唇で幹を締めつけた。間断なく漏出される逸り水は唾液と混じり、舌はもちろん口内すべてをヌメヌメとさせており、もうすでに膣内に潜り込んでいるかのような錯覚を覚えるほどである。

ぬみむ…ひゅぢゅ、ちゅちゅっ…くにくに、くにくにっ…

 そんな逸り水が唇の端から漏れそうになると、千鶴は亀頭だけを口に含むよう頭を引き、舌先で先端を刺激しながら喉を鳴らして飲み干した。グラインドが中断したことを詫びるため、すぼめた唇でくびれを刺激してやることも忘れない。

 そして、呼吸を整えてから再びペニスを深く頬張り、淫らなほどにしゃぶり、射精を急かすよう積極的に頭を振る。その間ももちろん上目遣いは止めない。汗ばみ、ぽおっと赤くなっている様は…まさに発情している女性のものに相違なかった。

 そんなしぐさをつぶさに観察していた耕一が、ジクン…という鈍い射精欲に打ち震えたのはその瞬間であった。千鶴のきめ細かな愛撫と、とろけそうな表情は…彼の我慢をついに無力化してしまう。

「ちっ、千鶴さんっ、出るよっ!おっ、お願い…飲んで、飲んでよっ!約束だよっ!」

「ん、んんっ…んー、んーっ…!」

 耕一の両手に力がこもり、千鶴の頭を引き寄せてペニスの先端を喉に押しつけてきても…千鶴は苦悶の表情ひとつ浮かべることなく、真っ直ぐに耕一の瞳を見つめた。最後の最後まで耕一に尽くそうと、ねちっこく舌をくねらせる。敏感な裏側を舐め、くびれをまんべんなくくすぐり、拡げて包み込むようにして…。

…ぞくっ。

 堰の決壊は一瞬であった。

「ちっ…うあっ、あああっ…!ちづるっ!ちづるうっ…!!」

びゅぷっ!!びゅうっ!びゅるっ!

「うくっ…!!くっ、くううっ…!!」

「んんんっ…んっ、んんっ…!!」

ドクンッ、ドクン、ドクン…

「ちづるさん…あっ、あああっ…すごいっ…!」

「ん…んん…」

 きゅっ、とおとがいを反らした耕一が従姉の名を呼び捨てた途端、ペニスは千鶴の口内で最後の膨張を見せ…思い切りよく爆ぜた。おびただしい量の精液が音立てて噴出し、たちまちのうちに千鶴の口中を満たしてゆく。舌の裏表や口蓋はもちろん、唇と歯茎の隙間にまでくまなく染みわたり…なんとも言えない不快な渋味が口内を占拠してしまった。

 健気にも、最後の最後まで上目遣いを止めなかった千鶴であったが…ドロリと粘つく精液の悪寒には身震いを禁じ得ず、とうとう両目をしばたかせて涙を一筋こぼした。そのまま目を伏せてしまうと、嘔吐感を堪えるために耕一の尻を強くわしづかむ。

「千鶴さん、約束でしょう…?飲んでよ…オレの精子、ぜんぶ飲んでっ…!」

 射精の余韻で悦に入りながらも、耕一は上擦った声でそう求めた。うなじに差し入れていた指を引き抜き、千鶴の火照った耳たぶを、ちょんちょん、と弾いて合図を送る。

 千鶴は鼻で深呼吸を繰り返していたが、耕一の求めに応えんと唇を精一杯すぼめて精液が漏れ出ないようにしながら…

ちゅ、ちゅちゅうっ…ちゅばっ…

と、ペニスを解放した。大量に放っておきながら、耕一のペニスは萎えることを知らないようで…唾液と精液にまみれながら、主のへそをペチン、と打ち据える。

 そして千鶴は…うつむき、きつく目を閉じると、

ご、くん…ごくん…ごくん…

 喉を鳴らし、数回に分けて生温い精液を飲み干していった。生々しく胃に流れ込むのを感じる頃には、たとえようもない精液独特の渋味は舌に強く染み込み、舌の根本にまでぬめりがまとわりついてしまう。

「…えうっ!えほっ、えほっ!!う、うううっ…」

 千鶴は嘔吐感に苛まれながら、口許を右手で押さえて激しくむせ返った。嗚咽混じりで唾液をこぼしそうになるが、それも慌てて舌ですくい、飲み込む。

…ペニスをしゃぶるだけじゃなく…耕一さんの精子…また、こんなにたくさん飲んでしまった…その間もずっと、顔を見られて…!

