MAZE!爆熱時空

■パノンの森、ハチャメチャ物語■

 ミル編(6)

作・竹内 大成さま


 

        7(3ヶ月・・・か、早いものだ(苦笑))

 

 

 いつの間にだろうか・・・ミルは歩き出していた。

 別にメイズの悲鳴のような叫び声が聞きたくなくて更に逃げようとしているわけでもなく、お腹が減ったと言う理由でメイズ達の方へ帰るわけでもなく、なんとなく・・・とかそう言う安易な理由で歩いているわけではない。しかし。ミルが歩いているのはメイズ達がいる方向なのである・・・。

 ミルの瞳から流れていた涙はいつの間にかもう止まり・・・ミルの顔にはいつのまにか、決意にも似た表情が浮かび上がっていた。

<あたしは今までずっとオネニーサマに守られてきた・・・今までずうっと・・・だから、今度はあたしがオネニーサマを、守る!!>

 ミル、そう堅く決心すると歩調を早くさせてメイズ達の方へ近づいていった。そしてミルがテントを発見したときだった・・・。

「!?!?!?!?(@@;;;;」

 ミルが驚くのも無理はなかろう。そう、メイズのいるテントの周りはいつの間にか氷のオブジェだらけになっていたのだ。何か、雪国のお祭りを思い出させるような風景である。

「さ、寒い・・・」

 あまりの寒さに、ミルは思わず声を上げた。オブジェだらけになったメイズのテントの周りはとても寒く、まるで巨大な冷蔵庫の中に閉じ込められたような感じをも覚えるほどだ。

 ガチガチと、ミルのからだが震えている。鼻は先端とその周りが赤くなっており、彼女自身、寒さを堪えるために身体を何度も擦る。だが、流石にミルの周りが冷蔵庫にも匹敵するような温度では、焼け石に水たいした効果は得られていない。

「あっ? ミルちゃん!!」

 ミル、聞いた事のある声のする方を思わず振り向いてみる。すると、そこにいたのは茂みに隠れたソリュード、アスター、レイピア、ラン、ウルの5人だった。ただ、レイピアとラン、それにウルは青い顔をしながらぐったりと地面に横たわっているが・・・。

 アスターはというと、3人の看護に当たっていた。もっとも、アスターらしくない顔色の悪さでの看護、だが・・・。

「あ、ソリュードさん。なんだ、こんなところに」

「!? ミルちゃん、早くこっちへきな! 早く! 急いで!!」

 顔を妙に強張らせながらミルの話に割り込んで叫ぶソリュード。ミルも、普段とは違うソリュードのその表情に何かを感じたらしい、急いでソリュード達のところへと向かう。そして、足がもつれながらもミルがなんとかソリュード達の所へたどり着きそうになった、まさに時だった。

 

 

 ブォンッ!!

 

 

「・・・っ!?」

 瞬間的なことだったが、思わずうめき声にも似た声を上げるミル。テントから放たれた魔法は、ミルの後頭部の近くを通過してその衝撃波でミルの頭の毛が数本ほど辺りに散乱させた。そして、ミルがソリュード達の所へと倒れこむと同時に

 

 

 チュド〜〜〜ン!!

 

 

 大きな爆音が森の中に響く。どうやら何処かでテントから放たれた魔法が炸裂したらしい。しかし、あまりにも距離が遠いのかソリュード達の位置からではそこがどうなってしまったのか。肉眼ではわからない・・・。

「・・・あ、ああ・・・」

「・・・ったく、まだ収まってないって訳か・・・」

 先ほど、テントから放たれた水属性攻撃魔法に恐怖すら怯えたのか、振るえながらソリュードに寄り添うミル。しかしそれをよそに、予測が外れたのか、溜息とともに小さく舌打ちをするソリュード。

「そ、ソリュードさん! お、オネニーサマの身に何が起こったんですか!? いったいこの状況・・・どうなってるんですか!?」

「・・・メイズの身体に何か異変が起きて・・・『魔力暴走』が始まってる・・・。この近くにあるオブジェはみんなメイズの『魔力暴走』によって作られたのさ・・・助けたくても、近づくに近づけない」

 興奮してソリュードに問い掛けるミルに対して、妙に冷静に対応するソリュード。まあ、ここで興奮しながら対応されても、ある意味困るといえば困るのだが・・・。

「で、でもっ! ソリュードさんには『光転道(フォル・ラーナ)』があるじゃないですか!! それでオネニーサマを助けてくださいよ!!」

「そりゃそうだけど・・・でも、今のあたしには、無理なんだよ・・・」

「え、ええっ!? 無理って如何いうことですかッ!?」

 ソリュードの予想外の弱気な返答に思わず問い返すミル。普段なら「まかせとけ」の一言で一瞬で引き受けてくれるソリュードなのだが・・・。

「『魔力消滅』・・・じゃろ?」

「ああ・・・そのとうりだよ。ウル爺さん・・・」

 突然後ろからウルに声をかけられても、やはり冷静に答え返すソリュード。ミルは、どうやら『魔力消滅』の意味がわかっていないらしい。多少首をかしげている。

「やはりそうか・・・多少危惧はしておったのじゃがな・・・」

 と、ウルは寝込みながらも呟くように2人に言ってみせた・・・。

 魔力消滅・・・RPGで例えるならば、MPが0の状態。またはMPがあっても、その魔法を唱えられる分は残っていない状態、の事を指すのである。今のソリュードがその状態である・・・。

