■素麺とミニトマト■

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作・大場愁一郎さま


 

「そ、そんな…!!」

 耕一からの条件に、千鶴は愕然となって言葉を失う。

 それはつまり、性欲の前には人間としての尊厳すらも捨て去れということなのか。理性も倫理観も、何もかもを放棄してしまえということなのか。今の耕一のように…。

ぽろろっ…。

 下足箱に両手を突き、うつむいたままの千鶴の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 その涙は悔し涙であった。強い葛藤によるストレスを排出するための生理現象であった。

 耕一が愛しい。たまらなく愛しい。だからたとえ狂っているとしても、彼が満足できるまで愛し抜きたい。彼からの求めに対して全力で応えたい。

 しかし、理性は耕一からの恥辱を受け付けようとしない。むしろ道徳観や貞節は耕一を異端視し、忌避するよう意識に訴えかけてくる。これ以上彼のわがままに付き合えば、待っているのは破滅の二文字であることも千鶴自身薄々感じているのだ。

 それでもやはり…あの時、耕一の性欲を断ち切れなかったことは己の甘さ故ではなく、耕一への愛情のためだと信じたかった。想い人を自ら葬るくらいなら、二人して狂ってしまったほうがましだと信じたかった。こればかりはエゴイストとも、偽善者と罵られてもかまわなかった。

 そしてなにより…今の自分は耕一以上に焦れている。

 耕一とて、わざわざこんな戯れをふまえずとも犯したいままに犯したいはずなのだ。膣口にあてがわれたままのペニスは射精したそうにビクンビクンと跳ねているし、耕一の息づかいにしても切羽詰まった荒いものである。

 それから察するに、耕一も欲望に我慢を強いてさらなる狂気の扉を開け、真の桃源郷へ足を踏み入れようとしているに違いない。とあれば、彼以上に欲しがっている自分もそれに倣わなければ、これより先は永遠に与えられないし、得られないはずだ。

…そんなの、絶対にいや…!もっともっと、気が触れるほどに気持ちよくなりたいっ…!

「にゃあん…」

「え?」

 どれほどの膠着時間が過ぎたのだろう。

 実際の時間にしてみればほんの数分に過ぎないのであるが、二人にしてみれば途方もなく長い空白時間の果てに…千鶴はうつむいたまま、小さく一言つぶやいた。緊張の面持ちで千鶴からの反応を待ち侘びていた耕一であったが、千鶴の消え入りそうなその声にたちまち表情をほころばせてしまう。

「にゃん、にゃあん…にゃんにゃんっ、にゃんにゃんっ…!」

「ち、千鶴さんっ…!」

 問い直した耕一に対して千鶴は肩越しに振り返り、ぽおっ…と頬を染めながら何度も何度も猫の鳴き真似で耕一をせがんだ。真っ直ぐ耕一を見つめてくる両目はしっとりと涙で潤み、普段に輪をかけて甘えんぼなたれ目になっている。これ以上ないくらいに欲情しているせいで、媚び様も別格だ。

 千鶴はとうとう、発情期を迎えたメスネコに成り果ててしまった。耕一は感動の余り瞳一杯に涙を湛え…まぶしげに千鶴を見つめ返す。

「うっ、嬉しいよ、千鶴さん…!じゃあ、いいよ…オレ、絶対動かないで待ってるから…自分でお尻振って、ちんぽを欲張って…。」

「にゃ、にゃあん…にゃあん…」

「そ、そうだよ…そのまま真っ直ぐ、来て…。」

 耕一は下肢に力を込めると、千鶴を迎え入れるようにそっと彼女の尻に両手をかける。ペニスはその間少しも萎縮を示さず、膣口にあてがわれたまま逸り水を滲ませて再結合の瞬間を待っていた。

 やがて千鶴はそう鳴きながら、汗びっしょりとなった腰をゆっくりと耕一の方へと突き出していった。熱い先端が膣口を押し広げると、待ち焦がれていた悩ましい感触が腰いっぱいに拡がる。千鶴の背筋がゾクゾクゾクッ…と震えた。