 過程と結果を振り返り、千鶴はすっかり恥じ入ってうつむいた。羞恥のあまりに気が触れそうなほどである。熱く火照る頬に、ぽろぽろぽろぽろ涙が止まってくれない。

 いかに想い人が相手とはいえ…想い人の望みとはいえ、はしたなく男性器に口づけを捧げ、あろうことか舐め上げ、口いっぱいに頬張り、しゃぶり…挙げ句の果てに精液を飲み干してしまうとは。最後まで拒むことなく淫行を繰り広げたことに自己嫌悪の情すら湧く。今朝方までの自分ではとうてい想像もできない姿である。

…まさか…わたしも耕一さんのように…エルクゥとしての性欲に憑かれ始めている…?

 ふと千鶴はそんな疑念を抱いた。件の文献には男性の例だけが書かれていたが…男性であろうと女性であろうと、エルクゥという狩猟民族であることにはなんら変わりがない。

 とすれば、異常性欲に憑かれるのも男性だけとは限らないのではないか。性欲は、性別を問わず生物に備わる三大欲求のひとつなのだから女性が淫乱に堕ちたとしても不思議はないはずだ。過去に前例がないというだけで、自分が最初の例になる可能性ももちろん存在するのである。

…わたしも…今の耕一さんみたいになるのかしら…。一晩中でも…いえ、それこそ朝も昼も夜も、夢中で交わり狂うようになるのかしら…。

 自分の知らない、もうひとつの自分が目覚めてしまうかも知れない。意識の制御下におくことができないとすれば、それはまさに脅威であった。自分が自分でなくなってしまう恐れ…。それはなまじっか、死という結果よりも質が悪いように思える。

 もしかしたらその結果で梓や楓、初音に迷惑をかけることになるかも知れない。妹達のみならず、鶴来屋の従業員達にも影響を及ぼすことになるだろう。そうなるくらいなら文献が物語るように、ひと思いに命の灯火を断ち切ってもらいたい…。

くにいっっ…。

「痛っ!」

「あっ、痛かったかい?千鶴さん…。」

「ひっ、ひぃあっ!あっ、耕一さんっ…!」

 ふいに、剥き出されたままの左胸の先端に鋭い痛みを感じ、千鶴は小さく悲鳴をあげた。

 千鶴が物思いにふけっている間に、耕一が密やかに伸ばした右手の指先は気取られることなく千鶴の左の乳首をつまみ上げることに成功していた。親指と中指で強くつまむと、千鶴は身をよじりながら小さく悲鳴を上げる。

「すごい気持ちよかったよ…ありがとう、千鶴さん…。フェラチオも、ホント上手だったよ…。だから、今度はオレがお返しに…千鶴さんを気持ちよくしてあげる。」

 射精の余韻からいまだ醒めやらぬ様子の耕一は…愛しげに目を細めると、今度は中指の先だけでゆっくりと乳首をこね回した。そっと押し倒し、淡い桃色の乳輪にそって押し転がす。

くにゅん、くりゅん、くにゅんっ…

「あっ…や、だ、だめっ…んっ、は、はぁ、はぁ…んぁうっ、んんっ…」

 小さなラムレーズンを指先で刺激されるたび、千鶴は顔をうつむかせた姿勢のままで少しずつ息を弾ませていった。耕一は空いている左手で再び千鶴の後頭部をゆっくりゆっくり撫でてみたが、長い髪の向こうはかなりの熱を孕んでおり、しっとりと汗ばんでいるのがわかる。指先でのささやかな愛撫ではあるが、それでも確実に千鶴の中の情欲を熱く熱く燃え上がらせているらしい。

