エヴァ

■取り替えエヴァンゲリオン■

第13話「敵は文明?」

作・SHEROさま


 

 温泉旅行から帰ったあと、NERV職員はいっそう職務に励んでいた。

そんな中でも大変だったのはエヴァの修理に関わる技術部であった。

なんといっても使徒撃退後、事後処理を一切せずに休暇に入ったので

機体の損傷は激しいまま、作戦に使用した器材もほとんど置き去りである。

 しかし彼らはたいして文句も言わず、頑張って作業をしていた。

事後処理のため、自分達の休みが遅れたりするのではないかという不安があったが

それがなく、また、旅行がとっても有意義だったからというのがその理由である。

 そしていつものメンバーもまた、再び仕事に追われていたかというと別の事の方が大変なようである。

「しかし、うっかりしてましたよね。」

「ほんと、旅行の間にクリーニングに出しておけばよかったわ。」

 クリーニング屋に来て自分の服を受け取っているマヤとリツコ。

その外では自分の服を受け取り終えた青葉が自販機からジュースを買っていた。

旅行から帰ってきたリツコ達は当然のごとく自分の部屋でくつろいでいた。

そして、いざ明日からの仕事の準備をしようとした時、それに気付いた。

それは旅行の事に浮かれて制服を洗濯し忘れていたのであった。

そんな事なら個人の問題であるのだが、ただこのメンバーの場合は

仕事に追われているため、なかなか洗濯なども気軽に行く事が出来ず、誰かが声をかけて

一斉に行くようになっていたのである。

 それが今回の旅行ですっかり忘れていたため、

慌てて朝からクリーニング屋に行くはめになったのである。

「でも、やっぱり取りに来るのは朝なんでしょうね〜。はいこれ、どうぞ。」

 そこへ外から戻って来た青葉が、リツコとマヤにジュースの缶を手渡す。

「ありがと。そうね、徹夜仕事も多いし、早く終わっても営業時間外でしょうし。」

「家のお布団も干したいんですけどね。」

「最近は家にもあまり帰れなくなったからな。」

 話をしているうちにだんだん落ち込んでくる3人。

「こんな所で長話していると遅刻するわ。行きましょう。」

 その雰囲気を打ち払うようにリツコが駅へと向かって足早に出て行った。

    ☆    ☆    ☆

「おはようございます。」

「「おはようございます。」」

 駅のホームから電車に乗り込む3人。

先客の姿を見つけたリツコは挨拶の声を上げ、青葉とマヤもそれに続く。

「ああ、おはよう。」

 読んでいた新聞から顔を上げて挨拶を返したのは冬月だった。

「副司令はいつもこの時間でしたか?」

 冬月の横に少し余裕を持って座ったリツコが尋ねる。

普段この時間帯には冬月の姿を見ないので聞いてみたのだ。

「いや、いつもならもう少し早く出るんだがね。今日は定例があるから少し遅いんだよ。」

「ああ、上の町で評議会の方々と。」

「ユイ君はこういう事には向かないからね。」

「どうしてですか? 司令ならどんなことでも出来ると思いますけど。」

 席はどこも空いているにもかかわらず、座らないで2人の前に立っているマヤが尋ねた。

青葉もその横で冬月の返答を待っている。

「相手が問題だよ。彼女を女だと思って甘く見たりして怒らせると後の処理が大変なんだ。

 彼女は徹底的にやるからね。だからこういう事は私が行く事にしているのだよ。」

「・・・納得しました。」

 過去にあった出来事の中に思い当たる事がある青葉は顔を少し青くしながら納得した。

「もっとも、上の市政は実質的にはMAGIが行っているから対してやる事はないのだがね。」

「MAGI・・・3台のスーパーコンピュータですね。でも、それなら何故上の方々がいるんです?」

「まあ、たとえ形だけとはいえ上の人間がいないと市民が不安がるから仕方がないのだよ。

 機械が自分たちの生活を握っていると知ったらいい気はするまい?」

「それは・・・確かに・・・」

 市民が不満の声をあげた時、それがどこに来るかというと管理をしているNERVだろう。

それを思ったマヤは深く考え込んでしまった。

「君達は今日は零号機の実験だったな。」