ぬみ、むっ…ぬぢゅるるるっ、ぬるっ、るっ…こつんっ。

「あはうっ…!!う、ううっ…!いいっ、これ、これなのぉ…気持ちいいっ…!!」

「ん…ほら、千鶴さん、入っちゃったよ…?これからはオレ達、サカリの猫だからね?オレがズンズン突き上げたら、ちゃんと鳴くんだよ?」

「は、はい…じゃない、にゃんにゃんっ、ふにゃあんっ…!」

 自ら膣の最奥までペニスを受け入れた千鶴は、狂おしくかぶりを振りながら恍惚に打ち震える。耕一も千鶴の心地に陶酔してだらしない微笑を浮かべつつ、あらためて彼女の尻に指を立てた。しっかり指を立てて押さえないと、千鶴のとろけそうな膣はきつきつに締め上げてくるために身動きが困難になるのだ。

ぬみぶっ…ぬぢゅっ、ぬぢゅっ、ぬちゅっ…べたっ、べたっ、べたっ…

「あひっ!にゃっ、にゃんにゃんっ!ふぅんっ、う、ふにゃ、ふにゃあんっ…!!」

 背後から腰をぶつけるよう耕一が深いピストン運動を繰り出してくるたび、千鶴は激しく身悶えしながら言いつけどおりに鳴いた。中枢を直接真下から刺激されるような感触に、千鶴は思わず下足箱に爪を立ててしまう。数回ほど突き上げられただけでも、もう千鶴の両脚はガクガクと震えはじめ、膝が擦り寄せられてきた。

ぬとんっ、ぬとんっ、ぬとんっ…ぬるるるっ…ぬみちゅ、ぷちゅ、ぬぢゅ…

 耕一のペニスは軽快なリズムで、かつ多彩に動きを変えて千鶴をよがらせる。

 ストローク短く、しかし乱打するように子宮口だけを突き上げたり…かと思うと抜け出てしまいそうなほど引き抜き、処女膜の名残から浅めの所の襞を集中してくじったりした。しかも右から、左から…そして真っ直ぐに…。尻と下腹をぶつけて間抜けな音を立てさせながら、千鶴が感じる以上に感じようと、貪欲にピストン運動を繰り返す。激しい動きを潤滑させた愛液は白っぽく細かに泡立ち、クリトリスを越えて内ももに伝い落ちていった。もちろん耕一の袋にもねっとりとまとわりついている。

 耕一は感じたいままに千鶴を突き上げながら、ひょっと視線を落として自分達の結合部を見つめた。ひどく汗ばんだ千鶴の尻の谷間でペニスが出たり入ったりするたび…彼女の膣口は柔軟に動いて押し込まれたり、めくり出されたりしている。細い華筒に突き込まれたペニスは千鶴の体熱と愛液で、もはやとろけてしまいそうなほどに気持ちいい。千鶴とひとつになっている、という実感が次第に強くなってきた。融合しているかのような一体感は、耕一と千鶴との素晴らしい相性があってこそ織りなされる夢心地なのだ。

「にゃんにゃん!あうっ、にゃ、にゃあんっ…にゃんにゃんっ!…あふっ、んんっ!!」

「…千鶴さんって、ホントえっちなまんこしてるよね…。オレの、半分ほど熔けちゃってるみたいに気持ちいいよ…。にゅぽにゅぽ粘ついて、きゅんきゅん締まって…!」

「ああっ!こっ、耕一さんずるいっ!!わたしにだけにゃんにゃん言わせて、自分は一回も言ってないじゃないですかっ!!」

「へへへ、猫の真似の時間はとっくに終わってたんだけど?」

「ひ、ひどいっ…!!これじゃわたし、馬鹿みたいっ…!!」

 悪戯っぽく笑ってあしらう耕一に千鶴は耳まで真っ赤になり、すっかり泣きベソになってうなだれてしまった。夢中で調子を合わせていた姿にひどく自己嫌悪してしまう。

きゅきゅっ、きゅきゅんっ…

 それでも身体は交尾の悦びにすっかり味を占めてしまったらしく、恥じらえば恥じらうだけヴァギナは耕一をきつく締め上げ、その具体的な形を深く触感させてくる。強くくびれたペニスが狭まった膣を往復し、襞のひとつひとつを細やかにくすぐりながら深奥を強打してくるたび、千鶴は脊髄まで溶けだしそうなほどの法悦に酔いしれた。締め上げれば締め上げるだけ、胸の奥の内圧も急激に高まってゆくのである。