ほよん…もにゅっ、もにゅっ、もにゅっ…

「あっ、ああんっ!やっ…ふんっ、ふうんっ!!」

「かわいい…千鶴さん、かわいいよ…千鶴さんっ…!」

「いや、いや、いやあっ…!あっ、あはっ!あふっ!」

 下向きにされ、幾分ボリュームを増している乳房をすくい上げるように揉まれると、千鶴はとうとう悩ましいよがり声を玄関に響かせた。自分でも驚き、慌てて声を潜めるものの…少なからず憧れていた耕一にそう言われると、胸の奥は理性を振り切って舞い上がり、ぶるるっ…と身震いまでしながら女の鳴き声をあげる。

…いけない…反応してる…わたし、本当に淫乱になっちゃう…!

 千鶴は先程の推測を思い出し、耕一の愛撫から逃れようと身体をひねったが…乳房はしっかりと耕一の右手に納められており、頭も左手で押さえられているため逃れようがなかった。

 そんな千鶴の焦燥にも気付くことなく、耕一は千鶴の乳房の感触を堪能して表情をほころばせる。汗ばんだ乳房を手の中で揉み転がし、女性特有の柔らかさを満喫した。

「こうやって下向きになると…千鶴さんの胸も揉み応えってのが出てくるね…。柔らかいよ…ふにょふにょしてて、いい気持ち…!」

「だめ、だめっ…声が出ちゃう…かっ、楓や、初音に聞かれちゃいますっ…!」

「大丈夫だよ…この家、すっごい大きいから…台所までなんて、聞こえっこないよ…。遠慮しないで、もっともっと声をあげてよ、千鶴さん…」

 耕一は右手をずらし、乳首を中指と薬指の間に挟み込みながら千鶴の乳房をすっぽりと包み込んでしまった。千鶴の乳房は耕一の手の平でまるまる納まってしまうほど慎ましやかであり、それでいて肌のきめ細かさは絶品であった。手応えだけでなく、さわさわと撫でるだけでも心地よい。

 すっぽり包み込んだまま、肋骨に押しつけるようこねくり回し…思い出してはモミモミと弾力を確かめる。目的を忘れて愛撫にふけりたくなるほど、千鶴の乳房は極上の手触りを秘めていた。

 また、もともと皮下脂肪が少なく、皮膚の肉厚が薄いこともあり…千鶴の鼓動は手の平に直接感じることができる。その鼓動は揉みこねるごとにどんどん早まってゆき…鼓動が示す興奮を具現して、乳首も耕一の指の間でムクッ、ムクッと大きくなってきた。耕一は乳房から手を離し、すっかりしこった乳首を再び指先で苛み始める。

「千鶴さん…乳首、立っちゃったね…。」

「はっ、恥ずかしいですぅ…!あんっ!あ、あんまりいじめないで…」

「…おっぱい、感じやすいの?千鶴さんの性感帯なんだ?」

コクン、コクン…

 耕一の意地悪な問いかけにも、千鶴は素直に頭を縦に振って答えてくれる。耕一は思わず嬉しくなり、ぽつぽつとしている小さめの乳輪を指先でなぞってやった。なぞりながらもしつこく乳首をひねり、こね回し、きゅんきゅん引っ張ってみると、

「あっ、ああっ…!あはああっ!!」

「千鶴さんっ…?」

 千鶴は声の限りに艶めかしくよがると、ガクガクガクッ…と腰を痙攣させた。スカートに包まれた丸い尻は、痙攣が納まってなおピクン、ピクン、と震えている。

「千鶴さん、どうしたの、今の…」

「なっ、なんでも…ありませんっ…」

 耕一の問いかけにも、千鶴は今度は素直に答えようとしてくれない。あれだけ特別な反応を示しておきながら、なんでもないはずがないというのに。

 怪訝に思いつつも、それとなく予想のついた耕一は…右手での愛撫を続けながら、かいぐりを続けていた左手で千鶴の背筋をつつつっ…となぞってみた。千鶴はたちまち、きゅっと背中をそらすようにして身じろぎする。