質問が途絶えたようなので今度は冬月が3人に質問した。

「ええ、第2次稼動延長試験の予定です。」

「朗報を期待しとるよ。今は一機でも多くエヴァが動いて欲しいからね。」

 それだけ言うと冬月は再び新聞を読み始めた。

    ☆    ☆    ☆

その昼、NERVでは普段通り、通常勤務が行われていた。

実験をしている者、報告を終えエレベーターに乗り込む者、システムの点検をする者、

外部の人間と応対するもの、様々あるがそれぞれがそれぞれの役目を果たそうと仕事に就いていた。

「「「!?」」」

 そんな時、NERVの全て、いや、第3新東京市一帯が停電になった。

「主電源ストップ、電圧ゼロです。」

「停電? まさか?」

「予備電源切り替えます・・・駄目です、予備回線繋がりません。」

「そんな馬鹿な! 生き残っている回線は?」

 本来起こりうるはずの無い事態に冬月は声を荒げて現在使用できるものの確認をおこなった。

「全部で1.2パーセント、2567番からの9回線だけです。」

「生き残った電源は全てMAGIとセントラルドグマの維持にまわせ!」

「それでは全館の生命維持に支障が出ます。」

「かまわん、最優先だ。」

 NERVの重要機密がセントラルドグマとMAGIにある事を

十分に知っている冬月はその死守に全力を注がせる事にした。

    ☆    ☆    ☆

「ホント、葛城さんはズボラなんだから。自分の洗濯物をわざわざ僕に取りに行かせなくても。」

 町にでて、クリーニング屋から洗濯物を引き取ってきた日向。

出勤直後にミサトに洗濯物の引き取りを頼まれてしまい、

なんとか空いた時間を作って洗濯物を取りに来たのだ。

「・・・あれ?」

 信号の明かりが消え、辺りを見回す日向。

辺りは他の信号の明かりも消え、今まで店から流れていた音楽も急に聞こえなくなった。

 辺りの状況に不信感を抱きながら、日向は本部へ戻る事にした。

    ☆    ☆    ☆

「あれ?」

 いつも通り、NERVのカードを通して本部へ入ろうとするシンジ達。

だがゲートは何の反応も見せない。それは3人のうち、誰のカードを通しても同じ事だった。

「何よこれ? 壊れてるんじゃないの?」

「他の場所に行ってみましょう。」

「そうだね、他の場所からなら入れるかもしれないし。」

 そうして、別の場所へと移動するシンジ達。

だが、別の場所でも結果は同じだった。

どこも反応を見せず、電話などの非常回線も動かない。

「どうしよう・・・どことも連絡が取れないなんて・・・。」

「これは下で何かあったと考えるべきね。」

 不安げに質問をするシンジをよそに、カバンの中からカードらしき物を取りだすレイ。

それを見て、アスカもカバンの中をあさり始める。

「何してるの?」

 2人が何をしているのか分からないシンジは、アスカのカバンを覗き込んで

何を取り出そうとしているのか聞く。

「あんた、馬鹿ぁ? 緊急時の対処マニュアルよ!」

「とにかく、本部に行きましょう。」 

 先にマニュアルを読み終えたレイが、話をしていたアスカとシンジに告げる。

「そうね、それじゃリーダーを決めないと。

 当然あたしがリーダーで異議ないわよね。さ、行くわよ。」

 反論の声を上げる暇もなく、意見を通すアスカ。

そして付いて来いと言わんばかりに先に進もうとする。

「こっちの第7ルートから下に入れるわ。」

「あう・・・」

だが、反対の方向を示すレイの声にアスカはその歩みを止める事になった。

レイの案内のもと、先を急ぐ3人。いくつかの角を曲がり、目的の地点へと近づいて来た。

「でも下に入れるって言ってもドアは動かないし・・・あ・・・手動ドア・・・」

 前に見えた扉を前に疑問をぶつけたシンジはその脇にあるレバーを見て悟った。

「ほらシンジ、あんたの出番よ。」

「こんな、時だけ、頼りに、しないでよ。」

文句を言いつつもしっかりレバーを回しているシンジだった。

    ☆    ☆    ☆

「これはやっぱり、ブレーカーは落ちたんじゃなくて落とされたのね。」

「原因はともかく、こんなときに使徒がきたら大変だよ。」

