エヴァ

■取り替えエヴァンゲリオン■

第12話「温泉休み」

作・SHEROさま


 

 

後片付けもそこそこに、温泉宿へとやってきた一行。

全員は早速、露天風呂へと直行した。

女湯では早く汗を流したいとばかりにアスカが一番乗りで、露天風呂へと続く扉を開ける。

「やっほ〜、温泉よ温泉!」

「みんな、お疲れ様。」

「おばさま?」

 風呂の中にはすでにユイがはいっていた。

「いつからここに?」

 あとから続いたミサト達もつい固まってしまう。

「えっと〜・・・準備が出来てすぐかしら? 冬月先生と加持君も一緒に来てるわよ。」

「「加持(さん)!?」」

    ☆    ☆    ☆

 そして男湯でも・・・

「お疲れ様、シンジ君。」

「ここにいる間はゆっくり休もうな。」

「はい。」

 青葉、日向、シンジの3人が露天風呂への扉を開くと先客の姿が見えた。

「よっ。お疲れ様、3人とも。」

「加持さん!? 冬月副司令も・・・」

「先に失礼しているよ、いや〜〜、やはり温泉は良い・・・」

「お二人ともいつからここに?」

「ユイ君と一緒にな。準備が出来次第出発して、ここで作戦の終了を待っていたというわけだよ。」

「そんなことより、隣も入ってきたようだぞ。」

「「えっ!?」」

 思わず耳をすます青葉と日向。隣からは女性陣の声が聞こえてきた。

「加っ持さ〜ん。いるの〜?」

「おー、アスカか。お疲れさん。」

「ちょっと、加持〜。なんであんたまでここに来てるのよ?」

「そんな言い方はないだろ、葛城。こんな良い所に来るのに俺を置いて行こうとしたのか?」

「これは日本支部の休暇よ、ついこの間来たばかりのあんたは仕事でもしてなさいよ。」

「まあまあ、葛城さん。こんな所で喧嘩しなくても・・・」

「マヤちゃん、あいつを甘やかしたりしたらあとで言い寄ってくるわよ。」

「えぇっ!?・・・加持さん、仕事に行ってきてください。」

ズルッ。

 その場にいた数人がずっこけた。

「・・・マヤ、あなた言ってる事を統一させなさい。」

「まあまあ、そんなついたて越しよりも、あとでゆっくり話しなさいな。

 ほらほら、アスカちゃん。背中流してあげるからそこ座って。」

「えっ、いいですよ。自分で洗いますから。」

「遠慮しないで。ほらほら。」

「レ〜イ〜、あなたもこっちいらっしゃい。」

「いい。」

「そんな事言わずにいらっしゃい。」

 体にお湯をかけ、湯船に浸かろうとしていたレイを捕まえてイスに座らせるミサト。

「先輩は私がお背中流しますね。」

「ちょ、ちょっとマヤ。背中を押さないで・・・きゃっ!」

 マヤに押されてふんばろうとした所で足を滑らせ、仰向けに倒れてしまうリツコ。

「先輩、大丈夫ですか・・・」

「あなたね・・・(怒)」

 そうして、3人が並んで背中を流される事になる。

「アスカちゃんの肌って綺麗ね〜。ほんと、うらやましいわ。」

「おばさま・・・それっていやみにしか聞こえませんよ。」

「そう?」

 1児の母であり、女性陣の中で最も年上なユイだが、その身体はミサトやリツコよりも若く見える。

 そんなユイをミサトとリツコは不思議そうに見ていた。

「レイの肌も白くていいわね。はぁ〜、あたしももう少し若ければ・・・」

レイの背中を流しながら落ち込むミサト。レイの身体はキメも細かく、肌触りもすべすべとしている。

「先輩の胸大きい〜。」

 かたや背中を流している所に突然手を前に伸ばすマヤ。

「こ、こら、マヤ! あなたどこ触ってるの!」

 そんな女性陣の無防備な会話にドキドキと興奮している青葉と日向。

「む、向こうはいったいどんな光景が・・・」

「知りたい・・・とっても知りたい!」

「それじゃ二人とも、行動しようじゃないか。」

 二人の肩に手をかけて怪しい笑みを浮かべる加持。

「行動というと・・・」

「やっぱり・・・あれですか?」

「ああ・・・こういう状況ならやらないといけないだろう・・・覗きを!」

 3人は顔を見合わせたあと、うんと頷いて崖の方へと向かっていく。

「ちょっ、ちょっと加持さん。そんなこといけないですよ。」

「シンジ君、これは男にとって避けては通れない道なんだよ・・・」

「でも見つかったらただじゃ済みませんよ・・・」

「恐れていては先へは進めないんだ。」

「シンジ君。」

 声をかけられたシンジが振り返ると冬月が手招きしている。

シンジは冬月の方へ行って何かを耳打ちされると再び加持達の所へ戻ってきた。