 サマースーツの背中をなぞりながら、指先の向かう先はひとつ…千鶴の尻であった。指先がスカートのウエストを越えた途端、耕一は左手を大きく拡げ、千鶴の尻をスカート越しに撫で回す。

さわわわっ…。

「ひっ、ひいいっ!!」

「千鶴さん…お尻も汗ばんでるね。スカートも熱くて…しっとりしてる。」

「あんっ!あん、あんんっ!!や、やぁ…きゃふっ!ふぁ、あんっ!!」

なでなで…なでなで…

 尻の丸い輪郭にそって手の平がずれるたび、千鶴はかぶりを振ってかわいく鳴く。撫で回すと見せかけて、さりげなく中指を尻の谷間に添わせると…千鶴は慌てて上体を起こし、耕一の手の平から逃れるよう、腰を前に突き出してしまった。あぐらをかいた耕一の前で裸の胸を晒し、膝立ちの状態になってしまったのだ。

 たくしあげられたブラの下で覗いている、形は良いが迫力に欠ける乳房も…うっすらと肋骨が浮くほど細くくびれたウエストも…それこそ、耕一の眼前で…

かああっ…。

 その体勢になっておいてから、千鶴は耕一を見下ろしつつ顔面をみるみるうちに紅潮させていった。照れくさくてならず、まばたきの回数も極端に増える。

「あ、あっ、あっ…あの、その…」

「ふふっ!久しぶりに千鶴さんの顔が見れた!ずっとうつむいてるんだもんなぁ。それに、千鶴さんのおっぱい…わ、すっかり赤くなってる!乳首も片っぽだけツンツンだ…!」

「だ、だめえっ!見ちゃだめえっ!!」

 耕一の無邪気な歓声に、千鶴は顔から湯気が出そうなほどに恥じらい、両手で胸元を隠してしまった。こんな気取りもない反応をされると、だらしない格好をしている自分だけがひどく恥ずかしく感じられてしまうのだ。

 しかし、耕一は千鶴の反応を見逃すことはなかった。プロのボクシング選手もかくやとばかりのアッパーカットよろしく、迅速で左手を千鶴のスカートの中に差し入れる。拡げた手の平でパンストごしの内ももをさすり、滑らかに手触りを確かめた。

さわわっ…。

「ひゃ、ひゃあっ!!ちょ、耕一さん、だめ!やめてくださいっ!!」

「すごい湿っぽいね、スカートの中…。パンストだって、もう汗びっしょりじゃないか…。」

 千鶴は慌てて膝を閉じたが、その動きは逆に耕一の左手を太ももの間に挟み込んでしまう結果となる。耕一は意に介する風でもなく右手を伸ばすと、さもそうすることが当たり前と言ったしぐさでスカートのファスナーを摘んだ。千鶴の許可もなしに、ずぃーっ…と音立てて下げきってしまう。

「こんなに湿っぽかったら…千鶴さんの太もも、あせもだらけになっちゃうよ?」

「だめっ、だめですっ!スカートは下げないで…!!」

「そうなの?千鶴さんって、服を着たままセックスするんだ?」

「そ、そうじゃなくってっ!!」

 何気なしにあしらわれる間に、スカートのホックは耕一の右手によって外されてしまう。コツン、という感触がウエストに伝わると、それに続いて筒状の着衣は、ストン、と引力に身を委ねてしまった。羞恥を堪えるよう、千鶴はきつく目を閉じてそっぽを向く。落ちてゆくスカートを引き留めようとしなかったのは、裸にされてしまう覚悟を決めてしまったからだ。

ほわっ…。

 スカートが膝立ちの足元にまで落ちると、確かに耕一が言ったとおりで、千鶴の脚の間からは湿っぽい熱気が柔らかく舞った。その熱気はパンストからも必要な熱を幾らかさらっていったようで、千鶴の太ももは汗に濡れたまま、ブルルッ…と震える。

