時に西暦2015年


使徒と呼ばれる謎の生命体の襲来により、


人類は危機を迎えました。


一切の物理攻撃を無効化する、ATフィールドを使いこなす使徒に対抗できる存在はただ一つ。


人類の切り札、人型汎用決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオンだけでした。


14歳の少年碇シンジは、エヴァを保有する特務機関ネルフの司令官でもある父親に呼ばれ、


望まぬままにエヴァに乗せられ、使徒と闘うことになりました。


彼は傷つき、逃げだし、苦しみながらも使徒を倒し続けました。


そんな生活もどうにか受け入れ、学校にも友人ができたころ、


彼の前に新たな仲間が現れたのです。


エヴァ弐号機と共にやってきた新しいパイロット。


少女の名は


惣流・アスカ・ラングレー


といいました。


彼と彼女は使徒を倒すため、同居し、協力したりしました。


しかし、彼らの思惑を越えたところで、現実は残酷な矛先を突きつけてきました。


少年と少女は、つらい現実の前に、憎み合い、激しく傷つけ合いました。


やがて人類保管計画が発動し、少年は数奇な選択の果て、


少女と二人きりで、黒い月の下、砂浜に投げ出されました。


少年は泣きながら、横たわる少女の首を絞めました。


僕を受け入れてくれないなら、いっそ・・・・


虚ろな瞳の少女の手がゆっくりと上がります。


そして少年の頬に彼女の手が当てられました。


「気持ち悪い・・・・」


少年の手が止まります。


彼には拒絶に聞こえました。


でも、それは違いました。


それは彼女の心の声でした。


全人類と心の共有が果たせなかったゆえの。


やがて少女は焦点のあった瞳で少年を見つめると、


ゆっくりと微笑みました。


少年は少女の身体にすがりつき、大声で泣き出しました。


・・・・・やがて、すべての人類と、元の世界が戻ってきました。


死んだと思われた人も皆生きている平和な世界。


少年と少女はその世界で、新たに恋の芽を育てました。


今度は傷つかないよう、大事に、大事に・・・・。


時には喧嘩もすることもあったけど、彼らは強い絆で結ばれてました。


エヴァがもたらした幾つもの悲劇の中にあって、


その絆は唯一の幸運であったのかも知れません。


時は満ち西暦2021年。


彼らはついに結ばれました。


惣流・アスカ・ラングレーは碇アスカとなり、

 
碇シンジの奥様となりました。


そして西暦2022年。


幸せな生活は少しだけ形を変えました。


アスカ奥様は一年前と装いを変えてました。


なんと、


奥様は妊婦になったのです。


いまから語るのは、そんなちょっとおかしな幸せなおはなし・・・・。



















へっぽこエヴァ劇場
                

アスカ腹(あすかばら)D”


