「生きて帰れる保障はないそうですけど・・・」

「ははっ、そんな手には乗らないよ。大丈夫、大丈夫。」

 もはや何を言っても無駄と思い、シンジはのんびりと湯に浸かっている冬月の元へとやってくる。

「いいんですか? 行かせてしまって・・・」

「なぁに、彼らも身を持って知るだろう。

 それよりどうだね、シンジ君。背中でも流してあげようじゃないか。」

「え? いいですよ、そんな・・・」

「はっはっは、たまには年寄りのおせっかいに付き合ってくれんかね。」

 諦めて冬月に背中を流されるシンジ。だがやはり加持達の事が気になるようである。

「あの・・・やっぱり止めた方が・・・」

「なあに、彼らは言ってやめるタイプではないよ。それに彼女たちが

 そうたやすく覗かれるような人間ではない事を知るためにも、やらせてみればいい。」

 そんなものだろうかと思いながら体を洗われるシンジ。

    ☆    ☆    ☆

そんな事は知らずに崖を移動して隣を覗こうとする3人は・・・

「いいか、二人とも。ここはすでに敵陣と言っても過言ではない。

 物音を立てず静かに行動しろ。出来る事なら気配も消すんだ。」

そんなことできるか、と突っ込むのを押さえて静かに移動する青葉と日向。

加持はそんな二人を従えてゆっくりと隠れられるポイントへと移動していく。

「よし、この辺りならいいだろう。」

 3人がまとまって隠れられる場所を見つけて静かに風呂の方を見る。

そこでは体を洗い終えた女性陣が湯船に浸かっていた。

「やっぱり温泉って気持ちいいわね〜。」

「気持ちいい〜、これが温泉なのね。旅行で選ばれる場所っていうのも良く分かるわ。」

「気持ちいい・・・これが温泉・・・」

「あったかいですね、先輩。」

「・・・マヤ、もう少し離れてくれる。」

 覗いている3人には声は聞こえてくるものの、湯煙で人の姿は影程度しか見えない。

「くぅ〜〜、湯気で向こうがよく見えない。」

「あともう少しなのに・・・」

「慌てるな、二人とも。こういうのはじっくりと待ってこそ成果があらわれるんだ。」

 加持に言われ、じっとチャンスを待つ3人。

「・・・・・・さてと。」

 ユイは近くに置いていた桶から小さなリモコンを取り出した。

「みんなちょっと向こうの崖のほう向いてくれる。ただしお湯に肩まで使ったままでね。」

ユイが何をするのかと思いながら言われた通りにするアスカ達。

それを確認したユイはリモコンのスイッチを押す。

ヒュゥッ、ヒュゥッ、ヒュゥッ、ヒュゥッ〜、ヒュゥッ、ヒュゥッ〜。

繁みの辺りから上空に向かって何かが飛びだす。

パンッ、パパンパンッ、パンッ、パンッ、パラパラパラパラ・・・

 飛び出していったものは空の上で大きな音をたてて火花を散らす。

ユイがリモコンで作動させたものはあらかじめ設置しておいた花火である。

だが花火はまだ明るいため大量の火花は見えず、いくつかの閃光と音ばかりである。

「ちょっと時間が早かったようね、でも他に役立ったようだし、いいわよね?」

 ユイの言葉を不思議に思った一同の耳に聞きなれた声が聞こえる。

それは花火の打ち上がった繁み・・・加持達の隠れている所からである。

「・・・あ・・・あちぃ・・・熱い熱い・・・」

「び・・・びっくりした・・・」

「なんで花火が・・・」

 その声で状況を把握した女性陣はバスタオルを体に巻いたあと、思い思いの行動に出た。

「えいっ!」

 近くにあったイスや桶を掴んで投げるマヤ。

「このぉ!」

 桶でお湯をすくって浴びせるアスカ。

「アスカ! そんなんじゃ甘いわ!」

 バスタオルを身体に巻きつけ、お湯から出て桶に熱湯を溜めるミサト。

そして溜まるなり繁みに向けて浴びせ掛ける。

「あっちぃぃぃ!」

「次はこれよ!」

 ミサトと同じくお湯から出たリツコが同じように浴びせ掛ける。

ただしこちらは冷水である。

「冷てぇぇぇっ!」

繁みの裏が騒がしくなり、男達の声が盛大に聞こえてくる。

だが、声だけでなかなか姿を見せてこない。

「・・・・・・手近なものを持って。」

レイの声で、あたりにあったイスや桶を皆に配るミサトとリツコ。

その間にレイは自分のシャンプーやタオルなどを入れた桶に手を入れ、黒い物体を取りだす。

それを繁みの中へと投げ込むとたちまち煙が吹き出してきた。

「ごほっ、ごほっ! なんだこれ!?」

「いってぇ! 目が・・・」

「催涙弾!? 何でこんなものまで?」