「千鶴さん…いっ、いいよ…すごい気持ちいいっ…。オレの精子、欲しがってるみたいに…まんこ、ぎゅうって握り込んできてっ…!」

「いっ、意識してないんですっ!かっ、あくっ!!か、身体が…勝手に…」

「勝手に…オレのちんぽ、欲張っちゃうんだ?行き止まりを何度も突き上げて欲しいから…行き止まりを突き破って欲しいから、すっかりちんぽ好きになっちゃうんだね…?」

「へっ、変なこと言わないで…!!あっ、やだ…また締まっちゃう…!え、えっちに思われちゃうのに…!!」

 つんっ…と上向き加減な千鶴の尻をわしづかんだままの耕一は、彼女からの驚くほどの締め付け具合に感動してしまい、恥知らず極まりない独語を禁じ得ない。

 千鶴の膣口を目一杯押し広げて食い込んでいるペニスは二人の愛液で程良く潤滑しているものの、奥の奥ははちきれそうなくらいにパンパンとなっている亀頭を柔らかくくるんできて、まるでピストン運動すらも阻もうとしているかのようなのだ。

 そこを無理に…それこそ、深々と没入させるときには千鶴の尻をしっかりと押さえつけ、引き抜くときにはその尻を突っぱねるようにして強引にグラインドすると、交尾の実感がペニスいっぱいに満ち、射精欲がさらにさらに募ってくるのである。そんな努力による疲労感も耕一を悦びで身震いさせてしまう。射精欲を堪えるために肛門を締め続けているのだが、そのために引き締まった尻もすっかり汗ばんでベトベトだ。

「ふふふっ…じゃあ、千鶴さんの大好きな奥ばっかり、してあげる…。」

「だ、だめ…奥ばっかりされちゃ…わたし、どんなになるか、わからないっ…!」

 千鶴の汗ばんだ尻をゆっくり撫で回してから、耕一はあらためてその柔肌を真上からつかみ直した。指の跡が赤く残る尻をわしづかまれるだけで、千鶴は途方もない法悦の訪れを予感し、振り返った顔を怯えでフルフルさせる。汗で額に貼り付いた前髪の向こうで、甘えんぼなたれ目がウルウル揺らいでいるところもたまらなくかわいい。

「大丈夫だよ…きっと、気持ちいいって感じだけになれるはずだから…。だって千鶴さん、もうオレの膝までびちょびちょにするくらい濡れてるんだもんね…。さ、いくよぉ…」

「だめえ…狂っちゃう…はっ、発狂しちゃうっ!!」

 拒む泣き声をあげながらも、発情に冒された千鶴の身体はどこかで期待してしまうのか、ほっそりした両脚に力を込め、ついっ…とつま先立ちになって腰を高く上げる。下足箱に手を突き、膝を擦り合わせながらつま先立って尻を突き出す千鶴は、すでに普段の彼女とは別人であった。もはや発情期を迎えたメスネコ以上に交尾をせがむようになっている。性の悦びは千鶴を捕らえ、彼女を確実に狂わせていた。

 そんな千鶴に応えてやるよう、耕一は指先で彼女の前髪を退かしてから最後のグラインドに備え、きゅっと唇を噛み締めた。このまま最後まで駆け抜ける覚悟なのである。射精欲はもうセックスを楽しむ余裕すらも認めてくれないところまで募っているのだ。

 千鶴を狂うだけ狂わせて…それから、心ゆくまで爆ぜまくりたい…。

 そう心中につぶやきかけると、耕一はゆっくりとペニスを引き抜いて行き…抜け出てしまう直前から、一息に千鶴の深奥を突き上げた。発情で歯止めの利かない暴走列車はとうとう最後のレールを走り出したのだ。

ぢゅとっ、ぬどっ、ぢゅとっ…べとん、ぺとん、ぺとんっ…

「うっ、うああっ!!あんっ、あんっ!あ、あはあっ!!おっ、奥っ!奥、いいっ!!」

「うわ…千鶴さん、ちっ、千鶴さんっ…!あんまりかわいい声で鳴くと、オレ…!!」

「いや、だめ、もっとおっ!!奥いっぱい、奥、もっともっといっぱいしてえっ!!」

「しっ、してあげたいけど…千鶴さん、すっごい声出すから、すっ、すぐに出ちゃう…!!ペース、狂っちゃうよっ…!!」

 千鶴は腰が爆発してしまいそうなほどの快感で激しくかぶりを振ると、すっかり焦点を喪失した両目から感涙を散らした。

 先端で子宮口を乱打し、下腹で尻を打ち据えてくる耕一のグラインドもまた強く、千鶴の両手はその動きを支えきれなくなり…思わず下足箱の角につかまっていた両手を滑らせ、下足箱の上に突っ伏してしまう。突っ伏した弾みで左手が一輪挿しを弾き、生けられた桔梗ごと三和土へと叩き落としてしまった。シンプルな一輪挿しは音立てて砕け、水が飛び散る。二人の衣類に始まり、一輪挿しが続いて…古い歴史を有する柏木家の玄関ではあるが、いまだかつてこれほどまで凄惨に散らかされた記憶はないだろう。