「ちょっと聞いてよ。ヒカリ〜」


鈴原トウジとヒカリの愛の巣は、今日も碇アスカの襲撃を受けていた。


「また? 今度はなんなのよ。だいたい、そんな大きなお腹して出歩かないの! 」


アスカを迎えたヒカリは、呆れたように叱責を飛ばす。


「だって〜」


拗ねた顔をするアスカ。


「話なら電話で済むでしょ! まったく・・・・」


「さみしーんだもん」


「葛城、じゃなくて、加持さんも同じマンションにいるじゃない」


旧姓葛城ミサトも、おそばせながら三ヶ月ほど前、加持リョウジと結婚していた。


アスカたちの結婚式に触発されたであろうことは、想像に難くない。


「二人とも昨日から出張だって」


その言葉に、ヒカリは訝しげに眉を寄せる。


今のアスカは、使徒並に持て余す存在になっている。


出張は方便で、実際は匙を投げたのかも知れない。


親友といえども、いい加減ヒカリも閉口していた。


鈴原トウジと結婚したことにより専業主婦になったわけだが、 妊娠はその兆候すらみせない。


この歳で家庭に籠もるのも何なので、 就職先を探してはいるのだが、そういう時に限って手頃な職場が見つからない。


必然的にアスカの襲来先に指定されていた。


まるで使徒を迎え撃つ、あの当時の第三新東京市のようである。


差詰めヒカリは、対アスカ作戦本部長兼司令官といったところか。


「ほら、腰を冷やしちゃ駄目でしょ。とっと上がりなさい!」


とりあえずアスカを迎え入れる。


玄関先でサード・インパクトでも起こされた日にはたまったものではない。


「お邪魔しまーす!」


嬉々として鈴原邸に乗り込んだアスカは、指定席とばかりに花柄のコタツに潜り込む。


アスカがコタツに入ったのを見届けたヒカリは、キッチンへと向かう。


戻ってきた彼女の手には、お茶道具一式があった。


ここらへんの優しさが、彼女の彼女たる所以である。


裏を返せばそれがアスカを増長させているのだが。


「で? 碇くんがまた何かしたの?」


「ぞぶざぞよ、ビガリ〜」


勧められてもいないのに、卓上にあった蜜柑を頬張っているアスカ。


「食べながらしゃべらないでよ・・・・」


手際よく紅茶を煎れるヒカリ。


「しょうがないじゃない、妊婦はお腹が空くのよ。あ、ミルクはたっぷりね」


蜜柑を飲み下してアスカ。


ヒカリは、やれやれといった表情で、アスカの前にカップと菓子鉢を差し出す。


アスカはお茶菓子を頬張ると紅茶を一気に飲み干す。


そうしてようやく落ち着いたらしく、満足気な溜め息と共に盛大に口火を切った。


「あのバカシンジあたしが身重だと思ってあのファーストあってんのよしかも最近ちょっとかえり遅いし


そりゃ最近ご無沙汰だけどわたしもこんな身体だからしょうがないじゃないだからといって・・・・・」


機関銃のようにまくしたてるアスカ。


黙って紅茶をすすりながら聞き役に徹するヒカリ。


延々と一時間にも及ぶ独演会の最中、彼女がすることは、差し出される空のカップに紅茶を注ぐだけ。


ようやくアスカが喋り疲れたころに一言。


「で? 碇君は何ていってるの?」


そこでアスカはポッと頬を赤らめる。心なしか声をひそめて、


「『浮気なんかしてない。僕が愛しているのは君だけだよ、アスカ』だって・・・」


ヒカリの口に運んでいたコップが静かにソーサーに降ろされた。


その瞬間、ソーサーにピシッとヒビか入る。


『結局、ノロケに来ただけか〜いっ!』


ヒカリのこめかみが痙攣している。ここに至り、ようやく彼女の忍耐は限界を越えようとしていた。


アスカが産休に入ってから、ほぼ毎日のように電話責めと訪問を受け続けていたのである。

これだけでいかに彼女が忍耐強いかが知れよう。


「あんたねぇ、あたしも暇じゃないのよ! あたしも新婚なのよ。し・ん・こ・ん!