 さすがに姿を見せた加持達に向かって、女性陣は一斉に手に持っていたものを投げつける。

「「こんのぉっ! あたし達を覗こうなんて百年早いわよ。」」

 イスや桶を当てられて頭を抱え身体を丸める加持達。

「えいっ。」

 そんな中、ただ一人別の物を投げるマヤ。それは加持達よりも手前に落ちると爆発した。

「「うわぁっ!?」」

 その爆発で崖下へと転がって行く加持達。マヤが投げつけたのは手榴弾であった。

「マ、マヤ? そんな物どこから?」

 その惨状に顔を青くしながらマヤに聞くリツコ。

「護身用です〜、えへっ。」

 その言葉にちょっと怖い物を感じつつ、再びのんびりと湯船に浸かる事にした一同だった。

もちろん加持達の心配はしていない。

    ☆    ☆    ☆

一方、男湯では・・・

「あの・・・さっきの音は?」

 交代して冬月の背中を流しながら尋ねるシンジ。

「ユイ君が覗き退治用に仕掛けた罠の音だろう。爆発音は気になるが・・・」

「それじゃ加持さん達は・・・」

「少しばかり痛い目にあっているだろうな、向こうの人間が人間だ。

 まぁ、彼らも食事までには戻ってくるだろう。」

「そうだといいんですけど・・・」

 シンジはなんとなく不安に思いながら冬月の背中の泡をお湯で流すのであった。

    ☆    ☆    ☆

 その夜、食事をしているユイ達の所へ身体中擦り傷だらけになって

戻ってきた加持達は皆の身体のマッサージまでさせられる事になった。

「葛城さ〜ん、もう勘弁してくださいよ〜。」

「駄目よ日向君、まだ色々してもらうんだから。」

 その横ではリツコと冬月が青葉、加持から同じくマッサージを受けている。

「そうね、覗きの罰の分はしっかり働いてもらいましょうか。」

「そんな〜、せっかくの慰安旅行なのに〜。」

「身から出た錆よ、諦めなさい。」

「せめてチャンスをくれよ、葛城。な、頼む。」

「そうね・・・ここは温泉だし・・・」

 ミサトの言いたい事を察してあとを続けるリツコ。

「そうね・・・卓球で私たちに勝てたら許してあげるわ。」

「やった! 早速行こう。」

「あら、まだ駄目よ。」

 ユイの声に振り返る一同。

「それは皆のマッサージが終わってから。3人のマッサージが終わったらこの子達もね。」

 加持達は少しげんなりしたあと、再びマッサージを続け始めた。

    ☆    ☆    ☆

 全員のマッサージが終わり、いざ卓球へとやってきた一同。

そこには4台の卓球台が置かれていた。

「これで俺達が勝ったら罰から解放してくれるんだよな?」

「ええ、ただし・・・連続3人抜きできたらね。」

「「ええっ!? さ、3人抜き!? しかも連続!?」」

「そ、まぐれの1勝で罰を免れようなんて甘いもの。

 だ・か・ら、3人抜きしたらゆるしてあげるわ。」

「・・・・・・よし、やろうじゃないか。」

「ちょ、ちょっと加持さん・・・」

 不満の声をあげる日向と、同じく不満顔の青葉の肩を引き寄せ、加持は二人に小さな声で語り掛ける。

「いいか、連続3人抜きとは言っても俺の見た所、相手はいないも同然だ。」

「どういう事です?」

「葛城は途中でバテてくるだろう、リッちゃんも運動不足だろうから

 そう長時間やっていられるとは思わない。

 あとは力押しで勝てそうなメンバーだ、これは意外と楽なんだ。」

「いや・・・我々も体力には自信がなくって・・・」

「それも気にするな、俺が先鋒でやって体力を減らす。それならいいだろう?」

「それなら・・・」

 作戦会議終了。

「よし、やろうじゃないか。葛城。」

「OK。組み合わせはどうする? みんないっせいにやる?」

「いや、一人ずつやろう。応援があった方がやる気が出るだろう?」

「そうね、それで誰からやるの?」

「もちろん俺からさ、相手は当然葛城だろう?」

「ふっふっふ、受けて立とうじゃない。」

 こうして加持VSミサトの対戦が始まった。

「加持さん頑張って〜。」

「ちょっとアスカ〜、どっちの味方なのよ?」

「加持さんはいいの。」

 なんて応援を受けつつ対戦開始。

その内容はというと、最初はラリーを続けていた二人だが

加持の口車とラケットさばきによってミサトはどんどんペースを崩し

後半は一方的なペースで加持の勝利となった。

(一方的とはいうが加持はしっかり体力削りもやっていた。

 その余裕ぶりがミサトを余計苛立たせていたのも事実だが。)