 そう、今日という日に限って、ソリュードの魔力がちょうどついさきほど切れてしまったのである。まぁ、月日による魔力の減少、という関係も多少はあるだろうが・・・。

 

 

 ドカッ!!

 

 

「畜生! なんだってこんなときに、魔力消滅なんか・・・」

 ソリュード、誰にとも無く叫ぶと地面にこぶしをたたき付けた。彼女の唇は、メイズに対して何もやってられない自分の無能さからの怒りでわなわなと震え、こぶしは血がにじみ出んほどの力で握り締めている。

 

 

 どっか〜ん!

 

 

 また一つ、氷属性魔法がテントから飛び出し、近くの木にあたりオブジェが出来上がる。ソリュード達の場所にそれが飛んでくるのも、もはや時間の問題だろうか・・・。

「もうあたし達に、メイズを止められるすべは・・・ないわ」

 ソリュード、絶望とも取れるような表情で言い切ってみせる。勿論、そんなセリフを聞いたミルが『はいはい、そうなんですか』と冷静にソリュードに返事を返すはずも無い。案の定、ミルはソリュードに食って掛かった。

「ええっ!? ソリュードさん! そ、それって如何いうことですぅ!? オネニーサマを止められないって・・・」

「無理なのじゃよ・・・『魔力暴走』はかかった術者の全魔力・・・いや、全生命力が魔法として放出されるまで、止める事は出来ない物なのじゃよ・・・それ以外で魔力暴走を止めるすべは・・・無い」

 と、ソリュードの変わりにウルがミルの問に答えた。

「そ、そんな・・・そ、それじゃあ。私達はオネニーサマの死をここで、ここで見てなくちゃならないって事なの!? そんなのいやよ! ミルはそんなのいや! 絶対にいやなのぉ!!」

「ミルちゃん・・・」

 涙ながらに言うミルに、どう対応して良いのか戸惑うソリュード・・・しかし、努めて冷静に、彼女はミルをそおっと両手で抱きしめる。

「ミルちゃん。もう、諦めな・・・メイズは、メイズはもう・・・ダメ、なんだよ・・・」

「・・・ソリュードさん・・・」

 ソリュードの両方の瞳から流れ出した涙が頬を伝わり、抱いたミルの肩の布に染み渡る・・・。喘ぎ声がじかにミルの耳に伝わる。ソリュードだけじゃない・・・ウルも、ランも、アスターも、レイピアも・・・みんな、涙をぽろぽろと流していた。

 ある者は愛しいメイズに、何もすることが出来ない自分の弱さに泣き、ある者はメイズにこれ以上会えないという思いから泣き、またある者は『魔力暴走』をうらんで泣いていた・・・。

「ソリュードさん・・・」

「・・・なんだい? ミルちゃん・・・」

 ミルを抱いたまま、質問に答えるソリュード。言葉になんだか哀愁が漂っているのは気のせいだろうか・・・。

「・・・ありがとう。あと、ごめんね・・・」

「? どういうことだい? 急に謝ったりして・・・」

「うん、もしかしたら、さ。ミルが、ね。先に、オネニーサマよりも、死んじゃうかもしれない・・・から」

「へっ!?」

 そのセリフを聞いた一瞬、ソリュードの腕の力が緩む。その瞬間を狙ってか、ミルがソリュードの手を振り払って急に走り出した! 向かっていく場所は・・・メイズいるテントである。

「なっ!? や、やめろ! ミルちゃん! や、やめるんだ!! すぐ戻って来い!!」

 ソリュードの叫び声もお構いなしに、ミルはテントに向かって走る。ソリュードも、ミルを追おう身体を動かそうとはするのだが、流石に体力が切れてしまっているのか、思うように身体が動いてくれないのだ・・・。

「ミルちゃん、やめて! お願いだから戻ってきて! ミルちゃん!!」

 ソリュードは叫んだ。しかし、それでミルがこちらへ戻ってくるはずがなかった・・・。

 