そこによくもまあ、毎日毎日! 妊娠して不安なのも分かるけど、こっちの身も持たないわ!」


とうとう爆発したヒカリに、一瞬きょとんとした表情を浮かべるアスカ。


だが、たちまちその青い瞳に水晶の粒が盛り上がる。


「びえーーん。ヒカリがいじめたー!」


泣きたいのはこっちだ、とヒカリは思った。


一般に妊婦は情緒不安定になるというが、アスカのそれは常軌を逸している。


希に幼児退行まで起こすのだ。


「あー、おねえちゃんが悪かったわ。ほら、アスカちゃん泣きやんで・・・・」


なおしゃくり上げるアスカの背を優しくさするヒカリ。


繰り返し述べるが、彼女は本当に優しい。


「ほら、鼻かんで・・・・」


されるがままに盛大な音を立て鼻をかむアスカ。


「ところで、アスカちゃん、携帯もってるかなー?」


涙を拭きながらヒカリに携帯を渡すアスカ。


「・・・どこにかけるの?」


「初号機を召還するのよ」


その声のなんと冷ややかなことよ。


「?」


不思議そうな眼差しを横目にヒカリは携帯を操作する。


アスカに背を向けて、メモリーの一番目、碇シンジの短縮ダイヤルを押す。


・・・おかけになった電話は、現在お客様の都合により、お繋ぎすることはできません・・・


通話スイッチを切り愚痴をこぼすヒカリ。


「まったく、碇くんたら、アスカほっといて何やってんだろ?」


振り返るとアスカがいない。


「・・・アスカ?」


アスカはキッチンにいた。


鍋に入っているシチューを勝手に盛りつけて食べている。


「あーーーーーっ、何やってんのよ、それは今晩の・・・・・!」



「あ、ヒカリ、ちょっと塩味たりないけど、なかなかいけるわよ、これ」


呑気に評価を下しては、とてつもない勢いで食べ続ける。


「そりゃ、まだ仕上げの味を整えてない・・・・って、もう、殆ど残ってないーーーーーっ!」


すさまじい勢いでアスカを胸倉を締め上げるヒカリ。


「それ、あたしたちの夕食よ!? あんたいったい何考えてんのよ!」


「だってお腹すいたんだもーん」


「だからってね・・・・!」


たちまちアスカの両眼に盛り上がる水滴。


「びえーーーーーーーーん」


「・・・・ああ、もう! 碇くんはつかまんないし、うちのヒョーロク玉は帰ってこないし、


いったいどうすりゃいいのよ!」


「びえーーーーーーーーん」


午後七時になろうとする鈴原家に、ヒカリの絶叫とアスカの泣き声がこだました。










「本当にいいの? トウジも新婚だろ、早く帰らなきゃ」


碇シンジは壁にかけられている時計に視線を投げかける。


時計の短針は七の文字を指そうとしていた。


「かまへんかまへん、あと一時間くらい大丈夫や」


そういって鈴原トウジはシンジのコップへとビールを注いだ。


今二人がいるのは駅前の居酒屋だ。


偶然仕事帰りに出会って、軽く一杯となった次第であった。


「こうやって、センセイと差し向かいで飲むのは、初めてやなぁ」


愉快そうにいうと、トウジは一気にビールをあおぐ。


「そうだね、結婚式の二次会、三次会なんて、お互いに記憶飛んじゃったからね」


シンジの時もトウジの時の結婚式も、主賓である彼らは死ぬほど飲まされ、初夜どころではなかった


という苦い思い出がある。


「しっかし、お互い所帯もったって感じ、せーへんよなぁ」


「そうだね・・・」


シンジも相づちを打つ。
 

実際彼らはまだ若い。この時代にしては早婚といってもいいような年齢である。


「そういや、惣流、やなかった、アスカの奴の予定日、いつや?」


「確か来月の末あたりかな?」


今でもアスカを惣流と呼んでしまうトウジの気持ちはよく分かる。


昔からアスカをアスカと呼べるのは、女友達を除いて、シンジただ一人だけだったのだから。


「あいつが、母親になるとはのぉ。産まれるのが女の子で、容姿があいつで、性格がセンセイやったら、


申し分ない美人になるな。ま、どっちに似ても別嬪間違いなしやろうけど」


何と答えていいか分からない表情のシンジ。いまだ父親の心情は理解しかねるものがある。

シンジもビールを一口飲み、トウジへと訊ねる。


「トウジたちは、子供、まだなの?」


トウジは焼き鳥の串を加えると天を仰ぐ。


「あかんな、せっせとはげんではおるんやが、全然や。相性が悪いわけないやろし・・・・

こればっかりは、天の授かりものっていうしな」


さりげなくノロケるトウジ。


「アスカは、トウジたちの子供と同級生になるように子供が欲しいっていってたけど」


「うーん、今回は無理そうや。センセイたちの二人目ん時に期待やな」


ひとしきり笑う二人。


「で、最近どうや? このあいだ、ケンスケも同じこと訊ねとったで」


「いや、どうっていわれても」


「大分アスカの奴に振り回されとるって、うちの女房がいっとったな」


「ああ、君の奥さんにも大分迷惑かけてるみたいで」


「いや、一番苦労しとんのは、やっぱ旦那やて」


アスカが産休をとってからのシンジの献身は、いっそ涙ぐましいものがある。
 

平日は、朝五時には起きて、アスカを起こさぬよう、静かに洗濯と掃除を行う。


その後、アスカ用の食事、朝食、10時用、昼食、3時用、夕食(純粋に夕方に食べる食事)を作る。


その頃になるとようやくアスカも目を醒ますため、二人で朝食を摂る。


出かける時間になってごねり始めるアスカをなだめすかして、ようやく自宅を出る。


次に、隣室の加持家に緊急の時はくれぐれも頼むとお願いし、やっと出社できるのである。

しかも出社したらしたで、ほぼ三十分起きに携帯に電話が入る。


さすがに仕事にならないので、仕事中の緊急の用件は加持家を通して行ってもらうようにしていた。


ちなみに、今もアスカからの携帯は繋がらないようにしてある。


トウジが、野暮なものは一時間くらい切っとき、といったからだ。


「うちのヒカリのやつも、『わたしも妊娠したとき、迷惑をかけるかもしれないから』って笑っとったわ。


センセイも、そない気にすることあらへん」


同時刻、ヒカリは前言撤回しているのだが、彼は知る由もない。


「そういってもらえると助かるよ」


シンジはトウジのコップにビールを注ぐ。


注ぎながらシンジは声をひそめた。


「それと・・・・、最近妙な視線を感じるんだよね」


「妙な視線?」


トウジは口に運ぼうとした手を止める。


「うん。誰かに見られてるような・・・」


「センセイの考えすぎとちゃうか?」


あっさりというトウジ。


「わしも、センセイも、もうエヴァに乗れないんじゃ。今更、監視されるわけないやろ?