「くぅ〜〜、もう一回よ! もう一回!」

「ああ、いいとも。ただし、あとの二人が終わったらな。」

「上等! さっさと終わらせてリベンジよ!」

「(よし、これではまったな。まず全員一人抜きだ。)」

「加持さん・・・煽ってどうするんですか?」

「いいんだよ、これで。あとはこっちがミスをしなければ自滅してくれる。さ、頑張れ。」

 そうして続いた青葉、日向の対戦は苛立ちで力み続けたミサトが自滅し続けて全員一人抜きとなった。

「あ〜あ、何やってんのよミサト。」

「うるさいわね、調子が悪かっただけよ。」

    ☆    ☆    ☆

 ミサトの対戦を見ていたユイは一通り終わった所でシンジとレイに声をかけた。

「私たちもやりましょうか。シンちゃん、ラケット持ってきて。」

 そう言って長椅子から立ち上がるユイ。それに続いて立ち上がるシンジとレイ。

3人は一つ間をあけた卓球台に歩いていく。

「どっちからやる? シンちゃん? レイちゃん?」

「綾波先にやりなよ、僕は見てるから。」

 シンジに薦められたレイは頷くとラケットを持って台の前に立つ。

そして、ユイとレイはのんびりとしたペースで打ち始めた。

「シンジ、手が空いてるんなら私の相手しなさいよ。」

 シンジがアスカを見ると、アスカはラケットを持って間の台の前に立っている。

「いいよ。」

 アスカの誘いに乗って同じく台の前に立つシンジ。

「手加減はしてあげるから感謝しなさい。」

自信満々で球を打つアスカ。それは本人が言ったとおり、

明らかに手加減しているという物なのでシンジも軽く打ちかえす。

「もうちょっと強くいくわよ。」

 しばらく軽いラリーをしていたアスカはつまらなくなったのかそう言って打つスピードを早くした。

しかしシンジはそれも平然と打ち返してくる。

この辺りでシンジがミスをするだろうと思っていたアスカは

それが面白くなく、むきになってさらに早く打ち出した。

「シンジにしてはやるじゃない。」

 アスカは余裕を見せるように言葉を放つがそれが強がりだというのは明白である。

そうして本気でラリーをしているうち、苛立ったアスカのミスで球が台からそれて落ちた。 

「い、今のはちょっとしたサービスよ。シンジもなかなかやるじゃない。」

 アスカは白々しく言うと再び球を打ち始めた。

しかし、アスカがどれだけ早く打とうと、きちんと打ち返してくるシンジに

苛立ったアスカのミスで点が重なり、その差は一方的となっていった。

    ☆    ☆    ☆

 シンジから点が取れないでいたアスカは突然手を止めた。

「もういい。」

 アスカはなげやりに言い放つと長椅子の方へと歩いて行った。

「おや、もう終わりかい?」

 不満そうな顔で戻ってくるアスカに声をかける加持。

「シンジ相手だとどうも気分が乗らなくって・・・

 そうだ、加持さんが相手してくれない?」

「アスカが相手かい? 3人抜きして罰から逃れるのにそれはきついな〜。」

「大丈夫よ、手加減してあげるから。ねぇ〜、やろうよ〜。」

 アスカに腕を引かれては仕方がなく、加持はアスカと対戦するために台の前に立つ事になった。

そうして始まったアスカとの対戦は、抜きつ抜かれつの進行ながら

加持が決める所を的確に決めていき、僅差で加持の勝利となった。

「あ〜あ、負けちゃった。」

「いや、アスカも強かったよ。俺が勝てたのは運が良かっただけさ。」

「それじゃ、次は俺が・・・」

 加持に続いてアスカに挑戦しようとする青葉。だがアスカは見向きもせず長椅子へと歩いていく。

「あたしパス。リツコ代わってよ。」

「しょうがないわね・・・」

 アスカの代わりとして立ち上がるリツコ。

予想していなかった事態に迷った青葉だがリツコが意外とやる気だったので

腹をくくり対戦に望む事になった。

そして始まったリツコと青葉、およびリツコと日向の対戦は青葉、日向の勝利となった。

 多少なりともスポーツをしていた者と全然していなかった者の差だろう。

決して年齢の差と言ってはいけない。

    ☆    ☆    ☆

