エヴァ

■取り替えエヴァンゲリオン■

第一話「母の仕事」

作・SHEROさま


 

 

 

ここは第三新東京市の外れにある、とあるマンション。

ここでは本編の主人公碇シンジ君がのんびりとテレビを見ていた。

その時突然、昔懐かしの○ッターロボのテーマが家の中で鳴り響いた。

(あ、電話だ。それにしても母さんのこの趣味はついていけないなぁ。)

どうやらその音楽は電話の音らしい。

シンジは受話器に手を伸ばす。

「はい、碇ですけど。」

「もしもし、シンちゃん?お母さんだけど。」

「母さん。どうしたの?」

「シンちゃんお母さんの仕事知りたがってたでしょう。」

「う、うん。」

「教えてあげるから今からいらっしゃい。」

「今から?」

「そうよ。電話帳のところに職員名簿っていうのがあるはずだけどわかる?」

シンジが調べるとそこには確かに職員名簿が置いてあった。

(なんでこんなところにこんなものが?)

「うん、あったよ。」

「そこから葛城ミサトっていう人を探して。あ、それ五十音順になってるから。」

「ええと・・・あったよ。葛城ミサトさん。」

「その人が迎えに行くからシンちゃんは駅で待ってて。」

「う、うん。」

「それじゃあとでね。」

 ガチャッ

(今まで教えてくれなかったのにどうしてだろ。)

シンジはそう考えながら身支度を済ませ駅へと向かった。

 

 

数十分後、シンジは駅でミサトを待っていた。迎えはまだ来ていないらしい。

(すぐ来ると思ってたんだけどなかなか来ないな。どうしたんだろ。)

駅についてから一時間後、けたたましい音とともに一台の車が、

猛スピードから急停止した。

その車から一人の女性が降りて来てシンジの方へとやってくる。

「ごめんなさいね、碇シンジ君。道に迷っちゃって。」

職場から駅までで迷う事があるのかと不思議に思いながら、シンジはミサトを見つめていた。

「あ、やっぱり怒ってる?ほんとうにごめんね。」

シンジが黙っているのを見て怒っているのかと思いミサトは再び謝る。

「あ、いえ、そんな・・・」

そんなミサトを見てシンジは慌ててミサトを止める。

「それじゃ、車に乗って。案内するわ。」

そう言ってミサトは車の方へと向かうと、シンジを助手席に乗せ

車を発進させた。

それからしばらく走るとシンジはミサトと少しずつ話し始めた。

「あの・・・母さんの仕事って何なんですか。」

シンジの質問にミサトは少し困りながら返事を返した。

「う〜ん、来てもらえば分かるんだけど・・・

取り合えず今は正義の味方とでも言っておこうかしら?」

「正義の味方・・・ですか。」

予想外の返事にシンジは少し面食らいながら取り合えず返事を返した。

それからしばらくの間シンジの頭の中では色々なことが駆け巡った。

(正義の味方ってどういう事だろ・・・単なる冗談なのかな・・・

 それともヒーローショーか何か・・・でも母さんならその場ののりで

 ほんとにやってるかもしれないし・・・)

自分の予想範囲から大きく離れた答えにシンジの頭はだんだん混乱していく。

(だいたいどうして突然呼ばれたんだろ・・・特撮の撮影で子役が倒れたとか・・・

 それとも単なる気まぐれ・・・いや母さんのことだからもしかしたら

 スタントマンとしてかも・・・)

 そしてシンジの思考はだんだん悪い方へと流れていく。

(そうだ・・・きっとそうだ・・・母さんが突然呼んだんだ・・・

 きっとぼくは山から転げ落とされたり、崖から突き飛ばされたり、

 吊り橋から落とされたりするんだ・・・いやだ・・・そんなのいやだ・・・

 いやだ・・・いやだいやだいやだいやだいやだ)

