オリジナル

■真夜中の出来事■

-9-

作・竹内 大成 さま


       18(終わる・・・)

 

 チュンチュン・・・。

 

 と、のどかな雀の声があたりに響く。

 そう、朝がやってきたのである。

 坂杉神社の境内の中も、かなり明るくなってきた。

「んっ、ふわあああああ・・・」

 と、大きなあくびをしながら亜紀は起き上がった。

 いつの間に着たのか、巫女さんの格好をしたままだ。

 目の下にはクマが出来ている。

「あれ、あたしこんな所で何してたんだっけ・・・?」

 亜紀は寝ぼけ眼になっている目を何度かこすりながら言った。

 何か重大なことがあったのだが、寝起きなのでよく思い出せない・・・。

「ん〜〜〜、何か重大な事があったような・・・無かったような・・・」

 亜紀は腕組みしながら考えてみたのだが、どうも思い出せない。

 ふと、亜紀は自分の手が何かを握りしめていることを気がついた。

 それは、クシャクシャに丸まった紙であった。

 亜紀はそのクシャクシャに丸まった紙を広げてみた。何かいろいろと文字が書かれている。

 急いで書いたのか、乱雑な文字であった。

 亜紀は、その紙を読んでみることにした。

 その紙には、こう書かれていた。

 

『亜紀へ

 おはよう、亜紀。よく眠れたかな?

 えっ、よく眠れてない? それは失礼しました(^m^;)

 今日は僕のわがままにつきあってくれてありがとう。

 おかげで良い思い出が出来たよ。

 ・・・けど、内心、僕は罪悪感だらけなんだ。

 あのとき、亜紀に苦しい思いをさせたり、辛い思いをさせたりしてごめんよ。

 ホントに・・・。

 おっと、長話している場合じゃないや、電車の時間に間に合わなくなっちゃうよ。

 僕は○○駅7:15発予定の列車に乗るつもりだから・・・。

 出来たらお見送りに来てちょうだい。

 最後に・・・ありがとう。           

 そして、さよなら。亜紀・・・。

 

                      竹内 大成より』

 

 亜紀が読み終わった時、その紙は濡れていた。

 そう、亜紀の流した涙で濡れたのだ。

「うっ、ううっ、大成・・・」

 亜紀は口から嗚咽を漏らした。

 そして、瞳からポタポタと涙を流し、紙をどんどん濡らしていった。

 今まで大成とつきあって来て、いろんな事があった。

 中学3年で初めての出会い、そしてキス、亜紀の家での初体験・・・。

 まるで走馬灯のように、亜紀の脳裏をよぎる。

 次の瞬間、亜紀が急に立ち上がった。

 そして、靴を履き、巫女さんの格好で○○駅へ走り出した。

 おい、亜紀。ブラジャー付け忘れてる!!( ̄口 ̄;)

 そんなことも構わずに、亜紀は猛然と走った。形の良い小さな胸が白衣の中で揺れる。

 亜紀は走って、走って、走りまくった。

(大成、まってて、今行くから!!)

 亜紀は心の中でそう、祈っていた。

 今の時刻は7:10。

 果たして、亜紀は間に合うのだろうか・・・?

 

 大成は駅の構内でじっと待っていた。

 そう、亜紀が来ると信じて・・・。

 しかし、時刻は刻々と過ぎていく。

 両親には、あとで追いつくと言って、先に行ってもらった。

 だが、待つ時間にも限度がある。

 もうこれ以上待ちきれないのだ。

『まもなく、2番線に○×行き、普通がまいります。白線の内側に・・・』

 ああ、もうすぐ電車が来てしまう・・・。

 大成は駅の改札口の方を見てみた。

 しかし、亜紀がいる様子はなかった。

 大成はしぶしぶ、立ち上がり、ホームへと歩いていった。

 その時、ちょうど普通列車が大成の視界に入った。

 大成は、再確認するために、もう1度、改札口やホームの方へ視線を逸らした。

 しかし、亜紀は見つからなかった。

 大成は「はあっ」と溜息をついて、うつむいてしまった・・・。

 ついに普通列車が、ホームに止まった。

 扉が開き、客が数人降りていった。

 そして、4〜5人の客がその電車に乗った。

 大成も、その客達につられる形で電車に乗っていった・・・。

 

       19(さよなら、大成・・・)

 

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」

 亜紀は肩で息をしながら走った。

 今の時刻は7:12。もうすぐ大成の乗った電車が発車してしまう。

「あっ!!」

 

 ドサッ!!