「碇君、交代。」

 アスカが立ち去ったあと、罰ゲーム組の対戦を見ていたシンジは後ろから声をかけられた。

そこにはピンポン球を差し出しているレイがいた。ユイの方も見てみると手招きしている。

「うん、交代するよ。」

シンジはピンポン球を受け取るとラケットを持って台の前に立った。

「それじゃ、強いのいくわよ、シンジ。」

「うん。」

 そう言って構えた二人の雰囲気はさっきまでとは違っていた。

    ☆    ☆    ☆

「ん? 始まったか。」

 リツコと日向の対戦が終わった時、冬月の口からその言葉が漏れた。

その時、一同は耳慣れない音を聞いた。

そして、振り向いたその先には・・・

「ちょっと久しぶりかと思ったけど腕は鈍ってないわね。」

「そうかな?」

 などと軽口を叩きながら国際試合並みのラリーを繰り広げているユイとシンジの姿があった。

「うそ・・・」

「あれがシンちゃん?」

 シンジのイメージからは想像できない素早い反応と動きにみんな唖然としていた。

ただ冬月だけは知っていたかのように落ち着いている。

「副司令、知っておられたんですか?」

 落ち着いている冬月に質問するリツコ。

「うん? 知っていたわけではないよ、ただ、たまにユイ君と対戦するんだが

 いつまでも腕が鈍らないのでね。相手がいるだろうとは思っていたんだ。

 それがシンジ君だとは思わなかったがね。しかし見事じゃないか。」

 視線を戻してみるとユイとシンジは相変わらずラリーを続けていた。

その視線に気付いたのかユイはラリーを中断させるとみんなの方を向いた。

「あら? みんな終わったの?」

「いえ・・・そのすばらしいラリーだったものですから見とれてしまって。」

「そう。何ならやってみる?」

「いいですいいです!」

 慌てて首を横に降る一同。

「ふ、副司令、まだしてませんでしたよね、はいラケット。」

「加持君、ほら対戦対戦。」

 慌てて加持と冬月を台の前に押し立てるリツコとミサト。

ユイはその様子を笑顔を浮かべて見たあと、再びシンジとラリーを始めた。

    ☆    ☆    ☆

「それじゃ行きますよ、副司令。」

「来たまえ、加持君。」

 台の前へと押しやられて始められた加持と冬月の対戦は意外な展開へと進んでいった。

先程までの対戦で余裕を見せてきた加持が冬月相手に苦戦し、敗退してしまったのである。

 それも運良くではなく、時に加持の渾身のスマッシュを鮮やかにカットし

時に加持が攻勢に出られぬほど押し切って打ち勝つという実力での勝利である。

「副司令、ずいぶんお強いですね・・・」

 もう一息で3人抜きというのを阻止されてしまい、ちょっとショックな様子で加持が尋ねる。

「なぁに、彼女の相手が出来るようになったからね。」

 その一言で加持は実力差を思わず実感してしまった。

彼の耳にはいまだに高速なラリーの音が届いてくる。

「しかし、さすがに疲れたよ。君ならユイ君とも出来るのではないかね?」

 冬月の言葉に加持はただ苦笑するしかなかった。とても相手になりそうな気がしないからだ。

そして次に対戦する日向は肩を落とし、始める前から勝利を諦めていた。

だが、冬月は台の前には立たずマヤに声をかけた。

「伊吹君、交代してくれんかね。」

「はい。」

 冬月の交代の言葉を聞き、マヤの了承の返事を聞いた時、日向はおもわず小躍りしそうになった。

 3人抜きでの罰ゲーム脱出の王手がかかった一戦の相手が絶対勝てないと思っていた

冬月から楽に勝てそうなマヤに代わったのだから無理もない。

「お手柔らかにお願いしますね、日向さん。」

 笑顔で挨拶をしたマヤと日向の対戦と、続いて行なった青葉との対戦は

見ていたみんなにとって何か納得できない内容だった。

    ☆    ☆    ☆

「それっ。」コンッ! 

 手加減して打った日向の球はやまなりにマヤのほうへと飛んでいく。

「えいっ。」コンッ!

 同じくやまなりに打ち返したマヤの球は毎回同じような所へ飛んで行った。

「・・・・・・」カンッ!