「きれいな脚…。こうしてみると、千鶴さんってすごくスレンダーだね。胸から、ウエストから、お尻から…脚までずっと、ほっそりしてる。」

「…一部、褒め言葉になってませんっ!」

 耕一は抜き取った左手で千鶴の腰から太ももからを撫でさすりながら、悪気のない感嘆の気持ちを口にした。千鶴はそっぽを向きながら、口許をとがらせてみせる。

 実際、色気のないベージュのショーツに薄手のパンストのみをまとった千鶴の下肢は肉付きが薄く、普段からの外見通りに細身であった。少々やせ気味とも言えるだろう。これといったスポーツも嗜んでいないことから想像するに、鶴来屋の会長職というのも、これはこれで相当な激務であるのかも知れない。

 丸みは帯びているものの、お世辞にもグラマラスとは呼べない腰。

 ぴっちり膝を閉じたとしても、中央には余裕で隙間の生ずる太もも。

 過剰な筋肉の無い、柔軟そうなふくらはぎ。

 いまは向こうにされているが、きゅっと引き締まっている華奢な足首。

 耕一は陶酔するようにそれらを眺めると、両手でおもむろに千鶴の尻をわしづかんだ。丸くて柔らかな尻に指を立てつつ、強引に胸元へ抱き寄せる。

「こっ、耕一さんっ!なにを…!!」

「わかってるんだよ…さっき、腰をガクガクさせたのって…」

「やっ、離して!離してくださいっ!いやっ…!!」

「濡れちゃった…んでしょう?」

 耕一は鼻の頭の汗を拭いもせず、千鶴を見上げてそう問いただした。千鶴は左手だけで胸元をかばい、右手で耕一の手の平を追い払おうとしたままで硬直する。見下ろしている顔は、再び瞬間湯沸かし器よろしく燃え上がった。

 見抜かれている…。ばれてしまう…。

「いや…あ、それは…その、あ、ああっ…あうぅ…」

 千鶴は危機を悟り、しどろもどろになって両目を潤ませた。ここまで間近に腰を抱かれていては、耕一の指先が太ももの付け根に進入してくるのは時間の問題であろう。

 確かに先程…千鶴にとって、立派な性感帯の一つである乳首を耕一に強く愛撫され、ほのかに発情をきたしていたヴァギナを図らずも締め上げてしまったのだ。

 熱く、濡れてしまいそうな予感はとうに感じていたが…あの時の衝撃で情欲の雫は噴き出てしまったのである。興奮に膨れ上がった裂け目に添って、縦にショーツを濡らしているのは触ってみなくともわかるほどだ。ともすればストッキングにまで染み出ているかもしれない。

「どうしたの、千鶴さん…答えてよ…。濡れたの?違うの?」

「だめ…だめですぅ…!」

なでなで…なでなで…

 耕一はたくましい胸板に千鶴の下腹を引き寄せたまま、両手で彼女の尻をまんべんなく撫で回して問いかける。千鶴の尻は細身であれど丸くて形よく、ショーツやストッキングごしにでも手触りがよい。

 中指の先を滑らせ、尻の谷間で尾てい骨を探り当てると、耕一はその裏側にまで忍び込ませようとグリグリ力を込めてみせた。それでも千鶴はパタパタと右手を振り、耕一の意地悪を制止しようとあがくだけで質問には答えようとしない。

 答えられるはずもないのだ。もし濡れたことを認めてしまえば…そこからはズルズルと情欲に溺れてゆくに違いないからだ。そうなると、あとはもう件の文献にあるとおり…異常性欲に憑かれて廃人となってしまうだろう。

 もしそうでなくとも、耕一の情欲をすべて受け止めることを決心しているのだ。もはやロストヴァージンは覚悟の上だが、耕一とともに果てることなき淫欲にふけることになるのは間違いない。

「答えになってないよ…ね、どっちなの…?」

「いやっ、いやあっ…!お願い、ぐりぐり、もうやめて…!」

もんみゅっ、もんみゅっ、もみっ、もみっ…ぐりぃ、ぐりっ、ぐりっ…

 耕一はあくまで質問を止めようとせず、千鶴の口から答えが出されるのを待つつもりのようだ。返答を待つ間も、左手で尻の肉を下からすくい上げるように揉み、右手の中指で尾てい骨を執拗に苛み続ける。その意地悪に千鶴は相当堪えているらしく、尾てい骨の辺りはじっとりと汗ばんで熱を持ち、尻の谷間は繰り返し繰り返し、耕一の中指を挟み込んでくる。尻に、きゅんっ、きゅんっ、と力が込められている証拠だ。