 

 亜紀は足のつま先をコンクリートの出っ張りに引っかけて、転んでしまった。

「いたたた・・・」

 亜紀の膝と顔の額から「ツーッ」と血が垂れてくる。

 しかし、亜紀はそんなことをお構いなしに走った。

 こけたときに左足をくじいたのか、ズキズキと痛む。

 そのため、亜紀は多少左足をずって走った。

 そして、やっと○○駅に着いた。

 亜紀は駅の構内に入っていく。

 そして、入場切符を買おうとしたとき、

「あっ、お金を忘れた!!」

 亜紀はその時になって気付いた。

 そう、お金を持ってくるのを忘れてしまったのだ。

 あまりにも気が動転していたので、入場料のことをすっかり忘れていたのだ。

 亜紀はガックリとなった。

(まさかポケットの中にお金なんて入ってるわけ・・・)

 と思い、亜紀はポケットの中に手を突っ込んでみた。

 するとどうだろう・・・なんと、200円ほど硬貨と紙が入っていた。

 亜紀は「えっ!?」となり、すぐさまその紙を見てみた。

『亜紀、このお金を使って駅に入ってね   竹内 大成』

 と、紙には乱雑な文字で、そう書かれていた。

 亜紀はそれをみると、すぐにその金で入場切符を買いに行った。

 そして、改札口の駅員さんに入場切符を見せた。

 駅員さんは、亜紀の格好をみてなのか、ニヤニヤしながら亜紀の切符に判を押した。

 普段なら「このスケベオヤジ!!」とか言って喰ってかかる亜紀であるが、今はそれどころではない。

 しかし、○○駅は今、ラッシュの時間帯で、亜紀は思うように前に進めない。

 やっと、階段を上りきったとき。

『まもなく、2番線から、7:15発○×行きが、発車します』

 というアナウンスが亜紀の耳に入った。

 そして「プルルルルルルッ」とまるで電話の効果音のような音が中たりに響いた。

「えっ、ま、待ってよ!!」

 亜紀はそう叫ぶと、2番線のホームへの階段を一気に駆け下りていった。

 そして、亜紀が完全に階段をおりるかおりないかぐらいに・・・。

 

 プシュウッ

 

 と、扉が閉まってしまった。

「ああ、開けて!! 開けてよ!!」

 と、亜紀は怒鳴りながら扉をどかどかと殴りまくった。

 亜紀しゃん、恐いよ〜〜(;;)

 しかし、電車は次第にスピードを速めて、どんどん亜紀から遠ざかっていく。

 亜紀は、電車に飛び移ろうとした。って、おいおい( ̄口 ̄;)

「やめろ、やめるんだ!!」

 と、誰かの怒鳴り声がして、亜紀は右腕を捕まれた。

「いや、はなして!! はなしてぇ!!」

 と、亜紀は泣き顔で絶叫した。

「亜紀、俺はまだ行ってないよ・・・」

「えっ!?」

 亜紀は、驚愕の表情で振り向くた。

 すると、そこには亜紀の右腕をつかんだままの大成がいた。

「た、大成!? 大成ってさっきの電車で行ったんじゃ・・・」

「ううん、亜紀はきっとお見送りに来てくれると思って次の列車で行くことにしたんだよ。

そしたら案の定、亜紀は来てくれた・・・」

 大成は微笑みながら言った。

「大成!!」

 亜紀は大成に抱きついた。

「大成、ヒック、会いたかった・・・ヒック」

 亜紀は嗚咽しながらそういった。

 瞳から自然とぽろぽろ涙が流れてくる。

「亜紀、ごめんよ。心配かけて・・・」

 大成は、更に強く亜紀を抱きしめた。

『まもなく、2番線に○×行き快速がまいります。白線の内側に・・・』

 と言う放送があたりに響いた。

「亜紀、俺もう行かなくちゃ・・・」

「大成、最後に約束して」

 亜紀は哀願するような表情になった。

「何を約束するんだい・・・?」

「あたしのこと、ずっと忘れないで。約束よ」

「ああ、もちろんだよ。絶対亜紀のことは忘れない。死んでも忘れないさ・・・」

 大成はそういうと、亜紀にすっとキスをした。

 亜紀も目を閉じて、そのキスを受け入れた。

 それは数秒間のキスであったが、大成達にとってはとても長く感じられた。

 大成が唇を離したとき、ちょうど快速列車がホームに入ってきた。

 そして、扉が開き人が降りてくる。

「亜紀、俺はもう行くよ・・・さよなら・・・亜紀」

 と、大成はいった。いつの間にか、大成の目から涙がぽろぽろ流れていた。

「さよなら。大成・・・」

 と亜紀がいったとき、「プルルルルルルッ」という音が中たりに響いた。

 大成は、列車に一気に乗り込んだ。

 そして、

 

 プシュウッ!!

 

 という音が響き、扉が閉まった。

 そして、電車がゆっくりとホームから出ていき、その電車の姿は亜紀の視界から見えなくなった。

(さよなら、大成・・・)

 そう思った瞬間、亜紀は身体から力が抜けていくのが分かった。

 そして、バッタリとその場にうつぶせに倒れ込み、気を失った・・・。

 

 


(update 2000/03/12)