「ああ! また!」

 マヤの球は毎回、台から落ちるか落ちないか微妙な所、台の角に当たってあさっての方へ飛んでいく。

 それならそれで当たった所を狙って打てばいいのだが

時に台に当たることなく落ちる事もあるからついじっと見て反応が遅れ、見逃してしまうのだ。

 そうして、結局3人とも3人抜きはならずに終わってしまった。

「負けてしまった・・・」

「勝てると思ったのに・・・」

「先輩、私勝ちました〜。」

 落ち込み座り込んでいる日向と青葉とは対照的に、喜んでリツコに勝利の報告をしているマヤ。

「あら、終わったの?」

 そんな一同にシンジとの対戦を終えたユイが戻ってきた。

「ええ、結局3人抜きは阻止しました。」

 まるで鬼の首を取ったかのように胸を張って報告するミサト。

自分が負けたという事は3人抜き阻止ですっかり忘れたようだ。

「あらあら、それは残念だったわね。」

 ユイは落ち込んでいる日向と青葉を見、続いて諦めたかのような

表情を浮かべている加持を見ると何かを考え込むようなしぐさをした。

「それじゃ、今度は何をしてもらおうかしら・・・」

 何か用事を言い付けようと考え出すリツコ。

「きょ、今日はもう勘弁してくれよ、リッちゃん。もうクタクタなんだから。」

 最初に降参の声をあげる加持。日向と青葉も同じような声をあげた。

「・・・うん。あなた達、2人抜きまではしたのよね。」

「「え? は、はい・・・」」

 さっきから考え込んでいたユイに突然声をかけられ、呆けた表情で返事をする加持、青葉、日向。

 ユイの突然の発言に他の一同もユイに注目する。

「3泊4日の温泉旅行だものね。2人抜きの敢闘賞として

 罰は今日1日だけにおまけしてあげるわ。」

「「ほ、ほんとですか!?」」

「そんな!? 司令!」

 ユイの申し出に喜びの声をあげる加持達とそれに不満の声をあげるミサト。

「た・だ・し、今度覗きなんてやったらずっと身の回りの世話とかしてもらうわよ。

 それに給料もダウンね。わかった?」

「「は、はい。」」

 次に覗いたりした後の状況が鮮明に頭の中に浮かんだ3人はすぐさま返事した。

 それを聞いたミサトは今日1日の間、目いっぱいこき使ってやろうと頭を巡らせ始める。

だが時間はすでに9時を過ぎ、今日と呼べる時間は余りない。

 そこでミサトは自分にとって一番の用事を依頼する事にした。

「加持、それに青葉君と日向君。買いだし行ってきて。えびちゅ10ケース。15分でね。」

「10ケース!? それはいくらなんでも・・・」

「私にはウィスキーとワインね。」

「私アイスクリーム欲しいです。」

「日本酒を頼むよ、それにつまみもな。」

「僕はスポーツドリンクを・・・」

「あたしは炭酸飲料。できればパンタね。」

「・・・ミネラルウォーター・・・」

「私にもスポーツドリンクね。後は梅酒も何本か買ってきてもらえる?」

 ミサトを口火にして続々と注文が飛んでいく。

断れなくなった加持達はさっさと表に買い出しに出かける事になった。

領収証はもらってきたがその場での支払いは当然自腹である。

彼らの財布の中身のほとんどがあっさりと消え去った。

 そして、買い出しの品が運ばれてくるとみんな群がって自分の注文した物を取っていく。

ミサトのえびちゅ10ケースは相当重かったらしく、運び終えると3人とも座り込んでいた。

