MAZE!爆熱時空

■パノンの森、ハチャメチャ物語■

 ミル編(2)

作・竹内 大成さま


 

       2

 

 パノンの森が夕闇に包まれていく、もうすぐ夜である。そんな中、メイズ一行は森にある湖のような所で皆、思い思いの休息をとっていた。

「はぁ・・・」

 そんな中、ミルは皆から離れた木にもたれ掛かりながら深い溜息をついた。

 なんともミルらしくないやる気の無いような溜息、普段のミルとは明るさが完全に180度逆転している。

 しかし、同じように暗い顔をしているのはミルだけではなかった。他の場所にいるアスター、ソリュード、ウル、レイピア、ラン・・・皆、ミルと同じように暗い顔をしていた。

そもそも、皆がこうなった発端は“ある事件”がきっかけだった。

 

 それはたしか、その日のお昼頃の事である。メイズ一行はパノンの森を抜ける最中であった。

 メイズ達、わいわいと明るくしゃべりながら進んで行く。勿論、喋ってるとはいえ、ちゃんと周囲の気配は気にしている。

 アスターが左端、ソリュードが右端について喋りながらも常に周囲を警戒しているのだ。

 ただ、メイズ達の予想とは裏腹に、敵はメイズ一行の真正面に現れた。勿論、敵とてバカ正直に現れたわけではない。

「ん!?」

 正面に異様な気配を感じたメイズ達、皆つられるように正面を見た。空間がグニャリとゆがんでいく・・・そう、この空間の歪みは・・・光転道(フォル・ラーナ)で人が現れるときに起きる現象である。

 光転道・・・まあ、簡単に行ってしまえば“瞬間移動”の事である。勿論、術者にそれなりの実力があれば、数十人の部隊を一気に別の場所まで飛ばすことが出来る。

 さて、その空間の歪みが完全におさまったとき、その姿が完全にメイズ達の視界に入った。そう、敵の奇襲だ。

「敵、魔甲機(デミ・アーマー)が6体! 内4体が赤魔甲機(ルビー・デミアーマー)残り2体が中魔甲機(ミド・デミアーマー) 幻光士(フォルナー)らしき人が3人! 亜人が・・・きゃん、一杯!!」

 ミルが皆に敵の数、種類を次々と言っていく。ミルは元々、魔甲機のナビゲーター役であったため、こういう事には皆よりかなり長けていた。

 一方、その敵達のほうは・・・1人の幻光士らしき格好をした男が前に出てきた。年齢はまだ20代後半あたりに見える。

「我の名はバートニアン帝国1の幻光師(フォルム・マスター)ナスカル・サーティ! メイズ一行、キサマらよくも我が王国を滅ぼしてくれたな! 今ここで成敗してやる!」

 この男のセリフ、バートニアン帝国1といった時点で明らかにほら吹きである。何故なら、バートニアンで一番の実力を持っていた幻光師はジャイナ聖教団の教祖だったからである。

 勿論、メイズ達もとっくにその事は解っていた。

「ほぉ、なるほどねぇ・・・お前がバートニアン帝国1の実力なら・・・」

 そう呟いたアスター、ソリュードと共にフッと姿が消える。ナスカル、驚愕の目をアスター達がいた場所に向ける。

 

 ザシュッ!

 

 次の瞬間、そのナスカルとやらの身体はソリュードの光転道で後ろに回り込んだアスターの長剣の一撃で上半身と下半身が綺麗に斬り離され、地面に転がる。

 ナスカルは悲鳴を上げるヒマさえ無く、その場に倒れ落ち絶命する。ナスカルの鮮血があたりに飛び散る。アスターの剣はナスカルの血で文字通り真っ赤に染まっていた。

「俺はこの世界1の魔甲機狩り(デミ・ハンター)・・・って事になるなぁ( ̄ー ̄)」

 アスター、シニカルな微笑みを敵に向けながら言った。それは敵にとっては悪魔の微笑みのようにも見えるらしいが・・・。

「それじゃ、あたしは世界2の魔甲機狩りかねぇ・・・」

 ソリュード、そう言いながらひょいひょいっと数本の長い針のような物を亜人に投げつけた。数匹の亜人の無防備な頭にそれが当たる。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 それがあたった亜人、絶叫するとその場に倒れ落ち、絶命した。ソリュードの正確無比のコントロールがあってこそなせる技である。