 さて、ミルはというと、もうとっくにテントの中へ走りこんでいた。テントの中にいたのは、勿論メイズだが・・・。

「オネニーサマ! オネニーサマ!!」

 ミル、必死にメイズに向かって叫ぶのだが、メイズは聞こえていないのかミルを振り向きもせずにせっせと魔法をテントから放つ。そもそも、今のメイズはほとんど意識がなく、ミルの声はまるで聞こえていないのだ。

 だが、流石に魔法の連発でメイズもかなり疲労が来てるらしい。目は黒くくぼんで熊が出来ており、ほおが多少へこみ、まさに不健康体といった感じの体格になってしまっている。やはり、この症状も魔力暴走の作用なのだろう・・・。

 急に、フラッとメイズの体勢が崩れる。やはり疲れがピークに近づいているらしい。それでも、メイズは魔法を放つのを止めようとはしない・・・ウルのいうとおり、どうやら魔力暴走は術者の生命がなくなるまで続くようである・・・などとのんきに解説している場合ではない。

「オネニーサマぁ!!」

 ミル、メイズの体勢が崩れた隙に、叫びながらいきなりメイズにしがみついた。メイズはというと・・・両手に赤い光が集束する。まさか、こんな近距離から魔法を放って同時討ちしようとでも言うのか!?

「お願い! オネニーサマ・・・正気に戻って・・・いつものオネニーサマに、もどって!!」

「っ!?」

 その魔法が発動されるよりも早く、ミルの唇がメイズの唇をふさぐ。メイズは小さくうめき声を上げる、だがメイズは素早く唇を離すと、先ほどまでの行動を続けようとする。

 メイズの両手が怪しく赤く光る。そう、術が完成したのである。だが、ミルはというと・・・メイズにしがみついたままであった。このままでは、ミルが・・・やられてしまう。メイズのその魔法がまさにミルへと放たれようとした瞬間だった。

「オネニーサマ・・・好き、大好き」

 ミルは・・・そう、メイズの目の前で、涙まじりの笑顔で・・・呟いていた・・・その笑顔は、ミルにとっては最高の笑顔であった・・・。

 

 

 バシュウッ!!

 

 

「ミルちゃあああああああああああああああああん!!」

 テントが炎に包まれるとほぼ同時に、ソリュードの悲鳴とも似つかぬ叫び声があたりに響き渡った・・・。あたりはもう、とっくに闇夜に包まれていた・・・。

 

 

           8

 

 

「今夜だけは・・・ミルちゃんに譲ってあげないとね(苦笑)」

「そうだな・・・今夜だけは、ミルちゃんに譲ってあげるとするか・・・」

 ソリュードとアスター、草むらで小さな声で会話している。さて、ソリュード達がいた場所をよくみれば、すぐそこでミルとメイズが気持ちよさそうに寝ていた。

 ただ、薬の副作用か、それとも病気の作用か何かなのか・・・メイズの性別は夜になったというのに女のままであった。

 そう・・・メイズはあのミルの絶体絶命の場面の時、最後の最後で意識を取り戻して魔法を制御して、ミルを守ったのである。

 テントは燃えてしまうその瞬間、メイズがバリアを2人の周りに急いで張ったのである。

 勿論、この場合は魔法を制御してなんとかしたメイズの方が賞賛されるべきなのだが、メイズを守ろうとしたミルの勇気・・・それがあまりにも凄かったのでソリュード達は脱帽したのであろう。

「それにしても、可愛いわねぇ・・・メイズの寝顔♪ やっぱあの約束、無しにしようかなぁ」

 ・・・ちなみに、ソリュードは列記とした『レズ』である。

「おいおい、今日1日はミルにメイズを譲るんじゃなかったのか?」

「冗談よ、冗談。とりあえず、此処にいてもなんだし、あたし達もそろそろ寝ましょ」

「ああ、そうだな・・・それじゃ久々にぐっすりと寝るとするか・・・」

 アスター達はそう呟くと、しぶしぶとその場を音を立てないように立ち去った・・・。

「うーん、やっぱ約束破って」

「おい、ソリュード! ったく・・・」

「てへへ(^^;;;」

 

 

「・・・ふあああああ・・・あれ?」

 ミル、思わず声を上げる。気付けば・・・ミルは何時の間にか湖の手前で寝転んでいた。おかしい、さっきまで近くの森で寝てたのに・・・どうやって此処に(汗)

「あれれぇ? おかしいなぁ・・・兎に角、オネニーサマの元へ戻らなきゃ・・・???」

 ミルの目が点になる。何故なら、見るが振り向いた瞬間、そこにオネニーサマこと、メイズが座っていたからだ・・・おかしい、さっきまで2人で森で寝てたはずなのに・・・。ふと、メイズがミルの方を見て、近づいてくる。

「ミルちゃん・・・」

「お、オネニー・・・んんっ!?」

 ミルがメイズに何かを言おうとした瞬間、ミルの唇はメイズの唇でふさがれていた・・・。

 

 


(update 2000/12/28)