 これからどうするべきか、対策を考えているユイのうしろで

冬月はロウソクに火を灯して辺りの明かりを確保していた。

「タラップなんて前時代的な飾りだと思っていたけどまさか使う事になるとわね。」

「備えあれば憂い無しですよ。」

 実験中にブレーカーが落ちたあと、全然復旧されないのを見かねたリツコは

同じ現場にいた数人の人間の協力を得て、発令所までやってきた。

そして、なんだかんだと文句をつけながらタラップを昇り、状況を確認する。

「青葉君、現状はどうなってるの?」

「正、副、予備の電源はいずれも繋がらず、現在生き残った回線は

 MAGIとセントラルドグマの維持に回しています。」

 青葉からの報告を聞いているリツコのうしろで、マヤは冬月に声をかけた。

「副司令、何してるんです?」

「多少なりとも多く明かりがあったほうがいいだろう。

 だからこうやってロウソクを立てているのだよ。」

「よくありましたね、ロウソクなんて。」

「他にウチワもあるぞ。」

「(何を持ってるんだ、この人は・・・)」

 それがこの場にいた職員全員の気持ちだった。

    ☆    ☆    ☆

「索敵レーダーに正体不明の反応あり。」

 NERVが停電騒ぎを起こしているころ、自衛隊の総合警戒管制室では

未確認物体の反応がレーダーにでていた。

「おそらく8番目のやつだろう。」

「ああ、使徒だな。警報シフトにしておこう。その程度しか我々のやる事はない。」

 それからしばらくして。

「使徒、上陸。依然第3新東京市に向けて進行中。」

「NERVは何をやっているのだ。連絡は?」

「沈黙を保っています。応答ありません。」

 苛立ちの声をあげるものの、現状は変わらない。

そして、最高責任者である男がゆっくりと口を開いた。

「なんとかNERVの連中と連絡を取った方がよいだろうな。」

「どうやって?」

「直接行くんだよ、何を使ってもな。」

    ☆    ☆    ☆

「電車などはまるで駄目、おまけに電話も繋がらない、いったい何が起こってるんだ。」

 街の状態があきらかにおかしいにもかかわらず、NERVから街に公式の発表は何もない。

それを不思議に思いながら日向はNERVへと続く道を線路伝いに歩いていた。

その上空を一機のセスナが飛んでいく。

「こちらは第3区画、航空自衛隊です。現在、正体不明の物体が本地点に向けて移動中です。

 住民の皆様は速やかに指定のシェルターに非難してください。」

 セスナからの放送を聞いた日向は大変な事になっているのを理解した。

「こりゃ〜まずい。何かないか? なにか・・・あれだ!」

 ゆっくりと走ってくる車を見つけた日向は道路に飛び出し、

その車のドライバー、ワラビモチ売りのおじさんに協力を仰ぐ事にした。

    ☆    ☆    ☆

「暑い・・・」

「空気が澱んできたわね。」

 空調などの設備に電力を回していないため、完全に密閉された発令所では

機械熱などで随分と温度が上がっていた。

そのため、職員のほとんどは服をはだけさせ、ウチワで自身を煽っている。

「副司令のウチワが役に立ってよかったですね。・・・あれ? 司令たちの姿が・・・」

「え? ・・・・・・まさかこの暑さで倒れたとか?」

 ユイ達が座っている所を振り返ったリツコはその場にいるはずの人物がいない事に驚いた。

そうして、この暑さのために倒れたのではないかと危惧して2人がいるはずの所へ駆けつけた。

普通ならそんな事はないのだろうが、多かれ少なかれ激務に追われるNERVの中で

頂点に立つ人間である。

リツコ達より疲労が溜まっていたのではないかと思われても不思議はない。

 だがそこでリツコが見たものはレオタード姿で床に寝そべっているユイと

上半身ランニングシャツ姿で寝そべっている冬月の姿だった。

「・・・・・・何してるんです? 司令、副司令。」

「リっちゃんもやる? 冷たくって気持ちいいわよ。」

 思わず怒鳴りたくなったリツコだがその涼しそうな姿の誘惑に負けて

同じく寝そべってしまうのだった。

 あとから様子を見た人間が次々と同じようにしていくにはさして時間はかからなかった。