「恥ずかしいのかな…?じゃあ…オレが直接、確認してみるね。」

「えっ…きゃ、きゃあっ!?」

 そう言うが早いか、耕一も千鶴に倣って床の上に膝立ちになった。戸惑う千鶴は、下にあった耕一の顔が突然上になったことで、慌てておとがいをそらして彼の動きに追随する。勢い良く上を向いた拍子に、こめかみの辺りから一筋、汗の粒が伝い落ちた。

 その上向いた頭を…耕一の両手がしっかりと押さえつけてくる。左手はうなじを包み込むように押さえ、右手は熱い頬を撫でて左耳に触れた。

 そして、真っ直ぐに視線が交差し合うと…千鶴は耕一からの熱っぽい眼差しにあてられたようになり、小さく唇を震わせる。唇はすっかり焦れきっており、自分でも驚くほどヒュクヒュク開閉して耕一に媚びた。

「…キスするよ、千鶴さん…。」

「…お願いします…キス、してください…。」

 耕一の言葉に、思いもしない言葉が口をついて出る。もはや身体はキスの虜になってしまったらしい。耕一と口づける感触が忘れられなくなっているようだ。自ずとまぶたを閉ざし、耕一から唇を奪ってくれるのを待つ。

…ちゅっ。

「…え?」

 口づけは一瞬であった。それも唇の先どうしが触れ合うだけという、キスと言うにはあまりにもあっけないものである。

 狂おしいまでに吸い付き合うことを想像していた千鶴は、思わず拍子抜けして…そして、その期待を裏切られた物足りなさで、小さく声をあげてしまった。両目をパチクリさせながら、目の前の想い人を見つめる。

「どうしたの?キスしたよ?」

「そ、そうなんですか…」

 すっかり淫らになっている自分を責めながら…そして、ウソをついたわけでもない耕一に逆恨みしながら、千鶴は心持ち憮然としてうつむいてしまった。すねるように唇を噛み締め、ぷい、と横を向いたりもする。

 それを見た耕一は、片手で千鶴の髪を背後に流してやりながら、剥き出しにされた真っ赤な右耳にもそっと唇を押し当てた。ピクン、と肩を跳ねさせる千鶴をそのままに、耳孔へそっとささやきかける。

「物足りないんでしょ?ホントはもっとねちっこい、とびきりえっちなキス…期待してたんでしょ?」

「ふぁうっ…ちっ、違いますっ!そんなわけ、ありませんっ!」

 耳孔に直接ささやきかけられ、千鶴はゾクゾクと二の腕に鳥肌を立ててしまう。否定の声に少し怒りの色が混ざるのは、膝立ちの耕一が再び強く勃起してきたペニスを千鶴のへそにグイグイ押し当ててきたためだ。当惑が千鶴の理性や意識を掻き乱し始める。

「じゃあさ、もう一回キスさせて…オレもホント言うと、物足りなかったんだ。」

「…あっ、あと一回だけですからねっ!」

 耕一のおねだりに、今度は強気に応じる千鶴。少し不満そうに眉を寄せながら、それでも顔を上げて唇をわずかに開く。耕一はあらためて千鶴の顔を押さえると、合図代わりに頬を撫でた。それで千鶴はすねた表情を霧散させ、甘えるように目元を和ませてから再び目を閉じる。

ちゅうっ…。

 今度は耕一は、ある程度の角度を付けて吸い付いてきてくれた。千鶴は思わず鼻を鳴らし、そっと耕一の背中に両手を回して長いキスに応じる。

ちゅちゅっ、ちゅちゅっ…

 唇の薄膜を擦り合わさず、同じ角度で重なり合ったまま、深く深く吸い付き合う。そのうちついばんでは離れ、ついばんでは離れ…二人の唾液が唇の隙間で細い糸を引くようになってきた。