 そんなことを思いやれる風もなく、千鶴は下足箱に上体を委ね、尻だけを耕一に差し出す体勢となってしまった。なまじっか上着類は身につけたままというところが実に淫らに映るだろう。下足箱も長女のただれた姿に頭を抱えているに違いない。

 そんな千鶴にとどめをささんと、耕一は彼女の尻をつかむ両手に力を込め、芯からいじめ抜くくらいに強く腰を突き出していった。

ぬぶっ、ぬぷっ、ぢゅぬっ…べちっ、べちんっ、べちっ…ごとん、ごとん、ごとん…

「あふっ!あん、んあっ!!ひ、いいっ、いいっ…!!イキそ…イキそうっ…!!」

「千鶴さん…千鶴さんっ…!!」

 ペニスが狭いヴァギナを貫いて子宮口を打ち、下腹が尻を叩くたびに下足棚が音立てて揺れる。耕一は感じたいままに千鶴を貫きまくり、ぬめって柔らか内壁を蹂躙して射精欲を限界まで募らせた。勃起しきりのペニスで興奮の血がたぎり、これ以上ないほどに長く、太く、固くなってゆく。

 千鶴も再びエクスタシーに登り詰めそうなのか、徐々にヴァギナをきつくしてきた。愛液でぬめりっぱなしのクリトリスは直接愛撫されなくとも萎縮を極め、包皮の下に縮こまっている。腰はガクガクと痙攣しどおしであり、その身悶えに合わせて吐息も不規則になってきた。下足棚に頬摺りするよう顔を押さえつけながら、興奮で分泌の増している唾液をこぼれるがままにしてよがり鳴く。

「こっ、耕一さんっ!耕一さんっ…!!あっ、だめ、だめえっ!!もうイク!イクのっ!!わ、わたし、またイッちゃうっ!!はっ、初めてなのに、イッちゃうっ…!!」

「ちっ、千鶴さん…いいよね、出すよ?このまま中に…ちっ、千鶴さんの中にっ…!!」

「ええ、お願いっ、お願いします…!わたしもこのままイきたいから、耕一さんの精子、遠慮なさらず…いっぱい、いっぱい出してくださいっ!双子ができちゃうくらい、出せるだけ、いっぱいっ…!!」

「よぉし、じゃあ出すよっ!思いっきり出すからねっ!?」

 二人は無我夢中で叫び合うと、それぞれ最後の瞬間を迎えるために少しずつ体勢を整えた。

 千鶴は最後の最後までセックスに参加する意志を固めているらしく、必死につま先立って耕一との繋がり具合を深めようとした。左手は下足箱にしがみつくよう、そっとその端をつかむ。

 耕一は両手を千鶴の尻から離し、下足箱に肘を突くようにしながら彼女の乳房を包み込んだ。しっかと握り込むように何度か揉み直し、乳首を指の間に挟み込んで落ち着ける。

 そこまで体勢を整えると、もはや暴走列車は躊躇い無く理性のバリケードを突破した。耕一は重そうに垂れ下がった袋を股間で乱舞させつつ、太々としたペニスで千鶴の小さな膣口を貫き、膣内を摩擦で灼熱させる。

ぶちょ、ぬちょ、ぬぢゅっ、にちっ、ぬぢっ、ぬちっ…

 ぬかるむ音はいよいよ増し、ペニスは襞に細かく愛撫され、また襞はペニスにひとつ残らずくじり抜かれ…二人して怖いほどの法悦に魅せられてゆく。欲しいから動き、欲しいから求め、高まり合って…腰から中枢へ泣き出したいほどの愉悦が殺到し、二人は折り重なりながら同時に鳴いた。耕一も千鶴もせつなく声を上擦らせ、玄関の引き戸を微震させる。

「ちっ、千鶴さんっ!千鶴さんっ…!!出るよっ…出るっ、出るうっ…!!」

「こっ、耕一さんっ!来ちゃう!来ちゃううっ!!わ、わたしっ…!!」

 その瞬間、ぼっ…と千鶴の深奥が灼けた。子宮に突き入れるほど先端をグリグリと押し込んでいた耕一のペニスも、それに合わせて熱く熔ける。

「ちっ、千鶴っ…ちづるっ、イクッ…!!」

「イッ、イクッ!!イクうっ…!!イッ、あっ…あはあああっ!!」

ドクンッ!!