それに、嫁さんと同じで、神経質になっとるんとちゃうか?」


「そう、だよね」


シンジは視線を降ろす。


サード・インパクトのあと、トウジの足もいつの間にか治っていた。


「それに、センセイ、親父さんと和解したんやろ? だったら、親父さんに頼んでみたらどうや。


なんたってネルフの司令官や。息子の周りに怪しい奴がいたら、全員パチキくらわしてくれるで」


「うーん」


確かにゲンドウはシンジたちの結婚式にも参列していた。


それを和解と見るかはともかくとして、いまだに苦手意識は拭えない。


「そうだね。いざとなったら頼んでみるよ」


「よっしゃ、後は細かいこと気にせず、飲も!」










ちなみに碇シンジ氏の洞察は当たっていた。


彼らは監視されていたのである。










黒塗りの車の中で、黒服に身を包んだ男が通信機と向かい合う。


『対象A、ポイント008−251地点に滞在中。周辺の警戒態勢はレベル3のまま維持しております』


「了解した。そのまま監視を続けたまえ」


ホットラインの報告を受ける執務室。


手を組んだお決まりのポーズで答えたのは、我らが碇ゲンドウ氏である。


サード・インパクト後、ネルフはその存在意義を否定されたが、エヴァンゲリオンとMAGIという


二大オーバーテクノロジーの所有を楯に国連にねじ込み、ちゃっかり公認組織となっている。

かといって使徒も襲来してこないので、具体的な仕事はエヴァとMAGIの管理のみ。


暇を持て余す職員を切り回すのは司令官の仕事。


というわけで、いまや特務機関ネルフは、完全にゲンドウの私物と化していた。(一部に、以前と変わらない、という意見もアリ)


妖しすぎる雰囲気の執務室の中で、ゲンドウの傍らに立つ初老の男がぽつりともらす。


「碇、彼女にこだわりすぎだな」


冬月の言葉にゲンドウの口元が歪んだ。










居酒屋で小一時間ほど飲み、店を出て携帯電話の非着信を解除した途端、


けたたましいコール音が辺りに響いた。しかもシンジとトウジのが同時に。


二人とも見事なユニゾンを見せ、耳に携帯をあてる。


「やっほー、シンジ。今ヒカリん家にいるの。迎えにきて〜ん」


シンジの携帯からは、妻の甘い声が。


「あ・な・た、連絡も入れずにどこをほっつき歩いてらっしゃるの?」


トウジの携帯から、完全に感情を排した新妻の声が。


お互いの携帯から聞こえる声に、二人は顔を見合わせる。


更にシンジの携帯には、アスカから携帯を取り上げたヒカリが出る。


「もしもし、碇くん? 早いこと、あなたのお嫁さんを引き取りにきてくれないかしら?」

その声の響きは、二人の男の帰路を急がせるのには十分すぎるものだった。




 