ちむちむっ…ちゅちゅっ、ちゅぱっ…はぁ、はぁ…ちゅうっ…

 やがて、右へ左へ…重なる角度を何度も何度も変え、とりあえずのお気に入りの角度を探しにかかる。息が続かなくなっては離れ、息継ぎする間も互いを見つめたまま、やがてまた吸い付いて唇を納得いくまでたわませ合った。次第に隙間での濡れる音もボリュームを増してきて、下になっている千鶴の口の周りも少しずつ唾液にまみれてゆく。

ちろっ…ちゅろ、ちゅぴっ…ちゅぴ、ちゅ、にょぐっ…ちゅぢゅっ…

 短いキスを繰り返すうち、耕一の方から少しだけ舌を差し出し、千鶴の唇を舐めてきた。それを真似るよう千鶴も小さく舌を出し、耕一と突っつき合いを始める。

 ささやかなじゃれ合いの後で、しっとり濡れた赤い舌どうしが柔らかくコミュニケーションを計ると…二つの舌は意気投合したように重なり合い、そのまま交差するように互いの口内へと忍び込んだ。舌どうしの仲睦まじさを覆い隠すよう、そのまま唇も密着する。

 耕一も千鶴も互いの舌の感触に酔いしれ、夢中で口づけながら舌をくねらせ合った。舌の腹を摺り合わせ、裏側に忍び込み、唇をめくって歯茎をなぞり…そしてまたもつれさせ、絡め合わせる。

 ディープキスに味を占めてしまっては、もう恥も何もなくなってしまい…耕一も千鶴も鼻で息継ぎし、間断なく深い口づけを貪った。舌を潤す唾液も、発情した二人には区別無く分泌の量が増している。

「ちゅ、ちゅぱ…ちづるさん、飲んで…」

「はい、い、いただきます…ひゅぢゅ、ぢゅぢゅっ…ちょむっ…」

 わずかに唇を引き離してそうねだると、耕一は千鶴の唇に生温い唾液をゆっくりと流し込んだ。千鶴はこんなときにも礼儀正しく、そう告げてから唇を重ね、耕一から唾液を吸い出してゆく。ほのかに甘く、とろみがかった唾液は濃厚な精液と違って舌に優しい。千鶴は心地良い胸の高鳴りを感じながら、耕一からの唾液を半分ほど飲み干した。喉が、コクン…と小さく鳴る。

 そして千鶴は耕一と舌を絡ませながら、残り半分の唾液を自らのものと丁寧に攪拌させた。舌の裏に溜め、歯茎を巡らせてから舌の上にのせ、また舌下にこぼす。

「ちゅちゅっ…んっ、今度は、耕一さんも…飲んでください…」

「いいよ、ちょうだい…ちゅちゅうっ、ぢゅっ、ぢゅっ…」

 そうして精製した二人分の唾液を、今度は千鶴が耕一へと送り返す。拒むことなく、積極的に吸い出して飲み干してくれる耕一が、千鶴にはたまらなく嬉しい。

 そして、その歓喜の気持ちは…飲み干した唾液や精液といった発情の引き金と相俟って、焦れきっている千鶴のヴァギナを鈍くしびれさせてくる。ジクン、ジクン…と繰り返すせつないうずきは細い筒を何度もくねらせ、処女膜の奥から搾りたての愛液を滲ませてきた。もう間違いなくストッキングにまで素通っている。

ぴとっ…。

 ふと耕一の右手が千鶴の頬から離れると、その指先はまっすぐに下降し、彼女のへその穴に到達した。指先はそこからさらに柔肌をなぞって下降し…スルッ、とショーツの内側へと潜り込んだ。狼狽えた千鶴は目を見開き、やみつきになりかけているキスを自ら中断して叫ぶ。

「こっ、耕一さん、だめえっ!!そこはだめですうっ!!」

「そろそろいいでしょう?オレ、千鶴さんが濡れてるかどうか…直接確かめたいっ…!」

 

 

 

つづく。

 

 

 


(update 99/09/03)