「うわぁ〜〜〜〜嫌だ〜〜〜〜!!」

突然のシンジの絶叫にミサトがハンドルを変にきってしまう。

「えぇっ!? なに、何よ!?」

車はふらふらしながら対向車線にはみ出したりしている。

ミサトは慌ててハンドルを切り直し、未だ絶叫しているシンジの様子を見る。

「そうなんだ、これもきっとそうなんだ!これはきっとカースタントの撮影なんだ。

 うわぁーーーーーおろして、おろしてぇーーーーー!!」

「ちょっ、ちょっとシンジ君。どうしたの?ねぇっ!」

しかしシンジはそんな声を無視し、ドアを開けようともがいている。

危険に思ったのかミサトは路肩に車を停めシンジを落ち着かせようとする。

「シンジ君?シンジ君、しっかりしなさいシンジ君。」

その声にシンジはミサトの方を振り向くと早口にまくしたてあげる。

「ミサトさん、早くおろしてよ、スタントマンなんて僕やだよ。

 ねぇ早く、早く!」

かなり興奮しているシンジにミサトは冷静に対処する。

「スタントマン?シンジ君しっかりしなさい。誰もそんなことしないから。

 大丈夫だから、ね。」

ミサトのその呼びかけにシンジは少し落ち着きを取り戻す。

「で、でもさっき突然車でカーチェイスのように運転して、

 それで母さんが正義の味方で、僕を呼んで・・・」

・・・まだ冷静ではないらしい。

「あれはシンジ君の声にびっくりしてあたしが変にハンドルをきっちゃっただけ。

 それにあなたのお母さんの仕事は正確に言うともう少し違うし、

 あなたを呼ぶ事だって前々から予定されていたことなの。」

ミサトの説明にシンジはまだ不安そうな目をしながらミサトを見る。

「ほ、ほんとうですか?」

「本当よ、だから落ち着きなさい。」

言われてやっとシンジはほっとする。

「・・・はい。」

「ふう、それじゃ行くわよ。」

そう言ってミサトは再び車を走らせ始める。

「それにしてもシンジ君、突然どうしたの。スタントマンがどうとか言ってたけど。

 あなたのお母さんってそんな事させるの?」

「い、いえ・・・ただ昔似たような事があって・・・」

「似たような事?」

ミサトはスタントマンの仕事と似たような事とはなんだろうと思った。

「昔、母さんと二人で山にハイキングに行った事があったんです。

 その時母さんが『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とし、

 登ってきた子だけを育てるって言われてるの。だからシンちゃんもがんばって

 登って来るのよ』って言われて崖下に突き飛ばされたり・・・」

シンジの言葉にミサトは普段見ているユイを思い浮かべていた。

「他にも清水寺って言うところに行ったとき『清水の舞台から飛び降りるって

 言う言葉があるの。だからシンちゃん行ってらっしゃい』って

 言われて突き飛ばされたり・・・」

よく生きてたわね、というセリフはあえて言わないで、ミサトは

これからさらに不幸な事が待っているシンジに同情の涙を流した。

その直後再び事故を起こしそうになったのはご愛敬である。

 

 