 アスターとソリュードのその攻撃で完全に戦いの流れはメイズ達の方に傾いた。敵達はメイズ達の想像以上の強さにただオロオロするのみ。

 すると、敵方の炎魔甲機がいきなりアスター達に襲いかかってきた。勿論、アスター達も避けるぐらいの事は出来たが、避ける前に女メイズの手が動いていた。

「爆熱!!(ギガ・ファイア)」

 

 バシュウウウウウウッ!

 

 赤魔甲機にまともに女メイズの“爆熱”が当たる。赤魔甲機はあまりの爆熱の威力に木々をなぎ倒しながら吹っ飛ぶ。ある意味、それが開戦の合図でもあった。

「やれっ!!」

 1人の幻光士らしき男のセリフと同時に、数十匹の亜人がメイズ達に突っ込んできた。それにより、メイズ達全員が思い思いの戦闘態勢に入る。

 まず、最初に動いたのはウル爺さんだった。

「ほれっ!」

 というかけ声と同時に数個の爆弾をつっこんでくる亜人に放り投げる。ある意味危ない爺さんだ。

 

 ドッカーーーーーン!!

 

 見事に爆弾が亜人に命中する。数匹の亜人が絶叫をあげる。そして、爆弾の煙で亜人達が見えなくなる。しかし、それは亜人達も同じ事で、亜人達は亜人達でウル爺さんが煙で見えていない。

「いまじゃ、ラン!」

「おう、まかしときや。ウル爺さん!」

 そう言って肯くカラフルな髪の色の少女・・・いや、少年のラン。低い声で呪文をくちから紡ぐ・・・。

「上級火炎球!」

 ランのはなった無数の大きな火炎球が、亜人達のいる煙の中に向かってつっこんでいく。何故、ランが上級の火炎球を唱えたかというと、亜人達の異常なまでの生命力に不安を覚えたからだ。

 もちろん、普通の人間ならば火炎球一発でも充分なのだが、相手は亜人である。亜人は人間と比べてはるかに生命力が高く、並の火炎球を何発喰らっても生き残ることがあるのだ。

 それならば、はじめから強力な火炎球をうって、一気に殺してしまおうっていうという戦法らしい。

「グオオオオオオオオオオオオッ!!」

「グギャアアアアアアアアアアッ!!」

 煙の中の所々で亜人達の絶叫が聞こえる。そして煙が晴れるか晴れない内に亜人達がまたつっこんできた。しかし、つっこんできた亜人達はみるも無惨な姿ばかりであった。

 ある者は片腕が無くなっていたり、ある者は片足がなくなっていたり、またある者は胸に大穴を開けているのにつっこんでくる亜人もいた。

「相変わらずしつこいやつらやなぁ・・・レイピア、後は頼んだ」

 不思議な関西弁でレイピアに残りの亜人をまかせるラン。レイピア、小さく肯くと、細身の剣を鞘から抜き出し、素早い動きで倒しきれなかった亜人達の首を次々に薙ぐ。

 亜人達は次々にやられて、残ったのは亜人使いのみ・・・。

「く、くそうっ! これでもくらえっ!」

 亜人使いはレイピアに火炎球を放つ、しかし、レイピアは大きくジャンプしてそれを避ける。そして気合いの一撃を亜人使いに放つ。

「おりゃあっ!」

 

 ザシュッ!

 

 亜人使いは真一文字にばっさりと斬られ、その場に崩れ落ちた。勿論、即死である。そしてついに、亜人部隊はたった3人の人間によって壊滅させられたのであった。

 

 


(update 2000/06/29)