「うあっ…!!」

「あっ、熱っ…!!」

びゅるるっ!びゅびゅうっ!びゅっ!びゅっ!

「出るう…!!あっ、くあぁ…で、出るうっ…!!」

「あふ、あふ、あふっ…うあっ、熱いっ、熱いっ…!!」

ドクン、ドクン、ドクン…どく、どくっ…

「はあ、はあ、はあ…あ、ふぁ…ちづる、さん…」

「ふう、ふう、ふう…ひぅっ…ん…んんっ…ふぁ、ふぁあ…」

 計ったかのように一瞬違わず、奇跡に近い同時のエクスタシー…。

 千鶴も耕一も意識が綯い交ぜになってしまったかのように、まったく同じ閃光の中へと堕ちていった。暴走列車はとうとうスピードを緩めることなく、絶頂をダイブしてしまったのだ。

 ありとあらゆる快感が千鶴への愛しさにすり替わったとき、耕一はペニスの根本を力強く脈打たせ、ありったけの精を千鶴の深奥に噴出させていた。ひどく粘つく濃厚な精液は千鶴の子宮口を撃ち、熱々のままで膣に染みわたり、襞の隙間ひとつひとつに浸透してゆく。

 また、その量も驚くほどであり、脈動して噴出するたびに失神しそうな絶頂感が耕一を包み込むのだが…いつまで経っても射精は止まってくれない。このままでは脳幹がだめになってしまいそうである。

 それだけ、耕一は今までに経験したことのない絶頂感を得たのだ。射精による達成感、充足感がこれほどまでに大きかったことは覚えがない。これも千鶴との相性が最高であったためもあろう。一人ではなく、二人で高め合うセックスによるエクスタシーには、マスターベーションでの快感ではとうてい及ぶはずもない。パートナーが最高の相手であればこそ訪れることのできる境地が…まさに今、浸っている恍惚なのだ。

 また、長い間射精を焦らされ、我慢に我慢を強いた果ての解放であったことも…至高の絶頂に辿り着けた理由のひとつであるに違いない。

 悔し涙が滲むほど射精欲を抗い抜き、そして、感じたいがままに交わって躊躇いひとつ無く爆ぜる…。これはもはや本能や欲望を逆手に取った、一種のハイヤーセルフとも呼べるだろう。耕一は貪欲なまでに快感を欲し、その結果、至上のゆりかごにその身を委ねることができたのだ。

 事実、耕一は千鶴の背中にのしかかったまま、安らぐように目を閉じて荒い呼吸を繰り返している。深々とヴァギナに食い込んだペニスはいまだ抜き取られることなく、終わり水すらも注ぎ込むようビクン…ビクン…と物憂げに痙攣を繰り返しているほどだ。

 射精の反動で感覚の鈍ったペニスは、精液と愛液のるつぼの中で熔け去ってしまったかのように心地良い。その甘やかな余韻は、胸いっぱいに千鶴への愛しさをこみ上げさせてきた。

ちゅっ…。

 耕一はうっとりとした表情で頬を染めながら、ゆっくりと千鶴の黒髪に口づける。しばらくの間は…正直に言えば今夜一晩、このままの体勢でいさせてほしかった。胸は暖かさで満ちあふれ、陶酔の吐息を何度吐き出しても冷める様子がない。

 そして、千鶴もまた…耕一にゆったりとのしかかられ、その重みを感じながらゆっくりと深呼吸を繰り返していた。乳房をわしづかんでいる耕一の手の平はすっかり汗ばみ熱かったが、それほどの不快感も感じない。

 今はなにより、初めてのセックスでエクスタシーにまで登り詰めたことが驚きでもあり、また感動であった。破瓜の痛みなど、とっくのとうに過去のものと成り果てている。

 身体中がくまなく…それこそとびきりの性感帯である膣はもちろん、発育不足ぎみの乳房や尻をはじめ、まつげや爪の先に至るまでが法悦一色に染まったようだ。熱帯夜以上に熱くてならず、どんどん汗の粒が柔肌に浮かぶのだが…それでも不快指数は意外なほどに小さいようで、どちらかといえば嬉しくて微笑が浮かぶほどに気持ちがいい。これは、繋がったままのエクスタシーが、一人で慰めたときのものよりも遙かに持続性があるためだ。