ネルフ司令官の執務室に新たな報告が響く。


『対象A滞在ポイントの付近に、ケース081が接近しつつあります。


このままでは対象が悪影響を被る可能性は大です。排除しますか?』


「無論だ。その為のネルフだ。反対する理由はどこにもない。存分にやりたまえ」


「碇・・・・」










「なんや、けったいなものが流行しだしたのぉ」


鈴原家へと急ぐシンジとトウジの傍らを、派手なテールランプを煌めかせた改造バイクの一団が走り抜けて行く。


「たしか暴走族とかいうんだっけ」


シンジが騒音に負けぬよう大きな声を出す。


この時代、暴走族など文字通り前世紀の遺物であった。


セカンド・インパクトの混乱の中、若者の意識から消え去ったはずである。


ところが、目まぐるしい文明の復興と、昨今のレトロブームの時流に乗り、復活を果たしたらしい。


「まったく五月蠅くてかなわんな。あ、わしの家のほうへ行くやないけ」


遠ざかるテールランプを眺めながら、トウジは苦い声をだした。










爆音を立てつつ第三新東京市を駆け抜ける一団。


彼らは新世代暴走集団「覇亜裏闇(ハーリアン)」と標榜していた。


今夜は旗揚げの爆走である。


目標は、第三新東京連合を組織し、全国縦断の大爆走。


非生産で、社会に貢献しない目標であったが、彼らは本気であった。


青春をかけても悔いはないと信じていた。


無論、一般人にとってハタ迷惑なだけの行為であることなど、彼らの理解の範疇にはない。
 

つつがなく予定進路を走破し、あとは住宅街を抜けた先の広場で解散である。


拍子抜けするほどに警察の妨害行為もなく、とてつもない達成感と興奮を胸に、


先頭を駆けるグループが、住宅街に足を踏み入れようとした時だった。


先頭を走っていた一台が不意に横転する。原因も分からぬままそれに巻き込まれる数台。


どうにかそのアクシデントを回避したものが、声を上げる暇もあらば、


彼ら一団の四方八方から、矢継ぎ早に近代兵器が襲いかかった。


スタン・ワイヤーロープ


粘着性捕獲ネット


指向性無力化ガス


パラライザー・ニードル


道路に死屍累々とばかりに横たわる暴走族の一団の傍らに、音もなく数台のトラックが停止する。


その荷台から飛び出してくるのは黒ずくめのエージェントたち。


彼らは黙々と動けない人間とバイクを荷台へと運び込む。


僅か数十秒で全ての接収を完了すると、トラックは暗闇へと消えていった。


最後に残った数人のエージェントが、道路の傷を補修し、壊れたバイクのパーツを丁寧に、


だが、素早く回収する。


それが済むと、そこは元の住宅街の一画にすぎなかった。










暴走族とすれ違ってて三分後のシンジとトウジの会話。


「あれ? 急に静かになったよ」


「あんだけ飛ばしとんのや。もう国道にでも出たんとちゃうか」









かくして新世代暴走族「覇亜裏闇」は、旗揚げした翌日に壊滅したのである。


彼らの想像もつかない理由によって・・・・・。









『排除、終了しました』


「ご苦労」


「・・・・騒音は母胎に障るからな」  









鈴原家に到着した二人を各々の妻が迎えた。


「おかえりなさ〜い」


アスカが満面の笑みを浮かべてシンジを迎える。


 本当はシンジに飛びつきたいのだが、この身体では不可能だ。


シンジもそれを察しているので、自らの身体を屈め、文字通り包むようにアスカを抱擁する。

ヒカリはやれやれといった表情で肩の力を抜いていた。


ご苦労さんとばかりにトウジがその細い肩へと手をかける。


なんだかんだといっても、この年齢でここまで以心伝心の可能な夫婦も珍しいだろう。


「ごめん、ヒカリさん。うちのアスカが迷惑かけたみたいで」


アスカの身体を離しながらシンジは謝る。


「ほら、アスカも迷惑かけたんだろ。謝りなさい」


「うん・・・ごめんね、ヒカリ」


「いいのよ・・・・」


ヒカリのその弱々しい微笑みをどう解釈していいものやら、一瞬シンジは迷った。


「でもね、碇くん」


ヒカリは、やおらシンジの肩を両手で抑えると、にっこり微笑んでいった。


「わたしもしょせん、人間よ?」


目は全く笑っていなかった。


シンジは、初めて使徒と対峙した時と、同種の戦慄を覚えた。










執務室は新たな訪問者を迎えていた。


「加持一尉、入ります」


そういって妖しげな空間に足を踏み入れたのは、精悍なイメージを漂わせた三十代後半の男だった。


ネルフの誇るトップエージェント、加持リョウジである。右手には頑丈そうなトランクが握られていた。


加持は、ゲンドウの前まで歩みよると、丁重な手つきでデスクの上にトランクを置く。


そして三重ものロックを解除すると、ゆっくりとトランクを開けた。


無言でトランクの中に手を差し入れるゲンドウ。


引き抜かれた白い手袋には、数枚の写真が握られていた。


モノクロのセロファン状になった写真。


見ようによっては第八使徒『サンダルフォン』の幼性体に見えなくもない。


「九ヶ月目になりますが、経過は順調です」


加持が執務室の奇妙な明かりの照り返しを受けながら報告する。


ゲンドウの傍らから冬月が写真をのぞき込む。


「これが、『碇家保管計画』の要・・・」


「そう、わたしの初孫(名前は未定)だよ」


ニヤリ。









                         To be continured?