    ☆    ☆    ☆

「ええ? これってスピーカーで外に声を出すことできないんですか?」

ワラビモチ売りのおじさんの車に乗せてもらい、NERVへ向かおうとしていた日向は

使わせてもらおうとしていたスピーカーが使えない事を知り、困ってしまった。

「ああ、これはテープにあらかじめ録音しておいたのを出す事しか出来ないんだ。」

「そ、そんな〜・・・」

「で、どうする? 降りて他の車を捜すかい?」

 落ち込んでいる日向を見て期待に添えないならと、そう促すおじさん。

だが日向は何かを決心したらしく顔をあげた。

「いいえ、こうなったら全力でNERVまで行ってください。ただしテープは切って。」

「OK、それじゃ行くぞ。」

 スピードを出来る限りあげて車を走り出させるおじさん。

その横で日向は体を乗り出して外に向かって大声を上げ始めた。

「現在、未確認物体が本地点に向けて移動中です。

 住民の皆様は速やかに指定のシェルターに非難してください。」

ただその声を全て聞きとれた人はいなかった。

    ☆    ☆    ☆

「今、どのあたりなんだろ?」

 電気もついていないため、暗い道を歩くシンジ達。

「もう少し行けばジオフロントに着くわよ。」

「その台詞、もう4回目だよ。」

「うるさいわね〜、細かい事を気にしないの!」

 リーダーとして2人を引っ張って来ていたため、痛い所を突かれたアスカは大声で怒鳴る。

「黙って。人の声がするわ。」

 そんなアスカの声をレイの一言が止める。

「現在、使徒接近中、使徒接近中。くりかえす・・・」

 遠くの方から聞こえて、消えていった日向の声にはっとする3人。

使徒に対抗できるエヴァのパイロット3人がこんなところで迷っているわけにはいかないのだ。

「使徒接近中? まずいわね、急がないと。」

「時間が惜しいわ、近道しましょう。」

「リーダーは私よ、勝手に決めないで。それで、近道って?」

 レイの案内した所は道と呼ぶには不都合のあるものだった。

3人はよつんばいになりながら換気用のダクトの中を進む。

「・・・だからってこんな所を通るなんて・・・」

「時間が惜しいんだから仕方ないよ。」

 そうしていくらか進んでまた普通の通路に戻った3人に今度は分かれ道が行く手を塞ぐ。

「どっちだろ?」

「・・・こっち。」

 シンジ達が悩む中、どちらがジオフロントに近づけるか知っているレイが先に進む。

3人の中ではまず間違いなくレイがNERVの通路を熟知していた。

    ☆    ☆    ☆

発令所の奥、MAGIの下まで無理矢理車で乗りつけた日向は

上にいるユイ達メインメンバーに聞こえるように声をあげた。

「・・・・・・・・・」

 だがその声はユイ達の耳元までは届かず、ただ車から何かを言っているとしか判断できない。

この原因は、道中、車から周囲へと大声で警告をしていたのもあるが

前日に行ったカラオケで歌い過ぎたというのが最たる物かもしれない。

「困ったわね、何を言っているのか聞こえないわ。」

 下から声を上げている日向を見てどうにか日向の言っている事を聞こうと考えるユイ。

何かないかと辺りを見たユイの目がある一点で止まる。

 その視線の先には同じく下にいる日向を見ている青葉の姿があった。

    ☆    ☆    ☆

「あの〜司令? これはどういう事でしょう?」

 数分後、青葉の身体には身体をしっかりと固定したサポーターと

付近の頑丈な台にくくりつけられた長いゴムとが繋がれていた。

「日向君の話を聞いてきてね、青葉君。」

「いえ、だから、この装備について説明して欲しいんですけど・・・」

「バンジージャンプって知ってる? その要領でここから飛び降りて話を聞いてくるの。」

「え? そ、そんな無茶ですよ! だってここは・・・」

トンッ。

 青葉が何か言おうとしているのを最後まで聞かずに、下へと青葉を送り出すユイ。

「いってらっしゃ〜い。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ヒューーーーー、ゴンッ! ズリズリズリズリ。