そのあとは宴会に持ち込まれ、みんな大騒ぎをしていた。

もちろん、加持達3人は右に左にと酒を注いだり、

さらに買い出しに走らされたりとみんなが寝るまでこき使われていた。

    ☆    ☆    ☆

そんな忙しい一日目を過ごしたあとは、それぞれその土地の名物料理を食べに行ったり

前日の卓球のリベンジをしたり、自然を楽しんで散歩したり、

温泉にゆっくり浸かったりと各人がやりたい事をやってゆっくりと過ごした。

 そうして4日目の昼、NERV温泉旅行は終わり、NERV職員は全員帰宅。

翌日からの仕事の事などを考えながら自分の家でゆっくりとした最後の休日を楽しんでいた。

 

作者後書き

 

    またもや遅れてしまいました・・・

    前回が掲載された時点で半分ほどはすでにあったんです。

    何せ続きが書ききれなくて二つに分けたのですから。

    それがこんなに遅れてしまうなんて何にも言えません。

    今回は笑いを誘うネタが出せませんでしたし。次回は頑張ります。(毎回言ってる?)

    最近分かった事は書ける時に書く事、書ける事は後に回さず、

    多少前後してもその時のテンションですべて書ききってしまうのが大切だという事です。

    後に回したらその時の台詞回しとかすべて忘れて困ってしまいましたから。

    さて、久しぶりに一言クエスチョン、今回はアスカです。

        ピック「お久しぶりで〜す。クエスチョンでもちゃんと名前を

            出してもらえたピックです。」

        アスカ「あたしの出番ずいぶん遅れたわね。」

        ピック「仕方ないですよ、次に誰を出すかなんて作者も考えてないんですから。」

        アスカ「それって適当に選んでるって事?」

        ピック「いえ、一応その場にあった人を選んでますよ。

            ただそれが誰になるかは作者も書いたあとでないと分からないだけです。」

        アスカ「そう。」

        ピック「納得していただけたようなので質問です。

            今回の温泉旅行、どうでした?」

        アスカ「良かったわよ、料理は結構良かったし

            温泉っていうのも結構気持ちよかったし。

            それに何といっても加持さんがすぐ側にいてくれたのが最高よね〜。」

        ピック「それは良かった。アスカさんは温泉初体験ですから

            どのようなご意見が頂けるかと思いましたが

            高い評価なようなので安心しました。」

        アスカ「もしかして私を呼んだ理由ってそれだけ?」

        ピック「そうですよ。」

        アスカ「こんなくだらない内容であたしを呼ぶなんていい度胸じゃない。」

        ピック「ああ、文句は作者に・・・」

        アスカ「うるさ〜い!」

        ピック「そ、それではまたお会いしましょう。」(ダッシュ)

        アスカ「まて〜!」

 

    ノートでは最後の最後でメモリ不足になりました。サイズが最近大きくなってますね〜。

 

 


(update 00/07/30)