駅から20分ほど走ると前方に入り口らしき物が見えてきた。

そしてその横には一人の女性が立っていた。

「あ、やっときた。おーい、シンちゃーーん、ミサトちゃーーん。」

そこでは碇ユイが手を振っていた。

「母さん!」

「碇司令!」

ミサトは車をユイの側に停める。

「どうしたんですか司令、こんなところで?」

「ええ、リっちゃんと『ミサトちゃん遅いわね〜』って話したら

 ミサトちゃん本部の中で30分も迷子になってて、さっき出口まで

 案内したところだって聞いたのよ。」

ユイが気にする風でもなく言った言葉にミサトは余計な事を、とリツコを少しうらむ。

「それでまた迷子になられても困るからお出迎え。」

この言葉でシンジはミサトの遅刻の理由に納得していた。

ユイを車に乗せ再び走りだす車。

途中、再び迷いそうになったミサトにユイが指示を出しながら車はより奥へと進んでいく。

「ねぇ、母さん。どうして突然僕を呼んだの?」

シンジは当然の疑問をユイにぶつける。

「シンちゃんはせっかちねぇ。今はお母さんの職場を見てなさい。驚くわよ〜。」

そういってシンジにいたずらをしたときのような笑みを浮かべるユイ。

その声とともに車は広い空間へと躍り出る。

「ジオフロントだ!」

突然の夢のような光景にシンジは先ほどの疑問も忘れ無邪気にあたりを見回している。

それからのシンジが見る世界はまさに夢の世界であった。

地中だというのに広大な広さを持つジオフロント、車ごと運んでしまうエスカレーター。

アニメに出てくるような大きな倉庫。地上と何ら変わらないと感じる世界にシンジは

我を忘れ、当たりに見入っていた。

「さ、ここが目的地よ。」

ユイに声をかけられシンジが見た物は巨大な顔だった。

「ロボットだ。」

再びシンジの目が大きく見開かれる。

「ロボットって言われるとちょっと違うんだけど・・・ま、これがお母さんがやってた仕事。

 お母さんは今までこれを造ってたの。エヴァンゲリオン初号機よ。」

三人の前には紫と黒を基本にカラーリングされたエヴァンゲリオン初号機の顔があった。

「やっと帰ってきたわねミサト。」

「リツコ。」

声の方を見るとそこには白衣を着た金髪の女性が立っていた。

「まったく、迎えに行く人間が迷子になってるなんて信じられないわね。」

リツコは戻ってきたミサトに冷ややかな視線を送りつつ不満を述べる。

「はいはい、それはここを出る前に聞きました。もう勘弁してよ。」

「仕方がないわね。またこんなことがないように地図の見かたぐらいおぼえておきなさいよ。」

軽口をたたくとリツコはユイのほうに向き直り、今度は真剣な表情で話し掛けた。

「司令、予定外ですが使徒がこちらへ向かってきています。指示をお願いします。」

「分かったわ。」

ユイも真剣な表情でその声を聞くとシンジの方に向き直った。

「シンちゃん、よく聞いて。今こっちに向かって使徒と呼ばれる巨大な敵が向かってきてるの。

 私たちはそれを倒さなければいけない。絶対に勝たなければいけないの。

 なぜなら私たちが負けるという事は全人類が負けるという事。

 そしてそれは人類の滅亡をも意味するの。」

シンジはユイの突然の話に戸惑いながらも真剣に聞いている。

そしてシンジがしっかりと聞いてくれている事を理解するとユイは話を続けた。

「ただ、今世界にある兵器では使徒は倒せない。そこで私たちが使徒に対抗するために

 作り出したのがこのエヴァンゲリオンよ。」

シンジはもう一度初号機を見た。

(これが使徒と呼ばれる敵を倒す・・・)

「ただ、エヴァにはパイロットが必要なの。そしてそのパイロットはある素質を秘めた

 子供でなければならないの。その一人がシンちゃん、あなたよ。」

 突然のユイの言葉にシンジは耳を疑った。

(僕が・・・パイロット・・・)

「シンちゃん、お母さんが今無理言ってるのは分かってる。でも今私たちは

 あなたしか頼れる人がいないの。・・・お願い、これに乗って戦って!」

シンジはその言葉に戸惑った。

(僕がこれに乗って戦う・・・使徒と呼ばれる未知の敵と・・・

 全人類の未来をかけて・・・)

「で、でも・・・・・・」

シンジはユイから目をそらし、うつむいた。

当然の事だろう、突然これに乗って戦えといわれ、ましてやその戦いが人類の

存亡を賭けているのだから。

「・・・・・・・・・・・・」

ユイは自分から目をそらしうつむいているシンジを見ているうちにある決意をした。

「・・・シンちゃん、ちょっとこっちにいらっしゃい。」

言うなりユイはシンジの手を握りエヴァの格納庫から出て行く。

そしてユイがシンジを引っ張ってきたところは病院のような雰囲気を持った部屋の一室で、

そこには一人の少女が包帯を巻かれて横たわっていた。

「彼女は綾波レイちゃん。エヴァのパイロットとしてはじめに巡り会った子よ。

 彼女は私たちの願いを聞き入れてくれてがんばって訓練してくれた。

 でも少し前のアクシデントのせいでここで治療しているの。

 そして今その訓練で倒そうとしてきた使徒がここに迫っている。

 でも彼女は動けないの・・・・・・」

シンジはレイを見ると胸を掴まれたかのような感覚に陥った。

「お願いシンちゃん、人類のためにも・・・

 ううん、今までがんばってきてくれた彼女のために使徒と戦って!!」

その一言にシンジの心の中で葛藤が始まった。

(彼女は傷だらけになってまで使徒を倒そうとがんばってきたんだ・・・

 なのに僕は何もしないうちからあきらめてしまっている・・・

 逃げちゃ駄目なんだ・・・

 逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ)

シンジの心の中で決意が固まるとシンジはその瞳を真っ直ぐユイに向けた。

「母さん、僕やるよ、エヴァに乗って使徒と戦うよ。」

「シンちゃん・・・」

シンジの決意が固まったその瞳を見てユイは胸の奥に熱いものを感じた。

(いつのまにかこんなに立派になって・・・)

「それじゃ、お願いねシンちゃん!リっちゃん、初号機起動準備!」

そして部屋から格納庫へ向かうその時、シンジは振り返り少女に心の中でこうつぶやいた。

(僕に何ができるかはわからない・・・でも君の努力を無駄にしないよう僕は精いっぱい戦ってくるよ)

 

作者後書き

 

 私の初めての作品にお付き合い頂き、ありがとうございます。

 この作品は基本的にゲンドウとユイさんを取り替えただけの作品です。

 ただ、この二人を替えただけでも話はずいぶん変わると思います。

 そしてみんな幸せになれると思います。

 もしかしたら長くなるかもしれませんが、よろしかったらこの作品に付き合ってやってください。

 では今回の一言クエスチョン、最初は主人公、碇シンジ君です。

 『ユイさんとの生活はどうですか?』

 「毎日楽しいですけど、突然思いつきで行動されるのが少し怖いです。」

 それではまた次回に。SHEROでした。

 

 

 

(つづく) 

 


(update 99/04/08)