ゴンッ! ズリズリズリ・・・。

 下へと落とされた青葉は、ゴムが伸び切った辺りから壁の方へと向かって揺られ、そして激突した。

そしてゴムの伸び縮みによってそれが幾度か繰り返され、しばらくのち青葉は身動きしなくなった。

「司令、この方法は無理があります。」

 青葉が落とされる前に言おうとしていた言葉をやっと察したのか、リツコがユイへと進言する。

「そうね、別の方法を考えましょうか。」

 涼やかに会話をするユイとリツコのうしろで、その場にいたスタッフ達による

青葉救出作業が大急ぎで行われていた。

    ☆    ☆    ☆

 青葉が医務室に運ばれたのち、ユイは糸電話という昔懐かしい方法で日向との会話に成功し

使徒襲来に対処すべく、手のあいたスタッフを総動員して発進準備を行うことになった。

「冬月先生、こちらは任せますわ。」

「もしかしてあれを使うつもりかね?」

「ええ、いい機会だから採用してみますわ。使えれば今後の役に立ちますもの。」

「しかしこんな時でなくても・・・」

「こんな時だからこそ効果がはっきりするんです。みんなやる気を発揮してくれるでしょうから。」

 困惑の表情を浮かべる冬月に、ユイはにっこりと微笑む。

それを見た冬月にはもう何も言う事がなかった。

「そうか、頑張ってきたまえ。」

 その後、手のあいたスタッフを集めたユイはメンバーを二つに分けた。

一つは普段から力仕事などをしてきているメンバー。

そしてもうひとつはコンピュータや書類など、頭脳労働を主に行うメンバーである。

「それじゃみんな、頑張ってね〜。」

 頭脳労働メンバーをある部屋に連れて来たユイは、各自を目の前にある機材に振り分けた。

そうして、一斉に行動を開始させる。

「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」

 合図とともに行動し始めるメンバー。彼らはエアロバイクに取り付き一心不乱にペダルを踏んでいる。

この部屋はユイが考案したもので、スポーツ器具などを取りそろえていて

NERV職員の運動不足を解消させるスポーツジムであると同時に、

その使用によって緊急時や普段の電力を自家発電させようとした経費削減も目的とした部屋であった。

「よーし、こっちもいくぞー!」

 一方、力仕事がメインのメンバーはワイヤーを数人掛かりで引っ張り、

本来はコンピュータ制御で動かしているエヴァの発進準備を手動で行っていた。

「「「「よいしょ! よいしょ! よいしょ!」」」」

 その労力はかなりかかり、3機のエヴァの発進準備を終えるのにはかなり力を要した。

「エントリープラグ、固定準備完了です。」

 その声とともにその場に座り込む一同。

そこへ、こういった事には向かない女性職員が飲み物やタオルを手渡して行った。

「ご苦労様、少し休んだら向こうの方の応援お願いね。」

 疲れ果てているのを知りながらも声をかけるユイ。

今は少しの時間も惜しく、また、多くの労力がほしかった。

「あとはあの子達を待つだけ・・・か。」

    ☆    ☆    ☆

「壁が・・・崩れてる・・・」

 シンジ達が先に進もうとしている壁は以前使徒がNERVに来た時の衝撃で崩れていた。

普段は使われないブロックだけに修理の方も後回しになっているようだ。

「仕方がないわ、ダクトを破壊して進みましょう。」

「破壊してって・・・おとなしそうに見えて言う事大胆ね、あんた・・・」