 しかも、今回は初体験にして膣内射精…。避妊もなにも考えない、紛れもない本物のセックスだったのだ。

 ひきつるように膣が収縮した瞬間、千鶴は確かに耕一が射精するのを体奥で感じた。二度、三度と繰り返して精を噴出し、子宮口に浴びせられた時の灼けるような熱い感触はエクスタシーの余韻で惚けている意識下でも鮮明に思い出すことができる。エクスタシーを覚え続けているかのように狭まったままの膣は、大量に射精してなお抜け出ようとしない耕一のペニスを欲張ったままで離そうとしない。確実に受精するまで、このまま離さないつもりなのだろう。

「…こういち、さん…」

「ん…千鶴さん、どうだった…?気持ち、よかったかい?」

 千鶴の小さな呼び声に、耕一は上体を起こしつつそう問いかけた。乳房も解放し、振り返ってくる彼女の顔から髪を退け、頬を優しく撫でる。熱々の頬は柔らかく笑みをかたどっており、質問の答えを声で聞くまでもないように思えた。それくらい、エクスタシーに達した後の千鶴は耕一にとってかわいらしく映る。愛おしさはいや増すばかりだ。

「…ええ、とっても…信じられないくらい熱くって、気持ちよくって…。耕一さんも良かったですか?その…すごいいっぱい…出されたみたいですけど…」

「もちろんよかったよ…。千鶴さんとできて、死んでもいいくらいに幸せだ…。あっと、そろそろ抜くね…。こいつ、まだまだしたいってのかな?ぜんぜん萎えないよ…。」

「い、いいんですよ…?耕一さんがしたいんでしたら、わたしはいつでも、何回でも…」

「ううん…とりあえず満足できたから…少し休憩しよう?」

 勃起したままで萎えることを忘れたかのような自らの肉体に、思わず苦笑する耕一。千鶴はそんな彼を気遣うよう、それでも今さら思い出したように恥じらい、視線をそらしながら小声で申し出る。

 しかしながら今の耕一は、異常性欲がエクスタシーの余韻に飲み込まれている状態なのだ。千鶴が許す限り…ともすれば許可が無くとも交わりたい誘惑はあるが、さすがに立て続けて交わるにはそれなりの消耗もきたしているし、なにより千鶴がついてこれないだろう。やはり一緒に高めあってこそ、先程のような至高の恍惚感が得られるのだ。逸る気持ちだけで無駄撃ちはしたくない。

ぬぬっ…ぬみぶっ…ぬる、ぬるっ…ぬぽぶっ…。

「んんっ!」

「ふう…ザーメンとラブジュースで…ヌルヌルの、ねっとねとだぁ…。」

 異物がすべて引き抜かれると、千鶴は弾みで膣を締めつけてしまい、余韻の中で最後の鳴き声を響かせる。

 収縮を極めている千鶴の膣から抜け出ることは、先程同様容易いことではなかった。千鶴の尻を突っぱねるようにしながら腰を引き、どうにかこうにか密封状態から抜け出ると…例によって千鶴の締まりの良さを示す空気音が膣口から漏れ、それに続いて二人が全力で交わり抜いた証がトロトロと溢れこぼれてくる。とはいえ、それは耕一が盛大に放ったごくごく一部だ。避妊の効果など望めるはずもない。

 耕一はくつろいだ膣口と体液にまみれたペニスを交互に見つめ、陶酔するように嘆息した。放てるだけ放ってようやく満足できたらしく、あれだけ猛り狂っていたペニスはゆったりと強ばりを解いてくる。

 一方で千鶴は、耕一が完全に離れてなお下足箱にもたれかかったままであり、ぽおっ…と頬を染めて悦に入っている。イキッぱなしにも似た余韻は千鶴を心地よく脱力させたままなのだ。

 そんな千鶴の顔を、耕一がおじぎするようにして覗き込んできた。互いの熱い吐息が鼻先に感じられるくらいまで顔を近づけ、そっと耕一からささやきかける。

「千鶴さん…今夜、一緒に寝よう?一晩中、千鶴さんとセックスしていたい…。」

「…あんまり欲張って、飽きたりしないでくださいよ…?」

「そんなはずないよ…千鶴さん…」

ちゅっ…

 発情を、もはやありふれた生理現象のひとつとしてしまった耕一。

 そして、そんな彼の衝動をすべてその小さな身体で受け止めようとする千鶴。

 二人は恍惚としたまま、もう一度だけ唇を重ねた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

 


(update 99/09/03)