「じゃあ、これを使って壊そう。」

 レイを唖然として見ているアスカの後ろから、シンジがどこからかツルハシを持ってきた。

「あんた、そのツルハシどこから持って来たの?」

「そこの壁から。母さん、NERVの壁のあちこちに自分のコレクション隠してるみたいなんだ。」

「コレクション? そのツルハシも?」

「うん、名門土研のツルハシ。歴代部員愛用の逸品なんだって。丈夫で使いやすいらしいよ。」

 これはいいものだとシンジは少し誇らしげにツルハシをかざす。

「はぁ・・・いいから貸して。とっとと壊して先進みましょう。」

 アスカは面倒臭そうにシンジからツルハシを受け取るとダクトを壊し始めた。

    ☆    ☆    ☆

「ぜ〜〜〜ったいに! 前見ないでよ! 見たら殺すわよ。」

 先程よりもさらに狭いダクトのなか、3人は這うように身をかがめてよつんばいになり先を急ぐ。

だが、道が分かるレイが先頭に立った事で、後に続くのはシンジとアスカになり

最後尾から進む事をプライドが許さないアスカが当然2番目になった。

ただ、それだとシンジがアスカのお尻を見ながら進む事になるので

アスカはシンジに前を見て進むなと無理難題を押し付け、

後ろのシンジを気にしながら進んでいるのである。

「・・・声が聞こえる。」

「なによ、ファースト・・・!!!!!!!」

急に止まったレイに不満の声をあげようとしたアスカは声にならない悲鳴をあげる事になった。

律義に前を見ずに進んで来たシンジがお尻にぶつかったのだ。

しかも、そこで顔を上げたりしたから余計に始末が悪い。

「こぉんの馬鹿!! よりにもよって何て事してんのよ!! 一遍死んで来〜い!!」

 顔を真っ赤にして怒ったアスカがシンジの顔に蹴りを入れる。

もはや、スカートが捲くれる事などお構いなしに連続で。

もっとも、見ようとしても見る間もなく次の蹴りが飛んでくるが。

「痛い、痛いってばアスカ!」

「うるさ〜〜い!」

そうして暴れているうち、アスカの足元のダクトが衝撃に耐えられなくなって崩れ、

アスカとシンジはその下、エヴァの格納庫にある、整備用ハンガーへと落ちた。

その後から、レイが奇麗に着地してハンガーへと降りてくる。

「あなた達、よく来れたわね。」

「使徒が来てるって聞いたんですけど、エヴァは?」

「こら! あたしを無視してるんじゃないわよ! この馬鹿シンジ!」

 さっきまでの喧嘩を無視してリツコに話し掛けるシンジに、

怒りをあらわにしたアスカが殴り掛かって再び喧嘩になる。

「あとはあなた達だけよ。準備はほとんど出来ているわ。」

「何も動いていないはず・・・どうしたの?」

 そんな喧騒をよそに今度はレイが質問していた。

「人の手でよ、みんなで力を合わせてね。さ、あなた達も早く準備して。」

 シンジとアスカの喧嘩は緊急の事態という事で中断となり、

のちにシンジがアスカの好きなメニューを食事に出すという事で折り合いがついた。

    ☆    ☆    ☆

「各機、プラグ挿入。内部補助電源使用でエントリー開始。」

「全ロックボルト強制解除。各自、自力で拘束具を強制除去。出撃よ。」

「ふんっっっっっ・・・無理だよ、母さん。」

 拘束具を押して動けるスペースを確保しようとするエヴァ各機だが、

拘束具はびくともしなかった。

「拘束具ってエヴァが動かないようにしっかり繋ぎ止めておく物でしょう?

 自力で排除できる方が問題なのよ。」

「それもそうね。じゃ、少しじっとしててね。」

 そう言うとユイは近くの壁から刀を取り出し、エヴァの拘束具へと向けて身を躍らせた。

ユイは3機のエヴァを上から下へと左右ジグザグに走り、ユイが通った辺りからは金属音がいくつも響く。

そして、ユイがエヴァの足元に降り立ち、多少距離を取った所で刀で床を軽く叩いた。

すると、エヴァを固定していた拘束具が轟音と共にバラバラと足元へ崩れていく。

「はい、これでいい? それじゃ各機発進して。」

「・・・(なんなの、この司令は・・・)。どこから外に出るの? 射出口は使えないんでしょう?」

「エヴァ搬送用の大型通路があるわ。その通路の隔壁だけは何とか開けれるように

 電源を確保したから、ちょっと狭いけど通れるはずよ。」

「隔壁分だけ? 電源があるなら射出口に回してよ。」

「それじゃ、途中で止まっちゃうのよ。そこから身動き取れなくなるし。それでも使う?」

 選択肢のない質問にアスカはただ納得するしかなかった。

「いいわ、通路を使うわよ。」

「じゃ、頑張ってね。武器はライフルとナイフだけ。

 あと、ケーブルを使えないからバッテリーを装備させているわ。

 でもあまりもたないから時間をかけないでね。」

「随分条件があるわね。でもハンデがあってこそ私の活躍がひきたつってものよ。」

「それじゃ改めて、エヴァ各機発進!」

    ☆    ☆    ☆

「かっこわる〜い。まさかこんな格好なんて・・・」

 エヴァ搬送用の通路をホフク前身に似た形で進む事になったアスカ達、

特に格好を気にするアスカはその姿が許せなかった。

「もうすぐ縦穴にでるわ。」

 通路の地図を確認しながらアスカに言うレイ。今度はアスカ、レイ、シンジの順で進んでいた。

そして、隔壁を押し開けて今度は壁に手を突っ張って進むアスカ達。

「またしてもかっこ悪い・・・。」

 そして、アスカがほんの少し登り、レイとシンジが続こうとした時、

アスカが天井の異変に気づいた。

「何? ・・・まずい! シンジ、戻って!」

「え!?」

 奥へとひいたレイと対象的に、状況がわからず隔壁のあたりでとどまっているシンジ。

「いいから戻りなさいって言うのよ!」

 アスカは危険を回避するために、勢いよく元来た道へと戻った。

付近にいた初号機をついでに蹴りこみながら。

「痛いな〜。いったいどうしたって言うのさ?」

「あれよ。どうやら相手はこの真上みたいよ。」

「溶解液・・・あれで本部まで溶かしていくみたい。」

 シンジが覗くと、上から隔壁を溶かして溶解液が下へと落ちていた。

「それじゃどこかへ迂回して攻撃を・・・」

「駄目、それじゃバッテリーがもたない。」

「そうね、さっき少しバッテリーの所に浴びたからこれは外さないといけない。

 それにそんなまどろっこしい事してられないわ。」

 そういいながら、背中に付けていたバッテリーを外す弐号機。

プラグ内では内部電源に切り替わり、残り稼動時間が表示され始めた。

「じゃあどうするの? そうだ、少しだけ身を乗り出してライフルで撃ったら。」

「駄目よそれじゃ。狙いが定められないし警戒でもされたらこっちの負けよ。

 やるなら一気にやらなきゃ。いい? やるならこう。まず、溶解液を浴びるのを覚悟で縦穴に突入。

 ライフルの一斉掃射で使徒を牽制。攻撃がやんだら縦穴で踏ん張ったエヴァを踏み台にして

 使徒めがけて一気に距離を詰めてとどめよ。」

「じゃあ、僕が突入するよ。」

「ご冗談。危険を顧みずに突入なんてオイシイ役は私がやるわ。あんたはあたしを踏み台にしてジャンプ。

 途中で踏ん張って、それを踏み台にしてさらにファーストが距離を詰める。

 いいわね?」

 アスカがやると決意した事に何を言っても無駄だと思ったシンジは頷いた。レイも頷く。

「・・・・・・分かった。」

「じゃあやるわよ。3、2、1、GO!」

 エヴァを縦穴に突入させたアスカは身体を固定させると天井に向けてライフルを撃ち放つ。

そのあいだにも溶解液は落ちてくるが、アスカはライフルを溶かされる事無く

その身に溶解液を浴びながらライフルを撃ち続けた。

「今よ! シンジ、ファースト!」

 溶解液の勢いが弱まり、落ちてこなくなると判断したアスカが声をあげ、

ライフルを捨てて身体を再度しっかりと踏ん張る。

その声を受けてシンジが飛び出し、弐号機を踏み台にしてジャンプした。

続いて零号機がジャンプする。初号機は途中で止まって、弐号機と同じく身体を踏ん張り、

それに掴まってよじ登った零号機は再び使徒に向けてジャンプした。

零号機はプログナイフを取り出し、使徒へと向けて突き刺した。

幸い、ジャンプの勢いがかなりあったのと、距離が十分に詰まっていたためナイフは充分に刺さり、

使徒の動きが止まった事を確認してから、零号機は落ちて行く事ができた。

    ☆    ☆    ☆

『ワ〜ラビ〜モチ、かき氷〜。』

「はいはい、たくさんあるから慌てないで〜。」

 作戦終了後のNERV、日向を乗せてきたワラビモチ売りのおじさんは

どうせだからとユイに誘われ、そこで商売を始めた。

 ちょうど、暑さに参っていた職員達はこぞって買いに集まった。

「は〜、冷たくって気持ちいい。」

「いい車拾って来てくれたわね〜、日向君に感謝しなくっちゃ。」

 そして、椅子に座ってかき氷を頬張るユイやリツコ、他スタッフ。

「しかし、このあとの復旧作業はどうするのだね。」

 かき氷では無く、ワラビモチを食べながらユイに尋ねる冬月。

「向こうの目論見も無駄に終わったでしょうし、電源はもうじき戻ってくると思いますわ。

 ただ、そのお礼はしないといけませんわね・・・ふふふ。」

 あとの事を思った冬月は止められないだろうなと思い、ほんの少しの注意をするだけにした。

「・・・・・・多少加減はしてあげたまえ。世間が大きく騒ぎ立てるとまずいからな。」

「はい、先生。さ、あの子達の分もとっておいてあげないと。

 おじさ〜ん、すいませ〜ん・・・」

 自分の分を食べ終えたユイは、帰ってくる3人の為に氷をとっておいてもらおうと

お願いするために歩き出した。

    ☆    ☆    ☆

 数日後、とある国の議員が数名、失踪したと報じられた。

ゴーストタウンで見かけたという噂も流れたが、数年間彼らは発見されなかった。

 

作者後書き

 

    とうとう季刊ペース!?

    何て事態にまで投稿が遅れてしまったSHEROです。

    他の事を色々放り出して集中して書き始めても

    書き終えるまで半月以上かかってしまいました。

    どうやったら元のペースに戻せるのやら・・・

    とりあえず、今度こそ日に一行ずつでも書いていきたいものです。

    しかし、擬音や効果音って苦手だと改めて知りました。

    では、出番のなかったメインキャラに登場していただきましょう。

        ピック「はい、では今回出番の無かった葛城ミサトさんです。」

        ミサト「何であたしの出番が無いのよ〜〜!」ゴクゴク・・・

        ピック「え〜、作者によりますと『本編でもあまり出番なかったし

            この話って場面転換多いから面倒で、上の状態でも結構苦労して

            繋ぎ合わせてまとめたんだよ。で、盛り上がる場面も

            笑いをとるシーンもないから削った。』だそうです。」

        ミサト「ふざけるな〜〜! こうなったら実力行使に・・・」

        ピック「ちなみに、『出番作ろうとしたら多分、漏らす所まで

            やってNERVで噂がたった、とかいう展開になると思う。』

            だそうです。」

        ミサト「・・・ちくしょ〜〜〜! 加持く〜〜ん・・・」

        ピック「え〜〜・・・ゲストが帰った所でまた次回に。

            ここまで読んでる人いるのかな?」

 

 


(update 00/10/22)